●待ち人来たらず 「ふ、む」 男がいる。薄暗い部屋の中だ。椅子に腰かけゆったりとしている。 彼は人を待っていた。同組織の――六道の知り合いである。蜂竪という男だ。 その蜂竪は今、とあるアーティファクトの入手に向かっていてここを留守にしている。我々の研究に役立つ物で……何と言ったか忘れたが、なんでも神秘の探求に役立つらしい。 「ソレを持って、そろそろ戻ってくると思うんだがな……」 アイツが出て行って随分経った。 アーティファクトの入手自体は既に終了している筈。今頃は恐らく戻ってきている最中だと思うのだが。妙に遅い気がする。何かあったのか。 「……まぁもう暫く、ゆっくりと待たせてもらうか」 暇つぶしにと彼は胸ポケットから煙草を出して火をつけようとすれば、ライターの調子が悪い。どうにも今日は待ち人にしても道具にしても運が悪い様だ。何度かの試行の末にようやく煙が上がれば吸い込み吐いて。 「――束廼さん!」 その時だ。後方のドアを乱暴に開いて誰か入ってきた。 アイツでは無い。部下だ。息を荒くして、ここまで急いで来たのだろう。 何事かと思案すれば、結論出る前に部下の口が開いた。 「アーティファクトを入手した蜂竪さん達がアークに襲撃されているそうです! ここに来る途中の道路で交戦中だとか……」 「……おいおい。どんだけ俺は今日運が悪いんだよ」 煙を吐く。 アークが来るかもしれない、という予想はしていたが本当に予想が当たるとは。しかしそう言う事ならゆっくりしても居られない。 「場所は? ここからどれぐらいの距離だ?」 「へっ? あ、ああ。さほど離れてはいません。 全力で行けば……まぁ戦闘の途中ぐらいには介入できるかと」 「なら行くか」 椅子から立ち上がる。距離があるならまだしも近いのならば援護に行く意味がある故に。 「すぐ人を集めろ。蜂竪達の援護に向かうぞ。 後ろからアークの連中を刺してやればある程度有利になるだろう。ほら急げッ!」 は、はい! と部下が勢いよく部屋を飛び出して行くのを尻目に、束廼は部屋の隅に置いてあった愛用の銃を手に取る。 今日はどうも運が悪い。しかしまぁだからこそ。この様な流れは己自身で断ち切らなければならない。 「俺らは六道だ」 呟く。ドライゼ銃にも似たライフルを背負い、部屋のドアを閉じながら、 「研究の邪魔をする奴らは――許さんよ」 ●ブリーフィング 「ニーチェの『擬』眼。そのアーティファクトを現在、あるフィクサードが所持しています」 『運命オペレーター』天原・和泉(nBNE000024)が口を開いた。 彼女の口調は重く、真剣な表情である。 「コレはある条件で使う事により神秘の情報を詳しく調べる事の出来る能力を持つのですが――これの奪取自体は別件ですので気にしなくて良いです。貴方達にやって貰いたいのは別件たる彼らの援護となります」 「援護?」 ええ。と和泉は言う。 直後にモニターを操作した先に映ったのはある施設だ。 そこから複数の人間達が武具を装備して慌ただしく動き回っている。これは、 「簡単に言えば増援、ですね。それなりの人数が動くみたいで、彼らを放っておくとアーティファクト奪取班の背後を突かれる形となります」 「そうなると不利な局面に成るのは必然――か。成程な。俺らの役目は足止めか」 「ええ、まぁ出来るなら全部倒して頂いても構いませんよ?」 それも不可能では無い、と和泉は告げる。 増援として動くフィクサードは十人以上だが、この中でそれなりに強いのはライフルを携えた男一人のみ。後は軒並み実力の劣る者達ばかりだ。なんとかできなくも無いだろう。 「ただ人数の面では向こうが上ですので……確実なのは足止めの方です。