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星空の導―4th phase―

●黒翼教と言う組織
 翼を持った人――フライエンジェに酷似した姿を持つアザーバイド。
 『バードマン』が日本に潜伏し、9ヶ月と言う時間が流れた。
 この間、件のアザーバイドは度々発見されるもその姿を上手く隠し果せ、
 世界は異物を内包したままに時を刻む。
 幸か不幸か、伝説の殺人鬼が拓いた閉じぬ世界の大穴はこの世界を不安定なままで安定させている。
 先じての完全世界との交流等はその最たる例と言えるだろう。
 そして彼ら。『天珠』なる異世界よりの使者『バードマン』にも同様の事が言える。
 元より壊れかかっている世界の状況を鑑みれば、アザーバイドは一刻も早く排除するべき存在である。
 だが、彼らはその独自の技術と不可解な交流網で以って瞬く間にこの世界に拠点を築いてしまった。
 その潜伏機関とも橋頭堡とも言える組織――名を、黒羊教と言う。
 “白き翼を狩り、黒き翼を讃えよ”
 奏でられるは徹底的なまでの黒翼讃歌。集められるは洗脳された一般人と言う名の狂信者の群。
 その主な活動は白い翼を持つフライエンジェの掃討と言う凄惨極まる物である。
 事実、既に何人かのフライエンジェが儀式と称され件の教団に生贄として捧げられている。
 しかしただの人間を多数支配下に於いている彼らに対し、アークが実力行使に出る訳にも行かない。
 と言って、黒翼教側よりアークに干渉して来る訳でも無い。
 幾度彼の小競り合いを経て睨み合いの時は続き、そして……
 遂に痺れを切らしたアークによる強行的な潜入調査。
 それによって得られた情報を発端として――歯車は回り出す。

●アークの選択
「傭兵だ」
 アーク本部内、ブリーフィングルーム。其処には普段余り見かけない人物が混ざっていた。
 白い法衣を纏った30代半ばの男――『閃剣』常盤総司郎。
 かつて女性の胸部に特別な拘りを持つフィクサード組織の長として捕縛され、
 現在は対フィクサード関連のアドバイザーとしてアークと協力関係にある人物である。
 ナイトメアダウン以前の革醒者である彼は、逆凪系である仁蝮組とはまた異なった情報網を持つ。
 潜入調査の結果得られた情報から『黒翼教』に協力するフィクサードらの情報を探っていたアークは、
 この日、調査を依頼した彼から連絡を受け調査報告を受けていた。
「新興の組織に協力している、主流七派外と思わしきフィクサードの集団。
 おまけにトップの名前がロバート……なら恐らく間違いない。
 そいつは雇われ物のフィクサード。つまり傭兵だ」
 その言葉に、横に並んだ『リンクカレイド』真白イヴ(nBNE000001)が先を促す。
 恐らく先に情報は伝えられていたのだろう。驚きの色は無い物の、瞳には深い憂慮の色が滲む。
「『クイックドロー』ロバート・キッドマン。“ガンズハンドレッド”と言うフィクサード組織のトップだ。
 戦いが有る場所なら何処にでも顔を出し、より戦力に劣る組織に助勢する。旧知の人間だ、顔も分かる」
 すらすらと、書類でも読む様に紡がれるその言葉。総司郎の表情には何も浮かんではいない。
 けれど――

「ナイトメアダウン以前から活動している組織的なフィクサード」
 続いたイヴの言葉に、漸く室内に漂う重い空気の由縁が示される。
「しかも元々の活動拠点は米国。アークにも、オクルス・パラストにも情報が殆ど無い」
 それはつまり、何も分からないに等しいと言う事だ。
 そして、状況と言うのは大凡最悪を想定してし過ぎていると言う事は無い。
「幸い、ロバートとは連絡が付く。旧友……いや、悪友と言う奴だな
 それに、お前達が得てきた情報。特に陣容と資金源の流れを見るに、
 黒翼教が組織として成り立っているのは奴らのバックアップ依る所が非常に大きい」
 逆説、件の傭兵団とやらがこの一件から手を引けば黒翼教は空中分解――までは行かずとも、
 最低限大幅な弱体化を余儀無くされる。そうなれば、その中枢を引っ張り出す事も可能になるだろう。
「詰まる所、これを何とかするのが皆の仕事」
「『ガンズハンドレッド』は傭兵だ。金銭で転ばせる事も不可能じゃ無いだろうが高く付く事は否めない。
 とは言え、損得勘定で動く相手にはそれだけ付け入る隙が有る」
 イヴの言葉を、総司郎が補足する。その上で、彼らが立てたプランは酷くシンプルな物。
「手段は問わない、ロバートに参ったと言わせる事。
 要するにこの仕事が割に合わないと思わせればお前達の勝ちだ」
「黒翼教が負担している予想額の半分程度の資金提供は可能。でも極力無駄遣いは禁止」

