●千葉炎上 『縞島組』『風紀委員会』『ストーン教団』『松戸研究所』『弦の民』『剣風組』。 六つのフィクサード組織が互いの理想実現のために新生『九美上興和会』として協力合併し、巨大なフィクサード組織に生まれ変わろうとしている。 彼等の秘密兵器、アーティファクト『モンタナコア』。 組織を完全なものとすべく狙う『セカンドコア』。 無限の未来を賭け、大きな戦いが始まろうとしていた。 ●さてなぁ ソレは人“だった”。 「ガ、アアアァ……」 ソレはフィクサード“だった”。 「グル、ォ、アア!」 今は唯の―― 「化け物だろあれは……!」 事前に偵察として出ていたアークのリベリスタが呟いた。 千葉県某所。遠目に敵を見据える偵察班は、各々の視線に映る“ソレ”に驚きを隠せない。 一言で言うならば“化け物”。あるいは“怪獣”であろうか。 およそ3m級に達するサイズの化け物達だ。ソレが街中を我が物顔で闊歩している。 「あれマジで分類上は一応フィクサードなのか? どー見てもエリューションだろもう」 「さてなぁ。ま、そこら辺の詳しい事はイヴちゃんが戦闘班に説明してんじゃないか? それより俺らは俺らで一般人の避難誘導するぞ。俺らの役目はソレだ」 「まぁ分かってるけどさ……あんな化け物相手に、戦闘班は大丈夫なのかねぇ?」 さてなぁ、とまた年配のリベリスタが受け答える。 勝負がどうだのこうだの知らない。彼らに出来るのは唯一つ。 「頼れる戦闘班を――信じるだけさ」 一般人は俺らがなんとかする、だから頼むぞ。 「必ずあいつらぶちのめしてくれ」 ●ブリーフィング 「千葉でフィクサード達に動きが見えたよ。どうやら合併しよう、ていう動きらしいね」 「合併?」 うん、と言葉を続けるは『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)。 彼女の口から語られるのは千葉で活動中の六つのフィクサード組織。前述した『九美上興和会』の事である。彼らはとある理想実現の為に合併を決意。『モンタナコア』という切り札を使って自勢力の拡大にまずは走った。 モンタナコアの能力を一言で表せば『寿命や生命力を代償にフィクサードを革醒または強化する』。そんな能力だ。これを用いて九美上興和会として動く集団は兵力を整えつつある。 「でも、ね。彼らはそれだけじゃ無くさらなる力を求めたの。それが――」 セカンドコア。 モンタナコアと同種の効果を持つアーティファクトであり、今の所は複数のアーク所有施設で保管している。だが万が一これをフィクサード達が手に入れてしまえば巨大組織の誕生を許してしまう事になりかねない。 させる訳にはいかないのだ。なんとしても、なんとしても彼らを今の内叩かねばならない。 「だから貴方達もそれの阻止に動いて欲しい。まだ彼らはそれぞれの土地に散らばっていて、合流は完了していないの。アークの方で個別に彼らの位置は予知したからそれを撃破して来て」 と、イヴが示すのは千葉県のとある街中。 ここを突っ切る形で“化け物”達はセカンドコアのある地点を目指しているらしい。一般人に関してはアークの方が避難や人払いを完遂させる為、戦闘班たるリベリスタ達は一般人の事は気にせず闘って欲しいとの事だ。 そして重要な点がもう一つ。“化け物”達の詳細についてだ。 「化け物達は……」 イヴが言う。 「自分の命を犠牲にして身体を強化したビーストハーフのフィクサード達だよ」 あるいは成れの果てとでも言おうか。 体の隅々まで強靭な獣と化したビーストハーフ達。一応元がフィクサードである為か、怪獣化する以前のスキルを使用する事も見受けられると言う。一部は怪獣化したなんらかの影響でか非常に興奮している個体もいるが、半数はあんな姿になっても普通の意識をもって行動している。見かけには騙されないで欲しい。 「その代わり彼らには未来が無い」 つまり、 「勝っても負けても――彼らは死ぬよ。