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<世界を飲み干す者>ワルい大人の悪い作戦~調虎離山

●変異する世界
『ソラに浮かぶ眼球』との遭遇から数日――
 ラ・ル・カーナは変貌していた。空は奇妙な色に染まり、世界樹の水源は干上がり、憤怒の荒野はひび割れた。跋扈する危険な生物達は更なる進化を遂げ、多くのバイデンは理性を消失し、暴れ回る怪物へと姿を変えつつある。
 それらは全て、この世界の母である『世界樹』により生み出されていることは明白だった。変異した世界樹が、狂った『変異体』を生み続けている。
 この世界において変化しない『完全生物』であるバイデンの中にも『変異体』に成ったものがいる。今のところフュリエに変異の兆候はないが、未来においてそうならないという保証はどこにもなかった。
 この状況を打破するためにアークは『世界樹に忘却の石を使うことで、R-TYPEの残滓を打ち消す』という作戦を決行する。フュリエの長シェルンもこの作戦に同意し、異形と化した『世界樹エクスィス』を目指して進軍する。
 行く手を阻むは変異したラ・ル・カーナそのもの――

●調虎離山(調(はか)って虎を山から離す)
「――とはいえ、まともに戦って勝てる状況じゃねぇ。そいつは時村の旦那もわかってるはずだ。
 敵の数は時間経過と共に増え、それぞれが強敵。加えて変異した世界樹に近づけたとしても、コアとやらに近づけるかも判らない。そもそも『忘却の石』の効果も確実性が不透明ときた。
 おまえら、これはそういう作戦だ。それでもおまえたち、命がはれるか?」
『菊に杯』九条・徹(nBNE000200)が集まったリベリスタに作戦の再確認をする。逃げるなら今のうちだ、と遠まわしに告げる。しばしの時間のあと、残ったリベリスタに説明を続けた。
「じゃあ行くぞ。俺達にはこの荒野の戦いにおいて有利な点がある。今までおまえ達が作り上げてきた橋頭堡だ。あの防衛力を生かして戦いを回せば、多少勝機がある。幸い、暴れまわる輩に知性があるとは思えねぇ。誘導することは可能なはずだ」
 持っていた棍で地面に橋頭堡と変異体の集まっているだろう場所を書く。変異体の場所から橋頭堡に向けて矢印を向けて、その間に三箇所バッテンを入れる。変異体の場所を指して、説明を続けた。
「ここに変異体巨獣と変異体バイデンが群れを成しているって報告があった。コイツらをこのルートで橋頭堡に誘い込む。
 作戦はいたって簡単。群れに向かって攻撃し、一目散に橋頭堡に向かって走る。巨獣相手なので、何処かでサポートがないと息切れしてすぐに追いつかれちまうがな」
「サポート?」
「簡単に言えば軽い足止めだ。数十秒ほど足止めしてもらう。すぐに離脱できるように、空を飛ぶ加護をつけておく必要があるがな。基本は足止め後、即離脱だ。
 目的はあくまで後続の変異体を橋頭堡に誘い込むことだ。もちろん倒しちまってもいいが、適度なところで離脱することを忘れるなよ」
 矢印に描かれたバッテンを小突きながら徹は言う。合計三個のバッテン。ここで足止めをするということか。
「役割分担だが――メインの囮役はフュリエたちにやってもらう」
 徹の意見にどよめくリベリスタ達。
「この役割のほうが一番成功率が高いんだよ。それともフュリエに変異体の足止めをさせるのか?」
「しかし……」
「もちろん危険はある。って言うか危険だらけだ。正直、俺も下策だとは思うぜ。サポートが押さえきれなければ、その分フュリエの犠牲が増える。囮が完全に姿を消してしまえば誘導の意味がないから、常に矢面に立つことになる。
 だけどなぁ、ここにいるフュリエたちはその危険を知ってなおこの作戦に任せるって言ってるんだ。その『勇気』を買ってやる気はねぇか?」
 徹の言葉に、真摯な瞳でリベリスタを見るフュリエたち。足は震えて出す声もかすんでいるが、その瞳に宿る光をリベリスタ達は知っている。それは戦いの前に戦士が見せる『勇気』だ。
「うまくやれれば、かなりの『変異体』を橋頭堡にもっていけるんだ。そうすれば世界樹出の戦いも、楽になるってもんさ。
 ま、乗りたい奴だけでいいぜ。どうするんだ?」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:どくどく  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年10月10日(水)23:46
 どくどくです。
 ラ・ル・カーナ決戦。『変異体』一本釣りです。

