● 赤と灰――二体の巨獣が、荒野を走る。 岩石に覆われた体を重そうに揺らし、地を轟かせながら。 まるで『何か』から逃れようとするかのように、鬼気迫った様子でひたすらに駆ける。 天に響く咆哮は、四つ。 巨獣たちの背には、『本来の頭』の他に『もう一つの頭』が生えていた。 八つの瞳に浮かぶ色は、破壊に焦がれる狂熱か、それとも迫りくるものへの恐怖か。 荒ぶる魂を内に抱え、巨獣たちの驀進は続く――。 ● 最初に気付いたのは、『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)だった。 「巨獣が出たようですが、こちらにもでしょうかね……」 特に巨獣に的を絞って橋頭堡周辺の警戒にあたっていたことが功を奏し、彼女は荒野をひた走る二体の巨獣の早期発見に成功する。 フュリエの長、シェルン・ミスティルはその報を受けると、急いでリベリスタ達を集めた。 ● 「――危険な巨獣が二体、暴れているようですね」 集まったリベリスタ達を前に、シェルンはそう言って柳眉を僅かに顰めた。 「これらは『岩石巨獣』と呼ばれるもので、その名の通り、体表が無数の石で覆われています。 以前にも、リベリスタの皆様と戦ったことがあるのですが……」 シェルンによると、このところ世界樹のバランスがいよいよ崩れており、『忌み子』たる巨獣たちにも異変が生じているらしい。 「今回現れた岩石巨獣の場合、攻撃能力が一部変化している他、背にもう一つの頭が生えています。 これにより、前面だけでなく、後方も見通すことができるようです」 岩石巨獣は並外れた巨体でブロックが困難な上、攻撃手段も多彩だ。その視界が広がったということは、敵としての厄介さが増したという事実を意味する。 しかも、それが同時に二体――。 「岩石巨獣はその名の通り石を攻撃に用いますが、二体のうち一体は、併せて炎の力を使います。 戦いに時間をかけすぎた場合、自分の体を爆発させて捨て身の一撃を加えてくるでしょう」 その威力は凄まじく、まともに食らった場合はリベリスタといえど倒れてしまう可能性が高い。 まずは、爆発を起こす前にこの一体を倒すことが絶対条件になるだろう。 幸い、体色が異なるので二体の区別は容易だ。 「このまま岩石巨獣を放っておけば、いずれ森に災いをもたらします。 危険の伴う戦いではありますが……皆様にお願いできますでしょうか」 シェルンは申し訳なさそうに言って、リベリスタ達に頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月21日(金)23:41 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 砂と土が支配する乾いた大地を、十二人のリベリスタが駆ける。 足元の石に躓かぬよう慎重に歩を進める『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)は、ふと奇妙な感覚をおぼえた。 この地で戦うのは初めての筈なのに、何故か懐かしく思える。 乾いた風が通り過ぎた瞬間、誰かの手が頭を撫でた気がした。 思わず目を瞬かせた後、陸駆は砂煙の向こうから近付く二体の巨獣を見る。 巨大な岩の塊とも見紛うそれは、赤と灰の岩石巨獣。森に仇なす、凶暴な怪物だ。 胸に去来する朧げな記憶を片隅に追いやり、眼前の敵に意識を向ける。 ――今は、『天才』らしく戦うことが重要だ。 「岩石巨獣……またも現れたからには、今回の依頼でしっかりと対処を行うべきですね……」 『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・マルター(BNE002558)が、柳眉を僅かに顰める。『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)が、サングラス越しに岩石巨獣を睨んだ。 「まったく、リベンジと思えば数が増えているとはな」 彼と浅倉 貴志(BNE002656)の二人は、以前にも岩石巨獣と戦っている。