●千葉炎上 『縞島組』『風紀委員会』『ストーン教団』『松戸研究所』『弦の民』『剣風組』。 六つのフィクサード組織が互いの理想実現のために新生『九美上興和会』として協力合併し、巨大なフィクサード組織に生まれ変わろうとしている。 彼等の秘密兵器、アーティファクト『モンタナコア』。 組織を完全なものとすべく狙う『セカンドコア』。 無限の未来を賭け、大きな戦いが始まろうとしていた。 ● 「我等は、社会の良心である。我らは、社会の正義である。われらこそが正義の執行者である!」 白い詰襟、額に白鉢巻。 左の腕に巻かれている腕章には輝かしき『風紀委員会』の四文字。 「皆には、今しばらく『悪』の汚名を着てもらうことになる。しかし、新生『九美上興和会』樹立の暁、この組織を輝かしき正義の組織として掌握するのは我々だ。諸君が、それに足る群集であると私は信奉している! 我らは物言う疾風であり、怒涛である!」 拳を突き上げ、歓声を上げる正義の群集。 「そのために、『セカンドコア』を出来うる限り我々が掌握し、組織内の優位を取らなくてはならない! 我々は負けない! 勝つのは正義である! 常に正義が勝つ! そのための努力を怠ってはならない! 我らは努力し、自らをたすく正義である!」 シュプレヒコール! 「風紀!」「風紀!」「風紀!」「風紀!」 「諸君らの信念と命、この一杢・瞭善が預かった!」 ● 「現在千葉で六つのフィクサード組織が互いの理想実現のために合併し、巨大な組織になろうとしている」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の背後のモニターに、千葉県の地図がでかでかと表示されている。 既存勢力、なにするものぞ。 崩壊の進行に乗じて一旗上げようということか。 「彼等は手始めに、切り札であるアーティファクト『モンタナコア』を使って組織の兵力拡大を図った」 モニターに、映し出される模式図。 「このアーティファクトは寿命や生命力を代償にフィクサードを革醒または強化する効果をもち、多くのフィクサード小隊が兵力を整えている」 イヴは、模式図中のフィクサードから命と書いた矢印をモンタナコアまで引っ張り、代わりに力の矢印をフィクサードに引っ張る。 「彼等は組織を完全なものとすべく、同種の効果を持つ『セカンドコア』を求めて行動を開始」 千葉と書かれた空白に探索矢印が引かれる。 「これ以上彼らを放っておけば広大なエリアがフィクサードに落とされ、巨大組織の誕生を許してしまうだろう。なんとしても彼らを叩き、野望を阻止しなければならない」 「現在、フィクサードたちはそれぞれの土地に散らばっている。彼らが合流すれば厄介。 なので、今だ合流していないうちに彼らの位置を予知によって特定、急行し、直接撃破する作戦をとることとなった」 モニターに明朝体で四文字。 『各個撃破』 「現場では協力組織のリベリスタたちが入念な人払いをかけているので、一般人の混入は心配しなくていい」 現地で、結界張ったり、工事中のカラーコーン立てたり、映画撮影的カメラとか用意しなくていいんですね? 白昼同道の作戦のときに憑き物の隠蔽工作はいらないとイヴは力強く頷いた。 「存分に戦いに専念してほしい」 ● 「――そういう訳で、みんなに担当してもらうのは、こいつら」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそういうと、モニターに白詰襟の集団を拡大する。 手には竹刀、あるいはファイルボード。黒縁眼鏡と来れば、言わずと知れた―― 「風紀委員会」 「ありていに言えば、正義の信仰者を名乗る弱者の大群。元は逆凪の下部組織。一般人による犯罪を懲らしめる集団」 必ず殺すとか、吊り下げるとかそういう方面の人ですね、わかります。 