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<黄泉ヶ辻>イリーガル・ゲイム

●死
 瞼の裏に死体が踊る。
 最初は良く知った顔ばかりだった。
 両親、恋人、親友、同級生、仕事仲間、何処の誰かも分からないヒト。
 女、男。大人、子供、老人、選ばない。
 瞼の裏の死に顔が恨めしそうに俺を見る。
 口の端から溢れた血の泡を掻き分けて、でろりと零れ出した赤い舌が。黄色く濁った光の無い眼が。生きていた頃とはまるで似ても似つかない皆の顔が。

 おまえのせいだ

 おまえのせいだ

 おまえのせいだ――と。

 幻覚か、気の所為なのか。それとも本当に呪われているのか――張り詰めるを通り越して剥き出しになった男の神経を責め苛んでいる。
「……くしょう……」
 無意識に零れた彼の声は枯れていた。喉が痛くて、全身は『何もされていないのに』クタクタでまるで何十年も一度に歳を取ってしまった気分だった。
 暗がりに身を潜め、縮こまるようにして時間を過ごす。全てを諦めてから――そうし始めてからどれ位が経ったかを覚えていない。現実感の無い浮遊する時間に頭の中を空転するのは『何故こうなったのか』という自問自答と『こうなるべきではなかった』という強い後悔ばかりだった。
 否。『何故こうなったのか』は問うまでも無いのだ。
 その答えはハッキリと――この上なくハッキリと分かっている。
 世の中には触れてはいけない闇がある。
 一寸先には――この神秘世界の一寸先には爛れ、腐れ落ちるような闇がある。知らない訳では無かった。闇の存在を、その名前を。しかし――
「畜生……ッ……!」
 ヒトの理解し得ぬ闇は非常であるが故に他の誰にも分からない。

 ――んー、じゃあ。ゲームしよっかあ――

 嘲る『悪魔』を理解出来る『人間』等、何処にも居ない!

