● ソラに浮かぶ『眼球』――忌まわしき無形の巨人、因縁深きR-typeとの遭遇から数日。 おぞましき変化を遂げた『世界樹エクスィス』の暴走により、ラ・ル・カーナは崩壊の危機に直面していた。 不気味な色に染まった空の下、水源は干上がり、荒野はひび割れ。この世の終わりとも思える光景の中を、より凶暴さを増した巨獣や、理性を失い怪物と化したバイデンたちが闊歩する。 さらに恐るべきは、これらの『変異体』を世界樹が今も生み出し続けているという事実。 ラ・ル・カーナの造物主、転じて、この世界そのものと呼べる『世界樹エクスィス』は、R-typeとの邂逅により完全に狂ってしまっていた。 アークの協力者たるフュリエは、もともと争いや憤怒と縁遠い存在であったためか、今のところ種の形状を保っているが、彼女らがバイデンのように理性を失わないという保証はない。たとえ変異を免れたとしても、ラ・ル・カーナが完全に崩壊してしまえば滅びの運命は避けられないだろう。 状況を打開する方法は一つ。狂った世界樹を、元の状態に戻すことだ。 その手段として、アーク研究開発室は以前から研究を進めていた『忘却の石』を用いることを提案する。 ラ・ル・カーナに存在するこの石は、神秘存在の持つその構成をリセットさせるためのアイテムだ。 フュリエの族長シェルン・ミスティルが、高純度の『忘却の石』を携えて世界樹にリンクすれば、暴走の原因といえる『R-typeの残滓』のみを消去できるかもしれない。 ただし、これはあくまで可能性の話だ。 アークとしては、崩壊を始めたラ・ル・カーナから退却する選択肢も充分に考えられたが、戦略司令室室長・時村沙織はこの作戦の強行を決意する。それは、彼のR-typeとの因縁を考えれば、ある意味で当然の結果だろう。 シェルンを始めとするフュリエ達は、苦渋の決断でアークの提案を受け入れた。 リベリスタはフュリエ達の協力を得て、危険な異形が跋扈する荒野に進軍を開始する。 数多の敵を突破し、シェルンと『忘却の石』を『世界樹エクスィス』に送り届けるために。 ● リベリスタ達は世界樹を目指し、ひび割れた荒野を直進する。 狂った『世界樹エクスィス』の威容は、この距離でも充分に見てとれた。 もともと、フュリエの族長であるシェルンは世界樹とリンクする能力を持っているが、世界樹が拒んでいる現状では、彼女を『物理的に』世界樹の内部まで送り届けるより方法がない。 ――仮に世界樹に辿り着けたとして、あの中に入ることが出来るのだろうか? そんな不安を口にするリベリスタの一人に、別の一人が答える。 入れないなら、壊してでも入るまでだ。壊せるかどうかは、その時に考えれば良いだろう。 とにかく、今は世界樹の根元に到達しなければ始まらないのだ。 前方を警戒していたリベリスタが、仲間達に警告を放つ。 変異したバイデンと思われる敵が六体、こちらに近付いてきていた。 全身から無数の触手を生やした者、汚らしい緑色の粘液を滴らせた者――理性を完全に失い、怪物と化した彼らに、誇り高き戦士の面影はない。 リベリスタ達が武器を構えた時、別方向から獣の咆哮が響いた。 そちらを確認したリベリスタが、「岩石巨獣」という単語を口にする。 ラ・ル・カーナで三度に渡り確認された、体表を岩石に覆われた凶暴極まりない巨獣だ。 このままでは、変異バイデンと岩石巨獣を同時に相手にすることになる。 しかし、彼らを避けて通るわけにはいかない。障害は、一つでも多く取り除いておかなければならないからだ。 覚悟を決め、リベリスタ達は武器を手に前進する――! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月07日(日)23:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 奇妙な色に染まった空の下、二方向から砂埃を巻き上げて敵が迫る。 右手に、異形の怪物と化した六体のバイデン。 左手に、全身を岩石に覆われた双頭の怪物。 仲間の一人が「岩石巨獣」と口にするのを聞き、『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)が目を凝らす。 ――間違いない。つい先日戦ったばかりの、あの巨獣だ。 