●壊れ行く世界 血の香りのする砂塵に誰とも無く呼気を漏らす。 視界の彼方に揺れる蜃気楼はいびつに歪んだ世界樹を象って見える。 全ては急激に死に向けて疾駆していた。 現状をこのまま放置すれば間違いなく完全世界は死に絶える。 空は斑に染まり、水源は干上がった。ひび割れた荒野には何とも知れぬ物の叫びだけが木霊する。 『ソラに浮かぶ眼球』との遭遇から数日。ラ・ル・カーナははっきりと崩界の兆しを見せていた。 世界樹は元の姿とは似ても似付かぬ変質を遂げ、破綻した完全性が空を、大地を、命を蝕む。 その影響は元々調和を失っていた巨獣やバイデンらに著しい。 変質し、変異して行く獣達。その様には狂気が滲み、平和と秩序は失われて久しい そして――それがいつシェルンにまで波及するとも知れない。 アークはこの事態へ一つの解答を示す。シェルンより譲渡された『忘却の石』の力を使い、 世界樹を狂わせるR-typeの影響を洗い流す。可能であるか、不可能であるかすら不明な挑戦。 これについてアーク首脳陣はあくまで“可能性はある”と言う程度の確信しか得られていない。 だが、例え『忘却の石』を用いた所で、世界樹とのリンク。そしてその調律は彼女の専売特許に等しい。 バイデンとの戦いによって、フュリエの森は荒野に食い潰されている。 その存在基盤でもある森が枯れれば、彼女とてバイデンのようにならないとも限らないのだ。 この期に及んで“手段”が失われたなら、それはもう詰みだ。事態は傍観を許さない程に切羽詰っている。 此処に、『戦略指令室長』時村 沙織(nBNE000500)は博打とも言うべき作戦を発動する。 シェルンを擁し、万物に対し干渉を拒む世界樹を物理的に突破する。 R-typeとの遺恨深い沙織に。そしてアークに。 彼ら同様被害者でしかないこの世界を見捨てる事など、出来る筈も無かったのだ。 だが、単純に踏破出来る程荒野の状況は穏やかでは無い。既に終わりは始まっている。 例え『勇気』を得たとは言え、決して戦闘能力に長けるとは言い難いフュリエ達。 彼女らだけでは世界樹への到達すらが困難極まる。誰かが危険を引き受けなければならない。 かくてリベリスタ達とアークの提案を苦渋の決断で受け入れたシェルン率いるフュリエの連合軍は、 異形と化した『世界樹エクスィス』を目指して進軍を開始する。 一方時を同じくして、この異常事態を肌で以って解したバイデンらもまた―― ●憤怒と嘆きの遍路 今までとはまるで異なる月が鈍色の空に瞬く。 それは落丁の混ざった物語の様に唐突に始まり、終わっていた。 長い長い帳は明け――普遍と思われた完全は僅か一夜で破綻する。 「何だ……」 偵察に出ていた者が戻らない。これならば分かる。 戦士たる同胞はいずれかの地で闘争の場に出くわしたのだろう。 彼らが憤怒の化身たるバイデンである以上、それは然程珍しい出来事では無い。 偵察に出た者が負傷して帰る。これも分かる。 勝利の末の凱旋にせよ、苦闘の末の撤収にせよ、現状この荒野で諍いの相手に困る事は無い。 バイデンと戦いは切っても切れぬ。『寛容』を学んだとて責務より衝動が優先するのが彼らの本質だ。 「何だ……これは……!」 だが、戻った者が狂っていた。のみならず、何とも分からぬ者に変異していた。 この様な出来事をバイデンは知らぬ。この様な変化をバイデンは解さぬ。 「ア……ァ……」 落ち窪んだ眼孔より生えた紫の蔦。それが体躯の各所に潜り込んでいるのが分かる。 そしてそれは、騎手たるバイデンのみならず彼の者が騎乗する巨獣にまで及ぶ。 まるで巨大な血管の様に、脈動する太い根がバイデンであった者と、その同胞であった獣を貫いている。 何であるかなど、バイデンには分からぬ。だが1つ間違いも無いこと。 それは狂っていた。間違いも無く。紛れも無く。でなければ、何故―― 何故彼らは、同じバイデンの亡骸を串刺しにしながら凱旋しようとしているのか。 闘争に狂えるバイデンの騎兵はそれでも、誇り高い戦士であった。 だが、これは違う。 これは、既に違う物だと。直感が告げている。 「――配置に、着け」 「ああ、戦いだな」 逡巡は一瞬だ。それが外敵であるならば。戦う事こそがバイデンの本懐。 例え同じ戦地を駆け回った同胞であれ。壊れてしまった者に掛けるべき言葉など無い。 