● 「うう……先輩も人使いが荒いなあ」 めそめそと泣きながら、真昼間の商店街を一人の女性が歩いていた。 年のころはおよそ20前後。腰まで伸びる綺麗な黒髪と端正な顔立ちは知的な怜悧さを感じさせそうなのだが、半泣きで道を歩く姿は寧ろ小動物のような可愛らしさを彷彿とさせる。 彼女は懐に抱いた荷物を大事そうにしながらも、目的地――三高平市に向けて徒歩で移動中だった。 「移動手段くらい用意してくれてもいいのに。私ただの一般人だから、こんな街中でフィクサードとかに襲われたらひとたまりも無いんだけどな……」 「ほほう。そんな危険を考える所以は、その懐のモノが原因かね?」 「ええ。そうなんですよ。何でもアークの皆さんに届ける必要が有るアーティファクトらしくて……って?」 唐突に掛けられた背後からの声に対し、女性が振り返ると―― 黒いシルクハットにマントを羽織った、ビキニパンツ姿のおっさんが立っていた。 それを眼前にした女性こそ、まさしく平常心で居られるわけがない。 「へ、変態……っ!? 変態が居ます! 誰か、誰か此処に変態が!」 「ハハハ何を失礼な! それに普段は幻視能力でこの紳士的な部分は隠しているともさ!」 「今もそうしてくださいよう!?」 私一般人だからそれで見れなかったのにー! と言う女性を尻目に、凄ぇ怪しい風体のおっさんは堂々と言う。 「細かい事はどうでも良いのだ! さあ早く渡したまえ、使用者の生命力を一時的に消失させることで任意の能力を底上げさせるアーティファクト、仮称『命の天秤』を!」 「何でそんなに説明口調なんですか!?」 良く漫画とかで居る解説役のモブキャラっぽい喋りをしながらも、おっさんは余裕の表情を緩めない。 何しろ、このおっさんこんな容姿でもフィクサードである。 その実力がどれほどのものかであるかは予測がつかないが、少なくとも一般人を相手取って負けるとは到底思えない。 「やれやれ仕方がない、どうしても譲る気がないというなら、力づくでも奪わせて貰おう!」 「こ、来ないで下さい! 何か貴方に触れるだけでも私の生理的にマズい事になりそうな予感が――!?」 当然、そんな要望が聞き入られるわけも無く。 おっさんはマントをはためかせつつも、アーティファクトを持つ女性に飛びかかった。 ● 「……って言うのが、今回見た未来映像」 「……一応聞くが、それ、昼日中の、商店街での出来事だよな?」 「うん」 傍目にもその表情が明るくない『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)の言葉に、リベリスタ達はかくりと頭を垂れる。 身元バレを恐れないこうした阿呆な敵は、裏方での作業を本懐とするリベリスタ達が最も苦手とする相手の一つだった。 「一応補足しておくけど、今回の目的はフィクサードから件のアーティファクトを守ること。倒す必要はない」 「……随分消極的だな?」 「仕方がない。衆人環視という、戦闘を行う環境のこともあるけど……何より、恐らくこのフィクサードを倒すことは不可能だから」 その突然の告白に、リベリスタ達も目を丸くした。 「このフィクサード、見た目は唯の変なおじさんだけど、その実力は正直、今のあなたたちでは完全に倒しきることは難しい。時間があればそれも可能だったかもしれないけど、今回は戦闘を行う場所が場所だから、戦う時間も限られてしまう」 酷い冗談である。 呆気に取られているリベリスタ達を尻目に、イヴは手にした資料を確認しながら、敵の具体的なステータスについて述べていく。 「敵は一人のフィクサード。種族はジーニアスだけど、職業については不明。基本的には持っている杖を使って、遠距離から術式を介しての射撃攻撃を行ってくる。かと言って近距離での攻撃を行おうとすれば、それはそれで問題がある」 「……?」 「アーティファクトなの。この杖」 イヴが言うには、この杖の所有者に近づいた者はおおよそ十秒以内に間合いからはじき出されると共に、一時的に姿勢制御を困難にする効果が在るらしい。 