●知覚不能 それは目覚め、そして活動を開始する。人がそれの狩場に踏み込むのは久方ぶりだ。 入って来たのは数名の男達である。つなぎを着ている所を見ると何らかの工事の関係者か。 けれどそれにとって、彼らが何者であるかなどどうでも良い。それにとっての判断基準は2つ。 喰えるか、喰えないか。そして、強いか、弱いか。弱肉強食は世の理。 番は愚か同族すら持たないそれにとって、対峙する生物は全てこの2つの基準で分類すれば事足りた。 「げぇ、何だこれ」 入って来た男の1人が懐中電灯を向け、声を上げる。そこに散らばって居るのは半端に貪られ腐敗した獣の骨だ。 大きさは中型の犬位の物から、鼠サイズに到るまで様々。彼らにとっての不運は、それ以上先を照らさなかった事。 その先には人間の子供の骨すら転がっていた。しかし彼らは気付かない。 “がり” いや、それは果たして不運だったのだろうか、或いは幸運だったのかもしれない。 何か固い物を踏む様な音。それが今照らした幾つかの骨の内の1つを踏み抜く音だと気付き、懐中電灯を巡らせる。 それが戦闘に立つ男にとって、最期の行動になった。ビュッ、っと聞こえたのは吹き出す血飛沫の音。 「――――あ?」 視界が回っていた。ぐるんぐるんと、回って、落ちる。その声に他の男達が懐中電灯を―― 向けた、死んだ。向ける、死んだ。瞬く。懐中電灯が照らしたのは計3つの首無し死体と地面へ落ちる頭部。この間凡そ10秒。 「…………え?」 最後尾に居た男が頬を引き攣らせる。照らして限定された視界で展開される意味の分からない光景。 懐中電灯を落とす。思わず後ろに下がる。口をマスクで塞いでいたから気付かなかった。腐臭に混じって香るすえた様な獣の匂い。 「ひ――」 悲鳴は漏れなかった。変わりにひゅー、ひゅーと気道が何か言っている。男の視界もやはり回り、廻り、マワリ、落ちる。 4人が死ぬまで30秒。瞬く間、と言うには長過ぎるだろう。けれど何かが何かを殺すには余りに短か過ぎた。 何より脅威なのが、誰も自分が何をどうされ何に殺されたのか知覚出来なかったと言う異常。 それはそう――“この未来を見ている彼女”にすら―― ●猛獣注意 「………………」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がブリーフィングルームに立つ。既に見慣れたその光景。 けれど珍しくと言うべきか、普段からそれほど饒舌ではない彼女にあって更にその沈黙は長かった。長過ぎた。 何をどう説明して良いのか分からない。一言で言えばその沈黙の正体とは、困惑であり、焦りだった。 「……多分、アザーバイド」 長い長い静寂を割って、ぽつりと漏らした言葉がそれ。カレイドシステムは未来を演算し、解析する。 そしてそれを情報として抽出するが、それを知覚するのはあくまでイヴである。フォーチュナの力は予知でしかない。 逆説、人間が知覚し得ない情報を知覚する事は出来ない。演算結果はそれをアザーバイドだと告げている。 けれど、彼女には“何も見えなかった” 「……とても凶暴で、多分知性は野生動物並。肉体的に弱い者から襲う。瞬発力も凄いみたい」 告げる情報は余りに断片的。元より多弁ではない物の、伝えるべき情報はきちんと伝えるイヴにしては、余りに言葉が重い。 「……あと、見えない、聞こえない」 最後に付け加えられた言葉が全てを示している。それは絶望的な追加情報だった。 「このアザーバイドの身体は……多分この世界と色域値が違う。動く時に上げる音域も違う」 居ないわけではない。音を鳴らさない訳でもない。けれど人の目には見えない。人の耳には聞こえない。 果たしてそんな物にどうやって対処しろと言うのか。餓えた狼の前に目隠ししながら出て行く様な物である。 「……熱感知か、獣並の聴覚、嗅覚でなら知覚出来ると思う」 この様なケースは始めてなのか、言葉に焦りが滲む。有り体に言って、イヴはおろおろしていた。勿論それでは困る。 「あと、多分遠距離攻撃は持ってない」 となれば、わざと攻撃を受け捕まえる事が叶えば――と、生まれた希望を返す刃で叩き折る。 