 『クイックドロー』ロバート・キッドマン当人と、その部下である百名の銃使い。
 彼らの内精鋭たる10名を呼び出しておく、と総司郎は自信有りげに告げる。
 其処には重ねた時間と縁という物が有るのだろう。とは言え――問題はその後だ。
「正面からぶつかったら多分物量で押し潰されると思う、気をつけて」
 イヴの言葉は端的でありながら明快である。与えられた手札は幾つもある。
 どれを選びどれを切り、そして何処に落とし込むか。
 リベリスタ達へ課せられた役割は決して容易とは言い難い。
 けれど、それでこの長きに渡る難題に突破口が見つかるのであれば――
 今更に是非など、問うまでも無かった。

●百銃の王
「なるほどなぁ。上手い事取り込まれたみてぇじゃねえか」
 時代外れのウェスタンハット、映画の登場人物のような鋲打ちジャケット。
 テキーラのビンを載せた木製のカウンターと有っては出来過ぎとすら言えるだろう。
 ガンマンと言う語句を体現した様なその男は、
 何処か面白そうな声音でその手紙を矯めつ眇めつ眺めていたか。
 喉を鳴らすやその一端に火を点ける。ちりちりと、燃え行くのは旧友からの招待状。
 否、今となっては宿敵からの、と言うべきか。ハットの唾に指をかければ周囲へと視線を巡らせる。
 其処に居るのは10名の、腹心とも言える部下達。どれもが一線級の実力者である。
 だが、それをさて置いてもこんな面白そうな催しに尻尾を巻いて逃げ去る等、
 彼らにとって有って良い事では無い。正面切っての挑戦とあれば受けるのが“粋”と言う物だ。
「面白ぇ、まあ一辺位顔合わせも良いと思ってた所だしよ」
 なあ、お前ら、と続けた男の言葉に、違ぇねえ、と男達が軽快に笑う。
 歪夜の使徒の一角を落とした、と言う意味でアークは世界的に名前を売っている。
 であればこそ、それらと矛を交える事すら彼らの界隈ではプラスに働くのだ。
 断る理由など何処にも無く、そして何より彼らの自負心がそれを許さない。
 それを知ればこそ、百銃の王は至極当然の様に宣言する。
「賭けようぜ、奴らと俺達、どちらが優れたヒーローかをよ」
 ジャズの奏でられる古びたバーの中、盛大に、雄々しく、猛々しく、方々より号砲と歓声が木霊する。

 それはあたかも、月夜に遠吠えを重ねる獣の群であるかの如く。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年10月21日(日)22:35
 75度目まして、シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 星空シリーズ三章第四幕を御届け致します。
 先日の潜入調査が巧を奏しての変則交渉シナリオ、以下詳細となります。

●作戦成功条件
 フィクサード組織『ガンズハンドレッド』に本件から手を引かせる。

●潜入調査
 拙作『星空の導―3rd phase―』内での出来事を指しますが、
 特に閲覧頂かなくとも当シナリオへの直接的関与はありません。

●傭兵団『ガンズハンドレッド』
 百銃と称される100名の銃使いで構成された異色のフィクサード組織。
 営利目的で活動する傭兵的集団。常により弱者と見られる側へ味方する為
 往々にして社会正義と相反する立場を取る事が多い物の
 特に悪人の集団と言う訳ではない。彼らにとって金は命と同等の価値がある。
 活動拠点は主に米国。首領は『クイックドロー』ロバート・キッドマン

