●千葉炎上 『縞島組』『風紀委員会』『ストーン教団』『松戸研究所』『弦の民』『剣風組』。 六つのフィクサード組織が互いの理想実現のために新生『九美上興和会』として協力合併し、巨大なフィクサード組織に生まれ変わろうとしている。 彼等の秘密兵器、アーティファクト『モンタナコア』。 組織を完全なものとすべく狙う『セカンドコア』。 無限の未来を賭け、大きな戦いが始まろうとしていた。 ●刃傷劇場。刃の亡霊 蘭下鞭膳、というフィクサードがいた。 『浪人行』と呼ばれる技を持つスピード系の人斬りである。いや、人斬りだった。 その男はアークとの交戦で命を落とし、凶悪な技もろとも黄泉に送られた。粗野で乱暴、最後の最後まで人斬りの態度を崩さないフィクサードだった。 もう少し正確に言えば、黄泉に送られたのは蘭下鞭膳という存在のみ。 『浪人行』という技は、形を変えて受け継がれていた。 鞭膳が惨殺した者たち。その中でたまたま絶命せず、たまたまその技を覚えたものがいた。鞭膳は興味と戯れでその少女を傍に置いたという。いつでも命をとりに来いとばかりに刀を預けて。 その結果は散々なものだ。斬りかかれば鞭膳は容赦なく斬り返し、その度に死にかけた。心折れて逃亡すれば、追い詰められて斬られた。傷を癒しているときも斬られ、理由もなく斬られ。 その鞭膳がアークに倒されたと聞いたとき、最初に浮かんだのは喜びだった。これで斬られずにすむ、という安堵。 ――ここで彼女が武器を棄てて日常に戻れば、事は何も起きなかったのだろう。だが刃傷を日々とした生活は、精神を激しく歪めてしまっていた。 斬られるかも知れない日常。武器を棄てれない生活。その精神はネガティブに染まり、蘭下鞭膳とは違った形の『浪人行』の使い手が生まれる。 『九美上興和会』は彼女を捕らえるも『捨て駒』以上の使い道を思いつかず。 早々に『使い潰す』ためにあるアーティファクトを使用するに至った。 そのアーティファクトの名は『モンタナコア』。寿命や生命力を代償にして力を得る革醒増幅装置。 強化され狂化した『浪人行』が、野に放たれる。 ●アーク 「はっきり言おう。奴さんの陽動に乗ってくれ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタ達に向かって、そんなセリフをはいた。モニターに写るのはとある都市の地図。数多くのリベリスタが投入されていることを示すように、多くの矢印が行きかっている。 「奴さん……『九美上興和会』は複数のフィクサードが集まった複合組織(コングロマリット)だ。連中が完全に手を取り合えば、かなり大きなフィクサード組織になる」 『縞島組』『風紀委員会』『ストーン教団』『松戸研究所』『弦の民』『剣風組』――ディスプレイに並ぶ組織名。かつてアークと交戦してきた組織だ。 「連中はその組織力を強固にするために『セカンドコア』というアーティファクトを求めている。こいつは連中が持っている『モンタナコア』というアーティファクトとなんらかの関係があるらしい。 現在、フィクサードたちはそれぞれの土地に散らばっている。彼らが合流すれば厄介になるだろう。なので、今だ合流していないうちに彼らの位置を予知によって特定、急行し、直接撃破する作戦をとることとなった」 ここまで説明した後で伸暁は肩を竦めて、彼なりに事態を要約した。 「このまま連中の横暴を許せば、奴さんが合流すれば広大なエリアがフィクサードに落とされ、巨大組織の誕生を許してしまうってワケだ。アークはそれを防ぎたい。アンダスタン?」 幻想纏いに送られる『モンタナコア』の特製。寿命を削って革醒と強化を行なうという厄介な代物。そしてその効果を受けたフィクサードが、町で暴れているという。 「ターゲットの名前は土谷美弥子。元リベリスタだが、かつて蘭下鞭膳というフィクサードに挑み、その後消息不明だった。フィクサードとして帰ってくるとは驚きだね。 戦闘スタイルは小太刀による高速戦闘だ。