「見るからにとんでもない奴だね」 そう言って、『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)が眉を寄せる。変異前の岩石巨獣と戦った経験はあるが、背中にも頭が生えたそれは、以前よりも凶悪に映った。 「ふっふっふー。なんだかんだで因縁ありますよねー」 愛用の改造小銃を携えて低空を翔ける『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)の言葉に、『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)が頷く。 「前回は敗北を喫したが、天才たるもの、一度の失敗もムダにせず次の糧にするものだ」 あれは、先の戦いで討ち漏らした一体。自分達の手で決着をつける機会が訪れたのは、幸運と言っても良いだろう。 だが、敵は岩石巨獣だけではない。もう一方からは、世界樹に歪められた赤銅の戦士たちが接近しつつある。 「立ち塞がるは変異体バイデンと岩石巨獣、か。世界一つ救わんとする戦いに相応しい“敵”だ」 臆することなく、『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)が言い放つ。清楚なメイド服に身に包んだ『棘纏侍女』三島・五月(BNE002662)が、真っ直ぐ前を見据えて口を開いた。 「取り巻く状況も厳しければ戦場も厄介なところ…… まあ厳しかろうと、ここで潰さなければいけないことは変わらないですね」 岩石巨獣に視線を向け、鋼の棘が連なる手甲“五式荊棘”に覆われた拳を握る。頑丈な相手との戦いは、彼の得意とするところだ。 「あっちもこっちも、もう、見るからに恐ろしいけど……」 左右から来る敵の禍々しさを目の当たりにして、『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)が息を呑む。 「ニニ、大丈夫だ」 前を行く『墓堀』ランディ・益母(BNE001403)が、最愛の恋人に力強く声をかけた。 「こいつらを倒して進む理由があるんでな――しっかりやるぜ」 決意を秘めた広い背中を見て、ニニギアが微笑む。 「気力も覚悟も、十分よ」 怯みはしない。これまでだって、必死に立ち向かって経験を積んできたのだ。 信頼できる仲間に加え、頼もしい恋人も一緒にいる。越えられない障害など、無い。 「あれを倒さないとまずいんだよね……。だったら、行くしかない!」 腹を括った凪沙が、深呼吸で気を静める。接敵のタイミングを計りつつ、リベリスタ達は次々に力を高めていった。 全員の背に、輝く小さな翼が浮かび上がる。 「足場が悪いから、飛んで移動してね」 翼の加護を与えた『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)が、仲間達に注意を促した。 美散が肉体の枷を外し、“禍月穿つ深紅の槍(ミストルージュブレイカー)”を構えて敵を睨む。 「お前達と相見えるのも恐らくコレが最後となる。 雌雄を決する時が来た。さぁ、心行くまで戦おう」 熱く沸き立つ血が、全身の隅々に至るまで闘気を漲らせた。 「宵咲が一刀、宵咲美散。推して参る!」 ひび割れた荒野に、一つの戦いが始まる。 ● 「行くよ……!」 背の翼を操る凪沙が、岩石巨獣との距離を一息に詰める。彼女は素早く側面に回ると、ぴったりと巨獣に張り付いた。双頭の怪物に死角はないが、ここまで接近すれば自らの巨体が邪魔をして狙い難くなる筈。 流水の構えを取る凪沙の心は、すっかり落ち着きを取り戻していた。危険な戦いであるからこそ、冷静さを欠いては勝てはしない。 後に続いた五月が、岩石巨獣の進路を塞ぐ。ブロックに四人を要するこの怪物を止めない限り、後衛たちの危険は跳ね上がるだろう。 自前の翼を羽ばたかせたユウが、後方から岩石巨獣を見下ろす。石化光線を放つ四つの瞳を纏めて焼き払いたいところだが、そうもいかない。 「目潰しは慣れたものですが……」 二つの頭を持っているとはいえ、岩石巨獣はあくまでも『一体』だ。一体の敵に対し、複数の部位を同時に攻撃は出来ない。どんなに高い技量を誇ろうと、こればかりはどうにもならなかった。 即座に考えを切り替え、こちらを睨む瞳の一つに狙いを定める。 