●『クイックドロー』ロバート・キッドマン
 40代、米国人。ウエスタンハットを被った西部劇のガンマンの様な男。
 その名の通り、早撃ちを得意とするスターサジタリー。
 第二次大戦以前の革醒者であり、
 アークの精鋭リベリスタを大幅に凌駕する技量の持ち主。
 一人前のリベリスタ8名で討伐出来るかどうかと言う戦闘力を持つ。
 所有破界器は銃と葉巻。早撃ちに関連するEXスキルを所有する。

●十銃士
 計100名である『ガンズハンドレッド』の上位10名。
 ロバート程ではない物の現在のアークの精鋭を上回る革醒者達。
 スターサジタリー、クリミナルスタアが各3名。
 マグメイガス、クロスイージス、プロアデプト、ダークナイトが1名ずつ含まれる。
●『閃剣』常盤総司郎
 現場までの案内と交渉間の仲介を行う。元『おっぱいがいっぱい団』総帥。
 30代、日本人。ロバートとは共闘した事も殺し合った事もある旧知の仲。
 戦闘能力はロバート以下、十銃士以上。原則として交渉には参加しない。

●アークよりの援助
・資金情報を掴んでいる為、アークは『ガンズハンドレッド』に対し
 黒翼教が同組織に支払っている予想額の半分程度の資金提供が可能。
・何らかのトラブルが発生し、それが全面戦争に繋がりそうな場合、
 現場に居る『閃剣』を戦力として投下する。
・現場に居るロバートを含む11名以外の傭兵達に対しての干渉は不可能。
 但し物資と人員の流れは掴めている為、これらが現場に向かう場合妨害可能。

●戦闘予定地点
 三高平郊外、開発地区の建築現場。
 周囲に人通りは無く、物音が派手に立っても一般人が見に来る事は無い。
 障害物は建築土台やプレハブなどそれなり。
 足場は安定しているが、建築中の建物に載る場合はその限りではない。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
プロアデプト
歪 ぐるぐ(BNE000001)
インヤンマスター
★MVP
朱鷺島・雷音(BNE000003)
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
デュランダル
蜂須賀 冴(BNE002536)
スターサジタリー
ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)
スターサジタリー
白雪 陽菜(BNE002652)
ソードミラージュ
ユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)
ダークナイト
シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)

●早撃交渉
 現場に現れたその男は、古びたウエスタンハットを抑え声を上げた。
「お前は変わらんな、ロバート」
「お前が変わり過ぎんだよ、ソウシロウ」
 片や双剣、片や短銃。互いに互いを一瞥し、突き付け合う軽口めいたやりとり。
 けれどガンマン風の男――ロバート・キッドマンの視線は直ぐにその背後へ向けられる。
 集められたリベリスタ8人。1人1人へ順繰りに視線が巡ったか。
 その目線が一人に止まる。漆黒の羽、体躯を眺めればそれが銃撃手である事が見て取れる。
 『Star Raven』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)を眺め、口元だけを歪めて笑う。
「悪くねぇ面構えだ」
 満足気に頷いたその言葉に機を見たか、一人の少女が進み出る。
「早速ですが……黒翼教との契約を解消してもらえないでしょうか?」
 単刀直入、と言うならばこれ以上も無い。
 シンプル極まるその申し出を投げるは『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)
 普段明朗快活な彼女の眼差しは別人の様に鋭く、相手の真意を伺う様に細められている。
 断られるは覚悟の上の申し出。けれど――
「良いぜ」
 その返答に、間が空く。予期せぬ事態に誰もが瞬く。
 更に続く言葉は、彼らの申し出ようとしていた事とまるで同じ。
「但し、お前達が俺達に勝てたなら、だ」
「……力で意思を示せというなら示します。ですが、幾つか条件を付けさせて下さい」
「幾ら出す?」
 余りに早い話の展開に、慌てて口を挟んだヴィンセントに間髪入れず返しが放たれる。
 これではまるで、西部劇の早撃ちだ。
 相手がこの手の交渉事に慣れているのは分かっていた事ながら、焦りが滲む。
「相場がわからないので言い値で――」
「待って」

