●酔っ払いの町 繁華街。普段は活気にみち溢れている、夜の町だが、今日に限ってはその様子が少々異なっていた。 道行く人々の顔は皆赤く、目もトロンとしていて蕩け切っているように見える。 道の端で寝ている者もいる。路地裏や往来の真中で殴り合いの喧嘩をしているものもいる。元々治安がいいとはいえないエリアであるため、このような状況になることも珍しくないのだが、今夜に限っては普段より格段に、なにかがおかしい。 この状況を引き越したのは、一人の男だった。 性格には、一人の男が誤って飲み込んでしまった異世界の生物のせいだ。 その生物、所謂アザ―バイドよ呼ばれるものだが、少々変わった性質を持っている。 自身の意思を持たず、またその身体は液体のよう。強い刺激臭を放つそれは、まるで酒のようだ。 そんな酒状のアザ―バイドを、男は誤って飲んでしまったのだ。 その結果、男の意識は混濁し、その身体から放たれるアルコールに似た匂いは、近くに居た者たちをも片っ端から泥酔状態に陥らせていった。 酒のようだが、正確には酒ではないそのアザ―バイドは、通称(酒精)と呼ばれている。 また、酒精にはもう一つ、厄介な能力がある。 それは、酒精を飲んだ者の肉体の性能を、超人的なレベルまで上昇させる、というものだ。 男は、繁華街の屋根の上や看板の上を、まるで猿かサーカス団員のような身軽さでもって、跳び回る。 或いは……。 酔拳のようだ、とも。 ●泥酔ドリーマー。 「酒気に似た香りを振りまき、人々を泥酔状態に追い込むアザ―バイドが現れた」 やれやれと言った様子で『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が大きなため息を吐いた。 「幸い、というかなんというか、酒精によって泥酔状態にされた者は一晩ほどで酔いが覚めるみたい。だけど、酒精を直接飲んだ男に関しては、其の限りではない」 現在、男は繁華街をあっちへこっちへと、自由気ままに動きまわっているらしい。 そして、行く先々で人々を泥酔状態に追い込んでいるのだ。 「現在男は酒精によって興奮している状態にある。一度意識を刈り取って眠らせてしまえば、そのうち酒精の効果は消えるでしょう」 酒精自体は、すでに男の体内で分解され、消えている。送り返す必要も、退治する必要もない。また、ディメンションホールも消失してしまった後だ。 「酒精によって泥酔している間の記憶は、起きたら無くなっている筈。のこるのは、酷い二日酔いだけ。今のところ、酒精による混乱は繁華街だけで収まっているけれど、このまま男を野放しにしていると、そうも言ってられない」 収集が付かなくなる前に、男を捕まえて被害が広がらないようにして欲しい。 そうイヴは口にして、モニターを切り替える。 モニターに映ったのは、よれよれのスーツを着た、サラリーマン風の男だった。 「酒精の効果は、E能力を持つものには効かないから」 一般人には、効果覿面であるが……。 「なお、男の身体能力はかなり向上している。酔拳、というのを知っている?」 酔えば酔うほど強くなる、というあれである。 「素早く、予測不能な動きで持って、現在繁華街を逃走中。発見後、戦闘行為に発展する場合も考えられるけど、殺したりしないで」 あくまで、アザ―バイドの影響を受けただけの一般人である。 「また、通路だけでなく建物の屋根や塀の上なんかも、自由にふらふら移動しているから。探す時は気をつけてね」 繁華街の広さは、半径1キロ程度である。 「あと、繁華街の酔っ払いに絡まれる可能性もあるから」 気をつけて。 そう言って、イヴはリベリスタ達を送りだした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月30日(火)22:31 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●繁華街と酔っ払い……。 喧騒と熱気、アルコールと煙草の煙。ざわつく耳触りな喧騒と、荒っぽい怒鳴り声。普段と変わらない、酔っ払いたちの聖地、繁華街だが、今夜だけはどこか様子が違う。 