●地上の楽園 深夜。暗闇の山道。一台の深緑色のダンプカーは、白々と灯るヘッドライトを頼りに黒色の世界を進む。 深緑のダンプが進む先にあるのは、鉄くず瓦礫に薄汚れたぬいぐるみ――人々に無用物扱いされたモノたちがうず高く積まれた空間。 10年前。数多の嘆きと哀しみと共に、人々の記憶から忘れ去られてしまった土地――最終処理場を目指して、ダンプは走る。 荷台が持ち上がり、ガシャガシャとゴミの山に新たな仲間達が積み重ねられる。 ダンプを運転してきた痩せ型の骨ばった男性は、産廃専門の処理業者であった。だがこの処理場はすでに処理場としての機能を失っているから、当然、男は国の許可など取らずにこれを行っている。 夜間の山道走行に疲弊しきっていた男は、一服しようと思案を巡らせて車から降りた。敷き詰められたゴミのせいで地表近くの空気はひどく淀んでいたが、紫煙をたゆらせながら眺める空は見事な月夜だ。 リアリストな彼にとっても、宇宙が湛える昏き輝きだけは、唯一つ安心して見ていられる。美しいモノだ。 ――だが、その夜、男の生きてきた尋常な世界は瞬く間に書き換えられる事となる。 突如、前方の百キロはゆうにある鉄くずの山が空中にふわりと浮いた。 男は自らの目をまず疑った。 そして、少女が、汚れきったゴミの山にはあまりに不釣合いな相貌をした少女が、こちらへと近づいてくる。 男はそれを見て、これは幻覚の類なのではないかと考えた。 男は口をあけた。悲鳴をあげるつもりなのだろうか。 だが、なぜかしら、乾いた笑いが自然と洩れ出してしまう。 男は自分という存在自体のぶれを感じた。 あぁ――きっと、長時間廃棄物の発する毒気にさらされて、気が狂ってしまったのだろう。 男の純真な心は自分の気狂いを恐怖し、穢れた魂はこれを賛美した。だって―― 「――イい素材見ィつケタ」 機械的な音声を発したのは、すでに眼前にまで迫った、眼帯をした女の子。 真っ白な月を背後に佇むそんな彼女を、この上なく、美しい――そう感じた男が、正気の沙汰であるはずがない。 でもその声から一瞬間を置いて男の頭上へと振り下ろされたのは、冷たく非情で暴力的な現実。 ぐしゃり。 少女は今日も壊れたモノを拾い集め、解体しては工作する作業を繰り返す。 ヒトに作られ、ヒトに用いられ、ヒトに捨て去られたモノの行き着く先。 そこは彼女の奥底から湧き起こる『本能』を追求できる、彼女の地上の楽園だった。 ●ピグマリオン・ロマン 彼女は人間――いや、『元』人間なのか。 夕方。特務機関アーク。その本部のブリーフィングルームにて、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)へとリベリスタらから最初に投げかけられた問いである。その質問は、世界の歯車から外れながらもあくまで人で在り続けられた彼らの境遇を思えば、当然とも言える質問だった。 「心配する必要はない。今回のターゲットはE・ゴーレムの一種に過ぎないから……ただ、無数の不法廃棄物の中から生まれたソイツは、『破却』の反転衝動とも言える『工作』を突き詰め、処理場の地下に迷宮ともいえる広大な空間を構築した。アークはこの地下迷宮を便宜的に《ファクトリー》と名称し、リベリスタにこの施設の破壊と主の少女型エリューション《ガラテア》の撃退を要請するものとする」 今回の標的は人間ではない。そのことにほっと息をなでおろすのを隠そうともしないリベリスタもいる中、淡々とイヴは今回のエリューション事件に関する事務的な用件を述べ連ねる。 現場の最終処理場は十年前に閉鎖されて、その処理機能をもう既に失われている。そして迷宮への入り口は、その処理場跡北端の施設内にある。 迷宮は三層構造で、迷宮の主のガラテアは第二層、『制作室』と呼べる空間にいる可能性が高い。 「――で、ここからが厄介な話になってくるの。ファクトリー内の階層間移動にはエレベータを使う。でも、このエレベータは部外者には使用できない。だからまずは『認証キー』を手に入れないことには、中枢部にいるガラテアの元へたどり着くこともできない」 そうして、その鍵は第一層の『兵舎』にある――イブは説明を続ける。 「……兵舎って言葉からご察しできると思うけど、迷宮内にはガラテアの配下の『人形兵』がうろついているの。数は全部で九体。