 兼ねてから用意しておいた言葉を吐こうとしたヴィンセントに、陽菜が割り込む。
 傭兵相手に、それは禁句だ。命と金は同価値、それは敵も味方も変わらない。
 言い値で、と言うのは自分の命に値を付けろと言うに等しい。
「黒羽、てめぇ戦場でなら死んでたぜ」
 片目を閉じ、言葉を止めたロバートに、陽菜が指で幾つかの数字を示す。
 だが、相手はその数を見ていない。そうそう主導権を握らせはしないと言う事か。
 否。熟達の傭兵を相手に金銭交渉と言う時点で、それは既に徒手で敵陣に突貫するに等しい。
 主導権を握りたいのであれば、金銭以外の切り口で相手を追い詰めるしかない。
「閃剣。ロバートは貴方よりも、強いのか?」
 其処に降る『舞姫が可愛すぎて生きるのが辛い』新城・拓真(BNE000644)の問。
 同席していた総司郎がロバートとリベリスタ達を一瞥し、薄く笑う。
「あくまで助言として言うなら」
「「――『俺』の方が強い/強え」」
 唱和する2つの答。それは剣と銃、それぞれを佩く古兵らより別個に紡がれ。
「……扱う得物は変わったが、貴方の剣を穢す戦いだけはしない。約束する」
「あの若造が何処まで出来る様になったか、見せて貰おう」
 そのやり取りに、ロバートの瞳が僅か剣呑な光を灯す。
「貴様らは一方的に蹂躙する強さのことを“粋”と言うのか?」
「あん?」
 それを見て取った『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が今度はロバートへと問い質す。
 何故その語を。いや、噂に聞く万華鏡と言う奴か。と、過ぎった逡巡は僅か。
「粋ってな強い弱いじゃねえよ。てめえの生き様を恥じねえ様に押し通す。
 相手が自分より強かろうと弱かろうと――ああ、んなこた関係ねえ」

「大人数に少人数。フィクサードに正々堂々という言葉はないのかもしれんが、
 フェアではないのは自明の理だ。それは“粋”か?」
 多勢で無勢を蹂躙し、恥じる所は無いのか。その問いこそは至玉である。
 震えを抑え、ロバートを真っ向から睨みつける雷音の言葉に、今度こそはっきりと空白が生まれた。
「……――小娘、てめえ名は何てんだ?」
「インヤンマスター、朱鷺島雷音だ。覚えておけ。
 貴様らも、退屈にはあきただろう。退屈は、猫をも殺すぞ」
 娘と言えるほど年幼い娘がロバートに、十銃士に見得を切る。それは如何にも“粋”であろう。
 彼らは傭兵だ。己が命と金を天秤に掛けるその支柱は自負でありプライドに他ならない。
 金と命は等価であろうと――心まで売り渡せる訳では無いのだから。
「ああ、てめえが陰ト陽の獅子か。なるほどな」
「……ボクらが、勝てば黒翼から手を引いて貰おう」
「負けた場合は?」
「アークに真正面からぶつかっても勝てる傭兵集団として名が売れる」
 返った陽菜の言葉に、ロバートが大仰に肩を竦める。
「そいつは仕事に対する当然の報酬だ。俺は掛け金の話をしてんだぜ」
 名誉とは戦うと言う行為に付随する物であり、リターンに見合うリスクではない。
 リベリスタ達の申し出には契約不履行を強いるだけの“代償”が明らかに不足していた。
 本来ならこの時点で交渉は決裂していただろう。が、幸か不幸か――
「なら、貸し1つっつーことで良いんじゃないっすか?」
「そっちの嬢ちゃんの言う通り、ここでお預けはねえってもんだ」
 上がった声は「貴様ら」と括られた部下達の物。彼らは退屈していたし、闘争を望んでいた。
 そちらへ水を向けたのであれば、この結果は必然であると言えるだろう。
「……ちっ」
 舌を鳴らしたロバートの仕草に、それまで仲間達とは離れた場所で我関せずを貫いていた、
 『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)が視線を向ける。
「あそぶ? あそぶ?」
 その異様にきらっきらと輝く眼差しに、何か嫌な物を感じたか。眼差しを細め小さく呟く。
「数は合わせてやる。3人抜きな。代わりに――」
 示された額は、提示出来る額の凡そ6割。
「より少ない人数でアークを倒せたとなれば傭兵としての名声は思いのままかと思いますが……」
「なら、1人抜く度追加でこれだけだ」

