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<剣林>呼び声


「ねぇ、くろーちん……。マジで顔色悪いよ? 今からでも良いから人里通ることにしないかな」
 左手でギアを素早く入れ替えハンドルを捻り、『捷脚』要はちらりと助手席を窺う。
 速度を殺さずにカーブを曲がる車の、其の助手席に座るのは剣林のフィクサード『斬手』九朗。己が手刀で鉄をも断つ、恐るべき技を振るう其の男。
 しかし今、九朗の顔は頬は痩せこけ目は窪み、大袈裟に言うならば死相の様な物がべったりと張り付いた状態だ。
「……気遣いは在り難いが、無用だ。俺はこの程度では死なん。俺の我侭でお前達に迷惑をかけているのは承知してるし申し訳なく思うが、此れが師から授かった俺の道なんだ」
 そう告げ、九朗は自分の意思を強調するかの様に腕の中のケースを抱え直す。
 ケースの中身は或る凶悪なアーティファクト。周囲の生命力を無差別に吸い取る其のアーティファクトを、九朗は己の生命力を注ぎ込む事で押さえ込んでいる。
 確かに要の言う様に、人里を通れば、或いはこのケースの中身に生命力を直接捧げる贄を用意してやれば、不要な苦労を背負う必要は無い。
 だが人里を通れば体力の無い子供や老人に犠牲が出るだろうし、贄ならば尚の事だ。
 其れは自らの生き方に非ず。そんなやり方でこの場を安易に切り抜けたとて、師にどうやって顔向けが出来よう。……それに、何れは何の貸し借りも無い状態で決着をつけたいと願う男の前に、そんな軟弱さでどの面を下げて赴くと言うのか。
 其れに、人里を通るにはもう一つ非常に大きな問題がある。
「アタシも巌も、久しぶりにくろーちんと組めるって聞いて楽しみにしてたのにさ。危ないブツの運び屋だなんてさ。……それもよりにもよって<六道>なんかの所に!」
 八つ当たり気味に踏み込まれたアクセルに、四駆が唸りを上げる。
 突然の九朗からの要請に、自分の速度に九朗の切れ味、それにタフで頼れる『戦車』巌の3人が必要な強敵との戦いかと心躍らせたのはつい昨日の事なのに。
 不満に、黒い犬耳をピンと立て、更に車の速度を上げる要。
「『達磨』さんは師の友人なんだ。……それに、大事な人の為なら何でもするってあの人の気持ちは俺にも判らなくは無い」
 病に倒れた師の為に、外道へと堕ちかけた九朗には、娘に為に戦い続ける『達磨』が他人事には思えないのだ。
 幸いかな、組織に縋る事で金を用立て、九朗の師は持ち直したが、『達磨』の娘を捕える悪意は其の比で無い程に根が深い。
 単純な武力のみで語るなら、剣林は7派でも随一だろう。けれど特殊な技術を持ち合わせぬ彼等は、<六道>とでも組まざるを得ない。
「はぁ、そー言うならまあ良いよ。でもくろーちんが耐えれそうに無いって判断したら、無理矢理にでも人里を通るからね!」
 要の不機嫌は、結局の所友人である九朗の不調を心配する事に由来している。
 なのに、頑として首を横に振る九朗に、要が更に言い募ろうとした……其の時だ。
 不意に九朗と要の表情に緊張が走り、後部座席で言い合いの最中も沈黙を守っていた巌が瞳を開く。
「チッ、エリューションどもだ。……でかいな。要、速度は多少落ちても良いから出来るだけ車の尻を振らずに走ってくれ。九朗は伏せてろ。今日は俺達がお前を守ってやる」
 2人に告げ、後部座席の天井を開いて身を乗り出した巌が構えるのは、個人兵装としては多少大きすぎるサイズの機関銃。
 彼等が運ぶアーティファクト、運ぶために人里を通る事が出来ぬ其のもう一つの問題点とは……、吸い取った生命力を使い世界に穴を開いてエリューションを生む、或いはその漏れ出す神秘の力でエリューション達を惹き付ける事。



「さて諸君。それでは任務の説明を始めよう」
 目の前のテーブルに資料を放り投げ、『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)が口を開く。
「場所は人里から遠い山沿いの道路。時間は夜。複数の、それも大型の物も幾つか混じったエリューションが出現する」
 けれど逆貫が配った資料には、エリューション以外の、そう、フィクサード達の情報もが記載されていた。
 一つ頷く逆貫。
「そう、今回の事件の背景は少々複雑だ。其の出現するエリューション達は<剣林>のフィクサードが運ぶアーティファクトに惹かれ、或いは生み出され其れを追っているのだ」
『武闘派』剣林。日本のフィクサード主流七派において単純に力でならば1、2を争うとすら言われる集団。
 同じく主流七派である<裏野部>や<黄泉ヶ辻>と比べれば毒気が少なくまだ話の通じる相手ではあるのだが、敵に回せば此れほど厄介な相手も他に無い。
「其のアーティファクトの名は『吸精呼魔』。危険な代物で、例えば町の中に放置すればやがて始まるエリューションの跋扈は現代社会に大きなダメージを与えるだろう。……そして何より恐ろしいのは其の効果は単なる副作用に過ぎず、本当の使い道は異世界からの召喚にあると言う事だ」
 しかし其の話にはどうしても拭い切れない違和感が付き纏う。
 例えるならば、そう、2つの要素のカラーが違う。剣林派と、『吸精呼魔』にどうしても係わり合いが見つからない。
 其のアーティファクトは剣林派が求めるとは到底思えない代物である。
「剣林のフィクサード達は『吸精呼魔』の影響を出来る限り抑える様にして何処かへと輸送する心算らしい。一体なんに使うのか、其の狙いはどうも読めん。但し、ハッキリしている事は既に発生したエリューション達を放置は出来んと言う事だ」
 流石に全てのエリューションを剣林が掃除してくれると考えるのは都合が良すぎるだろう。
 目標を見失ったエリューションが如何動くかは誰にも読めない。
「兎に角第一目標はエリューションの殲滅に置いて欲しい。情報収集、アーティファクト、フィクサードへの対処は現場の判断に任せよう。……厄介な任務だが、諸君等の健闘を祈る」



