●千葉炎上 『縞島組』『風紀委員会』『ストーン教団』『松戸研究所』『弦の民』『剣風組』。 六つのフィクサード組織が互いの理想実現のために新生『九美上興和会』として協力合併し、巨大なフィクサード組織に生まれ変わろうとしている。 彼等の秘密兵器、アーティファクト『モンタナコア』。 組織を完全なものとすべく狙う『セカンドコア』。 無限の未来を賭け、大きな戦いが始まろうとしていた。 ●風を詠み従え、雄弁に 「どう思う」 「……兄貴、それだけじゃ何も分かりませんぜ」 「そうだな。俺は『この風向きをどう思う』と言いたかったんだ」 「そうッスねェ。中心部に向けて流れてるし、悪くねえんじゃないですか」 「そうか。なら、撒いてもいいな」 「何を、って聞いたほうがいいですかい? 一応、わかっちゃいますが」 「毒さ、毒。沢山な。当然――目覚めたら万々歳だ。地図が生まれ変わるぞ」 「兄貴、『作戦』の前にそんなこと」 「気にするなよ」 今日は、とてもいい日だから。 指先に結わえた紐を風に翳し、男――ジルウェットは、くすりともせずそうのたまった。 ●箱舟は奔る 「現在、千葉でフィクサード組織が合併、巨大な組織として生まれ変わろうとしています」 背面に千葉県の地図他、各種データを揃え『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)は静かに話を始めた。 背後のデータからするに、切り札とされる『モンタナコア』――生命力を代償にフィクサードを覚醒・強化する効果を持ち、それを元手に兵力を整え始めている。 だが、それでは足りぬ――同種の装置『セカンドコア』を求めている、ということだ。 当然、巨大組織の誕生に伴って広域での跋扈を許すそれをアークが許してはならない。野望の阻止を目指し、動くべきだ、というのが、今回の事態の現状だった。 「現状、各地に散らばったフィクサードが再び集まるには若干の猶予があります。 この段階で各個撃破を狙い、集合を阻止すれば幾分か状況は好転するでしょう。 皆さんに向かってもらう先はビル街屋上――フィクサードの企みは既に人払いが済んでいるので半ば瓦解しているといっても構いません。存分に戦い、彼らを打倒して下さい」 資料を手にした夜倉は、静かにそう告げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月04日(日)00:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●理由などなく ジルウェット、と名乗り出したのは何時からだったろう。 思い返すのも面倒になる程度には昔だったということは覚えている。何故なら、今まさに面倒だからだ。 だがひとつだけ。たった一つだけ、この名を名乗る前から覚えていることがある。 自分は、風を、機を読むのだけは得意だった。ただ、それと真逆のことをしているという自覚があるだけで。 それは何時も後悔だった。それは何時も悪徳だった。 だから、今更取り戻せるものでもないと思っている。 取り戻せるとするのなら―― 「何とかと煙は高い所が好きというけど……貴方達も、その類の何とかさん?」 「違うな、俺は風が好きなだけだ」 彼女はきっと、ここではない先を見て、今日ではない何時かを迎えようとしている。 それが、ジルウェットが『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)に抱いた第一印象だった。 無論、大なり小なりの評判を聞く彼からすれば、彼女を軽視する気はない。 あるとすれば、冷静だからこそ付け入るところがあろうという打算程度のものか。 「状況も背景も知ったことじゃないんだ、お前達は姑息な卑劣漢だ」 「そんな俺の元にのこのこ来るなんて、アークの盾も大一番は恐いのか」 当然の如く、『デイアフタートゥモロー』新田・快(ID:BNE000439)がそんな姑息な人間ではないことくらい分かっている。だからこそ、叩く軽口もあるというもの。 下らないものとして扱うのなど今更だ。認めるなどしてやるものか。 軽視するか、しないか。