●簡単な仕事
「はい、日々大変な戦いに身を置く皆さんに!
 潤いのフォーリンエンジェル皆のアイドルアシュレイちゃんが!
 キュートでビートでお手軽な、お勧めの仕事を持ってきましたよ!!!」
『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア(nBNE001000)は嘘吐きである。少なくとも三百年以上の人生で醸造された彼女の深淵なる精神構造を好き好んで覗きたがるリベリスタは居ない――少ない。
「持ってきましたよ!!!」
「ああ、はいはい。いいから先に進んでね」
 毎度の事ではあるが、彼女のペースに乗せられて物事を受け止めるのは多大な面倒と取り返しのつかない無駄な疲労をセットで受け取るのと同じ事なのだから、これをあしらうリベリスタの対応も実に慣れたものだった。
「うわぁん! いけず!」
 地団駄を踏み、あざとい態度で抗議するアシュレイはさて置いて。幾つかのやり取りを早回しした先に彼女が切り出したのは『彼女が最初に言ったとても簡単な仕事』であった。
「皆さんには一人、ちょっと何とかして欲しいヒトが居るんですよ」
「……フィクサードか? 何とかって……何だ?」
「あー、まぁ。やる事自体は簡単なんですけど。少しややこしいですから、説明しますよ。
 ターゲットの名前は士田佐久郎。二十三歳。分類はリベリスタ。人となりはいたって明朗快活で正義を愛する熱血漢。友達に囲まれ、可愛い彼女も居ました。フリーでやってる人達の中ではそれなりに顔が広いヒトだったみたいですけどね」
「……何か壮絶に嫌な予感がして来たぞ」
「フリーってのはまぁ、見事な死亡フラグですよね!」
 空調の効いたブリーフィングに居るというのに、肌がじっとりと汗ばんでいくような気がした。見事に場の不快指数を上げ始めたのはケラケラと笑うアシュレイの語る『簡単な仕事』の正体に違いない。
「このヒト、今独りきりなんですよ」
「人望があるのに……か」
「ハイ。厳密に言うなら彼に好意を向けていた人間は全て死にました」
「――――」
「ここからが重要です。そして『彼に好意を向ける人間も、好意的に関わった人間も全て死に続けています』。例えば彼が道端でハンカチを落としたとしましょう。それを拾い上げ、差し出したヒトは間も無く死ぬでしょう。例えば彼がコンビニで買い物をしたとします。笑顔で接客した店員さんは死ぬでしょう。例えば彼が子供を助けてあげたとします。電車で老人に席を譲ってあげたとします。例外なくまぁ、皆死ぬでしょうね」
「アーティファクトの影響……?」
 絶大な力を持つ破界器が呪いめいた影響を与えているならばそういう事態も有り得ないとは限らない。しかして、アシュレイは首を振った。
「もっと単純です。犯人が居るだけですから。
 結論から言えば佐久郎様を追い込んでいるのは『黄泉ヶ辻のフィクサード』です。私より、皆さんの方が詳しいかと思いますけど」
 黄泉ヶ辻とは国内主流七派と称されるフィクサード勢力の一角である。至極簡単にその性質を説明するならば彼等は閉鎖的で理解不能である。総ゆる狂気に憑かれ――或いは飲み干す彼等はリベリスタの中で『最悪』の敵の一つとして悪名が知れ渡る存在だ。
「この佐久郎様、暫く前に彼等に取り憑かれてしまいました。
 ある仕事で衝突したんですね。まぁ、良かったのか悪かったのか――彼は『気に入られた』のでその場はどうにかなったみたいなんですけど。『黄泉ヶ辻の方』は、そうですね。遊び始めたみたいです」
「……遊び?」
 怖気のする響きにリベリスタは眉を顰めた。
 体の底から競り上がる『予感』が一層濃密なものになる。
「はい。ゲームです。『主宰の方』もそう称しました。
 概要は簡単。『人間は何処まで追い込んだら完膚なきまでに壊れるか』。手段は様々ですが、今回は『徹底的な孤独と恐怖』を用意する方向にしたみたいですね。元々の佐久郎様がリア充だったからなのかも知れませんけど」
「……」
「それで、元の話に繋がる訳です。
『黄泉ヶ辻の方』は佐久郎様に好意的に関わる全ての生き物を殺す事に決めました。当然、彼は最初はそんな事を知りませんでした。しかし、愛する人が次々と殺され、自分に関わろうとする人が変死を繰り返せば……やがて気付いたでしょうね。思い出したでしょう、自分が出会った相手が口にした『ゲーム』の単語を。
 彼は今、或る地下室で毛布を被ってガタガタと震えていますよ。
 可能な限りの食料を『人と関わらずに』用意して、誰とも会わず、誰にも関わらずに――独りでこの状況に怯えています。思考停止と呼ぶのは簡単ですが、次善策としては正しいですね。だって、皆死んじゃいますし」
 口調が然程変わらないアシュレイにリベリスタは嫌な顔をした。嫌悪感を抱くリベリスタに肩を竦める彼女は何処か楽しげで苛立ちを煽るには十分だった。
「……それで、どうしろって?」
「だから『何とか』ですよ。佐久郎様はそこそこの腕前がありますが、それも皆さんが大勢で掛かればどうという事も無いでしょう。彼という『死の誘引装置』が市井に存在している限り、誰かが死ぬのですから。大を生かして小を救うというアークのプランに従えば……ですねぇ」
「大本の黄泉ヶ辻を何とかするってのは?」
 皮肉な笑みを口の端に浮かべ、リベリスタは言った。不自然な物言いをした魔女が『簡単な仕事』に伏せている情報を「こっちは気付いているんだ」と言わんばかりに。せめてもの意趣返しに、言った。
「お勧めしませんよ。むしろ佐久郎様を何とかするのに『君を救いに来た』なんて口にするのも含めてです。何かの神秘でそれをつぶさに観察する『彼の判定』がもし、皆さんの行動が『好意から来たもの』としたならば……ねぇ。どうあれ、お勧め出来ませんよ。皆さんはむしろ――口々に悪罵を携えて『心を壊しかけているリベリスタ』を踏み躙る心算で事にあたるべきでしょうね。『死神』、『悪魔』、『無力』、『お前が死ねば全てが解決する』。何て、差し上げる言葉は幾らでもあるでしょう?
 ええ、楽しい仕事ではありませんよね。でも、簡単な仕事です――」
 アシュレイは息を大きく吸って、リベリスタの目を覗き込んだ。
「――京介様を呼び込む事に比べたら」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年10月06日(土)23:39
 YAMIDEITEIっす。
 九月二本目。
<黄泉ヶ辻>その名は狂介を一読推奨。
 簡単な仕事です。

●任務達成条件
・リベリスタ・士田佐久郎を『何とか』する事

※黄泉ヶ辻によるゲームの被害を止めるという意味です。
 方法についてはアシュレイが提示したのは一つのやり方に過ぎません。

●地下室
 とある廃ビルの地下室。
 人との関わりを遮断する為に佐久郎はここに引き篭もっています。
 がらんとしており、戦うには十分な広さがあります。

●士田佐久郎
 フリーの男性リベリスタ。年齢は二十三。デュランダル。
 元々多くの交友を持つ好人物で熱血漢で正義漢。
 ……だったのが災いして殺される方がマシな『ゲーム』を呼び込んでしまいました。
 彼の精神状態は後悔と理不尽な運命への恐怖で極限を振り切りつつあります。
 仮に何の救いもなかったとしたならば『主宰者』の望む通り『完全に壊れた』彼は何かの事件を引き起こしてしまうかも知れません。

●黄泉ヶ辻京介
 外見は二十代後半程に見える黒い短髪の男。割とお洒落。
 国内フィクサード主流七派の一角『黄泉ヶ辻』を率いる首領。
『黄泉の狂介』の異名を持つ非常に危険なフィクサード。
 黄泉ヶ辻は閉鎖的な集団で他のフィクサードに比べて『何をやらかすか分からない』とされており、特に警戒されている集団です。
 両手の指に十本の銀のリングを嵌めていますがこれはウィルモフ・ペリーシュという高名な魔術師が作成したアーティファクト『狂気劇場<きぐるいマリオネット>』です。
 ジョブ等不明。めちゃんこ強いです。