もっとも、その実力は半端じゃない。蘭下鞭膳本人には劣るが彼の使っていた技を使えるらしい」 モニターに写し出されたのは、瞳の部分を包帯で巻いた年端も行かぬ少女だった。血塗られた二本の刀を手に、何かに怯えるように震えている。そしてその周りには、無数の刀傷。そして地に伏す人々。 「レディに近づくもの、周りにあるもの。全てを斬っている。姿を隠そうともしない派手な戦い方は合流までの時間稼ぎ、あるいは陽動だと判断できるが、無視もできない。そうだろう? 正義の味方。 現場では協力組織のリベリスタたちが手伝ってくれる。傷ついた人たちの治療や回収もおまえ達が来るまでには終わっている。何気にすることなく存分に戦ってくれ」 伸暁はリベリスタを送り出そうとする前に、指を鳴らしてその足を止めた。 「判っていると思うが本命は『九美上興和会』であって、このレディは本番前の前座戦(オープニングバトル)だ。こいつが終わったあとにメインバトルが待っている。まだ戦えるものは、コアチームに合流してもらうぜ。 ノ-プロブレム。おまえ達ならうまくやれる。ビリーブユー!」 ●大嘘刃傷劇。とある男の本音と嘘 「大丈夫か? ああ、俺なら大丈夫だ」 刀を持って震える少女に一人の男が語りかける。否、男が一人で喋っている。 「もうすぐアークが来る。そいつらを倒せば、監視に隙が生まれる。寿命とかいろいろ奪われたけど、戦いに紛れて逃げることができる」 少女は答えない。瞳を閉ざし、暗闇の中震えていた。 「この戦いが終わって逃げることができたら……二人で暮らさないか? 俺がおまえを守るから。過去の亡霊も、『九美上興和会』の追手も、アークの追撃も。全てからおまえを守るから」 それはきっと叶わぬ希望。『モンタナコア』に奪われた寿命は多く、幸せを掴むには残された時間は少ないだろう。 それでも。 「大丈夫。きっとうまくいく」 男は嘘をつく。刃傷を人情で消せると信じて。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月04日(日)00:04 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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● 「コイヨ土谷美弥子 私ガ相手ダ」 「美弥子よりも……速いだと!?」 真っ先に動いた『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)の動きに柳が驚きの声を上げる。先制を奪われるとは思っていなかった。出鼻を挫かれた形に歯軋みする。 土谷はリュミエールのナイフを小太刀で受け止める。四本の刃が矢次に交錯する。攻め、受け、払い、突き、反らし。打ち鳴らされる剣戟の音は強く、そして速い。光の狐と刃傷の踊り子が激しく打ち合う。 「この戦いは前座戦」 その打ち合いに滑り込むように『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)が迫る。青い翼を広げてその懐に入り、銀の短刀を抜く。土谷の攻撃を銀のガントレットで受け流しながら、生まれた隙をついてナイフを繰り出す。 「けど土谷さんと柳さんが新たに歩む為の……大事な戦いだ!」 「んー。嘘をついてでも女の子の面倒を見ようとする男子って言う構図でいいのかな?」 『ナルシス天使』平等 愛(BNE003951)は柳を見て、目を細める。男色家の愛にとってそういった男の様は萌える者があるらしい。見た目は十歳の少女だが、年齢は傘寿を超えている。柳の行動は『若い男が命を張っている』ようにみえた。 「頑張ってボクを萌えさせてくれよ」 「男の気まぐれに翻弄された少女と、その子を生かそうとする男、ね。ほんと、身勝手な男が多すぎ」 「綾兎。