●重要な備考
『<世界を飲み干す者>』はその全てのシナリオの状況により決戦シナリオの成否に影響を与えます。
 決戦シナリオとは<世界を飲み干す者>のタグを持つイベントシナリオを指します。
 予め御了承の上、御参加下さるようにお願いします。

◆勝利条件
 6ターン×3戦の間、フェリエの囮部隊を全滅させない。
『変異体』の討伐数などは、勝利条件に含みません。

◆敵情報
『変異体』
 世界の変異と共に狂ってしまったバイデンと巨獣です。もはや理性はなく、本能に従い暴れています。言葉は通じません。
 知性などなく、攻撃をしかけて来た者を優先的に攻撃してきます。これはフェリエの部隊も含みます。
 実際には片手に余る数が集結していますが、リベリスタが実際に戦うのは先発部隊のみです。以下、その先発部隊の詳細です。

・変異体バイデン(×4)
 赤肌に黒い斑点、歪んだ関節。そして斧と一体化した腕。見る影もなく変異しています。
 赤肌を傷つければ、そこから出る体液がリベリスタを襲うでしょう。(常に「反」状態)
 歪んだ関節から繰り出される攻撃は軌跡を予測できず、弱点を伴います。
 斧と一体化した武器は肌を深く切り裂き、流血を伴います。
 
・変異体巨獣(×2)
 蜘蛛のような多足型昆虫巨獣です。その体から触手を生やし、近寄るものを捕らえて捕食します。
 その大きさから、ブロックには二人が必要になります。
 触手からは相手を捕らえる為に、麻痺毒が抽出されます。
 口からは敵を効率よく倒す為に、死毒を含んだ唾液が噴出されます。

◆味方情報
・フェリエ部隊(五名)
 名前はアーニャ、イルミール、ウルル、エリザ、オリンヌ。全員二十歳。
 基本的にリベリスタの指示に従いますが、作戦の都合上『全力防御』は行ないません(囮として目を向けてもらう必要があるため)。同様の理由で変異体から二十メートル以上離れることはありません。
 攻撃方法はフィアキィを使役して火の玉や氷柱を生みだします。神秘の単体遠距離攻撃(二十メートル)です。追加効果はなし。
 強さとしては10レベルのリベリスタ程度です。ドラマ復活はしますが、フェイトはありません。

・『菊に杯』九条・徹
 ワルい大人です。ジーニアス×クリミナルスタア。
 相談卓にて指示を出してくれれば、その通りに動きます。何もなければ、自己判断で。
 スキルは、「無頼の拳」「テラーテロール」「仁義上等」「デスペラードミスタ」「戦闘指揮L2」「格闘熟練LV2」あたりを活性化しています

・『翼の加護』をかけてくれるリベリスタさん。
 PCリベリスタやフェリエに翼の加護をかけてくれる人です。名前は青空・翼子。16歳。シャギーショートの女子高生。フライエンジェ×インヤンマスター。
 ぶっちゃけ、翼の加護をかける以外は役に立たない人です。戦闘中は気配遮断などを駆使して隠れています。

◆場所情報
 ひび割れた荒野。足場のペナルティは翼の加護をかけてもらうためありません。灯りも三つの月が照らしているため問題なし。
 殲滅が目的ではない為、6ターン毎に戦闘を離脱して移動します。少しずつ橋頭堡に移動していくイメージで。離脱の際に徹が閃光弾を投げるなどして気をひく為、離脱のペナルティはありません。
 戦闘開始前や戦闘と戦闘の間のインターバルに、一度だけ付与や回復が可能です。ただし移動などであわただしい為、事前の集中は不可能です。
 フェリエが変異体バイデンに攻撃を当てて、逃亡している所に横から襲撃する形になります。ですが不意打ちは発生しません(相手が[不意無]を持っているものと思ってください)。
 戦闘開始時および再戦時、フェリエと変異体の距離は20メートル。リベリスタは好きな配置からスタートできます。(いきなり変異体と接敵していてもよし、フェリエ部隊と同じ所にいるもよし)。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
参加NPC
九条・徹 (nBNE000200)
 