●アーティファクト『狂気劇場<きぐるいマリオネット>』
 十本の指に嵌める銀色のリング。
 超遠隔射程を持ち、囚われた知的生命体や物体を自由自在に操ります。又、射程、同時操作数、操作時の戦闘力他技量はアーティファクトの使い手にかなり依存します。
 常人ならば一人を操る毎に発狂し、すぐに廃人に成り果ててしまう為「性急かつ直接的過ぎて面白くない」としたペリーシュは失敗作……としていましたが京介はその狂気を御す事の出来る特別な人間です。ハッキリと狂気に染まっては居ますがそれは生来からのものでアーティファクトによる影響ではありません。『狂気劇場』はペリーシュ・シリーズの例に漏れず意思と知性を持っていますが、全く奇跡的な事に二人は非常に仲良しです。所有者に破滅をもたらすアーティファクトが、より多くの破滅を効率的にもたらせる京介を自らの使い手、主人と認め従っているのです!
 但し操作開始時は二十メートル圏内に接近する必要があります。

●Danger!
 このシナリオはフェイトの残量に拠らない死亡判定の可能性があります。
 参加の際はくれぐれもご注意下さい。


 京介のゲームは『アークのリベリスタにも適用されます』。
 高いフェイトと運命に立ち向かう力を持つ皆さんであります。
 一概にどうなるかは分かりませんが、それは確かです。
 そんな簡単なお仕事です。クリアするのは実に簡単なお仕事でしょう。

 以上、宜しければご参加下さいませませ。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
★MVP
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ホーリーメイガス
来栖・小夜香(BNE000038)
ホーリーメイガス
メアリ・ラングストン(BNE000075)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
スターサジタリー
マリル・フロート(BNE001309)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
ナイトクリーク
三輪 大和(BNE002273)
クロスイージス
村上 真琴(BNE002654)
ダークナイト
ユーキ・R・ブランド(BNE003416)
プロアデプト
阿久津 甚内(BNE003567)

●悪罵
 世界がハッピー・エンドを望むなら、何故小生は此処に居る?