 資料

 アーティファクト:吸精呼魔
 強力な召喚用アーティファクト。注ぎ込まれた生命力をエネルギーに世界の穴を開き、異世界の住人を呼び出す。
 ただし其の強力な力は制御が難しく、常に周囲の人間から生命力を吸い取り、其の力で世界を揺るがせようとする。
 其の為このアーティファクトの周囲では、人は枯死し、やがて異世界の影響で生み出されたエリューションが跋扈しはじめる。



 フィクサード1:『斬手』九朗
 剣林派のフィクサード。武人タイプの青年。現在はアーティファクトに生命力を吸わせて居る為、戦う力は激減している。
 好きな漫画は北斗の拳と、聖闘士星矢。理由は自分の技に良く似た技を使うキャラクターが出るから。
 ジョブは覇界闘士。所持するEXスキルは『斬手』。
『斬手』
 手に高密度に圧縮した気を利き手に纏い、全てを断つ一撃を振るう。物近範、物防無で物攻1/2ダメージ、流血、失血。


 フィクサード2:『捷脚』要
 剣林派の女性フィクサード。黒犬のビーストハーフ。
 捷脚とは勝利を掴む捷い脚の意味だと彼女は語る。
 速度特化型。回避も高い。スキルは覇界闘士とソードミラージュの物を織り交ぜて使う。
 ジョブは覇界闘士。所持するEXスキルは『捷脚』。
『捷脚』
 圧倒的な速度を生み出すその脚力を足先の一点に集中して放つ蹴撃。物近単、ダメージ=速度、ノックB。


 フィクサード3:『戦車』巌
 剣林派のフィクサード。右腕が機械化された巨漢のメタルフレーム。
 超大型の重火器を操り、更にはタフで頭もキレる。3人組の中では司令塔の役割も果たす。
 HPと防御と命中に優れる。スキルはクロスイージスとスターサジタリーの物を織り交ぜて使う。
 ジョブはクロスイージス。所持するEXスキルは『戦車砲』。
『戦車砲』
 無限機関を高速回転させ、生み出されたエネルギーを高密度に圧縮して放つ砲撃。物遠2範、溜1、弱点、ショック、ブレイク。





 九朗達を追いかけるエリューション(こちらのエリューションは全て車に追いつけるだけの移動速度を持つ)

 第一陣
 E・ビースト:八ツ目鹿
 死んだ同種の肉を食い群れを追い出された鹿が吸精呼魔の影響でE化し、巨大化した物。
 体長は3m程。大きな角を使っての体当たりの他、千里眼、超直観に似た能力も持つ。

 E・ビースト:残酷飛倉
 吸精呼魔の影響でE化し、巨大化したムササビ。
 体長は3m程。飛行と、鋭い前歯での切り裂きの他、分泌した体液をかけた相手の表面を石鹸化(システム的には石化)させる能力を持つ。

 E・ゴーレム:キャンピングカー
 無人のキャンピングカーが吸精呼魔の影響でE化した物。
 タフで硬い。強力な体当たりの他、放電や火を放つ遠距離攻撃を行う。

 
 第二陣
 E・フォース:四つん這い女
 吸精呼魔の影響で残留思念より生み出された物。四つん這いで移動する。遠距離攻撃を受けると其の一部を反射し、近距離攻撃を受けると毒を付与する体液を近接範囲にばら撒く。通常攻撃は長く延びた汚らしい爪での引っ掻き。

 E・アンデッド:百目
 死体の目ばかり集まって生まれたエリューションが吸精呼魔に惹かれ出て来た物。
 其の視線(高命中の遠2神秘攻撃)を受けた者は混乱・魅了・麻痺の何れかをランダムで受ける。
 もしこのE・アンデッドが八ツ目鹿の死後にその目を回収した場合、八ツ目鹿の視覚能力を得、尚且つ視線の射程が千里眼相当へと変化する。


 第3陣。
 E・エレメント:塵旋風
 過去に生まれ潜んでいたエリューションが吸精呼魔に惹かれ出て来た物。別名ダストデビル。
 特徴としては、飛行、巨大(横幅5m程。縦は長い)、物理攻撃が効き難い、構成要素が上昇気流の為近接攻撃では戦い難い。体当たりで自らに巻き込む他、切り刻む風を放つ。

 E・エレメント:火災旋風
 過去の山火事で生まれ潜んでいたエリューションが吸精呼魔に惹かれ出て来た物。
 特徴としては、飛行、巨大(横幅5m程。縦は長い)、物理攻撃が効き難い、構成要素が炎と上昇気流の為近接攻撃では戦い難い。体当たりで自らに巻き込む他、炎を纏った風を放つ。


