● 「あー……。キッツ」 苦笑混じりに、悪路を歩く少年が居る。 年の頃は十代半ばか。ザンバラの短髪が特徴的な少年は、その年の頃に似合わないほど、目が炯々と輝いている。 「襲撃対応用に戦力貰ってきたのは良いが、お陰で車も使えねえし……。お前らの所為だぞ、コラ」 言って、彼が頭を小突いたのは初老の男性。 正確に言えば――少年がその言葉で指したのはこの男だけではない。その周囲に立つ、十数名の男女達だ。 その瞳には一様に生気が無く、表情は虚ろで、足取り一つすら覚束ない。 さりとて、それを責めるのも酷なこと、なのだろう。 彼らは、皆一同が死者なのだから。 「クソつまんねえしエラい疲れるし……六道の奴ら、これで話聞かなかったら承知しねえ」 嘆息を吐いた少年が、それと同時に、自分の長袖を片方捲る。 覗いた素肌には、頑丈な縄で出来た籠手が、鈍い輝きを見せつけていた。 ● 「……アーティファクトの回収、ないし破壊。同時にE・アンデッドの討伐。それが今回の依頼」 静寂のブリーフィングルームにて、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が告げた目的は簡潔である。 相対するリベリスタ達は――故に、その説明に違和感を感じた。 けれど、イヴはその懐疑の眼にも、何一つ応えない。 「……対象のアーティファクトは一本の細い縄。片腕に装備することで巻き付き、籠手のような形状を形作る。 これの持つ能力は、『異界の属性』を持つモノに対し、引力と斥力を自在に操作できる、と言うもの。これはその因子が濃ければ濃いほど有効」 「……例えば、因子持ちの俺たちより、因子そのものであるアザーバイドに対してより有効、みたいにか?」 「正解。……最も、このアーティファクトはその対価として所有者の生命を消耗させるけど」 淡々と告げる言葉に、感情の色は未だ見えない。 表す意味がないのか、表す方法がないのか、 端から見れば、見慣れたその表情も――今のリベリスタ達には、その裡が解りすぎるほどに、解る。 「……対象は現在、或るフィクサードと、それらが率いるE・アンデッドの手によって元の場所から持ち去られている。 種族とジョブはジーニアスの覇界闘士。実力は……元で言うなら中の下。 けれど、もしみんなと戦うことになったら、彼は所持しているアーティファクトに自身の生命全てを費やしてでも、勝利を狙ってくる。その場合の実力は、予想しがたい」 「……理由は?」 問うた。 リベリスタの、何者かが。 落ちる沈黙と、冷える空気。 幾許かの時を過ぎて、少女が最初に放った一言は、 「……卑怯、だよ。こんなの」 ● それは、多分、ありふれた話なのだろう。 生まれついでから『バケモノ』混じりだった俺を見て、両親は俺に対して愛情の代わりに、暴力ばかりを与え続けてきた。 火傷、殴打痕、切り傷や擦過傷。 植え付けられた傷は、そのどれもが致死に近いものでありながら、それでも『バケモノ』混じりの俺は死にきることが出来なかった。 だから、捨てられて――けれど、拾われた。 剣林と名乗る其奴らの中で、初めて『バケモノ』は『バケモノ』なりの存在を確立できて、 その中で……きっと、俺に『ヒト』を教えてくれたのが、彼らだった。 十文字晶、そして、その子供達。 知らなかった親愛のカタチを示してくれた、悪党の名を借りた家族。 「……」 嗚呼、と。星空を見ながら、溜息を漏らす。 それは、最初から知らないものだった。 そして、これからも解らないものだった。 運命の悪戯の果てに、手に入れそびれた、『オヤコのアイジョウ』。 それはきっと、俺には二度と掴めない。 けれど、 だからこそ、 其れを知り、尊く思い、故に矜恃すら穢した彼らを、俺は愛しいと思える。 故に。 「……なあ、リベリスタよ」 夜闇に感じた微かな気配に、声を上げる。 手にしたアーティファクトの馴染みは薄い。勝ち目が見込めるかは怪しいが、それでも。 「かかってこいよ。手前らのセカイを全部賭けて、かかって来やがれ。 俺の掛け金は唯二つ。手前の命と――『絆』一つだ!」 カラッポのココロ一つ、 ガランドウのカラダ一つ、 そんなもので、漫画みたいなキセキを起こせるのなら。 それは、きっと。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月06日(土)23:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 移ろうものなんて幾らでもある。 