●千葉炎上 『縞島組』『風紀委員会』『ストーン教団』『松戸研究所』『弦の民』『剣風組』。 六つのフィクサード組織が互いの理想実現のために新生『九美上興和会』として協力合併し、巨大なフィクサード組織に生まれ変わろうとしている。 彼等の秘密兵器、アーティファクト『モンタナコア』。 組織を完全なものとすべく狙う『セカンドコア』。 無限の未来を賭け、大きな戦いが始まろうとしていた。 ● ――千葉郊外の住宅地。 車一つ通らない無人の道路を、全長三メートルほどの人型兵器が闊歩していた。 分厚い装甲に覆われた鋼の巨人が、地響きを立てて進む。両腕と一体化した大きな盾の表面に、十字のマークがはっきりと見えた。 動きはやや鈍重だが、いかにも頑丈そうだ。生半可な攻撃は、まったく寄せ付けまい。 そして、巨大な盾の両腕――防御性能はもちろん、あれを『武器』として用いてきた場合の対策も考えねばならないだろう。超重量から繰り出される打撃は、それだけでも充分に脅威だ。 人型兵器につき従うのは、五名のフィクサード。うち、三名が銃を装備している。 おそらく、全員がメタルフレームだろう。 一体の人型兵器と五名のフィクサードは、誰も言葉を交わすことなく、整然と歩を進める。 その姿は、心までも機械と化した兵士の如く映った。 ● 「……とまあ、これが今回戦ってもらう相手なわけだが。 ちょっと状況が込み入ってるもんで、順に説明する。よく聞いてくれ」 正面モニターの電源を落とした『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は、そう前置きしてファイルに束ねた資料を開く。 「現在、千葉で六つのフィクサード組織が互いの理想実現のために合併し、巨大な組織になろうとしている」 彼らはまず、切り札であるアーティファクトを用いて組織の兵力拡大を図った。『モンタナコア』と呼ばれるそのアーティファクトは、寿命や生命力を代償にフィクサードを革醒あるいは強化する効果を持ち、多くのフィクサード小隊がこれにより兵力を整えている。 さらに、彼らは組織を完全なものにするべく、同種の効果を持つ『セカンドコア』を求めて行動を開始した。 「放っておけば、広大なエリアがフィクサード達に落とされ、巨大組織の誕生を許してしまうことになる。 この野望を阻止するため、ここで何としても連中を叩いておかなければならない」 現状、フィクサード達は各地に分散している。 彼らを合流させてしまうと厄介なことになるため、その前にそれぞれの位置を予知により特定し、急行して直接撃破する――という作戦だ。 「皆に向かってもらうのは、千葉郊外の住宅地になる。 敵は道路を真っ直ぐ進んでるから、地形的に戦い難いってことはないと思う。 一般人についても、協力組織のリベリスタ達が人払いをかけているから、基本的には心配要らないはずなんだが――」 数史はそこで言葉を区切ると、僅かに眉を寄せて続ける。 「……どうにも、嫌な予感がするんだよな。 彼らを信用しないわけじゃないが、万が一ってこともある。 仮に現場に取り残された一般人がいた場合は、巻き込まれないよう保護してほしい」 続いて、黒髪黒翼のフォーチュナは敵戦力の説明を始めた。 「敵は『FMF-B(フルメタルフレームブーステッド)』が一人と、メタルフレームのフィクサードが五人。 FMF-B、先の映像に出てた人型兵器っぽい奴だが……あいつも、厳密にはフィクサードだ。 アーティファクトの機械化浸食で、記憶や感情は吹っ飛んでるみたいだがな」 それは、六つのフィクサード組織の一つ、フィクサードの神秘的進化を研究する『松戸研究所』が所有する『フルメタルフレーム』という技術で生まれたものだ。 フィクサードにアーティファクトを浸食させ、より強力な戦士とするFMF計画は、今や完全な兵器化計画へと成り果ててしまった。