●君去りし後 長年お仕えしていた大事な方がこの地を去って、幾年月。 ありがたくも御神気を賜り、この身の自由が利くようになった。 横を向くと、長年の相方がこちらを向いて頷いた。 ああ、人の子が我等に誓いしことを、我等も共に果たしに参ろう。 オレよりも強い奴に会いに行く。 ●八対八タッグマッチ 「元気ですかっ!?」 はい、おかげさまで。 やけに丁寧な出迎えに、リベリスタ達は首をかしげる。 「ゴーレム。対の狛犬が動き出した。場所は朽ちた神社。すでに誰も守っていない。壊してきて」 今日の『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、なぜか首からタオルをかけている。 「放置しておくと、武者修行と称して、全国の神社仏閣にいる狛犬の類が破壊される。つまり、道場破り」 イヴさん、何を言ってるのか分かりません。 「この神社、武運長久、武道にご利益がある神様だった。祈願されたのが染み付いたみたい」 それで、動けるようになったら、戦いを求めるようになったと? 「相手は生まれながらのタッグ。阿吽の呼吸で来るから。それ以上に難儀なのは、まだかろうじてパワースポットであること。聖地ね。いうなれば後楽園ホール」 イヴさん、何言ってるんですか。 「この神社の参道、狛犬にとって有利な結界内。さらに、参道脇の灯篭六基もゴーレム化。狛犬を回復させるし、参道から挑戦者が出ようとすると、見えない有刺鉄線やお灯明が飛んでくる」 イヴさん、挑戦者ってどういうことですか。 「つまり、時間無制限・コンクリノーロープ爆破デスマッチ状態」 イヴさん、何のことだかさっぱり分かりません。 「狛犬は火を吐いたり、氷吐いたりするから。残念ながら、毒霧は吐かない」 イヴさん、何を言ってるのかさっぱり分かりません。 「もちろん鍛え上げられたアルティメットツープラトンホールドが決まったら大変なことになるから気をつけて」 イヴさん、なんだか今日のイヴさんはすごく遠く感じます。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月19日(日)21:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 『トリレーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)は、ガントレットの嵌め心地を確認している。 (立てば芍薬座れば牡丹火事と喧嘩は江戸の花、とはよく言ったものね。狛犬にまで染み付いているなんて) 彩歌さん、「歩く姿は百合の花」。 あなたのような方のことですよ。 (格闘武器とピンポイントを組み合わせた全く新しい格闘技で勝負) もっともこの百合の花は、かなり剣呑なご様子。 「ここは神社ですし言霊には力が宿るとか?」 普段はノートで筆談か念話を使う『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)は、鳥居の前で必勝祈願。 「私個人の感傷より任務を優先です」 暗い境内では筆談に必要な光量も暇もない。 腰に懐中電灯をくくりつけ、更に研ぎ澄ませた感覚で境内の中を知覚しつくそうと努めた。 (武道に御利益の在る神社……味方もやる気満々のご様子、神社の花道……飾らせて頂きます) (格闘はゲームに限るっ) 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)は、回復専門だ。 (それはともかく、狛犬の造形は嫌いじゃないのよね。あのいかめしさと不器用な愛嬌が混じった感じがgood) かわいいものには目がないキュートオタクの次なる獲物は狛犬。 (……持ち帰れないかなあ。ダメかなあ) 暗闇に潜むゴレームのお持ち帰りを夢見ているとは、お釈迦様でも気がつくまい。 「北の白虎と呼ばれた若かりし頃の血が滾るというものだ」 本日のメインイベンターの一人、静かに闘志をみなぎらせる『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)に、『八幡神の弓巫女』夜刀神 真弓(BNE002064)は熱心にメモを取る。 