                   ――『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュ

●ゲイムI
 此の世に溢れ返る呪いはまるで人の数だけしつらえられているかのようだ。
 人がそれを知覚しない『神秘』なる超常識の跳梁跋扈は全くそれをそれと知るにせよ、知らぬにせよ。的を選ばずに牙を剥くものである。
 理不尽なる運命を見逃すまいと立ち向かう誰かが居る一方で。
 人として越えてはならぬ一線さえ、容易く踏み越える者が居る。
 正義の味方(リベリスタ)の頭を悩ませるのは何時だって何よりも悪党(フィクサード)の存在である。最も――唯の人間よりも余程――彼等に近いその存在は表裏一体。唯、思考を逸脱させた『同類』はリベリスタに向く嘲笑のようでさえある。
 その中でも――
「アークの者だ。士田佐久郎、お前を『捕獲』する」
「君に捕縛命令が出ている。おとなしく来るならよし、抵抗するなら武力解決だ」
 ――今日、踏み込んだ地下室で『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)と『覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)に不本意な台詞を紡がせた『その男』は最悪と呼べる部類の一人であった。
(……くそ……! こんな話が、あるかよ――!)
 口調と表情を押し殺した風斗、夏栖斗、リベリスタの視線のその先には最悪の顔色にぎょろりとした目を載せ、無精髭を生やした一人の男が居た。毛布を被り、その周囲に空のペットボトルと食べ後のゴミを散らかした彼は、夏栖斗の――ここにやって来た八人のリベリスタ達が『確保』する為の目標であった。
「……来るな。来るなよ……」
 しかして、枯れた声で熱に呻くように――そう呟いた男、つまり『ターゲット』の士田佐久郎は多くのリベリスタ達の表情を酷く強張らせた『元凶』とは又違う。彼は目標でありながら『現時点では罪の無い一個』。置かれた状況は実に複雑なのだった。
(陽の光が届かぬ地下室。この場所は、士田さんの心を表しているのかも知れませんね。さて、私達の存在はどう影響するでしょうか――)
 目を細めた『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)の見た佐久郎は怯え、疲れ切った唯の『被害者』の姿でしかない。
 廃ビルの地下室に引き篭もり、悪夢にうなされる彼はアークのターゲットでありながら『リベリスタ』である。
 大本の事の発端は佐久郎の不運から始まった。リベリスタの仕事の一環でフィクサードと競り合った彼は関わってはいけない深淵を覗いてしまったのだ。日本国内のフィクサードの中でも頂点に君臨するとされる主流七派のその首魁に『出会ってしまった』彼は強制的に実に重大な運命を押し付けられたのだ。曰くそれは『人間を破壊する為のゲーム』であるという。『徹底した恐怖と孤独が何処まで追えば人間は完全に壊れるのか』というある種の実験は、同じく神秘への探求を最上とする『六道』とは違うアプローチ。同じく血と死に塗れた娯楽を供する事を容易く肯定する『裏野部』とも又違うやり方だ。
「相変わらず薄気味悪い、と言うか狂ってるわね……」
 呆れたように小声で一人ごちた来栖・小夜香(BNE000038)の一言はほぼ全員の代弁である。
『士田佐久郎に好意的に接した人間の全てを殺す』という暇人の『自称ゲーム』は『黄泉ヶ辻』以外のモノでは有り得ない。ましてやその『主宰』たる人物が首領なのだとしたら、それを行い得るのは黄泉ヶ辻京介を置いて他に居る筈も無い!
 風斗にせよ、夏栖斗にせよ、大和にせよ、小夜香にせよ――
(こんなおバカなゲームはビスハ(ねずみ限定)いち強いマリルちゃんが終らせてやるですぅ!
 人が壊れるまで見張るなんてお高いお化粧品の雫がたれるのずっと見てるくらい気長なやつなのですぅ……)
 ――この『ぴゅあで可憐』マリル・フロート(BNE001309)でさえである。
 彼等がリベリスタとしての正義感を抱いてここに居る限り『苦境』に置かれた佐久郎を見殺しにする事は出来ればしたくない……そう思っているのは確かだった。
 しかし、『京介のゲームは佐久郎に好意的な人間を全滅させる事』にある。彼等の苦悩を知った上で「佐久郎を殺してしまえば簡単だ」と嘯いた塔の魔女の笑顔は実にフィクサードらしい皮肉であると言えるのだろうか。何れにせよ『簡単にそれを選べない彼等』は次善の方法として『強硬に佐久郎を捕縛する事』を考えたのである。その『小細工』とも言える苦肉の作戦が果たして京介の『ルール』に触れないかどうか等、誰にも保証出来る話では無かったのだが――
「来るな……! 皆、死ぬから……!」
「……わたしたちは、あなたという『死の誘引装置』を排除するだけ。黄泉ヶ辻の手の内を調べるために、生かしたまま」
 ――それでも、リベリスタ達はこの『ゲーム』に横槍を入れた。あどけなく可憐な美貌に能面のような無表情を貼り付けたまま、努めて冷たくそう言った『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)は言葉とは裏腹の強い決意を抱いている。
(憎まれてもいい。士田さんが『何処まで追い込まれても壊れない』なら、ゲームは無意味!
 ――例え復讐心であろうと、生きる気力を取り戻せ!)
 救わなければならないのだ。少なくとも彼女は怒りも痛みも全て受け止める覚悟だった。
 想定される京介の接近に感情探査による警戒を張り巡らせる『回復狂』メアリ・ラングストン、自慢の4DWと抜群の運転テクニック――マスタードライブによる腕前をぶして逃走手段の確保に余念が無い『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)の二人も含めて元より危険は承知の上なのである。裏野部一二三ならば「青臭い」と笑い、当の黄泉ヶ辻京介ならば「面白い」と喜ぶ正義感が『命と運命を削って終わらない死の舞踏の時間に酔いしれるリベリスタの呪い』、『不可能を可能にするリベリスタの祝福』の正体なのだから。
「……どうして、お前達はそうなんだよ……」
 錯乱めいた佐久郎の声は、歪む表情は恐らくはリベリスタ達の発言を額面通りに受け止めては居ない。
 アークの――夏栖斗の、舞姫の、リベリスタ達の『名声』を聞き及ぶのはフィクサードばかりではない。彼等が何を考えてこの場所に居るのか等、狂う直前の佐久郎にでも分からない筈が無い。その名は萎えかけた希望を呼び起こす。しかし、より深い絶望を目の当たりにした彼は『そこに希望を見出す事』を酷く恐れていた。何よりも、『目の前のリベリスタ達を巻き込みたくない』思いが強いのかも知れなかった。
「……」
 もし、リベリスタ達が鉄面皮の演技を続けたとしても、佐久郎がほだされれば京介のゲームが発動する可能性は高くなる。
 危険な兆候を見せる場に唇を引き結んだままのユーキ・R・ブランド(BNE003416)の眉が動いた。
「……アークを慈善団体か何かだと思っていたのですか? 小を殺すのが我々の仕事ですよ。
 人一人殺せば話が済むのなら、安い物だ。少なくとも黄泉ヶ辻京介を相手に卓を引っ繰り返すよりはね。そもそも貴方が悪いのですよ。気付いた時点で自分の首を掻き切っていればそれ以上の被害は防げたのだ。我々としたら余計な手間も良い所です」
 佐久郎に冷たい悪罵を向けた彼女は誰よりも冷静に『損得』を考えてこの場に臨んでいる。
 彼女とて佐久郎を進んで殺害したい訳では無いが、『アークの面々を死の淵に突き落としてまで彼を救おうとは思っていない』。
 いざという時、戸惑いなく彼を殺せる人間がこの場に何人居るかを考えた時、彼女はそれを自分の仕事だと認識していた。恐らくその姿を見て黄泉ヶ辻京介は大いに喜ぶだろう。『保身を優先させ、同胞を見殺したリベリスタ』を笑うだろう。だが、迷いは無い。
「なんにせよゲームは勝って終わりたいねー?」
 緊迫感の高まる現場を攪拌する、軽い声。糸のように細められた目は、こんな時だというのに全く変わらない笑顔は何時ものまま。重い展開もイリーガル・ゲイムもお構い無しにそう言った『大風呂敷』阿久津 甚内(BNE003567)の声を受け、佐久郎が傍らの剣を携え構えを取った。
(……『全員』で帰るのよ、絶対)
 小夜香の考える全員は十一人。当然の仲間十人と、共に世界を守る為に剣を振るうもう一人も含めて。
 悪魔に憑り殺されていい人間等、ここには誰も居ないのだから。