人格や記憶を失った彼らは、もはや『人』と呼べるのか。 「確認されたFMF-Bは見ての通り、両腕と一体化した巨大な二つの盾と、分厚い装甲を備えている。 防御力はもちろん、近接戦闘における破壊力も侮れないだろう。 詳しくはわからんが、おそらくはクロスイージスと同様の戦い方をしてくると推測される」 無論、敵はFMF-Bだけではない。他にスターサジタリーが三名、ホーリーメイガスとクロスイージスが各一名ずつ、FMF-Bと連携して牙を剥いてくるだろう。 「これだけでも厄介だが、こいつら六人に勝てばそれで終わりってわけじゃない。 この後には、最後の仕上げとして『九美上興和会』の撃破任務が控えている。 フィクサード達を倒した後、残存戦力はただちに現場に向かい、コアチームと合流してほしい。 決して楽な戦いじゃあないが――どうか、よろしく頼む」 数史は顔を上げると、気をつけて行ってきてくれ、とリベリスタ達に告げた。 ● 学生と思しき二人の青年が、人の気配が消えた街を歩いていた。 「――なあ、何だか様子おかしくねえ?」 「誰も居ないってどういうことだよ」 二日酔いで痛む頭を押さえつつ、周囲を見渡す。 彼らは昨晩アパートで飲み過ぎてしまい、今日は講義をサボったのだったが――熟睡から覚めて部屋を出たタイミングが、どうにも悪すぎた。 なぜなら。その時間、道路では全長三メートルの人型兵器が地響きを立てて進んでいたのだから。 「お、おい……何だよ、あれ」 道路を渡る途中、青年の一人が右手から近付いてくる『それ』を指差す。 重装甲の人型兵器が、進路を遮る『障害』を道路上に認めたのは、ほぼ同時だった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月04日(日)00:01 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 人通りの絶えた道路を、八人のリベリスタが走る。 小奇麗な住宅地も、人や車の姿がなければゴーストタウンに等しい。かえって不気味にも思えるが、住民の安全を考えれば人払いも致し方ないだろう。 この先では、全長三メートルの人型兵器が五人のフィクサードを連れて驀進しているのだから。 全力で駆けながら、『機械仕掛けの戦乙女』ミーシャ・レガート・ワイズマン(BNE002999)が眉を顰める。 「フルメタルフレーム……まさか量産されてるなんて……!?」 アーティファクトの機械化浸食で強化を果たしたフィクサード『フルメタルフレーム』達と何度か刃を交えてきた彼女にとって、その事実は戦慄を禁じえないものだった。 まして、此度の相手は『FMF-B(フルメタルフレーム・ブーステッド)』、体どころか心までも機械に侵され、元の人格を失ってしまった人間兵器だ。 (――鎌ヶ谷禍也、お前だけは許さない!!) 一連の事件を起こした六つのフィクサード組織の一つ『松戸研究所』の現所長の名を思い浮かべ、ミーシャは拳を握り締める。 その時、千里眼で偵察を行っていた『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)が声を上げた。 「ありゃ、ちょっとやばいかな?」 前方の敵影を確認した後、念のため周辺を探っていたのだが――学生と思しき青年が二人、現場に向かって歩いている。このままでは、敵との鉢合わせは避けられない。 「数史の悪い予感、当たっちまったみたいっすね」 報告を聞き、『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)が溜め息をつく。この手の勘は、悪いことに限って的中するものだ。 「ヤレヤレ、面倒な事この上ないっすけど、放置したら寝覚めが悪い」 無関係の一般人を巻き込むことは、決してあってはならない。リベリスタ達はその場で方針を固め、予測される迎撃地点へと急いだ。 