命を使いきる」 だから遠慮せずに命を絶ってきてと、イヴは語る。 分類上はまだ彼らはフィクサードの内と言えるが、 それでも化け物になってしまったのならば、もう後戻りは出来ないのだから。 「あぁそれと最後に。具体的な事はまた後で説明するけど……ここの敵を撃破できたら皆には九美上興和会の方へ向かってもらう。残存兵力は直ぐに現場に行ってもらう事になるから、キツイけど頑張ってね」 ●快楽 楽しい。 楽しい。 楽しい。 楽しい。 楽しい。 “化け物”達は思考する。あぁ、楽しいと。 彼らは裏野部所属、ストーン教団のフィクサード達だ。 「ク、カカ、クハハハア、ハアアッ!」 一際大きな化け物――亀だろうか。体長は4mにも達しそうな化け物が狂ったように笑い出す。 楽しい、楽しいと。 ここに至るまでに、アークの手が及ぶ前に一般人の女に会った。踏み潰した。 ここに至るまでに、幼い男女の子供達が居た。両方踏み潰した。 ここに至るまでに幾人も、幾人も踏み潰して来てやった。悲鳴が心地よかったので丁寧に磨り潰してやれば悲鳴が間伸びて良い音楽だった。ああ楽しかった。 「あ、アア、良いぞ、楽しいぞ! 楽しいよなぁ!」 命が消える? 知った事か。今、この快楽はこの時にしか得られない。 ならば命が潰えようと知らぬ知らぬ。一人でも多くの悲鳴が聞ければ朽ち果てようと後悔は無い! 「楽しい、楽しい、楽しい、楽しい、楽しいよなぁあああ!!」 笑う。笑って突き進んで目的地を目指す。 セカンドコア。 ああ、それも手に入れ、なお命がもう少しだけでも持てばもっと楽しく成るんだろうか。 「楽しみだよなぁ――おいいいい!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月04日(日)00:07 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●最期の晩餐 「他者を傷つけるが為に、己の命が削れる事にすら頓着しませんか」 見る。 視線の先、化け物と化したフィクサード達を『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)は冷ややかな感情と共に見据えていた。理解が出来ない、と。 何故一般人に迷惑を掛ける。脅かす。命を削ってまでそんな事をする。 「それも最後の花道故、と言えば少しは聞こえが宜しいかもしれませんな」 と、疑問に言葉を繋いだのは『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)だ。 極限の集中を身に施しながら思考をするは彼らの、化け物達の心境。 ……そこまでして“強者”に成りたいのですか。 まぁ弱いよりは強い方が良いだろう。大は小を兼ねる、とは少々意味合いが違うが―― 強さとは、必要な時に無ければ絶望するしかないのだから。 「ま、あのフィクサードの皆様は少々調子に乗り過ぎですがな。新しき玩具を手に入れた赤子の様で」 「赤子ならまだ可愛いものだ。いい歳した大人が、それも自身の身に合わぬ玩具を振りまわす様は……」 『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)が前に出て、 「実に醜悪極まる。外道必罰、さぁ行こうか……!」 拳を握りしめ、往く。 決意がある。この様なゴミ畜生にも劣る外道共を生かしておくわけにはいかない。 いずれ果てる命であろうとも、 その“時”が目前であろうとも、 「生かしちゃおけねー奴ってのはいるもんだよな……」 「んんっ? なんだテメエらリベリスタ――」 か、と続く亀の言葉は途切れる。 真正面。優希と共に駆けた『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)の一撃が、鼻先から体の芯へと突き走ったからだ。