「ジョブや種族はバラバラで弱いが、群衆のパワーを活かして戦っている。特技、人海戦術。バカにできないよ。一糸乱れぬ集団行動」 息をつく間もなく連撃が来るんですね、わかります。 「フィクサードの割には社会正義を重んじる連中ばかりで構成されている。そのためうっかりリベ堕ちするメンバーもいた。今回さりげに協力して貰っている組織がそれ。力を得るためには悪者と一時的に手を組むのも仕方ないと思っているが、組織的には割と不本意」 お、それじゃ、ひょっとして仲良く出来たりする? 「残ってるのは、新組織を自分たちの意のままに操ろうとしている野心に満ち溢れている連中」 働きかけ自体が無駄。と、イヴは一刀両断だ。 「この連中の得意技は、『抜き打ち持ち物検査』」 はい? 「平たく言うと、武器を取り落とし、防具が緩み、本来期待できる効果を発揮できなくなる」 なんだって!? 「改めて装備しなおさなくちゃならないから、確実に3ターン無駄にされる恐ろしい技」 スカートの丈を計られるんですね、わかります。 「場所は、地方都市、オフィス街。戦闘に障害になりそうなものなし」 それに、とイヴは言葉を継ぐ。 「このフィクサードを倒せば戦いが終わるというわけではない」 あくまで、彼らは前線の兵隊だ。と、イヴは言う。 「少しキツいけど、皆には最後の仕上げである九美上興和会撃破の任務が待っている。残存兵力は直ちに現場へ向かい、コアチームと合流して欲しい」 期待していると無表情で言い放つ女子高生、我々の業界ではごほうびです。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月04日(日)00:03 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 秋の蒼天。 空気は紅。 神秘の炎が房総半島を包んでいる。 見えない炎が、革醒者達から吹き上がり。 雌雄が決しようとしているのだ。 ● 空気は動かない。 ぬめるような重苦しい圧力が、その場を凝らせている。 歩道橋には、横断幕。 「革醒者は、社会平和のために!――絶対平和社会のための第一歩・あなたの風紀委員会――」 白学ランの風紀委員リーダー一杢・瞭善と20人の風紀委員は、手に手に紙バサミ、メジャーを持ってリベリスタを待ち構えていた。 「風紀委員に許された特権――」 瞭善は厳かに口を開く。 「それは持ち物検査と校門封鎖だ! 社会の風紀委員たる我々はこの道を封鎖し、諸君たちの不道徳な持ち物を検査させてもらう!」 手にした1メートル竹ものさしが、指揮杖代わりだ。 「アークよ! この力を社会平和の為に使わない諸君らに、武器は無用の長物。いや、百害あって一理なしだ!」 ● 「『抜き打ち持ち物検査』!怖いスキルだネ!」 『継戦装置』艶蕗 伊丹(BNE003976)の手には点滴をぶら下げるあれ。 ナースキャップがキュートである。 今作戦の戦線維持は伊丹にかかっている。 「装備を……ah,なんだかアレだね! 『ブラのホックはずし』 ミタイ!」 誤解だ! 「抜き打ち持ち物検査はやめてー。お婿にいけなくなっちゃう~」 ミラクルナイチンゲールのコス着用済の『やわらかクロスイージス』内薙・智夫(BNE001581) は、目に涙を浮かべている。 「ワタシ知ってる、そういう時は『セクハラー!』とか『変態!』って叫ぶんダヨ!」 激しく抗議する! 風紀委員会は、破廉恥なのはいけないと思います! 期せずして、アーク側は趣が異なるダブルナースである。 制服コス対決、量では負けているが、質では負けていない。 「OK! というわけで、今回はソンナ人達がお相手です! 頑張ろうネ!」 「うん。