●ラ・ル・カーナ 土が枯れる。 水が枯れる。 空が枯れる。 全てが色を失い、果てて、朽ちて行く。 ラ・ル・カーナの落日という言葉は虚偽では無いのだ。現状が全てを物語り、破滅はすぐそこに。 世界樹エクスィスは狂い果ててしまったのだ。 「だが……」 それでも、 「まだ希望はあるだろう……!」 往く。リベリスタ達はフュリエ達と共に、狂った世界樹の元へと。 策はあるのだ。 かつて発見された神秘の存在構成をリセットすると思われていた石――“忘却の石”の使用である。 無論、ソレをただ使用しただけでは現状の打破は叶わない。しかし、世界樹にリンクする事が可能なシェルンが、世界樹の奥底へと潜り込んで使用すれば“R-typeの残滓”を消滅させる事が可能……で“あるかもしれない”のだ。 推論。推察。憶測。希望。好きな言葉を選んでいいが、あぁ御察しの通り。確実では無い。 保障? そんな物は無い。失敗すればラ・ル・カーナは消滅するだけの話である。アークとしては全てを諦め撤退する手段も検討されたが――最終的に強行する道が選択された。 アークの室長は諦めきれないのだ。R-typeを。かの世界存在を。あの日を。 ナイトメアダウンを。 かくて戦場は世界樹へと移行する。 リベリスタ達が、 シェルン率いるフュリエ達が、 “敵”を求める残存のバイデン達が、 各々の戦意と理由を持って集結する。 決戦は間近に。果たして得るのは希望か、破滅か。 ●強行突破 生まれる。 生み出す。 生まれてしまう。 狂った母体に生み出されるは狂った子供達。 その末端が起き上がる。 かつてそこには寿命で朽ちた大樹があった。 幹は折れ、実は実らず、葉は死んで。 それでも根だけは細々と。大地より僅かな栄養を得て死を少しだけ先伸ばしていた。 “ソレ”が起き上がる。 実も葉も無視して幹を再生し、その体をもう一度と復活させる――周囲の大地を犠牲にして。 今までの比では無い。急速に、大地が干上がる勢いで栄養を吸い上げて行く。 その姿は全盛を遥かに超えてそそり立つ。太く、巨大に、禍々しさを身に灯し、 足りぬ、足りぬと養分求めて根を地下深くにまで突き伸ばす。 幹からは黒に近い紫の樹液が際限なく流れ果て、枝は先を尖らせ幾万と無数に枝分かれれば、 リベリスタが、フュリエが、バイデンが、周辺の変異体すら餌に見える。 寄こせ、食わせろ、まだ足りぬ。 知性では無い。大樹は本能だけで行動する。 全て呑み込み己が糧とせん為に。悲鳴すら肴として―― ――だが、 「ク、カカカ! 邪魔だリベリスタども! アレは我らが喰らう。貴様らは帰るがいい!」 「はああっ!? ふざけんな戦闘狂いどもが! アレは俺らが叩き折って進むんだからテメェらが帰れやああああ!」 「ど、どっちも落ち着いて! 枝が、枝が伸びて来てるよ!」 彼らに臆する心は無い。 立ちはだかる大樹を前にしてもそれは変わらず。 その眼に映るは大樹如きに非ず。世界樹である。というか世界樹に到達してもそこからさらに中に侵入する為ぶっ壊す作業すらあるかもしれない。だからこんな所で立ち止まる暇など一瞬たりとも無いのだ。 故に、捕食せんと伸びてくる枝を、 「邪 魔 だ ど け ッ!」 一言吠えて薙ぎ払う。 さぁ行け諸君。 過去に栄華を誇った大樹など砕いて進め。 ――勝利を得ろ! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月13日(土)00:03 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●行こう ラ・ル・カーナの死。 下手をすれば、いや下手をしなくても現実になろうとしているソレを前に、抗う者達はいる。 フュリエであり、リベリスタであり――目的こそ違うが結果としてバイデンもそうか。 世界の危機に三つの種族が集い、そして今悪意の塊として再起した大樹を倒さんとしていて、 「バイデンさん、どうです? 一つ俺達と競争してみませんか」 「競争、ダト?」 『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)が口火を切った。 