気持ちはわかるから、さ」 怒りの声を上げる『淋しがり屋の三月兎』神薙・綾兎(BNE00096)の頭を『花縡の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)が撫でてやる。遥紀は綾兎が怒っている理由を察し、その矛先を相手に向けさせる。 「……わかってるよ、おにーさん」 「ん。じゃあ頼むよ」 綾兎も判っている。今何をすべきか。遥紀は知っている。綾兎の怒りがその優しい心から来るものだと。 「さて、と……参りましょうか」 柳に向かう綾兎の横を通すように『白月抱き微睡む白猫』二階堂 杏子(BNE000447)の糸が飛ぶ。符術を展開しようとしていた柳の腕に糸が絡まり、その動きを拘束した。柳の動きを封じながら青と赤のオッドアイで柳を見る。 「今は其処で大人しくしていてもらえます?」 「休憩にはまだ早くてね。悪いがお断りだ」 「ま、穏やかに過ごさせたいって気持ち、分からないでも無いかな」 リベリスタに指示を出しながら『STYLE ZERO』伊吹 マコト(BNE003900)が柳に声をかける。『万華鏡』で得た情報を見る限り、彼ら二人の経緯はけして報われたものではない。だから穏やかな最期を求める気持ちは、理解できる。 「アークの指令でね。悪いがこれ以上被害を増やすわけにはいかない」 「ええ。ここで止めさせていただきます」 『リグレット・レイン』斬原 龍雨(BNE003879)は拳を握って土谷の懐に入る。相手は寿命を削って自らを強化した者たち。得た力もそうだが、龍雨が最も懸念するのはその覚悟と状況。あとがない彼らは、死に物狂いで来るだろう。 「自分の持てる全てを尽くして食い止めるのみだ」 「その通りで御座る。とはいえ……やりにくいでござるなぁ」 体に鈴をつけて『女好き』李 腕鍛(BNE002775)が頭をかく。愛の近くに立ち、庇うような構えを取りながら柳を見た。女性を騙す男。腕鍛からすれば、それは許せない存在だ。だけどその嘘が土谷を救うのなら? 「……うーん。拙者は彼女を助ける事が出来るのでござろうか?」 「できるできないじゃない。救うんだ」 オーラで紅く光る剣を抜き、『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)が土谷に迫る。相手が高速で動くのなら、こっちはこっちが持つ最速の技で対応する。振りかぶった剣が風の刃を生み、土谷を傷つける。 「アークのリベリスタだ。土谷美弥子、柳清二。アークの名において、お前たちを『保護』する!」 「『保護』だと。どういうことだリベリスタ!」 風斗の宣言に柳が疑念の声を上げる。ここまでの被害を出した自分たちを『保護』するだと。 「言葉どおりの意味だ。大人しく投降するなら危害は――」 「悪いがアークに……神秘の世界に保護されるつもりはない。彼女を苛んだのは神秘の世界だからな」 柳はその勧告を拒否する。土谷も『リベリスタ』の名に反応して体を硬くする。かつて自分が名乗っていた名前。襲い掛かり切り伏せた者達の名称。 「まだ、まだリベリスタが、いるの……? こっちに、こないで……」 「美弥子、落ち着け……!」 柳の言葉は怯える土谷に届かない。恐怖が刃を加速し、爆ぜるようにあたりを切り刻む。 ――浪人行。 かつて蘭下鞭膳が使った人斬りの技。それがリベリスタと柳を切り刻む。 ● 「柳……さん? あれ、私、柳さんを」 「大丈夫だ。いつもどおり俺は避けた……! だから構うな!」 土谷に切られたわき腹を押さえながら柳は土谷に語りかける。苦痛をこらえ、やさしい嘘をつく『大嘘人情劇』。 「……あなた。バカでしょう」 柳に糸を絡めながら杏子は呟く。土谷を知る柳は土谷の攻撃圏内に入らないと思っていた。なのに、なんだこの茶番は。 「違いない。そっちからすれば倒しやすくなっていいんじゃないか?」 「ええ。杏子はフィクサードなんか心の底から嫌いなんですよ」 どんな理由であれ自分の能力を悪事に使った時点で、許されるべきではない。