●千葉炎上 『縞島組』『風紀委員会』『ストーン教団』『松戸研究所』『弦の民』『剣風組』。 六つのフィクサード組織が互いの理想実現のために新生『九美上興和会』として協力合併し、巨大なフィクサード組織に生まれ変わろうとしている。 彼等の秘密兵器、アーティファクト『モンタナコア』。 組織を完全なものとすべく狙う『セカンドコア』。 無限の未来を賭け、大きな戦いが始まろうとしていた。 ●しあわせな少女 七弦さまは、わたしを救ってくれた人。 ある日、わたしが力に目覚めたとき。顔も目の色も真っ赤に変わったわたしは、それをどうすれば隠せるのかを知らなくて、沢山の人に馬鹿にされた。 『不良の真似事か』 『似合わない。気持ち悪い』 『真面目なやつだと思ってたのに』 違うと何度叫んでも、その言葉を誰も信じてくれなかった。 髪を染めて、目の色をカラーコンタクトで誤魔化そうとして、それでも神秘のチカラはわたしに安易な逃げ道を選ぶことは許してくれなくて、色は隠せるどころかもっともっと鮮やかになっていった。 ひとりぼっちになった。お父さんにも、お母さんにも、「反省しないならうちから出て行け」と言われた。 信じてくれる人は、誰も居なくて。 毎日、毎日、泣いてばかりのわたしを、七弦さまは助けてくれたの。 その色は、悪いものじゃないんだよ、って。 神さまに選ばれた、素敵なプレゼントなんだよ、って。 縋るものがなかったから、わたしはそれを信じたのかも知れない。 それでも、良かった。 七弦さまは、そんな信じることしか出来ないわたしに、沢山のものを与えてくれたから。 居場所も、友達も、信じるべきものも、それを守れる力の使い方も。 だから、だからね。 たいせつなもののために、わたしは命を捨ててでも、悪いことをしてでも、守りたいって、そう思ったんだ。 ●ふしあわせな少女たち 「……納得いかない」 真白く顔を塗った少女が呟く。 片手には分厚いグルカナイフ。鞘にも収めずくるくると手元でそれを弄びつつ、少女は憎々しげな顔を浮かべていた。 「アイツ。あのクソ女。なんであんなのがアタシ達のリーダーなワケ? 適正が有るとか何とか言って妙なオーギまで貰ってさ! 何時もゴキブリみたいに人の目の前ウロチョロしてるアイツに、何でアタシ達がはいはい従ってなきゃいけないのよ!?」 ガツン! と叩きつけられたナイフに、『一般人達』はびくりと震え、怯える。 少女が居る場所はとある学校の教室だった。各教室毎に乱雑に押し込められた一般人達は、現在の状況を理解できないまま、ただただ奇矯なメイクの少女達がもたらす暴力を恐れ、縮こまっていることしか出来ない。 「ムカつく。ムカつく。ああもうマジでムカつく!」 暴れ回る餓鬼のように、少女は誰ともなく押し殺した憎しみを垂れ流す。 次いで――その怒りの余りか、周囲に在る一般人達に向けて、少女は背に掛けていた銃を抜いて、引き金を引く。 ――ぱぱぱん、という乾いた音。 悲鳴を上げた一般人達の、しかし、誰一人にも怪我はない。 「はいはい落ち着いてよ。言いたいことは解ったからさ」 気がつけば、怒り狂う少女の背後には、もう一人の少女が立っていた。 此方も顔は白いメイクで覆われている。苦笑混じりの少女は天井に向けて引っ張った腕を離し、その肩をぽんぽんと叩く。 「まだリベリスタっての来てないんでしょ? 此処で人殺したら私たちの所為じゃん。あの子に怒られるよ?」 「チエは悔しくないの!? あんな根暗にこき使われて!」 諫める少女に対して、あくまでも怒り狂う彼女の瞳は爛々と輝いている。 その言葉を受けた彼女は――くすりと、背筋が凍るような微笑みを、浮かべる。 「怒ってるよ。ブッ殺したい。滅茶苦茶にしたい。 何で七弦様はあんなクズ選んだろうね? 私たちの方がもっと働くのにね。もっと闘うのにね。