二体のうち、やや赤みがかった体色の一体には確かに見覚えがあった。違いがあるとすれば、背中にもう一つの頭があることか。 単純に数が倍になったのみならず、一体ごとの強さも増していると予想される。さらに激しい戦いになることは疑いようがない。 「新たに生まれた訳ではなく、現存する巨獣が変異、か。 フュリエやバイデンよりも目に見えて判り易い変化だな」 『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)の瞳が、岩石巨獣を鋭く見据える。これまで、フュリエやバイデンの変化は内面的なものに留まっていたが、巨獣のそれはより直接的で禍々しい。 もっとも、世界樹のバランスがいよいよ崩れているなら、かの二種族が変異するのも時間の問題かもしれないが――。 「なんなんでしょうかねー、進化してるとでも言うんですか? 確実に強くなってますし」 美散の言葉に、『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)が小さく首を傾げた。 「いつまでもいたちごっこしてられないって事なんでしょうか……」 サングラスの位置を直しつつ、鉅が溜め息を漏らす。 「向上心とやる気に溢れていて結構な事だ……嫌になる」 「今度こそ仕留めておきたいものです」 彼の傍らを走る貴志が、静かに拳を握り締めた。 彼我の距離が縮まる中、リベリスタ達はタイミングを計って自らや仲間の力を高めていく。 「がおーっと怪獣退治だよ」 体格にそぐわぬ長弓を携えた『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)から滲み出した漆黒の闇が、無形の武具となって彼女の全身を覆った。 「足場が悪いから、できるだけ浮いて移動した方がいいな」 仲間達の背に翼を与えた『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が、地面に転がる石の数を見て注意を促す。 頷いた美散が、己の長身をふわりと宙に舞わせた。 どこか追い詰められた様子でひた走る巨獣たちを見て、思索をめぐらせる。可能性はいくつか考えられるが、一つはっきりしているのは、この『憤怒と渇きの荒野』に平穏は無いということだ。 「さぁ、俺達も歓喜に震え渇望を充たす為の戦いを始めよう」 肉体の枷を外し、かつて伝説を打ち破った真紅の槍を構える。 「――宵咲が一刀、宵咲美散。推して参る!」 驀進する岩石巨獣と迎え撃つリベリスタ、両者の戦いがここに幕を開けた。 ● オフェンサードクトリンで全員の戦闘効率を高めた『非才を知る者』アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)が、先陣を切って灰色の岩石巨獣に接近する。 「ブロックと支援、務めさせていただきます」 彼は赤い瞳を眼前の敵に向けると、防御動作の共有で瞬時に守りを固めた。 「さて、今回は同じ轍を踏まずにいきたいところだが」 続いて、変幻自在の影を従えた鉅が赤色の岩石巨獣に迫る。彼は全身からオーラの糸を伸ばすと、巨獣の首を括るようにぐるりと巻きつけた。 あらゆる状態異常に耐性を持つ岩石巨獣に呪縛は効かないが、自身が持つ最強の技で攻撃を仕掛けることに意義がある。 小さな翼を操って灰の巨獣に接敵した陸駆が、思わず目を見張った。 「むむ! なんとでっかいかいじゅうなのだ!」 間近で眺めると、改めてその巨大さが窺える。彼は戦場全体に視野を広げた金の瞳を僅かに動かすと、向こう側に見える赤の巨獣に狙いを定めた。 「ふたつも顔があるとは生意気な! これ以上は暴れさせないなのだ」 陸駆の放った気糸が、正面を睨む目の片方を貫く。すかさず間合いを詰めた貴志が、斬風脚でもう一方を切り裂いた。 「早めに対処しないと、石化が厄介ですからね」 石化に苦しめられた以前の戦いを思い返し、苦い口調で呟く。目を潰しても岩石巨獣の視力は失われないが、少なくとも石化光線の命中率は下がることが過去の事例から立証されている。 