●至高のスープ 「さぁさぁ これがわたくしが腕によりをかけて作ったスープ――その名も『生まれ変わりスープ』でございまぁす!」 そう言ってコック姿の男が鍋の蓋を開ければ、何とも食欲を擽る香りが部屋いっぱいに広がった。 おぉ、と歓声を漏らすのは仮面を付けた人々。誰も彼も身形は上品で、恰幅が良い者も多い事から彼らが上流層の人々である事が容易に想像できる。 「特別な素材を特別な調理法で作りましたこのスープは! 一口飲めば、なんと! ミラクル! 文字通り『生まれ変わる』事が出来るのです! ……おっと! 御託は程々にしておきませうか。折角のスープが冷めてしまえば台無しですからね!」 コックの笑顔と、手際良く配膳してゆくメイド達。人々の間に高まる期待、ざわざわ。視線の先には真っ白い皿に湯気を立てるスープが彼らを誘っていた。 なんと良い香りだろうか。 「それでは皆様――どうぞ、召し上がれ!」 コックは笑い、メイドは清楚に一礼する。 全く哀れで愚かな人達だ。 まぁ運が良かったら生まれ変わって世界に愛されるんじゃないかな! いや、運が悪かったら、とも言えるかな? ケラケラ。 ●このスープを作ったのは誰だ! 「革醒した食材に関する任務は、皆々様も御存知かとは思いますが」 事務椅子をくるんと回し振り返った『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)は一同を見、そう切り出した。 革醒した食材。時々アークでもそれに関する依頼が出る――やれ革醒したカップ麺を完食しろだとか、革醒したコッペパンを食べ切れだとか。 「今回ばかしは、そんなほのぼのとした内容ではございませんぞ。革醒した食材で作られたスープ、その名も『うまれかわりスープ』を一般人が口にしてしまったのです。 そのスープは『覚醒させる事』を目的としているかの様に強力な革醒の増殖性を有しており……本当に『運悪く』、口にした一般人が革醒してしまいました」 一体何故?その問いに、フォーチュナは一つ頷き。 「この20名はどれも日本社会のアンダーグラウンドな部分に幅を利かせる裕福な方々です。 その情報網故に、でしょうか。或いは誰かがリークしたのか……彼等は知ってしまったのです。『神秘』の事を」 彼等にとっては魅力であったに違いない――超常の力。空を飛び火を操る。或いは身体が若き頃に戻り、常人よりうんと長生きする事だって出来るのだ。 「斯くして彼等は『仲間入り』を望み、その望みをフィクサード七派が一つ『恐山』が叶えてしまいました」 恐山――日本において活動するフィクサード集団のうち、最も大きな七つの組織『主流七派』の一つ。勢力的には比較的小さいものの『謀略の恐山』の異名の通り、卑怯で実利主義で碌な事をしない連中である。 「トンデモナイ金額と引き換えだったでしょうな……そして彼等はうまれかわりスープを口にして増殖性革醒現象によって覚醒し、文字通り、そして願い通り生まれ変わったのです」 但し、とメルクリィは息を吐く。 「フェイトは、得られなかったようですが。そしてフェイトの事も知らされてなかったようです。これはもう、完全に恐山の方々にハメられましたね」 所詮20名の運命など恐山にとっては金蔓でしかなかったのだろう、と。 「この20体のノーフェイスの討伐、それから『うまれかわりスープ』の処理が皆々様に課せられたオーダーでございますぞ。 因みにうまれかわりスープですが、革醒者である皆々様が飲んでも何も起こりません。とっても美味しいらしいですが……まぁ、処理方法はお任せ致しますぞ」 そんな言葉の後、メルクリィの背後モニターに映し出されるのはとある高級ホテルであった。 「ここの地下フロア――所謂VIPルームに彼等は居ます。ルートは私が指定しますので迷わず行けるかとは思います、が、何分、ここの従業員には恐山の息のかかった者が多いのですよ。しかし彼等は一般人で、神秘の事は知りませんぞ。勿論、一般客も居らっしゃると思いますのでお気を付け下さい。 それに加えてホテルにはあちらこちらに監視カメラがありまして……」 こことこことここと……メルクリィが広げた地図に赤いペンで丸を付けてゆく。 ノーフェイス討伐だけでなく、それ以外の事にも気を配らねばならないだろう。神秘秘匿はリベリスタの使命の一つである。 宜しく頼みますぞ、とメルクリィは赤ペンの蓋を閉じ。僅か開ける、間。 「……欲望とは果てが無く、故に、末恐ろしいものですな。 とはいえ、欲望皆無という人生も味気が無くってツマラナイもんです」 過ぎたるは猶及ばざるが如し、ですな。そう締めくくり、機械男は今一度リベリスタ達を見渡し、笑んだ。 「それでは皆々様、お気を付けていってらっしゃいませ! 私はいつも皆々様を応援しとりますぞ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月26日(水)23:51 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●ブルジョワナイト 摩天楼の輝き。