地形の関係上障害物が多いのでそれらを利用すれば結構優位には立てるかと。殲滅しようとすれば向こうも本腰入れて相対してくるでしょうし。どうするかは貴方達の判断に任せますが」 渡された資料。おおよそ戦場と成り得る場所は林の中だ。 時刻は夜明け前、木々の多い場所での戦闘……時間稼ぎにはうってつけの場所である。 とは言え、和泉の言った様にどのような闘いをするかはリベリスタ達の自由だ。 殲滅か、足止めか。 いずれにせよ別動として動いて居る仲間の勝利の為に――彼らもまた、動き出すのであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月09日(火)23:17 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●奇襲開始 夜明け前。林の中を突き進む影がある。 フィクサード達だ。行軍を急いでいる所為か速度は速く――しかし注意は散漫。 故に、 「天才ッ!」 茂みの中から『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)が往く。 掛け声一閃。繰り出す不可視の刃が転移する先はフィクサード達の集中点で。 「ファントムレイザッ――!」 木々ごと薙ぎ倒さんとばかりに切り刻んだ。 見えぬ者も構わない。刃は等しく襲いかかり、悲鳴が林の中に木霊する。 「クッ――なんだ、奇襲、だと!?」 「その通り。状況分かったんならまだまだ行こうか」 一行のリーダーたる束廼が奇襲を悟るも、遅い。『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169)が目に付けたのは敵後衛。 己が武具たるCrimson roarを稼働させれば前に出て。 「先手、貰ったァ――!」 放つ。射撃音が複数回に響き渡り、狙いの敵を薙いで行く。 されどまだ終わらない。奇襲に混乱する状況の中、フィクサード達に火矢が襲いかかった。 燃え滾る炎だ。目に映る限りのフィクサードを捉え、穿ち、炎に包みこんで行く。すると、 「あ、当たったの……かえ……? いやいやそんな筈が無い! 今のは偶々じゃろう!」 声が響いた。やけにネガティブ思考にまみれている声の主は『不誉れの弓』那須野・与市(BNE002759)である。全てしっかり着弾したにも関わらず“偶然”とすら切って捨てるのは彼女の性格。目の前の事実にすら何かと理由を付けてネガティブに導くのだ。 「そうじゃ、わしの矢が当たろうなどどあり得ぬしな……目の錯覚かのう……」 「そう言いながら遠方より次々当てて来てるでないか」 「な、なにを言うとるのじゃ! いくら弓使いとは言ってもワシの矢が当たる訳なかろう――わしじゃぞ!?」 「知るかぁ――!」 あまりのネガティブっぷりに束廼も思わず突っ込んだが、軽口叩くのはここまでだ。 恐らく見えぬリベリスタがまだそこいらに潜んでいる事だろう。気配がいくつか感じ取れる。それらの対処をせねば。 そもアークが来る、という予想はあったのだ。だが急がねば、という現実もあった。 そうして天秤掛けた結果がこれとは苦笑するしかない。ま、今はとにかく前を向かねば―― 「むッ?!」 その時だ。フィクサード達の身を闇が包み込んだ。 闇の瘴気が形を成して襲いかかる。それは、 「アークが来る事予想してたんならこの状況もある程度は予想してたんだろアンタ?」 『断魔剣』御堂・霧也(BNE003822)の放つモノだ。彼は闇と共に駆けながら束廼へ言い放つ。 「通さねぇよ。テメェらはここで通行止めだ――覚悟してもらうぜ!」 