遠距離攻撃を主軸とした戦闘スタイルに、近距離攻撃を寄せ付けぬ装備となれば、まさしく一人で戦闘がこなせる。 解説を聞いていく内に表情が暗くなっていくリベリスタに対して、イヴは「だから」と前置きして、言った。 「今回の戦闘は、追われている女性が持っているアーティファクト……『命の天秤』の使用を許可する」 「は?」 「基本的な効果は、先ほどの未来映像でおじさんが言っていたとおり。消失した生命力はおよそ12時間後に回復するけど、それまでの間は回復能力でも取り戻すことは出来ないから、注意して使ってね」 ――アーティファクトの使用。 珍しい、本当に珍しい事態であるが、それは裏を返せば、リベリスタにとってこの戦闘は其処まで勝ち目が低いものである、と言うことだ。 一種の緊張感を抱きつつも、リベリスタ達はイヴに対してハッキリと頷き、ブリーフィングルームを去っていく。 ――その刹那。目に入ってしまった敵の姿……ビキニパンツ穿いたおっさんの姿は、取りあえず記憶から削除したと言うことで。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月19日(日)21:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 現在、彼らは目的地に向かうため、アークの職員が運転する車に乗っている。 相談は既に終了しており、彼らは目的地に到着するそのときの為、今の内装備のチェックをしたり、頭の中で作戦内容を再確認したりと、緊迫した雰囲気が流れていた。 当然と言えば当然。例え動き始めたばかりの組織とは言え――アークの人員をもってして倒せないとまで言われたフィクサードに対して、彼らが何処まで抗しうるかは正直、勝敗や生死と言った線引きが難しいからだ。 ――今の私たちじゃ敵わない。大きな壁が立ち塞がることは、これからも私達に訪れるであろう―― 『さくらさくら』桜田・国子(BNE002102)が思うとおり、恐らく今日のような戦いは、これ一つではあり得ない。 しかし、だからこそ、彼らは此度のような勝ち得ぬ戦いを、経験として味わわねばならないのだ。 盤石。そう信じてまだ佳良。彼らはそれを戦う者としての肌で理解している。 故に彼らは常に最善の解答を選び、進む。極と人が呼ぶ境地に至ろうと、決してさらなる可能性を見るための歩みを止めることは無い。 そして、その果てに見える、勝利成らざる勝利という栄光こそが――この世界を悪漢の手から守ったという、確かな証に成るのだかr 「……強くても、フィクサードでも、変態だけど」 お嬢さんそれ言わないで。 エリス・トワイニング(BNE0002382)はいつも通りの毒舌(正当な評価ですがね?)をぽつりと呟きつつも、己の髪の毛を揺らして電波の受信状況を確認しているご様子。 うん、いや確かに先ほど彼女が言ったとおり、今回の敵は何というか少々露出が派手であってああもう良いや変態である。 まあ、着ている物はマントの下にビキニパンツ一丁とか、誰だってそう言いますよね。 「クールビズにしても露出過多だな。 俺としたら綺麗なお姉さ……! うぉぉー貴様の好きにはさせんぞぉ、黒の紳士ぃぃ!」 言いかけた台詞を、周囲(主に女性陣)からの圧力によって速攻で曲げた『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)は車内で朗々と叫び声を上げる。 でもここだけの話、色彩感覚的に彼とはセンス合いそうな気がするのだが気のせいだろうか。閑話休題。 ――そろそろ到着します。 アークの運転手がそう声をかける。瞬間、彼らの中に緊張が走った。 綿密な作戦、精緻なる役割分担、それらをもってしても戦いを前にしたときの感覚は拭えるものではない。 だが。 「……変態の割には、場所もこちらの立場も、上手く見ているじゃないか。 