■メイン参加者 8人■
★MVP
ナイトクリーク
犬束・うさぎ(BNE000189)
ホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
スターサジタリー
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
ソードミラージュ
絢堂・霧香(BNE000618)
ナイトクリーク
黒部 幸成(BNE002032)
ナイトクリーク
三輪 大和(BNE002273)
ナイトクリーク
荒苦那・まお(BNE003202)
ナイトクリーク
鳳 黎子(BNE003921)


 フュリエの精霊が変異体たちを撃つ。変異体にとってそれは蚊が刺した程度のもの。そして知性のない彼らにとってその行為は怒りを掻き立てるに過ぎない。咆哮をあげ、小さな5つの影に迫る変異体たち。
 そこに、
「参る」
 言葉短く『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)が飛び込む。籠手の下に仕込んでいた暗器を手に踊るように変異体巨獣と変異体バイデンを切り刻む。幸成の影が刃の軌跡を追尾するように動き、共に変異体たちを傷つけていく。
 その一撃を皮切りに、飛行の加護を受けたリベリスタ達は戦場に躍り出た。事前に話しあわせたとおりの動きで、変異体達の足を止める。
「フュリエの皆は、あたし達が必ず護るから」
『妖刀・櫻嵐』を手に、『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)が戦陣に立つ。振るう刃にう宿る風。それの風が吹き去るや否や刃は一閃し、巨獣の脚に斬りつける。光の残滓が巨獣を惑わし、目標を狂わせる。
「さて、守りきりますよ」
『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)がバイデンを押さえながら気の糸を巨獣に向けて放つ。糸は巨獣の脚に絡まり、一瞬その動きを封じるが、
「さすがに一筋縄ではいきませんか」
 拘束を維持することは叶わない。再度放てばあるいは、という思いもあるが目的はあくまで足止めだ。それに拘って本質を見失うようなうさぎではない。
「自分の為、同胞の為、世界の為に戦うと決意した勇気。ここで失わせるには、あまりにも惜しいものです」
 後方で構えるフュリエを見ながら『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)が『止水』と呼ばれる刀を構える。その動きにわずかに遅れるように、彼女の影も立体化して同じ動きをする。その先には変異したバイデン。
「それを無残に散らせてなどやるものですか!」
「あら戦場は初めて? 初陣で重要なのはパニックを起こさないことよ」
『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)が、フュリエたちに語りかける。本来後衛である彼女だが、作戦の都合で前に立っていた。手に馴染んだ銃。それを馴染んだ動作で打ち放つ。巨獣の頭が、衝撃で揺れた。
「その為に信じるのはなんだっていいわ。仲間、自分の勇気、九条さんの頭の輝きだって」
「三つの月で、よく輝いてるぜ」
 エナーシアの言葉に冗談めかして『菊に杯』九条・徹(nBNE000200)が答える。巨獣相手に棍を振るっていた。
「真正面から戦うのは嫌いですのでー」
 巨獣を横から襲撃しながら『ブラックアッシュ』鳳 黎子(BNE003921)が両端に黒と赤の刃を持つ双頭鎌を振るう。巨獣に刻まれるのは死の刻印。緩やかに体力を奪っていく猛毒。隠密方である黎子はこういった襲撃は大得意である。巨獣からの麻痺毒を炎で燃やしながら、鎌を回転させるようにして巨獣を切り刻む。
「蜘蛛さんなのでちょっと親近感ありますけど」
『もぞもそ』荒苦那・まお(BNE003202)は自分の陰を大きなやもりの姿に変えて、巨獣に飛び掛る。蜘蛛のビーストハーフとして親近感はわくのだが、仲良くできそうにない。まおは心の中で謝りながら全身から糸を放ち巨獣の動きを封じ込めた。封じたのはわずかな時間だが、防衛戦においてその時間は貴重な時間だった。
「不気味だね。空も大地も、漂う空気も何だか気持ち悪い」
 変異するラ・ル・カーナの雰囲気に『いつか出会う、大切な人の為に』アリステア・ショーゼット(BNE000313)は嫌悪感を示す。マナと呼ばれる力を体内で循環させながら、この空気のおぞましさを感じていた。
「だからこそ、皆と頑張らなきゃね」
 アリステアは最後衛で回復に徹する。翼を広げて浮遊しながら、回復の光を放つ。皆回復する。そのための準備も気合も充分だ。
 変異体たちが吼える。崩れ行く世界の悲鳴の如く歪み、癇に障る咆哮。
 背後に控える橋頭堡。それを意識しながら、リベリスタもその咆哮に応じる。