道行くモノの顔は、みな赤らんでいて、おまけに目の焦点は合っていない。足取りもフラフラと覚束ないもので、どこからどう見ても、明らかな泥酔状態。 これはひどい、と誰かが呟いた。 「それじゃあ、あたしはつぶつぶとペアで捜索ッス」 繁華街の地図を片手に『レッツゴー!インヤンマスター』九曜 計都(BNE003026)が、隣に並ぶ金髪少女『つぶつぶ』津布理 瞑(BNE003104)と共に、他の仲間達から離れていく。 「屋根の上から探そうよ。自由であればあるほど楽しいんだ」 そう提案する瞑に、計都は困ったような苦笑いを浮かべる。 そんな2人を見送って、今度は『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)が頭を掻いた。 「普段ならそこらのバーとか居酒屋に入っていくんだが……」 チラ、と視線を『ムエタイリアリスト』滝沢 美虎(BNE003973)へと落とす。 「ま、一緒じゃ無理だな」 年端もいかぬ美虎を見て、うん、と一つ頷いた。当の美虎は「酒精ってなんだろう?」と、今回の騒乱を引き起こしたアザ―バイドについて、考えているようだ。 「酒の、正確に言えば酒みたいに飲めるアザーバイドですか」 迷惑極まりない、と呟いて『親不知』秋月・仁身(BNE004092)は『むしろぴよこが本体?』アウラ―ル・オーバル(BNE001406)と共に、雑踏の中へ消えていく。 「早く捕まえなきゃな」 そう独りごちたアウラールは、そっと屋根の上へと視線をあげた。今回のターゲットであるアザ―バイド(酒精)に泥酔させられた男は、人間離れした身体能力でもって、この街中を縦横無尽に駆けまわっているらしい。道路だけではなく、屋根の上や、建物の窓枠なども、今の男にとっては十分な足場となりえるのである。 「せっかく繁華街に来たのに遊んでいけないなんてなー」 仲間達が全員、離れていったのを確認して『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)が近くのバーへと視線をやった。そんな牙緑を見て『幸福の残滓』レオポルト・フォン・ミュンヒハウゼン(BNE004096)が薄く微笑む。 「酒は楽しく飲むもの。粛々と、早急に処理させて頂きましょうか」 現在、酒精に酔わされた男は、この繁華街のどこかをふらふらと移動中らしい。それを捕まえ、混乱が広がることを防ぐのが、今回の彼らの役目である。 辺りを歩く酔っ払い達も、酒精と男の影響を受けて泥酔しているようだ。喧嘩や、言い合い、道端で寝ている者の姿も目に入る。 悪い酔い方の見本市のような繁華街を見渡して、牙緑は大きなため息を吐いたのだった。 ●泥酔ドリーマー 捜索を開始してから、十数分。辺りに漂うアルコールの香りは、時間が経過する毎に強くなっているような気さえする。それに比例して、悪酔いした者の姿も、多くなっていく。 例えば……。 「よう、こんな時間に子供連れてなにやってんだよ?」 なんて、アウラ―ルと仁身に声をかけて来た数名の酔っ払いなど、その最たる例であろう。 赤ら顔でニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべた、まだ20かそこらの青年達だ。泥酔し、誰でも構わず喧嘩なり吹っ掛けたい気分だったのだろう。そこに丁度通りかかったのが、子供連れの外国人、アウラ―ルと仁身だったと言うわけだ。運がなかったのは、果たして絡んだ青年達と、絡まれた2人、どちらだろう。 余計な時間を使わねばならないことに憤りを感じながら、アウラ―ルは足元に転がった鉄パイプを蹴り飛ばす。 「うるせェなぁ、外国語の家庭教師だよ!」 キレ気味にそう叫んで、アウラ―ルは青年達に手を伸ばす。 「結界を気にしないほど、酔っているんでしょうね」 やれやれ、とため息を吐いた仁身の見ている先で、アウラ―ルは青年達に当て身を喰らわせ、その意識を狩りとっていく。酒臭い息を吐き出して、青年達が次々と地に伏した。 それを、路地裏に押しやると手に付いた汚れを払って、アウラ―ルが戻ってくる。 