勝利するか、敗北するか。戦場の論理はシンプルだ。そしてその単純さをこそ彼らは愛する。 「我らはバイデン! 我らに勝利を!」 「……ァ……ァ――――アァァァ――――――!」 上がる鬨の声。それはこの地点ばかりでは無い。鮮血の河は今この瞬間もその幅を広げている。 止む事無き一つの世界の終焉。その片隅で憤怒の鬼が異変に気付く。気付き、歓喜と共に受け入れる。 闘争を求め、闘争に生き、闘争に散るを良しとする彼らにとって、それは宴の始まり。 過去最大の戦いの気配に、戦士達の行軍は既に留まる理由を持たない。 烽火三月。ラ・ル・カーナは今、致命的な崩壊の時を迎えようとしていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:弓月 蒼 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月10日(水)23:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●戦士の誇り 「……世界の終わり、ですか……」 誰かが、そんな言葉を呟いた。荒廃した世界、枯れて行く風景、狂って行く命。 誰かが、そんな世界を想い描いた。その通りの光景が今その視界には繰り広げられている。 一つの世界の、その終端。果ての果てに、彼らは立っている。 他人事では無い。何れはボトムチャンネルも。そんな思索に落ちていた女の歩みが止まる。 『下策士』門真 螢衣(BNE001036)の視界には気づけば異物が混ざっていた。 蜃気楼、だろうか。砂埃の先に揺らぐ輪郭。否、それにしては余りに大きい。何者かの影。 カーテンを揺らす風一迅。吹き抜けた先に拓かれたのは2つの固まりが睨み合う戦地の只中。 「な――!?」 バイデンと、巨獣。そしてその対面に立つ奇妙な蔦が絡まりのたうった―― 「何ですか、あの名状しがたきバイデンは?!」 バイデンらしき、モノ。 「ちっ、世界樹に向かう前に一戦か」 偶発的な、誰も望まぬ遭遇。けれど、相対した以上は打破しなければ進めない。 『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169)が舌を鳴らす。間が悪い、としか言い様が無い。 「お母さんがおかしくなって自分までおかしくなってしまった。と言う感じで有りましょうか……」 体躯から蔦の毀れ出る、その様には余りにも濃い狂気の色。 危険な気配を察して『イージスの盾』ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635)が小さく呟く。 「あんな結末、彼らは望まぬ事でしょう……」 そして、その影を良く知っている。源カイ(BNE000446)が拳を握り独語する。 かつて敵として相対した騎兵と同じシルエット。武を、拳を打ち合わせた相手かもしれない。 「この災いの拡大、止めなければなりません」 であれば、力を競うでもなく狂気に堕ちる等不本意でしかあるまい。苦い理解と共にカイは大地を蹴る。 「でははじめましょう――荒野すら焦がす、熱き闘争を」 「さて、とっとと片付けて世界樹へ行こうか」 『Manque』スペード・オジェ・ルダノワ(BNE003654)がかくと宣告し、 『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)が応じて返す。速やかに動き出す8人。 望むと望まざるとに関わらず、事が此処まで至ってしまえば踏破する以外既に道は無い。 世界崩壊へのタイムリミットは、刻一刻と近付いているのだから。 「戦士よ、客の様だぞ」 「何者だ」 「リベリスタの集団の様だ、此方へ接近している……いや、一部はあちらへ向かっている様だな」 それに一早く気付いたのは騎上のバイデンらである。 無視して突貫するには危う過ぎる不確定要素に、彼らの動きが一時的に鈍る。 「3つ巴と言う訳か。異存は無い、何れにせよ勝つのは――」 「ちょっといいかしら! お手伝いさせてもらえる?」 勝つのはバイデンであると。 その言葉に被せる様にして響いた来栖・小夜香(BNE000038)の声に彼らの視線が巻き戻る。 