それだけに絞ればどうということはない。 「鶏如きに手間取ってる時間は無いんだけど」 「そう言うなよ。俺としては、ここで引き返して何事もなかったように帰ってくれるか、おとなしく転がってくれるかすればいい」 逆に言えば、それ以外の選択肢は認めないと言っているようなもの。 無論、『ここを観ていない』であろう『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)をして、ジルウェットは脅威とは思わない。 物の見方が最初から違うなら、それも間違いではないだろうが……。 「風を詠む前に空気を読んだら如何かしら?」 「君達こそ、ここに足を向けるにはそぐわないんじゃないか? いいのかい、俺の相手なんかして」 「思いを届けたい人たちの為に、わたしはその道を作るために、あんた達をここで倒す!」 「いい威勢だ。それが最初だけではないことを祈ろうか」 虚仮にしたような声音でジルウェットを揶揄する『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)へも、意気軒昂と啖呵を切る 『すもーる くらっしゃー』羽柴 壱也(BNE002639)へ対しても、彼は些かもその気を削いだ様子を見せなかった。却って、楽しんですらいるかのようだ。 ああ、何だかんだいって彼らは戦いに赴いたのだ、と。 この戦場に於いて口先三寸は通用すまい。冗談のひとつで通用する様な相手ではなく、リベリスタの能力を知ったればこそのこの軽口だ。 軽口、と述べるにはそう多弁というわけでもない。律儀、とでも言うべきだろうか。 (フランス語で……日和見主義者を名乗るくらいだから……機を見るに敏。注意してかからないと、危険……) 「まったく、巨大化だのコアだの何処の悪の組織だよ」 「知らねえのかボウズ。フィクサードが悪以外のどの意図で動くってんだよ。悪の組織、結構じゃァねぇか。俺たちはそういう生き物なんだよ!」 「……声を荒げるな、阪白。彼はまだ『浅い』ようだ、可哀想だろう。『なあ』、君」 「……!」 心から下らないと感じたのだろう、『骸喰らい』遊佐・司朗(BNE004072)の言葉は冷ややかだった。流石に癪に障ったか、配下の一人が憤りを顕にするが、それを遮ったのもジルウェットだ。 そして、彼の視線が向けられた先にはエリス・トワイニング(BNE002382)が居る。底冷えのする声だ、と思う。日和見であることを恥とも思わぬその名を名乗る以上は、彼もまた通常の感性を有しているわけがない。 心臓を鷲掴みにでもするような視線だった。 相手をものとも思わぬ目は、冷徹などという秤で量れぬそれであることは明らかだ。 この男は既に、人という在り方を捨てているのではないか、と感じた彼女の震えを止めたのは、『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)の放った声。 全身から立ち上る意思を形にして打ち出された言葉は、何より重いそれであることは明らかだった。 「お前らは私達が倒す! 今、ここで!」 「……アークも、本当に」 暇なんだね、と呆れたような声と共に、ジルウェットは印を結ぶ。 ●結果など求めず ジルウェットの左腕に降りた符が、ざわりと膨れ上がる。一体が二体に、二体が四体に、ねずみ算式に膨れ上がる黒の驟雨は、誰を見るでもなくエリスへと殺到した。 「悪いな!屋台骨は死守させてもらう!」 「ちょうどいい、狙いは君だった」 その前に立ちはだかり、彼女を守らんとした快の耳朶を打ったのは、耳を疑う一言だった。 アークの守護神、などと評される彼を狙いに行くなど尋常な考えではない。仮に先手を打って貶めても、それが正しく機能するとは言えないというのに、だ。 「ぬかるなよ。集団戦をしようと思うな」 鳥葬――というのはこういう状況なのか。 相手の体、何処を問わず啄む鴉の符の乱舞を切り飛ばすように、フィクサードの一人の間合いに飛び込んだのは舞姫だ。 ある程度の警戒はしていたようだが、それでも彼らにこの少女の初撃を避ける気骨があるわけもなし。 光を引いて放たれた連撃は、確実に集団の一人に痛撃と虚を与え、狂わせたのは確かである。 