「時間制限つきですね。速攻をかけていきましょう」 極限の集中で動体視力を強化したユウが、オーラの糸で灰の巨獣の片目を射抜いた。二体合わせて四対八個の目を一つずつ狙うとなると、それだけで余計な時間を食う。敵が頻繁に転回を繰り返すのでなければ、まずは危険度の高い正面側を優先して叩くべきだろう。 低空を滑って前に出たフツが、灰の巨獣をブロックしながら呪力を天に放つ。どちらかといえば回復支援を得手とする彼も、今回は隙を見て攻撃に加わる必要があった。 赤の巨獣を仕留めるのに手間取れば、捨て身の大爆発で戦線が崩壊する可能性が高い。勝利に近付くには、早いうちに少しずつでもダメージを積み重ねておかねばならないのだ。 全てを凍らせる雨が二体の巨獣に降り注ぐ中、シャルロッテが灰の巨獣を抑えに回る。彼女は仲間達と協力して巨獣の足を封じつつ、魔力を帯びた長弓を構えた。暗黒の衝動を秘めたオーラが、黒き矢となって赤の巨獣を撃つ。 直後、灰の巨獣が大きく足を踏み鳴らした。足元から前衛を襲う衝撃波に続き、巨獣の体表を覆う無数の石が弾丸となって戦場のリベリスタ達を打ち据える。 「……まずいな」 鉅が、低く声を漏らした。岩石巨獣のブロックには一体につき四人が必要だが、現状で赤の巨獣を抑えているのは彼と貴志のみ。残る二人は、まだ辿り着いていない。 瞬間、赤の巨獣が咆哮を上げて突撃した。貴志に強烈な体当たりを食らわせた後、ブロックを振り切って前進する。傷を負っていない背中側の瞳が、前衛達を睨んだ。 陸駆は灰の巨獣を盾に光線を防ごうとするも、赤の巨獣が位置を変えてしまったため、咄嗟の対応が間に合わない。彼とシャルロッテ、貴志の三人が直撃を受けて石と化す。目潰しが功奏し、後衛側のリベリスタ達が石化を免れたのが不幸中の幸いだろう。 あらゆる攻撃を跳ね返す光の鎧を身に纏ったリサリサが、赤の巨獣の進路を真正面から塞いだ。 「いつもは護りが専門のワタシですが、今日に限っては攻めさせて頂きます……」 彼女は赤の巨獣をブロックすると、活性化した魔力を循環させ始める。美散がその側面に回り、“禍月穿つ深紅の槍”に輝くオーラを纏って巨獣の脇腹を突いた。 素早く駆けつけた鉅が、抑えに加わりながらオーラの糸を放つ。天使ラジエルの書を携えたエリス・トワイニング(BNE002382)が、聖なる神の息吹を呼び起こしてリベリスタ達に癒しをもたらした。 「全く、厄介だぜ。図体のデカイ敵は死角が多いってのが定番だろうに!」 邪を寄せぬ神の光で石化を解いたフツが、岩石巨獣の背に生えた『もう一つの頭』を見て眉を寄せる。体の向きに関係なく攻撃が飛んでくるのは、それだけで脅威だ。 体の自由を取り戻した貴志が、赤の巨獣に再び接敵してブロックを完成させる。彼は流水の構えから掌打を繰り出し、巨獣の体内に破壊の気を叩き込んだ。 背の翼で空中を自在に翔けるユウが、赤の巨獣の『背中側の瞳』を狙ってオーラの糸を撃つ。灰の巨獣を抑える仲間が、石化の脅威に晒され続けるのは避けたいところだった。 ブロックで足を封じられた巨獣たちが、狂った咆哮を上げて攻撃に転じる。後方から指揮を執るナターリャ・ヴェジェルニコフ(BNE003972)が、天使の歌声を響かせて全員の傷を癒した。 陸駆が気糸を紡ぎ、赤の巨獣にただ一つ残された瞳を狙い撃つ。『ぴゅあで可憐』マリル・フロート(BNE001309)が、利き腕に構えた魔力銃を赤の巨獣に向けた。 「赤くておっきいのはやばんなのですぅ」 落ちる硬貨すらも捉える精密な射撃が、岩石巨獣を捉える。巨獣たちの攻撃で負ったダメージを確かめたシャルロッテが「そろそろかな」と呟いた。 魔弓を構え、つがえた矢に自らの痛みを注ぐ。 「仲間のサポートで向上したペインキラーの威力、一味違うのを見せてあげるね」 恐るべき威力と正確さを兼ね備えた一矢が、赤の巨獣の胴体に突き刺さった。おぞましき呪いに蝕まれた巨獣が、身を捩って唸る。穿たれたばかりの傷口を目掛けて、美散が真っ直ぐ槍を繰り出した。 オーラの輝きを帯びた穂先が岩石の継ぎ目を抉り、次第に隙間を広げていく。