居場所も、時も、セカイの色も。 そして、そして――人の心すらも。 少年は言った。「絆と命を賭してやる」と。 唯一無二のそれを容易く、けれど確固として決した意志を覆すことは、きっと、誰にとっても至難。 けれど、 けれども、 「俺はお前の死なぞ望まない」 有らざる可能性を、『あるかも知れなかった可能性』エルヴィン・シュレディンガー(BNE003922)が願うのは、きっと。 「お前は、形はどうであれ、家族を愛していた、違うか? そうでなければ、自分に愛を教えてくれたヒトの為に尽くそうとは思わんさ。 俺も同じだ。肉親に命を奪われ運命のイタズラで生き永らえた、だが、家族の愛を知っていた俺は、世界を憎悪せず戦う事を決めた」 だから。 そう言って、彼は、手を差し伸べた。 馬鹿げた可能性だ。 キセキみたいな、話だ。 それを、だが、エルヴィンは願い、祈り、乞うて、望む。 仮面越しの瞳。吃と見据えた先に居る少年は――しかし。 「……父親ってのが居るんなら、アンタみたいのがそうなんだろうよ」 苦笑だった。 苦笑を、浮かべていた。 「敵に対して言う言葉でも、無いだろうがよ。 『悪い』――が、それにゃ従えねえ」 「……」 「利得の話ならまた別だったろうな。アンタらが菫サンを確実に助けてくれるなら尻尾だって振ってやった。中途半端な条件なら仲間になった振りして、お前らの塒で暴れ回ってやった。 けど、それを単純な情で問うなら、俺も同じように返す。一つ所に括った腹の裡が、だから、今の答えだ」 きゅん、と音が鳴る。 籠手を象る縄の束――此度の依頼対象となるアーティファクトが、少年の腕に巻き付く音だった。 「良くある話だな。あちらもこちらも大して変わらない。掛け金に大した価値もないのも同様にな?」 「言うね、姉さん」 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の言に対しても、少年は揺らぐことはない。 若干十代半ばと思うことは侮辱だ。生まれ次いでの革醒者である彼が送った人生は、只のヒトが歩むそれより濃密であり苛烈である。 「どの道――」 言って、風を切る音がする。 緋槍一閃。羽のような軽さで『彼女』を振るう『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が、其処に居る。 「命も、大切なヤツとの絆も賭けて。 其処までの覚悟なら、俺たちが何を言おうと無駄なんだろうさ」 だから、受けて立つと。 そう言い放った彼に対して、言葉を継いだのは、彼女。 「誰かの為に命を懸けて何かを成す。ボクも同じような意気込みで任務に当たった事があるから分る」 四条・理央(BNE000319)。 浮かんだ白杖を繊手に携え、大気中の魔力を蓄積させていくその効率の良さは、単純に彼女の技巧が優れているだけが理由ではない。 「あるからこそ、君を止める」 意志の発露。 常人のそれに追随を許さぬ集中力が、其処にある。 「……勝手だね」 対する少年は、苦笑の侭だ。 「救う、助ける、さんざっぱら言ってくれるのは勝手だけどよ。 それ、単にお前らの定義で言ってる『幸福』だろ? セカイを守るためなんてお題目なら兎も角、他人の価値観をお前らの枠に嵌めるなよ。虫酸が走る」 嘆息混じり。 聞き分けの無い子供を宥めるようなその口調は、その実、瞳に言い様のない澱を湛えている。 「……お前は、反転した僕だ」 『覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)は、しかしそれを肯定する。 「『家族の愛情』がなければ僕もただのフィクサードになっていたはずだ。 お前は、僕の鏡写しなんだ」 「幸運だったのでしょうね、私たちは。 幼少に革醒し、捨てられて、けれど、私は拾われた」 彼と、『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)の見る瞳をすら、少年はうざったそうに手を振るう。 「……説教の次は間違い――じゃねえや、似たトコ探しか?」 「何とでも言ってください。けれど」 シン、と。 音ならぬ音――魔力の胎動を放つ杖を片手に、彼女は、言う。 「貴方に大切な"絆"が掛かっているように、私にも皆が居るから、此処に"絆"があるから。 