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機工烈竜ドラジオン

●異世界へのいざない
 ――少年よ、我が呼び掛けに応えよ。

 塾の帰り道、不意に不思議な声が聞こえた気がして、少年は辺りを見渡した。
 夜も更けた公園の中、その場に居るのは自分だけだったはずだ。怖々と周囲を探った少年は、声の主が頭上に浮いていることに気付いた。
 お化けだったらどうしよう、と思ったが、見上げた物体は実に意外な姿をしている。
「……きみは、誰?」
 淡い光を放つそれは、機械で出来た竜のようだった。
 機器で形作られた翼を広げ、少年の前に降り立ったブラックボディの機竜は神聖な雰囲気さえ感じさせる。そしてそれは口を開き、ゆっくりと告げた。

 ――我が名は烈竜機ドラジオン。君の力で、私達の世界を救って欲しいのだ。

 突然の話に何が何だか分からなかった。
 しかし、少年は自分の中に期待に満ちた感情が生まれていることを感じる。
 嗚呼、だってこの状況は――夢にまで見たロボットヒーローの“はじまり”の物語に似ているのだから。

●機竜との戦い
 曰く、彼の世界は滅亡の危機に瀕している。
 それゆえに異世界へと旅立ったドラジオンは、勇者の素質がある少年を探し求めていた。
 その勇者たりえる存在こそが例の少年、翔汰だったという話らしいが――。
「それ、全部ウソだから」
 『サウンドスケープ』 斑鳩・タスク(nBNE000232)はさらりと言ってのけると、例のドラジオンは悪しきアザーバイドなのだと語る。
 機械が支配する異世界から、バグホールを通って訪れたソレが語る設定は嘘八百。それらしくでっち上げたものにしか過ぎない。そういった説明を用いて適当な少年を連れ去り、生体兵器として改造したり、良いように使役するのがドラジオンの真の目的らしい。
「このままだと翔汰はヤツの言い分を信じて、異世界に付いていってしまう。少年にとっては魅力的な誘いだけどさ、その先の不幸を知っていたら放って置くわけにはいかないだろ」
 個人的に異世界の危機の設定が甘いと思う等と文句を言いながら、タスクは説明を続ける。

 今からなら、ドラジオンが少年と接触した直後に現場に駆け付けられる。
 機竜は此方が少年を取り戻そうとしていることが分かると、リベリスタを「あれが悪の手先だ」とでも言って、応戦しようとするだろう。戦いは避けられぬ為、しっかりとした準備を行うのも大切だ。
「その際、敵が翔汰を傷付けたりすることは無いはずだ。彼は大切な人員だからね」
 敵は一体のみだが、相当な力を持っている。
 心情的に翔汰はドラジオンを応援するだろうが、彼の気持ちの心配はしないでも良い。
 何故なら敵は卑劣な戦法ばかり取ってくる為、戦いを進める度に少年の方がドラジオンへの不信感を募らせるだろうからだ。
「正義は此方で、悪は向こう。それを分かって貰えるように戦って来てよ」
 それくらい可能だろ、と挑戦的な視線を投げ掛け、タスクは其処で説明を終えた。

 いたいけな少年が攫われぬように。
 そして、悪しき者に世界を浸食されぬ為にも――今、悪を挫く正義の力が必要なのだ。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年10月01日(月)23:16
●詳細
 戦場は人気のない公園。
 皆様は少年がドラジオンから説明を告げられ、連れ去られようとしている所に駆け付けることになります。
 うまく倒した後は公園近くにあるD・ホールを壊すことで任務完了です。
 その後の少年への対応は皆様にお任せ致します。

●機工烈竜ドラジオン
 2メートル程の機械で出来た竜。ロボットアニメに出て来るようなアレです。
『炎のブレス(神遠域/獄炎)』『翼の刃(物近範/致命)』を使って戦いを挑んできます。
 最初は正義の竜を気取っていますが、戦いとなると不意打ちや弱者狙い、口汚く罵るなど、徐々に本性を露わにしていきます。