敵の後背を突くべく、『バトルアジテーター』朱鴉・詩人(BNE003814)とともに疾走する『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)が、聖別された二丁の銃を構える。 「――さあ、『お祈り』を始めましょう」 彼女の胸で、信仰の証たるロザリオが揺れた。 ● 機械の体を持つフィクサード達が、舗装された道路を真っ直ぐ進む。 『進路上に障害を確認』 前方に立ち竦む二人の学生を認めたFMF-Bが、無機質な声で告げた。 彼が排除命令に移ろうとしたその時、リベリスタ達が到着する。速度で圧倒する彼らは、瞬く間に陣形を展開し、敵を前後から挟撃した。 汚れた白衣の裾を靡かせ、詩人が口元に不敵な笑みを浮かべる。 「さぁて、最初から最後までアゲて行きますよ。ノリノリだぜ!」 彼は攻撃のための効率動作を共有すると、自身を含むリベリスタ達の戦闘力を大幅に向上させた。直後、リリが愛用の二丁拳銃――「十戒」と「Dies irae(怒りの日)」の銃口を天に向ける。 「撃ち合いましょう。どちらの道が正しいのか示す時です」 祈りと裁きの魔弾が空を貫き、燃え盛る炎の矢がフィクサードの頭上へと降り注いだ。 「ヴァルキリーシフトスタートっ!」 敵の側面側に布陣したミーシャが、仲間達の背に小さな光の翼を与える。詩人やリリと三人で背後に回る案もあったが、それではFMF-Bの巨体に邪魔されて全員に支援が届かないと彼女は判断した。 前方に立ったリベリスタのうち、フラウと『似非侠客』高藤 奈々子(BNE003304)の二人が学生達の守りにつく。奈々子が“幻想纏い”からトラックをダウンロードするのを目の当たりにして、彼らは思わず目を丸くした。 「学生諸君は逃げろー! 単位を取れー!」 改造小銃を携えた『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)が、退避を促しながら自らの動体視力を強化する。後に続いた翔護は敵の射線を遮るように学生らの前に立つと、無数の弾丸をばら撒いてフィクサード達を牽制した。 「おん・きりきり・ばさら・ばさり・ぶりつ・まんだまんだ・うんぱった……」 ミーシャとともに側面についた『下策士』門真 螢衣(BNE001036)が、御幣を模った“ツキタツフナド”を携えて素早く印を結ぶ。強固な防御結界が、リベリスタ達を守るべく展開された。 『――アーク所属のリベリスタと確認。排除』 「「「了解」」」 FMF-Bの号令に従い、フィクサード達が一斉に側面を向く。彼らは前後に分かれた二班の双方を視界に捉えると、やや後退して陣形を整えた。 『モードチェンジ・《聖戦(ジハード)》』 巨大な二つの盾から、十字の加護が解き放たれる。ホーリーメイガスと思われるフィクサードが光の翼を生み出すと同時に、その前に立った一人が攻撃を反射する防御のオーラで己の全身を包んだ。おそらく、彼がクロスイージスだろう。 後衛に立った三人のスターサジタリーが、銃の引き金を次々に絞る。撃ち放たれた光弾がリリの肩口を立て続けに抉ったが、彼女は揺らぐことなく二丁の銃を構え直した。 真っ向からの撃ち合いは元より覚悟の上――邪悪を滅する神の魔弾として、傷つくことは恐れない。 「放っておくとウザそうだし、止めるに限るでしょ」 詩人が神秘の閃光弾を投擲し、射撃手のうち二人の動きを封じる。“Missionary&Doggy”を両腕で構え、ユウが空を見据えた。 「今日の私は燃えてますよー!」 消音器で抑制された銃声とともに、一発の弾丸が雲を捉える。 天から落ちる無数の火矢がフィクサードを的確に射抜いていく中、フラウと奈々子は学生らの退避に動いていた。 「……どうなってるんだ、これ!?」 「言いたいことはあると思うっすけど、此処が危険だって事は分かるっすよね?」 