 九朗達を待ち伏せるエリューション

 E・ゴーレム:コンクリートゴーレム
 落石防止の為に山肌に設置されていたコンクリートの一部が吸精呼魔の影響でE化して人型を為した物。
 体長5m。タフで防御力が高く物理攻撃力にも優れる。
 このゴーレムが誕生した付近は山肌が崩れる危険性がある。

 E・ゴーレム:アスファルトゴーレム
 道路のアスファルトの一部が吸精呼魔の影響でE化して人型を為した物。
 体長5m。タフで防御力が高く物理攻撃力にも優れる。拳から蓄えた熱を発する。
 このゴーレムが誕生した付近は道路のアスファルトが大量に禿げて地面が剥き出しになっている。

 E・ゴーレム:ロックゴーレム
 山の岩が吸精呼魔の影響でE化して人型を為した物。
 体長5m。タフで防御力が高く物理攻撃力にも優れる。ゴーレムたちの中では一番硬い。




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:らると  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年10月03日(水)23:28
 勝利条件は全てのエリューションの排除。エリューションがアーティファクトを取り込んだ場合、この場では手の施しようの無い事態が起きる可能性がある。
 フィクサード達の目的が不明な為、情報収集、アーティファクトへの対処等は現場に一任される。
 
 一陣、二陣、三陣はそれぞれ二ターンずつ遅れて登場します。
 待ち伏せ側は一本道の前方を押さえており、三陣の登場時くらいに前方に見えます。
 どの時点から介入するかはお任せします。目的に併せて判断してください。無論色々手遅れになる事もありえます。

 車は基本持込ですが、車借りるとプレイングに書けばアーティファクトでない通常の車(4人乗りの普通車)は書いた人の人数分貸し出されます。
 剣林派の乗車は4WDのアーティファクト。

 難易度は一応戦力の引き算をしての難易度なので、求める物によっては跳ね上がるでしょう。
 色々と厄介な任務ですが、お気が向かれましたらどうぞ。

参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
プロアデプト
オーウェン・ロザイク(BNE000638)
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
マグメイガス
丸田 富子(BNE001946)
スターサジタリー
劉・星龍(BNE002481)
クリミナルスタア
烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)
クリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)
ダークナイト
高橋 禅次郎(BNE003527)


 月が見下ろす山沿いを走る道路で繰り広げられるカーチェイス。
 けれどチェイスを繰り広げる一方は車両に非ず。世界を蝕む異常因子、エリューション。
 世界の壁を揺るがすアーティファクト『吸精呼魔』の力に惹かれた、或いはその影響によって生み出された異形達が、吸精呼魔を運ぶ4DWを追っているのだ。
 静かだった夜の山が俄然騒がしくなり、次々と追っ手の気配は増えていく。木々が、山の動物が、此の世界に属する者達が、相容れぬ魔性の猛りに怯えて身を竦めている。
 ベキベキと森の木々を圧し折り、道路へと飛び出したのは八つの目を殺戮への予感に滾らせる大鹿、『八ツ目鹿』。
 巨大な蹄でアスファルトを抉って穴を開け、爆発的な速力で駆ける大鹿の隣に並ぶは鋼の異形、……このエリューションに限って言えばカーチェイスという言葉はまだ正しさを保つ相手、つい先程にE・能力を、自我を得たばかりにも関わらず、既に元の姿からは随分掛け離れ始めている『キャンピングカー』が並ぶ。
 如何な事情があってこの無人のキャンピングカーが山中に放置されていたのかを知る者はもう居ない。ただ、後部座席のシートの染みが怨念を放つ。
 疾走する二つの影の上空で、優雅に宙を裂いて舞うはムササビ。しかし其のサイズ、其の身に纏う雰囲気は尋常の物に非ず。血と、性欲に飢えた獣、『残酷飛倉』。
 一体一体が並の人間にとっては大きな脅威……、否、そんな言葉すら生易しく、死を体現した災厄であるエリューション達。だがこの三体はまだ追い手の、絶望のほんの一部、謂わば第一陣に過ぎぬのだ。
 けれど逃げる4DW、剣林に所属するフィクサード達に最初に追いついたのは彼等ではなかった。三体のエリューションが4DWを其の視界に捉えるほんの数秒前、合流した側道から不意に二台のトラックが全速力で躍り出たのだ。
 其の荷台に複数の人間を載せたまま4DW、フィクサード達の後ろを併走するトラック。無論こんな場所、死地に突っ込んでくるトラックの運転手や荷台の連中がただの一般人である訳が無い。
 彼等を表現する言葉ははリベリスタ。フィクサードをカードの裏とするならば、リベリスタは其の表側。
 世界が己が身中を蝕む病に対して生み出したキラー細胞。世界の敵を滅する者達。
 招かれざる乱入者に八ツ目鹿の眼が真っ赤に、怒りの警戒色に染まり、咆哮と共に突撃する。