 額が跳ね上がる。追加で3割。状況の推移は拒否を許さない。
 止む無く同数と言う条件で首肯したその瞬間、話は既に次へと転がりだしていた。

●英雄証明
 幕間の話である。『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)は総司郎と対していた。
 彼はあくまで仲介人、今回の件半ば役割は終えたに等しいが……
「貴方の技を私に預けても良いと思って頂けるなら」
 彼の技を覚えたいと言う冴の申し出に、総司郎は小さく嘆息するやその体躯を眺め告げる。
「無理だな、お前何かの流派をやっているだろう」
 冴の刀術は示現流を源流とする。そして剣技の流派には癖がある。
 二刀流。手数で畳み掛ける閃剣に対し、一撃必殺を軸とする示現流ではその“癖”が枷にしかならない。
「最低限二刀を武技として扱えん限り、あれは使いこなせんよ」
 技には相性と言う物がある。そして秘奥に近道は、無い。
「命とお金は同価値って何だろう……」
 『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)が疑問と共に配置に付く。
 敵は8名。ヴィンセント希望を受け、其処にはメイガスとイージス、そして1人のサジタリーが居ない。
 それは本来不要な枷の筈だ。 もしも死んだら取り返しがつかない。
 だから彼女にはどうしても理解出来ない。彼らが戦う理由が。彼らが傷付く由縁が。
 理解出来なくとも戦うしかないとは言え、その疑問はきっと置き去りにしては行けない事なのだろうけれど。
「貴方達は、黒貴の民――あの黒翼のアザーバイドの事をどれだけ知っていますか?」
 交渉が落ち着いたからか。ユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672) は戦鋒が交わる直前に問い掛ける。
 マイペースな彼女の言葉に、ロバートが浮かべるのは意味有りげな笑みだ。
 思わず、と言った体で正義感の強い冴が牙を剥く。
「お前たちは理解しているのか。黒翼教が一般人を神秘により洗脳していることを」
「それがどうした」
「その一般人から不当に搾取した財で雇われる貴様らが英雄を語るなど」
「なら牙のねえ獣は黙って喰わろってか? 手段を選べってのは既に強者の論理なんだよ」
 互いの主張は相容れない。元より、相容れる土壌が無いのだから当然だ。
 ロバートが銃を、冴が刀を抜く。この期に及んで問答は無用。
「笑止――その目に刻め。リベリスタの正義と覚悟を!」
「正義だの悪だの興味がねえ。だがな――“強者”の側が覚悟を語るな!」

 返礼の如く放たれた火線は文字通り無数。
 5者より轟く面射撃の弾幕は視界を埋め尽くすと言って良い密度である。
 回避するなど夢物語だ、射線が余りにも厚過ぎる。
 けれど、それはあくまで接近する場合の話。射程外までは、届かない。
「ヒーローとは弱者から承認されて為る存在です」
 周囲の喧騒に比すればいっそ静かに。ヴィンセントが銃口を向ける。狙うは射撃手の一角へ。
「自称するものではありません。貴方をヒーローと認めるのは誰ですか?」
 問いと共に放たれる呪いの魔弾は、違わずその頭部を射る。その言葉に、けれど誰が返したか。
「誰が認めるか?」
 それは、弾幕の支援の中足を踏み込んでいたプロアデプトから。
 視界全てを射抜く気糸の雨の渦中を駆け抜けるダークナイトとロバート当人から。返る答は等しい。
「ヒーローってのは生き様だろうが」
 己で定義しその様に行動するが故、己はヒーローで在ると自らに任ずる。
 人殺しと罵られようと、巨悪と断じられようと、多くの強者を犠牲にしようと。
「來來氷雨!」
「あは~、アークがなくなったら~、あちらに就職も考えたいですね~」
 雷音の氷雨による支援を受け、ユーフォリアが残像を引き連れて切り込みを掛ける。
 が、思わず漏れた言葉は半分位は本音が混じる。銃士を含め、傭兵達の行動には迷いが無い。
 錬度の高さは見れば分かる。その上全員が対複数攻撃を所有しているのだから集団戦をするには最悪だ。
 真っ向からぶつかれば畳み掛けられるのが目に見えている。
 だが――にも関わらず、リベリスタ達は前へ前へと駆ける。極論、この戦い勝ちが全てでは無いのだ。
「ロバートさん、あーそーぼー!」
 それは、己が欲望に忠実にロバートへ飛び掛ったぐるぐの行動からも言える。
「てめえ、歪ぐるぐだろ」
「正解っ!」
 神秘界隈が幾ら広いと言っても神秘の秘奥を写し取る、と言う方面での名声は悪名に近い。
 そして得てして、悪名は功名より響き易い。直接害が有るなら尚更である。が――