●翔汰
 塾帰りにアザーバイドに遭遇してしまった少年。小学四年生。
 戦闘中は安全な所にいます。最初はドラジオンを信じていますが、皆様が正義然とした戦いをしていると、徐々に悪しき機竜への疑問を持ちはじめます。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
★MVP
デュランダル
斜堂・影継(BNE000955)
ホーリーメイガス
ニニギア・ドオレ(BNE001291)
デュランダル
小崎・岬(BNE002119)
クリミナルスタア
禍原 福松(BNE003517)
スターサジタリー
ティセラ・イーリアス(BNE003564)
レイザータクト
緋桐 芙蓉(BNE003782)
レイザータクト
伊吹 マコト(BNE003900)
覇界闘士
滝沢 美虎(BNE003973)


 異界より来たりし鉄の機竜。そして、世界を救う勇者たる少年。
 二人の邂逅は何処にでもありふれたものであり、往々にして始まりの出会いでもある。――しかし、それは物語の中でだけの話。
「本当に、僕が勇者になれるの……?」
 暗い公園の中、少年は驚きと期待が入り混じる眼差しで異界の鉄竜を見上げた。
 ああ、と機械めいた声で答える竜は共に来いとばかりに少年を誘う。だが、そのいざないは彼を利用し、不幸にするだけの悪しき企みだ。
「そこまでだっ! いたいけな少年をかどわかし、悪の道へと引きずり込む邪竜機め!」
 口車に乗せられた少年が今にも攫われそうになったその時、『ヒーローは背中で語るっ!』滝沢 美虎(BNE003973)の威勢の良い声が公園内に響き渡った。
 片手を突き出し、強く竜機を見据える美虎に続き、『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)も身構える。
「烈竜機……いや、異次元児童誘拐竜ドラジオン! あんたの悪巧みもこれまでだぜ!」
 ヒーローめいた言葉を口にした瞬間、機竜の纏う雰囲気が強張った気がした。
 おそらくは図星を刺されて僅かに動揺したのだろう。しかし、翔汰少年はその様子には気付かず、突然現れたリベリスタ達に困惑するのみ。
 『空中楼閣』緋桐 芙蓉(BNE003782)は仲間の後方から機竜を見遣り、ぽつりと呟く。
「夢見る少年を騙して自分の都合の良いように使う……見過ごすわけにはいきませんね」
 手際の良さ等を見る限り、今回が初犯というわけでもなさそうだと予想し、宵霞を手にした芙蓉は防御の効率動作を仲間と共有した。自分に漲る力を感じた『STYLE ZERO』伊吹 マコト(BNE003900)は自身の過去を思い返す。
 正義のヒーロー。彼とて、そういうものに憧れていた時期も無くは無かった。
「……全く、人が憧れる感情を利用するだなんて、良い趣味だ」
 攫いたければ問答無用で攫えるだけの力は有るだろうに、そうしないのは驕り故か。
「貴様ら、一体何者だ」
「聖なる息吹で悪に立ち向かう! 正義の癒し手ニニギアよっ」
 ドラジオンが重々しく問えば、『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)が白い翼を広げて颯爽と名乗りを上げる。勿論、その際に決めポーズをしっかりと取ることも忘れてはいない。
 『世紀末ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)も回りくどいやり方に難色を示し、よっぽど暇なのかと不審な眼差しを差し向けた。
「アザーバイドなら不思議な光に導かれるとかないのかよー」
 岬が溜息を零すと、少年は首を傾げる。
「あざーばいど? ドラジオン、この人達は何?」
「下がっていろ、翔汰。奴らは正義を騙る悪しきモノ。そう、奴らが我らの世界を脅かしているのだ」
 問いに答えた機竜は機械の羽を大きく広げ、少年を木の影へと下がらせる。正義を騙るなどと云うのは無論、敵のでまかせに過ぎない。茶番ね、と零した『翡翠の燐鎖』ティセラ・イーリアス(BNE003564)は諦め気味に訝しげな態度を見せる。
 そもそも、知らない人についていってはいけないと教わらなかったのだろうか。
「翔汰。あなただって、旅立つなら家族に言い訳の一つでも要るでしょう」
 隠れている少年に呼び掛け、ティセラは極限の集中に身を委ねる。
 此方を窺っているらしき翔汰からは返答がなかったが、尤もらしい言葉は実に的を得ていた。そして、少年に聞こえぬ程度の舌打ちのような声を漏らしたドラジオンの様子を、『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)は見逃さなかった。
 既に敵も臨戦態勢であり、いつ攻撃が仕掛けられてもおかしくはない状況だ。
 非日常への憧れ。選ばれし正義の勇者が悪を倒し皆を救う。
「現実もそう簡単だったら良かったんだがな」
 呟かれた言葉は夜の風に交じり――思いの余韻すら残さぬまま、戦いは巡り来る。