事情を説明している暇はない。フラウは彼らの疑問を封じつつ、まず一人をトラックの荷台に押し込む。奈々子が、もう一人の腕を引いた。 「悪いけど夢でも映画でもないのよ。死にたくないなら乗りなさい!」 トラックを守りながらフィクサードに応戦する翔護が、肩越しに笑いかける。 「この位、浦安じゃよくあるだろ? お帰りはあっちね」 彼が示したのは、協力組織のリベリスタがいる東の方向。 「安心して。私達は専門家よ」 翔護の指示を受け取った奈々子はトラックに学生を放り込むと、運転席に飛び乗りながら千里眼の男に口笛を吹いた。 アクセルを踏み、ハンドルを大きく切って転回する。 三人を乗せたトラックは、東に向かって勢い良く走り出した。 ● FMF-Bのカメラ・アイが、閃光弾でかく乱を行う詩人の姿を捉える。重装甲の胸元に集束した光が、十字のビーム砲となって彼を貫いた。 ほぼ同時、ただ一人麻痺を免れた射撃手が流星の弾丸を撃ち放つ。戦場を離脱する奈々子のトラックを背に庇いつつ、リベリスタ達は反撃に出た。 「さーてと、テメー等の相手はうち等がする。余所見してっと怪我じゃ済まないっすよ?」 二振りのナイフを両手で操り、フラウがホーリーメイガスに接近する。閃く音速の刃を、間に割り込んだクロスイージスが受け止めた。 確かな手応えとともに、淀みなき斬撃がクロスイージスの肌を裂く。しかし、敵の動きが止まることはなかった。 「こいつに麻痺は効かないみたいっすね」 跳ね返されたダメージに眉を寄せつつ、フラウが軽く舌打ちする。回復の軸を担うホーリーメイガスを真っ先に潰しておきたいが、クロスイージスを引き剥がさない限りは難しいだろう。 「相手が硬い? 搦め手が通じない? いいじゃないですか」 即座に開き直ったユウが、三人の射撃手を自らの射程ギリギリに捉えて小銃の引き金を絞る。 「――それならば、押し通るまでです!」 スターサジタリー同士、どちらが先に倒れるかの火力勝負。 決して打たれ強い方ではないが、自らに宿る運命を味方につければ少しの間は耐えられる筈だ。 ユウの火矢が、前から後ろからフィクサード達に襲いかかる。極限の集中で感覚を研ぎ澄ませたリリの瞳が、敵の動きをコマ送りに映した。 「天より来たれ、等しく降り注げ、裁きの炎よ。目の前の邪悪を焼き尽くさん」 僅かにタイミングをずらして空を撃ち抜き、逃れ得ぬ烈火で一帯を包む。クロスイージスに狙いを定めたミーシャが、彼の胸元に弾丸を叩き込んだ。 「補給を先に叩くのは戦争の基本です」 ホーリーメイガスの支援を早めに断ち切るためにも、盾は削っておきたい。 リベリスタ達の火力を脅威と判断したか、FMF-Bがその巨体を壁に射撃手の一人を庇った。敵の攻撃が途切れた隙に、光の翼を羽ばたかせた螢衣がリリのもとに翔ける。できれば遮蔽を確保したいが、回復役として戦場を動き回る以上はそうも言っていられない。 「おん・ころころせんだり・まとげいに・そわか」 放たれた符が、傷ついたリリを癒す。敵を蜂の巣にせんと激しい連続射撃を浴びせていく翔護が、FMF-Bに呼びかけた。 「キミは……十倉ちゃんかな? マッド博士んとこの」 それは、かつての事件で出会ったフルメタルフレームの名前。 間近に見たFMF-Bは、外装も、戦い方も、彼の知る“十倉”とは遠くかけ離れてはいたが――。 「オレ達のことボコボコにしたの、覚えてる?」 もしかしたらという思いで問うも、答えは無い。やはり、別人か。 それは同時に、FMF計画の被検体がさらに数を増やしていた、という事実をも示していた。 自らの意思で機械化浸食を受け入れたのか、松戸研究所に強制されたのか、そこまでは分からないが。 敵方のホーリーメイガスが、聖神の息吹でフィクサード達の体力を取り戻す。 体勢を立て直した射撃手たちは光の翼を操って射線を確保すると、神秘の弾丸を一斉に撒き散らした。 