●ゲイムII
 かくて『士田佐久郎を確保する為の戦い』は始まった。
 リベリスタ達のこねた『理屈』が何処まで通用するかは知れなかったが――何れにせよ可及的速やかに状況を解決するのが重要であるという事実は変わらない。叶うならば『京介が来る前に終わらせる』のが最上。『京介と正面衝突する』のはアシュレイに心配されるまでも無く、ほぼ全員が理解済みの下策である。
「――立ち塞がる者あれば、これを斬れ! さもなくば、貴方のように堕ちるまで!」
 捉えようによっては叱咤にも罵倒にも取れる一声である。
 佐久郎の意識を引き付けんとする舞姫の挑発が空気を切り裂いた。
「止まりなさい」
 直後に繰り出されたユーキの黒霧を――戒めの黒い娘をその手の剣で切り払った佐久郎は果たして激しく舞姫に打ち込んだ。
 互いに本意では無い戦いだが、そこにはお互い――手を抜く様は無い。『本当の殺し合いめいた戦いをしなければ、ゲームが発動するかも知れない』。それは彼我の共通認識であった。リベリスタ達は叶うならば――佐久郎を救いたいと考え、佐久郎はそんなリベリスタ達が京介に殺される最後を見たくないとそう思っている。
「怒る相手が違うでしょう? それとも、黄泉ヶ辻が相手じゃ怖いんですか?」
「うおおおおおおおおああああああああああああッ!」
 舞姫の嘲る言葉が宙に踊る。極限まで追い詰められた彼が取り得る手段は絶叫に唸りを上げるその斬撃が全てであった。理性的な判断力は残されていない。仮に冷静であっても他に手段があるかは知れない所ではあるのだが……
「――ッ、ふっ!」
 威力十分に肉薄する彼の重い一撃をトップスピードに加速し、半身で避けた舞姫の華麗な身のこなしが翻弄した。
 辟邪鏡の弾いた切っ先はそれでも彼女の肉体に軋む程の衝撃を与えたが、それで音を上げるような少女では無い。
「続けて――!」
「――当然よ」
 舞姫の鋭い声に応えた小夜香が傷んだ彼女を賦活するべく力強い癒しの風を顕現する。
「誰かを守れるかもしれない力を使いもせず、あまつさえ狂気のままに振るうなんて許される訳がないわ。力づくでも止めさせてもらうわよ」
 その言葉は小夜香の中にある、半ば本音。同時にそれは『彼では無いからこそ言える事』でもある。
 しかしこのゲームのルールを考えればそれは却って都合は良いか。
「覚悟すると良いですぅ。抵抗は認めてやるですぅ。立上がって立向かうといいですぅ!」
「……行きます」
 一方で攻め手に出た佐久郎を逆撃せんと攻勢をかけたのはマリルであり、大和だった。
(あたし達じゃなく自分自身の今の状況にという意味を込めたですぅ――)
 何時に無く色々と考えて物を言ったマリルのアーリースナイプが鋭く佐久郎の体を抉る。
 軽い威力では格上の彼を倒し切る事は出来まいが、一撃を呼び水に畳み掛けるのがパーティであった。
 ゲームが続く限り、情けを掛ける余裕は無し――そう判断した大和は素早く動き集中から道化のカードを投げ放つ。素晴らしい技量で放たれた一撃が佐久郎の右腕に突き刺さり、彼の運命を微弱に狂わせる。
「たとえ敵が強大でも、立ち向かう勇気くらいは出せよ――!」
 怒鳴るように言ってそこへ更なる強襲を仕掛けたのは夏栖斗である。
「このまま、すべてを奪われて――情けないまま這いつくばって震えて……
 抵抗くらいしろよ! お前の正義は何処にあるんだ! 死にたくないだろ! なら全力で抗えや!」
 繰り出された炎顎による一撃を硬質の音が跳ね上げる。
「……ッ!」
 ステップを踏むように後退した夏栖斗と入れ替わり、強く踏み込むのは――風斗!
「おおおおおおおお!」
 自身の身体が軋みを上げるのにも構わず、怒涛の勢いで攻めかかる『デュランダル』の切っ先が彼の肌を浅く薙ぐ。
 彼自身に自覚は無かったかも知れないが――或る意味、士田佐久郎と楠神風斗は良く似ていた。置かれた境遇も、一本気な性格も。デュランダル同士等という『偶然』よりは余程、共通する部分もあった。折れぬ剣を握る手に力が入るのは、彼が自身を取り巻く仲間達の笑顔をその脳裏に描いたからなのかも知れない。
「まー、良い研究対象だ……ってんでねー★」
 感情を爆発させて、或いは表情を押し殺し戦う『青い』二人よりは甚内はこの場に向いていた。
 喜怒哀楽の楽以外が抜け落ちたような所がある彼はこんな相手、こんな時間でもそれなり以上の楽しみとして受け止めていた。
 極限の集中を帯びて組み付きかけた彼の牙が血の線を地下室の壁に描いた。茶化すような事を言いながら彼の魔眼は『敵』の様子をつぶさに探り、その状況を仲間達に共有する。
 戦いは続いた。
 多少の腕があったとしても精鋭と呼べるアークのリベリスタ達の集団と比べれば佐久郎はたかだか一個である。
 戦いは敗れる筈も無いものだった。程無くしてパーティは傷み始めた佐久郎を押し込み始めていたが――
「……あーら。やっぱり?」
 ――甚内の耳元のイヤホンが有り難くない情報を伝えていた。
『あー、あー! 緊急事態じゃ! そっちに京介が向かっておる!』
『遭遇は免れません。此方も……出来れば合流を』
 それはメアリの、真琴の声である。地下室内部からは迫る『それ』に対応する彼女達の状況は分からなかったが、それが芳しい情報では無い事は確かである。詰まる所、リベリスタ達の『演技』は悪魔には通用しなかったという事か。確かに状況上、捕縛すると宣言した彼等の行為が『悪意』から生まれたものと判断するのは難しいと言えるだろう。尤も、相手は狂人である。狂人のルールを常識の世界に生きる人間が正しく把握する事等出来ないだけなのかも知れないが――
 肌がざわめくような感覚。
 悪寒に似た寒気がリベリスタ全員の中を駆け抜けていた。
 怯え始めた佐久郎の表情が強張る。奇声を上げて剣を振り回す彼から一歩の距離を飛び退がり、舞姫は幽かな声で臍を噛む。
「……そういう、事でしたか……!」
 無機物の記憶を読み取る彼女の能力が――視線が視たのは振るわれる剣の軌跡。
 血濡れたそれは『聞いた事のある声で』リベリスタ達に呪いを投げた。