だから、私は貴方には負けない。負けることは、出来ない」 「……上等」 剣抜弩張。 彼方も此方も臨戦態勢。 フツの光を、微かに漏れる月明かりがかき消して、 木々をざわりと撫でる風が吹いて、 僅か、 気が逸れたと、同時。 「――――――ッ!」 両者が、動く。 ● リベリスタ達が取った陣形は、広義で言うなら魚鱗の陣のそれに当たる。 通常、敵の側に対して三角形の陣を取るそれに対して、彼らが取った陣形は崩れた菱形と呼ぶに相応しいものである。 その陣容は最前衛を夏栖斗、中前衛を左から『逆襲者』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)、理央、中後衛を左からエルヴィン、『いつか出会う、大切な人の為に』アリステア・ショーゼット(BNE000313)、ユーヌと行き、其処から更に後衛としてミリィ、フツの二人が並ぶ。 多面的な戦闘には向かぬ突撃陣形ではあるものの、乱立する木々によって機動力をある程度奪われるこの戦場では其れも有効手段の一つと言えた。 「全く――六道に頼る辺り、出発点から間違えてる気もするが」 初手に動いたのは、ユーヌ。 音もなく構えたナイフが燐光を放てば、大した思考能力一つすら持たぬアンデッド達は其れに魅せられるが如く、大半が彼女を目指してゆらりと近づいていく。 「マイナスにマイナスを加えて、マイナスの限界突破でも目指す気か? 不幸がオーバーフローで反転するなどありはしないのに」 「挑発のつもりなら及第点。それが素だってんなら……相当口悪ィぞ、アンタ」 苦笑した少年を囲うように、ユーヌの挑発を耐え、特に敏捷な動きを見せた幾らかのアンデッドが彼のカバーに付く。 リベリスタ達はその目標をフィクサード(正確にはアーティファクト)のみに集中し、アンデッドの対処は最低限に留めると考えていたようだが……『人道的なアーク』の方針が如何なるものかなど、少年からすれば解りすぎるほどに解っている。 「戦場を奏でましょう――」 「ありふれた話だからこそ、止めなければならないんだ……!」 ミリィが杖を媒介にオフェンサードクトリンを全体に付与。 次いで動いたエルヴィンの巧手が少年を庇うアンデッド達を切り裂いていくが、元より耐久力が高い個体に一撃程度ではさほどの損傷も見受けられない。 「死体を一々倒してちゃあキリが無い、とは思うが――」 「――そうしなくちゃ届かない、だよな」 フツが、夏栖斗が、口々に呟き、苦虫を噛み潰す。 焔腕が木々を薙ぐ。式符・鴉が闇を穿つ。 死者が口々に苦悶を零す、が、それまで。 滅し切るには未だ足りぬ。怨嗟の咆哮を大いに浴びて、揺らいだ彼らの隙を突いたのは、 「ッ! 嘘……!?」 アリステアの声が驚きに染まったものであることは、或る意味を以て当然と言える。 アーティファクトの防衛を主として動くと想定していた少年が、後衛目掛けて突出したとなるのであれば。 「とっとと吹っ飛んでろ……!」 「お願い、聖神――!!」 叫びは、同時。 雷光が戦場を灼き、 次いで靡いた清らな風が、出でた傷口を乾かしていく。 並々ならぬ被害も、アリステアの活躍で抑えられはしたものの、元より受動を考慮してなかった前衛―中後衛陣である。 ユーヌほどの回避能力を有した者なら別だが、何れも攻撃を受けた段階でその陣形は大きく崩されることとなった。 「ま、だ……っ!」 孤立し、故に陣を構築し直そうとするアリステアに対し、だが、フィクサードは止まらない。 重ねた挙動(ダブルアクション)を以て飯綱を放たんとする彼が―― 「……っらあああああぁぁぁぁぁぁ!!」 「!!」 動きを、止める。 次瞬、カルラが咆哮を上げると同時、木々を砕いて槍が飛んだ。 気を取られたことも有ってか、次撃は彼女の肩を掠めるのみに留まり、しかし少年の側もカルラの一撃をすんでの所で回避する。 「……馬鹿力」 「言ってろ」 呆れたような声に対しても、対する彼の言は冷たい。 視線の先に在るものは――瞳から生気を落とした、嘗ての生者達の姿。 (……他者を踏み付けて良しとする、そんな連中の命や絆に価値なんかあるかよ) 交錯は未だ始まったばかり。 それでも生命を立て続けに削り続ける少年の息は既に荒いできている。 「呪印、封縛――!」 「っ!」 その隙を、理央は見逃さない。 白杖が陣を形作る。八卦の門より出で放たれた縛鎖が彼を絡め取った。 「『達磨』さんは、貴方の行為を望んで何かいない……!!」 