ああリベリスタ来たら一緒になってアイツ殺して人質もみんな殺してあげようかそうしたらアイツらビビって逃げ出して邪魔者が消えて七弦様が私たちを褒めて赦して抱きしめて愛して」 「……っ、わ、解ったから! 痛いよ、肩!」 肩を叩いていた手が、ぎりぎりと少女の肩に食い込んでいる。 「ああ、ゴメン」と再度苦笑して、言われた少女は手を離した。 「まあ、殺したいけどさ。イラつくけどさあ。 悔しくても、ムカついても、アイツだって『太陽』の力で強くなってるワケじゃん? だったら――」 と、言いかけて。 二人の少女が、近づく足音に、どちらがどちらともなく言葉を止める。 「……あ、あの。何か有ったの? 銃声、聞こえたけど……」 次いで現れたのは、真白の仮面を被った少女だった。 片眼にだけ穴の空けられたそれは、遠目に見ればのっぺらぼうに近い外見に見える。おずおずと言った弱腰で、か細い声で、少女達に声を掛ける仮面の少女に、二人は笑って応えた。 「それがさあ、聞いてよ! リョーコったら私が様子見に来たら敵だと間違えていきなり銃ブッ放してきたの! 確認もしないとかマジ有り得なくない?」 「さっきから謝ってんじゃん! チエ全然許してくれなくてさあ、アンタからも何か言ってやってよ!」 「……あ。え、と。二人とも、仲良く、しよう?」 「ちぇー。仕方ないから許してあげる」 「もう! 人が散々謝ったのに!」 けらけらと笑う二人の少女と、其れに釣られて笑い声を漏らす、仮面の少女。 二人はそんな『リーダー』の頼りない姿を見ながら、目と目だけで言葉を介する。 ――精々利用してさ。リベリスタ共と一緒に死んで貰おうよ? ●状況解説 「……既にご存じだとは思いますが」 語る声音は硬くも冷たい。 『運命フォーチュナ』天原・和泉(nBNE000024)は手にした資料を軽く確認した後、リベリスタ達へと視線を合わせる。 「現在、千葉に於いて或る六つのフィクサード組織が統合、『九美上興和会』として新生し、行動を開始し始めました。 彼らは切り札であるアーティファクト……寿命、生命力を代償として革醒、強化を促す『モンタナコア』を利用し、組織の兵力拡大、増強を図っております」 「具体的には?」 「千葉県のほぼ全域に於いて、アークに協力してくださっているリベリスタ組織の手を借りて避難を促しております。つまりは『それだけの戦力』とお考え下さい。 ですが、それほどの数と戦力を持ってしても、彼らの軍隊は完全ではありません」 「………………」 流石に、と言うべきか。 事のスケールが大きいことは理解できるが、それをしても一県全域を封鎖した上で尚足りぬ軍隊が不完全と聞くと、リベリスタ達にも緊張の糸が強く張られていく。 「……『セカンドコア』と呼ばれるアーティファクトがあります。これは先に言った『モンタナコア』と同種の効果を持ち、彼らはそれを要して更なる兵力拡大を狙っています。 これを放置すればフィクサードによる超巨大組織の誕生と、それを許すエリアを与えてしまう結果となります。そうなる前に、皆さんには彼らの戦力を叩いていただきます」 言うと共に、スクリーンに映像が浮かぶ。 千葉県全域のマップだ。そこかしこにぽつぽつと赤い点がマークされている部分を指しながら、和泉は解説を続ける。 「現在、フィクサード達はそれぞれの土地に散らばって独自行動を展開しております。これが何時まで続くかは解りませんが、楽観は出来ません 皆さんには彼らが合流して一個の戦力となるより前に、これを叩いていただくこととなります。場所については『万華鏡』でほぼ全て予測し切れました」 そうして、和泉は赤く光るマークの一つを指し、手元の端末でその位置を拡大する。 其処に見えたのは、ある学校であった。 ●救出任務 「……先ほど、一般人の大半は県外からの退避を完了させたと言いましたが」 言葉に、苦渋が混ざる。 