「ふん、肉体言語に国境とかないんだよ」 「生々しい語学ですね。それはともかく、この辺りには、重度の酔っ払いが多いような気がします」 それはつまり、酒精を飲んだ男が通り過ぎた可能性が高い、ということだ。 「一応、他の班にも連絡をとっておきましょう」 そう言って、仁身はAFを取り出し、他のグループへと連絡を取ることにした。 「こっち、だと思うんだけどなぁ?」 鼻をヒクつかせながら、牙緑が繁華街を歩く。その姿は、傍から見ると、中々に怪しいものであるが、それでも周囲の人間はほとんどが泥酔状態であるため、それほど目立たずにいる。 そんな彼の傍らを、粛々とした動作でレオポルトが歩いている。どうやら他の仲間と、AFで連絡をとっていたらしい。しかし、今のところ、どこの班も男を発見していないようだ。 「そろそろ強結界を発動させて、人払いをしておきますか」 その方が、男を探しやすいだろう、と判断し、強結界を発動させるレオポルト。周囲から人の姿が次第に消えていく。その上で、建物の上などを見回すが、そこにも人影はない。 「見つけたら、見失わないように後をつけるとして……」 「焦らず行動しましょう。もっとも、まずは男を見つけてからですが」 この辺りには、いないようですね。 そう呟いて、レオポルトはグルリと視線を巡らせ、歩き始める。 「あっちの方から、強いアルコールの匂いがするぜ」 牙緑が指さしたのは、繁華街の中心方向。 2人は、強結界の作用で人気の耐えた繁華街を、悠々と進んでいった。 一方その頃、隆明と美虎は酔っ払いから逃走していた。 「面倒事は避けないとな」 なんて呟いて、小脇に美虎を抱えて走る隆明。そんな2人の後ろから、喧々諤々、騒乱と喧騒の塊と化した酔っ払いの群が追いかけてくる。 最初は、ものの2、3人程度の酔っ払いだった。しかし、トラブルはトラブルを、酔っ払いは酔っ払いを引き寄せるもの。行く先々で酔っ払いは増え、今では20名近い人数になっている。背後に迫った酔っ払いの喉元に、隆明が手刀を叩き込み、気絶させる。それでも、酔っ払いの数は一向に減らない。ワイワイガヤガヤと騒ぎながら、2人の後を楽しそうに追いまわす。 そんな喧騒の中でも、2人は酒精を飲んだ男を探す事を止めなかった。 「うーん、いないねー」 隆明の脇に抱えられたまま、美虎が周囲に視線を巡らす。 「この辺りにいそうなんだけどな」 と、超直感をフル活用しつつ、隆明がそう呟いた。その時……。 2人の頭上を、人影が通り過ぎていった。 「「見つけた!!」」 同時に叫んで、隆明は美虎を宙へと放り投げる。美虎は空中で体勢を整えると、居酒屋の屋根に着地。そのまま、ふらふらと駆けていく男の後を追いまわす。 一方、隆明は大勢の酔っ払いに囲まれて、身動きを封じられていた。 手近な酔っ払いの肩を掴んで、放り投げる。そのまま、背後に迫る別の酔っ払いを蹴り飛ばし、正面に迫った酒臭い顔目がけ、頭突きを叩き込んだ。 相手は、あくまで酔っ払っているだけの一般人だ。隆明の攻撃一発で、酔っ払い達は気絶する。 それでも、数が減らないのは、周囲の酔っ払いが喧騒に引き寄せられ集まってくるからだ。 「やりすぎるわけにはいかねェし……」 なんとか逃げ切るしかないか、とそう呟いて、隆明は、手近な酔っ払いに当て身を喰らわせるのだった……。 「確保―!!」 不敵な笑みを浮かべ、美虎が男に飛びかかった。既に仲間には連絡済みであるものの、集合までに時間がかかりそうだったため、男の足止めの為に、飛びかかったのである。 美虎は男の頭に両手を伸ばす。頭に手を乗せ、顔面に膝を叩き込む「ゴッ・コ―・ティ―・カウ」と呼ばれるムエタイの技だ。しかし、男は、ふらりと身を捻って、それを回避する。 それなら、とばかりに美虎は体を回転させ、男の胸へと肘を叩き込む。「ティー・ソーク」と呼ばれる技である。肘が男の胸に直撃する、そう思った次の瞬間、美虎の視界から男の姿は消えていた。 背中を大きく逸らし、ほとんど仰向けになるような形で、美虎の肘を回避してみせたのだ。 え? と目を剥く美虎の胸に衝撃が走る。 体を起こす動作そのままに、男の掌打が美虎の胸に叩きこまれた。