長い黒髪に、うさ耳がついている。 残念ながらラウンドバニー的衣装が手に入らなかったので、せめて雰囲気だけでも。 うさみみ本物巫女アイパッチ付き。レアだ。 (プロレス……それは神に仕える身である私にとって全く縁無き格闘技) 『贖罪の修道女』クライア・エクルース(BNE002407)は、右手を胸元のロザリオに添えて彼女の神に語りかける。 (今は違います。依頼を請けてから今日までの調査と予行演習に裏打ちされた伝家の付け焼刃……主よご照覧下さい) バサッと音を立てて夜空に脱ぎ捨てられる修道服。 脱いだらすごいナイスバディを惜しげもなくレオタードで見せ付け、石畳を闊歩した。 『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)提供、三連スクーターの強力ライトを浴びて、本日のメインイベンターが入場する。 もうもうと蛍光塗料入り蒸気がたちこめる中、著作権に考慮されたテーマソングを、持参のと真弓持込のラジカセ直結でステレオ放送。 「さぁ、今宵アルティメットコマイヌーズに挑戦するのはこの二人!」 真弓がマイクを片手に、リングアナウンサーを務める。 「質実剛健! クールダンディー! 人呼んで、北の白虎! ウラジミール・ヴォロシロフ!」 仕入れた情報を早速アナウンスに盛り込むとは、並みの巫女ではないな、夜刀神真弓! (私は一体何をしに来たのでしょうか) 真弓さん、悩む段階はもう過ぎてます。 「アークの誇る奇跡の変態! 結城竜一!」 『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)、颯爽と登場。 覆面かぶって、マントの下はレスラーパンツ一丁。 往来でやったら、間違いなくおまわりさん呼ばれる。 (戦闘前にはマイクパフォーマンス、それが俺のジャスティス) 「時は来た!俺はこの時を待っていたぞ、コノヤロー!」 うん、それっぽい。 「俺はな、昨晩、ラーメンを10杯食って戦ったけど失敗したよ。だからな、今晩は15杯食って戦ってやるぞ!」 うん、全然意味わかんなくて、会場ドン引き! 本職に迫るね、イエスだよ! 参道の、御神燈に火が点る。 5メートルおき、左右交互に六つの光。 ぼんやりと石畳と玉砂利が浮かび上がる。 その奥。 いまだ濃く闇が横たわる本堂前で、二つの気配がゆらりと動いた。 があああああああっ!! 戦いのゴングの代わりに、狛犬の雄叫びが、辺りに響いた。 エブリバディ、イッツ、ショータイム! ● 狛犬は奥から三本目の御神燈で止まると、ツープラトンサマーソルトキック! 空を切り裂く衝撃波を、あえて受ける竜一とウラジミール。 プロレスは、相手の攻撃を受けてこそ華。リングに沈めば泥。 竜一の胸元がざっくりと切り裂かれ、傷口から白い物まで垣間見える。 傷口を押さえた手の平に、吹き出すように血がしたたる。 (真正面から、退かず媚びず省みず! 受ける! それがプロレス!) 自らのスタイルを貫き通す為ならば、多少の無茶はそのままま通す。 石畳のリングはいきなり流血戦に突入した。 ウラジミールは急所を庇い、ダメージを抑えた。 「開幕にそのような手で来るとはなっ!」 不敵な笑みが、刈り揃えられたひげの口元に浮かぶ。 「ホントは生かさず殺さずの回復をしたいけど、最初は仕方ないかな」 循環詠唱したかったんだぞーと言いながら、とらは、上位存在に竜一とウラジミールへの癒しを請う。 その完璧な詠唱にウラジミールの傷は癒え、竜一の傷もある程度はふさがった。 「いけるかね、結城殿」 傷口が再生してくる感触に口元を笑ませる竜一に、ウラジミールが声を掛けた。 「あたりまえだろ、タッグマッチだしな!」 失血で竜一の顔は青ざめているが、まだフォールされてはいない。 「では、作戦を遂行する。反撃の時間だ」 竜一が狛犬あーあとの間合いをつめ、ステップを踏んで巧みに背後に回りこんだ。 「マスクマンなヒール役は、凶器とか使うのも遠慮しないぜー!」 湧き上がる闘気が二本の異なる刃に集中する。 「敵を挟みこんでのラリアット! いっけぇ、ウラジミールのおっさん!」 狛犬の首に叩き込まれる鮮烈な光。 ウラジミールの膂力が爆発し、石の狛犬の首にひびを入れた。 ● (間に合って!) 彩歌の指から打ち出される気の糸が、あーあの脇に立つ御神燈に絶妙の角度で打ち込まれる。 あっけなくひび割れる御神燈の炎が大きくなり、彩歌の立つ鳥居の方向に流れた。 「脳味噌は入ってないのに、よくやるわね」 ここで回復されてはたまらない。覚悟の挑発に、御神燈の神罰覿面。 御神燈の周囲に光の円が発生し、集約されて撃ち出される光の塊が、彩歌の腹にぶち当たる。 体の中に浸透する痛みに体をくの字に折らずにいられない。 しかし、これで狛犬あーあを回復させることが出来る御神燈はなくなった。 狛犬は男二人に任せ、邪魔な御神燈を削るのみ。 ラウンドバニー的巫女さんは、マイクを手にまじめに言った。 「巫女の私が神社を荒らすことになるとは思いませんでした……」 マイクで言った。大事なことだから、二度言った。 やおら、可変式アームキャノン「ヨシイエ」を右手に装着し、機械化した右目を露わに、荒らすなら全てを砂塵に変えてくれんと怒涛の銃弾が御神燈と狛犬二匹だけに降り注ぐ。 彩歌の一撃を食らっていた一基が、崩れ落ちた。 その部分にだけ、闇が落ちる。 他の御神燈も、半ば崩れた。 もはや風前の灯か。 否。 ぼう。 御神燈が大きくなる。各々のひびがふさがれた。 そう簡単に、おちてはくれないようだった。 ● ヨシイエを撃ち終わった真弓は、マイクを握り直した。 「シスター・クライア、上空より二回三回ムーンソルト!」 上空高く舞い上がっていたクライアが、入り口近くの御神燈に狙いを定めた。 「え?」 真弓の実況が止まった。 それを応援するべく見ていた者たちの時間が一瞬とまった。 御神燈めがけて突き出されるのは、足や拳や上腕二頭筋、ましてやおでこでもなく。 「あの、ええっと、おしりで!?」 実はプロレス全然知らない真弓に変わって説明しよう。 ヒップドロップとは高低差を利用し、お尻で相手を押し潰す、本来ならば重量級アンコ型レスラーが使う技。 それを、無機物相手にやっちまったぜ、シスター! ものの見事に砕け散る御神燈の破片を華麗にスルーしながら、クライアはマイクを握ると、 「ただのヒップドロップではありません、名づけるならばヘビーヒップクラッシュ! 主よ、ご照覧下さい。 あなたのよき羊たりえんとする者を! この一戦、あなたに捧げます!」 胸元の十字マークに手を添えて、顔のアップだけならば真摯なシスター。 星の数ほどあるプロレス技の中から、何故ヒップドロップなのか。 問い詰めたい。懺悔室で、小一時間ほど問い詰めたい。 とにかく、これで御神燈二基目、粉砕。 おしりで。 ● 狛犬あーあは、バックステップ。 ずっはーと森の神気を吸い込むと、銃弾で砕けたたてがみも、首に入ったひびも修復されて行く。 狛犬うーむは、竜一にとどめとばかりに、宙に身を躍らせてかまいたちを放つ。 「いかんっ!」 これを食らったら、さすがの竜一も大ピンチだ。 パートナーのピンチに割り込んでこそ、タッグマッチの華! 「ウラジミール、かわりにキックをくらったぁ!だいじょうぶかぁ!?」 真弓がマイク片手に吼える。 可能な限り受身を取り、受けるダメージは最小限。 「なんら問題はない。この程度、セメントのお約束であろう?」 戦車の識別番号を通り名に持つ男は、にやりと渋く笑う。 「ありがとよ! ウラジミールのおっちゃん!」 ウラジミールの分までもと、竜一は凶器攻撃を続ける。 人の倍動くよう研鑽を積んだ結果が、運命の女神を微笑ませる。 「もう一発、食らっとけ!」 御神燈がぼぼっとその火を大きくする。 「タオルはなしだよ♪」 とらが放った気の糸が、うーむの脇に立った御神燈の火さえも絡めとる。 糸の隙間から炎の舌が飛び出すが、うーむを癒すことはかなわない。 「お楽しみはこれからだぜぇ?」 だらだらと血を流しながら、メインイベンターは不敵な笑みを浮かべた。 ● 彩歌の精密に破壊点に打ち込まれる一撃で、御神燈を瓦解寸前まで追い込んだ。 真弓に向かって、御神燈から炎色の糸が伸び、その四肢を絡めとる。 「ここらがボーダーよね」 冷静に戦況を見定めていたアンナから発せられる柔らかな光が、竜一の流れる血を止め、真弓の体をしびれさせる毒と筋肉のこわばりを解きほぐす。 