炎を纏いし拳の威力が響き渡れば、亀の顔が甲羅に引っ込む様に押し込まれ、 「よぉ鈍亀ぇ。いきなり鼻先潰れてどしたぁ? 随分と不恰好だがよぉ…… まさかそんなん成るのが楽しいかぁ?」 「テ、テメェ……調子のってんじゃねぇぞぉ!」 亀が激怒する。 初撃から叩き込んだ痛みが想像以上に効いたか。前に出る。 されば他の四種もそれぞれだ。牛に鼠は亀に追随する形で前進し、 蛇に山羊の二種は後方に備えて援護を成そうとして。 「さぁて、わしも気合い入れていくとするかの……!」 言うは『暗黒魔法少女ブラック☆レイン』神埼・礼子(BNE003458)――いや違う。 彼女は今神埼・礼子では無くなった。足元から伸ばす闇の魔力を纏いて彼女は新生する。声帯変化すら用いて声色を最善へと導いた今の彼女の、名は、 「暗黒魔法少女ブラック☆レイン、参上ッ! 破壊する事しか頭に無い悪の手先たるフィクサード! ここからはボク達が相手だ!」 「ハンッ! ババアは大人しく引っ込んでろ! あと歳を考えろやァ!」 「だ、誰がババアだぁ――! ボクはピッチピチの暗黒魔法少女ブラック☆レインだよ! 間違えるな!」 「やかましいわぁ――!」 敵後衛の蛇が雷をいきなり叩き込んで来た。危ない。なんて短気な奴なんだ。 しかして、 「ふ、む」 雷を掠める様に躱し、前へと進む者がいる。 「貴方達には品性がありませんね」 雪白 桐(BNE000185)だ。彼は己が武器を構えつつ鼠へと向かい、 「脳髄の奥底まで獣と化しましたか。哀れですね本当に……」 「品性だぁ? んな無駄な物が何の役に立つって言うんだよ!」 「分かっていませんね」 一息。 「人はそう言う“無駄”に“意味”を込める事が出来るのです。 そしてその無駄の重なりを己に課して“道徳”と成し、和を持って“品性”とします。 理性ある人である為に」 生きるだけならば品性など要らない。 それこそ獣の様に生きれば。理性無き野獣たれば。化物であれば。 必要ないのだ。品性に意味を持つのはそれこそ人のみで、だからこそ、 「それを捨て去った貴方達は――既に獣ですよ。野蛮な、畜生です」 「テ、メェ……ガァッ!?」 薙ぐ。 闘気を雷として放電し、一撃を纏わせ鼠の横顔へと叩き込んだのだ。 脳を揺らす様な剣撃をお見舞いすればそのまま対峙。交戦する。 「飛びきりの御馳走でもなぁ……毒入りなんて、ボクだったらお断りだよ」 『エターナル・ノービス』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)の呟きは後方にて。 「ボクはアンパンよりメロンパンが好きだけど、 やっぱり毒が入ったメロンパンだったら選ぶのはアンパンだねー 命と引き換えの甘美だなんて、冗談じゃないよ」 どれだけ美味たらんとする“味”も、命果てればそこまでだ。 あるいは、彼らはその“味”に自らの命よりも重い何かを感じたのだろうか。メイは分からない。命より重い何か。懸けれる信念。そんなモノは、分からない。 「……行きます」 そんなメイの直ぐ隣、周囲の魔を共に取り込み己が強化へと繋げる『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)が居た。彼女はAFのメール機能を利用して、 ――おかげ様で安心して戦に挑めます、感謝を……―― この戦場よりもさらに後方で活動しているであろう偵察班に、感謝の言葉を送る。 一般人の心配が無いのは彼らの活動故。他者の為の、他者を思うが為の行動故。 彼女はソレに感謝の念を送らざるを得ない。“自らが他者の為にある”と自負する彼女にとってはとても他人事と感覚的に思えなかった――故に、 ……行ってきます。 願いを脳裏に。想いを心に。 決意を秘めて、 眼を見開き、 「――行きますッ!」 往く。 ●怪物退治 蛇を穿つ。 