● 友が死んだ。 戦場での、強敵との戦いでの死は、バイデンにとって喜ぶべき物である。 当然、友が好敵手に巡り合い、死んだ事も喜んでやるべきなのだろう。 いや、自分はちゃんと其れを喜んでやれている筈だ。自分もまたバイデンなのだから、死を厭おう筈が無いだろう。 なのに、何故か、何かが足りない。 まるで胸の奥底に穴が開き、何かが零れ落ちてしまったかのように空虚だ。 獣を打ち倒し、肉を貪り喰らっても、其の穴が塞がらない。 あの時、友が死んだ戦場で、自分は遥か後方の後詰に居たのだ。 最初は、この空虚さは撤退命令を出され戦えなかった欲求不満から来た物だと思っていた。 けれど何かが違う。戦えなかった事に感じたのは、怒りのみだ。 よもやあのプリンスが臆病風に吹かれた訳ではあるまいが、最高の戦いを前に下された命令にあの時の自分は怒り狂った。 ……友の死を聞くまでは。 怒りすら、胸の穴から流れ落ちてしまったように、全てが虚ろとなった。 八つ当たりの様に、満たされぬままに、喰らう。狩った獲物も、己の愛騎すらも、殴り倒し、喰らった。 喰って喰って喰って喰って、それでも満たされずに生まれて始めて吐いた時、空にあの目が現れた。 圧倒的な存在を、呆然と眺める自分の目から、熱い液体が零れたのに気付く。 手に滴ったのは、熱く、どろりとした、緑色の液体。 不意に理解した。自分の欲は、獣如きに満足出来なくなっただけなのだと。 足りない。満たされない。其の思いのままに、隣で空を見て雄叫びを上げていた部下へと齧り付く。 喉に歯を食い込ませ、噛み砕きそのままに飲み込む。呆然とした部下の顔を見る事も無く、更に一口。 狩りを共にする程度には気を許した部下であった筈なのだが、今となっては単なる肉に過ぎない。 駄目だ、まだ足りない! 満たされぬ飢えに絶叫する。其の瞬間、不意に視界が消え失せた。 真っ暗だ。恐らく、さっきの緑色になって流れ落ちてしまったのだろう。 けれど不思議と周囲の何処に何が居るのかは感じ取れた。眼が無くなったなら眼も喰らえば良い。 片っ端から辺りを食らう。でも満たされない。 体中から流れ出る熱い液体だけが増えていく。足りなくなる。もっともっともっともっともっともっと喰らっていかねば。満たされない。 早く、もっと、そう、あのアイツ等の様な肉を食わないと……。 ● 無形の巨人――R-typeとの邂逅により世界樹の変調は真なる危険水域まで到達した。 変異した世界樹を見れば分かる通り、ラ・ル・カーナは致命的な崩壊の時を迎えている。 空は奇妙な色に染まり、世界樹の水源は干上がり、憤怒の荒野はひび割れた。跋扈する危険な生物達は更なる進化を遂げ、多くのバイデンは理性を消失し、暴れ回る怪物へと姿を変えつつある。 それだけではない。狂った世界樹は次々と『狂った変異体』を今も生み続けているのだ。 けれどもこの事態を打開する可能性を、ボトムチャンネルからの援軍『アーク』が誇る研究室は見出していた。 其れはラ・ル・カーナで得られ、かねてより研究が進められていた『忘却の石』の存在である。 純度を高めた『忘却の石』と世界樹にリンクする事が可能であるシェルンの能力を合わせればかの存在を構築する要素に潜り込んだ『R-typeの残滓』のみを消失出来る可能性が存在するとの推論。 あくまで可能性の話であり、絶対ではない。予想もしない出来事の引き金になる可能性とて皆無とは言えないだろう。 アークには二つの道があった。 一つは細い可能性に賭け戦う道。もう一つは、崩壊するラ・ル・カーナから撤退する道。 アーク戦略司令室室長、時村沙織はこの状況に前者を強行する判断を下す。その判断は彼自身の持つ『R-typeへの強い感情』が無関係であったとは言いがたいが、だが此処で引くならリベリスタ達がこの世界に足を踏み入れた意味は無い。今までの犠牲も全てが無駄になる。 同盟者たるフュリエも、アークからの提案に同調した。 シェルンとて苦渋の決断ではあっただろうが、他に滅びを回避する道は無い。 かくてリベリスタ達とフュリエの連合軍は異形と化した『世界樹エクスィス』を目指して進軍を開始した。 だがひび割れた憤怒の荒野には危険な異形が満ち、次々と彼等に襲い来る。 其れだけではない。