面白い、俺に追いつけるかな」 それをいっそ、高揚と不適な笑いに変える者が、居る。 『冷たい雨こそが俺に相応しい』司馬・鷲祐(BNE000288)は、これより戦場となる雑踏を見て、いや、と言い直す。 「――俺達に、追いつけるかな、か」 傲慢か、大胆か。 意見など仰ぐまでもない。聞いたリベリスタ達は、その言葉に確かな力を得て、笑う。 いざ、戦場へ。 言葉こそ無けれども、動きこそ違えども、その目的は一として、リベリスタ達は舞台となる商店街へ踏み出し始めた。 「……でも、変態さんってのはちょっと」 ですよねー。 ● さて、突然だが此処でちょっと質問しよう。 今回戦場となる商店街、当然多くの人が居るであろうこの場所から、一般人すべてを退去させる方法とは何だろうか? ――以下、解答。 「肉だ! 肉を切らせろー!」 怒号を発しつつ、ガスマスクを被りながら十徳ナイフを持って暴れ回る『悪夢の忘れ物』ランディ・益母(BNE001403)により、商店街は混乱の極致に陥っていた。 「キャー、暴漢よ! 暴漢が出たわ!! とっても凶悪な顔をしているわ、みんな逃げてー!!」 「ぎゃー武器を持った男が暴れてるぞー逃げろー」 更にその直後、『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)と『デイブレイカー』閑古鳥 比翼子(BNE000587)が見事なまでの甲高い叫び声を上げる事で、どうすれば良いか混乱していた一般人達は、我先にと商店街のゲート目指して走っていく。 確かにこれより戦場となるこの場から一般人を退かせるには、こうした方法が適しているのであろうが――何だか叫び声を上げる女性達が妙にノリノリだったり、ガスマスク越しのランディの瞳の中にいろんな感情が綯い交ぜになっていたりするのは気のせいだろうか。 ともあれ、それと結果はまた別のことだ。 既に商店街の一般人は本当にちらほらと見える程度であり、あと数分もしない内に、この場からは完全に人が居なくなるであろう事が察せられる。 そうなる前に、動くのは――『イージスの盾』ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635)。 彼女は未だ装備をアクセス・ファンタズムに納めた状態で、一般人の少女の振りをして、未だ動かぬ女性――件のアーティファクトを持つ女性に声をかけ、近寄っていく。 「きゃー、暴漢でありますー、お姉さん、急いで逃げるであります!」 「! だ、駄目、こっちに来ちゃ……!」 眼前のフィクサードを見た女性は、近づくラインハルトを見て必死に止めようとする。 当然それを聞き入れる気はない。元よりラインハルトの役目は、彼の女性に近づいて自身の庇護下に置くことだ。 両者の距離は最早5mも無い。少女は最後まで『只の女の子』の演技を崩さず、女性に向かって手を伸ばし、 「……少々、甘いな」 「!?」 ――瞬間。 フィクサードが持つ杖によって、彼女は小柄な体を吹き飛ばされた。 傷こそは浅いものの、立ち上がると同時に酷い目眩が彼女を襲った。恐らくは例のアーティファクトによる、姿勢制御の阻害効果であろう。 フィクサードは尚も立つラインハルトを見下ろし、苦笑しながら語る。 「一般人の振りをして近づくというアイデア、悪くはない。だがこの女性の直ぐ傍にいる私の紳士的な姿を見て、何の反応も返さないというのは……少々まずかったな」 「……!」 成る程、確かにこの敵、馬鹿では有るものの頭は悪くない。 接近に失敗し、尚かつアーティファクトまで使われた時点で、遠目からでもラインハルトの策が潰えたことを理解したリベリスタは、それぞれが装備を構えて、フィクサードと女性、両者の間に飛び込もうとするが―― 「……下手に小細工に執着せず、人気が無くなった段階で素直に此方に飛び込めば良かったのだ。そうすれば――」 それより先に、フィクサードが杖先に灯した黒い魔法陣が成る方が、圧倒的に早かった。 