「我らリベリスタも参戦する! ヤツらは我らにとっても敵です」 「こいつらを潰すのが先だ、俺等も手出しさせて貰うぜ!」 続く『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)の、そしてブレスの言葉に一瞬怪訝の色を浮かべたか。 待機しているバイデンらに対し、対する狂騎兵は既に突貫を開始している。 戦士として、応じぬ訳にも行くまい。だが、バイデンにとってリベリスタは決して味方とは言い難い。 後背を任せても構わぬ物か。逡巡は、けれど奇しくもリベリスタ達の言葉によって見定まる。 「貫く串刺しの骨に警戒を! 闘争の喜びも誇りも奪い去る呪いの一撃です!」 「ここでお前らに狂われたり死なれたりは困るんだよ。あとで決着つけられなくなるだろう、バイデン!」 決着を付ける為の共闘。否、共闘とすら呼び難い。同じ敵を倒すと言うだけの乱戦の誘い。 戦士で無くばバイデンに非ず。勝利せざるはバイデンに非ず。ならばこの問い断れるか。 否。 「面白い! 巻き込まれ死ぬなよ戦士共!」 「後背を突くならばそれも良し、尚勝利するからこそバイデンよ!」 怖気付くなど、ある筈も無い。駆け出した騎兵らの進路は真っ直ぐに狂える騎兵へと向けられる。 それを確認してか、舞姫とブレスが頷き合い進路を変える。舞姫は真っ直ぐに狂騎兵へ。 そしてブレスは2種の騎兵が交わるその衝突点へ向けて。 「戦士達よ、今こそ戦いの時! この世界を救う為に! ――力を!!」 響いたラインハルトの鼓舞の声は果たしてバイデンにも届いたか。 害意を妨げる十字の加護が赤い鬼達をも包み光を灯し、形の上での協調は成る。 猛る騎兵と狂鬼とがぶつかり合う。号砲の如き衝突を、壊れいく世界はただ見守るのみ。 ●共闘 「この身が砕けようと、立ち続けてみせる!」 戦意を煽る宣告に、舞姫が狂騎兵へと立ち塞がる。 バイデンらの動きは速い、だが彼女はそれに更に一歩先じて変異巨獣の側面へと回り込んでいた。 精神に憤怒を植え付ける言霊は、バイデンに対しては特に効果的な神秘である。 元より正気など失っている相手であれば尚更に。狂乱した骨の槍と蔦の鞭が舞姫の体躯を掠め、或いは絡み付く。 「スペード・オジェ・ルダノワ、参ります!」 その蔦を、スペードが切り裂き立ち塞がる。向ける刃は狂騎兵へと向けられ、眼差しには微塵の油断も無い。 彼女はあくまで戦士と戦いに来たのだ。例え狂っていようとも――願わくば、誇り高き眠りを。 そう願えばこそ。彼女には退けぬ理由が、ある。 「おん・ころころせんだり・まとげいに……そわか!」 走り寄った螢衣の魔術が舞姫を癒す。掠めただけであるにも関わらずその傷は深い。 元々単純攻撃力に長けるバイデンだ。そのリミッターが切れている以上、一撃の重みは生半可ではない。 「……わたしが支えます。信じてますから」 それでも。舞姫やスペードと狂騎兵との相性は良い方に類される。 攻撃の殆どを掠める程度で抑え込めるのであれば、その脅威は半減するからだ。 だが。勿論誰もがそうである訳では無い。 「ぼやっとしてっと巻き込むぞ! 俺に迂闊に近づくなよ!」 ブレスが声を上げ、愛用の銃剣を振り上げる。其は鮮烈なまでの軌跡を描き周囲を切り刻む烈風の戦陣。 狂騎兵の乗った巨獣が脚部を切り裂かれ、麻痺した様に動きを止める。 だが、巨獣の体躯が巨大過ぎる。足元からは狂ったバイデンへ攻撃が届かない。 更に麻痺し動きを止めた巨獣の代わりに、バイデンの両手が続け様に伸長する。 突き刺さった骨の槍は計10本。奪われた命は果たして何割か。もう一撃被って立っている事は叶うまい。 「なるほど、厄介だな」 後衛であれば大凡2撃で落ちるだろう貫く骨の一撃を眺め、クルトが苦く笑む。 更なる問題は巨獣の体躯だ。複数攻撃で巻き込もうにも視界を塞ぐ巨大さが邪魔をする。 「となれば……」 数を減らさない事には始まらない。視線を巡らせればバイデンらも考えた事は同じか。 巨獣による突貫に加え手持ちの長い棒によって3騎共が狂騎兵1騎を打ち据えていた。 狙いを定めたクルトの虚空を裂く蹴撃が更に追撃となり、狂った巨獣が隙を晒す。 が、それは大きな危険を孕んでいた。 せめて誰かがその攻撃手段をバイデンに伝えていたなら、また話も変わったのだろうが―― 「な――何だこれは!?」 