「うっわ、最悪」
 リベリスタの出現で複雑になった事態に『捷脚』要が車のギアを一つ上げた。
 交戦状態となったリベリスタとエリューション。追っ手のエリューションの意識が逸れたのならば其れは喜ぶべきことなのだろうが、リベリスタにとってエリューションが倒すべき敵であるのと同じレベルで、リベリスタにとってのフィクサードも、刃交える宿敵だ。
「……この対応の早さ、噂のアークか?」
 速度を上げた4DWから振り落とされぬよう、一先ず頭を下げた『戦車』巌が呟く。
 特務機関『アーク』。発足以来急速に勢力を拡大してきた、恐らくはこの国で一番巨大な異能者の、リベリスタの組織。
 伝え聞く其の特徴は『万華鏡』と呼ばれる破界器を用いた精度の高い事件予知と、高い任務達成度を誇る粒の揃った精鋭達。
 フィクサードにとって最も関わりたくない相手に挙げられる名前の一つである。
「なんなのよ、もう! よりによってこんな時に覗き屋アークとか! 最悪!」
 増す速度に比例するように、要の機嫌と運転が荒くなっていく。
 彼女の機嫌が悪い理由は唯一つ。複雑化した事態の要因、つまりはアークの狙いが読めぬ事だ。
 要とて『武闘派』剣林の一員。はっきりと敵と認識出来る相手は、……今は兎も角として、普段ならばそう厭う事は無い。
 エリューションと戦うリベリスタ達。其の刃が何時此方に向くか判らぬという不安定な状態が要にとっては気持ち悪いのだ。かと言って先手を打って喧嘩を仕掛ける愚行が可能な程に、今の彼等に余裕はない。
 割り切って殴り合うだけならこんなに悩まなくて済むのに……。驚く程に脳筋な要の思考。、
「落ち着け要、リベリスタがエリューションの相手をするというなら今は温存すべきだ。こんな物は最悪には値しない。最悪と言うのは、そうだな……」
 だが3人組の一人、巌は剣林の中でも比較的思考を厭わないタイプだった。リベリスタの狙いが読めぬなら、リスクを最小限に彼等を利用してこの場を切り抜けるべきなのだ。
 要を宥める為の言葉を捜し、僅かに思案する巌。
「例えば、……この場にあの『剣林最弱』殿が現れる様な事を言うんだ」
 自身で思いついてしまった本当に最悪の展開に、巌の表情がげんなりとした物へと変わる。
「うーわぁ……、そりゃ、うん。最悪だねえ。ごめんアタシが甘えてた」
 其の言葉が、めったに見せぬ巌の表情が、何か過去の記憶を呼び覚ましたのか、要の表情から険が失せ、かわりに本来の彼女が姿を見せた。 
 仲間達のやり取りに瞳を閉じたままの『斬手』九朗の唇が笑みを浮かべる。
 アークのリベリスタの出現は要だけでなく巌にも、大小の差はあれど、動揺を与えた様だが、九朗は違う。
 二台のトラックが飛び出してきた瞬間から、或いはそれ以前から、九朗は其の男の存在を予感し、感じ取っていたのだ。
「リベリスタ、新城拓真。九郎、また会ったな」
 ほら、やっぱりだ。風を切り裂き、トラックの荷台から投げ掛けられた……、『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)の声。
 萎えた九朗の体の奥底に、闘志の炎が灯る。血の気が失せていた筈の頬に僅かではあるが赤みが戻り、静かに闘気を滾らせた九朗は閉じていた目を開く。
 吸えど、吸えど尽きずに湧くその闘気に慄く様に、ケースの中の吸精呼魔が一つ震えた。


 不意に切ったハンドルに、『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)が繰るトラックが尻を振る。
 マスタードライブの力でどんな乗り物でも手足の様に、専門家レベルで操れる禅次郎だからこそ試みる事が可能な、攻撃からの車体の緊急回避。
 ゴリゴリゴリとトラックの側面を八ツ目鹿の巨大な角が削り取っていく。幾ら高度にトラックを操れるとは言え、回避を得手としない禅次郎では直撃を避けるのが精一杯である。
 けれど、其の直撃を避けるのが重要なのだ。車体が歪もうが抉られようが、このトラックはまだまだ走る。走りさえすれば多少車体が歪もうが其の役目を果たす間くらいは、禅次郎の運転技術でカヴァー出来るのだから。
 一方、もう一台のトラックを運転する『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)には禅次郎の様な器用な真似は出来ない。マスタードライブは愚か、そもそも運転をして良い年齢にもかなり程遠いのだ。
 けれど彼女の優れたるは、己を知り、決して無理はせぬ立ち位置で其の役割を果たそうとしている所にある。
 其の荷台には射撃攻撃を得手とする、謂わば後衛人員を乗せ、前衛人員の乗った禅次郎のトラックを盾として動いていた。
 車体を振らず、速度を一定に、前を走るフィクサード達の4WDに離されぬ様、荷台の仲間達の射撃の邪魔にならぬよう、涼子はトラックを走らせる。走らせるだけなら彼女にも出来る。……それに、全くの未経験と言う訳ではないし。
 技術は無い。だから、技術が無くても確実に役立てる手段を取っている。実に利口だ。