「でも、肉体的に弱い者から襲う」 大事な事だから2回言ったらしい。基準は純粋な体力の総量か。捕まえる為のリスクは、決して少なくない。 「居ない訳じゃない、見えなくて、聞こえないだけ。だから、他にも方法はあるかも」 そこは人間の叡智の出番である。色々見ているとは言えあくまで小学生のイヴにそれ以上求めるのは刻と言う物だろう。 集められたリベリスタ達含め少しの間黙り込む。何を相手にするか分からない、と言うのは途方も無いマイナス要因だ。 「……あ」 何かに気付いた様にイヴが顔を上げる。ここでまさかの逆転劇が、否。世の中そこまで甘く無い。 「多分、ここまで特殊なタイプなら、体力はそこまでない……と、いいな」 まさかの希望的観測だった。しかし何にせよ、敵性アザーバイドは倒さない事には始まらない。 重い空気を纏わりつかせながら、ブリーフィングルームを後にするリベリスタに続く言葉こそ非情である。 「あと、場所は下水道。リンクチャンネルは閉じてる。倒すしかない」 下水道ではそもそもの視覚が当てにならないじゃないか、と空気は更にどんよりと澱むも、 何をどうしようが倒すしかないとイヴからのありがたいアドバイスである。 「時間もあんまりない。今すぐ出て欲しい。逃げられると……次いつ捕捉出来るか分からない」 四方八方塞がれて、敵は断片情報の繋ぎ合わせ。此処に文字通り、命賭けの悪戦苦闘が幕を開ける。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:弓月 蒼 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月09日(木)22:54 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●見えざるを視る いつも通りの下水工事。意気揚々とやって来た彼らは思いもかけない障害に対面していた。 「ここに猛獣が逃げ込んだ。我々が捕獲、あるいは駆除するので立ち入り禁止だ」 ず、っと一歩踏み出し、『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)が凛然と告げる。 「退け、王の前に立つとは不敬であろう」 腕組みをした『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)が昂然と場に君臨する。 威圧感抜群の二人に、つなぎの男達が目に見えて一歩退く。どう見ても堅気には見えない。 しかし彼らも職業人である。リーダー格と思しき中年の男が勇気を残らず奮い立たせ抗弁する。 「ま、待った。俺達も仕事で来て、うぐっ」 「ごめんなさい、僕達も遊びじゃないんです」 いつ間にか背後に忍び寄っていた源 カイ(BNE000446)の当身が炸裂。 演舞もかくやと言う綺麗な決まり方をしてリーダー沈没。流石にそこまでされて怯えない一般人は居ない。 す、すいませんでしたー!と言う声と共に3人がリーダーを引っぱって立ち去る。 しかして彼らが命拾いしたと気付く事は無いだろうが、その背後に広がるのは下水道と言う名の魔窟。 「……さて、行こうか」 幕間に構っている余裕は無い。幾多の戦いを経験したとて緊張の色は隠せない。何せ敵は未知である。 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が懐中電灯を点けて暗闇を照らす。 ゲルト、カイ、刃紅郎もまたそれぞれに、後に続く8人もその殆どが光源を持つと有っては、闇など有って無きが如しである。 人口の光が煌々と苔生し汚れた下水の外壁を照らす。余りの光量に動物すら寄ってくる気配は無い。 「透明で音も無しかぁ……こんなけったいな敵さんは初めてやわ」 『もみ婆』草臥 紅葉(BNE001702)が呟く。それが今回の仕事の焦点と言っても良い。 ミミズクのビーストハーフらしく方々に暗視のかかった眼を向けるも、その視界には何も写らない。 