コイツらを倒しもってでないと、奥へと進めない……でも」 人形兵は施設内にある『修復機構(リペアー・システム)』によって、破壊後約十分で戦線復帰する、一種の不死性を持った相手らしい。 「人形兵は個体としては脆弱。だけど、一地点に集結されると苦戦を強いられると思う。だから、ガラテアとの交戦前にその数は可能な限り削っておきたい」 以上の要素を検討すれば、不死の人形兵相手にとれる作戦は、大きく分けて二つ。 一つは、人形兵に復帰する時間を与えず、一気に中枢にまで踏み込んで片をつける短期決戦。もう一つは―― 「リペアー・システムの破壊。大本の生命線が断たれれば、疲れ知らずの人形兵も形無しってこと。とはいえ、システムを叩くにも相応の手間と時間が必要。加えて、今回の戦場は相手のホームグラウンド。相手に時間を与えれば与えるほど、確実にこちらが不利になる。だから詳しい手順は貴方達に任せるけど、とにかく効率よく作戦にあたってほしい」 どうやら最初から最後まで、一筋縄ではいかない任務であるらしいことをリベリスタらは悟った。 「――そういえば、今回のエリューションには『工作』の他に何か別の『こだわり』を感じる、とか智親が言ってたんだけど……まぁ、どうでもいいかもしれないけど、一応頭の片隅に入れておいて」 とりあえず概要はわかった。しかし、数人のリベリスタの脳裏にはある疑問符がまだ残っていた。 「なぜ、エリューションが少女の姿をしているのか……? それはもちろん、廃棄物の一つがそういう形、だったから」 そう言って机上に置かれた封筒から資料と思しき紙束を引き出し、書面上を辿ってぴょこぴょことつぶらな眼が上下する。 長く重苦しい沈黙のあと、咳払い一つしてから、イヴはいつも通りの口調で言う。 「――とにかく、色んな廃棄物が混成して現れたエリューションだから、どんな仕掛けが飛び出してくるかわからない。くれぐれも注意して。みんな無事に生きて帰ってこれることを、祈ってる」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:鳥居太陽 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月21日(火)22:13 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●第一層 深夜。最終処理場の地中深くに構築された地下迷宮《ファクトリー》。 北の管理塔にある地下区画入り口。リベリスタらの戦いは既に始まっていた。 「……まず、一体。大方この迷宮の哨戒役、ってところかな」 赤い一ツ目の人形兵の後頭部から得物のダガーを引き抜きながら、『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)は呟いた。 「でも中枢の修復機構を破壊しない限り、この人形兵は何度でも甦る――で、いいんだったっけ?」 『不機嫌な』マリー・ゴールド(BNE002518)は眼前に倒れる無機質な銀色の人形をあくまで無感情に見遣る。彼女の少し後ろで『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)は小さく肯くと、懐から一片の地図を取り出した。 「元々この施設は地下は一階までしかなかった……だから、第一層の概要は多少掴めると思うけど……この状況を前に楽観視は出来ないよね……」 一行は隊列を確認した後、止めた進行を再開する。辺り一面に鉄屑散らばり、天井には申し訳なさげに蛍光灯がぶら下がるだけの通路は異様の一言に尽きる。 「では、あとの残り二層はガラテアちゃんが完全にゼロから作り上げたのですね。これだけのモノを作り上げるのは相当なものですわ。彼女はこれを作っている間、一体何を想っていたのでしょうか」 『特異点』アイシア・レヴィナス(BNE002307)がノートにこれまでの進路を書き込みながら言う。しかしその言葉を覆い隠すかのように、低く潜めた男の声が被さる。声の主は隊列の先を歩く『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)だった。 「……いるな。この先前方、右辺の部屋。おそらく、件の『兵舎』にあたるポイント――だが、当初の方針をまず履行すべきだな。