「もう私の顔なんて見飽きちゃいましたかね? 申し訳ありませんが、首根っこを押さえ付けてでも見て貰いますよ」 ユウの指先から煌く糸が伸び、金色の眼球を貫いた。小柄な体には些か大きすぎる長弓に矢をつがえ、シャルロッテが黒きオーラを収束させる。暗黒衝動を孕んだ矢が、もう一つの瞳を正確に射抜いた。 「これなら岩の隙間も狙えそうかな」 成果を見届け、小さく頷く。この一矢を試金石に、彼女は今後の方針を頭の中で組み立てていた。 四つある瞳の半分を傷つけられた岩石巨獣が、おぞましい叫び声を上げる。鏃(やじり)の如く尖った石が正面に立つ五月の鳩尾を抉ると同時に、彼の全身を守る棘が巨獣を襲った。 五月と凪沙を振り切って走り出す岩石巨獣の前に、『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)が立ちはだかる。ちょうど巨獣と後衛たちの中間地点に前進していた彼は、逆手に構えたライオットシールドで強烈な体当たりを凌いだ。 そこに駆けた美散が、すかさずブロックに加わる。輝くオーラを纏う真紅の槍が、岩の隙間を目掛けて繰り出された。 地の底から響くような声とともに、かつて『バイデンだったもの』が迫り来る。 10メートル以上も伸びる無数の触手がリベリスタ達の四肢に絡みついた瞬間、悪臭を放つ緑色の粘液が頭上から降り注いだ。 「すぐに回復するわ」 何人かが触手に動きを封じられ、粘液の毒に侵されたのを見て、待機していたニニギアが癒しの息吹を呼び起こす。彼我の距離を測りつつ集中を高めていた陸駆が、傍らのランディに一歩先んじて変異バイデンに向かった。 「天才ファントムレイザー!」 多くの敵を効果範囲に含められる地点を瞬時に演算し、不可視の刃を送り込んで敵を切り裂く。直後、ランディが動いた。 「いい一撃だぜ! ガキ! ――巻き込まれるなよ!」 敵陣に切り込み、無数の傷が刻まれた戦斧を横薙ぎに振るう。呻き声にも似た風切音とともに、激しい烈風が三体の変異バイデンを打ち据えた。 荒野が、戦場の喧騒に包まれる。陸駆とランディの二人が変異バイデンの対応に回る間に、他のリベリスタ達は岩石巨獣に攻撃を集中させていった。 「いくらあんたでも、これなら効くはずだよね。これは、堅い奴のための技なんだから」 巨獣に追いつき、再び側面に回り込んだ凪沙が、攻防自在の構えから掌打を浴びせる。体内に衝撃が伝わり、破壊の気が巨体を揺さぶった。 五月もまた、棘の手甲に覆われた拳に気を込める。 「その頑丈な身体も、私の拳と棘には意味がないと証明してみせます」 岩石をも徹す一打が、真正面から巨獣の顔面を捉えた。血を流す金の双眸が、五月をじろりと睨む。 「ガッチリ堅実に、敵を抑えながら行きましょうか」 改造小銃“Missionary&Doggy”を手に、ユウが戦場を見渡す。動体視力を極限まで強化した彼女の目には、全ての敵の動きがコマ送りの如く映った。 銃口を上空に向け、引き金を絞る。天から落ちる火矢が岩石巨獣を貫き、変異バイデンたちを炎に包んだ。 猛り狂う岩石巨獣が、地を蹴って五月に突進する。ひび割れた地面も、四つ足の巨体にはさほど妨げにならない。超重を秘めた体当たりが五月の全身を軋ませると同時に、岩石の嵐がリベリスタ達を襲った。 弾丸の如く飛来した石の一つが、シャルロッテの額を傷つける。こめかみを赤い血が伝う中、彼女は冷静に自らのダメージを計算していた。 「痛いけど……この痛みが……もっと強い力になるんだよ」 シャルロッテはダークナイト、傷つくほどに強力になる闇の使い手。膨れ上がる漆黒の闇を無形の武具に変え、その身に纏う。 右前足の付け根に陣取った美散が、オーラの槍を真っ直ぐ突き出した。狙うはただ一点、先ほど一撃を加えた岩石の隙間。己が生命力を威力に変えて、戦いを求める男はひたすらに岩を穿つ。 麻痺を逃れた変異バイデンたちが、一斉に不気味な叫び声を上げた。 もはや、言葉として意味をなしていない。ここにいるのは勇敢なる赤銅の戦士ではなく、心を失った怪物だった。 蠢く触手が陸駆の腕に絡みつき、緑の粘液がランディの肌を毒で蝕む。厄介なことに、粘液は防具の隙間に染みこんで直接ダメージを与えてくるようだった。 周囲に漂うマナを取り込んで自らの力とするニニギアが、聖なる神の息吹を具現化させて全員を癒す。