「毎度毎度他人の庭で好き放題やってくれるな」 一方中衛を歩く『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)もまたメタルフレームで覆われた眼差しを向ける。 彼女にとっては元より明度の高い低い等関係が無い。熱感知と視力の強化を併用した結果、下水はその全貌を丸裸にされていた。 であれば、それに気付くのは必然である。先頭を歩く刃紅郎がその異臭に気付くより更に前。 見えていた。歩いてくる異様な像。二足歩行に見える、頭部は鰐に近いだろうか、そしてトカゲの尾。 何より特徴的なのはその両手。蟷螂を連想する様な薄い鎌。1対のそれがしなやかに揺れている。 ゆっくりと、歩む姿には警戒の色も無く、何と表現して良いのか分からない。 強いて言うなら両手に鎌を付けた二足恐竜とでも言うべきそれが近付いて来る。 「だが、どうやら私の目はごまかせん様だ……居た。前方直線上だ」 声に応じ、『生き人形』アシュレイ・セルマ・オールストレーム(BNE002429)が意識を集中、思考加速を開始する。 『Scarface』真咲・菫(BNE002278)がスローイングダガーを抜き射抜く方向を見定め注意を研ぎ澄ます。 カイが自身の自動治癒能力を活性し、ゲルトと快が硬く護りを固める――も、敵は掛かって来ない。 「……え、来てるの?来てないの?」 『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)が恐怖を押し殺した声で呟く。彼女には見えない、聞こえない。 けれど奇妙に空いた間が、問いを生んだ。『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)が瞬きながら答える。 「気付いて、無いみたい」 自身の存在が気付かれている事に気付いていない。それはある種の僥倖だったと言えるだろう。 知覚されない事を前提に生きてきた獣は、自身が先に捕捉されると言う可能性に至らない。 瞳の見ている世界はそれほどまでの神秘であった、結果、奇襲を得意とする獣はその御株を奪われる。 「刃紅郎、俺の正面真っ直ぐだ」 「ふん、所詮は畜生風情。精々我を楽しませてみせろ!」 ゲルトの上げた指示通りに、踏み込み、放たれるオーラを纏った剣の連撃。 刃紅郎の腕に確かな手応えが返る。そして明らかに強まる獣の臭気。 誰にも聞こえない、けれど『Last Smile』ケイマ F レステリオール(BNE001605)だけは察知する。 空気の揺れ。音とも言えない音。吼えている、予期せぬ痛みと思いがけぬ獲物からの反撃に。 「……効いてるみたいや、多分」 直感する。獣は、攻撃されると言う事に慣れていない。 「こんなのが何匹も増えたら人類絶滅の危機じゃ。今のうちにせん滅してしまうのじゃ」 メアリ・ラングストン(BNE000075)が手に胡椒瓶を携え呟く。この好機、生かさない手は無い。 「抹殺しなければ……わたしのだいじなぺんぎんがおそわれるまえに」 菫の手からカラーボールが宙を舞う。それを獣の手の鎌が切り裂く姿が、熱を感知する彼女の目には、見えた。 ●狩る者、狩られる者 彩られた鎌。誰の目にもそれが明らかである以上、その迷彩の半分は無効化されたと言って良い。 そしてそれらを隠すべき下水道の暗闇が、電灯の光に切り裂かれた今、後に残されたのは純然たる血戦である。 「守る事が俺の仕事だ。ここは、通さん」 「させない、割り込ませて貰う」 両手の鎌が曲線を描いて舞う。前衛を庇っているゲルト、ブロックに跳び出した快から激しく血飛沫が舞う。 威力こそ抑え目ではある物の、その奇妙に柔らかく、かつ鋭い鎌は防具の継ぎ目を縫う様に身体へ直接潜り込む。 その上例え姿が捕捉出来ていてもその瞬発力は瞠目するべき物があった。一手が済んだと思えば二手目が始まっている。 続けざまの連続攻撃で瞬く間に二人が自らの血に濡れる。傷は決して浅くない。しかし、それはこうも言える。 「問題ない。全て癒せば強いも弱いも関係ない」 「妾の前で負傷者など許さぬのじゃ、ヒャッハー、治りたい奴はいるかー!」 瞳とメアリ、2人の癒し手が戦線が崩れる事を許さない。