● ……フュリエの族長、シェルンよりの招待を受けて数日。 『ソラに浮かぶ眼球』――R-typeの片鱗が現れたその日を以て、ラ・ル・カーナの状況は致命的な変化を起こし始めていた。 バイデン、フュリエの領域を問わずして、極彩色に変わった空。 世界樹を浸す潤沢克つ清純な水は疾うに無く、 元より生命の気配を感じさせぬ憤怒の荒野は千々の罅を為し、 何よりも――其処に住まう者達全ては、自らの意識を喰われ、只の化生と成って暴れ狂っている。 誰もが、 誰もが、其れを理解した。 嗚呼、これが、これこそが、『崩界』の兆しなのだ。 フュリエ達は怯えていた。 バイデン達は猛っていた。 産み落とされた子らの、錯綜する感情。 リベリスタ達は、其れを目の当たりにして、彼らのため、自らに為せることを探し続け。 故に、自らの行き先を、『答え』を、彼の男に求めた。 そうして、彼の男――『戦略司令室長』時村 沙織(nBNE000500)は、断固たる決断を、彼らに下す。 「俺は――いや、アークは世界樹と対決する」 害為しかねぬ世界を滅ぼすため、ではない。その逆。 良き隣人の集う世界を救うべく、嘗て己の周囲にも爪痕を残した『無形の巨人』に報いるべく、 彼は信頼する者達を、危地へ送ると決めたのだ。 ● 自分達は狂った世界樹に対して、如何なる手段を取れば良いのか。 そう問うたリベリスタ達に対し、返される答えは余りにも簡潔である。 ――世界樹の元までの道を切り開き、フュリエの族長、シェルンと『忘却の石』を彼の地まで送り届けよ。 ……元より。 世界樹が暴走する切っ掛けとなったのは、彼の『無形の巨人』――R-typeが残した傷跡が故である。 それにより根付いた世界樹の泥濘、R-typeの残滓とも呼べるそれらを消失させることさえ出来れば、或いは世界樹が元の意思を取り戻すことも可能かも知れない。 『研究開発室長』真白・智親(nBNE000501)はその部分に目を付けると同時、嘗てリベリスタによって持ち帰られた、『消去(リセット)』の属性を持つアイテム、『忘却の石』をこれに転用できないかとの推論を発見した。 其処からの研究、進捗状況を省き、結論のみを言うならば――世界樹に『接続』することが可能であるシェルンの能力と、『忘却の石』の能力を組み合わせることが出来るならば、これは確実と言えずとも、低くない可能性で行うことが可能だと判断されたのである。 ……最も、先にも言ったとおりそれは確実ではない。 何より、世界樹への道程には多くの障害が存在する。狂化した巨獣、バイデンに加え、理性有るバイデンすらも、世界樹を『折る』為に、リベリスタ達同様、世界樹へと行軍を続けているのだ。 生命の危険は、言うに及ばず。 ひいては、自らの世界の守り人を、多く失う、そのような事態にすら成りかねない。 それでも、 それでも、リベリスタは『食えない男』の、真摯さを湛えた言葉に、是と頷く。 良き隣人を救わんとする者。 任務ならばと義務感に動く者。 享楽の予感に心躍らせる者。 思う心は様々なれども、彼らは、異邦の地へと足を踏み入れた。 ● 「ぬぅああああああァァァッ!!」 罅割れた憤怒の大地に、囂々とした声が響く。 その主は、一人のバイデンであった。 軽装と一振りの太刀を携える彼の周囲には、同様に暴れ回る巨獣達の姿がある。 が――その有り様は様々だ。眼に曇りを孕んだもの、そうでないもの、元来の姿を異形に変異させたもの、あるいは狂気と理性の最中で悶え苦しむものも。 「溺れるな! 耐えろ! 自らの誇りを呼び起こせ! たかが『世界』一つに魂を奪われるな、彼の大樹を圧し折る時まで!」 吠え猛り、自らの軍勢を鼓舞するバイデンで有るも、しかしそれが無為に過ぎぬ事は彼自身理解している。 既にこの身を覆う狂気は、視界一つすら眩惑に揺らいでいる。 感覚は曖昧だ。発する声は何処か遠くに聞こえながらも、しかし、未だ頽れぬその理由は。 ――世界を飲み干す者か。フフ、面白い! 面白いぞ! 屈しそうになるそのココロを、 沈みそうになるその魂を、 彼の、最も尊び、信ずる『王』の声が、呼び戻す。 (――ならば、王よ!) 消えてくれるな、愛し彼の声。 途切れてくれるな、我が身を手繰る蜘蛛の糸。 