●彼と彼女の全てについて その出会いは鮮烈と鮮血にまみれていた。 胸の中心を穿った穴はどう考えたって生きていられるそれではなかったのだけど、それでも彼は生き延びた。 世界からこぼれ落ちる命を運命に拾い上げられて、全てを失った彼を組織が拾い上げる。 成る程、人間一人の尊厳と在り方を貶めるには十分な筋書きだ。 「ねえ『レイディ』、ボクは強くなったんだ。君のせいで、君のために、君だけを見続けた末に」 だから――と、その先を口にしようとして男は口を噤む。 その言葉は再開のその日まで。 その有り様は最後のひとときまで。 残しておくべきなのだろう。 ●彼の弱者のすべてについて 「『逆凪』のフィクサードが、ここ暫くで現れたアザーバイドに積極的に干渉し、場合により捕獲を試みている……という情報が入りました。その内の一件はこれから起きる出来事なので、そちらの対処に回ってもらいます」 背後のモニターにアザーバイドのデータを出力しつつ、『無謀の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)はリベリスタに対し口を開いた。 「捕獲目的は不明。捕獲カテゴリの合一性は……まあ、あるとしても『ヒューマンタイプ』であることでしょうか」 「フィクサードの強さというか、その辺は?」 「はい。程度こそ高くはないですが数が多いです。それと……どうやら、戦場外に監視者がいるようなのですが、今ひとつ掴めません。 対象のアザーバイドについては別添資料を。それでは、最大を以って最善の救出を。 これ以上の不徳は我々のチャンネルではあってはならないのです」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月14日(日)23:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●Ready to escape,for "LADY" 少年の歩みは、遅い。 肉体的特性から、とはいうまい。神秘存在の前では個体差など無いに等しい。 問題があるとするならば、少年を狙う面々の数と質……異世界に在って尚異物である『悪党(フィクサード)』達の攻め手に晒されたが故だろう。 幾ら優れた存在であろうと、数の暴力の前でその能力を発揮し続けるのは並の労では敵うまい。 ……命の灯火は燃え上がる。『運命的な第三者(アーク)』の介入がなければ、燃え尽きる速度で、だ。 「逆凪のフィクサードに、そして監視者……ですか」 「逆凪の連中、何考えてんのかね」 アーク側、最前線を駆け抜ける『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)は速度を落とさずに小さくごちる。 方や、『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)はその背後に蔓延る闇の濃さに、僅かに感情を顕にもする。 逆凪。フィクサード七派に於いて最大勢力を誇り、理性的な悪逆、という相反する論理を平然と執り行う組織だ。 『理性的』であることを宿命付けられた彼らが、衝動的にすら思える捕縛行為に及んでいる事は確かに、不可解ではある。 「他者を巻き込む恋物語は歪だ。そんなの美しくない」 「恋は素敵だけれど、積もり過ぎた想いが行き着く先は何処なのかしら」 恋は決して押し付けるものでも、巻き込むものでもないだろう。『刃の猫』梶・リュクターン・五月(BNE000267)にとって、守る対象がある戦いほど猛るものはないだろう。 傍らを往く『帳の夢』匂坂・羽衣(BNE004023)にとっては、「しあわせ」を護ることこそが存在意義。であれば、不幸に堕ちようとしている対象者を救う事は、その近道であり続けよう。 思いの形は違えど、ベクトルは同じ。互いの視線を交わし、その奥を見抜いた二人の声なき同意は確たる絆の現れとも言えるだろう。 「愛は全てを征服する、か。これも一つの愛の形?」 愛とは、本質的に何なのだろうか。『いとうさん』伊藤 サン(BNE004012)にはその回答が見いだせない。 