「言ってろ自己中! 手前があの人の何知ってるってんだ――っ!?」 呪縛とすら呼べるそれさえも砕かんとする彼に対し、彼の籠手を真空が切り裂いた。 「……名を、お聞かせ願えますか」 「……。嫌だね。覚えられたくも無え」 降り注ぐ不可視の刃。 それらが止んだ後には、微かな解れを残すアーティファクト。 武器としての使用を前提とされたものである。自然耐久力の高さは言うまでもない。 それでも、ミリィは少年を倒すよりも、アーティファクトの破壊こそを念頭に置く。 「もう一度――」 「させるか馬鹿が!」 少年同様、二回行動に出る少女を、アンデッド達が牽制する。 次いだ光輝は、その大半を根こそぎにして、終わる。 その時間、僅か秒単位。 それだけで、少年は封縛を砕き、再び態勢を立て直した。 「……ねえ」 傷ついた身体、 疲弊した精神、 それでも炯々と光る瞳を湛える彼に対し、アリステアがぽつりと告げる。 「アナタの事を知らない私が何を言っても無駄だと思うけど……。 アナタの思っている『絆』ってなぁに? 命をかけてまで守るべき大事なものなの?」 問うた言葉は、彼のココロをかき乱すものではなく、純粋な疑問。 戦の理由、命を賭す理由などその者にしか理解できず、ならば他者のコトバなど只の俯瞰者の戯れ言に過ぎない。 それでも、問わずにいられない、訳は。 「……見てえんだよ」 少年が、言葉を吐く。 「ありふれた言葉とか、下らないじゃれ合いとか、意味のない悪戯とか、ワケわかんねえアプローチとか、全部、全部、全部! 俺の大好きな人の『家族』を! 俺が見たいと思った人の『家族』を! 唯、俺個人の自己満足で救って、見て、『ああ、これが家族なんだ』って! 解りたいんだよ!」 慟哭。 涙は、流れなかったけれど、 語る言葉は、そんなもの以上に、彼のココロを表している。 「――――――」 アリステアの、沈黙。 否、戦場全体の沈黙が、刹那だけ流れて。 聞こえた言葉は、唯一つ。 『ごめんね』と言う、正義の味方の、嗚咽だった。 ● 敵のスタイルは、要するに徹底的な防御特攻である。 キーパーソンとなるのはある程度多彩なスキルと、壱式迅雷を携えるフィクサード――少年。 敵方のアンデッドは、その少年を庇う役と、『そのカバー役を庇う』役の二手に分かれ、此方は一切の攻撃を行わない。 今時となっては範囲の状態異常やノックバックの能力も当然となっている。念を入れて二枚の壁を用意していた少年の行為は、故にユーヌのアッパーユアハートの的確な防護策となっていた。 時間はさほどの時を要さない。 しかれど、HP、EPを含めた自己回復能力を持つ少年に対して、あくまで少年一人を狙うことを主としていたリベリスタは、自らのリソースの消耗を恐れないが故、短時間で格段にその動きを鈍らせてきている。 「っ、――!」 声なき声と共に、エルヴィンが倒れた。 彼だけではない。回復役のアリステアを庇っていたミリィは既に倒れ、持ち前の回避力を以てしてユーヌも息が荒い。カルラも既に運命を消費している。 理由はと言えば単純なことで、彼らは敵との距離僅か10m以内に於いて密集した陣形を構築、尚かつ其れに対して万一陣の内に入り込まれる際のブロックも考慮していなかったためである。 「……ハ……ッ!」 ……最も。 対する少年も、受ける攻撃こそ少なくとも、そのアーティファクトの効果によって限界が近しい。 要は、単純なことである。 アーティファクトの効果によって自然とその生命力を削られる少年は、リベリスタが想定していた敵の行動――アンデッドにブロックをさせつつ、後方から敵を攻撃する――等と言った時間を掛けるほどのリミットが無かったのだ。 よしんばその過程でアーティファクトの新たな使い方に気づくとしても、それが彼の期待するものであるかどうかの確証など無い。 安易な楽観を捨てた彼に出来ることは、アーティファクトの効果で狭めたリベリスタの射程範囲に期待して、一挙に飛び込み纏めて片付けることのみ。 そう言う意味では、リベリスタは見事に彼の考えに嵌ってしまったと言える。 「……なあ、フィクサードよ」 眩んだ身体に活を入れ、カルラが声を吐き出した。 「てめぇが引き連れてる連中にも、かつては命や絆があったって分かってるか?」 「……あ?」 返された言葉にも、覇気がない。 だが、カルラを睨むその瞳だけは、未だ光を損なっていない。 「自分の立場に甘えてんじゃねえ。