「ガキが……ぬかせ! 邪魔をするというなら押し通るまでだ!」 反応は即座に、接近する。 銃を片手で構え、視線で捉えて引き絞れば、穿ちて道を開かんと。 「おおっと。そうはいきませんなぁ」 だが行かせない、とばかりに『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)が束廼の眼前に跳び出し、介入する。放たれた銃弾を右肩に掠めつつも直撃を避ければ、射線に交差する様な形でお返しの銃弾を射撃。 されどその狙いは束廼では無い。貫通力を増した弾丸は彼の脇腹すぐ横を通過し、遥か後方に位置した後衛の腹に穴を開けた。 「貴方の相手は私が務めさせて貰いますぞ。同じ様な戦闘スタイル同士……興味が尽きませぬな」 「言う割に狙うのは俺では無く俺の後ろか?」 「“やりたい事”と“やるべき事”が同じとは限らぬ。そう言う事です」 そう。今回の目的は“フィクサードの足止め”だ。九十九の興味自体は近接型サジタリーたる束廼にあるが、己が興味ばかり優先する訳にはいかぬと最初の狙いは敵後衛。 まずは突破を防ぐ為に数を減らさねばどうしようもないのだ。 「六道は最近あっちにこっちに仕事熱心なのね。 本当に朝早くからお疲れ様。でも――好きにはさせないわよ」 さらに駄目押しとばかりに『薄明』東雲 未明(BNE000340)が剣撃を叩き込む。負傷したフィクサードを確実に撃つ為、待機し、狙いを整えてだ。高速の残像が肉を切り刻めば耐えられぬ者は地に伏して、 「さて、それじゃあヘクス達もそろそろ前に出ましょうか。 でも愛。私の後ろか近くまでで頼みますね。絶対前には出過ぎない様に」 「オーケーオーケー! 万事任せろ! 息する様に前でてやんよ! 酸素 イズ ボク!」 ここで『絶対鉄壁のヘクス』ヘクス・ピヨン(BNE002689)に『ナルシス天使』平等 愛(BNE003951)の二人が前に出る。 愛まで出るのはブロックと――端的に言えば囮の役目を兼ねている。癒し手たる愛が前衛近くに出る事によって狙われやすくなるのを逆手にとった戦法、と言った所だろうか。防に優れるヘクスが守護するからこそ出来る荒技だが。 「さぁ。タワーディフェンスゲームです。ただし今回のタワーは壊れませんよ。 無理に砕こうと言うならご自由にどうぞ。私はそれを全て跳ね除けるだけです!」 言い放ち、激突する。突破しようとする一団と、通さぬと壁になる一団が。 各々の意思と決意を持って。 ●突破の攻防 リベリスタ達はフィクサードらに打撃を与えていた。 初撃の奇襲。全員が攻撃に回った訳ではないが、それでも後衛に集中させた分の恩恵は凄まじい。何も出来ぬまま沈んだ者もいたのだ。 数の上ではまだ上回られているとはいえ、流れはリベリスタ側である。 「だがこのまま行くと思うなよ……!」 束廼が配下へと指示を飛ばす。 内容は実に簡単だ。前衛は敵を抑えて“後衛は戦場を突破せよ”というモノ。 理由はごく単純に彼らの目的が突破であるが故。数の優位がある内に前衛陣でリベリスタを抑え込み、後衛陣は援軍としての責を果たすつもりなのだ。 「そう簡単に抜けさせはしねぇ、てな!」 ブレスが狙う。眼前に迫るイージスの敵を、後ろに飛び跳ねる事で距離を取れば、直後に射撃。 戦場を抜けようと移動する者達を狙って最も先往く者の脚を穿つ。さすれば衝撃と共に転ぶ様子が薄暗さの奥で目に映った。 「……けどこの暗さは面倒ね」 イージスと対面する未明が洩らすは視界の悪さだ。 夜明け前、と言う事もあり光が無いわけでは無い。しかし茂み多い林の中では漏れ込んでくる光量が制限される為、薄暗さをどうしても感じざるを得ないのだ。