何を以って愛と成すのか。逆凪の凶行に何のウラがあったというのか。 分からない以上は知るしか無い。知りたいからこそ、こうして戦いに赴いているのだとも、言える。 知らないことを知ろうとするのは、人間の本能であり本質である。 「アザーバイドの拉致誘拐とか、逆凪まで六道の真似事でも始めたの? いい迷惑」 そんな感情が錯綜する中、冷静さを保っているのは『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)だ。 ここ暫くで頻発した六道によるアザーバイドやエリューションの拉致と、手口が似すぎているようにも思える。 六道の真似事、と呼ぶには余りにも、その行動が突然であるのは少々気がかりだが……迷惑なのは邪魔されるあちらも同じか、と笑うことが精々だった。 「全く災難な事だねえ、同情するよ」 偶然にもボトムに現れたアザーバイドが、更なる偶然でフィクサードに狙いを定められる。 割と何処にでもある偶然の一種だが、リベリスタが動くには十分過ぎる偶然でもある。 こと、『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)からすれば特に、である。 工場跡を視界に入れ、転がる鉄屑の多さに苦笑いを禁じ得ない彼もまた、形はどうあれその一人。 そんな中、であるが。 「いっつも着けてるから無いと違和感がすげぇぜ……」 「……うん、ふじこちゃんカッコイイよ☆」 「意外。思ったより悪人面じゃない」 「言いたいことあるなら言えっつったが、お前ら歯に衣着せなさすぎじゃねえか!?」 珍しく、というか恐らく初めて、そのマスクを外し任務に挑む『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)の存在感はなかなかのものである。 当然、その素顔を見たことがない面々が殆どであるわけで、反応は様々だが、まあこんなものなのだろう。 「捉えた、この先真っ直ぐの突き当りに追い詰められてる……!」 「じゃあ、余裕はないってことですね」 綺沙羅の探知の網にかかった感情は、膨大な敵意と一縷の怯え。朧気ではあるが、明らかに追い詰められた状況。 応じる義衛郎の声も、綺沙羅のそれを受けて加速し――両手に大盾を構えた男がそれを振り仰ぐより疾く、鮪斬がその鎧に、一閃を刻み込んだ。 ●Escape,escape,and excution!! 「こんばんは。助勢に来ましたよ」 包囲された状況に踏み込み、よろめく大男の傍らから声を掛けた義衛郎に、少年――クロイツ・プリフィカは戸惑ったように顔を上げる。 言葉こそ通じないが、温かみのある表情は彼を動揺から引き戻すには十分だった、とも言える。 「今助けるから持ちこたえて!!」 続けざまに綺沙羅の『通じる』言葉がかけられれば、その正体はともあれ、現れた新手が自分にとって敵味方のどちらか、は判別させるには適切だったろう。 小さく、しかし力強く返された少年の頷きは、リベリスタ達を安堵させるに足るものだった。 「アーク参上! そこまでだ!!」 「覚悟しちゃいたけど、アークのお出ましってか……手前ェら! そこの小僧が最優先だ! 名前通った厄介モンは少ねぇんだ、狼狽えんな!」 「知名度で測るんじゃねえ! クロイツの背後のパイプ部分、あれはやべえ……当てるんじゃねえぞ!」 伊藤の放ったエネルギー弾を鋒で弾き、肩で受けた男の怒声が響く。続けざまに放たれた隆明の二丁拳銃による連撃は、盾の男の周囲を固める面々を撃ち抜き、抜けていく。 数で大いに勝るフィクサード、増して『逆凪』の面々だ。多少の介在に動揺しているようでは彼ららしくもない。クロイツへの包囲を再び狭めようとしたところで、羽衣と綺沙羅が同時に地を蹴った。 「御機嫌ようフィクサード。もうクロイツには触らせないわ」 「邪魔。そこで立ってて」 「勝手言いやがるぜ、後出し気味に割り込んできやがって……!」 「狼狽えんな! 思う壺だぞ!」 ほぼ着弾点を同じくする、炎と閃光の乱舞。