元リベリスタ? 事情? 理由? そんなモノ聞き無くもない。杏子の心には怒りも殺意が確かに湧いていた。 (――今回だけです、この殺意に蓋をして目を瞑るのは) 杏子は柳の動きを封じる為に糸を放つ。その気になれば魔力で惨殺できるのに。 「ねぇ。あんたにとって、彼女はどんな存在?」 綾兎は柳を足止めしながら問いかける。ナイフで牽制しながら、問いかける。 「あんた達が望むなら、アークで保護できると思うよ。彼女が武器を手放せないっていうなら、何か対策はとらないといけないかもしれないけど、さ」 「神秘の世界から遠ざかりたいから、アークに頼る気はない。……何故だ? なぜ俺達の保護を願う?」 柳の問いかけに綾兎は遥紀のほうを見て、彼に聞こえないように柳に呟く。 「大切な人を生かしたいって思ったあんたの気持ちがわかるか気がしたから、じゃだめ?」 「……俺の気持ちはそんな立派なものじゃない。彼女を九美上興和会に巻き込んだ贖罪だ」 沈痛な気持ちで内心を吐露する柳。 「いいじゃないのさ、贖罪。ボク、さらに萌えたね」 「気に食わないでござるが、それでも彼女を守ろうとするのは見事でござる」 腕鍛に庇われながら愛が柳に話しかける。腕鍛も飛んでくる土谷の攻撃を受け流しながら言葉をつむぐ。 「柳ちゃん、1つ聞かせて欲しいんだけど……プランはあるんだよね? ボク等を倒した後のプラン」 教える理由はない、とばかりに愛の問いに口をつむぐ。だがその表情が策はあることを示していた。 「リベリスタを信用して死んだふりしてやられるのも手だとボクは思うんだよ。ここにいる皆、柳ちゃん達を殺したくないって言ってる人なんだよ」 「それを信用しろ、というのか? 一か八かにも程がある」 「そのために拙者たちは頑張ってるでござるよ」 柳は腕鍛のいうことも理解できる。リベリスタの動きは土谷を殺す動きではないことを。 「柳。拙者からの頼みでござる。彼女を騙し続けて欲しいのでござる」 腕鍛は口を噤んだ柳に言葉をかける。表情一つ変えずに柳はその言葉を受け止める。 「彼女はあんたと一緒なら幸せでござろう。彼女を、人間の女性として死なせてやれるのも柳、貴様しかいないんじゃないかと拙者は思うでござる」 「……逆だ。俺がいたから彼女は九美上興和会の騒乱に巻き込まれ――」 「それでも、でござるよ。彼女の幸せのために、嘘を続けてほしいでござる」 「ええ。捩れた運命は戻せない」 言葉を続けたのは土谷と交戦を続ける亘だ。土谷の幻影に振り回されることなく、的確に土谷を追い込んでいる。 「でも短くても二人が一緒に過ごし幸せが生まれる可能性があるなら、自分はそれに命を賭け全力で挑みます。 自分は貴方達の今を終わらせ新たな道を拓きたい……大嘘を現実にする為に戦います!」 「ええ。二人とも生かして連れて帰ります」 流れる水のように構え、烈火の拳で土谷を穿つ。龍雨は無表情に土谷を見ながらステップを刻む。土谷から放たれる刃から、龍雨の拳を受ける動きから、龍雨は土谷の思いを感じる。これは人を切る殺人者の動きではない。 (確かに凄まじい腕前だが、嘆きにも似た想いが伝わってくる。彼女は刃傷沙汰に怯える子供のようだ) 切ることも切られることも望まない精神が『刃傷劇場』と呼ばれる人斬りになるとは皮肉なことか。龍雨はその刃を折るべく、拳を振るう。 「殺されかけて、捕えられ、挙句の果てには寿命を奪われ捨て駒とはね」 ため息をつきながらマコトは土谷の体力をスキャンする。『モンタナコア』で強化された力は、確かに革醒者の域を超えていた。その結果得た寿命の低下も、否応無しに知ることになる。 二人は永くない。そのつらい現実を受け止めながら、マコトは言葉を続ける。二人に幸せな最期を迎えさせる為に。 「問題ない。そのまま攻めるんだ。土谷の体力が危なくなったら教えるから」 「二人で過ごす最期。例え二人が血濡れていても、壊す権利は誰にも無いんだ」 遥紀はリベリスタを癒しながら土谷を見る。