初撃こそ九十九の熱感知で相手を正確に把握できたが、下手に乱戦になって敵味方が入り乱れれば同士撃ちの可能性がある。それはマズい。 「だったら離れてても分かる様に目立ってやんよ! きゅっふっふっふっふっふぅ! ほうら讃美歌讃美歌だよ! 神様じゃなくてボクの讃美歌だけどね! 天使もハッスル!」 胸に手を当て愛が歌う。己の、己にとっての讃美歌を。 天使よ称えろ。世界一可愛いボクがここにいるんだ。きゅっふっふっふぅ―― 「やれやれ……ま、見失う様な事が無くて幸いですがね、とッ!」 所持する大きな盾――厳密に言えば扉だろうか、に衝撃が走る。 ヘクスが愛に向けられた攻撃を弾いたのだ。声と、首から下げた懐中電灯でなんとか視界を確保できている為、離れすぎ無ければ攻撃に関しては確実に弾ける。そうして彼が無事でさえあれば回復出来る為……ヘクスの防御能力は至高に輝きつつあった。 「あ、ヘクスちゃんありがと――うわっ! 何今攻撃した男子! 良い感じじゃない!? ねぇねぇボクと後で良い事しない!? 割かし本気で天国見せてやんよ! だから後でそこいらの茂みの中ででも、あれ、ヘクスちゃんどうして離れるの!?」 離れてるのは気のせいです。と切って捨ててヘクスは思う。愛の気が昂ぶっていると。 性癖というか趣味的な意味では無く、表現としては緊張と言うべきだろうか。本来癒し手として後衛に位置するのが彼だ。戦場である以上前衛だろうが後衛だろうが危険はあるが、前に出れば出るほど被弾の確率が高まるのは自然だ。 慣れぬ位置に居る事が緊張を呼んでいる――ならば、 「全ての攻撃を跳ね除け、安心を齎すが私の役目ですね」 「頼りにしてるよヘクスちゃん! ――あ、そう言えば護ってくれるだったらボク、気になった子をお触りして来て良いかな?! 前に出るとかドッキドキだけどどうせならもうちょっと別のドキドキも体験して来て良いかなって、あ、駄目? 引っ込んでまーす」 テンション高めである。緊張とか、気のせいかもしれない。 ともあれ、だ。 「当たらずとも当たるまで撃つ事が肝要じゃな…… わしみたいに当たらぬ矢を放つ者にとっては数でもこなさねば……ううっ」 戦闘は続く。相も変わらずネガティブ全開で攻撃を続行している与市だが、命中しているので問題ない。 が、それとは別に相手も止まらなかった。突破しようとする者はただひたすらに前を目指して突き進む。ある程度の妨害など承知の上。それでもなお、 「行け……!」 束廼が叫ぶ。行くのは三名。サジタリーが二に、インヤンが一。他の八名で敵を止めてみせるから、 「行けっ……!」 叫ぶのだ。 茂みを掻き分け真っすぐに。 行けと。 「言っただろうが……」 その時だ。声が、リベリスタ側から響き渡った。 彼の声は続く。束廼の声を掻き消すかのように、吠える様に叫び返すのは。 「ここは通さねぇ、てなぁ!」 ――霧也だ。 目の前に武器を構えたクリミナルスタアのフィクサードがいる。故に接近は阻まれるも、 「テメェ等六道の理屈なんて知らねーし、こっちが邪魔するのを許して欲しいとも思っちゃいねーよ」 ただ、そう、彼には、 「アッチにゃ――仲間が居るんだ。理由なんてそれだけで十分だろうが! 此処から先はこれ以上行かせねえよ!」 決意があるのだ。 言い終わるが早いか否かのタイミングで放たれるは、突破者を呑みこまんとする闇。 瘴気が纏わりつき、逃がさないと言う意思が彼らを絡み取って。 「僕らはアークだ。アークの一員として、悪の研究所の野望を潰えさせる事。 それが、僕らの任務だ!」 直後、陸駆が閃光弾を炸裂させた。 今度は闇とは真逆の光がフィクサード達を包む。突如の瞬きに一人が怯えて。 