例え我が全てを賭した同胞が滅びようと、 この身が茫洋の大地に骸として晒されようと、 「我らは――貴方の路を、切り開きましょう!!」 戦場に、喧々とした音は止まず、 ならば、此の男の魂の声音すらも、それに交わる雑音の一つ。 それでも。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月13日(土)23:05 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ――激情はココロが死に瀕するその時、尚も燃え盛っている。 振るう太刀の感触が有らずとも、視界に捉えるモノに敵味方の判別を失しても。 ――おおおおぉぉぉぉぉん……!! 彼の身は、未だ屈することを由とせず。 「異形、風情がァ……っ!!」 巨獣の上に立つバイデンは、咆哮と共に傍らの化け物を切り捨てた。 振りまかれた腐肉の毒が、歪んだ視界を更に眩ませる。 共に戦う巨獣らも、その意識は理性と狂気の綯い交ぜの最中だ。 だが、しかし、けれど、それでも。 「……吠えろ」 目に見える敵だけならば良かった。 己が意志を喰らう彼の世界樹を、奉ずる王と共に討つことが出来れば、それはどれほどの歓びであっただろうか。 だが、その王すらも居ないのならば、この身に出来ることは? 「吼えろ……!」 一つだ。 唯、一つだけなのだ。 彼の君の意志を継ぐこと。彼の君の後を追うこと。彼の君が為さんとしていた偉業を、卑小なこの身で為すだけ。 それしか、出来ないというのなら。 「貴様らの矜恃を、我らが王への想いを! 意志有るならば、最期の最期の最期まで、咆えてみせろ、同胞よ!」 覚束ない挙動の巨獣を、幾多もの異形達が取り囲む。 死と敗北の匂いが濃密に漂う死線の最中で、けれど、バイデンは勝利を叫ぶ。 「アアアアァァァァァ――――――!!」 襲い来るけだものの群れ。 たかが太刀一本で、それに相対する赤銅の男に対し、 「――よう、随分とやってんじゃねえか!」 「……!?」 異世界に轟く、鉄造りの巨馬の咆哮。 ぬかるんだ地面をものともせず走るバイクは巨獣の前まで走りきれば、そうして役目を終えたと言わんばかりに泥の最中に沈んでいく。 直前、シートを足場に、巨獣の背へと躍り込んだ男は、 「情け無ぇ真似すんじゃねえぞ、手前からぶっ殺されたくなきゃな!」 「外の――否。アークの、リベリスタ……!」 黒腕を雄々しく振りかぶる男、『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658)だった。 ● 「モノマさんは上手く乗り込めたようですね。――ジョンさん」 「ええ、解析は始めています。狂化までの猶予が解り次第、幻想纏いとそちらの集音装置で」 遠方に望む仲間の姿を見届ける『Trapezohedron』蘭堂・かるた(BNE001675)の呼びかけに対して、首肯を返すのは『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)。 戦場に至ったのはモノマ一人ではない。死地に踏み込んだリベリスタの数は、合計八人。 仮に、たかが八人と嘲う者が居たのなら、それはその者達の力量を知らぬだけのこと。 「翼の加護は付与した、高空へは行き過ぎぬようにのう……!」 『嘘つきピーターパン』冷泉・咲夜(BNE003164)が手にする童話集が、最奥に秘めた神秘の術式を解放すれば、一同の背中に出でるは一対の光翼。 (……以前刃を交えたバイデン達はみな、己の誇りに信念と命を掛けておった) 浮かぶ瞳に滲む色は、苦渋。 「……この手で止めてやらねば、のぅ」 救いの名を取った殺戮。 長き時を生きた少年なればこそ、其処に覚悟を秘められる。 「厄介な状況に厄介な敵。現実逃避して家で寝ていたくなるわ」 嘆息を交えた『自堕落教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)の出席簿が、じり、と繊手の魔力に呼応する。 「……ああ、わかってるって。私だってやるときはやるのよ?」 反論が飛ぶより早く、彼女の周囲を雷光が灼いた。 新たな敵――或いは新たな得物か――を見つけた世界樹の異形達には、統率と言ったものが全く見られない。 