端末を操作する手が、僅かばかりの間、握り拳を作っていた事に、何名が気づいただろう。 「そうではない部分が、若干ながら出来てしまいました。 この学校には約10名のフィクサード達が、総計100人ほどの一般人を人質として閉じこめ、皆さんが現場に到着するおよそ三十分前に、我々アークに対して『介入すれば人質を殺す』との連絡を行ってきます」 「……っ!」 リベリスタ達の表情が、歪む。 「人質達は現在各階三つの教室に分けられ、閉じこめられております。 皆さんはこの人質達を助けると共に、見張りと襲撃対応用の戦力であるフィクサード達を討伐していただく事となります」 「……敵戦力は?」 「先にも言いましたが、約10名。顔面を白く塗った少女達と、白い仮面を被ったリーダー格の少女が一人です。 基本的に装備は共通しており、FN P90と呼ばれる短機関銃とグルカナイフ、リーダー格の少女は銃を持っていない代わりに、ナイフを両手に装備して闘うタイプのようです。 ジョブはおよそ全員がクリミナルスタア、またリーダー格の少女は『浪人行』と呼ばれるEXスキルを保有しており、相当手強いものと思われますのでご注意下さい」 ――一息を吐く。 和泉はこれしか出来ない自身の仕事に、だから全精力をかけてリベリスタ達に思いを伝えた。 そして、今一度の、想いも。 「……心苦しいですが、彼女たちを助け、人質を救出したとしても、皆さんにはもう一仕事していただくこととなります。 作戦終了後、皆さんは九美上興和会撃破の総仕上げとして、『コアチーム』と合流、最後の戦いに挑んでいただきます」 沈黙が場を支配する。 けれど、それは決して恐れるが故のものではない。 「信じています。皆さんが無事に帰ってくることを。 信じています。皆さんが彼らを打倒出来ることを。 信じています。皆さんが全てを――」 「――ハッピーエンドに、してくれることを」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月04日(日)23:52 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「――――――」 ぱち、と目を開く。 片方だけになった私のセカイに映るものは、眠り続ける沢山の人々。 そうして、 『そのセカイの外』で見えたものは。 「……来た」 距離感覚は怪しいけれど、数は大凡十名前後。 それを理解すると同時、私は非常警報スイッチに手を掛ける。 カバーされたそれを、親指で強く押し込もうと――する、よりも、早く。 『へろーえぶりわーん。初めまして、こちらアークのガッツリだお』 「……」 腕が、止まる。 感情探査は未だ働いていた。距離は凡そ百メートルと幾許か。声が届くほどの距離ではない。 「……テレパス?」 『ご名答だお。……にしても、よく気づいたお?』 受信も自在か、とココロの中で呟いた。 「眠ってる人は、感情自体が存在しないか、在っても微弱なレベルに落ち込むから、実質十数人程度なら、私で把握し切れた、よ。 ……夢なんかを見てる人は違うけど、それを見せないために、魔眼とクスリまで使って、深い睡眠に陥らせたし」 『ふうん。失敗だったか。……じゃ、早速だけど本題だお。その『合図』、止めて欲しいって思ってるんだけど……無理かな?』 「……うん」 沈黙の後、返答を返す。 逡巡ではなく、躊躇でもなく、只の沈黙。 『そーかお。……因みに、ちみってここの生徒だったんじゃねーかなって思うんだけど違うかな? ちみがいくら強いからっていきなりこの人数のリーダーを任されるのにちと違和感があってね』 否定を、予想していたのだろう。 対して気にした風もなく、声は私に語りかけてくる。 「……それは、ちょっと穿ちすぎ、だよ。 