「私が周囲(かれら)を警戒することもなかったろうに」 ――さて、お遊びの時間は、此処までである。 ● 黒蛇、展開。 縄のように、鞭のようにしなり、蠢くそれらは、一つの方向性――拘束という命を与えられたことで、接近しようとしたリベリスタ達を次々と絡め取っていく。 囚われたのは、国子、ランディ、比翼子の三人。 他の二人は兎も角としても……アーティファクトを持って逃走する役目を負った国子が行動不能に陥ることは、リベリスタ達に強い焦燥感を抱かせる。 「……っ、『天秤』を此方へ!」 叫んだのは、もう一人の逃走役である鷲祐。 対する女性はそれに驚き――それに従うべきか、逡巡する。 つい先ほどまで一般人に被害を振りまいていた悪漢が属する集団である。もしこれが仮にフィクサード達であったならと考えれば――自然、彼女は彼らに対して不信感を抱く。 鷲祐はその反応を見て、僅かに舌打ちした後、女性の身体を持ち上げた。 「!? な、何するんですか……!」 「信じられないならば、それはお前が持っていろ!」 同時に、フィクサードに背中を向け、鷲祐は商店街のゲートめがけて駆け出す。 「……逃走か! 紳士的な行いとは言い難いな!」 「その紳士なら、引き際も弁えてるよなぁ!」 追いかけようとしたフィクサードを止めたのは、喜平の散弾。 数十を超える弾がバラ蒔かれると同時、フィクサードの身体の端々に血飛沫が舞う。 着ているものが着ているものだけあって、向こうの防御力は低いらしい。 ――かと言って、あの様相を喜ぶ気など毛頭無いが。 「……有り難くねえなあ」 喜平もげんなりとした表情で呟いた。いやはや、全くコレが女性でないのが悔やまれる。 「変態でも……強いらしい……から」 拘束の対象に入り切らなかったエリスもまた、開いたグリモアールを基点に術式を展開し、味方の拘束を光によって溶かしていく。 助かった、と苦笑する仲間達であるが、その回復は受けた怪我までは癒さない。 直接的な傷こそ少ないものの、拘束と同時に受けた猛毒によるダメージは、短時間でも確実に彼らの身体を蝕んでいた。 「……『命の天秤』ね。何故これを狙う? 確かに俺としては中々好みの道具だが、お前はそれだけじゃないだろ」 「答えると思うかね。君たちが人数を削ってまでアーティファクトの保護を優先とした以上、私の対処は諦めたのだろう。 逃げられると解っていて自分の考えを晒すほど、私は抜けてはいない!」 フィクサードが言い切る前に、ランディが得物を振りかぶり――下ろす。 斧と杖。鋼と木がかち合う。 地力の違いだ、フィクサードに出来ることはいなす程度が精々。 新たに一条の切り傷を作りながらも――フィクサードが浮かべる笑みに、未だ焦りはない。 前衛陣の壁が有ろうと、後衛陣の攪乱が有ろうと、それを突破する自信が、未だ彼の中にはあると、そう言うことか。 「……さて、流石にこれ以上時間を引き延ばされるのは不味い。児戯はここらで終わりにさせて貰おうか!」 「っ!」 拘束が解けると同時、『命の天秤』を運ぶ鷲祐と女性のカバーに回るため、急いで彼らを追い始めた国子は――その言葉に若干、姿勢を堅くする。 一度、光が爆ぜると共に、肉薄していたランディが吹き飛ばされ。 今一度、ワンパターンな黒の奔流が、逃走する彼らを飲み込まんと襲いかかった。 ● だんっ、という音が響き、国子の膝が地に着いた。 自分の分と、庇った分、二人分の攻撃を一手に受けた彼女の傷は、あっと言う間にその生命を消耗させる。 更に、国子と共に、鷲祐もまた黒蛇にとらわれていた。 国子が庇ったのは鷲祐自身ではない。彼がその腕に抱える女性である。 足を止める要因に少しでも成りうるので有ればとフィクサードが弄した手は、最悪にもリベリスタにとって正しく回避しようのない『使命』であった。 「……ま、だ……っ!」 昏倒。訪れるはずの運命を、内にある『力』を以て強引にねじ曲げた国子は、猟豹の如き鋭利な殺気を放って相手を牽制する。 