滅亡に瀕する自身等の現状さえ厭わず、『世界史上最大の敵』の出現に瞳をぎらつかせる――残る僅かなバイデン達の姿も。 最初に其れの接近に気付いたのはフュリエ達の1部隊だった。 地を鳴らし、歩み寄るは巨大な人型。巨獣では無い。この世界に人型をした生物はフュリエと、そしてバイデンのみ。 そして肥大した前腕、其の赤い肌は、間違いなくバイデンの特徴であった。 だが……、圧倒的にサイズが違う。如何に巨大なバイデンと言えど、あそこまで巨大な個体は無かった。更には虚ろな眼窩から、全身の至る所から滴り落ち、大地を腐らせるあの液体は何だろう。 フュリエの一人がフィアキィの力を借りて炎を放つ。炎は違う事無く巨大な『変異体バイデン』へと命中し、其の肉体の一部に炎上させる。 ……けれども、だ。ぐじゅ、ぐじゅ、と、炎に包まれた肉が寄り集まって一塊となり、ぐしゃりと腐り果てて地に落ちた。 状態異常を一部に集め、切り離す事で無効化した巨人は何事も無かったかの様に、歩み、炎を放ったフュリエへと手を伸ばす。 リベリスタ達の戦いに『勇気』を得、変化したフュリエと言えど本格的な戦いの経験は決して豊富とは言えない。寧ろ此れが始めてと言っても良い、明確に迫った命の危機に、フュリエの心が恐怖に塗り潰される。 竦んだフュリエを握って圧縮し、まるで果物でも食べるかの如き気安さで変異体バイデンは自らの口に運ぶ。 仲間の死に、恐怖に、抗うように次から次へとフュリエ達の攻撃が放たれるが、まるで効いた様子は無く、赤の巨体が振り上げた手に緑の体液が集まり形を成す。 緑の其れが硬化して為した形は『槌』。そう、このバイデンは嘗て『槌』のグラングラディアと呼ばれた個体だ。 攻撃に備えて散開するフュリエ達だったが、其の一撃の前にはそんな小細工は全く意味をなさなかった。 巨人の身長に匹敵するサイズの槌が大地を穿ち、半径30mはある巨大なクレーターが口を開く。衝撃に、破片にフュリエの戦意が、或いは身体が細切れとなって地に散った。 踏み越え、歩む巨人に対抗しうる者がこの戦場に在るとするなら……、其れは巨人の眼前に立ちはだかったリベリスタ達のみ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月09日(火)23:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 破壊を、死を、恐怖を撒き散らした巨人は、己が作ったクレーターの中央で、天に向かって咆える。 其の声は最早意味を成してはいない。言葉すら、今の彼は失っている。 戦いへの熱が篭るわけでもなく、誇りを感じさせもしない、飢えた獣の虚ろな咆哮。 だが其の咆哮すらもが、何時までもは続かない。ゴボリ、と緑の液体が喉奥から溢れ出、滝の様に流れ落ちていく。 嘗て彼は勇猛なバイデンであった。数多の獣を狩り、喰らい、そして戦いに明け暮れた。 戦を心から楽しみ、闘士たる誇りを胸に、己が二つ名でもある槌を振るう。傍らを往く友と共に。 けれど、大地を腐らせ澱ませる其の液体。醜く、元の形を留めずに膨れ上がった肉体。戦いを楽しむ心も、知能すらも失い、世界を犯すおぞましき……、 「ここまでくるともう、バイデンとかそういうものじゃないな。もっとおぞましい何かだ」 そう、『咆え猛る紅き牙』結城・宗一(BNE002873)の言葉通りに、おぞましき何かへと変わり果てたバイデンの嘗ての名前はグラングラディア。 剣を引き抜く宗一の言葉に、ある者は目を伏せ、またある者は軽く唇を噛み締める。そう、嘗ての彼、グラングラディアと刃を交えた事の在るリベリスタ達が。 「広大な範囲攻撃に高い攻撃力、加えて自己再生能力、……厄介ですね。読み難い」 エネミースキャンで巨人の解析を行う『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)が僅かに顔を顰める。 広大なクレーター、フュリエの攻撃を物ともしていない其の様、そして腐り堕ちる大地。眼前の情報から解析出来る事柄は極めて限られていた。 恐らくあの緑の液体は変異バイデンの血液なのだろう。傷口から溢れ、硬化して塞ぎ、瘡蓋が鎧の様に其の身を守る。二度と同じ傷を負わない様に。