止まることなく剣戟を繰り出す土谷。刃傷に怯え、逃げるように戦う少女。拳を握って遥紀は声を出す。 「土谷、其処まで君を脅かした痛苦は易々と癒える事は無いだろう。けれど君は、本当に痛みだけしか感じていないのかい?」 『刃傷劇場』は答えない。耳のいい彼女は、その言葉は聞こえているのに。ただ一瞬だけ、その動きが止まる。 「君を護り、命を削り、唯想う暖かな想いは傍には無かったか?」 投げかけられた言葉に首を振る土谷。遥紀の言葉を否定しているのか、過去を振り払おうとしているのか。それは判らない。 「音デ感ジルのナラ、音ヨリ速く走ればイイ」 右に。左に。上に。下に。リュミエールは土谷の聴覚を惑わすように多彩に動き回り、ナイフを振るう。土谷の動きは速い。アークのリベリスタでも五指にはいるだろう速度をもつリュミエールにつかず離れずの動きができるのだから。土谷は刃で踊るように狐を攻め立てる。速度重視、二刀の攻め。似たタイプの二人は、しかし決定的に違う部分があった。 「命削って戦う理由はアルのか? ナイノナラのんびり生きてみろヨ。コタツで蜜柑やオデン食べるとか」 「うああああ!」 柔軟なリュミエールと、ただ尖って攻める土谷。余裕のない土谷は攻勢だが、それゆえに隙も生まれる。 「鞭膳め……死んだ後まで祟るか!」 蘭下鞭膳を知る風斗は、怒りの声を上げる。一撃自体は鞭膳に比べれば劣るだろう。それは鞭膳が明確な殺意を持って放つからだ。怯える彼女にその殺意はない。だが、その動きは鞭膳よりも速い。 「土谷、この戦いが最後だ。この戦いが終わったら、お前はもう二度と戦わなくていい! だから!」 風斗は大剣を振りかぶる。持ち主ののオーラに応じて光る剣は、風斗の思いを受けたとばかりに赤く輝く。振り下ろされた剣は真空刃を生み出し、土谷を捕らえた。 「こない、で。……痛いのは、イヤ……!」 土谷の刃はまだ止まらない。 しかしその終りは確実に近づいていた。 ● 土谷と柳の戦術は『土谷がそのスピードで敵陣に突っ込んで、混乱を生んでそのまま逃げ切る』というものだ。柳の術でさらに相手の動きを遅くし、圧倒的なスピードで決着をつける。土谷の刃は柳も傷つけるが、『モンタナコア』で強化された肉体なら耐えられる。 だけどその出だしはリュミエールに潰される。次善策の柳の結界縛も、 「光ヲ捕らえラレルト、思ウナヨ」 「止まるわけには行きません!」 リュミエールと亘はその速度で柳が刻んだ九字の捕縛を掻い潜り、の動きのまま土谷に攻め続ける。牽制用に作った影の人形も綾兎に潰された。 リベリスタがこのまま一気呵成に攻め続ければ、このまま押し切っていただろう。 「プランシフト。土谷の体力が危険領域だ」 「行くよ!」 土谷の体力をスキャンしていたマコトの指示に従い、遥紀が聖なる光を掌に集める。それは命を奪わないやさしい攻撃。それと同時にリベリスタも土谷を『殺さない』ように動き始める。風斗は遥紀を庇い、龍雨は土谷の前で防御の構えを取った。 「本気か!? 御人好しにも程があるぞ、アーク!」 「全くです。不本意ですが、その意見には同意します」 杏子の放つ糸を避けながら、驚きの声を上げる柳。怜悧な瞳で柳を見ながら、杏子が言葉を返す。 彼らの動きに迷いはなかった。あえて低ダメージの攻撃で土谷を抑えながら、遥紀はゆっくりと集中する。 ――そこに隙が生まれる。 聖なる光は命を奪わないという特性もあるが、当てにくいという欠点もある。そのためしっかりと狙わなければならない。ましてや土谷はダメージで追い込まれている。生き残る為に、エネルギー消費など構ってられない。全力で最大の技を解き放つ。 浪人行。戦場を駆ける刃の音。それがリベリスタ達の体力を奪っていく。 「……大切な人の前でかっこい悪いとこ、見せられないでしょ? 意地でもおきるっての」 「これは誰かを救うための傷だ。問題ない」 土谷と切り結んでいた綾兎と風斗が、その刃の嵐に耐え切れず、膝をつく。