横目でバイデンらを見据えて、心中では少しばかりこの口上が成功するのかに緊張がある。 ……乗ってきてくれよ。 そう思考するのは“幹”の存在だ。迂闊にアレに攻撃されると非常に困った事態が発生する。カウンター気味に発せられる“悪魔の樹液”。ソレの被害が馬鹿に出来ないのだ。 なるべく自然に根か、あるいは枝にでも狙いを導きたい所だが。 「そ、競争だよ――小手調べって奴でもあるかな。 どうせこんなのも倒せないようじゃ、もっともっと大きな世界樹なんて夢のまた夢だよ?」 そして義衛郎の言葉にさらに乗せる形で『紅玉の白鷲』蘭・羽音(BNE001477)もバイデンへと言葉を紡ぐ。とは言え、あながち間違った事を言っている訳ではない。 眼前の大樹は確かに巨大だ。しかしそのさらに奥に控える世界樹は“こんな程度のモノ”では無い。更に歪に、更に凶悪に、更に悪意を呑みこんだ“コノセカイ”なのである。 阿呆な攻撃を繰り返すだけでは百年掛っても無駄だろう。だから、 「――デタラメに殴るしか能の無い愚図なら後ろに引っ込んでいなさい。 アレを根元ごと討ち取るのは貴方達じゃない、この私よ!」 「狂った世界中のマイナーダウンコピーに負ける訳にはいきませんね。 押し通らせて貰います!」 威勢よく『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)と『非才を知る者』アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)が駆ける。ミュゼーヌは極限の集中を己に施しながら、アルフォンソは戦況をしかと見据える眼を発揮して。 「ええい、舐めるなよリベリスタ共! 我らバイデンが貴様ら如きに後れを取るとでも思うかァ!」 「んじゃ、早い者勝ちって事で如何かぇ? 先に根を倒した方が次の獲物を選べる。 大樹を倒したら世界樹まで後は一直線に競争なのじゃ。簡単じゃろ?」 さすれば挑発に見事乗ったバイデンに『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)がそれとなく根へと狙いを誘導させようとする。符を取り出し、術を施せば影人を一体作り出して、 「では、スタート! 先に行くぞ、バイデン共!」 影人を前線へと送りだす。目的は枝の大量攻撃分散の為である。 囮と成れば良し。囮と成らずとも誰かを庇わせ、盾の役割が出来れば上々――と言った所か。 「さて……果たしてどちらが倒しきるのが早いのでしょうね? バイデンですか? それともリベリスタですか? どう思います?」 「ハッ! 決まっておろう、バイデンに敗北は無い! 得るのはいつも勝利なりッ!」 「――ふふっ、そうですか。なら実際に比べてみましょうか!」 そして『下策士』門真 螢衣(BNE001036)が薄く笑みを携えて大樹を見据える。 バイデンの挑発には成功した。ならば後は目の前のコレをどうすべきかだけだ。 癒しの符を右手に持ち、支援の準備を万全にして、 「さぁ始めるぞ。この戦いは前哨戦だ。さっさと蹴散らして本番へと行かねばな」 「ええ、世界を護る為に倒せさせて頂きましょう。私達が世界樹へと向かうには邪魔な存在です」 『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)に雪白 桐(BNE000185)も往く。 そう。この闘いは所詮前哨戦なのだ。世界樹へと到達する道のりの途中でしか無い。 であればここで足止めされるなど言語道断。即座に薙ぎ倒し歩みを進めんとすれば、 リベリスタもバイデンもフュリエも戦意は十分。 ――後は往くのみッ! ●根を潰せ 根が地を抉る。 枝が空を切り裂く。 幹が負の樹液が降り注がせる。 寄こせ寄こせ。喰いたい喰いたい。そんな呪詛が聞こえてきそうな弾幕の中を突き進むのは桐に羽音だ。 特に桐は樹液が降り掛かろうと気にも留めない。耐性は十分に備えているからだ。樹液の負など彼には通じない。 故に回避しきれずともダメージ以外はどうでも良いと。踏み込んで、 「押し切らせて、もらいます」 一声共に根を薙いだ。