 機械めいた咆哮が響き、周囲の空気を震わせる。
 鉄とはいえ竜の体を持つアザーバイドの物々しさは相当な雰囲気を感じさせた。だが、影継は怯むことなく、しかと名乗りを上げる。
「俺の名は! 闇を裁く影の剣士、シャドウブレイダー!」
 子供の夢を壊さないよう、正々堂々と戦うのが今回の彼の信条だ。影継が指先をドラジオンに差し向けた次の瞬間、美虎も事前に用意していた電池仕掛けの変身ベルトに手をかざす。
「わたしたちが来た以上はそれ以上の好き勝手はさせないぞ!」
 変身、という掛け声と共に美虎のコスチュームがそれまでの服から巨大な魔力手甲を装備した姿に変わった。流水の構えを取る美虎、そして素早く回り込んで電撃を纏う一撃を放つ影継。二人の振る舞いはまさに正義然とした行動に映る。
 其処に続き、芙蓉も凛と敵を見据えた。
「私は正義の味方という柄でも無いですが……参ります」
 亀の甲よりも年の功とも言いますし、と続けた芙蓉は真空の刃を生じさせる。巨体を狙い、舞う刃はドラジオンに衝撃を与えた。しかし、敵もただやられてばかりではない。
「小癪な。我が焔で消し炭になるがいい!」
 二度目の咆哮と共に激しい炎が辺りを包み込み、前に出ていた影継たちに熱を与えた。その効果は岬にまで広がり、彼女は取り出した鉾槍で炎を弾き、ドラジオンに切先を向ける。
「アンタレス、やっと出番だよ。さて、お試しの時間だよー。その偽物の正義、どこまで貫き通せるのかなー?」
 まず、異界の危機だと語るには信憑性が薄いのだ。
 敢えて敵を苛立たせる言葉選びを行う岬は疾風の斬撃を舞い飛ばした。空気をも切り裂く刃が敵を貫き、わずかに態勢を崩させる。それでも、竜機は未だびくともしていないように見えた。
 寧ろ戦いに余裕さえ持っているように思え、ティセラは銃剣を構える。
「目的の割に妙に手が込んでるわね。あんた遊んでるでしょう」
「フフ……それはどうだろうな」
 意味深な含みを持たせ、ドラジオンは翼を羽ばたかせた。瞬間、ティセラの解き放った魔弾が夜の空気の中で弾け、敵に衝撃を与える。未だ少しばかりしか相手の体力を削れていないのだが、少年には機竜がやられているように見えたのだろう。頑張れドラジオン、と応援の声が木の影から響いた。
 それを聞いた福松は少年の居る方向に視線を向ける。
「……信じるのも無理はないか」
 騙されているのだと直接告げるのは憚られた。だからこそ自ら気付いて欲しいと思いながら、福松は不可視の殺意を敵へと向けた。見事に弱点を突いた射撃はドラジオンの羽を傷付け、相手から小さな呻き声が漏れる。
「よくも我が誇りの翼を――!」
 次の瞬間、余裕めいていた機竜が激昂した。
 元から悪しき心根を持つ者故か、妙に簡単に怒ってくれるものだとマコトは感心する。其処に呆れたような感情を交じらせ、彼は魔弾を紡ぎはじめた。
「やれやれ、プライドだけは一端か。その化けの皮を剥がしてあげるよ」
 未だ竜を信じているらしき少年を説得するには距離が遠く、このままでは戦いにも集中できない。それゆえにこの力を以てして自らを示そうと考えたマコトは、魔弾をひといきに打ち放った。
 その間にもドラジオンは翼を刃へと変え、リベリスタ達を切り裂こうと動く。
 鋭い衝撃が前衛たちを傷付ける様を瞳に映しながら、ニニギアは天使の歌を奏でてゆく。やがて、愚かな人間どもめ、と敵から告げられる口汚い言葉も次第に激しくなっていった。
「私たちは、付け焼刃じゃない正義の味方なんだから。どれだけ罵られようとも負けない!」
 姑息なことをされても、決して乗せられたりなどしない。
 反論したい気持ちをぐっと堪えニニギアは懸命に仲間の背を支え続けた。その献身的な姿を影で見つめる少年は疑問を持ちはじめている。本当に彼女達が悪の手先なのだろうか、と悩む少年を余所に、戦いは更に激化してゆく。


