●カワイイアカチャン モウスグカエル、カワイイアカチャン。 シロクテ、カタイカラニハイッテイル、カワイイ、トクベツナ、アカチャン。 コツコツト、ナカカラ、タタク、オトガスル。 モウスグカエル、カワイイアカチャン。 ●付属品が許せない 「雄鶏が産んだ卵をヒキガエルが温めると、鶏の上半身と蛇の下半身を持つコカトリスが孵化する」 真白イヴは、そう言ってモニターをつけた。 どこかの山の中。 湿気でじくじくした沼地。 泥の中に折り重なるようにして、座布団みたいなヒキガエルが三匹積み重なっている。 「このヒキガエルのうち、一番大きなやつが、今、コカトリスの卵を温めている。割ってきて」 世界は神秘に満ちている。 雄鶏はごくまれに卵を産み、ヒキガエルはごくまれにその卵を温める。 よくある話だ。 今まで世の古今東西で、世界に愛された者達が一生懸命雄鶏の卵を踏み潰して歩いていたのだ。 偉大なる先人達に栄光あれ。 「ヒキガエルは、今、保護本能の塊。最優先事項はコカトライスの卵の保全。そのためなら命を懸ける。E・ビースト。毒があるから気をつけて」 いつもより、イヴの表情が固い。 モニターの色味のせいか、顔色も悪く見える。 「事態は切迫している。あんまり時間がかかると孵化する」 わなわなと指先が震えているように見えるのは気のせいだろうか。 「生まれたてのコカトリスは、まだそんなに強くないけど、急速に成長する。相手を麻痺させたり、毒を吐いたりして弱らせたあと、吸血するよ。あと、小さいから、狙いにくい」 こんな感じの生き物と表示された中世の木版画は、とさかを持った雄鶏の尻尾が二股に分かれた蛇になっている。 もはや、イヴはモニター画面の方を見ようともしない。 「生まれたてだから、鶏の部分はひよこだと思う」 そう言って、ついにイヴは顔をしかめた。 なんとなく、小刻みにプルプル震えてるように見えるんですが、目の錯覚だろうか。 「すごく気持ち悪いと思うけど、がんばってきて」 気持ち悪いの我慢して、一生懸命説明してくれた幼女、マジエンジェル。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月08日(水)21:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●食物連鎖に関する考察 暑い。ガンガンと太陽が紫外線と赤外線を照射してくる。 にもかかわらず、空気自体は冷えていて寒い。 指定された場所は目と鼻の先。地面がにわかにぬかるんできた。 「ヒヨコさんどんな子なのかなぁ……か、可愛くない……? そ、そんなはずないです、生まれたての子は可愛いはずです……多分!」 『コドモドラゴン』四鏡 ケイ(BNE000068)は、『生まれたてのひよこちゃん』にそれなりの夢を見ている。 「……まあ確かに、鳥型である以上、コカトライスも雛の期間はあるんだろうけども」 (ある意味貴重な光景になるんだろうか) 『獅士』英 正宗(BNE000423)と呟く。 「カエル、ひよこ、蛇……」 『眠れるラプラー』蘭・羽音(BNE001477)の眠たげな目が、うっとりと細められる。 「こう、鷲の本能が疼くっていうか……」 じゅるるぅ。その場にいた全員の耳によだれをすするような音が入った。 「……冗談だよ」 ……嘘だ。 「世にも珍しい食材を調理できると聞いて」 『テクノパティシエ』如月・達哉(BNE001662) は、ブリーフィングルームで卵と聞いた瞬間に、本業モードにお脳が切り替わって、肝心なところをスルーしたらしい。 「まあ、多少のアレとかナニとか聞き間違いはあるだろうが、つまりはそういうことだ」 そういうことって、どういうことだ。 「神秘っておもしろいね。そんな奇跡起こせるんだ」 (たまごたまご。外を目指してノックして、返ってくるのは死の呼び声。奪われるイノチ。なんとも不条理) 『原罪の羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)は、呟きをお気に入りの言葉で締めくくった。 