隣との間隔はある程度開けて、だ。 なぜならば根自身の攻撃がある。体力を奪い取る範囲攻撃から逃れる為に彼らは――バイデンはともかくとして、6mの間隔を開けている。さすれば被害は最小にして攻める事が可能だ。 ……言う事聞いてくれれば一番なんだけど。 そう思考するは羽音。全身の力を利用した一撃を放った後に、バイデン達へ視線を向ける。 一応大樹の情報は伝えておいた。情報が自分達にだけあるのはフェアではない。挑発だろうがなんだろうが勝負を持ちかけた以上その様に彼女は思考している。とは言え、バイデン達が自分達の情報をどこまで信じて、どこまで活用するかは彼ら次第だが。 「ま、オレ達はオレ達で作戦通り動きましょうか。まずは根っこを切り捨てます」 「大樹よ。貴様の為にわざわざ調整してきてやったんだ。存分に味わうが良い、俺の炎と闇を」 義衛郎も根へと向かう。とにかく大樹の体力を支える根を即効で潰す策だ。 悪影響を及ぼす地形をハイバランサーで対策し跳ねる様に接近。そのまま高速の勢いで幻影を伴い、根を切り刻まんとすれば、大樹が震える。そこへ間髪いれず櫻霞が援護の構え。己が武器たるナイトホークを構えて、 「蝕め闇よ。燃やしつくせ炎よ。道を切り開け」 炎の力を宿した銃弾を放つ。着弾すれば、驚く程簡単に根が炎に包まれ燃えた。 それだけでは終わらない。今度は逆の手に持つスノーオウルの引き金を即座に絞れば第二の銃弾。生命を蝕む漆黒を宿した黒の銃弾が射出された。根を穿ちて悪魔の大樹に風穴を開ける。しかし、 「ッ! 下から来るのじゃ! 気を付けよ!」 影人を更に作り、送り出す瑠琵の声が飛んだ。 直後に来るは根だ。大地のヒビが砕けて現れる巨大な根。まるで蛸の足の様に蠢いている。 超直観の目で見据えていたが故に瑠琵はなんとか見切る事が出来たのだ。そしてその声が飛ぶのが一瞬早かったおかげか、根に巻き込まれる被害はバイデンも抑えれて。 「フンッ――礼は言わぬぞ」 「良いから根を早くッ! 枝も来るわよ!」 今度はミュゼーヌだ。銃を構え、狙うは根だが直上より襲いかかる枝も忘れてはいけない。 根は距離を開ければ躱わせるが枝は直接個々を狙ってくるからだ。もはや槍と言っても過言ではない威力を持つソレは彼女らの肉を食さんと襲いかかる。今は掠める程度で済んでいるがいつまでも持つとは言えない。急いで根を、 「倒さねばいけませんね――ですからこれならどうですか?」 アルフォンソが言葉と共に放り投げる。 閃光弾だ。高く、弧を描くかのように飛び、最高点に到達した瞬間に、 「――!!」 炸裂した。光が爆発するかのように広がり、大樹を襲う。されど、 ……僅かに怯んだ程度ですか! アルフォンソが見たのは枝と根がほんの少し震えた様子だ。 効かない、と言う訳では無さそうだが、それでも集中した上での閃光弾をこうも容易く耐えるとは。 ……少しばかり厳しいですかね。 今は上手く行っている。地形もハイバランサー所持者が多く、劣悪な環境下ですら戦えて、フュリエも後方射撃に徹している為か特に被害は無い。バイデンも近接主体とは言え同様だ。 しかして大地から大量の養分を吸い取る大樹は非常に強固である。このまま闘いが続けばどこかで必ず均衡は崩れる。それがどちらにとって有利なのか、不利なのかは分からないが。 「援護します。回復の符、行きますよ……!」 その時だ。戦場を常に移動する螢衣が前衛の桐へと接近する。 移動するのは根の範囲に出来る限り入らぬ為。有効射程ギリギリから癒しの符を送らんと歩みを進めた―― 瞬間。 「――!」 地が崩れる。根だ。蠢く根が桐と螢衣、そしてバイデンの一人を狙って地下より襲撃を掛ける。 均衡の崩れる音がした。 ●――勝てッ! 襲う。襲いかかる。 見えぬ場所より襲撃したソレは三者に巻きつかんとして。 「くッ――」 桐が跳ぶ。集音装置で気付くのに一瞬早かったのが幸いしたか、奇襲には気付けた様だ。 しかし追ってくる。逃がすまい、と彼の胴体程ある根が柔軟に曲がり、逃げ道塞いで全身締め付け砕こうと。 「まだ、です……抜けれる……!」 息が苦しい。肺が締められている様だ。 されど諦めるには早い。