お婿にいけなくなったら大変だし……っ」 というか、ミニのピンストライプエプロンドレス+ドロワーズ+白オアーバーニーソックスが違和感なく似合う男子をお婿に貰おうという気概のある女子っているのだろうか。 「でも、敵の数が半端ないし、正義の味方だし、勝てる気がしないよ……」 徐々に虚ろになっていく智夫の瞳。へへ、へへっと漏れ出る笑い。 手にしたジャベリンをがくがく震える腕で掲げると、リベリスタの背に仮初の小さな翼が突き出した。 「兎は、獅子に倒される時も全力を尽くされるっていうし……」 戦う前から負け犬状態だが、智夫は最後まであがく負け犬である。 「……わし、義手そのものが武器なんじゃが……もちろん脱着は可能じゃが、1人では難しくて付けられんのじゃが……どうすればいいのかぇ?」 『不誉れの弓』那須野・与市(BNE002759)は、未知の神秘に不安をもらす。 腕ごと外されるようなことになったらどうしたら良いのだろう。 「どうせわしの矢は当たらんから、あんまり関係ないかもしれんが……よくわからんのじゃが強敵みたいじゃし、頑張ろうとは思うのじゃが……」 後衛から、風紀委員の動きを見据える。 向こうの出方が脅威なら、食らわなければいいのだ。 「気を付けた所でどうせわしじゃしな? この矢はどうせ当らないのじゃが……」 それでも、がんばらんと。 はきはきと言う与市は、不敗の負け犬である。 (統一された戦意。統一された火力。統一された命令系統――) その与一の横に立つ『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)は、瞭善に率いられた風紀委員会の動きにうっとりしてしまう、元・体制の犬だ。 (敵ながら見事である! むしろ羨ましいくらいだ。社会正義を重んじる、自称・秩序の担い手か……) 「だが、貴様らが神秘を際限なく振うフィクサードである以上、我らの敵である!」 なぜならば。 「神秘、秘匿すべし。崩界、防ぐべし! 征くぞ!」 それが、アークの掲げる理念である! 「正義、と嘯く奴等ほど胡散臭いものです」 『群体筆頭』阿野 弐升(BNE001158)は、茫洋とした口調で手にしたチェーンソーをスタートさせる。 「これからブチ倒しに行く奴等だって、正義という名分を以って我欲を通したいだけですしね」 そうそう。と、『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)は相槌をうつ。 「正義って人それぞれなんだよね?」 だから「自称正義の味方」の「自称」は入らないんじゃないかなと呟く。 「ダカラ私も正義の味方だよー。敵だけど」 誰かが言っていた。正義の敵は、いつだって別の正義だ。 「結構前は、風紀委員会の事認めてたんだよ」 『スーパーマグメイガス』ラヴィアン・リファール(BNE002787)は、幕張ベイ防衛戦でエリーズ隊の風紀四条とまみえたことがある。 『貴方達はそういう社会平和をサボってるのよ』 四条は、ラヴィアンに言った。 そこに、ラヴィアンとは交わらないが確固たる主張があった。 「だけど、もう駄目だな」 認める訳にはいかない。 あの日見た、船の爆炎の色を忘れない。 「弦の民とかストーン教とかさあ、完全に悪の組織じゃん。何? おめーら正義捨てたの?」 風紀委員会は、『偽善コバンザメのアークを倒す』のを優先し、『爆破するほど嫌いな悪党』と手を組んだ。 優先順位をつけた。 それは、「社会平和をサボっている」とはいわないのか? 「自分の気にいらない奴を倒すためなら、悪人とも組みますって? それで正義を名乗るとかちゃんちゃらおかしいぜ!」 あふれる血液を黒鎖に変えて、ラヴィアンは叫ぶ。 「よう、悪者組織・風紀委員会!」 てめえら、みんなまとめてぶっぱだぜ! 「馬鹿らしい。正義、風紀の為なんて言い訳せずに自分達が支配したいぐらい言ってみろよ」 回転する三枚刃。 