軽い体重が災いしてか、美虎の身はあっさりと浮かび上がる。あ! っと、思った次の瞬間には更に数発、掌打が胴へ。 浮いた体は、なすすべなく大きく後方へと弾き飛ばされることになった。 一瞬の浮遊感の後、給水タンクへと激突する美虎。それを見て、赤ら顔の男はけらけら笑いながら、屋根から屋根へと素早い動作で駆けていく。 「あはは、すごいな。動きがむっちゃくちゃなのにすっごい重かった!」 若干ふらつきながらも、美虎は体を起こし、笑いながら男の後を追いかけるのだった。 時間は少々遡る。 酒の匂いが漂う繁華街。月をバックにバーの屋根上に立ち、水着姿でしなを作る女性が1人。寂しい胸部を必死に突き出す彼女の名前は、九曜 計都という。 「つぶつぶ! おら、お前も脱げよ! 自称「脱ぐとすごい」のすごいとこ見せてみろよ、このエロ厨!」 大人の色気で酔っ払いを誘い出そうと、そういう腹積もりらしい。とはいえ、彼女に注目するものは誰もいなかった。計都は、一緒にいる瞑にも水着姿を強要する。 瞑が、悲しそうな顔で計都の肩を叩いた。 「計都、そもそも誰もうちを見てないんだよ? そういう悲しい真似はやめようよ」 知った事か! と、叫んで計都が瞑の服を引っぺがしにかかる。不意をつかれ、瞑の上着が剥ぎ取られた。 「……お、おう。その、なんだ、エロ水着、よく似合ってるっすよ?」 なんて、暖かい笑みを浮かべる計都。瞑は呆れたように溜め息を吐いて、上着を着直した。 その時、瞑のAF に隆明からの連絡が入る。 「……見つけたみたい」 「こっちに誘導するっす」 それから数分後、近くまで来たと美虎から2人に連絡が入った。 「そろそろかな……」 そう言う瞑と、服を着直す計都の視線の先に屋根の上をふらふら飛び跳ねる男の姿。そして、背後から男を追いかける小柄な少女の影も見える。どうやら、こちら側へと男を追いたてているようだ。 「瞑っ! 20秒時間を稼げ!」 先ほどまでとはうって変わり、真剣な表情を浮かべた計都が叫ぶ。それを受け、瞑は翼の加護で得た翼を羽ばたかせ、男の方へと飛んでいく。 「お兄さん、イケる口でしょ? お酌してあげるから、一杯どう?」 なんて、冗談めかして瞑は言う。男の眼前に回り込むと、ビールとグラスを掲げて見せる。 しかし……。 「えんりょしとくぜ~」 なんて、呂律の回らない口調で男は、それらを払いのけた。次の瞬間、男の拳が瞑の脇腹に突き刺さる。 皮膚が裂け、血が吹き出る。目を剥く瞑と同様に、背後から男に迫っていた美虎の足からも血が飛び散った。 バランスを崩し、美虎が屋根から滑り落ちる。それを助ける暇もなく、男の拳が今度は瞑の鳩尾に。 「ゆっくり飲んでもいいわよ?」 と、口の端から血を流しながら、瞑は男の腕を掴みにかかる。しかし、スルリと滑るような動きでもって、男はそれを回避した。ふらり、と体を揺らす男。そのまま、逃亡しようと跳ねる。 しかし……。 「あたしの陣地にようこそ」 男の足がピタリと止まる。それを見て、計都が得意げに笑って見せた。陣地作成によって、男を自身の陣地に閉じ込めたのである。「あ~」なんて、面倒くさそうに酒臭い息を吐いて、男の視線は計都へ……。 ふらり、と男が動いたその時……。 「こらー! そこのjuoppolalli! こっち来い!」 そんな叫び声と共に、男の背中に十字の光がぶつかった。回避する間もなく、男の体がぐらりと傾ぐ。攻撃を放ったのは、つい今し方現場に到着したばかりの、アウラ―ルであった。男の視線が、アウラ―ルに向いた。 「傷はきっとたぶん後で治してもらえるはずなんで、思いっきり我慢してください」 その瞬間、今度はアウラ―ルの隣に立つ仁身が弓を引いて、矢を放つ。咄嗟に体を捻って、男は矢を回避。そのまま流れるように、背後に迫っていた瞑に裏拳を叩き込んだ。 短い悲鳴を上げ、瞑が屋根の上を滑り落ちる。 「瞑っ!」 手を伸ばし、計都の手が瞑の腕を掴む。屋根から落下する事は回避したものの、そんな2人の傍には男の姿。赤く染まった顔と、焦点の合わない瞳が、そっと2人へと向けられた……。 ●酒は飲めども……。 男に足を切られ、屋根から落下した美虎を受け止めたのはレオポルトだった。