「聞いた以上に面白え奴だ。ならやってみろ」
 にっと笑ったロバートに悪感情は見えない。そこに恥じる所が見られなかったからだろう。
 次の瞬間向けられた拳銃、銃口がぴたりとぐるぐの額へ当てられる。
「えっ!? いきなり見せて」
「アラウンドゼロ」
 くれるの?――と。告げる暇もあればこそ1発の銃声が響いた。
 血飛沫を散らしてぐるぐの軽い体躯が宙を跳んでいた。銃痕は2つ。そのタイムラグ、凡そ0秒。
「……相手にとって、不足無し」
 拓真の額に一筋、血の汗が流れる。陽菜と雷音も必死に癒しも歌を奏でては居るがまるで追いつかない。
 何とか一部の、特に回避に劣るスターサジタリーを混乱させる事に成功した物の、
 しかし攻撃対象が味方全体から敵味方全体になった所でかかる負担は変わらない。
「生きるのにお金は必要だけど……私にはわからないよ」
 防御に劣り、攻めに長けるシャルロッテが痛みを込めた漆黒の矢を射る。
 攻撃すれば反撃を受ける。ヴィンセントの様な狙撃を除けばそれは止む無い事。
 痛いのは嫌だ。そして死ぬのはもっと嫌だ。幾ら金を積み上げようと、死んだパパもママも戻って来ない。
「どうして、あなた達は戦うの?」
「戦う術のねえ奴ら多過ぎるからだろうよ」
 十銃士のダークナイトが言い捨てる。多過ぎる戦う力の無い者達に、金で力を売る。
 それは、アークのやり方と然程は変わらない様に見えるのに。でも。けれど――
「刃を……銃を持たぬ者の為に使うという指針は、決して悪い物ではない。だが!」
「それでもこの男たちに見せねばならないのだ!!」
 拓真が放った銃弾の雨の中を冴が突っ込む。最前衛で文字通り暴れているウエスタンハットの男へと。
「リベリスタの――アークの、蜂須賀冴の正義を!」
「力無き正義は、悪にも等しいんだぜ」
 電撃を纏った全力の一刀。それを受け止めながら続けて2射。
 凄まじいまでの早撃ちながら、曲技とも言える零時差連射ではない――ただの、バウンティショット。
 だが、その威力たるや尋常のそれではない。決して護りが浅い訳では無い冴が膝を付く。

●理想への血路
「……厳しいですね~」
 戦況を見ていたユーフォリアが小さく呟く。状況は良くない……所ではない、明らかに悪い。
 最大要因は火線の分散だ。2人が回復に回されている上、ぐるぐと冴の2人がロバートに張り付いている。
 残り4人の内混乱と言う形で敵の牽制を為しているのはユーフォリアのみだ。
 それ以外の3人はダメージこそ重ねている物の、純然たるダメージレースでは土台勝ち目が無い。
「すごい……すごい! すごい! それ欲しいっ!」
 振り被られ、振り下ろされる拳。その威力は決して小さくない。だが、返礼の銃弾は更に重い。
 度重なる銃撃の嵐でボロボロになりながらも、その眼差しは光を灯して揺るがない。
 ぐるぐは強欲だ。欲しいの前にして倒れている何て、しない、できない。運命を削ってでも立ち上がる。
 だがそれを見たロバートはにべも無い。銃口の代わりに指を突きつける。
「拳銃に愛を込めろ」
「?」
「てめえがこいつを覚えたいってんなら、血反吐を吐いて銃に習熟しな」
 先ずはそれからだ。語と共に放たれたのは全域を包む散弾。『クイックドロー』のハニーコムガトリング。
「――っ……まだ、戦えるの!」
「全部、終わるまで、倒れてられないっ!」
 護りに劣るシャルロッテが、回避に爆弾を抱える陽菜が命を、運命を噛み砕いて立ち上がる。
 そちらに視線を一瞬向け、最も弱っているサジタリーに再度射線を合わせるヴィンセント。
 元より無かった余裕は刻一刻と削られている。突破するには余りに終着点が遠い。
「僕は誰に認められなくても構わない。自分の意思に従います」
「ああ、それでこそヒーローってもんだ」
 放たれた銃弾が戦場を切り裂き、そう言って両手を広げた十銃士を射抜く。
 そして倒れる。混乱した末に潰しあった十銃士を含めこれで2人。未だ、2人だ。
「この場の勝利を治める為ではなく、力なき人々を護る為に……」
「出直せ、小娘」
 再度の早撃ちに、遂に冴の身が沈む。