沙希の祈りが天使を歌わせ、仲間を癒した。 クライアのジャンピングヒップドロップが、御神燈にひびを入れる。 「助かりました。全部ぶち抜いてごらんにいれます」 ぶっそうなことをおっとり言いつつ、真弓の銃弾は言葉にたがうことなく、狛犬あーあ以外の全てのゴーレムに風穴を開けた。 「その空きっ放しの口を閉じたらどうなの、駄犬?」 彩歌によって四基目の御神燈が打ち壊され、後衛陣がようやく前進して全てのゴーレムを射程に入れられるようになったとき。 いい感じに傷つけあった二人と二匹。 大技一撃食らったらダウンという、ギリギリタイトロープ状態。 ことここにいたり、コマイヌーズも覚悟を決めた。 そのとき、沙希に電流走る。 「来ますっ!大技が!!」 舞のごとく流麗な動きから、狛犬は石畳を這うように突進してくる。 (危機だって分かっていればチャンス!) 沙希の声に、竜一が頷いた。 「いっくよーっ! 頑張れ、二人ともー!」 これが最後の支援と、とらから発せられた光が狛犬を焼く。 コマイヌーズが地面を蹴る! きりもみ回転を加えながら、胴にねじ込まれる重い衝撃。 防御を突き抜け、骨の髄までしみわたり、骨髄を揺さぶる波動に、体中が悲鳴を上げる。 「喰らいそれでも返す! 全てを持って全てで返す! これが北の凍土の掟だ!」 普段寡黙な男の咆哮は、まさしく北の大地に君臨する巨大な虎を思わせた。 「相手がツープラトンでくるなら、こっちもツープラトンだ!」 竜一が応じる。 ウラジミールが、竜一が。 懐に飛び込んできた狛犬の腹をがっちりホールドし、綺麗なブリッジから石畳に頭から叩きつける。 きれいに決まった、ツープラトンパワーボム。 御神燈からの支援も、届かない。 ひび割れる首と肩。ごろりごろりと二つの頭部が石畳に転がる。 「ウィーーーーーー!」 竜一は、差し指と小指を立てて、勝利宣言。 「ヒーローインタビューでーす! 今のお気持ちは!?」 ハンドキャノンをぶっ放しながら、真弓が叫ぶ。 「いい試合だった」 最後の御神燈に止めをさすのを見守りながら、ウラジミールはそう言って、口元をわずかにほころばせた。 ● 境内は、にわかに慌しくなる。 (壊れちゃったかぁ。これアークにつれて帰れないかなあ。くっつけたら、直らないかなぁ) 打ち砕かれた狛犬を持ち帰ろうといそいそと近づく、かわいいもの好きアンナ。 (折角なので……) 同じく、いそいそと近づく神社の巫女さんの真弓。 それを追い抜く俊足集団、アーク別動班。 せっせと破片を箱につめ、代わりに同デザインのものを設営している。 経年加工してあるところが芸が細かい。 「これ、もって帰っちゃいけませんか。うち神社ですし……」 真弓が声を掛けると、班員達の手がぴたりと止まる。 一人が振り返り、見上げる目にみるみる涙が盛り上がる。 「ゴーレムだし、破片が急に動き出したら、危ないし、それも調べるから……」 背中から、持っていかないでぇぇと、何かが出ている。 うん、だめみたい。 「それでは、よそ様のとは言え、これでも巫女なので神社のお片づけはしていきますね」 「助かります。お願いします」 なんか、急にほっこりムードになった。 一緒に働くアークの仲間だもんね! 「お、俺はもうだめだ。とら、最後に膝枕を……」 「……仕方ないですねぇ」 とらは、膝を折ってぽんぽんと差し出した。 実際、三途の川でおじいちゃん呼んでたし。 入場前に、ウラジミールに守護の加護もらってなきゃ、かまいたちで即死だった。 竜一のほっぺ、今、安らぎのお膝にランディング。 「あ、真弓ちゃーん! 手下なのでお片付け手伝いまーす☆」 とら、緊急起立。 物理法則的に、竜一、わずかに膝の感触を頬に感じつつ、石畳に頭部ごん! のた打ち回る竜一に、 「あ、竜一くん、マイク忘れてますよ」 と、声を掛けた。 「あ、あれ。置いてく」 痛みに石畳に転がりながら、竜一は片付けの様子に目をやった。 「いつでもリベンジ待ってるぞ、コノヤロー!」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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