それらの一つ、世間一般で言う『お金持ち向けのホテル』。 神秘の力を得るスープか。『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)は大きな建物を見上げる。彼は神秘の力――祖母の様にリベリスタになる為の力――をほんの小さな偶然で手に入れた。思い返す。それを知らせた時の祖母の嬉しそうだった顔、それに隠された悲しい目。 少年は未だ何も知らない。 少年は天才であっても未来までは分からない。 (それでも、ご祖母堂には「何か」が見えたのかもしれない) 握り締める手は『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)の手。彼が繋ぐもう反対の手には『美味しくたって完全破壊』滝沢 美虎(BNE003973)。一般客な家族の設定。踏み入りつつ。 今回の標的であるノーフェイスは、興味本位で神秘に触れようとした『悪者』。そんな奴、何も悪い事をしていないのにノーフェイスになってしまった人より簡単に……簡単に。俯いた視線。自分の爪先。ぽつりと、呟く。 「……うん、簡単に殺せるぞ」 それはまるで、自分に言い聞かせるかの様に。 「下のお部屋に呼ばれてるですよ」 地下へ向かう最中。一般的な一般人の振りをして、制服姿の『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)は微笑んだ。『この先は立ち入り禁止となっておりますので』と従業員に言われたから。 「申し訳ございません」従業員の笑みは消えない。退く気も無い。が、刹那に身体が弛緩したかと思えばぐらりと傾く従業員。それを『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が受け止める。彼女(彼)が懐にサッとスタンガンをしまったのをエナーシアは見逃さなかった。 行きましょう、と。エナーシアは超直感による警戒を、うさぎは超幻影で監視カメラに『無人の風景』を映し、迅速に問題無く目的地を目指す。 ちょっと地下に待ち合わせがありまして。『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)も他の仲間同様に、呼び止めてきた従業員にそう答えた。だが従業員は訝しんでいる。致し方ない、スタンガンで黙って貰おうかと、そう思った直後。 「彼女の言っている事は本当ですわ、そこを通して下さいませ」 横から顔を出した『必要悪』ヤマ・ヤガ(BNE003943)――本来の見かけは少女そのものであるが、化粧や服装で背が低い成人女性の見掛けをしている上に口調まで令嬢然である――言葉顔身体全てに被るはペルソナ。嘘である事すら見抜けない嘘。 「も、申し訳ございません」と首を垂れて下がった従業員にヤガは「お気になさらず」と微笑んで、ベルカと共に歩き出す。 そして監視カメラも事前情報に従って躱し、中途の従業員にはスタンガンによる無力化を、或いはペルソナ<完璧な嘘>を、リベリスタ達は問題無く侵入する。 斯くして辿り着いたのは大きな扉。目的地。そこを警備していた者は『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)と『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)がスタンガンによって沈黙させていた。 「人を騙してエリューション化させるなんて許せないな」 だけどまずはエリューションをどうにかしないと。そんな言葉と共に『変態を滅すもの』ミャウニャ・テニャニィゼ(BNE004034)も合流し、美虎達やうさぎ達も直にやって来る。 10人、全員揃った。京一による事前付与も行われ、準備は万端。 「神秘ねぇ。そんなものは見たことがないわね」 対物ライフルの安全装置を外すエナーシアは呟く。『彼等』が自分の見える範囲の外をそう呼んでいるだけに過ぎないのだ、と。 「元より、この世には不思議なことなど何もないのだわ」 『銃が扱える程度の一般人』は常の口調で言い切った。 リベリスタの視線の先にはドア傍に待機したベルカが皆へアイコンタクトを送る。3,2,1――素早く開け放たれたドアの隙間より放り込まれる神秘性のスタングレネード。炸裂する閃光、超音、どよめく声、間髪入れずに銃剣один/дваを構えてドアを蹴り開ける! 欲望の亡者どもに、ひとつ引導を渡してやろう。 「Вперед!」 張り上げる『突撃』の声、そして戦闘が始まる。 ●或る一般人曰く『汚食事会』 「こんにちは!」 突然のフラッシュバンによって狼狽しているVIPルームに次いで響いたのは美虎の元気な挨拶、元気な笑顔。