 車ごとに前衛、後衛を振り分けたリベリスタ達。だがエリューション達に其の振り分けに従う義理は当然無い。何せ今回は何時もの戦いとは違い、前衛が敵をブロックすると言う訳には行かないのだから。
 ひらりと頭上を飛び越え、後衛達に迫るは巨大なムササビ、残酷飛倉。
 余談ではあるが、オスのムササビはメスとの交尾の最後に、己が植えた種がこぼれて仕舞わぬ様に、メスの中に石鹸化する体液で栓をする習性がある。
 つまり残酷飛倉が放つ体液の攻撃とは……、
「やらせやしないよ!」
「來來氷雨!」
 けれども、残酷飛倉が大量の液体を後衛が乗るトラックの荷台にぶちまけようとした其の時、四色の魔光、『三高平の肝っ玉母さん』丸田 富子(BNE001946)が放った魔曲・四重奏と、呪力を秘めた凍て付く雨、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)の陰陽・氷雨が、二台の車から挟み込む様に残酷飛倉の身体を打ち据えた。
「ギィィッ!」
 思わぬダメージに揺らぎ、悲鳴を上げる巨大ムササビ。
 だがこの程度ではリベリスタ達の攻撃は終らない。宙でよろめく残酷飛倉を、『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)のワン・オブ・サウザンドと、
「一匹たりとも通さないDEATH」
『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)の魔力銃、二つの銃口が捉える。
 狙撃手たる星龍と、テンションアゲアゲのトリガーハッピーのエーデルワイス、二人の性格は正反対で、スターサジタリーとクリミナルスタア、ジョブも違う。無論放つ技も、逃れる暇さえ与えず魔弾で瞬時に射抜くアーリースナイプに、急所を撃ち抜く早撃ち、バウンティショットと其々異なった。
 けれど火を放った後に満ちる火薬の匂いだけは共通で、左右の皮膜を貫いた手応えに、二人の唇が釣りあがる。
 飛行の制御を失い、地に向かって落下を始めた残酷飛倉。しかし、である。迫る確実な死を前にしても、この巨大ムササビの闘争心は一欠けらたりとて減じていない。
 寧ろ確実な死が其処にあるからこそ、残酷飛倉が放つ液体は在り得ないほどに大量で、涼子が運転するトラックの荷台に避ける隙間無くぶちまけられた。
 ぐしゃりと、地に落ちた巨大ムササビが、禅次郎のトラックに轢き潰される。

「ぐっ、がぁあぁぁあっ、ああっ!」
 身に纏わりつく放電を、ダメージを負いながらも気合で断ち切る『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)。
 アッパーユアハートでの引き付けにより、キャンピングカーより放たれた電撃は快に想像していた以上のダメージを与えた。が……、想像以上ではあっても、想定以上では決してない。
 快が自らに課す役割は、ダメージコントロール。戦いにおいて敵の力量を見誤る事は致命的だが、其の見誤りを完全に失くす事は至難である。特にこの理不尽な神秘に満ちた裏の世界では、外見と実力が一致しない、手に入った情報では相手の力量が測りきれ無い事などザラだ。
 故に常に最悪の想定が必要となる。キャンピングカーからの電撃は、其の最悪の想定には遠く及ばなかったのだ。
 これなら富子の癒しを受けさえすれば充分に耐えられる。ダメージが、痛みが体に残る中でも冷静にそう判断を下した快は、蝋化した仲間達を救う為に邪気を退ける光、ブレイクフィアーを放つ。


 九朗達、剣林のフィクサードに対する、拓真達、アークのリベリスタからの要求は唯一つ。一般人を巻き込まぬ事のみ。
 吸精呼魔と言うリベリスタにとっては見逃せないであろう破界器の輸送を敢えて黙認し、あろう事かエリューションの排除と言う形ではあれど、要求の対価として協力しようとする彼等の申し出は、リベリスタを敵と認識するフィクサードの常識からすれば俄かには信じ難い物だった。
 けれど、この場の剣林のフィクサード達は其の言葉を疑わない。
 何故なら其の申し出を行った男、新城拓真は、誇り高く自らの名を名乗ったからだ。剣林に属する彼等は、決して其の誇りを軽視しない。
 そして何よりも、
「『斬手』九郎……、俺はリベリスタとしてではなく武人として、何の柵なく決着を着けたい。それが俺の願いだ」
 拓真の言葉に確かに真を感じたからだ。
「うっわー、いいなー。くろーちんいいなー。覗き屋の中にも良い男がいるじゃん。熱いね男の子!」
 茶化す様な態度を取る要。……だが其処に拓真や九朗を馬鹿にする様な響きは無い。寧ろ、其の瞳は熱を湛えて潤んでいる。
 茶化しでもしなければ、身の内に湧き上がる熱に、衝動に、耐え切れないのだ。
 其れほどに拓真の言葉は、彼女を、剣林のフィクサード達を感じさせた。
「九朗、要、リベリスタからのテレパスだ。この先で待ち伏せがあるらしい」
 巌が仲間達に伝えたのは、『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)のハイテレパスによって教えられた待ち伏せの存在。
 巌の言葉に、悠月を疑う色は微塵も無い。巌は、悠月と拓真の関係を知らない。だが悠月からのハイテレパスは、先に言葉を投げた拓真への信頼を確かに感じさせた。
 誇り高い男と、其れを信じる女。なれば其の誇りを汚そう筈が無い。

 戦いは続く。……寧ろ未だ始まったばかりと言っても良い。そして敵の増援、第二陣が現れた。
 増援とは言ったが、正確にはエリューション達は仲良しこよしの仲間達……、と言う訳ではない。彼等の間に繋がりは無いが、立ちはだかる障害を乗り越える為に、或いは殺戮の為に、互いに相手を利用し合う形で協力関係が築かれている。
 顔、胸、腹、尻、腕、足。其のどれもが人間の、女のパーツでありながら、組み合わさり動く様は人ならざる異形。高速で地を這う『四つん這い女』と、死体の目が集まり形を変えながら移動する目の群れ『百目』。
 新たに現れたエリューション達は第一陣の残った二体の後ろから、勢いを増して迫り来る。
 呪力に空から、冷たく凍て付いた雨が降り注ぐ。敵に向かって放たれるは、雷音の氷雨。しかし其の雨を切り裂く様に放たれるキャンピングカーの炎が、前衛の快を燃やし焦がす。
 凍結はすれど倒し切るには一歩足りない。けれど、違う。雷音の攻撃は倒し切る事を狙った物では無い。彼女の攻撃の本当の目的は、目晦まし。
 氷の雨と炎、鬩ぎ合う攻防の一瞬のちにキャンピングカーのタイヤを打ち抜いたのは本命、エーデルワイスのバウンティショット。高速での走行中にタイヤがバーストし、キャンピングカーが横転する。
 もしキャンピングカーがE化してから長く時を過ごしたエリューションなら、或いはE・ゴーレムでは無くE・フォースなら、……咄嗟の建て直しも可能だったろう。
 だが未だ車としての在り方を逸脱し切れていないこの個体に、この状況を脱する術は無く……、ガードレールを突き破ったキャンピングカーが勢い良く落下していく。爆発は、一瞬後に起きた。