此処を選んだのは、単純に地域ごとで他組織と戦場が被らないようにするため」 『とりあえず、もうすぐ侵入するからさ、1階と2階から攻めるつもりだから、お友達、動かしておいた方がいいと思うお』 「……私は」 接続が切れる、刹那。 私は、小さな祈りを、彼女に託す。 ● ――じりりりりりりり――――――!! 接敵より、100メートル地点にて、突如として鳴り出した、警報のベル。 「気づかれた……!?」 言葉を漏らしたのは、誰だろうか。 一階と二階、何れも慌ただしくなったシロヌリ達を千里眼で見つめる『おっ♪おっ♪お~♪』ガッツリ・モウケール(BNE003224) がその旨を伝えると同時、リベリスタ達は一挙の攻勢を余儀なくされていた。 その数は八人。何れもが『機械仕掛けの戦乙女』クリスティナ・スタッカート・ワイズマン(BNE003507) による翼の加護で飛翔の属性を得ている。 たん、と二の足が地を蹴れば、それより浮かび上がるのは半数――四名の少女達。 「……っ、手前ら! 此処の人間どうなっても――」 「切り刻め、ドレッドノートよ!」 顔を白く塗った少女が叫び終えるよりも、早く、疾く。 『緋月の幻影』瀬伊庭 玲(BNE000094)が叫び、黒白の銃を繊手に収め、ありったけの銃弾を叩き込んでいた。 「君たちは包囲されている。人質を無傷で解放し、大人しく投稿する場合は命までは取らない。繰り返……」 「さなくて良いってんだよクソが!」 返す刀とばかりに、五人の少女が銃弾を撃ち放つ。 叩き込まれると同時の鈍い衝撃。其処にいた『三人』の何れもが、降り立った教室より弾き出されたが、背に負う光翼はそれより地に墜ちる事を決して赦しはせず。 「舐めてんじゃないよ、たかだか三、四人で包囲だの何だの! 今すぐコイツらブッ殺してその口黙らせてや――」 「させない!」 「ッ!?」 先に奇襲した三名とは逆方向から、音もなく進入した『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)が、紅月を喚ぶ事で彼女らの身をアカに浸す。 「この人達は殺させない、『あの子』も君たちには殺させない! 君たちは、此処でボク達が止める……!」 「ざ、け、てんじゃ……!」 「いいや、大マジだよ」 怨、と音無き音がした。 抜き放つは大太刀。セカイを覆うは他に無き暗黒。 その何れもが見る者、臨む者に死を与える殺意の具現たるならば――『骸』黄桜 魅零(BNE003845)が語るのは、さながら死の祝詞か。 「ハロー、シロヌリの評価されない屑共。遊んでやるからかかってこい」 少女達の戦いは、今、幕を開いたばかり。 対し、一階。 地を這うような低空飛行で突き進む『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)は、最早今更気配遮断など意味も無しと、そのまま一般人の確保されてる教室に踏み込んだ。 「――――――殺せ!」 銃口の向かう先は、問うに及ばず、闘う術無き彼らの額。 だが、リベリスタはその程度の浅薄、容易に看破している。 「悪りーけど、やらせねーお」 言葉とは裏腹、罪悪感よりも義務感に満たした表情で、ガッツリがスローイングダガーを投射する。 無頼の銃弾、バウンティショットと呼ばれる技法を投刀に応用したそれは、狙い違わずシロヌリの一人の手の甲に突き刺さった。 咄嗟の衝撃と痛みで狙いがずれた。一般人は未だ、誰も死んではいない。――これからを考えれば、その程度すら気休めなのだろうが。 「人質とって得意面かよ、つくづく腐ってやがるな……!」 『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)の言葉には、特に嫌悪の響きが強い。 「かかって来いよノロマ。身の程ってヤツを教えてやるぜ……!!」 