武器をAFに一旦収納し、根の隙間に再展開。 右の手で握り締め根を切り裂けば、根の包囲から抜ける。 着地し、視線を周囲に向ければバイデンが巻き込まれていた。抜けようともがいているが、上手く行っていない。まぁ向こうも向こうで何とかするだけの力はあるだろう。そう思い、もう一人巻き込まれた筈の螢衣へと視線を巡らせれば、 「――」 違う。違っていた。 根が巻きついている“モノ”は居る。しかしそれは螢衣では無い。アレは―― 「ふむ、なんとか間に合った様じゃな」 「ええすみません――助かりました」 ――瑠琵の作り出した式神たる“影人”だ。 後方にて大量生産を試みている内の一体だろう。庇う行動が間に合ったか、代わりになったようだ。己が作り出した影人の成果に、少なからず笑みを見せながらも瑠琵は言う。 「さぁさぁ! 気をぬくでないぞぇ、まだまだこれからぞ!」 あぁ故に―― 「故に――インヤンマスターの妙技、とくと魅せてくれようではないか!」 直後、符が舞う。 術を、力を、命を込めて式神を作りだすのだ。彼女は忘却の石を利用した結果、一度ずつ使う限りは事実上無限に影人を作りだす事が可能に成っていた。消費するよりも回復する力の方が強いのだ。 舞わせた符に手を翳して指を舐める様に滑らせ術とする。合間にフュリエの方へ無理はせぬように、と声を掛ければ返事も来て。 「あぁ……」 ……いいぞえ。 作り出し、送り出し、朽ちて果てればまた作り。 延々繰り返そうと、あぁこの力続く限り、 「大樹など圧し折って見せようではないか!」 決意する。 そうだ。負けられないのだどうしても。異世界? 種族の違い? 何も関係ない。この世界を救うと、救ってみせると決めて見せたのだ。だから、 「負けられない……! 絶対に負けられないんだよッ……!」 羽音は背負う。人を切断する為に調整されたチェーンソーを。この世界を護りに行く為に。 駆け出し即座に根が襲う。邪魔なので刻んで進んだ。 枝が来た。太股に突き刺さったが、邪魔なので叩き折って進んだ。 仲間が根に付けた傷跡。その一角にラディカル・エンジンを突っ込んで、腕はそのまま体だけを反転させる。そしてエンジン下部に逆の手を添えて持ちあげようとすれば、 「ぜ、ぇ、あああ――!」 傷口を強引に抉って輪切りにした。 大樹が痛みに一層震える。何せ抉る形だ。滅茶苦茶に突っ込まれた事も相まって相当な激痛だろう。 痛い痛い。許さぬ許さぬと、巨大な根を再度羽音に叩き込もうとすれば、 「想像以上にしぶといな……だが流石にそろそろ終わりだろう?」 その根に対して櫻霞が逆に黒きオーラを叩き込んでやった。 疲労はしてきた。しかし、それは大樹も同様だ。根さえ倒せれば回復手段の無い敵となる。 「ならば後もう少し、押させて貰いましょう!」 攻め時と、そう判断するアルフォンソが放つは真空刃だ。 腕の動きに合わせて作り出される刃は誘導する。 彼の意思に沿う様に放たれ、根を襲い、新たな傷を作り出し、 「世界樹が待ってるんだ――」 そこへ義衛郎が跳躍する。 地盤沈下によって生じた高低差故に高所に移動していた彼が刀を携え狙う。 「こんな所で、立ち止まってはいられないんだよッ!」 幻影と共に袈裟切りの形で根へと。 割く。割いて、刻んで、根を死滅へと追いやる。 砕けろと願い、刀を居合の形で抜き放てば、 根が止まった。 瑠琵の目にも、桐の耳にも根が動く様子が捉えられない。つまり、 遂に、大樹の一角の撃破に成功したのだ。 「まだよ! 後、二か所あるわ!」 ミュゼーヌが叫んで、引き金を絞り上げる。その銃身は先程よりも上を向いていた。 枝と幹。まだ二か所残っているのだ。根を倒した為持久力を大分削いだが、まだ油断は出来ない。 「手を焼いている暇など無い。残りも即効で倒すぞ」 櫻霞が次とする目標は幹だ。 黒きオーラを顕現し、炸裂させる。さすれば幹より噴出するは悪魔の樹液。 受動発動タイプの液体だ。自ら射出するタイプとは効力が違う、面倒な能力。 「でもそんなのは承知の上なんですよ」 言葉を発し、突っ込むのは桐である。 樹液を浴びて肌が焼けるような痛みに襲われるも止まらない。一歩、二歩と間隔を早くして、 「――!」 