そっと地面に美虎を降ろし、屋根の上へと視線を向ける。 「ふむ、やはり耐久力は一般人以上にあるようですね」 視線の先には、今まさに計都と瞑に手を伸ばす男の姿。 「殺しちゃうと、マズイよな」 なんて、言いながら壁を駆けあがっていく牙緑を見送って、レオポルトはそっと杖を男に向ける。 「我紡ぎしは秘匿の粋、エーテルの魔弾…喰らえい、Zauberkugel!!」 杖の先端から放たれた魔弾が男へと襲いかかる。男は、それを避けるため、計都たちから離れていった。 ふらり、と屋根を駆ける男。 「お酒臭いんで、近寄らないでくださいね」 そんな男へ放たれる無数の矢。仁身の放つ矢が、男の動きを制限する。それでも、のらりくらりと男は、矢や魔弾を回避し、屋根の上を踊りまわる。 「随分と派手な追いかけっこだ」 屋根の上に駆けあがったアウラ―ルが、男に迫る。男は、アウラ―ルに向かって掌打を放った。 「う、っぐ」 男の拳が、アウラ―ルの胸に突き刺さる。バランスを崩し、アウラ―ルの体が後ろへ弾き飛ばされた。 弾き飛ばされたアウラ―ルを、瞑が受け止める。彼女の背後には、陣地作成をかけ直す計都の姿。陣地を崩されないよう、瞑と計都は、戦線に加わることなく、戦況を窺っている。 「チョロチョロすんな! いいからオマエ一回寝ろよ!」 大ぶりのナイフを、居合い抜きの要領で抜き放ちながら牙緑が叫ぶ。ナイフが一閃すると同時に、男の腕から血が飛び散った。そのまま、バランスを崩した男の腹目がけ、牙緑が拳を突き出した。 「おっと~」 なんて、酒臭い息と共に、男もまた牙緑の顔へと掌打を放つ。 拳と拳の打ちあいが始まった。肉薄し、場所を入れ替えながら交戦する2人。レオポルトと仁身はフレンドリーファイアを恐れ、一時的に攻撃の手を止める。 男の掌打が、牙緑のボディに刺さる。弾き飛ばされた牙緑が屋根から落ちる。それを見送って、男はにやりと笑みを浮かべた……。 その時。 「くらえ、どっさい!」 男の胴目がけ、美虎が拳を叩きつけた。 「おっと~」 美虎の拳と、男の掌打が交差する。美虎の体が背後に飛ぶ。一方、男は麻痺を受け、その場に立ちつくす。思えば、この酔っ払いの男がふらついていない所を見るのは、これがはじめてかもしれない。 「悪いとは思うが、しょうがねぇよな」 そんな男の背後に、隆明が迫る。いつの間にこの場に到着したのか分からないが、酔っ払い達の相手に相当な手間をとったらしく、その体からは強いアルコールの匂いを立ち昇らせていた。服はあちこち破れ、泥だらけ、どことなく疲れた顔をしている。 「そのまま決めるっす!」 計都が叫ぶ。 あぁ、と頷いて、隆明が拳を振りあげた。 「手こずらせやがって! アクティブな酔っ払いは性質が悪いぜ」 気迫の籠った拳が、男の頬に突き刺さる。 「う、おおおおお~!!」 アルコールの匂いをばら撒きながら、男はそのまま屋根の上を滑っていった。既に意識はないようで、全身をぐったりと弛緩させ、のびている。無茶な動きで暴れ回ったツケだろうか、ぴくぴくと震える男の顔は、ひどく苦しそうな表情を浮かべている。 「酒は飲んでも飲まれるなってな。アレが悪い見本だから、覚えとけよ」 と、美虎に声をかけ、隆明は屋根の上に腰を降ろす。はぁ、とため息をついて、見上げた空には、綺麗な月が浮いている。 それを見て、こんな夜に飲む酒は旨そうだ、と呟いた……。 気絶した男を縛り上げ、瞑がそこに消臭剤を振りかける。彼の放つ酒精の匂いは、それを嗅いだものを泥酔させるので、その予防である。また、仁身は男の酔いを一刻でも早く覚ますために彼の口へと酔い覚まし用のドリンクを注ぎ込んでいる。 このまま、アークへと運び、酔いが覚めるまで拘束しておく予定となっている。 「記憶が無くなるまで飲んで、人に迷惑かけちゃ駄目よ?」 ぐったりとしている男に、瞑はそっと語りかけたのだった……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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