ここは素直に迂回しよう」 階層間移動に不可欠なエレベータの『認証キー』がある兵舎を敢えて無視するのは、彼らが案出した一つの仮説に基づくものであった。 旧施設の構造・基礎の枠組から類推すれば、最初の目的であったエレベータへの到達は案外容易に済んだ。 「今のところは大丈夫。ソッチの首尾はどう?」 最後尾で敵襲を警戒していた『存在しない月』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)が発した言葉に、エレベータの認証端末に手を置いた『電子のなんたらかんたら』後鳥羽 咲逢子(BNE002453)は快活に応える。 「うんーっ、いけるぞーっ。単純なセキュリティシステムだ。 ――これで、私達でも認証キーなしでエレベータを使えるはずだ。では、開くぞ」 咲逢子が眼を瞑り、最後の一念を送る。すろと、堅く閉じられていた扉は事も無げにその口を開いた。【電子の妖精】でエレベータの認証プロセスを無理やりパスするという彼らの目論見は、どうやら上手くいったようだ。 「アイシアの目算だと、ここから迷宮のメインシステムにアクセスできないか、ということだったが……どうやらこのエレベータは一個で独立した機構らしいな……」 そう言って残念そうな顔をする咲逢子を『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)は慰めつつ、道中見つけた踏み台代わりになりそうな資材片手にエレベータ内の点検を始める。 「では逆に、ガラテア側からも直接このエレベータに干渉はできない、という事でもあるのです。 ……よし、天井もおーけーです。乗って大丈夫なのですよ」 八人全員がエレベータに乗り込み、第三階層へと向かうボタンが押される。ワンテンポずれて、キリキリと駆動音を響かせゆっくりと下降を始める密室の直方体。 この間に、到着直後でも瞬時に戦闘に移行できるよう、面接着を持つ者は天井へ。それ以外の者は左右の壁際に。そんな最中、アンジェリカは言った。 「あ、ウラジミールさん……わかってると思うけど……上、見ないでね……?」 密室の室内に、じとりとした重い空気感が張り詰めてゆく。 ●第三層 エレベータはファクトリーの最下層に到達した。扉が開く。 と同時に鳴り響く、地鳴りのような轟音。ワイヤーロープは不快な軋み音をあげた。 突如として突っ込んできた巨大な鋼材が、エレベータ奥を強く打ち付けたのである。柱を抱えるのは紫と緑の眼光を放った二体の人形兵。 「――ずいぶんなご挨拶ですわね。人形さんに礼儀を求める方が不躾、というものかもしれませんが」 下段にチェーンソーを構えたアイシアがエレベータの外へ躍り出て、一閃。紫眼の人形の左腕が弾け飛ぶ。 続けざまに放たれた二撃目。人形は俊敏に身を引いて回避。 一方、片割の緑眼の人形兵にはウーニャが放った気糸が絡みついていた。動きを止めたところをすかさず、ウラジミールが人形の顔面目掛け銃床を叩き込む。全体重を乗せた打突に大きな緑の一ツ目はひび割れ、体は遥か後方へと吹っ飛ばされる。 そして寸刻。紫眼の人形兵は寸刻の逡巡の後、倒れた緑眼の人形兵を抱えて通路の奥へと走り去っていった。現戦力では太刀打ち出来ないと判断したのだろう。 天乃はおもむろに、持ってきた看板をエレベータの扉に挟み込んだ。これでこの看板が外されない限り、人形兵の合流のためにエレベータが使用されることはないだろう。 元の土台が多少なりとあった第一層とは違い、第三層はつぎはぎだらけの鉄板で壁・床・天井の全てが構成されている。魔宮は深部に至るほどにその趣を色濃くしていた。 「一本道がしばらく続いたかと思えば、ここに来て左右の分岐、ですか。さて、あたし達はどちらを進むべきなのですかねぇ」 はてなと首を傾げるそあら。沈黙を破ったのは洞察力に秀でた天乃の一言だった。 「……右の通路から、風の流れをうっすら感じる。こんな隔絶された地下空間に風が吹き込むだなんて、普通はありえない。だとすれば、右手奥にあるのは――」 咲逢子が言葉を繋げる。 「地表からぶち抜かれた資材搬入用だと言う『縦穴』か。防衛戦力を左右するような重要拠点が、外部に直接連なる地点近くに立地する可能性は薄い、と考えられなくもないが……」 そうして、蓋然性がまだ高いと言えるルートを地道に選んでいった結果、八人は順調にオペレーションルームへと行き当たった。 