 この戦いは変異体たちを橋頭堡に引っ張っていくためのもの。要は敵を倒すことではなく、どれだけ被害を少なくするか。
 故に彼らはフュリエへの被害を少なくするために巨獣に的を絞った。集中砲火で巨獣を落とし、余裕のある闘いにするために。
「殲滅が目的じゃないけど、数を減らした方が楽なのは確かだよね」
 霧香は刀を構えながらすり足で歩を進める。構える位置は正眼。剣先を相手の目に向けて構える攻防共に隙のない構え。相手の動きに応じて刀を振るった。
「絢堂は剣道、霧香は斬禍。剣の道の下、禍(わざわい)を斬る」
 霧香の振るった刀の軌跡に桜の花弁ような光が舞い散る。言葉が通じるかは判らないが、それでも自らの心意気を口にすることは重要だ。
「べちべち巨獣さんの動きを縛りに行きます」
 まおは糸を巨獣に絡めなながら、その背中に面接着で張り付こうとして……動きを止めた。足止めのために前に立つ人間はギリギリの人数だ。余計なことはしないほうがいい、と思い直す。
「でも動きを封じれたからよし、とまおは思います」
「そのまま押さえていてくださいね」
 黎子が鎌を回転させて、まおが動きを封じている巨獣に迫る。この巨獣だけ狙えるのなら、とっておきの一撃が放てるのだが、その位置取りは難しい。諦めて双極の鎌を振り回して巨獣を切り刻んでゆく。
「あの樹に早く辿り着かないといけませんからね」
 黎子の視線の先は遠くにある世界樹を見ていた。彼らを橋頭堡に引っ張った後で、あの場所まで行かなくては。
「ふぅ、はあぁ!」
 関節が曲がったバイデンの攻撃を刀でいなす大和。虚をつくような攻撃を完全に避けることができず、その腕に傷を受ける。傷を与えた目の前のバイデンから目を離すことなく、破滅の札を懐から取り出して、巨獣に向けて投擲する。札は巨獣を巡る因果を狂わしてツキと呼ばれる不可視の何かを乱した。
「後ろで奮戦しているフュリエ達の所へ、行かせはしません!」
「うむ、囮を買って出たフュリエ達に報いるべく、しかと忍務を果たすと致そう」
 幸成も変異体バイデンを押さえていた。遠距離攻撃を持たない幸成は巨獣に打撃を加えることができない。三つの関節により繰り出される変則的なバイデンの攻撃が幸成の胸を貫く――
「残像で御座る」
 声はバイデンの真横から聞こえた。言葉と共に貫かれた幸成の姿は霧のように消える。影を伴った幸成の攻撃が、変異体バイデンの肌を裂く。じゅう、と肌から飛び散る毒液が幸成の肌を焦がす。
「守る為の防戦。只管耐えての時間稼ぎ、か……」
 うさぎは『11人の鬼』を構えてバイデンの攻撃をいなしてゆく。うさぎは隙が少なく、多関節のバイデンの動きによるダメージが少なく済んでいた。けして時間稼ぎという仕事に嫌気が差しているわけではない。むしろその逆。充分な気合がその心にあった。
「ええ、全員生きて帰りますよ。もちろん後ろのフュリエたちも含めて」
 防御に徹すればバイデンからの攻撃を数回に一度は回避もできるし、受けるダメージも少ない。繰り出された斧を破界器で弾くようにして軌跡を変え、時に死角に移るようにして攻撃を避けていく。
「さて悪巧みの時間と参りましょうか」
 同じくバイデンを押さえるエナーシア。彼女は変異体達の動きを観察しながら、早撃ちで巨獣を攻めていく。一発だけではない、二発、三発、四発――暇を与えぬ連続者射撃。その射撃を止めたのは、
「BAD LUCK! 運命の女神はラ・ル・カーナには不在のようね」
 薬莢がつまった銃を無理矢理治しながら、エナーシアは毒ついた。幸運と不幸と。一般人を自称するエナーシアにとって神秘よりもこういったトラブルの方が怖いということか。
「一緒に頑張ろうね。痛いのは全部治すからねっ!」
 実戦慣れしていないフュリエに笑顔を向けて、アリステアは癒しの光を放つ。曙光が夜明けを告げて希望を示すように、アリステアの癒しの光はリベリスタ達に癒しと希望を与える。ラ・ル・カーナに太陽はないけど、フュリエもその光と彼女の笑顔に元気を取り戻した。
「まけないんだからっ!」
 気合を入れるアリステア。このパーティ唯一の癒し手は、戦場を俯瞰しながら全力で癒し続ける。
 逆に言えば、戦況はアリステアが延々と癒さなければならないほどに激化していた。
 変異体となったバイデンや巨獣の一撃は、まともに受ければダメージは大きい。それ自体で戦線が崩壊するわけではないが、この戦いは長期戦になる。ダメージは少ないにこしたことはない。
 徹が離脱の合図を告げる。地面に投げつけた爆弾が煙幕を生み、視界を奪ってゆく。
 飛行の加護を得たリベリスタはその隙に大地を蹴って、戦線を離脱した。