 巨大な爆発音にもエリューション達は動じない。
「ちくしょう!」
 禅次郎が悪態と共にハンドルを切れば、再び八ツ目鹿の角がガリゴリとトラックを削る。八ツ目鹿とて快のアッパーユアハートに捉えられては居るのだが、この個体にトラックの荷台に居る快を攻撃する手段が無い。
 故に、八ツ目鹿は禅次郎が運転するトラックを、快を内包する存在と認識して攻撃しているのだ。勿論、だからこそ回避が出来ない涼子のトラックが狙われていないのだが、其れでも徐々に禅次郎のトラックの動きは鈍くなっていく。
 動き鈍ったトラックの荷台に、四肢をたわませて飛び、ありえない角度から落下してくる四つん這いの女。
 狙うはその荷台の乗員で唯一人戦闘よりも対話、剣林フィクサードへの呼び掛けに注意を割いていた拓真だ。
「友の邪魔はさせん」
 けれども、汚らしい爪を振り翳して落下してくる女の前に割り込んだのは、拓真を親友と慕う『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)。
 振り抜くは蹴撃。防御を捨てた其の一撃が、落下に加速した四つん這い女の攻撃とぶつかり合う。
 女の腹をぶち抜き、背から生えるはオーウェンの足を包む炸裂脚甲「LaplaseRage」。彼の足技は確かにエリューションに多大な損害を与えてた。……が、同時にオーウェンの喉を、胸を、曲りくねった汚らしい四つん這いの女の爪が貫いている。決して軽くは無い……、一歩間違えれば致命傷となったであろうほどの傷。
 だが、それでもオーウェンの唇に浮かぶは満足気な笑みだ。彼は、自らを犠牲にしてでも友の願いを守ると誓った。敵と相打つ位の覚悟は既に決めている。この程度の傷で済むならば、実に安い買い物だ。
 四つん這い女が荷台から転がり落ち、撒き散らされた体液にトラックの荷台が紫色に染まる。撒き散らされた毒がリベリスタ達を蝕む。


 増えた敵達に降り注ぐは炎を纏いし銃弾の雨。リグ・ヴェーダやラーマーヤナの名を冠する技、インドラの矢を放ったのは星龍。
 既にオーウェンの攻撃で傷付いて居た四つん這い女が身を包む炎に、貫く銃弾に、崩れて体を地面にこすり付けてバラバラとなっていく。
 しかしそんな銃弾の雨の中を掻い潜り、意趣返しとばかりに星龍へ視線を飛ばすは、リベリスタ達の中でも厄介であろうと予測されていた百目。星龍の視界が歪む。敵味方の認識が無くなり、彼の心を混乱の雲が覆う。
 予測どおりに厄介な百目の力。けれども、厄介であるが故にリベリスタ達は対策を講じていた。
 真っ直ぐ前へと翳した快の手より、邪を祓う光が辺りを照らす。体蝕む毒を、心犯す混乱を、消し去らんと快が放つブレイクフィアー。
 確実に、全ての異常を拭い去れる訳ではないが、……それでも星龍の瞳に光が戻る。
「アンタ達っ! まだまだこれからだよっ! しっかりふんばりなっ!」
 快に次ぐは、仲間達に蓄積したダメージを癒さんと響き渡る富子の歌だ。豊富な声量と、逸れに負けず劣らぬ、此処にいるリベリスタのみならず、三高平のリベリスタ達全てを想う母の愛。
 其の身で毒液から拓真を庇った彼女の毒は、ブレイクフィアーの光にも未だ拭われていない。体蝕む毒に傷みが駆ける。でも、それでも彼女はただ只管に歌い続ける。全ての我が子達の為に。
「星よ占え!」
 我が敵の不吉な未来を。百目を覆うは、雷音の占い、陰陽・星儀によって導かれた影。
 その占われた未来とは、
「消え去りなさい」
 ビシリと無数の目に対して向けられた悠月の指先。伝えるべきを終え、其の意識の全てを敵対者を屠る事へと割り振った彼女が放つ紫電の雷光。
 注意深く、百目のみを狙って絞られたチェインライトニングが目を焼き、沸騰させていく。
 一つ、一つと確実にエリューションを除去していくリベリスタ達。受けた被害は軽くはないが、しかしそれ以上に相手を大きく削っている。
 けれど、崩壊の時は訪れた。
「駄目だ、崩れる!」
 禅次郎の言葉は荷台のリベリスタ達への警告。マスタードライブにより、自らの手足の様にこのトラックを運転し続けた彼。だがそんな彼だからこそ、今トラックが、自分の手足が限界を迎えつつある事を察したのだ。
 其の原因は唯一つ。八ツ目鹿からトラックが受けたダメージの蓄積だ。
 動き鈍ったトラックに、八ツ目鹿がトドメの一撃を叩き込む。回避の不能を悟り、運転席から飛び出す禅次郎、拓真と快も逸れに習い、すぐさまに準備しておいたバイクを用いて走り出す。
 ……けれど、大きなダメージを受けていたオーウェンは動き出しが一瞬鈍った。腰に巻きつけていたロープを切り、荷台から飛び降りようとした其の瞬間、横転するトラックに彼の体は巻き込まれてしまう。
 燃え盛るトラックの横で、血を流して倒れるオーウェン。折しも、丁度其の時、追っ手最後のエリューション、第三陣が姿を現した。