出入り口はさほど広くない。まず室内に踏み込むのは突貫力のあるマリー、アイシアのデュランダル二人となった。 ――合図を送り合い、同時に中へと飛び込む二人。床を蹴る音、剣戟音、衝突音、敵が倒れる音。 そんないくらかの音の後、オペレーションルームの制圧は完了する――そう思われたが、 「――後方より三体接近。皆、気をつけて……!」 ウーニャの叫び声に呼応するかのように躍動する陣列。紫、緑、黄の眼をした三体の人形兵は、縦横三角の形に展開しながら馳せ迫る。 中衛からそあらが魔力の矢を放つ。矢は最前方の人形の胸部を貫くも、それを意にも介さず、一団は一斉に一直線に突っ込んでくる。 天井を伝い走り、人形と真正面から対峙する形をとったアンジェリカが、秘めた闘志を発憤させる。 「ここでボクらを食い止めようって算段なんだろうけど……そうはいかないよ……!」 ――数分後。多少のダメージを負いはしたが、挟撃と言う劣勢下で人形兵五体全ての打倒にリベリスタらは成功する。 修復機構――大小様々な機器が連なり、部屋壁面に繋がる無数の管の束の蓄積群。人数がいたこともあって、それほどの時間を要せずそのシステムは修復不可能なまでに破壊された。これで以後、人形兵は倒されても復活することはありえない。 ●第二層 第三層から第二層に向かうエレベータ内で事件は起きた。施設全体の電力が停止し、八人は暗闇の密室空間に閉じ込められたのである。 アンジェリカが持参してきたドリルのおかげで何とか事無きは得たが、第二層へと辿りつくにはかなりの時間を消費する結果となった。 第二層。光が失われた迷宮で各々が灯りの確保に努めていた。そんな中、一人暗視を所持するマリーが赤い火花を散らせる物体を暗がりに発見する。走り寄って見ると、それは壊れた階段の開錠端末らしかった。おそらく停電も含めて、最後の砦『制作室』に残りの人形兵が集結するための一計だろう。 しかしここで退く訳にいかない。リベリスタらは覚悟を決めて、幽かな灯りを頼りに暗中を進み始めた。 八人は、行き詰まりの扉の前で立ち止まった。堅牢な鉄扉を隔てて漂ってくる気配。すでにもう明白だ。 ウラジミールが戦闘の準備にオートキュアを仲間に付与する――と、彼は一瞬の眩暈を感じて目を擦った。彼は歴戦の兵であるが、エリューション能力を扱うキャパシティには限度がある。長時間に亘る未知の領域の探索に、彼らの心身は疲弊しきっていた。 「人形の一人遊びはこれまでだ。世界のために工場の主《ガラテア》にはご退場してもらおう――」 自分を奮い立たせる意味合いも含めてウラジミールは述懐する。 そうして、迷宮《ファクトリー》最後の扉は開かれた。 制作室内部は、どこまでも広く長く続く暗闇。部屋奥、工作台の前に彼女はいた。彼女は、茫洋とただ立ち竦む。 彼女は少女。ぼろきれみたいな衣装から覗く純白の肌。金色の髪。蒼い瞳の三白眼。一寸の歪みも狂いもありえない、この世ならざる相貌は、まるで―― 「にん、げん……? おい、お前大丈夫か」 ふらふらと歩み寄ろうとするマリー。そんな彼女の肩をウーニャは力強く掴んだ。 「ダメ、マリーちゃん。アレは人間じゃない。美しすぎる人形なのよ。『ただの人形』に知性も、魂も、感情も、宿りはしないわ。だから、ね? 大人しくこっちに戻ってきて……!」 激しく狼狽するマリーをたしなめるように、ウーニャは声を荒げる。その言葉を皮切りに、場の空気は変わった。奇妙な抑揚の声が響く。 「コんニチハ。デも、ジャまは、ユルせなイ。ダカら、サよウなラ」 そう言って少女が慇懃に頭を垂れると、迷宮最後の四体の兵士が暗闇から湧いて出た。 ガラテアの背後から幾本もの光の筋が上空へと伸びていく。 「――いけない、皆、散って……!」 上空から降って来る複数の気配を感じ取って、天乃が声を張り上げた。一瞬間をあけて、重量感ある物質が地面に連続して落ち、床面は爆ぜた。 そして悲鳴。上からの不意の攻撃に対応しきれなかった咲逢子が、壁へと強く打ち付けられた。 ウラジミールは戦慄し、サーチライトで発射元を探る。そして見つける、天井近くの筒状の物体六つ。 「カノン、火砲か……! しかも室内で六門、なんて出鱈目だ。砲手は、いや、それよりも」 既に敵に魅了された者が出ていることは予想されたので、ウラジミールは残り少ない力で咄嗟の解除を試みる。 