故、と言うのも奇妙であろうが、入り乱れた戦場に於いて異形達を効率よく巻き込めるか否かは、大凡五割程度が時の運に頼らざるを得ない状況となっている。 その確率を破壊するキーパーソンが―― 「かかってこい! お前らの『母』を叩き折られたくなかったらな!」 ――『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)。アークの守護神の異名を取る彼である。 異界の存在にバベルの理を介さぬ言葉が如何ほどの価値を持つかは、しかし、反応した異形達の数を見れば自明。 「かるたさん!」 「存じております――防御を!!」 接近した総数は十と三、四体。 其れが近距離で叩き込まれる小型ミサイルの嵐により、次々と吹き飛んでいく姿は一種の地獄を呈する。 だが、敵方とてそれで止むほど生半な能力ではない。 ――じわ、と輝く水滴が、地を這う異形達の身を賦活していく様子が、直後に各所で覗き始めた。 「潜行型……!!」 何者かが言葉を漏らした。 回復と奇襲、双方の特性を併せ持つ樹木の異形は、先の一撃で傷んだ者達を癒していくと同時、 「……っ、く!」 二丁拳銃を構える『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)の身を、次々と切り裂いていく。 植物としての本能が故か。一打一打毎に獄炎を振りまく彼女を襲いゆく朽木の槍は、見る間に彼女の体力を奪いさっていく。 否、奪っていくはずだった。 「……右に飛んで」 「!!」 怜悧な口調。 言われるままに移動すれば、次いで其処に突き立ったのは一際巨大な木の根の槍。 ESPと超直観。持ち前の感覚をより精緻に精密に特化させた『fib or grief』坂本 ミカサ(BNE000314)が大体のアタリを掴んだのか、同様に他の仲間達にも樹木の異形に対する対応を指示していく。 当然、動きをそこで止める彼ではない。五指にはめ込んだアーマーリングがゆらりと紫をキセキを描けば、同時に地を這う異形の首がぽおんと刎ね飛んだ。 「……付喪くんも、新田くんも。他の皆だってそうだ」 幻想纏いの通信機能を点けて、戦場には不似合いなほどの静かな声を、彼は響かせる。 「後悔の無い様に――全力で行きなよ」 「……勿論だ」 返す言葉は、平坦を見せた激情。 望む巨獣の上に立つ『彼』に囚われた快が、彼らのセカイで知ったもの。 彼らが己の心に描く価値観、求める戦いの、命の有り様。 唯衝撃を受けていたあの時と覇違う。今なら判る。だから。 「あの時成し得なかった戦いと決着が、餞だ」 ――なあ、『調教師』! 絶対的な防御に技巧を織り交ぜ、敵の攻手に反撃を織り交ぜる快も、しかし相手の数が数である以上、急速に傷んでいくのは致し方ないこと。 念のために言わせて貰えば、快の、それ以外の仲間達の負傷は、咲夜による護法の結界が奏功し、これでも与えられるダメージは十二分に抑えられている。 それでも個体数は敵方の方が遙かに上だ。与えられる傷の方が圧倒的に多い以上、能力の主軸に癒術を置く者が居ないパーティは、一時的なサポート、攻撃の中断に追い込まれることが部分部分でどうしても起きてしまう。 そうなればその隙に回復や、反撃に出るモノが多く現れる。 結果的にどうなるかと言えば、一度致命的な負傷にパーティが追い込まれた場合、其処から攻手に戻ることが出来ず、負傷と回復のループが発生するのだ。 状況はある種の消耗戦である。 そして、狂化しつつあるバイデン側が在るこの戦場に於いて、時間を掛けることは即ち敗北の気配をより一層濃くしていくのだ。 「崩れません、崩れさせません! 私は、そのためにここにいる!」 かるたの叫びが戦場に響く。 弾数の切れた砲台を近接武器として振り回す度、それにはじき飛ばされる異形達。 だが、 「う、く……!」 はじけ飛ぶ腐肉の毒が、それを活性化させる呪殺の能力が、前衛に立つ者達の体力を根こそぎ奪っていくのだ。 基本的に潜行型と快の挑発をかいくぐった一部の飛行型を除き、敵方の大半は前衛で足止めされており、後衛にまでその毒が至る危険性はない。 逆を言えば――攻撃の度に最大数の呪殺を受け続ける前衛陣は、急激にその体力をすり減らしていって居るのだ。 