直撃を受けたミーシャと詩人が、運命の加護で自らの意識を繋ぐ。 後にも戦いが控えているとはいえ、出し惜しみをするつもりはさらさら無い。 「手を抜いて勝てるほど甘い相手じゃねぇし、慢心もしていないのでね――」 戦場全体に視野を広げた詩人の瞳に、巨大な盾で翔護に殴りかかるFMF-Bの姿が映った。 超重をのせた一撃が、翔護の全身を砕く。運命を代償に立ち上がった彼の背を、螢衣が癒しの符で支えた。 「……なかなかに厳しいですね」 やはり、回復の手が足りない。このままでは、先に数を減らされて戦線崩壊の危険すらある。 螢衣が額に汗を浮かべた時、爆走するトラックが戦場に戻ってきた。 「ヒューッ! 高藤ちゃん!」 一般人を逃がし終えた奈々子が、「待たせたわね」と運転席から飛び降りる。 彼女は身軽に着地すると、銃を構えて見得を切った。 「情熱持たぬ鉄屑を撃つ事に、躊躇い微塵も無し。 ――情に生きる者としてその鋼と性根、叩き直してくれる!」 役者が揃ったのを見て、フラウが鋭く宙を蹴る。目にも留まらぬ速さで射撃手との距離を詰めたソードミラージュは、音速を纏う刃で一人の動きを縛った。 「そぅら、色々とガラ空きだっぜ!」 すかさず、詩人が使い古した解剖用メスを投じる。魔弾と化した刃が、傷ついた射撃手を地に沈めた。 一人目を倒して勢いづいたリベリスタ達は、手を緩めることなく猛攻を加えていく。 射撃手を纏めて叩くなら、FMF-Bが攻勢に出た今がチャンスだ。 回復の暇を与えぬよう、惜しげもなく業火の矢を浴びせるユウが二人目を撃ち倒した直後、リリが二丁の銃を構える。 「――この身は信じる教えと護るべき人々の為に。十字の加護よあれ」 その唇が囁くは、祈りにして誓い。 蒼き軌跡を描く流星が、最後に残ったスターサジタリーに止めを刺した。 ● 射撃手の全滅を見届け、螢衣が一枚の符を取り出して式を打つ。 「我が符より、一つ出て抉れ鴉」 たちまち姿を現した鴉の式神が、ホーリーメイガスを庇い続けるクロスイージスの片目を食い破った。 怒りに染まった盾が螢衣に接近した隙を突いて、リベリスタ達は癒し手に攻撃を集中させる。FMF-Bに庇う暇を与えず、フラウがホーリーメイガスに肉迫した。 倍速で振るわれた音速の刃が、フィクサード達から回復の要を奪い去る。一手で接敵されぬようにFMF-Bから距離を置いた後衛たちが、クロスイージスに狙いを定めた。 「戦いとは、常に先を読んで行うもの――!」 ミーシャが、驚異的な早撃ちで目標の大腿部を撃ち抜く。続けざまに放たれた翔護の弾丸が、堅牢を誇るクロスイージスを仕留めた。 ――あとは、FMF-Bを残すのみ。 「フルメタルフレーム、ねぇ。アーティファクトとの融合って割と聞くんだけど……」 人型兵器と化した鋼の巨体を眼鏡越しに見やり、詩人が口を開く。彼の傍らにいた螢衣が、控えめに答えた。 「彼らは、何を求めて自らの人間として残った体を機械に変えてしまったのでしょうか」 二人のやり取りを聞くリリの胸に、強い怒りが湧き上がる。 あれは、六道の生み出した狂気の産物。 アーティファクトによる人為的な機械化浸食など、正気の沙汰とは思えない。 かの組織は、どれだけ神秘と生命に対する冒涜を繰り返せば気が済むのか。 神の御心と人の道に背く行為を、決して許すわけにはいかない――。 銃のグリップを強く握り締めるリリの耳に、面白くなさそうな詩人の声が届いた。 「ただ兵器を造る計画ならヒトガタを取る必要もなかろうに。美しくねぇなぁ」 バラして晒して整えてやんよ、と言ってメスを投擲する彼に続き、ユウが小銃を構える。 「――にしてもまったく、機械仕掛けの十字軍とは嫌な冗談ですよ」 背の翼を羽ばたかせた彼女は空中で制止すると、FMF-Bの大盾に刻まれた十字をいつになく厳しい表情で見据えた。 