だがその直後、力を使いきった彼は横合いから現れた人形兵の攻勢に反撃する事叶わず、背後からの二体目に羽交い絞めにされる。 ――次弾が装填され、拘束された彼に向け再度火を噴く砲台。 必死の抵抗で直撃は何とか免れたものの、飛び散った破片の一部を頭部に受け、ウラジミールは意識を失った。 あっという間に、室内は粉塵と血潮飛び散る阿鼻叫喚。 壁際に倒れ伏して未だ意識が戻らない咲逢子へ飛び掛る、三体の人形兵。その間に割って入る天乃とそあら。天乃が高速の斬撃で蹴散らす合間に、そあらは咲逢子のところへ走り寄る。 「これは、不味い。前衛も後衛も、あったもんじゃない。早く決着をつけないと、火力で押し切られる。そあら――!」 「まかせてくださいです。断続的に天使の歌で治療しますです。だから親玉は――!」 目配せを受けて一気に間合いを詰めたアイシアが、親玉の少女目掛けて上段から得物を浴びせ掛ける。 ――硬質な金属音。 渾身の攻撃は防がれた。少女の身の丈二倍以上はあろうかという、ハルバードのような武器によって。 押し返されながら、間近で人形ガラテアを捉えたアイシアは、全てを把握した。 「ソレが――あなたの正体ですか」 ガラテアから伸びる細く、強靭な無数の『鋼線』。収束して武器を瞬時に構築し、拡散して火砲の遠隔操作を可能とする。廃棄物の中でも、人形と『ワイヤー』が、ガラテアのその本質であった。 前線でアイシアとマリーが幾重に攻撃を積み重なる。それを捌く内に生まれた隙を見計らって、ウーニャが放った気糸がガラテアの動きを留めた。 だが、足りない。広域に展開する鋼線までは拘束しきれない。すぐに脱出されることだろう。 ――とは言え、一瞬で十分だ。 開戦直後から壁と天井を縦横無尽に駆け、あらゆる地上へ降りかかる災厄を、安全圏の宙で回避し続けた彼女にとっては。一瞬さえあれば。 ――まるで影のように、アンジェリカはガラテアの背後に降り立つ。漆黒のコードが、一片の汚れもない純白の首に掛かる。 「おしまい。これでモノを作っては壊す、そんな不毛な遊びはおしまい。もうおしまいにしよう、ガラテア……」 指にほんの少しの力を込める――するといとも呆気なく、ガラテアの首は捩れ落ちた。 その瞬間、天乃らと交戦していた三体の人形兵も糸が切れたように崩れ落ち、施設内の電力も復旧した。 「お前は何をつくりたかったんだ……?」 明るみの下に晒されたガラテアの首に向かって、マリーは問う。瑞々しい生首の、艶かしい唇から、たどたどしい言葉が紡がれる。 「――な、二を……? ワタシはタダ、アノ人のタメに……イナクナッたアノ人がワタシをイツカ、迎エにキテくれるように……。 デモ、ゼンぶオシまい……? ダッタら、ヤッパり、ヒミつキチのサイごトいエバ、『ジばく』。『ジばく』はオトこのロマん。そうデスよネ、ダんナ様……」 そうして、目を瞑り、穏やかな表情で口角を緩ませて。人形ガラテアは、一つの言葉すら発さなくなった。 ――遠くから聞こえてくる、巨大な爆発音。 人形の言葉に倣えば、じきにここは崩れ去る。咲逢子を抱えた天乃が、半ば呆れた様子で言う。 「ホント、バカみたいに、バカ正直な……急ごう、今回は負傷者も多いし。こんなかび臭い迷宮とは、早くおさらば」 ●ユメのオワリ 八人が迷宮を出たとき、夜はもう明けようとしていた。 爆発の衝撃に巻き込まれないよう、処理場跡の外へ出て、周りを取り囲む山の斜面を登る一行。放心状態のそあらは言う。 「……はぁ、本当に綺麗さっぱり。ガラテアさん、後片付けだけは百点満点と言えちゃうかもです」 広大な地下区画の消失によって、地上に溢れていたゴミの山も地中に沈んだ。あとには土砂の山だけが残された。 「なぁウーニャ、私にゃ難しいことはわからん。でも、お前があの時言ったみたいに、アイツに知性も、魂も、感情もないだなんて、私は思えない。私とアイツ、一体何が違うんだ……?」 「さぁどうだろうね……でもあの時、私の言った言葉にあの娘は――怒ってたのかもしれないわね」 戦いは幕を閉じた。 夢を見た『人形の姿をした少女』は数多の想いの残滓と共に、眠りについた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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