術式容量の関係上、アッパーユアハートのストックは出来なかった。 されど、余裕の表情、自身を指差しての露骨な挑発といえども、八卦程度の価値はある。 「……っ、ザケんなよクソガキ共!」 りぃん、とシロヌリがナイフを抜く。 ヘキサに向かう者も、或いは居た。 だが、しかし、己の本来の欲望を忘れず、眠り続ける一般人達に刃を振るう狂気が勝る者も、其処には居たのだ。 だが、 「驚いたな。人質に手を出している余裕があるのか?」 聞こえたのは、男の声。 見えたのは、真白の仮面。 『あるかも知れなかった可能性』エルヴィン・シュレディンガー(BNE003922)は、その行動を彼女に許さなかった。 「力無き者を殺すのは誰でも出来る事だ、強い者を殺してみろ、俺達リベリスタを!」 次いで、銃撃。 銃口を腹部に当てての連弾。シロヌリに確たる殺意を持たぬ彼がそうしたのは、彼女らの挙動から防弾性のボディアーマーがあることを確信した故だ。 血反吐と、吐瀉物。残らずまき散らしたシロヌリは、赤い口元を拭いながら、ぎろりとリベリスタらを睨む。 さあ、此処からが総力戦。 ● リベリスタ達の取る行動は、簡潔と言えば簡潔そのもの。 一言で言えば、彼らは一階と二階の人質を助けることのみに傾注し、三階を放置するというプロセスに踏み込んだ。 『自衛を人質殺害より優先する』――そう語ったフォーチュナの言葉に重きを置いたリベリスタらは、不意打ちと、各個撃破ならぬ全体攻撃で間断無い攻勢を敷き、シロヌリ達の標的を自身に定めようとしていたのだ。 が、これには穴が存在する。 「ほらほらァ! その程度かよリベリスタ! あんまりトロいと人質殺しちゃうよ? アハハハハハハ!!」 「く……!!」 先ず第一に、二階部分の戦闘に於ける戦場の把握。 人質達は三十人全員が教室に寝かされており、自然と教室には足の踏み場が殆ど無いことになる。 人質を殺そうとしているシロヌリと、それを阻止するリベリスタの立ち位置は、故に必然的に教室前の廊下に限定されるのだ。 敵方のシロヌリ達が銃撃にノックバック属性を持つのは情報に在るとおり。 で、あるならば。彼女たちがリベリスタを攻撃する際、『何処へ飛ばす』事を念頭に攻撃を行うだろうか? 「とっとと吹っ飛べよ、外に向かってさあ!」 「……!!」 がしゃん、と窓ガラスが割れる。 翼の加護の効果で落下は防げるものの、足場を失した時点でリベリスタ達の挙動は大きく精彩を欠く結果となる。 そして、もう一つ。 「ぬう……止まれ、御主ら!」 玲の言葉と共に、襲い来る一般人(睡眠状態は魔眼の書き換えで強制的に起こされた)達がびくりと動きを止める。 が、対するシロヌリは複数名を以てそれを返してくるのだ。 玲の魔眼一つで一般人達全ての意識の書き換えは極めて厳しく、縦しんばそれが叶ったとしても、複数名居るシロヌリ達が戦況に応じて適度な回数の魔眼を飛ばすため、従う人数は明らかに玲よりも多い。 「……」 魅零が、音もなくシロヌリに疾駆する。 対するシロヌリは余裕の表情で、その場にいた一般人を彼女の側へとけしかけた。 そうして、それだけ。 大太刀が闇を乗せる。自身の痛覚を呪力として付与した一閃は、近づいた一般人諸共、シロヌリの身体を袈裟懸けに叩き斬った。 「は……なん……」 「黄桜はフィクサードを止めに来た。一般人が犠牲にされようと、やり通すわ」 げらげらと、笑い声を浴びながら。 ずるりと音を立てて、シロヌリが血の海に沈む。 (……この手を血に染めても、ね) その最中、微かな感情のヒビを見つけたものは、居ない。 「気狂い共かよ、正義の味方じゃねえのか、手前ら!」 「キミ達には言われたくないよ……!」 興された紅い夜は幾度目だろうか。 魅零に続いて、二人目、三人目がアンジェリカのバッドムーンに果てれば、残る二人は逃走を鑑みるばかりか、それらも未だ立つ四名のリベリスタに戦闘不能にまで追い込まれていた。 