巨獣の体内から噴き出す熱気が、彼の頬を撫でた。 激痛に耐えかねた赤の巨獣が、正面に陣取るリサリサに体当たりを仕掛ける。彼女はマジックディフェンサーで咄嗟にガードを固め、全身を砕かんとする超重量の一撃に耐えた。 「防御に特化したワタシの能力、そうそう墜とされるものではありませんっ……」 同時に、光の鎧が攻撃の一部を反射して岩石巨獣を傷つける。一回で与えられるダメージは微々たるものだが、積み重なれば大きな差を生むだろう。 傷の深い前衛から、リサリサは輝けるオーラの鎧を付与していく。 攻撃は最大の防御――そして、逆もまた真となり得るか。 ● リベリスタ達はブロックを維持しつつ、赤の巨獣に攻撃を集中する。 並外れた防御力を前に攻めあぐねていた鉅が、咄嗟に身を沈めて巨獣の足元に潜り込んだ。 「まあ、物は試しだ」 持ち前の平衡感覚でバランスを保ち、オーラの糸を内側から巨獣の足に絡める。 狙いはかく乱――敵の虚を突き、一瞬でも隙を作ることが出来れば上等だ。それだけ、部位狙いに長けたメンバーが攻撃しやすくなる。 すかさず、陸駆が極細の気糸で岩の隙間を射抜いた。彼の明晰な頭脳は、仲間がもたらした好機を見逃さない。 「回復……する」 エリスが詠唱を響かせ、聖神の息吹でリベリスタ達を包む。続いて、フツが癒しの符を用いてシャルロッテの傷を塞いだ。 数で勝っているとはいえ、岩石巨獣の火力は無理できない。特に、全体攻撃である岩石の嵐を連発されると、どうしても回復の割合が増えてしまう。こればかりは、射線を遮っても防ぐことができないからだ。 リサリサの浄化の鎧が全員に行き渡れば、反射で手痛いダメージを与えられるのだが、それにはどうしても時間がかかる。 「だんだん熱量が上がってきたな……」 熱感知で巨獣の体温上昇を察知したフツが、それを全員に告げる。周囲に身を隠す場所が存在しない以上、爆発を逃れるには赤の巨獣を倒すより他にない。魔力銃の引き金を絞り続けるマリルが、巨獣に刻まれた弾痕を一発、また一発と増やしていく。 「まさか誘爆はしないと思いますけど」 冗談めかした言葉とともに、ユウが“Missionary&Doggy”の銃口を天に向けた。放たれた弾丸が、無数の火矢となって二体の巨獣を同時に襲う。貴志の土砕掌が、そこに追撃を加えた。 「たとえ以前よりも強固になったといっても、この攻撃の前ではその鎧のような装甲も貫ける――!」 自分は、ただひたすらに打ち続けるのみ。先の雪辱を、ここで果たすために。 激しい撃ち合いが続く中、両者のダメージは積み重なっていく。 赤の巨獣も確実に傷ついていたが、シャルロッテのダメージはそれ以上に深刻だった。もともと耐久力に欠ける身で前衛に出ている上、技の反動で体力を削られ続けている。闇の武具がもたらす再生力も、もはや追いついていなかった。 (できれば距離をとりたいけど……頑張るしかないのかな) 自らの運命を代償に踏み止まり、気力を振り絞って弓を引く。ブロック役の交代を頼もうにも、対応できるメンバーが居ないのだ。かといって、ここで離れて灰の巨獣を自由にするわけにもいかない。 「痛い分だけ、倍増して返すんだよー。一気に倒してしまっても問題ないよね?」 おぞましい呪いを孕んだ痛みの矢が、体表を覆う岩石ごと赤の巨獣を射抜く。彼女の背を、ナターリャが天使の歌で支えた。 「皆様は攻撃を優先して下さいませ」 その声を背中に受け、美散がオーラに包まれた真紅の槍で巨獣を穿つ。彼の視線は、赤い炎が覗く岩石の隙間、ただ一点へと向けられていた。 あと――もう少し。 アルフォンソの放った真空の刃が、岩の間隙を縫って巨獣を裂く。鉅が全身から気糸を伸ばして巨獣の足を縛り上げた瞬間、貴志の土砕掌が巨体を大きく揺らした。 雨あられと降り注ぐユウの火矢が、前から後ろから敵を狙い撃つ。しかし、それでも赤の巨獣を倒すには至らない。あの、分厚い装甲さえなければ。 赤の巨獣が、お返しとばかりに岩石の弾丸を撒き散らした。 この一撃でシャルロッテとナターリャが倒れ、エリスが運命を削る。 ――直後、灰の巨獣が雄叫びを上げた。 