デュエリストの暴力を論理戦闘者の魂が制御する。 匿名存在の一人に過ぎないと、彼は『本来』を切り捨てた。 「群体筆頭アノニマス、押し通る」 智夫が尽くせる「人事」は尽くした。 後は、智夫の骨子たる負け犬逃走根性を封印し、別次元の存在を召喚する。 「助けて、ミラクルナイチンゲール!」 「騎士道に曰く、弱者とは庇護すべきものである。牙を抜き、無理矢理守ることが正しいのか、これには、分からない」 『ナイトオブファンタズマ』蓬莱 惟(BNE003468)の右手に、再生の祈りを込められた死出の旅路にいざなう黒銀の剣。 水鏡の盾鞘を左手に。 「だが、今行われている蛮行を放っておく事もできん」 これは騎士であるのだから。 脳内嫁の導きのままに。 奇しくも、己の内なる存在に近しき別個を匂わせる三人が、まず風紀委員会の列に飛び込んだ。 ● 「なんせ数が多いしのぅ。どうなるかは分からんのじゃ」 与一の視界はすでに、射手のそれ。 空気の流れが最優先。 射線が絶対基準。それに合わせて世界がゆがむ。 「あとは魔力が尽きるまで、インドラの矢をしておこうかの」 小さな腕から繰り出される魔弓に番えられた矢が炎を吹き出し、業炎の柱と化す。 与市よっぴいて、ひょうと放つと同時に柱は爆ぜ、先を走る前衛三人を避けるようにして、数多の火矢が空を切り裂き、風紀委員の戦陣を火の海と化す。 「回復! 今のうちに深刻な不調修正案を申告しておけ。次が来るぞ!まとめて処理だ!」 戦陣に満ちる光と福音。 「烈風が来るぞ! パンツァーカイル! 当たる人数は極小だ! 後ろから支えろ! 抑えきれ!」 中央に陣取る瞭善の声に、「陣形再編、1、2、3!」と靴音も整然と風紀委員会は動く。 その動きに、くくうっと、ベルカの喉が鳴る。 そんな彼らの集団行動を乱すのが、ベルカの役目なのだ。 (リーダーを中心に少しでも多く巻き込めるようにだな) 悲しいかな、整然としているがゆえにリーダーの位置が、ベルカには手に取るようにわかってしまった。 前を走る仲間の目を入らない絶好の場所へ放り込まれる閃光弾。 「来るぞ! 焼かれた者は無事なものをかばえ!」 真っ白い闇が風紀委員会に襲い掛かる。 身を焼かれ、目を灼かれ、それでも互いに覆いかぶさりあう。 『群体筆頭』の戦鬼烈風陣の撒き散らし具合は、風紀委員会に警戒されるに足る。 「此方の事もある程度把握しているようですが――」 チェーンソーの回転音が弐升の論理決闘エンジンも同時に起動させる。 「尽く、烈風陣で磨り潰してやんよ――だから」 惟と智夫はうなずき、弐升の間合いから外れる。 何かあれば飛び込める距離だ。 烈風陣に敵味方の見境はない。 苛烈な攻撃の威力を殺すことなく、弐升を守るのが二人の役目だ。 「解っていても抗えない暴力ってのを魅せてやる――!」 然り。 凝る空気が渦を巻き、巻き上げ叩き付け、割り裂く暴力と化す。 「先陣被弾! 体力補填、最大限でだ!」 めまぐるしく動く陣形。 「急げ! 次が来るまでに体勢を立て直せ! 計測係、前進!」 瞭善以下四人の風紀委員会が密集陣形を組む。 「例え相手が正義の味方であろうと、破壊と混沌を招くなら戦うのがミラクルナイチンゲールの勤めです」 そこに立つのは、槍を手にする可憐な従戦看護士。 「私は前衛です。仲間が倒されない事を最優先としますね」 烈風の影響をかいくぐり、弐升を計測係の包囲網から突き飛ばす。 「ジャベリンは、銃刀法違反です!」 「スカート丈、膝上20センチ! 見せパンツという概念自体がはしたないと思います!」 「というか、そもそもこの人、男です!」 伊丹は、カンペを開いた。 (誰かが『抜き打ち持ち物検査』を受けた時に黄色いヤジを飛ばす係!) 自ら志願したのだ。 