「命を何だと思っている……強者になったからと言って弱者を虐げる行為を繰り返したら、お前らを虐げた連中と同じ存在に堕ちるとなんでわからない!」 「ふ……っざけんな、クソ共!」 クリスティナの一喝に対しても、歪んだ価値観の少女達に、正当な論理など通るはずもない。 舌を打つクリスティナ。構えたサーベルが、シロヌリの首に当たる。 振り抜かれ、シロヌリの首が、高く舞う。 「……其処まで、だよ」 よりも、早く。 階下に訪れた仮面の少女が、クリスティナの心臓を、深く抉った。 ● 「……降りてきた、だと?」 鉅が呟くと同時、幾度目かも解らぬ拘束が、一人のシロヌリを縛り上げた。 「ンの……!」 言いかけるよりも早く、衝撃。 シロヌリ達同様、無頼の投刀を続けざまに叩きつけたガッツリが、千里眼越しのセカイから二階を見て、言った。 「みたいだお。クリスティナは……運良く未だ立ってるけど」 「何にせよ、時間がないのは確かだ」 語る一階班にしても、余裕が在るというわけではない。 「……っ!!」 撃ち込まれた銃弾の重さに、ヘキサが苦悶の声を上げる。 エルヴィンもまた、同様だ。両者の満身は鉅、ガッツリに比べれば遙かに多く、運命の変転を余儀なくされていることは容易に想像が付く。 生来の優しさ――人質を一人足りとて見捨てられなかった彼らの優しさが、それを意味しているのだ。 仮に人質に銃口が向けば、其れを庇い続けたヘキサ。同様に、人質とシロヌリの立ち位置を常に把握し、その間に割り込みながらの行動を常にとり続けたエルヴィンは、故に人質殺害を狙うシロヌリ達に『特に邪魔な障害』として認識されていた。 当然、其れによって守られた人質の数は多い。二階部分が十五名前後の被害に対し、此方の被害は僅か五人程度。 だが、それでも。 「クソ……っ」 人質を、誰一人とて死なせまいとしていた、ヘキサからすれば。 「畜生、畜生、畜生畜生畜生!」 涙は、流して居ない。 泣いていたのは、声と、技だけ。 「100年遅ェっつってんだ、よッ!!」 穿つ蹴撃が、残るシロヌリの水月を抉る。 肺の空気を残らず吐き出した最後のシロヌリが、そこで、倒れた。 「……」 ヘキサは、 それでも、しかし、シロヌリ達を殺さなかった。 幾ら人を殺そうが、 幾ら、その性根が歪んでようが、 それでも、彼女らは只『誤った』だけなのだと。そう言って。 「……人質を逃がして、二階に急ごう」 「いや、千葉県内は混戦中だ。別所の戦闘に巻き込まれかねん。此処で隠れるように言っておけ」 鉅の返答にこくりと頷くエルヴィンは、そうして、二階の方角……天井を見上げる。 「……奪う覚悟は、しているさ」 ● 「ぬうりゃああああああッ!!」 双銃が咆哮を上げる。 撃ち放たれた銃弾は何れもが魔弾。互い無く仮面の少女の身体を呑み喰らい、果てる、筈であろうに。 「――浪人行」 自身の負傷すら恐れず飛び込んだ仮面の少女に、玲が動きを緩めた。 残る面々を纏めて薙ぎ払う斬撃の乱舞に、玲が倒れ、その他の者も大きく傷む結果となる。 「だが、未だ――!」 構えた盾の向こう側で、クリスティナが立ち上がろうとしたときに、 「――『追喰(ついばみ)』」 仮面をズラした少女が、首に噛みついた。 ずる、と抜けた生命力を補給し直し、少女は再度立ち上がる。 種族特性と、術技による二次行動。それが彼女の継戦能力を大幅に高めていることは予想に難くない。 「ボクは君の気持ちを否定しない。出来る訳がない。キミとボクは、似ているから」 だから、せめて、問いたかった。 「けど、だからこそ君にこんな事をさせている七絃を許せない。君も解ってるはずだよ。それでも止める気はない?」 「……」 アンジェリカの言葉に対して、少女は只、佇む。 「貴女達の主への忠誠は解ってるつもり。 