重なり響き合う天使の歌声が前衛が被った傷跡を癒していく。 「こ、恐いけど、恐くないわっ!」 「サポートならお手の物ってね」 加えてニニギアとケイマが残った僅かな怪我を治し切れば、前衛の防備たるや元通りである。 更には面接着で天井に張り付くカイ、下水に浸ることも厭わなかった快が居る為に 獣の動線は見事に阻害されていた。体力的に劣るだろう後衛に踏み込む事が適わない。 「敵は滅ぼす、どんな形状だろうと同じ事よ」 恵梨香のマジックアローが獣の体躯に突き刺さる。返り血とカラーボールでその姿は半ば見えたに等しい。 (「当たれ」じゃない、「当てる」のだ。私なら…出来る) 獣の極端に緩急激しい同行を観察し続けていたアシュレイが真っ直ぐにパワースタッフを構える。 集中力は最大限加速している。獣が動いた後のこれ以上無い絶好機。織り上げた気糸が完璧な形で狙いを射止める。 再びケイマにだけ聞こえる無音の咆哮。だが今度は事情が違う。アシュレイ突き刺したのは足だ。 「当たった、畳み掛けるなら今や」 片足の負傷は直接攻撃の精度に関わってくる。更には菫が逆の足を狙い、1$硬貨を射抜く精密さでダガーを投げる。 「ぺんぎんたちの為に、死んで」 流石にそんな理由では死ねないと思ったか否か、獣が始めて回避運動を取る。 足を傷付けられて漸く、立場の反転を理解したと言うべきか。既に獣は狩る側に、無い。 「何のことはない、血が出るなら殺せる。見えぬ物が見える様になったなら、より容易くな!」 刃紅郎のオーララッシュが再び大気を振るわせ、豪快な連撃が叩き込まれる。 見えずとも見える。聞こえずともそこに在る。それが実感として伝われば文字通り、恐れるに足りない。 「妾の胡椒を受けてみるのじゃ!」 メアリが投げた胡椒瓶が割れ、周囲に粉末がばら撒かれる。滞空時間は僅か、けれどそこには獣の進路がはっきり浮き上がる。 「快さん、そっち行きました!」 「了解、これだけ見えていれば――」 これを逃がさずカイの合図。すぐさま快のジャスティスキャノンが獣を射抜く。その衝撃で獣が退く。 ――そう、退いた。後退った、紛れも無く。 それは追い詰められた動物の本能的な反応である。脅威に対し、強者に対し、獣は退く。 行為としては敗北を認めたに等しい。リベリスタ達が獣であれば、縄張りを奪う位で済んだのかもしれない。 けれど彼らの狙いは不可視の獣、アザーバイドの命である、であれば踏み込む。退いた空間を0とする。 故事に曰く、窮鼠猫を噛む。例えその意味が分かっていたと、しても。 “生きたい、生きたい、生きたい、生きたい” リーディングを試みたアシュレイには見えた。それは原始的な生への渇望。 欲求が敵意へ、敵意が力へと変換される様子が。全身を総毛立たせる程に膨れ上がった殺気に、思わず声を上げる。 「――ッ! ハルトマン! 源! 新田! ヤバイのが来る!!」 呼ばれた3人が身構える。けれどその内に在ってゲルトだけは前へと一歩足を踏み出す。 「おおおおおおおッ!!」 獣の姿が霞の様に掻き消える。少なくとも、熱感知を持たない者にはその姿は見えず。 見えていた者にすら、何をされたかは視えなかった。 マジックディフェンサーが反応しては飛び交う、その隙間からゲルトの昂ぶった声だけが聞こえる。 ただ一度だけの最高速。その間に放たれた連撃は実に前衛を纏めて切り刻んだ。必殺の鋭さを以って。 視界が一瞬前との色彩の差に激しく明滅する。光に包まれていた筈の世界は余りに赤かった。 壁も、天井も、床も、全てが全て鮮やかな血で染まっている。音は無い。声も無い。命の気配が、無い。 聞こえていた声が収束しゆっくりと静寂が訪れる。それは正しく死の舞踏。 舞い終えた時には、誰も彼もが死神の鎌から逃れられない。 「……あ、わ、わわっ」 天井から落ちたカイが流されそうになるのをニニギアが捕まえる。その体躯は見事にズタズタだ。 「酷い……あんまりや」 余りの惨状に、紅葉が息を呑む。それほどまでに重ねられたダメージは深刻だ。 けれど、終わっていない。生きている。薄く開いた眼には意志の光が灯り、そして己が力で大地に立つ。 