……生半可な攻撃では敵を強化するだけに終りかねない。 そして緑の液体は、正確には地を腐らせているのではない。地を、自分と同質の物に変異させているだけだ。其の証拠に、緑の液体に触れた地面はうぞうぞと蠢いては巨人に合流しようと近寄っていく。 あの化物は、言うなれば自己増殖の化物。喰らって増え、傷付いて増し、只管に成長を続けるおぞましき変異体。 無論そんな物の体液を人が受ければどうなるかは想像するだに怖気が走る。 アレを減らすに有効な手段は、状態異常を用いて己で己を切り離させる事のみだろう。けれど、其の手は冗長が過ぎる。 幾ら増えようと構わない。どんなに変化していようと、アレはこの世界の理に、……今も刻一刻と変わりつつある其れではあるが、縛られた生物だ。生き物として殺せば止まらぬ道理もない。 冴の言葉に、武器を構えるリベリスタ達。 「グラングラディアは強かった。だからもう一度、バイデンとして戦いたかった」 手の獲物を握り締め、呟いたのは『覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)。彼はそう、グラングラディアと其の友に、一度は破れ囚われた。 「こんな風になるのは『バイデン』じゃないだろ?」 けれどだからこそ、夏栖斗はグラングラディアのこの惨状が許せない。 其の言葉に強く頷く、『すもーる くらっしゃー』羽柴 壱也(BNE002639)もまた、夏栖斗と共に彼のバイデンに囚われた。 故に彼女は知る。誇り高く、強かったグラングラディアを。 『Gloria』霧島 俊介(BNE000082)、『紅玉の白鷲』蘭・羽音(BNE001477)が経験した、大切な仲間を眼前で攫われた屈辱と苦悩と、己が無力への後悔……。だがリベンジの機会は永遠に失われた。 あの死闘を演じた相手が、こんな変わり果てた姿を晒す事は、寂しさを理解出来ぬままに苦しむ姿を見る事は、我慢できない。 「だから終わらせてやる」 夏栖斗の宣言に、リベリスタ達が弾かれたように駆け出した。 ● 意識を失っていたのは恐らく一分にも満たない僅かな時間。 ぴくりと身じろぎし、瞳を開いたのは一匹のフュリエ。彼女は一緒に居た仲間達よりもほんの僅かに頑丈で、ずっと幸運だったのだ。 身体中が痛む。思考がはっきりしない。其れでも彼女は五体満足に生きていた。 けれど、だからこそ、身じろぎした彼女に気付いた巨人は、其の手を彼女目掛けて伸ばす。 食う為に。 噛み砕き、血を啜る為に。或いは、丸飲みにして胃の中で獲物が暴れる感触を楽しみながら溶かす為に。 彼女は、まだ動けない。迫る手が意味する所をはっきりと理解出来ず、仲間達の姿を求めて必死に首を動かすだけ。 其のままに喰われるなら、もしかすれば恐怖も無く逝けたのかも知れない。 だが彼女は気付いてしまった。傍らに転がる、千切れた彼女の仲間の首に。恐怖に歪んだその顔に。 彼女は思い出す。圧縮され、一口に喰われてしまった哀れな仲間の一人を。天から落ちた槌の一撃を。 迫り繰る其の手が、彼女にとって何を意味しているのかを! しかし、次の瞬間、彼女の悲鳴を掻き消して響くのは3回の炸裂音。 伸ばされた手の前に割り込んだ人影。宗一の刃が巨人の手首を捉える。 宗一とグラングラディア、質量の差は明白だ。例え前腕のみとの比較をしても、宗一を上回るだろう。 けれど宗一の全身の力を切っ先のみに集中させた其の一撃、メガクラッシュは、腕を弾いて肩関節を大きく水平内転させる。自らの腕の思わぬ動きに、ぐらりと泳ぐ巨人の身体。 サイズの差を考えれば在り得ない光景を見せた宗一の一撃。……だが、其れはただの起点に過ぎない。奇跡は今より起きるのだ。 体勢を崩しただけなら、稼げる時間は数秒に満たない。体を泳がし、隙を、脇腹を見せたグラングラディアの懐に潜りこんだのは、羽音。 彼女に課せられた役割は最も重い。重要さは勿論だが、物理的な意味で重い。 「……いくよ。グラングラディア」 羽音の宣戦布告に応じるように、彼女の手のチェーンソー『ラディカル・エンジン』が吼え猛る。高速回転する切っ先が、地を噛んで加速する! 羽音の持つ、白頭鷲の脚の三本爪が地に食い込んで踏ん張りを利かせ、放たれるは切り上げ。 巨人の脇腹に食い込んだメガクラッシュは、あろう事か其の巨体を地面より浮き上げさせた。 