「みんな、回復するよ! 集まって!」
「ショーゼットさん。行きますよ」
「……巨獣を倒しきれるかどうか、微妙なラインですね」
「相手の動きは鈍足よ。油断しなければ先手が取れるわ」
 次の戦場に移動する間に、回復と付与を行い作戦を練りなおす。追いかけえてくる変異体を視界に捉えながらひび割れた大地の上を飛行していく。
 フュリエが足を止めて、精霊を打ち放つ。変異体たちが傷の痛みに咆哮して突撃する。
「ここからが正念場、途中離脱は許されぬで御座るぞ」
 初戦と同じく、幸成が初撃を決める。他のリベリスタはそれを待っての行動になる。
 配置は初戦と同じ。バイデンをうさぎ、エナーシア、幸成、大和が押さえて、巨獣を霧香、まお、黎子、徹がブロック。アリステアが回復を。
 ただ初戦と異なる部分が一つだけあった。双方のダメージの蓄積である。
「……っあ!」
 最初に膝をついたのはバイデンを押さえていた大和だ。捻るように曲がる変則的な腕の攻撃に防御が間に合わず、わき腹を深く裂かれる。運命を使って立ち上がって防御の構えを取る。
「どっかーん、とまおはやられました」
「ここは……通さないよ!」
 巨獣をブロックしていたまおと霧香も巨獣の足と毒により意識を失いそうになる。二人も自分の運命を削ってそれぞれの破界器を握り締める。アリステアの回復もあるが、体力に余裕がないのは事実だ。
 だがしかし消耗しているのはリベリスタだけではなかった。
「とどめ、いただきなのです」
 黎子がオーラを乗せた鎌を巨獣の首に斬りつける。紫色の体液を撒き散らし、巨獣は動かなくなった。笑顔で仲間たちにポーズを決める。
 これでブロック数に余裕ができる、と少し安堵するが変異体達の攻撃が止んだわけではない。漸く一体倒しただけなのだ。
「何とかもう一体いけそうですね」
 戦闘開始から今までの時間を考えて、橋頭堡に着くまでにもう一体巨獣を倒せる。うさぎは事前打ち合わせの通りに指示をする。目の前にいる変異体バイデンの攻撃は防御に徹すればアリステアの回復を含めて何とかなりそうだ。流れる血を拭い、意識を戦闘に向けた。
「今よ。巨獣へ一斉放火!」
 フュリエに指示を出すのはエナーシア。巨獣攻撃の後に飛ぶ精霊の乱舞。同時にエナーシアの銃も火を吹いた。精霊と鉛の弾丸が巨獣に叩き込まれる。
「ひゃああ……!」
 撤退寸前に黎子の足がよろけ、崩れ落ちそうになる。巨獣の毒を食らい、それにより体力を奪われたところに巨獣の一撃を受けてしまった。運命を代償にし、鎌を杖のようにして立ち上がる。体力が低めなので防御に徹していたのだが、もとより防御に秀でるわけではない黎子だ。この結果はやむなしと言えよう。
 徹が合図を出して閃光弾を放つ。光と音が視覚と聴覚を奪った。その隙に離脱するリベリスタ達――
 橋頭堡まで、あと少し。