「隙あり――と、言わせてもらいましょうか」 九十九が見逃さない。 極限の集中と、熱源を感知する能力で暗闇すら意に返さず引き金を絞り上げる。 ――着弾した。胸を穿ったその一撃で、人影がゆっくりと地を舐める。倒れたのはサジタリーの者か。 されど止めれぬ範囲の者もいる。他の二名は無事なのだ。彼らのブロックが間に合えば止めれたろうが……残念ながらリベリスタ全員がブロックされている為、止めれない。 戦場から二名が脱出する。往く先はもう一つの戦場だ。 「突破された、か。でも……」 眼前の敵に踏み込んだ一撃を加えつつ、未明は呟いた。 「これでこっちにとって有利な八対八、ね」 ●同数の意味 八対八。これが如何なる意味を持つのか。もはや自明の理だ。 八対八に持ち込めたからフィクサード達はリベリスタの妨害をある程度抑える事が出来た。突破するメンバーを選別し、その者達を確実に戦場から離脱させる事に主眼を置いたため、リベリスタ八名は“抑えられた”形なのだ。 が、今と成っては状況が全く違う。突破メンバーはいなくなり、今度はフィクサード側が“抑えられる”形と成っているのだ。なんとか隙を突こうとはするものの、 「さぁ、て。そろそろ貴方にも本気を出して貰いたい所ですな…… 全力の貴方に勝利すればこそ意味があり、私も自分に誇れると言うモノです」 「……一応聞くがそういう全力はまたの機会に、と言うのは」 「ハッハッハ――面白いジョークですな」 無論それは警戒されている。 何度か束廼は強引に九十九を振り切ろうとしたのだが、折角出会えた同じ様なタイプの相手を逃がすまいとする九十九の執念が勝る。絶対に逃がさない、負けれはしないと気迫から伝わるほどだ。さらには、 「さぁこっちおいでこっちおいで! 良い男子はホント大歓迎だよ! ボクの胸に飛び込んできな!」 ヘクスと愛の二人が控えている。この二人がいる以上、仮に九十九を突破できてもそこで足が止まってしまう。なんともフィクサードにとって面倒な布陣をしているものだ。 「えぇまぁ愛はともかく、来たければどうぞ? 砕けると言うなら砕いて見せて下さい。 ねじ伏せれると言うならねじ伏せて見せて下さい。この絶対鉄壁を! 貴方達で攻略できるのなら!」 「ぬ、ぐッ――! 時間があるならやってもいいが、今は無いのでお断りだ!」 硬い。硬すぎる。 時間を掛けて良いならともかく、束廼の目的は直接戦闘では無い以上時間を掛ける理由は無い。今はそれよりも一刻も早く、 「この場を抜けさせて貰うぞ……!」 銃を構えて即座に放つ。時間の余裕がおそらくもうあまり無い筈だ。 だから、とばかりに放つは火弾。目に付く者を押しのけんと、不得意な遠距離にすら手を出すのだ。 「ッ、随分な武闘派研究者がいたものね。本当に六道か疑っちゃうそうよ」 「最近はお前らみたいに物騒な連中が多くてな。自衛の手段はあるに限る」 「それは言うならそもそも誰の所為だと――」 一息。 「思ってるのかしらね!」 踏み込み、未明は眼前のイージスに全力の一撃をぶち込んだ。交差様に向こうの剣が突きとして来るが、踏み込む方が早い。頭部に来る軌道を避ければ頬の肉を割かれるだけで済んで、倒す。 「ふぅ……全く。雑魚相手とは、役不足にも程がある。 素人はどれほど喚いても天才には勝てないものだと、理解が足りないのかな? んん?」 一方で、陸駆が相手する場では挑発の連続が繰り広げられていた。 相手の攻撃の被害を最小限に抑えつつ、口の動きは止めない。己にだけ集中させて、激昂させる為に。 「動きも節々が遅く……六道の研究所でも貴様は一人だけグズ扱いされているのではないか? その動きも僕ならもっと効率的に出来る。