 ――やっほー! 皆お待ちかねの俺様ちゃん、京介ちゃんですよ。Yeah! 今から逝くから待っててね!

●ゲイムIII
 時間は僅かに遡る。
(黄泉ヶ辻らしいやり方といえばそうなのでしょうね。
 それが許容できるかといえば、はっきとり拒絶の石を示させていただきましょう。
 黄泉ヶ辻京介という『頂点』がほんの気まぐれで戯れで仕掛けた『遊戯』。
 罠を仕掛けられた士田さんだけでなく、当然、万華鏡の予言でアークが介入してくると読んでのゲーム。
 とりあえずは参加して見ない限りは終局を迎えられない。それは確かだったのですから……!)
 地下室に突入する主力八人に対して、地上――廃ビルの付近で警戒と逃走手段の確保に当たっているのがこの真琴とメアリの二人だった。元より戦って倒すという根本的解決の目が極端に低い敵が今日の相手である。状況に対応するべく戦力を配置したパーティの判断は全く妥当なものと言える。
 しかして……彼等の周辺を旋回する『異変』の数々は二人の状況とリベリスタの目論見を追い込む『最悪』であった。
「ええい、今日日のマンホールは空を飛ぶのかえ!」
 自動車に激しくぶち当たった一枚のマンホールにメアリが悪態を吐く。
 彼女の感情探査は実に半径二百メートルの有効距離を備えている。その彼女が決して見間違える事の無い『京介の感情』を捕まえた所までは良かったのだが――都合良く痛覚以外の情報や出力を共有する京介の『狂気劇場』は佐久郎の引き篭もる廃ビル周辺の風景を予め――まさに自身の舞台へと変えていた。
 舞姫は佐久郎の『周囲』の物品が狂気劇場の影響下にある事を懸念していた。そしてそれは正答だった。
 されどその彼女も『取り巻く世界が京介のもの』等という大掛かりを予測していた事は無かろう。
 しかし考えてみれば佐久郎の行方は初めから知れていたのである。彼が万全の準備を整えていたのは当然と言えば当然の話である。
「これが噂に聞く……何と厄介な事か」
『悪徳の王』、『七罪の主人』、『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュが産み落とした『それ』は黄泉ヶ辻京介という『演出家(ベストパートナー)』を得てまさに満開の悪の花を咲かせているのだ。意志を持つアーティファクトにのみ許された『最適化』は覗くまでもなく暗黒の洞をそこに広げる破滅の深淵の産物である。
「退く他はありませんね……」
「うむ、まだその方が目がある所じゃ」
『狂気劇場』による電柱だのマンホールだの、自転車だの自動車だの。それだけでも厄介なのだ。
 もしこれに本人やらが加わればどうする事も出来ない局面になる。それこそ命を賭しても退く事も叶わない局面になろう。
 メアリの判断に頷いた真琴の動きは早かった。
 包囲を狭め、逃げ道を封じるように迫る狂気劇場に裏を取らせるその前に――仲間達が居るあの廃ビルを目指して駆け出していた。
「あー、あー! 緊急事態じゃ! そっちに京介が向かっておる!」
「遭遇は免れません。此方も……出来れば合流を」
 飛び出して逃れようにも辺りは狂気劇場の最中である。
 ならばまだ『大型』が入り込めない室内の方が勝ち目があるという判断である。

 ――そうそう。舞台は何時だって袋小路。先に行って、そっちのリベリスタちゃん達にも宜しくね!