動きを縫いとめられるのと間断無く、炎がその身を焼き払う。 だが、まだだ。フィクサード達の多くにとって相応の痛撃ではあったが、まだ彼らを倒すには至らない。 理性在る敵が、その程度で歩みを止めることなどありえない。 錫杖を大きく掲げた一人が、高らかに祝詞を紡ぐ。 そのすべてを癒し切り、且つ縛られた者の動きに再動を齎すその波長は、正しく高位の治癒術だ。 だが、彼女たちにとってその程度想定内であり。 最大の目的である「クロイツへの接近」は既に果たして久しい。 「折角出会えたのだから、羽衣と遊んで頂戴よ」 年齢相応――なのだろうか。艶のある唇から放たれた言葉は、不敵な響きで放たれた。 「危害を加える事など、赦さない」 大上段から、義衛郎の狙った相手へと五月は一撃を叩きこむ。 咄嗟に盾を掲げた相手だが、秒を待たず押し切られ、弾き飛ばされた。 威力としては破格のそれを受けきるだけでも異常だというのだ。 胡乱な目をし、ふらつく彼を押し切るなど、彼女からすれば容易くもある。 「身体がもう一つ二つ、欲しい所です」 「仕事をして正しさを証明する、ってことでいいんじゃないかな?」 魔術書を手に、氷雨を叩きこむ紫月と、癒し手へ呪いの弾丸を叩きこむインベルグは、クロイツの間合いに入るには未だ間合いが足りない。 だが、布陣を打ち崩すことを前提とするなら、その間合いでも十分に戦えよう。 動きを縫いとめられたフィクサード、耐久を度外視し戦いに挑んだ数名を鑑みれば、あと数手でその陣容も逆転する。 「必ず元の世界に帰すから、あいつ等撃退するの手伝ってくれない?」 『…………』 綺沙羅の手にした懐中電灯の光に僅かに顔を顰めたクロイツの榛の瞳が、一瞬だけ銀の帳に隠れ、伏せる。 魅力的な提案である、と思う。異界にあって言語コミュニケーションを取ってくる少女の声には誠意がある。 そして、悪人然とした姿見をした者であれ、自分を守るために動いてくれるという状況は、動揺を強くする彼にあって心を揺り動かすには十分。 小さく、だがしっかりと頷いたその表情は、先程までの動揺とは違う。握りしめたX字のシンボルを構え、少年の瞳は前を見据えた。 「オレもちょっと良いところ見せますかね」 「ッの、野郎がァ!」 義衛郎の追撃を盾で弾き、大男が盾を振り下ろす。彼の反射神経を上回る一撃は、胸郭を強く叩き振りぬき、弾く。 両者に徹った痛撃が、互いの呻きと共に硬直をもたらし、間隙を生む。 ――つまりは。 そこに第三者の介入が入った時点で、その趨勢が決まるということ。 「オレは、護る事には貪欲だ」 防御姿勢すら取れない一瞬をして、五月が二度目にして大きく、跳躍を果たす。 背に携えた仮初の翼をして加速した一撃は男の肩口から先を一気に削ぎ落とし、叩き落す。 「誰も触れさせない」 男の目から、戦意と抵抗の意思、生気が消失したのを睥睨し、五月は宣言する。 「そう、誰も」 「甘ぇんだよ! 通れると思ったか!!」 「その数こそ甘ェだろうが! 調子のってんじゃねえぞ三下ァ!」 苛立ちを隠さないフィクサードの一人と、隆明の拳が打ち合わされる。 だが、地力と決意の差など明確だ。二発、三発と打ち合わせれば、その差が大きくなるのもまた、必然。 黒の「Warrior」がフィクサードの拳をかちあげ、銀の「Hustler」が腹部を貫く。 勢いと状況に任せた一撃は、相手を沈黙させ、弾き飛ばした。 「しかしふじこちゃんイケメンやね」 「言ってる場合かよ!」 ガシャリ、と音を立て跳ね上げられたド鉄拳の砲身が、フィクサード達を狙い、掃射する。 動揺する気配を砲身の先で感じながら、背後から撃ち放たれるインベルグの矢に軽く口笛を吹く程度には、彼にも余裕が見えつつあった。 神聖術師の回復力は確かに、彼らにとって慮外だった。 だが、リベリスタの決意の方が上だった、それだけの話。 ぽつりと、戦場に言葉が溢れる。 大きく吸った息の音は、リベリスタのものでもフィクサードのものでもなかった。 声として認識されぬ上位世界の響きが、フィクサード達の真上に陣容を象り、そのまま振り下ろされる。 悲鳴すら許されぬ、苦鳴の連鎖。