虐待や犯罪の被害者なんて、ムカつくが掃いて捨てるほどいるんだよ」 「……」 「知ってか知らずかそれこそ知らんが、てめぇで選んだ道で、最後は奇跡に縋る? 悲劇の主人公気取りの不幸自慢になんぞ付き合ってられるか」 「……はあ」 嘲弄すら込めたその怒りを、少年は気抜けた声で応えた。 「……で? だからどうした」 「……何だと?」 「自分を正当化する理由が無きゃ悪さしないなんて誰が決めたルールだ、っつってんだよ。 舐めんな『クソガキ』。こちとらフィクサードだ」 自身より一つ二つ年上のカルラを、少年は格下と捉えた。 「好きな奴だから助ける。好きなモンだから守る。それでこんなチンケな世界一つぶっ壊れようが知ったことか!」 螺旋が、 排斥が、 各々互いを呑み喰らう。 少年の脇腹がごそりと抉られた。カルラの肋骨の大半が砕き潰れた。 双方が並々ならぬ血を零しても、少年の傷はやがて癒える。 だから、 その前に。 「――ふざけんなよ!!」 「ッ!」 御厨夏栖斗が、前に出た。 「てめえのどこが空っぽだ! 伽藍洞だ! あるんだろ? 家族の愛情が! それが絆だったら、守れよ、ベットしていいもんじゃねえだろ!」 「……っ、舐めんなっつってんだ、ガキが!」 紫電の籠手、焔纏う鉤棍、それが一点にぶつかり合う。 「『今』しか無えから賭けるんだよ! 賭けなきゃいけねえから賭けるんだよ! 出来たかも知れないチャンスを、掴めたかも知れない救いを! 『世界に仇為すから』なんて理由で奪い続けたクソリベリスタが何言ってやがんだ!」 「だからチャンスが有ったら全部捨ててでもやるのか!? やっと手にした大事なもんを手放すなよ! ここで使い切って死んだら何が残るんだよ!」 「俺たちはお前らのようなキセキなんて信じねえ! 俺の命と十文字の笑顔の二者択一なら、確率の無い両方なんかより片一方で十分だ!」 意地と意地の張り合い。 そう語りながらも、どちらが限界かはわかり始めていた。 前後衛の大した意味のないスイッチこそすれど、大まかな陣形は崩さない努力だけをしてきたリベリスタは、その大半が少年による複数攻撃の餌食になり続けていた。 潤沢な回復能力を持つアリステアとて常にEPをキープしている状態。どのタイミングでそれを無視してでも回復を飛ばすか決めあぐねていたが故、リベリスタ達は徐々に劣勢に追い込まれていた。 だから、最後のチャンスはこの一度だけ。 残るアンデッドは削りきった。少年自身も、アーティファクト自体の能力がその生命を狭めている。 「さて、踊ろうか。ドンキホーテでも目指すのだろう?」 嘲うと共に、ユーヌが動いた。 星の力が籠手を穿つ。 凶を刻まれた肉体。振り解くより先に、幸運にも先手を取ったフツが結界縛を放つ。 「手前ら……!」 「……ああ、恨んでも構わねえよ」 激する彼に対して、フツの声は何処までも穏やかで。 二重の枷が彼を覆う。 が、今までの交戦を見ても、そのウィルパワーは比較的高い少年である。 凶ツ星印が崩れ去り、四神の界が崩れ去る。 ――よりも、早く。 「絆があるなら、その人の為に何かをしたいなら……」 理央の傷癒が、向けられた先には、 「命を捨てるなんて、絶対に駄目だ!」 「ッ、リベリスタぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 満身創痍を引きずり、尚も槍を構える、彼が。 「負けてられるかよ……」 「暴力で、他者を踏み付けるやつなんかに――!」 カルラの漆黒と、 術を解いた少年の紫白が、 一つに、混ざる。 ● ――息を吐く音がした。 木々のざわめく音を残しての静寂は、故に、戦闘の終わりを如実に表している。 動かぬ死者の群れのただ中、座り込むのは、アーティファクトを持つ少年の姿。 「……」 指を動かす。 次いで、腕を、足を、脚を、ひいては身体を動かし、未だ自身の体が機能することを、そこで漸く理解する。 「――――――」 頼む、と。 小さく、彼は呟いた。 守る者も居ない中、 伝える者も居ない中、 この身が彼の地にたどり着き、破界器を届けるその時まで、保って欲しいと。 木々のざわめきが、長く続く。 靡く木の葉に隠れた影は、風が止んだ時、姿を消していた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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