「すまぬのう、皆……!」 「やることはきっちりやるわ。だからそっちも頼むわよ!」 咲夜が、ソラが、次々と飛ばす回復が、戦場をギリギリで保つ蜘蛛の糸である。 だが、それは何時途切れるかも知れぬ危ういもの。 一つ一つ、針の穴を通すような戦局判断と行動の繰り返しに、リベリスタが疲弊の色を見せ始める、時。 「……死を恐れるな、同胞よ――――――!」 「……!!」 聞こえた声は、応えた咆哮は、正しく、彼らバイデン陣営のもの。 ある種の奇跡とも言えるが……戦闘が開始してから数分が経つ現在に至るまで、バイデン側で狂化した個体は一体も居ない。 現れた救世者達に対する一つの意地か、若しくは。そう、彼らが思うより先に、巨獣達は更なる攻勢を起こす。 現状で確認できる限り、その個体数は確認当初の十数体から半数ほどに削られている。それでも如何なる個体も戦気を僅かばかりに緩めず、未だ二、三十の数を残す異形達へ蹂躙を行い続ける。 「……味方というわけでもないでしょうが、彼らが敵でないことを有難く思いますよ」 「同感だ」 血と泥にまみれながら、ボウガンより無数の気糸を打ち出す最中、苦笑すら交えたジョンに対して、応えるミカサも、繰り返し精神の同調によって仲間の気力を癒し続ける。 「天より来たれ、浄化の炎よ。全ての不浄を焼き払い、世界に光を――!」 『敵の敵』の様子に幾許かの気勢を得た――得てしまった、だろうか――リベリスタ達は、更なる攻手で叩き続ける。 酸毒の雨には咲夜が回復と浄化を適度なタイミングで飛ばしつつ、後方よりソラ、リリ、ジョンによる複数攻撃が異形達の身を次々と灼いていき、そうした高火力の後衛に近づこうとする個体は快の挑発によって引きつけられるか、或いは残る者達のブロックに阻まれる。 拮抗から優勢の流れに見えようが――この過程で失ったリソースは半端なものではない。失われた運命も凡そ全員がそれに中る。 それでも、 それでもだ。 何時倒れても、今倒れても可笑しくは無いだろう傷と気力の枯渇を繰り返す彼らが倒れない理由は、視界から離れぬ世界樹の中で戦う仲間達の為に他ならない。 攻手、サポート、回復、全ての行使を焦らず、丹念に繰り返す毎に、一体、また一体と異形達の死骸が泥の大地に転がっていく。 或いは、このまま行けば、 そう思った彼らに、ソラが声を掛ける。 「……マズいわ。『始まった』っぽいわよ。あっち」 ● 生命の殆どを失し、泥に沈みつつある巨獣の上で、モノマは頽れている。 視界は朱に塗りつぶされ、流れていった血の量が故に、頬をくすぐるそよ風程度にも言い様のない寒さを覚えていて、 「……よお」 けれど、未だ屈しては居ない。 異界の地にも地脈は在るのだろうか。呼吸と共に大気から得た氣を練り上げ、緩慢な動作で立ち上がる彼の眼前には。 「……つまんなくなっちまったなあ、手前」 少年のバイデンは、元の姿を無くしつつあった。 手にした太刀は腕諸共に融合し、身体のあちこちには腫瘍と呼ぶには大きすぎる肉塊がぼこぼこと生まれつつある。 ――じり、と。 バイデンが素足で立つ巨獣の肌が、高熱に焼かれる嫌な匂いを発し始めた。 おおん、と鳴く巨獣の悲鳴は、その痛みが故か、変わり果てた主の姿が故か。 「……最初に、言ったぜ」 一歩。 何も聞こえていないかのように、見たものだけが全てのように、無表情でモノマの側に歩き始めたバイデンに。 「情けねえ真似しやがったら……俺がぶっ殺すってなあっ!」 傷だらけの黒い籠手――『咆哮搏撃・破』が業炎を纏い、バイデン、否、異形へと振り下ろされる。 異形は、それを両手で受け止める……と、同時。 「――――――!!」 ばじゅう、と、気抜けた音。 叩きつけた片腕が、籠手諸共に焼き尽くされる音だった。 声にも成らぬ苦悶が上がったモノマの視線の先は、炭化しかけた肌と、赤熱となって所々が変形している愛用の籠手。 運命の消費は、当然と言える。 寧ろ、この局面に至るまで味方のサポートも受けなかった彼が、運命を使わずにいたことこそ奇跡と言うべきか。 「……っ!」 痛み、痛み、痛み、痛む。 死にかけた腕を必死に森羅行で蘇らせ、けれど生体としての機能を取り戻す度により一層熱に反応する身体が、だと言うのに。 