二手に分かれた仲間を同時に回復できるよう、彼女は己の位置を慎重に測っていた。 状態異常で動きを封じても、変異バイデンたちはすぐに立ち直ってくる。体の自由を取り戻した一体が後衛に視線を向けたのを見て、陸駆がすかさずオーラの糸を放った。 瞳を貫かれたバイデンが、怒りの形相で彼を睨む。だがこの時、少年の心を捉えていたのは眼前の敵ではなかった。 「貴様と、このように一緒に前にでて戦った記憶がある。確かな記憶のはずなのに思い出せない」 傍らの男――ランディを振り返り、言葉を紡ぐ。彼と共に戦うのは初めてなのに、以前にもこんなことがあった気がして。いつしか、高揚している自分に気付く。これもまた、“迷い羊”の導きか――。 戦斧で変異バイデンの足元を薙ぎ払うランディが、僅かに眉を動かした。 確かに、あの少年は彼の知る者と匂いが似ている。あるいは、ただの偶然かもしれないが。 「……さてな、ガキと一緒に戦うのは今回に限った事じゃない」 「ガキではない、天才神葬陸駆だ」 間髪入れず言い返す陸駆を見て、ランディは口元を歪める。『あいつ』の記憶を継いでいようがいまいが、大事なことは一つだけ。 僅かな沈黙の後、ランディは再び口を開いた。 「お前は死んでくれるなよ? それだけだ」 怒り狂うバイデンの触手をかわし、陸駆が不可視の刃を自らの周囲に生み出す。 「そんな心配は無用だ。僕は死なない。戦鬼ランディ・益母」 見えざる斬撃が、赤銅の肌を次々に裂いた。 ● 戦いが続く中、変異バイデンが後衛に触手を伸ばす。あちら側の前衛二人も攻撃の多くを引き受けてはいるが、それでも六体全てを抑えきることは難しい。 「ったく、片方だけでも厄介だっつーのに……!」 ユウが捕らわれたのを見て、岩石巨獣のブロックを続けるエルヴィンが神の光を輝かせる。続けて、レイチェルが聖なる癒しの息吹で全員の体力を取り戻した。 前衛を二手に分けた分、火力はどうしても分散する。癒し手たちの手厚い援護がなければ、敵の苛烈な攻撃で早々に数を減らされていただろう。 経験を積んだ覇界闘士のみが扱える格闘支援用アーティファクト“角行”を難なく操る凪沙が、小柄な体格を活かして巨獣の懐に潜り込む。 (足踏みが恐いけど……) 自分の役目は、岩石巨獣を足止めし、これを破壊すること。果敢に土砕掌を打ち込み、岩の内側から体力を削る。 苦しげに身を震わせた巨獣が、四つの瞳から石化光線を放った。なおも治まらぬといった様子で五月を睨み、石鏃を射出して彼を撃つ。 メンバー中でトップクラスの耐久力を誇る五月も、急所を立て続けに抉られて徐々に傷を深くしていた。流れ弾の如く飛来する変異バイデンの粘液が、物理防御を無効化してダメージを与えてくることも大きい。 それでも、彼は退かない。 「――代わりに、しっかりと私の棘で傷を負わせてあげましょう」 なおも巨獣の気を惹きつつ、身に纏う棘で反撃する。破壊の気を帯びた拳が、そこに追い打ちを加えた。 「あのでっかい目嫌いだなぁ……潰しちゃうよー」 岩石巨獣の後方に回ったシャルロッテが、呪いの矢で背中側の瞳を射る。彼女の“痛み”を数倍に練り上げたおぞましき呪いが、瞬く間に巨体を蝕んでいった。 「僕たちは世界樹に用があるのだ。貴様らに用などない!」 しつこく伸びる変異バイデンの触手を掻い潜り、陸駆が叫ぶ。 彼は既に自らの運命を削っていたが、天才を名乗る明晰な頭脳は絶えず演算を続け、勝利への道を見据えていた。 「だが――行きがけの駄賃としては悪くはない」 味方を巻き込まぬ位置に神秘の閃光弾を投じ、二体の動きを封じる。前衛を突破せんとするバイデンの脚を狙い、ユウがオーラの糸を放った。 怒りに染まったバイデンの触手が、彼女の腕を掠める。ユウは全ての敵に攻撃が届くギリギリの距離を測りつつ、自分を狙うバイデンから遠ざかった。 「殴られるのは嫌なんですよー」 最悪でも、接敵される事態だけは避けたい。 「――ッ!」 毒の粘液を全身に浴びたランディが、己の運命を燃やして自らを支える。ニニギアは駆け寄りたい衝動を必死に堪え、“弁天様の大杓子”を強く握り締めた。 (今は、自分の役目を果たすわ) 詠唱を響かせ、聖神の息吹を恋人の背に届ける。彼女の祈りに包まれたランディは、振り返ることなく“グレイヴディガー”を構え直した。 