 ――HEY! イカス! サイコー! MINAGOROSHI! 京ちゃんかっくいー!

 ――やっほー! 皆お待ちかねの俺様ちゃん、京介ちゃんですよ。Yeah! 今から逝くから待っててね!

 白いシャツに襟の立った赤いジャケット。破滅の、足音。

●ゲイムIV
 かくて舞台は終局へと加速した。
「はぁい、お待たせしました。リベリスタちゃん」
 最早、廃ビルを舞台に『出会ってはいけないもの』とリベリスタ達は再会する。
 アメイジング・グレイスを口ずさむ。人を食う悪魔の飄々としたその姿は変わらない。
「おのれ悪の根源め!」
 何故かみかんの皮を握り締め、猛るマリルの一方で、
「……『ルール』への抵触がありましたか?」
 静かにそう問い掛けたのは冷たい目をしたユーキであった。
「それはリベリスタちゃん達が誰より分かってると思うけどねぇ? 殺すなら殺す、関わらないなら関わらない。
 人生には決断が必要だ。中途半端は良くない。俺様ちゃんとやりたいって事でしょ、この現状は。違う?」
 ケタケタと笑う剣を床に取り落とし頭を抱える佐久郎は既に戦意を喪失していた。
 それ程までに恐ろしいのだ。黄泉ヶ辻を冠するフィクサードを統べる狂気の王は。
「わざわざ、この人に構うなんて黄泉ヶ辻も存外暇ですね。この人を見ているのはそんなに楽しいですか?」
「まぁね」
「俺様ちゃんは何でもいいのさ。楽しけりゃ」
「あー、分かる! 黄泉ヶ辻のボスらしいねー★
 心無しか面白そうな雰囲気があるのが小憎い所やね。いやーだってほらー。俺ちゃんも楽しいの大好きだしさー★
 士田ちゃん? 大丈ー夫! 解ってくれる若い子達が沢山居るよ!
 紹介したい奴居るんだけどー 今度一緒にパフェでもどーお★」
 大和の問い掛けにケラケラと笑った京介は『本質的には佐久郎がどうでも良い』甚内の言葉に「そうそう」と楽しそうに頷いた。
「士田を連れ去ろうとするオレ達を阻むなら、それはつまり、士田を『助けよう』という事じゃないのか。
 士田を護ろうだなんて殊勝だな。ところで、士田に好意的な者を殺すゲームが進行中らしいが、お前もアウトじゃないか?」
「ゲームに従うなら京ちゃん、アウトでしょ?」
「俺様ちゃんに『好意』があると本気で思ってる? 俺様ちゃんは『ルール』を遂行しに来ただけさ。
『ルール』の遂行の結果が『助け』になるなら確かにアウトだ。俺様ちゃんは風斗ちゃんが佐久郎ちゃんを殺そうって言うなら止めやしないしね!
 でも、違う。孤独で陰惨な地下室より、狂気劇場より移送先(アーク)が劣悪な環境だって言うなら話は別だけどねん!」
 押し黙る風斗と夏栖斗がギリと歯を鳴らした。極々自然に、当たり前のように呼びかけられた『個人の名』はぞっとする響きである。彼の場合――むしろ一瞬でもその身体の芯を寒気が走った事に怒りが隠せないといった所か。
「……」
 ユーキの視線がちらりと佐久郎に投げられた。殺せば、ゲームは成立しなくなる。
 リベリスタの受けたルールへの抵触が消える可能性は十分にある。黄泉ヶ辻京介が『遊んでいる』以上は彼を満足させる手段こそが、彼を帰らせる可能性である事は間違いない。しかし、それもあくまで可能性の範囲である。
 何れにせよ、京介を取り巻く魔性は一秒毎にその濃度を増していた。
 長い時間が既に無い事は分かり切っている。戦いは既に不可避と思われた。
 全員が同じ方向を向いているとは言い難いが、京介にそれを釈明した所で『違う』人間がルールから外れる訳では無い。例えばユーキや甚内が佐久郎を殺す事を提案したとしても、果たして残る面々が『即座に全て、全員が同意出来るかどうか』という話だ。
 全員が同じ動きを取れれば佐久郎を殺すのは難しくないかも知れないが、連携が乱れれば状況は最悪になる。
「お前は本当の化物だ。正直に言えばこないだは――見ただけで足が震えた。
 それでも。それでもな! お前に玩具にされて心を壊される奴がいるのは許せない。
 もし自分の大切な子を殺されたら。大切なものを壊されたら。本当の恐怖だ。こんなもんじゃない、本当の――だから救う。こんなゲームぶち壊す!」
 最早、『ゲーム』を理由に取り繕う意味は無い。その時間は過ぎ去った。
 血の味がする程に唇を噛み締めた――夏栖斗が吠えた。
「――黄泉ヶ辻京介! お前を倒す!」
 弱い犬程良く吠える、力無き正義は無意味とも言うけれど。
 少なくとも一声はそれを目の前に『戦意』を滾らせる程度の意味を持つ。
「……」
 佐久郎はその声に顔を上げた。京介は「ヒュウ♪」と口笛を吹き、狂気劇場は「クレイジーだぜ! クレイジー!」と大声を立てて笑った。一斉に得物を構えたリベリスタ達の姿に京介は思いの他好意的に笑って、十本の指に嵌った銀色のリングから無数の糸を宙へ伸ばした。
「じゃ、倒して貰おっかな」