五体居る獣らの中で標的とするは蛇だった。初撃を叩き込んだのは、 「はっはっは、いやはや楽しいですかなフィクサードの皆さん?」 九十九だ。彼は前衛系たる牛を抑えつつ、狙いは蛇として銃弾を放つ。 「体と共に力も強く、大きくなってご機嫌って奴ですかのう。 他者を駆逐出来る圧倒的な力で一方的に踏みつける。楽しいですよなー?」 「おお分かるか!? あぁ楽しくて楽しくて仕方ねーよ!」 「ですよなー。ゲームで言うならボーナスステージ。あるいは確変到達。 楽しくない筈がありませんな」 はっはっは、と軽い口調で笑う。 笑う。 笑う。 笑って、 「ですが調子に乗りすぎましたな」 直後に発砲。無数に並ぶ鱗の隙間。一点。掻い潜ってソコを穿つ。 気持ちは分からないでも無い。巨大な力を持つ事。それを振るう事。“そういう存在”であれる事。 確変にも終わりは存在するモノだが、 「その前にゲームオーバーと参りましょう。なぁに、花道がちょっと駆け足になるだけです。 命尽き果てる前にここで絶たせてもらいますぞ。さして変わりはありますまいて」 「そうだよ!」 九十九の声に反応するかの如く礼子――いや、レインが、 「クライマックスが近いんだ……突っ走って行こうじゃないか! 最後までさ!」 闇を放つ。後方に固まっていた蛇と山羊を同時に捉え、濁流の如く流れる闇で押し包むのだ。 所詮ここの怪物達とて前座なのだ。狙うはただ一点。 九美上興和会の所有するモンタナコアだ。だから、 「貴様らの残虐非道、実に許しがたい。故に――」 闇に囚われる蛇へと、優希が拳を握る。 蛇と山羊。両方のその眼に捉え、跳躍一つで飛びこめば。 「黄泉の国へと逝くが良い……! 暴れたいならば、かの地にて存分果たせッ!」 薙ぐ。飛び込んだ左脚を軸に上半身を左に回転。勢いに乗せて右脚を振りあげれば、爪先から蛇の胴へと蹴りを叩き込んだ。さらにそのまま体の回転を止めずして、 「――!」 山羊へと向かう。蹴りに使った右脚。それを今度は軸として跳躍。 一歩で跳ぶ。 速度を落とさない。雷撃を纏いて行う舞いはむしろ速度を高め、彼の体を演武で運び、 握った拳。それを弾丸のように肩の奥から射出する。 ぶち込んだ。 「グ――っぉおッ!」 蛇と山羊が痛みに吠える。も、終わらない。そこへ仕掛けるは、 「貴方達はここで駆逐します」 真琴である。盾を振り上げ直線に。見据えて狙うは蛇の額。 ……許せない。 自分で分かる。フィクサードへの憎悪が抑えられぬ事を。 今、己は如何な眼をしているだろうか。表情は特に動いていない。されど内に秘めるは嫌悪の感情。 ――冷たき眼だ。燃え滾る炎の様なソレでは無い。氷の様に硬い、確固とした“ワタシ”。 攻撃を仕掛ける僅かな一瞬。そこに想いを馳せて、しかし躊躇無く、 「……死に絶えなさい」 大上段から振り下ろす。 神聖の一撃は蛇の額を突き破り、そのまま地面へと一直線。蛇の頭を地面へと叩きつける。大量の鮮血が迸り、真琴の身を濡らすもやはり感情は動かない。フィクサードを一体“駆除”したと、そんな程度しか脳に残らず。 「――!」 瞬間。山羊が動く。 唯一フリーの敵だ。桐が鼠。九十九が牛。火車が亀。レインが蛇を抑えている。 優希が比較的近くに居るも、それは蛇と山羊の中間地点に近い場所。故に抑えはまだ無く、自由たる山羊が狙う箇所は。 「……くっ! こちら、ですか!」 リベリスタ後方、シエル達が担う癒し手だ。 回復潰し。前線を耐久的に支えるソレらから潰す案は、ある意味基本とも言える。 だからこそ山羊はそこを狙った。シエルとメイ、双方を地から発生させた炎に巻き込んで。 「ですが――ええ。この程度、幾度となく受けたものです……!」 「いったい、なぁ、けど、負けないよ……!」 されど両者とも倒れはしない。 シエルもメイも回復手であるが為に狙われる事は多々ある。そして傷を負う事も。 