「後ろにゃ俺の大事なモンもあるんだ、完全に野獣に成り下がった手前らが触れていい女じゃねぇ」 決然と言い放ち、烈風の一撃で自分を囲むバイデンたちの動きを封じる。 「陸駆、飛べ!」 ランディが叫んだ瞬間、陸駆が背の翼を大きく広げた。宙を翔けて側面に回り、開けた空間に向けて不可視の刃を転移させる。 伸ばした触手ごと細切れにされたバイデンの一体が、地に崩れ落ちた。 美散の赤い瞳が、巨獣の体表に穿たれた傷を鋭く見据える。以前に倒した個体と異なり、体内の赤熱化を目印にすることは出来ないが、同種の敵と戦った経験は彼の槍を一段と研ぎ澄ませていた。 そろそろ、仕込みは十分か――。 直後、岩石巨獣の石鏃が五月の左胸を撃ち抜く。 「……厄介な相手ですね、前回生き残っただけある強さはさすがですか」 彼は運命の恩寵を用いて自らの体勢を立て直すと、続けて放たれた石化光線を素早くかわした。幸い、仲間達の目潰しが功を奏して光線の命中率は激減している。 癒し手たちの回復を受け、リベリスタ達は反撃に転じた。 「ビームは勘弁してね」 巨獣の足元に身を沈めた凪沙が、下から突き上げるように土砕掌を繰り出す。巨体を小刻みに揺らす振動とともに、砕けた岩石の欠片がぱらぱらと零れ落ちた。 「負けるのは嫌いです」 傷ついた身を奮い立たせ、五月が拳を握り締める。先のお返しとばかり、彼は気を込めた一撃を巨獣の鼻面に叩き込んだ。手甲に仕込まれた鋼の棘が岩石を貫き、破壊のエネルギーを体内に伝える。ほぼ同時、前も後ろも関係なく降り注ぐユウの火矢が、触手を持つバイデンの一体を灰燼に帰した。 追い詰められた岩石巨獣が、立て続けに岩石の嵐を巻き起こす。戦場の全てを砕かんとする石の弾丸を浴びてユウが倒れ、シャルロッテとニニギア、レイチェルの三人が運命を削った。 「立てる。まだ、癒せる!」 取り込んだマナを力に変えて、ニニギアが癒しの息吹で全員を包む。 たとえ気力が尽きても、その時は仲間や、愛しい人の盾になるだけ――。 裂帛の気合とともに爆発した美散の闘気が、乾いた大地を震わせる。 その手に構えるは、かつて“伝説”を打ち破りし深紅の槍。 「ツガイの下へ送ってやる。安らかに眠れ!」 あらゆるものを破滅に導く一撃が、穿ち続けた岩石の隙間を縫って炸裂する。柄の半ばまで突き込まれた槍の穂先が、巨獣の内臓を深々と抉った。 『我、代償に血潮を流し己を傷つけ、破壊を敵に与えし者也』 長弓に矢をつがえたシャルロッテが、狙いを定めながらフランス語で囁く。 身を蝕む痛みが、力となって矢に注ぎ込まれた。 『血の一雫が敵を貫く力となりて破滅をもたらそう――』 おぞましき呪いを孕んだ一矢が、“絶対命中(クリティカル)”で巨獣の心臓を貫く。 響き渡る断末魔の絶叫が、岩石巨獣の最期を告げた。 ● 巨躯が倒れる轟音を聞きながら、陸駆が変異バイデンの首筋に牙を立てる。血錆の浮いた戦斧を振るうランディが、“生死を分かつ一撃”をもって触手のバイデンを屠った。 リベリスタ達は総力を結集し、残る三体の殲滅にかかる。 五月の拳が一体に止めを刺した瞬間、横合いから猛毒の粘液が彼に降り注いだ。防御の効かぬ攻撃の前に、五月が力尽きて倒れる。 だが――バイデンたちの悪足掻きもそこまで。凪沙が燃え盛る拳で一体を沈め、シャルロッテが暗黒衝動を秘めた矢で残る一体の攻撃力を殺ぐ。 「お前達は最期まで戦士たるバイデンだった」 美散が手向けの言葉とともに繰り出した渾身の一撃が、憤怒と闘争に生涯を捧げた“バイデン”たちの幕を引いた。 戦いが終わると同時に、ニニギアがランディに駆け寄る。 互いに深く傷ついてはいたが、二人ともまだ戦う力を残していた。 「大丈夫よね?」 力強く頷く恋人の顔を見て、ほっと胸をなで下ろす。 そして、彼女は倒れたバイデンたちへと視線を向けた。 歪められ、変わり果てた姿は、恐怖よりも悲しみを誘う。 しかし、足を止めている暇は無い。負傷者の治療を手早く終え、リベリスタ達は再び走り始める。 世界樹の禍々しい姿が、全員の瞳にはっきりと映った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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