●ゲイムV
「ええい、この化け物め――!」
 メアリの翼の加護を受けたリベリスタ達が多角的に京介に迫る。リベリスタ達の繰り出した攻撃が次々と彼に向かうがこれ等は京介の周囲を飛ぶ『万年筆』や『フォーク』や『ナイフ』が次々と撃墜した。
「厄介なのは知ってるからねぇ。痛いモンは痛いんだし――」
 始まった戦闘に余裕を見せる京介の言は確かに事実なのだろう。
 その言及が自身の勝敗に――もっと言えば『生き死に』に全く頓着してない辺りは傲慢とも呼べるのだろうが。
「はあああああああッ――!」
 裂帛の気合と共に繰り出された舞姫の打ち込みが浮遊するナイフを破壊する。
「このままじゃピンチなのですぅ――!」
(十秒でもいい。時間を――!)
 京介が遊んでいる内に。目を作り出す他は無い。
「私が、止める……!」
 大和の止水が敵を指し示し、マリルの魔力銃が轟音を立てる。
「……っ、く……ッ!」
 パーフェクトガードを纏った真琴が飛び来るナイフの複数をその身を盾に受け止め、
「正直な話ね。守る事を、助けを求める事を放棄する事。
 それがちょっとイラッとするのは確かだったのよ!」
 小夜香が死力を尽くして傷付くパーティを支援する。
 最早猶予時間は無く、ユーキは――甚内は後方の佐久郎に視線を投げた。
『彼を殺してゲームが止まるかどうか』は可能性に過ぎないが、『黄泉ヶ辻京介を倒す』可能性に比べればそれでも分はいい。
「こんなくだらんゲーム――絶対に終わらせてやる!」
「『折れない剣』を折るのも楽しいかも知れないけどねぇ!」
「外道め、外道め! この――京介ぇえええええええええッ!」
 風斗の絶叫が響き、繰り出された斬撃を伸びた糸が軽く払う。
(これは――ここまで!)
(申し訳無いけど仕方ないよねぇ?)
 ユーキと甚内が決断し、仕掛けかけたその時と――
「これ以上、好き勝手にさせるかよ!」
 ――叫んだ佐久郎が床に落ちた自身の剣を拾い上げたのはほぼ同時だった。
 繰り出された刃は目の前の悪魔にでは無く、自身の胸を貫いていた。赤くびろうどのように広がる血の河が振り向いたリベリスタ達の靴を濡らした。誰かの叫び声が『折れた剣』を繋いだならば、今一度輝きを手に入れたその剣(ほこり)を手にしたならば。
 敵の思惑ごと『ゲーム』を切り裂く他は無かったのだろう。それ以外に誰かを救い得る手段が無かったなら、その程度の力しか持ち得なかったならば。誰かに責任を求めたく無かったならば。

 ――誰かの声無き慟哭が空気を揺らす。

「切腹ってヤツか★」
「……プレイヤーが死んじゃった場合ってどうなるのかなー」
 小さく鼻を鳴らした甚内に、困り顔をした京介が退屈そうに呟いた。
「いつか……その笑みを消してやる」と。口の中だけで呟いて。
「……ゲームは終了でいいですね?」
 それでも静かに念を押したユーキに、京介は「うーん」と唸り声を上げる。
「そうだなぁ。このゲームはもう続けても意味無いか」
 京介は溜息を吐いてリベリスタの顔を見回した。
「……このゲーム『は』ね」
 彼はとびきりの悪戯を思いついた風で、二人の顔を指差した。
「えーと、うん。夏栖斗君と風斗君。次のプレイヤーは君達に――決めた!」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 YAMIDEITEIっす。
 ターゲットへの対処における意思統一がバラバラで、明確なコンセンサスが無かった為、リプレイの通りになりました。詰まる所、状況上『北風』より『太陽』が上回った為、そちらが妥当だと判断したという事です。

 MVPはまぁ、実質二人です。
 この後どうなるかはなってみてのお楽しみです。

 シナリオ、お疲れ様でした。