 アリステアの回復と大和のエナジー回復。そして強化付与のかけなおし。
「最後まで回復が持たないかも」
「もうひと踏ん張りですよ!」
「九条さん、穴が開いたらその穴埋めに」
「最後の正念場……いざ、参る!」
『影舞闘着』を翻し、幸成が戦場を駆ける。ブロック要員の消耗具合を考慮して、第一戦と第二戦よりも多く変異体を巻き込んで刃を繰り出す。影のように音なく迫り、疾風のように動いて切り刻む。
「一旦、下がらせてもらうわ」
 バイデンを押さえてたエナーシアが、傷を考慮して一旦後ろに下がる。その穴埋めに徹が入る。下がりながら銃弾を叩き込み、飛び散る紫色の体液がその金髪を染める。じくり、と嫌な感触が染み入る。
 インターバルでの確認で、そろそろアリステアのエネルギーが途切れるだろう。大和はまおに交代を頼んで、アリステアへのエネルギー回復を飛ばす。――その大和自身も、エネルギーに余裕はない。
「やあぁ、はああああ!」
「ここは通しません……!」
 霧香と黎子が二人で巨獣を押さえる。共に体力とエネルギーに余裕はなく、ただ己の破界器をふるって戦っていた。防御力の薄い二人は巨獣の攻撃を受けるたびに崩れ落ちそうになる。
「この身、いまだ朽ちるわけには行かぬ」
 初手に多くを巻き込んで攻撃した故に、多くの変異体から狙われていた幸成が膝をついた。運命を対価に立ち上がり、戦場を睨む。
「拙いですね……」
 バイデンの攻撃を受けていたうさぎにも限界が来る。運命を削って耐えながら、冷静に戦局を見た。巨獣をもう一匹倒せると思ったが、計算違いがあったことに気付く。
 戦闘開始時はエネルギーが充分にあり、全力で殴ることができた。だが後半になればそのエネルギーもつき、火力は落ちる。エネルギー回復ができるのは大和だけ。その大和自信のエネルギーが尽きれば、完全にガス欠の状態である。
 崩壊の音が聞こえる。
「ごめんなさい」
 バイデンのブロックにはいっていたまおが倒れる。防御に徹していたとはいえ元々防御に秀でるわけではないのだ。
「……はぅ……」
 そして巨獣を抑えていた黎子も力尽きた。麻痺毒を燃やす姉の記憶は、じわじわと黎子自身も焼いている。それは姉に嫌われているのか。あるいはもう戦うな、と妹を休ませる為か。それは判らない。死者は答えないのだから。
 ブロックから逃れたバイデンと巨獣が戦線を突破する。バイデンは最初に傷つけた幸成に迫り、巨獣は遠くから精霊を放つフュリエの方に毒液を飛ばす。
「ウルル!?」
 毒液を受けたフュリエが毒液を受けてよろめく。じわりじわりと迫る毒がか弱き体を――
「いっぱい治すよっ!」
 アリステアが放つ癒しの光がフュリエの毒を払うと同時に傷を癒す。だがこれは一時凌いだだけ。同じ毒液をもう一度受ければ崩れ落ちるだろう。
「いいタイミングだわ。戦場で残るのは勝つために動いた者よ」
 エナーシアの銃が火を吹く。目にも留まらぬ早業。銃声と共に巨獣の頭が跳ねる。怒りの表情こそ浮かべないが、巨獣の視線は確かにフュリエからそれてエナーシアのほうに向く。フュリエから狙いがそれたことに、安堵の息を吐くエナーシア。
 崩壊の音は確かに響き、しかしリベリスタの尽力により掻き消える。
 聞こえるのは希望の鐘。息絶え絶えになりながら、勝利への道は確かに見えていた。
「後もう少し……!」
「そろそろ時間で御座る! 九条殿!」
「おうよ!」
 徹が火薬を固めたものを地面に叩きつける。派手な音と爆発の光が戦場に響く。それを合図に倒れたものを抱えて一斉に離脱するリベリスタとフュリエ達。その先にはアークが築き上げた希望の砦がそびえていた。
 橋頭堡の門を抜けるフュリエとリベリスタ。調虎離山。その策がなった瞬間である。