お前よりも遥か高みの域でな」 同時に繰り出すは気糸だ。足を狙い、動きを束縛するかのように攻撃を重ねて行けば相手も業を煮やして怒りを見せる。計算通りだ。後は攻撃を捌きつつ、倒す機会を見据えるのみ。 「しっかしまぁ――大分片付いてきたなぁおい」 戦局はリベリスタに優勢。もはやブレスの目にも見える形で明らかと成ってきていた。 二名の突破こそ許したものの、だからこそ数の有利は打ち消えて。その後の戦闘経過でいまや数の面ですらリベリスタが上回っている。束廼の攻撃順位が低かった為彼こそ健在だが、いずれ戦局は決定的に成るだろう。 「だからてめぇらも往生しやがれ!」 薙ぐ。未だ突破を諦めぬフィクサード達を纏めて潰す。 束廼に関しては他の仲間に任せよう。自身はどこまでも束廼以外の敵を抑えるのに専念すべきだと。心に刻み、武器を片手に旋回の形で薙いで行く。 ――瞬間。 「!? みな気を付けい! 奴の動きがおかしいぞえ!」 与市の声が飛んだ。 直後に来るのは銃弾だ。複数の銃撃音と共にリベリスタ全てに銃弾の雨が降り注ぐ。 暗闇を超えて。茂みを超えて。捉える全てを穿たんと束廼が仕掛けたのだ――が、彼に注意を払っていた与市の一言でリベリスタの動きは迅速だった。回避、とまでは行かないものの直撃を抑えることは出来て。 「チッ! ええぃ、鬱陶しいリベリスタ共めが……!」 「ハッ、不発気味で残念だったな! ソイツを使ったってー事はもう後がねーって事だろ? ケリをつけさせて貰うぜ、おっさん!」 その様に思わず束廼は舌打ちし、霧也は好機と見る。 なぜならば束廼の奥の手たるソレは行動不能になる。僅かな時と言えどそれは隙。突くには十分な理由だが、 「おっさん舐めるなよガキが。後が無い程度で退けるかァ!」 激突する。 まだ終わらない。まだ行けると。障害物が多い場所で泥沼の闘いを展開しようとして―― 音が鳴った。 和泉からの合図だ。向こうは終わったと。成否は知らぬがいずれにせよ決着は付いたと見て良い。 故に陸駆は言葉を重ねる。フィクサード側に届く様に大声で、 「アークがAFは入手した。お互い潰しあいをするほど暇ではないだろう。 ここらで仕舞いと――どうだ?」 「それともどう? 最後までやる? 個人的には、それも良いかなって思うけど」 「……向こうが決着したなら、続ける意味は無い」 そ、と軽く返事を未明は行う。 流石にどこぞの闘争好き組織――まぁ剣林の事だが、あそことは違うようだ。 六道側が不利な事もある。闘い続ける事に意義は無いと割り切っているのだろう。 「大変有意義な時間でした。また、やれると良いですのう? 機会があるならば……今度は最初から全力を共にして」 徐々に双方が撤退する動きを見せる。その中で、九十九が声を掛けるは束廼。 出来うるなら、どちらが倒れるのか強いのかハッキリさせたい所だったが、マトモに相手出来る前に期限が来た。仕方ない。闘いの優先順位が高ければその辺りも決着していた事もしれないが“もし”は“もし”だ。 「フン……こっちとしてはお前らなんぞお断りしたいがな」 見事にこちらの狙いが潰された。 能力で言えば総合的に劣っているものの数で優位だったと言うのに。こんなリベリスタ達の相手など二度と御免被りたい所である。 しかしそれでも、 「……ま、最後の最後に、運だけは拾えたか……」 己は生きている。 彼にとって運無き日における唯一の幸運だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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