慣れた物……とは言わないが、 「私、そういうの……数多く経験済みでございます」 微笑を浮かべる。心臓付近に銃弾を撃ち込まれた事もあるのだ。防御には気を配る。 北極紫微大帝乃護符――ソレを構え、盾とすれば炎を凌いで次手へと。 また、メイもだ。世界樹の闘いに置いて、槍にも似た指を突きこまれ、傷を負った。だからこそ彼女も最初は防御行動に念を入れており。 「――シエルちゃん!」 「ご安心を。我が身、全ての力をもって只管癒しましょう……」 メイの合図に、まずはシエルが練気に魔力統制――マナコントロールの力をフルに活用。 魔力を循環させる。そして詠唱をもって高位存在の一端を具現と成せば、息吹を顕現。前衛陣の回復とする。 「こっちはこっちで頑張って治すから、頑張ってね~!」 直後。シエルの行動に重ならない様にメイが動く。 先の回復の不足分をさらに付け足す形で、癒しの微風を創造。耐久面においてはこれらの行動によりリベリスタ側が圧倒的優位に立っている。 「さて……いかがですか? 今の御気分は」 鼠を相手取る桐が言葉を放つ。 侮蔑。その感情を乗せて、紡ぐ言葉と共に剣を構え、 「これが、貴方達の大好きな“蹂躙”です。良かったですね――その身で味わえて」 「ガ、アアッ――!」 袈裟切りの形で即座に叩き込んだ。鼠の左頬を削る様に刀身が食い込み、切り裂く。 現状、圧倒……とまでは行かないが、やはり戦闘は全体的に優位を保てていた。フィクサード側に回復手が居ない事も幸いしたか。一部攻撃が通りやすかった面もあったが、それでも、化け物達を抑える事に成功していて。さらに、 「ヘイヘイヘイどしたぁ! んだよ、でかくなっても結局雑魚は雑魚……あぁいや鈍亀かぁ! ほらほら俺はここだぞ? どこを見てやがんだ亀さぁんよぉ!」 「さっきから、一々、ほざいてんじゃ、ねぇぞックソガキがぁ――!」 化物らのリーダーたる亀も、火車がしかと抑える事に成功していた。 己の心を、揺れ動かして。 ●メメントモリ 序盤からだった。 彼は、火車は思う。どうしてこんな奴らが生きている、と。 非常に愉快で、非常に愛らしい。クソッタレな程叩きのめしてやりたい奴ら。 「づ、ぉおお、らぁあああ――!」 殴る。 叫び、気合いを力と変えんばかりに吠えて、亀の行動に反応する。降り落ちてくる巨大な足。ソレに合わせて拳を繰り出せば激突して、双方にダメージを導き出す。痛み分けだ。 衝撃に拳が割れそうで。激痛が拳、そして腕を通して直線に走る。しかし、 「悲鳴が、好きなんだろ? どうよ? テメェの、テメェ自身の悲鳴は最高だろぉ!? なぁ……なんとか言ってみろやぁクソ野郎ォ――!」 「だからァ、一撃止めたぐらいで吠えてんじゃねぇ――!」 亀の頭突きが来た。 一旦甲羅内に引っ込めてから、勢い付けての攻撃だ。 位置的に火車の腹を抉ってきて、嘔吐感が喉から口へと伝わり嫌悪を催す。 されど、それでも、 「こ、ん、なガキ、一匹、踏みにじれないのは……」 吐き気を強引に飲み下して――返礼とばかりに火車は、 「どこのぉ、どいつだよぉ!」 頭突きで仕返してやった。亀の頭にねじ込んで、負けるかボケとばかりに押し返す。 フィクサードの苦悶の表情。ソレが見える度に火車は笑う。 もっと苦しめ叫んで泣けと、心の奥から切に思い、 「ガアアッ、く、そがぁ……! んだが俺をいつまでも一人で止めれると――!?」 その時だ。亀の口を、真横から銃弾が穿った。 貫通しているその一撃。放てるのは只一人。 「では、一人で無ければ良いだけの話ですなはっはっは。自慢ではありませんが、私は鬱陶しいですぞぉ?」 九十九である。 牛の相手をしていた彼だが、もはや趨勢決したか。亀の方へと集中を向け始める。 一方の牛。まだ終わらぬ。まだ行けると背を見せる九十九に果敢と襲いかかるが、 「太く、短く生きる。それは良いと思いますが……最後の最後。しつこいのはいけませんな。 須らく。優雅に咲き誇り、優雅に散るからこそ美しいのです。