その場に居た敵対者全てが、リベリスタ達の前に『平伏した』。 神秘を体得した者なら直感で理解する。陰陽術師の上位技能の更に上、体系に存在しない空間干渉。 ――しかし、殺さない技である、と。 ●Good-by,"Plorogue" 「あー、そろそろ帰ってもらえると助かるんだが」 圧倒的な力差、というべきか。 状況が生んだ優位は、ここで畳み掛けろと言わんばかりだ。 「君達にも大切な人が居るでしょ?」 追い打ちのように、伊藤が撤退を促す。だが、動かない。否、動けないのか。 恐らくは発声すらも制限されているように思われたそれは、止まらない。 綺沙羅が、クロイツを静かに手で制す。 それで、恐らくは通じたのだろう。響いたのは、喘ぐように酸素を取り込む複数のフィクサードの姿だった。 「六道とでも手を組んだの?」 「……あ、ァ!? 俺達があんな木っ端と組んでまで動くかよ、冗談じゃねえ」 「ならば、レイディとの御伽噺……そんなものの為になら命を削るのか、君達は」 綺沙羅の問いには、実にあっさりと否定を返す。六道と組む、という選択肢がさも下劣であるかのように、苛立ちを隠さずに。 だが、五月の問いには言葉に詰まる響きがあった。その単語を、今持ち出されるとは思っていなかったのだろう。 「『監視者』は君達の上司? 名前は?」 「言うワケねーだろ。馬鹿かテメェ……『レイディ』の事まで知ってやがるとか、お前らホント常識外だぜ、畜生」 「他を傷つけて得る結果を望むなら、羽衣は絶対許さない。それでも?」 「――当然だろ、馬鹿か。ここは預けてやるが、この程度で懲りる『あの人』じゃァねぇよ」 静かに、立ち上がる逆凪の面々は、倒れた者を担ぎ、或いは肩を貸しその場から退こうと動き出す。 だが、一人。義衛郎と五月、二人を相手取り渡り合った大男だけは、何処かへ親指を立て、そのまま、 「イッコだけ教えてやるぜリベリスタ。『レイディ』は高貴で、同じくらいどうしようもねえ、『存在』だ」 親指を、振り下ろした。 小規模な爆発が炸裂し、破片が散る。 盾の破片が手榴弾もかくやと言わん勢いで振る舞い、炸裂する。 紫月は、咄嗟に大男が視線を向けた方へと顔を向ける。 そこに佇むのは、細身の男だった。妄信的な面持ちで、然し理性だけは欠かない、ある意味『狂信者』に値する姿。 グレースケールのスーツに巻かれた異質な革ベルトは、そこに提げた『何か』の異形性をいや増しているようにも思える。 その口が綺麗に歪められたのを彼女が目にするが早いか。 「御機嫌よう、オレはメイ。アークのリベリスタだ」 「羽衣がしあわせにするのはクロイツよ。貴方は絶対にしあわせにしない」 「次がありゃテメェが出てきな、こそこそせずによ!」 五月、隆明、羽衣の三者三様の挑発を――『彼』は受け取っただろうか。 『……あ、ありが、とう』 そんな状況下、出し抜けに拙い声で感謝を伝えようとするクロイツの頭を、伊藤はあらんかぎりの勢いで撫で付ける。 既に脅威は去った、と伝えるために。 「嗚呼、そう言えば。如何して世界を渡って来たの?」 思い出したように羽衣が問いかけるが、綺沙羅を間に置いたそれにクロイツは小さく首を振る。 自分の判断で辿り着いたというよりは、偶発的なそれであるということだろう。 「……ところで、『レイディ』って誰?」 『分からない、ボクはその人は知らない、見たこと無い……けど、知ってる』 「知らないのに、知っている?」 伊藤の言葉に矛盾した答えを返すクロイツに、思わず問いを繋げたのは紫月だ。 彼の答えは、或いは何かの意味があるのではないか、と。 『レイディ。御伽話でよく読んだ、とても恐いヒト。でも、その姿は誰も知らない。何処かに居るけど、誰も理解できないヒト』 五月にもらったリボンを掲げ、去り際に小さく呟かれたその言葉は。 存在を更なる謎と混迷に貶めるだけ、だったのだろうか。 或いは。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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