 戦いは尚も巡り続け、炎が迸り、刃が乱れ飛ぶ。
 幾度もの攻防を重ねてきた影継だったが、致命傷を受けた彼らも目に見えて弱りはじめていた。
「先ずは貴様から血祭りにあげてやろう!」
 それを察し、ドラジオンは次の狙いを影継と美虎に定める。だが、すぐさま仲間の危機を感じ取った福松と岬がそうはさせないとばかりに敵前へと駆け抜けた。
「あんだけ正義正義言っといて弱った奴から狙うんだねー」
 岬はハルバードをくるりと回し、卑劣な狙いをする敵を見据える。それと同時に打ち放たれた一撃が巨体を穿ち、機竜の体勢が少しばかり揺らいだ。その隙を使って後方に下がった影継は福松と入れ替わり様に視線を交わし合う。
「すまない、前は暫し頼んだ」
「何、気にするな。適材適所ってヤツだ」
 代わりに前衛となった福松は白のストールを翻し、地を蹴りあげた。身体ごとぶつかるようにして、ただ真正面から打ち込まれた拳は見事に敵を打ち、更なる衝撃を蓄積させていく。其処にすぐさま動いたニニギアが詠唱を紡ぎ、癒しの息吹で仲間達を癒した。
 聖なる息吹で悪に立ち向かうと名乗りを上げた通り、彼女は清らかな力を巡らせる。
「これで大丈夫。後は押し切るだけだわ」
 少しずつ弱っているらしきドラジオンを見つめ、ニニギアは仲間に呼び掛けた。声を掛け合い、互いに信頼を置いて戦い続ける。そんなリベリスタたちの何処が悪に映るだろうか。
「あのお姉ちゃん達……何だか悪い人じゃないみたいだ」
 戦況も、翔汰少年の心情も、徐々にリベリスタ側に傾き始めている。
 その事に気付いた美虎は小さな笑みを浮かべると、体勢を立て直した。未だ身体に痛みは響いているが、此処で退くわけにはいかない。彼女は己に戦える力が残っていることを感じ、掌を強く握り締めた。
「げいるえっじ!」
 斬風を起こす美虎の蹴撃がカマイタチを生み、ドラジオンを切り裂く。
 息を切らしながらもしっかりと戦うその姿は傷付いていても、実に真摯に見えた。夜風になびく髪すら血で汚れていたが、真っ直ぐに戦う姿は決して穢れてはいない。
「まさか、此処までとはな……」
 不利を感じ、じりじりと下がるドラジオン。
 その様子をしかと見咎めた芙蓉は一度攻撃の手を止め、ある提案を敵に持ちかけることにした。
「此処に、交わした約束は絶対に違えられなくなる、触れるだけで成立する誓約書があります」
 敵の誠意を見定める為、ただの契約書を取り出した芙蓉は、少年を諦めることと此方の世界に干渉しないことを誓うならばこれ以上の危害は加えないと説明する。だが、そんなものに同意するくらいの心を持っているのならばドラジオンは初めからこんな遊戯めいた誘拐など企てたりしないだろう。
「下等生物ごときが偉そうに。ええい、こうなればあの少年ごと焼き尽くしてくれるわ!」
 契約書を振り払った機竜が更なる激昂を見せ、周囲の空気を吸い込む。
「それが答えですか……仕方ありませんね」
 すぐに炎のブレスが放たれるのだと気付いた芙蓉は少年が居る方へと駆け、庇うようにして身構えた。同時に福松と岬も翔汰を庇い、ティセラも敵をブロックするべくすぐに動く。
「やっと正体を現したわね。聞いたでしょう、これが奴の本性なの」
「そんな、ドラジオン……?」
 あの少年ごと、と言い放たれた事に衝撃を隠しきれないのか、翔汰は木の影に縮こまってしまった。
 心の傷は計り知れないが、これで彼もどちらが悪かを理解出来ただろう。焔が少年にまで及ばぬことを確認しながら、マコトは今にも逃げて出してしまいそうな機竜を視界に捉えた。
「逃がしはしないよ。……ほら、こっちだ」
 符術で創り上げられた式神の鴉は敵を翻弄するように舞い、見事に怒りを誘うことに成功する。
 これで逃走は選ぶまいと確信したマコトは、戦いの終わりを見据えながら少年を思う。こんな場所で、こんな奴に未来を奪われてはならない。この世界の正義や悪は曖昧で、一言では決して表すことはできないものだが――それだけは絶対に、確かなことだ。