 気付けば、リベリスタ達は追い詰められていた。雷音、ユーフォリアとて満身創痍。
 無事なのは射線から外れているヴィンセント位だ。
 それは地力の差もあれ、連携の不足もあれ、目標設定の見込みの甘さもあれ。
 せめて銃士の半数か、ロバート1人でも落とせたなら流れは変わっていただろう。
 だが、局面は既に引き返せない所まで来ている。
「言葉は銃撃と剣戟にて、……貴方との戦いを望む!」
「……貴様を調伏すれば話は聞いてくれるのだろう?」
 此処が、限界だ。雷音と拓真が思考を切り替える。勝ちが見えないならばせめて一矢報いるのみ。
 宣戦布告は戦場の華だ。その語を聞いて、挑発する様にロバートが指で彼らを招く。
「だったら、わたしが牽制しますから~……後は、頼みます」
 ユーフォリアが決死の覚悟で一歩踏み込む。銃士らの射撃精度は高い。
 回避に長ける彼女には辛い戦場だ。けれど、それでも1歩でも深く。幻惑する様に舞う、双輪。
「争いが生むものもあるのだろう。でもそれは、誰かの悲しみにも通じるものだと思う!」
 雷音が仕掛ける。不吉と不運を齎す星占の秘術。闇色の影がロバートを覆う。
「誰も悲しませず、何が貴いか何てな分かるもんかよ」 
「ボクは、少女だから――!」
 銃口が向く。全身が凍る。恐い、けれど。いつまでも恐いなんて、言ってはいられない。
 その眼前へ、走りこむ、影。
「この一撃に、全てを載せる……!」
 銃声、剣戟、その剣閃は不吉と、不運の加護を受け――一撃にして必中を為すも。
「……なるほど、なかなかやるねえ」
 重い重い一撃を受け、それでも。尚、『クイックドロー』は其処に在る。
「だが、若えぜ新城の孫」
 ぐらりと、歪んだ視界と流れる血液。剣を杖に意地と誇りで倒れる事だけは免れたか。
 追撃の銃口を向けたヴィンセントに、4つの銃口が返る。
 次の掃射で、全滅する。確定した未来に、既に誰もが忘れ掛けていた声が上がる。
「――そこまでだ」
 総司郎の声に、ロバートが銃をホルスターへ戻す。これ以上は、ただの殺し合いだ。
 そんな事は誰も望んで居ない。この場では、敵も、味方も。
「契約通り、貸し1つだな」
 その言葉に、今は誰も答えられない。答える意気も余力も無い。
 だが、一つ明らかになった事がある。次は、こうはいかないだろう、と言う厳然たる事実。

「報酬を振り込む口座は追って指定する」
 言葉と共に踵を返す百銃の長達。その後姿を睨みつけ、リベリスタ達は口腔に溜まった血を噛み締める。
 それは、命の味。潰えなかった鼓動を確かめる安堵と共に。
 けれどそれは同時に次なる戦いの厳しさを予感させる――苦い敗北の味である。
「それでも」
 すべてがうまくいく世界があるといいとおもう。
 一人ごちた雷音の声が、今は静かに、何処か虚しく響いていた。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
ハードシナリオ『星空の導―4th phase―』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

交渉系のシナリオは難易度以上に難しい事が多いですが、
今回は見事な着眼点で場を引っくり返した方がいらした御陰で事無きを得ました。
敗因はむしろ其処とは別の場所にあり、仔細は本文中に込めさせて頂いた心算です。
MVPは交渉を纏める最大要因を担った朱鷺島・雷音さんへ。

今回の結果を受け、黒翼教との決戦は高難度で行われる予定です。
この度は御参加ありがとうございました、またの機会にお逢い致しましょう。