「え~っと、何々―― 『ヨッ、セクハラ大明神!』」 「そんなんじゃありません!」 「『ムッツリスケベー!』」 「隠してるんだから、スケベじゃないもん!」 「『そんなつもりじゃない?変態は皆そう言うんダヨ!』」 テンプレ罵声のオンパレード。 「諸君、時として正義は糾弾される」 瞭善は下がりかける士気を高揚させるべく、拳を振り上げる。 「しかし、我々風紀委員会は、決して邪な気持ちを抱いている訳ではない! いつか必ず我々の正義は理解される! 戦うのだ、戦士たちよ! 我々の社会平和が完全実現されるまで!」 湧き上がる風紀のシュプレヒコール。 傷つき、まともに動けなくなった者も腹の底から風紀と声を張り上げる。 信仰だ。 人でなくなったモノが、自らを世界と繋ぎ止めるため。 選んだものが、風紀という名の信仰だったのだ。 規律を守っている限り、世界はまだ僕達を殺さない。 「装備一切、審査のため差し押さえ!」 『差し押さえ』の札から発せられる風紀遵守精神が、神秘の力を封印する。 コスチュームの上からカーテンのような貫頭衣が頭からかぶせられる。 足首を隠すほどのそれは、防具の視覚呪術効果をぶち壊しだ。 「構いません。装備なんかなくても、出来ることはきっとある……!」 僕らのミラクルナイチンゲールは、退かない堕ちない諦めない。 (これは騎士をやめられぬ) それは、これまでの惟の人生全て、生き様全てを否定すること。 (ならば、彼らも同じなのだろうか) 惟の目に映る、リベリスタからの再三の麻痺攻撃によって、満足に動かない体で互いを庇い合い社会平和を叫ぶ彼ら。 (そうならば、正々堂々真正面から叩き潰すしかないはずだ) 惟の体から吹き出る暗黒は、彼らの安寧につながるかどううかはわからない。 (「弱くあれ」とは言えない。だが、そうか。力を得ても、本当に弱者の為に戦っているのかが引っかかっていたのか) 自らの正義が、空回りしてはいないだろうか。 (我が剣は我が信念の為に) 解き放たれる瘴気の渦。 (誓いを違えたならばこれも又消えるだけだ) そのときは、きっと、今の惟と同じ目をした者が惟を倒しにやって来るだろう。 「リーダー、敵陣後方より詠唱速度違反です。聞こえないくらい早いのはいけないと思います!」 ラヴィアンの魔術師の瞳が、呪力のヨリシロを見定める。 地獄の業火をまとう魔力短刀に滴り落ちる生贄の血を黒い鎖に変える。 ジャラジャラと滑り落ちる鎖の感触にほくそ笑む。 「てめえら、コイツを見ろ! 俺の装備はな、校則で許可されてるんだよ!」 風紀委員に向けて突きつけられる学生手帳。 校則にしたためられた「戦闘時は武器防具アクセの所持を許可する」の一文。 風紀委員会の行動は迅速だった。 「校則検索! 三高平中等部!」 「偽造です! 手帳への細工跡視認しました!」 「ばれたか。でも、今は絶頂俺のターン! 食らっとけ! ブラックチェインストリーム!!」 ラヴィアンは、考えうる限りの『最悪』を練りこんで出来た黒鎖を叩き込んだ。 「オッドアイは神秘秘匿の観点から、コンタクトをしてどちらかに統一すべきです!」 すでに持ち物検査は言いがかりの域に達している。 防具がない状態で、集中を重ねた魔弾が後衛リベリスタに血を流させていた。 「命中がちょっと下がったくらいじゃ私は止められないよー」 シャルロッテにとって、痛みは矢を尖らせるシャープナーだ。 自らあふれさせた暗黒の瘴気がシャルロッテの矢をさらに研ぎ上げる。 生身の体に受ける魔弾は急所をえぐり、更なる傷をシャルロッテに刻む。 「そろそろいい感じかな。ここまで長かったよぉー?」 ドロリと体からぬめりある漆黒の闇があふれ、シャルロッテの身を包む。 つややかな髪のオレンジがつややかな黒によく映えた。 「リーダーさん狙えたら狙っていきたいかな? 