「貴様ら、我の遊戯を悉く邪魔しおってからに!」
 怒りに満ちた咆哮が響き、美虎たちに敵意が向けられる。しかし、敵とて既にボロボロだ。向かってくる敵の攻撃体勢を打ち、捌き、崩すことを念頭に置いた彼女の動きは華麗にドラジオンを穿ってゆく。
 鋭い刃の翼に一度は倒れそうになっても、心までは押し負けてはいない。
「応援してくれる人がいる限り、わたしは何度でも立ち上がるっ!! ぶれーく……なっこーっ!」
 運命を引き寄せた美虎の渾身の攻撃がドラジオンを傾がせる。
 其処に生まれた隙をしかと捉え、影継は最後になるであろう一撃に向けて神経を研ぎ澄ませた。そんなとき、背後の影から翔汰がおそるおそる顔を出す。そして、震える身体を押さえた少年は息を吸い込み、リベリスタたちへと精一杯の声援を送った。
「お兄ちゃん達、頑張れ! そんな酷いヤツ倒しちゃえ!」
 応援の言葉を背に受け、影継は銀刃を強く握り締める。
「ああ、任せておけ。――仲間と力を合わせる! それこそが俺達の力だぜ!」
 言うなれば運命共同体。互いに頼り、互いに助け合う。だからこそ戦場で生きられるのだ、と己の心に秘めた思いを抱き、影継は一気に駆け出した。狙うのは衝撃と痛みに喘ぐ機体の真正面。
 刹那、ひといきに振り下ろされた放電刃がドラジオンを貫き――弾ける雷撃が戦いの終わりを彩った。