花道を己で汚すのは無粋ですぞ」 もはや一顧だにしない。視線も合わせず、体を少し傾け、右手に持つ銃を背後へと伸ばし、 射撃音。 「終わりです。この結末こそ、報いと知りなさい。許容されぬ、咎人達」 そして倒れた牛の向こうにて、山羊を致命傷の一撃を叩き込む真琴がいた。 これにて残りは鼠と亀。しかも鼠に至っては桐の攻勢で大分傷付いている。他の者が加勢すればほどなく終焉を迎えるだろう。彼女の言う通り、終わりなのだ。フィクサード達は。 「終わり? 終わりだと俺らが!? いやいやまだだぜまだぁ! もう少し続けようやぁ!」 「まだ抵抗を――ッ?」 激しく暴れる亀を真琴は視た。 悪足掻きか――そうとも思ったが、違う。アレは、 「やっぱりこっちが狙い!?」 火車のブロックを突き超えて、空間を切り裂く蹴撃がメイへと襲いかかる。 虚空だ。直線状に限るが、これなら“壁”は関係ない。 鋭い刃物の様に貫通する一撃がメイの腹を突き破って、 「メイ様ッ、癒しの息吹よ……!」 シエルが即座に癒しの力を行使する。が、亀は止まらない。依然として暴れ狂うままだ。 先に優希が行った演武の様に舞い踊る。目に付く者を捉え、潰し、殺さんと。踊る。 楽しいから。誰かの悲鳴が。誰かの叫びが。楽しいから。楽しいから、 「そんなモノが本当に、心底楽しいなら……」 声がした。どこからだ。下だ。亀の、下。 「自分達が蹂躙されても――文句はありませんね?」 桐の一声。鼠を協力によって片付けたか。巨大な亀の下、隙間に潜り込んで、狙うは足。 横薙ぎの構えだ。肉に抉りこませてそのまま深く。削る。円弧の軌跡で、 ぶった切る。 「――!!」 激痛生じて亀が鳴く。 体が反射的に身じろぎするその一瞬に、 「ボ、クは負けないよッ!」 レインだ。 「ここからさ……ボクの本気は! 血反吐吐いてからが楽しいんだよ!」 先の亀の乱舞に巻き込まれ傷を負うも、衰える所か力が湧く。 粘る。諦めない。ラストスパートだと思考して、暗黒の魔力を振り絞る。 練り上げ刻むは亀の精神。更なる悲鳴を上げさせれば、 「やかましいぞ! 汚らしい悲鳴を上げるな下種がぁ!」 優希が行った。 桐とは違うルート。下ではなく甲羅を渡って上から襲撃。 勢い付けて、死角から亀の頭へ気を込めた蹴りを叩き込めば、亀が揺らぐ。 直後、奴の視線が上を向いた。だから瞬時に降りて新たに下を死角とし、 開いた口。 亀の舌を機械仕掛けの腕で掴み取る。 「笑うな……!」 人を殺して、笑うな。 お前らの様な存在がいるから、 ……俺の、家族は―― 「笑う、な……!」 死んだ人は、 「もう、笑えないんだぞッ!」 憎しみを奥歯に。噛み締め砕いて指先に力を。 舌を締め上げ、捻じり、膂力を持って――引き千切る。 「ご、が、アァ――?!」 「……」 真琴の思考はかの日。家族を、フィクサードに殺された日。 笑えないんだと、言った優希の言葉がよく分かる。死者は蘇らない。 だから憎悪は消えず、許せず、許容出来ない。亀の悲鳴すら心には届かず、 むしろそのまま死んでしまえとすら頭によぎる。 故に、 自身の全力をその身に宿し、火車は往く。 殴る。炎を纏って、手甲に爆の一字を表して、血が舞う。流れる。 「テメエ等だけはなぁ……!」 食いしばる。それでも、 「オレ、のぉ……!」 なお、彼は、 「オレのッ、敵だぁッ――!」 彼は、己の拳で敵を打ち抜いた。 亀が絶叫共に甲羅もろとも崩れ落ち――絶命する。 心は未だ過去を向き。 死者は過去に、生者は未来へ。 置いて行かれたのか。それとも置いて行ったのか。 全ては心の在り様次第。 舞台は移る。最終決戦の地へと。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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