「少し見ないうちに随分派手な見かけになったねグラングラディア!」 宙に浮く巨体に、壱也が語りかける。目の前の光景に、彼女は驚かない。 以前自分が放ったメガクラッシュは、彼と彼が乗る巨獣をほんの僅かに後退させたのみだった。 けれど今回は違う。並び立つ仲間と共に、彼女達は奇跡を起こす。 浮き上がった巨体は、重さが上昇力に打ち消されている。崩れた体勢では踏み止まる事すら許されない。 全ての枷は消え失せた。 「羽柴壱也、行くよ!」 想いを籠め、全ての力を爆発させた壱也の一撃、3発目のメガクラッシュが、グラングラディアの巨体を吹き飛ばす。 ● 俄かには信じがたい光景を目の当りにし、目を見開くフュリエ。そんな彼女の耳に飛び込むは、動じるでもなく、湧くでもない、あくまでも冷静で涼やかな声。 「任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう」 声の主は『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)。もし親しい者が聞いたなら、其の声にはほんの僅かな、押し殺された恐怖が隠れている事に気付けるだろう。 だがそれ以上に見て取れたのは哀れみだ。悲しみを飢えとし、全てを喰らい続ける哀れな彼に。 「――悪しき夢に、終焉を」 魔力杖を掲げたミリィの奏でる指揮に、リベリスタ達の体に攻勢の力が満ちていく。 確かに今しがた起きた事は奇跡である。けれど、戦いは、そう、今此処から始まるのだ。 傷付いたフュリエを癒す為、俊介が放つは聖神の息吹。勇気という炎に煽られて、戦場に出る事を選んだ、或いは選んでしまった、たった一人の生き残り。 これ以上誰も死なせたくない。願いは癒しを呼ぶ。 「大丈夫、動ける?」 問う夏栖斗に頷くフュリエだったが、……けれど身体深くに刻まれたダメージは動く事を拒む。 傷は塞がり血も止まった。だが、彼女に最も必要なのは安静な休養。心にも、体にも。 可能であれば回復支援を望んでいた夏栖斗ではあったが、其れは不可能な相談だ。重傷を負い、動けぬ身体もさる事ながら、生き残った彼女に回復の力は無い。 彼女達の部隊で回復の力を持っていたのは、今も恐怖に目を見開いたままの……、傍らの生首だったのだから。 身を起こそうともがく彼女を、抱き上げたのは『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)。 「無理をするな。無理無謀は俺達だけで充分だ。……アイツは俺達が倒す」 其の視線の先には、立ち上がり槌を振り上げる巨人の姿。 背を向け、走り出す禅次郎。此処にこの子を置いてはおけない。 「蜂須賀示現流、蜂須賀 冴。参ります」 地を蹴り、巨体へ一直線に飛ぶはボトムの刃、蜂須賀 冴。 増殖の巨人を相手にちまりちまりと削る意味が無い事はエネミースキャンで判明済みだ。唯、命を止める為に、冴が狙うは頭、首、心臓のみ。 冴はこの世界に興味を持たない。自分達こそがこの世界での異端である事も判っている。バイデンやフュリエがどうなろうと彼女には関係の無い事だ。 だがこの世界の崩壊は、何時か必ずボトムに影響を及ぼすだろう。……いや、何時か等と生易しい話では無い。今此処でアークのリベリスタ達が死ねば死ぬだけ、祖国を守る刃が欠ける。 彼女の正義は其れを許さない。矢の様に放たれた、ボトムを守る正義の刃。 しかしそんな彼女を迎え撃つ様に、グラングラディアの槌が振り下ろされる。小さな的である冴に当てる必要など皆無だ。ただ巨人は地を叩けば其れで良い。 其の衝撃は、冴も、リベリスタ達の後衛も、纏めてゴミクズの様に吹き飛ばすのだから。 冴の狙いに誤まりは無い。彼の変異体を倒す為に、彼等が取り得る最善の手。ただそう易々と其れをさせる程に、敵が甘くなかっただけの事。……けれど、 「……負けるもんかよ!」 天より振り下ろされる槌の前に、敢えて立ちはだかったのは宗一だ。全身の力を切っ先に集め、彼は己が武器で巨大な槌を受け止める。 質量、膂力、高さ、全てが圧倒的に上回る敵の一撃に、武器を握り締めすぎた指の、支える腕の、地を踏む踵の、圧迫を受ける脊柱の、腰の、大腿の、下腿の、骨が一斉に砕けた。 