「生まれると面倒な生き物なので、さっくりざっくり処分して帰るのデス」 『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)は、ルカルカの呟きが聞こえていたのかいなかったのか、散文的に結論を出す。 まさしく。 世界は不条理だ。 本来生まれるはずの無い卵。温められるはずが無い卵。 世界の矛盾を凝縮されて出来た澱が明確に破壊されるべく。 それは、正しく奇怪で歪だ。 叩き潰さずにはおれないほど。 世界の自浄作用の一環。 それは、殺される為に生まれてくる。 葬られる為に生まれてくるのだ。 ●あざ笑う蛙 人肌加減の沼地。 恐る恐る足を踏み入れると、じゅぷん。といやぁな感触がする。 親蛙の上に子蛙の上に孫蛙。 それぞれあさってな方向を向きながら、座布団のように積み重なったヒキガエルタワー。 親蛙の腹が半分くらい泥に沈んでいるが、背の小さなケイや行方は見上げてしまう高さだ。 「ええと、これは……」 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)は、ある意味安堵した。 (騙されたとか可愛いとか何も考えずにやれそうね、久々に) 「うん、純粋に、その ブサイク」 一番最初に動いたのは、ケイだった。 沼の上を飛ぶように走り、飛び上がった。 孫蛙に向かって、一閃。 ずっと孫蛙が子蛙の背中をぬめって避ける。 そこにありえないもう一撃が加わった。 じゃっ。孫蛙の腹がこそげる。 げこっ。 びょんと、孫蛙が子蛙の背中を蹴った。 沼地を飛び越えて、べとんとアンナの足元に着地し、その足元にひとっと張り付く。 「……ぎゃーっ、なんかこっち見てる!? 分かるの!? 人語通じるのこの化け蛙!?」 孫蛙の動きを注視していたアンナは、目を見開いてとっさに足を引いた。 げこげこっ。 ドカンッ! 泥が飛び散る。 アンナの金の髪が、泥と血でまだらに染まった。 沼地は、蛙の領域。 げげっ。 孫蛙は、嘲笑めいた泣き声を上げた。 親蛙が、ひちゃっとケイの腕にすがりつく。 げここっ。 鳴き声と共に、擦り付けられた黒い泥のようなものが炸裂して、ケイの頬のうろこが削れた。 じゃぶじゃぶと泥を蹴立てて、仲間が動く。 「カエルが鳴くけど、帰るわけにはいかないデスネ」 行方は、両手に巨大な刃を握りこむ。 「邪魔な蛙は吹っ飛ばすっ」 羽音は、身の丈ほどの無骨な大剣を肩に担ぎ上げる。 次々と、体内の気を練り上げた光が刃に宿る。 光ごと子蛙の上にどかどかと叩きつけられた。 べよんと子蛙のが親蛙の上で弾む。 ぬるりとした外皮で刃が滑って有効打にならない。 ジャブジャブと泥の中を突き進んできた達哉は、蛙の周囲をすばやく見回す。 「時間が惜しい。少し手荒だが……巻き込まれるなよ?」 達哉が言った。 何それ。 ケイ、羽音、行方の目が点になる。 その頭の周囲でやけに渦巻いてる、ぐるぐるしたの、何。 どんっ!! 問答無用で頭の中に流れ込んでくる、卵の白身。 割れた卵の殻、デロリと出た濡れた雛、黄色いオムレツ、赤いケチャップ、がだらりと垂れて、血が血が血が。泡だて器、空飛ぶボウル、フライパン、ジュウと焼かれる羽まみれのヒキガエル。 切れ切れに頭に流れ込んでくる膨大な思考の奔流。 受け止めきれない衝撃が体の外から来るのか中から来るのか分からなくて、要するに蛙の巻き添え食ったってこと? ぼちゃぼちゃと頭から巻き上げられた泥をかぶる。 というか、目が痛い、耳が痛い。脳が、神経が痛い。 ケイが泥に埋まっている。かろうじて足が見えた。 ●それが運命に愛されるということ (積み重なったカエルと、その下に隠された卵……足場は悪く、時間制限付き。なかなかに難関ではありますが……越えられるという期待を込めて任されているわけですし) 「負けられません」 前方の大惨事を前にしても、なんのその。 蘭堂・かるた(BNE001675)も、蛙タワーにつっこんで行く。 「臆することなく、叩き込むのみです!」 