「……気にくわねぇ……!」 折れず、撓むことすら無く、真っ直ぐに、真っ直ぐに彼の異形を睨むことが出来る理由は。 「気にくわねぇんだよっ! てめぇが狂化すんのはなぁっ!」 二度目の焔腕が、空気ごと異形を焼いた。 再度受け止められる愚は犯さぬ。受け流そうとした太刀を肘先で当ててズラし、空いた胸元に拳を叩き込んだ。 熱と熱のぶつかり合い。それでも衝撃がなくなるわけもなく。ごぼ、と血を吐き出す異形に対し、けれど、その熱自体による反撃を受けたモノマが、再度倒れかける。 助ける者は遙か遠く、故に此処で倒れることは、即ち彼の死を意図する。 (畜生……) 最後、視界に捉えたものは、衝撃より立ち直り、再度モノマに近づく異形の姿。 (畜生――――――!!) 無感情に見下ろす能面が、倒れかけた彼を掴み上げ、 その首に、刃を、振り下ろした。 ● 「『調教師』ぃぃぃぃぃッ!!」 咆哮が、 憎しみと、慟哭と、怨嗟の咆哮が、その世界に響き渡る。 快が叫ぶと同時、突き立つはずの刃が一度だけ揺らぎ、 その機を逃さじと、リリの双弾が、切っ先から根本までを粉々に砕ききった。 「――――――」 既に動かぬ敵より、動く敵に視線を向ける異形。 瀕死のモノマを投げ捨てて、向き直った先には、言い尽くせぬ激情を表す快と、其処に揃う、満身創痍のリベリスタ達が。 「お前は……っ!」 何かを、 必死で、伝えようとして、けれど伝えられない。 コトバは、既に届かないのだから。 ――誇りと忠誠心、何より世界樹に対する嫌悪を主とするこのバイデンに対し、そうした部分を突く呼びかけは、確かに意義あるものであった。 実際、それによって彼と、彼の指揮する幾らかの巨獣達は、自我を保つことも出来たであろう事を否定はしない。 が――それでもだ。 先に言った幾らかの点によるタイムロスが、この結果を生む要因――原因ではないが――を生んでしまったことは、否定できない。 そして、こうなった以上、時を巻き戻すことなど、誰に行うことも出来ないのだ。 「……さあ」 リリが、言う。 「さあ、『お祈り』を始めましょう」 繊手に構える銃は、祈りと決意。 彼らのセカイを歪ませてしまったR-typeに、目に物を見せるという意志。 両の手に教義を、この胸に信仰を。傷ついた世界に救いを。 嘗て『調教師』と呼ばれた異形は、何を以てか、耐久力の高い快へと豪腕を繰り出した。 与えられる打撃と熱量。溜まらずくの字に身体を折る彼の背後より、かるたの豪撃が異形の肩を砕いた。 予想だにせぬ一撃にたたらを踏めば、第二、第三の攻撃が襲い来る。 ジョンの閃光で視界を奪われた異形に対して、ソラのチェインライトニングが、リリのインドラの矢が、次々と傷口を焼き、或いは身体に穴を空ける。 滲み出た血を、身体ごと捻った異形が周囲に振りまいた。血液にすら灼熱の属性が与えられた其れによって、後衛の何名かが倒れる。 唯一、ミカサに庇われて無事だった咲夜が、最後の癒術を行使した。 最後に立ち上がった何名かが、そうして未だ倒れぬ異形に、攻手を、叩き込む。 「そんな狂気に飲まれるな! 俺は――」 携えたナイフが、全ての悪を滅さんと光輝を帯びて。 「俺は、お前の名前さえ、知らないんだぞ……!!」 泣くような声だった。 泣いたような、声だった。 最早届かないものを、掴めないものを、それでも手を伸ばして引き寄せようとする、無価値な願いが、異形の胸を穿つ。 「――――――」 異形は、 唯一度、大穴の空いた胸元を見て、倒れる。 倒れる、筈だった。 「……!」 気づいたのは、何人いただろうか。 崩れかけた身体が、刹那の時だけ、再度地を踏みしめ、 曇りを消した瞳で、快を見たのは。 「……ドラーガだ」 「っ!」 「死の果ての果てで、次こそ『闘おう』。戦士よ」 どう、と音が響いて、倒れる。 それが、終わりだった。 戦場代わりとされた巨獣も、既にバイデンごと巻き込んだ範囲攻撃で倒れ、 異形の群れもまた、動くものは一つとてない。 一つの戦いの終わりが、其処にあった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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