フツが咄嗟に押し止めようとするも、三人ではブロックを維持できない。灰の巨獣が後衛に突っ込んだ時、リベリスタ達の陣形は半ば崩壊した。 戦場が混乱を極める中、ユウとマリル、エリスがなす術もなく地に伏していく。 こうなったら一刻も早く赤の巨獣を打ち倒すより他にないが、この段階で五人もの仲間を欠いたのはあまりにも痛すぎた。攻撃も、回復も、圧倒的に手が足りない。 傷ついたリベリスタ達に追い打ちをかけるように、巨獣たちが猛攻を浴びせる。 それでも、残る七人は倒れない。ある者は自らを奮い立たせ、ある者は己の運命を差し出し、なおも立ち上がる。 「そう簡単に負けてはいられないのだ!」 「……倒れたままなんて、絶対に出来ません。 確実に仕留めてこそ、その悔しさを解消できるのですから」 陸駆の声に貴志が大きく頷きを返した時、“L・J・Mブック(全てを癒す心)”を携えたリサリサが詠唱を響かせた。 「護り、そして癒すこと、いまだ未熟なワタシであれど、 出来ることを全力で……誓ってこの心はどんな状況でも折れません……っ」 決意を秘めた癒しの息吹が、仲間達に戦う力を取り戻す。 しかし――“その時”は確実に近付いていた。 「こいつはいよいよヤバイぜ!」 赤の巨獣から押し寄せる熱気を感じ取り、フツが声を張り上げる。 体温の急激な上昇、地鳴りに似た振動。間違いなく、爆発が迫っている証だ。 回復の手を止め、戦いの中で運命を削った仲間を庇うために走る。 該当するのは、陸駆、貴志、鉅、美散の四人。全員は無理でも、せめて一人は。 リサリサもまた、彼らを護るために行動を起こした。 「このような状況においてこそワタシの力は必要……今こそワタシは100%を超えてみせますっ!」 誰も失わせないという覚悟が、青い瞳に満ちる。 ほぼ時を同じくして、最後の一撃に賭ける男達が動いた。 「同じ手は二度と食わん……!」 あえて赤の巨獣の眼前に躍り出た鉅が、全身からオーラの糸を放つ。敵の意識が正面に向いた瞬間、美散が全身の闘気を爆発させた。 見据えるはただ一点。ここまで穿ち続けてきた、岩石の継ぎ目。 熱を蓄えた体内が赤々と燃えれば燃えるほど、逆に狙いをつけやすくなる――。 「俺の一撃とお前の防御、どちらが勝っているか勝負だ!」 一族に連なる者として、一族の刃として。“彼女”の借りは、ここで返す。 裂帛の気合とともに繰り出された“禍月穿つ深紅の槍”が、赤の巨獣に半ばまで突き込まれた。荒れ狂う破滅のエネルギーが、体内で炸裂する。 金色の瞳が光を失うと同時に、赤の巨獣は轟音とともに地に崩れ落ちた。 ● 赤の巨獣が倒れたのを見届けた陸駆が、見えざる無数の刃を転送して灰の巨獣を牽制する。 「あとは灰だけなのだ。一気に畳み掛けるのだ!」 灰の巨獣に肉迫した鉅が、組み付いて牙を立てた。呼吸法で自らの体力を回復する貴志が、後に続く。 現状で七対一、爆発というタイムリミットも無い。 時間さえかければ、決して倒せない敵ではなかったが――それを成し遂げるには、リベリスタはここまでの戦いで傷つきすぎていた。 鏃(やじり)の如く尖った石弾の連射を受けて、鉅が力尽きる。 残る六人中、三人が既に運命の恩寵に頼っていることを考えると、ここが限界といえた。 フツと二人で回復を担うリサリサも、聖神の息吹の連発で気力の消耗が激しい。 「じっくり楽しませて貰いたかったがな」 美散の言葉に、リサリサの表情が翳る。決着をつけたいのは山々だが、これ以上は倒れた仲間の命を危険に晒しかねない。 かくて、リベリスタ達は苦渋の選択を強いられることになった。 護りに長けたリサリサが殿を務め、整然と撤退を始める。 重傷者を抱えて後退するフツが、傷の痛みに表情を歪めた。 「さすがに痛いな……まァ、生きてるからこそ痛いんだもんな」 完全世界に訪れた異変、凶暴化した巨獣の跋扈――。 次なる戦いの日は、そう遠くはないだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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