打刀と短刀を振りかざし、鼻面が半分ひしゃげた子蛙に更なる一刀を加える。 ぐにぃと、奇妙な手ごたえで有効打が入らない。 「次貰ったらヤバイ……っ!」 アンナは急いで詠唱を全体回復請願詠唱に切り替える。 泥の下でじゅくじゅくしていた傷口がなくなる感触に、リベリスタ達は知らず安堵の息をつく。 「こいつは引き受けた。頼むぞ、皆」 正宗は、子蛙の前で剣を抜き、盾を構えた。 攻撃するためではない。仲間を守るため、攻撃させないための牽制の剣だった。 親蛙が、バチバチと閃光を放つ舌を出す。 極限まで伸ばした舌をぐるぐる振り回すごとに、雷撃がリベリスタ達を襲う。 かるた、行方、ルカルカに雷の鞭が絡み付いて離れない。 とりわけ、ルカルカの様子がおかしい。 背中から泥の中に棒切れのように倒れ、びくんびくんと奇妙な痙攣をし、口から泡を吹いている。 目がぐるりと白く反転した。 「ルカルカーッ!!」 誰かが叫んだ。 応えるように、指先が動く。 泥だらけのピンクの髪をかき上げながら、体を起こす。 「ね、理不尽だらけ、このせかい」 ●さあ、生誕の歌を歌おう 泥の上に雷撃に煮えたリベリスタの血が滴る。 注意深く見れば、その赤が異様な勢いで泥の中に染み込んでいくのが見て取れただろう。 血をすすって、急速に成長し、それは、泥の中から現れる。 ぼこっ、ぼこっ、ぼこっ。 親蛙の腹の下が波打った。 「げええええっ!」 親蛙の鳴き声にげごげ、げごげと子と孫が応じる。 泥の下から、硬質の白いものが姿を現した。 青黒い二本の蛇の尾が突き出る。 つつき割られた白い殻の下から、泥で汚れた黄色い羽。 小さな黄色いくちばしの隙間から、蛇の細い二股に分かれた舌がちろちろ見え隠れする。 「……可愛い可愛くない以前の問題だな、こりゃ。なんて言うか、気色悪い」 自然の摂理に反した造形は、リアルに見るとグロいだけだ。 正宗は、はっと、可愛い生き物にはくらくらになる仲間のことを思い出し、振り返る。 「……アンナ。流石にこれは可愛くないと……」 (思うんだが。……大丈夫だよな?) アンナは、ヒヨコカトライス完全無視。 うん、目、くらんでない。大丈夫! 正宗は、ほっと胸をなでおろした。 「生まれたからには仕方ないのデス。さっくりばっさり生まれて刻んで御仕舞い、なのデス」 行方の刃は泥に洗われ、ギラリと殺意を体現した。 「……だ、だめだ……全然可愛くない……!? は、はのんさん食べちゃっていいです……!」 ケイは泥まみれの顔を手でぬぐいながら、沼地をばちゃばちゃと歩くヒヨコカトライスにだめを出す。 かるたは口の中で悲鳴をかみ殺した。 (外見が気持ち悪いと散々言われていた相手……耐え切れない) しかし、かるたはそこで心を折ることを是としなかった。 (イヴさんを思い出して乗り切りましょう) 顔を真っ青にしながらも最後まで気丈に説明し続けたイヴを思い出す。 「ヒヨコカトライス……最優先目標とします!」 ●親の愛は沼より広く ヒヨコカトライスは、ピィピィと鳴く。 げっげっげと蛙が鳴く。 ヒヨコカトライスに向かって放つ渾身の一撃は、孫蛙と子蛙がことごとく身を張った。 ケイの指先から放たれた破滅のカードは、孫蛙の背をを貫き、直立した背びれのようになっていた。 子蛙は、半ば頭を断ち割られても、なおリベリスタの前に立ちはだかる。 ヒヨコカトライスを守る為に、命を懸けているのだ。 ヒヨコカトライスは、ピィピィと尻を振りながら歩く。 体の倍の長さの尻尾が、グネグネと別の生き物のように動く。 ふっと、その姿が歪み、増え、リベリスタの足元を駆け抜けた。 ヒヨコカトライスが通り過ぎた後、リベリスタ達のすねがことごとく切り裂かれた。 鉄壁を誇る正宗さえ、大きな傷がぱっくりと割れている。 ピィピィ。 リベリスタ達の血を浴びて、黄色と泥と赤に染まった災厄の雛は更なる餌を求めて鳴いた。 げっげっげ。 蛙が呼応して、鳴き声をあげた。 「親御さん親御さんちょっとどくのデス。それはアナタの卵から生まれた訳じゃないのデス」 ヒヨコカトライスめがけてたたきつけた刃は、親蛙に阻まれる。 