でもその七弦ってやつ、今日殺されるよ? リベリスタが向かったもの。貴方は今こんなとこに居て良いの?」 「……」 魅零の言葉についても、同様。 苛立つような声音で、魅零は畳み掛けるように言葉を続ける。 「嘘と思うならそれでもよし でも、失ったものは取り戻せないと理解しときなさいよ」 「……私は」 何かを言いかけた少女に対して、 それより早く、返されたものは。 「随分若いうちに道を踏み外したもんだとは思うが、な」 「っ!!」 舞う、鉅のスローイングダガー。 繊手に突き立った其れに絡み取られた少女は、次いで鉅の側へと視線を向ける。 「悪いが、此方も余り長く構っている暇は無い。とっとと片付けさせて貰う」 リベリスタ達の攻撃が、彼女を朱に染めていく。 それでも、倒れない。 術技を行使するに相応しい気力が無いのが原因だった。与えるダメージは常に少なく、故に、それは。 只の、嬲り殺しのようで。 「……っ」 ばつん、と、気糸が弾けた。 返す刀とばかりに、合流したリベリスタら全員を巻き込むように、少女の剣舞が、周囲に血の花を咲かせた。 幾度幾人、その最中で、片刃を掴んだ男が、居る。 「……敵を間違えるな」 エルヴィンである。 少女同様、白い仮面を身につけた彼は、倒れかけの身体で、それでも必死になって、言葉を伝えていた。 「俺達が本当に戦わなくてはならないのは、世界をこんな風にした神秘そのものだ! 居場所が欲しいのならば、俺が一緒に探してやる! だが、神秘を終わらせない限り、俺にも君にも、本当の居場所は見つからないんだ!」 「……」 仮面越しの瞳、二つが、交錯する。 「君の様な優しい子を倒したくはない、だから、降伏して――」 「……そう、なんだ」 とん、と。 地を蹴る音と、 彼の、傷口に贈られた口づけは、同義だった。 「ありがとう、ござい、ます」 ――傷口より吸い出される、生命。 傾いだ男の体を無視して、少女は、窓から下へ飛び降りた。 「追うか?」 「否、シロヌリは全て捕らえた。人質も助けた。任務は達成だ」 ヘキサの言葉に、首を振ったクリスティナは、だが、と少女が消えた方角を見やり、首を傾げた。 「どうにも可笑しいことだが、奴の行動に一貫性がなかった。 此方を殺すと言うよりは、戦闘に時間をかけることを優先していたし、かと思えば先ほどのようにあっさりと逃げる」 「だな。それはこっちも感づいてたけど……」 クリスティナ同様、ヘキサも疑問を呈する、より、早く。 「……あの子は」 小さく、 ガッツリが、言葉を返した。 「あの子は、唯最後に、あちし達と闘いたかっただけ、なんだってお」 ● 「知ってるよ。みんなが、私を嫌いだって、こと」 『……?』 聞こえた声……と言うよりは、疑問の沈黙に、私は言葉を続ける。 「人質を取ったときから、感情はずっと探知してたから。……みんなが、銃を撃ったときとか、私を殺したいって気持ちが、凄く、伝わってきた」 聞こえるはずもない、苦笑。 たいせつなともだちだと、七弦様に教えられた彼女たち。 それを、今日、偽物と知って、凄く、苦しかったけれど。 「……けれど、もう、引き返せなかった。 モンタナコアで寿命と引き替えにした私の身体は、後一週間も、保たないから」 『……』 「逃げても、何にも成らない。 貴方達について行っても、唯、死ぬだけ」 だから、と私は言う。 「最後に、ほんの少しだけ。 私は、貴方達と、みんなと、遊んでみたい。それだけなんだ」 自分勝手な、祈りを。 そうして、会話が、止まる。 叶うなら、誰にも言わないでと、最後に呟いて。 私は、非常警報のスイッチに、拳を叩きつけた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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