 巨大な二つの竜巻。正確には竜巻とは違う自然現象を元に生み出された者達だが、知識が無ければ見分けはつかない。
 炎の竜巻『火災旋風』に、塵と共に切り裂くもの『塵旋風』。巨大な二つの其れは、攻撃の意図無くとも傍らを通るだけで瀕死のオーウェンの身体をゴミの様に巻き込み、殺すだろう。
 意識無き彼に迫る死の影。しかし、彼の身体が二つの暴威に巻き込まれる直前、割り込み、オーウェンの身体を自らの身体で押さえ込み、身を挺して庇った者が居る。
 丸田富子。トラックからの落下に、同じく傷だらけとなった彼女。それでも、もし仮に『何故?』と問えば彼女は豪快で、でも優しい笑顔を浮かべて言っただろう。
「当たり前じゃないかっ」
 ……と。
 二人の脱落者を後に残し、戦いの舞台は更に先へと歩を進める。


 ひらりと、窓から4WDの屋根に登ったのは要だ。強い風が火照った身体をさましてくれる。
 靴を脱いだ素足は吸い付くように屋根から離れない。運転は巌に任せて来た。
 ゾクリ、ゾクリと、戦いへの緊張が快楽を伴って体を走る。叩き付けられた殺気は、リベリスタからの情報どおりに道を塞いで待ち伏せるゴーレム達から。
 このままで通り抜ける事は不可能だ。運転技術の問題ではなく、敵の攻撃を警戒しての話でもなく、物理的に、どれか一つは除けねば通る隙間が存在しない。故に、だからこそ、要は此処に姿を見せた。
 後ろには戦い続けるリベリスタ。百目は半分近い目を失い、百目が滅べば次は八ツ目鹿の排除が始まるだろう。しかし其の更に後ろから迫るは今までよりも遥かに巨大な力を誇示する二柱の強敵。
 戦いは、寧ろ此処からが本番と言っても良い。
 接触の瞬間、要が踏み出したはたったの一歩。されど其の一歩は彼女の最速だ。
 速度が生み出す運動エネルギーを要は体のバネで増幅し、インパクトのタイミングで足指の先へと集中させる。
 4DWと、ロックゴーレム、其々に小さな穴が開く。要の足指と、同じサイズの穴が。
 其の一撃で、重い巨体が動いたのは僅か数メートル。だが其の数メートルを巌は、4WDの車体をゴーレム達にこすりながらも通り抜けた。
 待ち伏せを突破した剣林のフィクサード達は、けれど何故かスピードを緩め、……車を停車する。故障ではない。好敵手の戦いを見守る為に。
 4DWを背もたれに、腕を組む巌。横に並ぶは、靴を履きなおした要と、……リベリスタ達の戦いを見据えながら、片手にケースを持ち、己の二本の足で地に立つ九朗。

 前衛のトラックを失った事で、後衛のトラックを運転する涼子の負担は一気に増していた。
 八ツ目鹿の角の直撃を喰らい、トラックの車体が大きく揺れる。もう、荷台からの射撃のし易さを気にする余裕も無い。少しでも速度を上げねば、このトラックが壊される時も近い。
 快が今一度アッパーユアハートで八ツ目鹿を引き付ける事は勿論可能なのだが、拓真のバイクの尻に乗る快が其れをすれば、八ツ目鹿は遠慮無しに二人の乗るバイクを角で叩き壊すか、例え運良く直撃を避けても横転する事は避けられぬだろう。
 快は確かに頑丈だが、乗り物は決してそうは行かない。
 ガタガタと揺れるトラックの荷台で、されど星龍の心は静かだった。狙うは、目の数を減らした百目の……、一際大きな瞳の一つ。
 先程、自分を睨む視線を飛ばした其れに、狙撃手はワン・オブ・サウザンド、己が愛銃の引き金を絞った。
 高く、遠く、響く銃声に、ボロボロと連結を失った無数の目玉が道路を転がる。
 少女の呪力が型為す氷の雨、女が放つチェインライトニングは、今度こそ何の遠慮も無く全力だ。そして更にはトリがハッピーの乱射。次々と敵に向けて攻撃が放たれる。
 だがもう一台のトラックにも最期の時が訪れた。突き刺さる角にエンジンが停止したのだ。
 傷だらけになりながらもトラックを破壊した八ツ目鹿。しかし其れはリベリスタ達から足を奪う同時に、一匹の修羅を運転と言う慣れぬ作業解放してしまった事を意味する。
 トラックから角を引き抜く大鹿の背に、いち早くトラックを見捨てた運転手の少女、単発銃(どんき)を握り締めて振り翳した涼子が跨る。
 この状態を馬乗りと言って良いのだろうか?
「くたばれ糞野郎」
 振り下ろされる、拳、拳、拳。角を折り、肉を砕き、涼子は一匹の鹿をただの肉塊へと変貌させた。
 そして戦場は禅次郎の放つ闇に包まれ、新たな局面へと移行する。