狡猾に親蛙のあごの隙間に飛び込んだヒヨコカトライス。 行方の刃を頭で受けた親蛙は、ぐええと鳴く。 そのまま行方が押し切った。 どでん。 親蛙は跳ね飛ばされてひっくり返り、無防備な腹を上にして泥に沈んだ。 露になるヒヨコカトライス。 「庇ってくれる相手、もういない、よね!」 ヒヨコカトライスの野性の本能が警報を鳴らす。 スパイクつきのサンダルで泥の中を跳ねるように走ってくる羽音は、天敵だ。 振り下ろされるとてつもなく大きな刃。 それには、飢えた猛禽類が宿っていて。 射すくめられたようにヒヨコカトライスは一歩も動けないまま、 羽音の鉤爪の延長に、腹の半ばから両断されて、尻尾の方があらぬ方向に飛んでいった。 ピー……ッ! 細い泣き声があたりに響いた。 ●アイシテクレトハイワナイヨ 子を失った親の悲しみはいかばかりか。 泥の中から、雷の舌が現れ、お前ばかりは逃がしてなるものかと、羽音の羽根が黒く焼け焦げる。 ケイと正宗を除いた全員が直撃を食らった。 アンナが直前に回復していなかったら、何人かは泥に沈んでいたかもしれない。 正宗が全身から光を放ち、皆の体から痺れを払った。 孫蛙が、ケイの糸に縛られて、ぼちゃりと泥に沈む。 行方が、両手の刃で、常識的な範囲で細切れにした。 子蛙が、ゲッゲッゲッゲッゲ……と恍惚と鳴き出した。 くちばしが。 黄色い小さなくちばしが、その腹に深々と刺さり、小さく動いている。 ヒヨコカトライスは、子蛙の血を吸っていた。 その肉を食らっていた。 ヒヨコカトライスはピィピィと鳴く。 子蛙がゲッゲッゲと鳴く。 「君の子供じゃないのにね。君が食べられちゃってるのにね。不条理」 ルカルカの鉄球が子蛙を押し潰した。 「点ではなく面なら奴も避けにくいだろうさ」 今までずっとぶつぶつ何か呟いていた達哉が、そんなことを呟いた。 ヒヨコカトライスめがけて、達哉が目に見えない何か物騒なものを飛ばした。 ルカルカごと思考の奔流がヒヨコカトライスを飲み込む。 先ほど飲み込んだ血を全部吐き出して、ヒヨコカトライスは今度こそ泥に沈んだ。 「ルカも同じ立場になったかもね、それも素敵」 かろうじて踏みとどまったルカルカは、ヒヨコカトライスを見下ろしながら、そう呟いた。 残るは、親蛙のみだった。 丸々太った白く無防備な腹めがけて、かるたが刀を振りかぶる。 「私の出せる最大威力!」 剣撃に、腹がべこりとへこむ。 ぴぴっと臨界に発した部分に亀裂が走り、親蛙はボツンと両断された。 ●お風呂にします?それともお食事? 全員が頭から泥をかぶっている。 戦闘の緊張から開放された羽音が、くすくすと笑い出した。 「ふふっ、みんな泥んこ。……やっぱり、早く帰ってお風呂だよね」 「いくらなんでも泥まみれで遊ぶ時代は過ぎたのデスネ。あと泥の怪異は泥田坊なのでボクとは違う管轄なのデス」 (どろどろなのは少女として不都合なのデス。さっさと帰って綺麗綺麗にするのデス) 愛される通り魔系都市伝説を目指す行方としては、「田んぼを返せー」的土着系と混同されるわけには行かない。 ジューカリパチカリパチ。 達哉がこちらに背を向けて、しゃがみこんで何かしている。 焚き火に、鍋がかかっている。食欲をそそる油の匂い。 「おいしくできましたー!」 料理する喜びに、泥まみれの頬で達哉が明るい声を上げる。 「いい頃合だ。食うか?」 達哉が、鍋から細長いものをトングで引き上げた。そこからにょっきりと二本足の骨っぽいものが突き出していて……。 誰かが声を上げた。 弾かれるように、リベリスタ達は、三々五々別々の方向に走り出していた。 そこから先は、アークの報告書に正式な記録は残っていない。 参考資料として、羽根や皮や、ちょっとお肉が残った骨が提出されたのみである。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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