 知性なき変異体たちは、橋頭堡の壁に阻まれて待ち構えていた迎撃部隊に一斉に攻撃されていた。
「やれやれ、何とか成りましたね」
 うさぎが汗を拭い、みなの様子を見る。リベリスタの被害は少なくはないが、フュリエを含めて全員の生存はうまくいった。その結果に満足する。
「忍務完了で御座る」
 最前線で先陣を切っていた幸成が残心を解いて、破界器をしまう。橋頭堡まで引っ張ってこれれば、とりあえず今の仕事は終りだ。もちろん、これで終りではない。他の忍務が待っている。人手は何処でも不足しているのだ。
「お疲れさま。生き残れてよかったわね」
 エナーシアは戦闘のプレッシャーと疲労で座り込んでいるフュリエたちを労った。戦場では死ぬときは死ぬ。フュリエたちが生き残ったのは、彼女達の信念が勝った結果なのだろう。もちろんリベリスタが必死に守ったこともあるのだが。
 アリステアは徹に近づく。おじさまが好きな彼女にとって、徹の行動はかっこよく映っていた。苦しい戦いを頑張った自分への褒美の意味も含めて言葉を告げる。
「九条のおじさま、お疲れさまでしたっ」
「おう、アリステアもよく頑張ったな。おかげで助かったぜ」
 徹に褒められて、嬉しくなるアリステア。思わず顔がほころんでしまう。
「よしっ、じゃあたしはそろそろいくね」
 霧香は傷の応急処置を済ませると、次の戦場に向かう。この戦いはラ・ル・カーナの命運をかけた戦い。彼女の剣は禍(わざわい)を斬る為の剣。ラ・ル・カーナの禍を斬る為に、体が動く限り歩き続ける。
「ええ。それでは皆様、また戦場で」
 大和も立ち上がり、戦場に向かう。橋頭堡での迎撃に、世界樹での戦い。他のリベリスタもそれぞれの決戦に向かって歩き出す。
 戦う場所はそれぞれ違うかもしれないが、その心が向かう先は一つ。ラ・ル・カーナの変質を止めるのだ。
 
 さぁ、世界を救いにいこう。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 どくどくです。
 変異体バイデンと変異体巨獣、無事に(?)橋頭堡にお届けしました。お疲れさまです。

 多少はフュリエに損害がくると思ったのですが、まさかフュリエを完全に守る動きになるとは以外でした。三人ぐらいはフュリエの犠牲がでると思ったのですが。
 その分リベリスタ側の犠牲は増えましたが、名誉の負傷と思っていただければ幸いです。
 MVPは作戦の柱を組み立てた犬束様へ。お見事でした。

 戦いは収束に向かいます。
 世界が残るどうかは現時点ではわかりませんが、あえてこの言葉であとがきを終わらせていただきます。

 それではまた、ラ・ル・カーナで。