横薙ぎに幹を切り裂く。 分厚い皮と身に刃が阻まれるも、もう一撃とばかりに構えて突撃。 瞬間。 「ッ、ぅ、これ、は……枝ッ?」 桐の体を複数の枝が貫いた。 背後より接近してきたのだ。それ故に気付くのが遅れ、腹部を中心に貫かれている自身の体が眼に映る。 気色の悪い感覚だ。血が喉をせり上がってくる。吐きそうになった手前、寸での所で、 「まだ、です……」 血反吐呑み込みまだ往く。止まれるか。止まれるものか。 まんぼうの形をした巨大な剣を頭上で回し、勢い付けて背後に伸びている枝を切断。腹部にはまだ枝が残っているが、こういうのは抜けば血が溢れるのだ。故に放置して跳躍し、 「――ッぅ」 激痛こらえてまた薙いだ。 しかし足りぬ。幹を折るにはあと一押し足りない―― 「貴様らだけに、闘争の良い所を持っていかれてたまるかァ――!」 「私たちだって闘えるんだ!」 その時、バイデンとフュリエが共に幹へと攻撃を重ねた。 矢が刺さり、槍が突かれて樹液が散る。大樹は震えて痛い痛いと呪詛を撒き散らす。 それでもなお、 「結果は変わらないんですよ――悪魔に成り果てた大樹さん?」 駄目押しとばかりに叩き込んだ義衛郎の一撃で幹すら活動を停止する。 残りは一つ。直上に控える、 「枝だけですね……とぉ?!」 後方に回避するのはアルフォンソだ。その眼前を、鋭い威力を持つ枝が通り過ぎる。 まだ大樹も諦めていない。最後の抵抗とばかりに、疲弊した彼らを次々と襲いかかって。 「ガ、グォ?! こ、これは……?!」 枝に襲われたバイデンの様子がおかしい。 まるで感化されるかのように一体のバイデンが変わっていく。 予期はしていたが、本当に――変異が起こるとは 「仕方なし。抑えるとしようかの、任せよ!」 即座に反応したのは瑠琵だ。作り出した影人でバイデンを抑えて、 「ごめんね……おやすみ。戦士達」 羽音が背後から首を跳ね飛ばした。 助けられぬのならば、せめて……そう思い。 「くッ――あともう少しだっていうのに……!」 そしてミュゼーヌが枝へと接近する。幹を駆け上がり、枝へ攻撃を叩き込まんとするが警戒が強い。 複数の影人のおかげでランダムな攻撃は分散している。とは言えこちらに来ないとは限らない。 なんとか一撃入れたい所だが、と思考した刹那。 「――か、ぁ……!」 枝に喉を貫かれた。 思わず口の端から血液が零れ出す。意識が途切れそうな、体が浮遊するかのような妙な感覚を一瞬彼女は得て、 「いやはや……」 ――声を、聞いた。 「もっともっと強くならないと、いけませんね」 螢衣だ。倒れそうなミュゼーヌの背に、彼女は癒しの符を届かせる。 張られた背中から僅かな力が戻る。一撃、一撃を届かせられそうな、そんな重要な“僅か”だ。 変異し、そうして散ったバイデンを視界の端に見据えて、 「バイデン、哀れだとは、思うん、だけど、ね」 滅びが近いのだ。絶対的な滅びが近いのだ。 だと言うのに今なお闘争だけを求めるとは何事か。哀れだ。闘争しか知らぬ赤子だ本当に。 「で、も御免な、さい――」 謝る。何を謝るのか。 喉を負傷し、呼吸も満足に出来ないその状態で、 「私、はね」 しかし、 「――天邪鬼な、の」 彼女は確かに微笑んだ。 そんなバイデン達だから死なせてはやらない。 意地でもだ。意地でも死なせてはやらない。絶対に生きろと願って、 「――!!」 何と言ったか。何と叫んだか。 背後より迫る無数の枝群を跳躍一つで掠めて行く。身を捻り、反動の力を蓄えて。 狙うはただ一点。枝の集中点。右脚支点に神聖の能力を秘めたその左脚を跳ね上げて、 過去の残影。悪魔の枝を砕き割った。 ●もう一つの樹 崩れる。 遥か過去の栄華は崩れ、落ち果てる。 「行かなくちゃ……世界樹の元へ」 「あぁ行こう。本戦が始まるのはこれからだ……」 羽音が、煙草を吸う櫻霞が見るのは大樹に非ず。 崩れたその遥か先に映るコノセカイ。 世界樹エクスィス。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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