「役割を……こんな、位で……簡単に、倒れる訳にはいきません」 途切れ途切れに口にして、自らの血を噛み締めて立ち上がる。 負った傷の重みによろめきつつも、運命に牙を立て死神に抗ってみせる。 そしれ見ればそれは、彼だけでは、ない。 「……鋼鉄の砦が……陥ちる訳には、いかんだろう」 「俺の力は……誰かの夢を守る力……だから、まだ!」 耐え切っていた。ほんの数秒呼吸が止まった気すらしたものの、防御に長ける彼らは尚、崩折れない。 不沈の城塞は此処に在り、明日を紡ぐ力は決して潰えない。 そして誰もが知っていた。獣の放った必殺の一撃は同時に、痛恨の隙をも生む事を。 「良くぞ耐えた、それでこそ我の戦友に相応しい!」 「灰は灰に、塵は塵に――ここがお前の終点だ」 「これで、終わり」 刃紅郎が激励と共に放った渾身の一撃が片腕の鎌を斬り飛ばす。 アシュレイと菫が、交互に放った気糸とダガーが動きの止まった獣の脚部を射抜く。 返り血に染まった獣が悲痛な仕草で口腔を開く。咆哮の姿がこの時漸く全員の目に、見えた。 ●形無き獣に故は無く 「これで……やったか」 今にも折れそうな膝を奮い立たせ、快が息を継ぎながらそう問うも、返答は無い。獣は未だ立っている。 けれど動かない。地下の空間を噎せ返る程の血臭で染め上げた獣は、それ以上動かない。 「……死んでるよ、息してない」 暫くの観察の末、耳を澄ませていたケイマが答える。それを証明する様に快が獣に触れる。 爬虫類特有のぬめりとした感触が返る。手を離しても動きは無い。 尻尾がバランサーの役割でも果たしているのか、死して尚、倒れないまま。 「この子にも、帰る場所があったんかねぇ」 「こ、わ、恐かったぁ……」 紅葉がしみじみと語りながら息を吐く。普段からおっとり気質で通している彼女に血塗れの戦場は刺激が強く。 前半殆ど獣の動きが見えていなかったニニギアは瞳を涙で湿らせて本音を吐く。 「どうでも良いわ、早くシャワーを浴びたい」 この場所は、死の香りが強過ぎると。僅かに顔を顰める恵梨香が告げると、大きな位の嘆息が聞こえた。 「ともあれ、皆何とか無事な様だな」 前衛に立ち続け、護り続けた自負があればこそ、ゲルトの言葉には安堵が満ちる。 そしてそれは誰にも共通する想いである。あと一枚盾が薄ければ。あと一手敵の手数が多ければ。 大惨事になってもおかしくはなかった。殆ど被害も無く切り抜けられたのは緻密なほどの準備の賜物である。 「認めたくないが……この目に助けられたか」 何より、こちらから奇襲を仕掛けられたと言う点は大きい。 けれどその立役者である瞳はと言うと、憎々しげにバイザーじみた自らの上顔部を触り溜息を吐 く。 (例え何を利用しようと、取り戻して見せる、全てを) それが彼女の取り戻したい物に直結していれば、尚更。不本意ではあれ、手段を選んでは居られない。 「不可視の狩猟者。こんな生き物が居るってどんな世界なんでしょうね」 血に濡れたカイのぽつりと漏れた呟きに、ふと思い出した様にメアリが追随する。 「それならこの後、透明になる狩猟生物の映画でも借りると言うのはどうかのー」 遅い上に悪趣味な提案をあっけらかんとしつつも、その表情は達成感と緊張の反動で自然と緩む。 口々に生き残った事実を噛み締める仲間達を見回し、快が引率の先生の如く声を上げる。 「それじゃあ、後の事はアークに任せて、帰ろうか」 その声に次々と帰路を取るリベリスタ達。最後になった菫が、立ったままの獣を見返し呟いた。 それはきっと、勝利すればこそふと過ぎった、ペンギン好きな彼女なりのちょっとした感傷。 「人様の世界に顔なんか出さなければ……幸せだったかもしれないね」 形無き獣に故は無く。何故と問うても応えは無い。けれど今は勝利を噛み締めて、狩人達は家路を辿る。 弱肉強食は世の理。であればこれは紛れも無く、強者達の凱旋である。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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