 死闘は激しさを増していた。
 火災旋風、山火事や都市部での大火事の際に発生する炎を伴う旋風。時には鉄の沸点すら超える超高温の炎の竜巻。
 塵旋風、竜巻に良く似る為誤解されることが多いが、小規模なものであれば比較的容易に観測される自然現象だ。無論、E化を起こしている以上常識の範囲ではくくれはしないが。
 ロックゴーレム、コンクリートゴーレム、アスファルトゴーレム。恐らくは語るまでも無く、硬く、タフで、力強い、容易ならざる敵である。
 残るは数えるも片手に足りる五匹の敵。けれど、その五匹が手強い。特に、火災旋風の脅威度は圧巻だ。
 只管に死闘は続く。風に裂かれ、炎に焼かれ、硬い拳に殴られて。空に巻き上げられれば、地に叩き付けられすらした。
 それでも、リベリスタ達は折れない。運命を対価に立ち上がり、刃を振るい、銃弾を放ち、魔術を符術を繰る。
 雷音の傷癒術、悠月の天使の息。決して専門の癒し手では無い彼女達の、その攻撃の手を割いてでもの癒しが彼らにとっての生命線だ。
 パーティの盾たる快は、其の役割を果たし続けて砕けて散った。しかし、彼が倒れた事によって仲間達が絶望することは無い。示された勇気に応えるは更なる勇気。更に激しさを増すリベリスタ達の攻撃。
 風を散らし、炎を裂き、岩を、コンクリートを、アスファルトを砕く。
 デッドオアアライブ。繰り出された技の威力に、拓真の刃がロックゴーレムから抜けなくなる。だが其れがゴーレム達の中で最も硬く、最後まで生き残った巨人へのトドメの一撃。


 傷だらけのリベリスタ達と、三人のフィクサードが向かい合う。
 双方共に、言葉は無い。リベリスタ達は見事に対価を支払った。九朗、要、巌の三人が其の働きに対して裏切る事などありえない。そもそも最初から、一般人を巻き込む事は九朗のプライドが許さなかったのだ。
 リベリスタ達によって力を温存できた三人にとって、最早其れは語るまでも無い事。
 そして九朗への回復や吸精呼魔への生命力の供出を肩代わりしようと考えていたリベリスタ達も、其の提案が無意味である事を悟る。
 多大なやせ我慢ではあろうとも、九朗は己の足で立ち、リベリスタの戦いを見届けたのだ。九朗の目は、己の戦いを邪魔するなと雄弁に語っていた。
 一体どれだけの時間を、言葉無く見つめ合ったのか?
 ほんの僅かな時間であったろうが、濃く、長く感じた時間の後、背を向けかけたフィクサード達に口を開いたのは、
「六道第三召喚研究所……所長、バーナード・シュリーゲン」
 悠月。
「彼らが召喚しようとしているセリエバについて、『達磨』は何処まで御存知ですか?」
 問い掛け、或いは届け先に関してのカマ掛けから始まった悠月の言葉。
 九朗等の反応で確証は得れた。元より彼等にも特に隠す意図は無い。
 悠月は淡々とセリエバの脅威を語る。運命を喰らう異世界の樹木であり、異世界一つを滅ぼしている化け物だと。
「ボクたちも達磨の娘の病状を回復できるのであればしてやりたい。力だって貸せることができるかもしれない」
 悠月の言葉を引き継ぐは雷音。
「けど! セリエバは危険なのだっ」
 訴えかけるように、雷音は叫ぶ。……だが、
「黙りな。覗き屋!」
 強い語気の言葉と共に、要と巌の二人から強い気迫が、リベリスタ達に向かって叩き付けられる。
 リベリスタ達が内情の幾らかを把握しているのは、そう、万華鏡があるが為。アークを覗き屋と呼ぶ彼女等の反応は、得られた情報の裏付けとも言えよう。
 過剰な情けは侮辱と変わらない。
「あまり剣林を侮るなアークのリベリスタ。セリエバは、達磨が娘を救うのに必要不可欠な物であると同時に、仇だ。用が済めば達磨が斬る」
 そんな二人を手で制し、言葉を返すは九朗。
「達磨に為せねば俺が斬る。俺に出来ねば師がやるだろう。万に一つは、首領、剣林百虎が控えている」
 セリエバだけではない、六道の第三召喚研究所も、事件に影をちらつかせる黄泉ヶ辻も、彼等を遮るならば斬るのだろう。
 それ程に、彼等は自分達の力を、そして剣林の力を信じている。
「異があるか? 異があるなら止めに来い。俺達は其れで構わない」
 九朗の視線が捉えるは、拓真。
「新城拓真、決着は必ず。其の日まで、悔いなく過ごし、刃に己を蓄えろ」
 そしてちらりと視線をずらし、拓真の隣に並ぶ悠月を見る。二人の関係はわからねど、其処に確かに何かを感じた。
 九朗は思う。出会い方が違えば、要や巌の様な掛け替えの無い友人に、或いはなれたかも知れないと。
 けれどだからこそ、九朗は運命に感謝する。良くぞこの男と敵として出会わせてくれたと。
 要の肩を借り、九朗はリベリスタ達に背を向ける。
「俺はお前を断つ。死合うその日まで、息災に」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 このような結果となりました。お気に召したら幸いです。

 一つ、アイテムに関してですが、特殊な物を用意したい場合はプレに此れはこんなだよと書かずにちゃんとそうしたアイテムで用意してください。

 あまり多く言うのは野暮なので、この辺に。
 有難う御座いました。