しかし、それが瀕死の獣のものとなれば――抱く恐怖も大きくはない。 「……いや、全くしぶとい。運命そのものを持ちうる者とは本当に厄介な――」 瞬間、二条の銀光が彼に疾る。 戦場ヶ原の小太刀と、比翼子の片刃剣だった。フィクサードはすんでのところでそれを受け、同時に自身の杖で絡め取る。 「天秤は、仲間が安全な場所まで運びます。私たちも、その邪魔をさせないために、貴方を止め続けます。 もはや互いに利のない戦い。引いて頂けませんか?」 「君がどれほど追おうとしたって、諦めるまでとにかくひたすら鬱陶しい感じに足止めするよー。それとその杖のアーティファクトは売ったら高そうだからそいつも置いて行きなさい」 「全く、最近の淑女は勇ましいものだな。 しかしそれを唯ハイハイと認めるほど、従うほど、私は諦めが良くはない!」 軽敏たる動きを得意とする彼女たちに、近接戦を行わないフィクサードの攻撃が命中するはずもない。 振るわれた杖を最低限の間隔で避けた彼女らは再び襲いかかろうとするも、フィクサードの動きは刹那分だけ、彼女らを上回った。 構えを取られる前の肉薄。同時に、杖が光り、戦場ヶ原を吹き飛ばした。 「……っ」 鈍痛。驚異的な平衡感覚(ハイバランサー)によっ転倒は防がれたものの、距離を稼がれたことには変わりない。 「……其処で転がっていたまえ!」 「させないのであります!」 一歩、自分から敢えて比翼子と距離を取り、黒蛇の間合いに捉えようとした段階で、ラインハルトが叫ぶ。 杖を持つ片腕にとりついて行動を阻害されたことで、フィクサードの動きが大きく揺らいだ。 そして、それは隙と見るに十分。 「諦めな、引き際位解るだろうよ? 頭が良いなら尚更な」 ラインハルトと同様、距離を詰めたランディが膂力を尽くした一撃を叩き込み、フィクサードの体を吹き飛ばす。 「むぅ……!!」 更に、エリスの癒しの光もまた展開されたことで、鷲祐を縛っていた蛇は一様に悶え、消失していった。 障害は消え、残るは万事を撃ちきったフィクサード一人のみ。 「この……!」 未だ追いすがろうという気概。驚嘆に値するほどのそれを止めたのは、二丁の銃口。 「……俺だって綺麗に事は進めたいが、そんな贅沢言ってられないのよ」 喜平と、その影の従者。 一人の男を左右から銃口で挟む姿は、まるで影絵のように。 「――嗚呼情けなや、この実力差」 だん、だん。 銃弾はフィクサードに違わず命中し、その理性を消失させる。 ……彼が自我を取り戻したのは、それからおよそ三十秒後。 鷲祐と国子、そしてアーティファクトを持つ女性の三人が商店街から脱出した、遙か後の話だった。 ● 「さて、『天秤』はもう手に入らなくなったワケだが……未だやるかい?」 何処か余裕を持った表情でランディが言う。 対する『黒の紳士』は、その言葉に小さく嘆息して……言う。 「……遠慮しておこう。市民が行き交う公共の場に必要以上の血を散らすことは、私から見て紳士的とは言えないのでね」 背を向けて去る『黒の紳士』。 その姿が一瞬、陽炎のように揺らいだ。恐らくは幻視能力を発動させたのだろう。 「……色々な意味で……恐ろしい……敵……だった」 去り際の彼を見て、エリスはうむうむと頷きながら言う。 確かに怖かった。戦闘能力以前に、その性癖とか、色々が。 「……次は倒しましょう」 呟いた戦場ヶ原の声は、リベリスタとしての使命感以外に色んなモノが混ざっている。 仲間達がそれに、苦笑を浮かべながら頷いたとき――彼らの携帯端末が着信音を鳴らす。 ――内容は、アーティファクト、並びに鷲祐、国子、女性三人の保護を完了、アーク本部へと移送するというものだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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