運命を対価にしての踏み止まりも、質量に次いで身を打った衝撃に押し潰される。 しかし、だ。地を捉えぬ槌は、全体を巻き込む衝撃破を生み出す事が出来ずに終る。力尽き、地に倒れ伏す宗一は、確かに一瞬、巨人に負けず打ち勝った。 罅割れ、欠ける緑の槌。 「チェストォォオオオオ!!」 走る雷光。宗一の思わぬ抵抗に体崩れたままの巨人へ、冴の渾身のギガクラッシュが突き刺さり、天を切り裂く悲鳴が響き渡る。 ● 土砕掌を叩き込んだ夏栖斗が振り回した腕に吹き飛ばされる。 羽音に喰らい付く歯とラディカル・チェインがぶつかり火花を散らす。 禅次郎が放った黒きオーラを目晦ましに、回り込んだ冴の刃が背より突き通されるが……、浅い。命には届かない。 ミリィの振る杖が刻むリズムに合わせ、戦場はめまぐるしく状況を変えていく。 「起きろや、いつまで喰ってんだよグラングラディア!! 寂しさにR-typeに負けてんじゃねーよ!!」 焦れた様に叫んだのは、癒しの力を放つ俊介。 「お前は失恋した女子高生かバカ! 俺の知ってるお前は、力を求めた友思いの戦士だったよ!! 起きろよバーカ!!!」 敵の嘗ての姿を知るが故に、やり切れない。 あの自分達を負かした戦士が、怪物のままで、何も判らないままに死ぬなんて。 だが、グラングラディアは止まらない。彼に奇跡は起こせない。耳から入る言葉は、意味を成さず音でしかない。 言葉を発する者は、喰らうべき、同化すべき、……嗚呼、もう彼にとっては獲物ですらなく、そう、飢えのままに、衝動のままに、ただ求める。 そして、地を打つ槌に巨大なクレーターが口を開く。 吹き荒れる衝撃の嵐に、けれどもミリィの支援をフルに受けた前衛達は耐え切った。俊介の癒しがあればこそ、耐えうるだけの体力を保持できていた。 しかし、その彼等を支えた当の本人達は、彼等ほどに頑丈ではない。其の一撃は2人の限界を充分に超える物だった。 ……でも、其れでも、ミリィの指揮が刻むリズムは止まらない。俊介の癒しの願いは潰えない。 勿論、怖い。勿論、痛い。けど、諦めたら無駄になる。勇気を振り絞って立ち上がり、グラングラディアに殺されたフュリエ達の死が、無駄死にになってしまう。 「――大丈夫、私達は負けませんよ」 ミリィの強がりは、彼女達への無念に対して。 「欲望に飲まれて誇りを失ったバイデンは最早害獣でしかないな」 冷たく言い放つ禅次郎の言葉は、寧ろ仲間達に向かって放たれた。無論禅次郎とて仲間達の感情を理解できぬ程に野暮ではない。 ……けれど、この戦いは次に待つ世界樹との戦いの前哨戦に過ぎないのだ。こんな所で、入れ込み過ぎて無駄な被害を増やす訳には決していかない。 自らの身を苛む痛みを呪いへと変え、禅次郎が放つはペインキラー。 其の一撃に、……巨人の身体が僅かに揺らいだ。 「勝機!」 短く、仲間達に告げる冴。振り回された巨腕の一撃に血反吐を撒き散らしながらも、 「そんな意志の宿らぬ力で、私の刃を折る事は出来ない!」 踏み止まり刃を振るう。 事実、グラングラディアには限界が近付きつつあった。自己再生で修復する以上に、全力をぶつけて来るリベリスタ達の攻撃力が上回る。増していく防御力も、猛攻の前に砕け散る。 彼に嘗ての知恵が、戦いへの嗅覚が、稀なる闘争本能が残っていれば、バイデンのグラングラディアであったなら、或いはこの戦いの行方をひっくり返す事もしただろう。 けれど、此処に居るのは、ミリィの言葉を借りるなら『己を見失ってしまった悲しい存在』。哀れな一匹の化物でしかない。 「グラングラディア」 壱也が構える『はしばぶれーど』。冗談の様な名前を名付けた、其の一振り。 でも、バイデンとしてのグラングラディアとも彼女はこの刃で渡り合った。たった一人で、巨漢だった彼と。 「わたしは知ってるから。覚えてるから」 死闘を、共に演じたのだから。 「わたしが終わらせてあげるよ」 唯只管に、彼女の全力、ギガクラッシュで真っ直ぐに。 彼が求めた友の下へと。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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