庇う人が増えそうだから、弱い人から削るのがいいかなあ?」 もうすぐシャルロッテの魔弓も目を覚ます。 痛みという名の呪いをしみこませた矢は、風紀委員会の要を穿った。 ● 風紀委員会はしぶとかった。 とにかく、持ち物検査に必要な人数をかき集め、そのためには玉砕前提のかばい立ても横行していた。 「しかし、嫌な技だ……私の軍服も銃も、今は亡き姉妹たちの想いが籠っているのだぞ!」 「銃は、法律違反です!」 血みどろの手が、差し押さえの札を貼る。 「あとズボンだから丈は問題ないと思います! 髪の色は天然です!」 校門で抗議する風にベルカは叫ぶ。 「周りから浮かないよう、黒に染めるべきです!」 「ソンナノ、イマドキアリエナイ! 防御法の方針演説!」 ベルカは、防具に頼らない攻撃及び防御方針を打ち出し、リベリスタはそれに沈黙を以って了承する。 「しょーがねーな、素直に出してやんよ。……喰らえ、ロードローラーだっ!」 ラヴィアンはこのときのために仕込んでいた。 幻想纏は、アークの専売特許。 携帯ゲーム機から本物のロードローラーが現れ、地面にひびを入れながら滑り出てくるなどと、誰が考えるだろう。 「こいつはおまけだ。素の力だからってなめんなよ!」 装備の全てを差し押さえられても、ラヴィアン自前の能力は、風紀委員会を凌駕する。 「俺の幻想纏いにはな、車全種類とお菓子100個とせみの抜け殻とえーとそれからとにかくいっぱい入ってるんだからな!」 ハッタリで強気に叫んだのは、火炎に巻かれる風紀委員会の耳に届いただろうか。 「そして言っておく。てめーらがこれ以上持ち物検査を続けるって言うんなら……俺はPTAに訴えて校則をさらに変えてやるぜ! 持ち物検査は本人の同意が無いと駄目ってな!」 弐升の烈風と、惟の暗闇が風紀委員を蹂躙する。 悪夢のような光景だ。 ラヴィアンの黒鎖と、与一の獄炎が、風紀委員を窮地に陥れる。 この世に神はないものか。 ベルカの指揮と閃光弾が、伊丹の癒しが、智夫の献身と翼と凶事払いが、風紀委員会を瓦解へ追い詰める。 正義は必ず勝つのではなかったか。 否。と、弐升は一笑に付す。 「下らねぇ正義なんぞ、前菜にもなりゃしねぇ。一発ブチ込みたい奴がこの先にいるんですよ」 三枚刃のチェーンソーは、最後まで無事だった。 街路樹の葉は全て落ち、歩道橋の横断幕はビリビリだ。 「色々な所がお留守ですよ。そぅら、惑え」 もはや持ち物検査も出来ないほど消耗していた。 それでも瞭善の前に立ちはだかる風紀委員を完全な解析による最善手で打ちのめす。 前後不覚。もはや危険を察知して待機という考えさえ抜け落ちる無防備な恐慌。 結果待ち構えているのは同士討ち。 美しくかばいあっていた者達が殴り合って倒れていく。 沈痛な面持ちの魔法の看護士が弐升の足元から風紀委員リーダーに迫った。 「使わないですめばよかったんですけど……」 「所詮、アンタ達は前座なんですよ。油断はしませんが、構い倒す意味も価値もない」 瞭善の腹にひたりとつけられた掌からほとばしる内部を破壊し尽くす気の塊。 「そこで寝てろ」 ごふと吐き出される血の塊。 輝く白い歯をにごった赤が汚す。 「所詮、我々は風紀委員会の一兵卒に過ぎん」 瞭善は膝を突きながら、抜けるような秋空を見上げる。 「ここで、我々が、倒れても、委員長が、シジョウが、我等のシジョウが、我等のシジョウがアークを倒す。そうとも! 全ての悪を討ち果たすのだ!」 四条、至上、私情、市場……。 風起委員会の理想と現実。 それはアークへの呪詛か。風紀委員長への福音か。 望むところだ。 リベリスタはきびすを返す。 まだ、終わりじゃない。 メインディッシュは、これからだ! |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|