「ウザっ! だけど知ったこっちゃないね……死ね!」 「ああ、俺も知ったことじゃないよ。それじゃ、死ぬどころかミミズ腫れにもなりやしない」 司朗の言葉を聞きながら、ジルウェットは僅かに身を引いただけで彼の斬風脚をかわす。 言葉の重みは他のリベリスタと比較しても遜色ない。だが、それですら詰まらぬことと切って捨てるであろうジルウェットの表情は揺るがない。 「ならば……全部纏めて撃ち抜くのみよ!」 そんな彼の余裕を打ち砕く為に放たれたのは、ミュゼーヌのマスケットから放たれた無数の弾丸。多くのフィクサードを纏めて吹き飛ばそうとするその制圧力は、確かに相手を問うことはない。 「チクショウ、厄介な連中だぜアークってなァ!」 悲鳴にも似た憎まれ口を叩く男は、そんな状況下にあっても冷静に刃を振るう。遠間からの変幻攻撃は、快でもエリスでもなく綺沙羅を狙いに行く。 続けざまに放たれた幾ばくかの遠距離攻撃も、また同じ。或いは彼ら全体を狙うか、の何れか。銃弾の雨が降れば、応射と共にその意思を奪いにくる挑発が耳に煩い。 「キサはこの後、予約が入ってるの」 「ゆっくりしていけばいい、メインディッシュ『は』逃げない。それとも、長引いたら君の想いは逃げるのか?」 困ったものだ、と振りかかる氷雨を払い、ジルウェットは笑う。攻撃の焦点に据えられた綺沙羅にとって、この状況は煩わしいことこの上ない。 たかだか数名のフィクサードに狙いを定められた程度で崩れる自分でないにしろ、この勢いは面倒だというのは素人にもわかる。 ただ、戦うだけならば彼らはとても優秀だ。何故なら彼らは考えない、逃げない、躊躇わない。 『リーダー』の在り方に何も言わずついていくことを選択して尚一個の神経である。 「あんた達も行きたいところがあるんだろーけど、残念ながら行くのはわたし達」 「……そうさな。アニキ以外は一人だって行く気はねえぜ。ここで死んだっていい。だから」 「……回復役は……いない。恐らくは……全員、攻撃要員」 「あら、随分と堅実なのね。自分の死に様にだけは正直なのかしら?」 「君達ほどじゃない」 壱也の強力な一撃を盾を以て迎え入れ、大きく弾かれながらも部下の男の吐く言葉は強い。 自らの死を何ら恐れていないかのように、笑いながら死にに来ている。 回復役などいない。それを読み取ったエリスの声には信じがたい、という波長が交じる。エナーシアは、それを好機と捉える。下手な駆け引きを考えず、ただ制圧するだけならば容易いにも程がある。 現に、フィクサード側は大きな被害を受けているにも関わらず、リベリスタ側はまだ戦うに苦ですらない。 このまま相手を倒すことは恐らく容易い――そこまで楽観的でないにせよ、リベリスタ達は予感していた。 だからこそ、フィクサード達は冗談でもなんでもなく、『その策』を取ったのだ。 「君達は俺の目的を知っている。俺のことを知っている。だから、理解してくれている、と思っていいのかな」 「お前の汚い生き様なんて理解したくもない。理解してもらえると思ってるのか? 卑劣漢」 「悲しいね、本当に」 何が悲しいのか。そんな事を声にも出さず、ジルウェットは再び印を切る。 影が、奔る。……たった一つの対象へ。 ●逃げもせず、臆せず、考えず 「っぐゥ……!」 「お前は――」 「ああ。卑怯で卑劣で臆病で、そんな俺がどうした?」 「うん、面倒くさい。部下と一緒に死ね」 明らかに、エリスを――否、彼女を『庇った、快』をジルウェットは狙ったのだ。 戦いに対する常道であり、彼らが取る優先的行動だ。 だからこそ、守りを考えないフィクサード達は狙いに来た。ジルウェットは、それを当然のように行った。 遠距離を主としたスキルが乱舞する。目の前に肉薄する舞姫や壱也が一人ずつ確実に『処理』しようと、ミュゼーヌ、エナーシア、綺沙羅の面制圧を受けようと、彼らは対象を絞り、蓄積させることを第一に動いていた。 対象は快であり、綺沙羅である。倒し易い相手を制圧するのではなく、敢えて強敵と目す者へと目を向けた彼らの統制は、恐らく忠誠心などというつまらない原理だけではあるまい。 自分に目もくれない、というのは癪だと、司朗は感じる。