「ぐ……我の完璧な計画、が……」
 倒された機竜は忌々しげな言葉を紡ぎ、その場に崩れ落ちた。
「危機の話からして、盛ってたよねー? あんなの全然、完璧じゃないんだよー」
 ボクはエア武勇伝は即分かるんだよ、と告げた岬はドラジオンを見下ろして腕を組む。
 すべての力を失ったことで体を保つことが出来なくなったのか、その身は小さな光を帯びながら霧散していった。おそらくは精神体のような存在だったのだと判断し、岬は消えゆく姿を見送った。
 そして、芙蓉と美虎が異世界と此方を繋ぐゲートを破壊し、任務は無事に終わりを告げる。
 其処へ影から出てきた少年がおずおずとリベリスタ達へと歩み寄った。騙されていたと知り、少しでも此方を疑ったことが申し訳ないらしく、翔汰は複雑な心境を抱えているようだった。
「あなたの目で確かめて、分かったかしら」
 しかし、ニニギアはやさしく微笑みかけると少年を手招く。世界を救うのだと決意していた彼の様子は、アークに入った時のニニギア自身を思い起こさせた。こくりと頷いた翔汰は頭を下げると、ありがとうと皆に告げる。
 それでも未だショックを受けたままの彼に近付き、マコトは声を掛けた。
「君が『特別な存在じゃない』と否定するわけじゃない。いつか、世界を救う力に目覚めるかもしれないからね。ただ、それはこんな甘いだけの言葉で選ばれる物じゃないんだ」
 諭すように語ったマコトに続き、ティセラも顔を上げた。正義と悪。それは簡単な天秤で量れるようなものではない。だからこそ、この世界はそれほど美しくはないのかもしれない。
「選ばれたヒーローが大活躍するような物語は、こんな世界でも意外なほどに存在しない。その他大勢でいることがどれほど幸運な事か、覚えておくといいわ」
「……正義の味方って、案外大変よ。なったことに後悔はしてないけどね」
 ティセラの現実的な言葉に対し、ニニギアも何処か寂しげな笑みを湛えた。
 少年は不安げな瞳を彼女達に向け、そして問いかける。
「それなのに、お姉ちゃん達はああやって戦い続けているの?」
 純粋な問いに仲間達は顔を見合わせ、今一度自分達の戦いについて考える事になった。しかし、それも人其々。正しい答えの出ない質問に頭を悩ませながらも、影継は口を開く。
「そうだな、人生は戦いだ。非日常に憧れるのも良い」
 だが、普通の人達は日常という戦いを繰り返していることを忘れてはいけない。生きて何かを為そうとするなら、その日常こそが戦いだ。そう語った彼は少年の頭を軽く撫で、小さな笑みを浮かべた。
 そんな中、そっと歩み寄った福松は帽子を深く被り直す。
「お前が将来、守らなければならないモノは沢山できる。その憧れは胸にしまって、その時まで取っておけ。だから今は家に帰ってゆっくり休め。明日になればいつも通りの朝を迎えられるさ」
 その言葉には、同じ年頃の少年としての思いが宿っていたように感じられた。
 そして、福松は隠れた左目をあらわにすると、魔眼の力を発動させる。今夜の出来事は夢だと思わせた方が少年の為にもなるだろう。しかし虚ろな瞳を湛えながらも、翔汰はしっかりと頷いた。
 其処に穏やかな未来が待っていることを願い、リベリスタ達は空を仰ぐ。

 夢は夢のまま、憧れは今までの通りに。
 様々な思いを孕んだ夜は深く、深く、いつも通りの静けさに満ちたままゆっくりと更けてゆく。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
正義とは何かを突き詰めていくと、いつも複雑な事情に行き着く気がします。
しかし、皆様の振る舞いはまさにヒーロー! 翔汰少年も最後は少しばかり意気消沈していましたが、皆様に向けた応援の言葉はきっと心からのものだったはずです。

ご参加、どうもありがとうございました。