運命を燃やして立ち上がり、破界器を構えなおした。 「拙者が守るでござるから、一気にいくでござるよ愛殿」 「聖神よ。ボクを愛しているのなら、吹いてよファンファーレ!」 腕鍛に守られた愛が懸命に皆を癒していくが、土谷はそれ以上の速度で駆け巡る。だが、癒し手の一人である遥紀が回復をとめたこともあり、リベリスタの傷は少しずつ増えてくる。 「彼女を救えるなら……運命だってもっていけ!」 土谷の刃に傷つけられながら、その動きを止めようと力を込める亘。運命を削り意識を保ちながら、力を込める。パワーに劣る亘では完全に動きを止めることはできなかったが、一瞬だけ動きが止まった。 「人斬りの刀、折らせてもらいます。――覚悟」 呼気と共に龍雨が土谷の刃の前に出る。狂刃に運命を削られるが、亘が生んだ一瞬の減速を逃さずその腕を掴んだ。力の流れを理解し、その流れにそっと力を加えるように龍雨は体を動かす。その威力、雪崩の如く激しく。土谷の体は地面に叩きつけられた。 「君の隣に居る人は、其の想いを捧げる唯一だ」 龍雨に投げられた隙を逃さず、遥紀が聖なる光を放つ。この隙を逃せば次のチャンスは遠いだろう。放たれた光は四方に爆ぜ、土谷を通り抜けた。その攻撃は命を奪うことなく、ただ土谷の意識だけを奪いとる。 「剣に逃げるな、『視ろ』。 君が見なければならないものは過去じゃない。未来だ」 遥紀の視界の先には、土谷を守るため砕身する柳の姿。その言葉が届いただろうか。ただ倒れる土谷の顔は、少し穏やかになった気がする。 歪んだ人斬りの刃は、カランと地に堕ちた。 ● 「降参だ。好きにしな」 土谷が倒れると同時に、柳は腰を下ろす。彼自身には攻撃手段がないということもあるが、リベリスタが自分たちを殺す気がないと知って、脱力したこともある。 「やれやれ。給料以上の仕事は疲れるね。正直、碌なことがない」 マコトは柳の幸福を確認すると、リベリスタ達の傷を確認する。思っていた以上にダメージは酷いが、それでも死者が出なかったのはうまくいった証拠だろう。――敵である柳や土谷を含めて。 「へぇ、生きてたんだ。運がいいね」 「綾兎」 「……わかってるよ、おにーさん」 素直に喜びを示さない綾兎を遥紀が軽くたしなめる。こんなやり取りができるのも、作戦がうまくいったからだ。 「此処にいるリベリスタの面々がお人好しで良かったですね。……そうじゃなきゃ、裏切り者に情けなどかけませんから」 杏子は柳を冷たく見下ろし、小さく言葉を吐く。最後は小さく、聞こえないように。 「ナカナカ楽シカッタゼ」 リュミエールは土谷の持っていた小太刀を拾い上げ、ため息をつく。高速の戦いで磨耗した小太刀の刃こぼれは酷く、修復も難しいだろう。 「もう彼女に刀は必要ないでしょう。貴方は柳さんを信じその眼で彼を見てあげてください」 リハリビに時間は必要だ。あるいはその時間さえも彼女たちにはないのかもしれない。しかしもう人斬りの刃を持つ必要はないはずだ。亘は倒れた土谷に向かって優しく語りかけた。 「追っ手の心配はしなくていい。九美上興和会は、今日滅びる」 風斗は愛剣を納め、遠くを見る。幕張某所、九美上興和会ビル。仲間が戦う決戦の場所。そこをつぶせば、二人を追うものはなくなる。それで全て解決だ。 「拙者はいかないでござる。2人の護衛として残るでござる」 腕鍛は柳と土谷の護衛のために、残ることを決意した。今この瞬間に九美上興和会の監視が襲い掛からないとも限らない。 「任せます。では皆さん行きましょう」 龍雨が腕鍛の言葉に応じて、立ち上がる。他のリベリスタもそれぞれの態度でそれに答え、それぞれの戦いに向かって走り出す。 人情と刃傷の前座は、ここに幕が下りる。 舞台に狂刃はなく、亡霊はもう踊らない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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