舞姫が引き付けていた狂騎兵から蔦が迸る。 4m高所に陣取る狂騎兵からは舞姫も、バイデンらも、纏めて視野に収まってしまう。 そして騎乗している以上はベルゼドの仔らにその蔦を避ける余地など有りはしなかった。 引き離される騎兵と巨獣。バイデンらが変異ライナスの上へと引き摺られていく事を誰も止められない。 「させ、ない!」 いや。唯一人それを止められる人間が居た事はこの場合僥倖以外の何物でも無かっただろう。 巨獣の体躯を足場に駆け上がったカイがバイデンを捉えた狂騎兵と相対する。 「……ァアァァァ……」 無機質な瞳から毀れた蔦、覇気の感じられない眼差しに、カイとて思う所が無いではない。 とは言え状況は深刻だ。次手縦しんば彼らに怒りを撒いたとて、バイデンごと舞姫を刺し貫けてしまう。 それでは彼らの組み上げた戦術が瓦解する。であれば……どうするべきか。 「――かつての敵の言葉を軽んじないなら、僕らが作った隙を狙って敵を仕留めて下さい」 言葉と共に、放たれた気糸が狂騎兵を縛る。だが、元がバイデンである以上この束縛は然程持たない。 自然治癒の可能性はリベリスタ達より遥かに高いのだ。そう、それが“自然治癒”であるのなら、だが。 「癒しよ――あれ!」 「その狂気に、エンドラインを引いてあげるのであります!」 戦場を癒す十字と光の二重奏。ラインハルトの紡いだ加護、小夜香の放った聖神の息吹が全てを引っ繰り返す。 自由を取り戻したバイデンらに対し、狂騎兵は未だ動けていない。 千載一遇のチャンス、青い刀身の剣を抱いた少女がその欠けた切っ先を振り上げる。 「例え狂えども誇り高き戦士」 巨獣に、バイデンらに叩き伏せられ、クルトとカイとが仕掛けたその末。 さしもの狂騎兵とて、その体力は無尽蔵ではない。更にはバイデンは持久力に優れた種である。 であれば、一時に畳み掛けるは最適解に等しい。 「眠りなさい、安らかに」 放たれた常闇が、巨獣ごと狂ったバイデンを包み込む。喰われ、呑まれ、蝕まれ。そして―― 狂った騎兵を失った変異巨獣は、かくも当然の如く狂乱した。 ●狂気の果て 「この身は世界の境界線、此処で折れたりはしないのであります……!」 手当たり次第に周囲の個体へ“ぶちかます”それを鎮める為に、先ずラインハルトがこれを受け止めた。 だが、彼女は防御に長ける分体力や回避に劣る。 ぶちかましを受け瀕死の重傷に追い込まれるや運命の加護を借りて立ち上がるも、其処が限界点。 「案の定か、避けろよバイデン!」 「これで――1騎!」 この事態を警戒していたクルトが即フォローに入り、ブレスが駄目押しに全力の一撃を叩き込む。 ぐらりと体躯を倒す巨獣を見て、舞姫が拳を握る。残り、2騎。 そして2騎であれば彼女は自身へ引き付けておく事が出来る。時間的猶予を稼げたと言う意味でも大きい。 そう。彼女は決して油断していた訳ではなかった。 勝利への指針を立てその為に最善を尽くしていた。であれば、これは何か。 この世界は“異物”たる彼女らを祝福してなどいないと言う事か。20度に1度も無いだろう偶然で以って、 「――え」 彼女の挑発は狂える騎兵達を取りこぼす。 「しまっ、」 螢衣が周囲に視線を巡らせる。騎手たるバイデンらは自らの愛騎から引き摺り降ろされたばかりだ。 不味い。骨の槍が来る。この上2騎狂ったとしたら、もうその時点で絶望的だと言うのに。 けれど、結論から言うならば。リベリスタ達は賢明であった。 「――ッ!」 突き刺さる骨。それを見て即座に距離を詰める。迷いなど無い。躊躇いなど無い。 友の、仲間の無念を晴らす為に――共に戦うと決めたのだから。 「倒れる……わけに……いかないのよ」 バイデンを押し退け、庇ったのは小夜香である。 本来癒し手である彼女が誰かの護衛に入る等と言うのは、実戦では酷く危険な選択だ。 だが、この時この一瞬に関して言えば、その決断が九死に一生を生んだ。 「こちらは僕が抑えます! 治療を!」 「完全とは行きませんが何。やってやれないことは無いのであります!」 カイがもう一人の狂騎兵へと走り寄り、ラインハルトが致命の呪いを十字の印で相殺する。 その間に螢衣が小夜香へと駆け寄れば、符を押し当てぽっかりと空いた体躯の穴を癒す。 