「信心深い方じゃあないですが、その御印はそんなトコにあっていい物じゃない」 火矢の炎に焼かれるFMF-Bを、リリが呪いの魔弾で追い撃つ。 至近距離から繰り出された超重の盾が、奈々子を激しく打ち据えた。 しかし、彼女は一歩も退かない。意志を秘めた光で鋼の巨体を撃ち、真っ直ぐに問いかける。 「わざわざ盾に十字を描いたのは何故? 感情がないならただの無骨な盾でいいのに!」 答えは無い。それでも、あの十字こそが“彼”の失われた意思の名残に思えてならなかった。 「いくぜ、レ……高藤ちゃん!」 奈々子の後方から、翔護が声を響かせる。片手で銃を構えた彼は、FMF-Bに狙いを定めて引き金を絞った。 「真打ちからの――パニッシュ☆」 落ちる硬貨をも捉える精密な射撃が、カメラ・アイを過たずに貫く。 FMF-Bを殺さずに素体を回収する――それが、彼の願い。 リベリスタの集中砲火を受けてなお、FMF-Bは健在だった。 その防御力を前に攻めあぐねたミーシャが、意を決して距離を詰める。 「これだけ堅牢でも……脆い部分はあります! そこっ!!」 片刃のナイフが装甲の隙間を穿った直後、大盾の一撃が少女の意識を奪った。 不慮のオーバーキルを嫌うがゆえに、どうしてもリベリスタ側は攻め手を緩めざるを得ない。 長期化する戦いは、前衛たちへのダメージを積み重ねていく。 運命を削り、螢衣の癒しで体勢を立て直したフラウが、口中にこみ上げる血を吐き出した。 「フェイトだろうが何だろうが賭けてやるっすよ」 FMF-Bの命に興味はないが、仲間が望むならそのために動く。 それで味方が全滅の危機に陥るなら、また話は別だが――。 速度に最適化した二刀が、分厚い装甲を抉る。未だ戦意を失わぬFMF-Bが、十字の大盾で奈々子を打った。 「……悪いけど、ハートを燃やさない奴に負けるつもりはないわ」 幸運の加護を収めた胸ポケットに手を当て、奈々子は再び立ち上がる。とうに運命を差し出した彼女を支えるものは、今もこの身に宿る菊と杯の誇り(ドラマ)。 満身創痍の体に喝を入れ、狼頭の護人は自らの意志を光に変えて放つ。 「自分の気持ちくらい思い出しなさい、私と同じ護り手なら!」 その光条が盾に刻まれた十字を貫いた時――勝敗は決した。 ● ボロボロになった装甲を剥がし、翔護がFMF-Bの素体を引きずり出す。 彼を元に戻せる保証はないが、生きている限り、まだ望みはある筈だ。 「SHOGOっぽくないけどね。今日はオレ、他人様のウィッシュ☆ も持ってきちゃったから」 ――だから、今回だけは諦める訳にはいかない。 FMF-Bの素体を興味深げに観察する詩人の傍らで、ユウが肩を竦める。 「機械におかされる……って、なんだかイヤンな響きですねー」 螢衣が、僅かに視線を伏せた。 「彼らにも、勝つための理由があったはずです。 自我がなくなってしまったら、それが叶っても喜べないのに」 もちろん、フィクサード達の野望は叩き潰さなければならないが――。 負傷者の応急処置を手早く終えた奈々子が、協力組織のリベリスタに連絡を取る。 どうやら、件の学生たちは無事に保護したようだ。FMF-Bの素体も、ひとまず彼らに託せば良いだろうか。 それを聞き、詩人が大きな声を上げる。 「さーて、一戦やらかした後ですが。やらなきゃならん事が残ってますよにゃー」 「他の連中が待ってる。行くっすよ?」 出発を促すフラウの隣で、気絶から覚めたミーシャが大きく頷いた。 目を瞑ったリリが、胸に手を当てて祈りを捧げる。 「主よ、どうか我等にお力を。罪無き人々にご加護を」 六道はいずれ滅ぼすが――まずは、この騒ぎを解決するのが先だ。 それぞれの思いを胸に、リベリスタ達は次なる戦場に向かう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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