面倒だからいいのかもしれない、とも思う。 だが、容赦をする気は無い。 「命を天秤に風見を始めるといい」 「君がそれを言うのかい。滑稽だと、感じはしないか」 綺沙羅が、乱戦の間隙を縫って閃光弾をほうりこむ。 彼女の技倆をして外す一撃ではなく、それを避ける余力のあるフィクサードなど、範囲内には居はしない。 だから、もう。彼らは少しずつ追い詰められつつあったのだ。 「街に居る全ての為に、こんな卑劣なものは許さない!」 たとえ、全てが居なくとも。人ではない何かが、万が一が、起きてからでは遅いのだと舞姫は叫ぶ。 卑劣と、罵る。だから、彼女の怒りが多少のものではないのは当然の如く感じられた。 戦況は確実に自分たちに傾いた。多少、快と綺沙羅の深手が気になるところだが、エリスの回復力を以てすれば恐れるものでもない。運命の加護に頼れば、それすら懸念にはならないだろう。 「分かってないな、君達は本当に」 いっそ、それだけで、その一言だけで切り捨ててしまってもよかったろう。 敗北を認めて逃げ出し、背を打たれるのもよかったろう。 だが、蒔いた種が芽吹くのを見るのが義務でもある。 だから、サレンダーは許されない。彼らの全力が届くより、疾く、もっと疾く。 「いい風って追い風のことかな? なら」 「いいや、向かい風さ。思い切り強い」 だから飛ぶのにはとてもいい。 胸を銃弾が穿つ直前に、思い切り嫌味ったらしく笑ってみせた。 それが、人としてのジルウェットの、最後の言葉だった。 みし、と骨が砕ける音。筋肉が軋む音。人という殻を割る音。 「その醜い姿、いっそ哀れに思えるわね……良いわ、化物退治なら気が楽よ」 「うわぁお、巨大化とか特撮のヤラレ役怪人みたいだね」 男性にしては矮躯だったジルウェットの体格が、体積にして二倍以上に膨れ上がる。広げられた翼の面積は広く、屋上に影を落とす。 鉤爪は最早、人ひとり軽々に串刺す杭のよう。 だが、そんな終わった姿だからこそ、司朗にもミュゼーヌにも、恐ろしくは感じられなかった。 何故なら、それはただの『負け惜しみ』にも、似て。 「来いよ……風見鶏狩りだっ!!」 ああ、そうだ。 舞姫は、この少女は。 ――それだけが言いたくて、ここにいるのか。 ●世界の終わりを夢見てる ジルウェットの鉤爪が、快を深々と貫いた。守りを以て戦いに赴いた彼を、本当に稚児の手遊びの如くにあっさりと。 抵抗する間も与えずに、二度。玩具を放るように吹き飛ばされた彼が、立ち上がれるかは未知数。フェイトは、既に加護を与えて久しい。 「風向き? いいわ、貴方の追い風に変えて上げるわ」 「わたし達には向かい風ぐらいが丁度いいからね!」 彼の翼をエナーシアが撃ち抜き、正面から壱也が切り込む。迎え撃つ姿勢になったジルウェットを、その影から飛び出したミュゼーヌの蹴りが打ちぬき、その顎を跳ね上げる。 猛攻を受け、暴虐を返す。ジルウェットの有様は正に突風だった。蓄積したダメージが限界を超え、綺沙羅が、更にはエナーシアが一度は膝を屈した。 だが、止まらない。止められるはずがない。 「ま、頑張るよ。メンドクサイけどさ」 更なる犠牲を、と吼える相手を前に、司朗は打ち込もうとした拳を敢えて引いた。バックステップでエリスの前に立ち、攻撃を受け止める。 すぐにでも限界が来てしまいそうだ。だから、後一秒でももたせ、一秒でも疾く倒してしまいたい。 何しろ、面倒だし、自分の熱血なんてダサいだけだから。 「此処で貴様を始末するわ……あちらでは、愛する人が戦っているのだから!」 「生かせる訳無いでしょう? 殺すのは私達なのだから」 遠吠えのように咆哮が響く。 鉤爪を撃ちぬかれ、胸元を蹴りこまれ、足を切り飛ばされた剛鳥は、ビルの屋上から落ちていく。 そこには何も残らない。 エリスは最初に気付いていたし、舞姫だって目を凝らせば理解できたことだが。 『毒』なんて――既に、彼の中に、消えていたのだから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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