見事なフォローで以って戦線を立て直す。確固と組み立てられた戦術は一つの不運で容易く崩れる。 けれど互いが互いを補い合えば、その穴を埋める事は不可能では無いのだ。 「流石に、厳しい……ですが、まだもたせます!」 「否、もたせる必要など無い」 上げられた声は頭上より。愛騎へと戻ったバイデンの騎兵が嘶く。 1度は束縛より救われ、1度は身を以って庇われた。この上負けたと有っては戦士の誇りは地に落ちる。 勝利せねばならない、それもバイデンの力で以って。騎兵らの動きは迅速であった。 「我らに勝利を! 突貫ッ!!」 其処に戦士の語は無かった。其処にバイデンの名は無かった。 それを聞き、両手で剣を構えたスペードが静かに詠う。 「世界を飲み干す者』よあなたの『不運』は――彼等が誇り高き戦士であったこと」 上がる砂煙。怒涛の如き『ベルゼドの仔』らの突貫は狂える騎兵をも押し倒す。 そうして生まれた間隙、リベリスタ達に逃す理由など無い。 唯でさえ、この場には多勢を巻き込む神秘を身に宿す革醒者達が集まっているのだ。 「チャンス! 派手にぶち抜くぜ!」 「確かに強いが……それだけだな。元がバイデンとは思えないほど、つまらない敵だ!」 烈風が荒ぶり、迅雷が駆け抜ける。 ブレスの銃剣が巨獣の体皮を大きく斬り裂き、振り下ろされたクルトの踵が狂騎兵の頭部を深く抉る。 更に重ねられた漆黒の塊が、身動ぎをする変異巨獣をも呑みこみ侵す。 「これで、2騎……」 呟くが早いか、直後走り出したのは舞姫。手には黒刃一尺二寸。 反撃で放たれた蔦は彼女の体躯を絡めとり、強く締め付けると共にその余力を削り取る。 だが、未だだ。未だ保つ。そして相手が引き寄せてくれるなら“好都合”だ。 「――祝福よ、あれ!」 傷付いた小夜香が大いなる天使の吐息を地へ降ろす。呪縛された体躯が動く。 そして彼女は、速い。手元で円を描いた脇差しが、最後の騎獣へ突き立てられる。 それはあたかも閃光の如く。それはあたかもの演舞の如く。 アル・シャンパーニュ。 血飛沫すらも光の彼方に置き去りに。どう、っと倒れた巨獣の上。足掻く狂騎兵を見下ろす3騎のバイデン騎兵。 「貴様もまた戦士であった」 巨獣の足が振り下ろされる。憤怒と嘆きの荒野を赤く染める、それは幕引きの一撃。 例え狂気に苛まれようと、死した者は動かない。 それはあたかも神の限界を示すかのように。遠く見える世界樹が、嘆く様に震えて見えた。 ●憤怒の鬼に揺らぎ無く 「さあ、それでは決着を付けるとしよう」 傷を癒し終え、疲労困憊の体で立ち上がったリベリスタ達。 彼らへのバイデンからの第一声が、まさかこうなるだろう事を果たして誰が予想しただろう。 しかし如何せん、バイデン達へのダメージが少な過ぎた。度々庇っていたのだから当然だ。 そして彼らのやる気はまるで衰えていない。更には、決着を付けると宣言したのはリベリスタ側である。 その言葉もあればこそ、彼らは共闘を敷く事を快く受け入れた。 だが、リターンがあれば当然リスクも有る。決着を付けるとはそういう類の語句だ。 「何――万全でない貴様らを殺しはせん。だが、手抜きは許さんぞ――!」 「……何と言いますか……恐らく、彼らは変わらないのでありましょうね」 それどころではない、と言っても無駄だろうと悟ったラインハルトが盾を構える。 苦い笑みを浮かべたクルトも、嘆息しつつ銃剣を構えるブレスも、微笑むスペードも。 そして協調の道を模索する小夜香も、気分を切り替えるカイも、心底嫌そうな螢衣もまた。 これが避けられる挑戦では無い事は分かっていたのだろう。 舞姫が挑発の意味を込め、そして僅かに戦友としての敬意を込め声を上げる。 「――武運を祈ります」 「是非も無い」 「良き闘争を」 「「そして勝利を!」」 この日、2度目の戦いが荒野の隅で始まり、終わった。 勝利に拘る憤怒の鬼に揺らぎはなく、されど約定は果たされる。 であればいずれにせよ、これは勝利に他ならない。 誰一人の脱落も無く、死す事も無く、リベリスタ達はこの戦場を潜り抜けたのだから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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