「何でこんな所に餓鬼が」と更なる混乱が加わったそこへ、そう呟いた顔面へ、鉄甲デビルマッシャーが迫る。激しい電撃を纏って! 「じぇーのさーいっ!!」 ノーモーションからの壱式迅雷。怒涛の勢いで殴り飛ばし蹴り飛ばし、更にド派手な音を響かせて大鍋をも破壊する。飛び散るうまれかわりスープ。血飛沫。稲妻に瞬きキラキラ。 「……くっふっふ、今宵のわたしは血に飢えておるのだ、なんちて」 古式ムエタイの構えを撮りつつ、擡げる口角。全力で、ぶち当たる。 「何だコイツ等?」 「まぁいいじゃあないか、折角手に入れた力の『実験』と行きましょう!」 ノーフェイスの富豪達はリベリスタの奇襲に最初こそ驚いたものの、その思考は『手に入れた超常の力の試運転の機会』へシフトしたようだ。好戦的。向ける戦意。面白半分。歓喜。 愚かな――今から『世界の害悪』として駆除される事も知らないで。 「……ま、ノーフェイスが20も居るならヤマの仕事にゃ違いは無いが」 室内を見渡し、もう必要なかろうとペルソナを解いたヤガは集中力を極限に高める。 「ヤマの仕事は一つしか無うての」 呟いた、その一方で陸駆は幻想纏いより4WDを取り出し出口を封鎖した。 「人は異能を求める。それは罪だとは言い難いが、そんな弱みにつけこんだ恐山は気に食わん」 振り返り、睨ね付ける金緑の瞳。魔剣ハイドライドアームストロングスーパージェットの切っ先を突き付ける。 「天才ファントムレイザー!!!」 放つ言葉と共に富豪達を切り裂いたのは見えぬ刃の猛嵐。嵐の中に居る者を遍く切り裂く、テーブルも皿も。飛び散るスープ。割と美味しいらしいので勿体無い気がするが、気分の悪い代物。遠慮なく破壊する。 飛び退いた身体強化された富豪が拳を振り上げ地を蹴った。そこへ真っ向から立ち向かうのは戦斧を掲げたミャウニャ。ニッと笑う。 「にゃは! 悪い子はお仕置きだよ! 諦めてあたしたちに倒されてくれー!」 騙されたのは可哀想だとは思うが、エリューションは見逃せない。それにちょっと自業自得でもある。自分に出来る事を精一杯やるだけだ、渾身の力で斧を振るう。 降り注ぐは魔法系の富豪が放った焔の矢、エナーシアを護る様に立ちはだかったノエルは騎士槍Convictioでそれを一薙ぎ。火の粉が舞い散る。見遣る先には力に酔って嗤う者達。 「何事にも対価はつきもの。財をなした富豪の方々ならある程度察せるでしょうに……」 何故人は超常の力を前にして、その魅力に抗えぬのでしょうね。呟いた。それでも、彼女は『正義』を為すまで。その傍らにて、エナーシアが構えた対物ライフルの銃口がノーフェイス達を睥睨する。 「残念……生まれ変わってまで神秘を求めた貴方達を葬送るのは、高々銃が扱える程度の一般人の鉛弾の祝福だわ」 放つのは蜂の襲撃と名付けられた一斉掃射だが――それは最早『蜂』どころではない、鋼鉄の雨。空襲。爆撃。火力と言う名の暴力。 庇って貰っている以上は、撃ち抜く事だけに全霊を注いでさっさとお掃除を済ませねば。次手の為のリロード。薙ぎ払われた富豪達の呻き、罵倒、舌打ち。 そんな富豪を癒したのはフィクサードの天使の歌だった。クロスイージスに己を護らせたクックマン吉田が大袈裟に肩を竦める。『ジェーン・ドゥ』に『アークの狸』、か。やれやれアークに嗅ぎ付けられるとは。全くカレイドって鬱陶しい。 「ふむ、貴様が吉田さんか。料理、好きかい?」 「うん、大好きさ!」 攻撃教義、防御教義を順に施すベルカはフィクサードを睨ね付ける。 「しかし富豪どもの自業自得とは言え、神秘の理不尽を我欲に用いるとは許し難いな。覚悟せよ!」 「君達も似たようなもんじゃ、」 「どーもシェフ、ご馳走して貰いに着ましたよ。貴方をね」 「ゴぐぉッ!?」 言葉の途中で割り入った飛び蹴りが吉田をブッ飛ばした。受け身を取った吉田、その眼前には11人の鬼を構えたうさぎの姿が。 「当店、俄かグルメさんはお断りですよ?」 「大丈夫、私に好き嫌いはありません。何でも良く食べます」 「ほほう! それは非常に好感が持てますね~、今度インドカレーを作ってあげませう」 「私インド人じゃなくってタイ人混じりですけどね。でも作って頂いたもので毒入りでなければ有難く」 こんな遣り取りの最中にも、繰り広げられる猛攻防。しなる戦闘用緑布が電撃フライパン武舞を持ち主を直撃から防ぎ、繰り出す死の接吻が料理人を掠め、肉薄。刹那。 「『来る』わ!」 うさぎの鼓膜を撃ったのはエナーシアの声。掃射の最中も吉田の動向から目を離さなかった彼女が超直感で察知したのは、『覇界闘士で見た事の無い動き』。身構えるうさぎ。の、目前で吉田バクンと何かを食べた――ごっそり、何かが持っていかれた感触。精神力を大きく喰われたのだと知る。「中々の味ですね」と吉田が嗤う。もう技など出せぬだろう、と。 然しその予想に反して、うさぎは何食わぬ様子で鮮やかに間合いを奪うや蕩ける甘い死の刻印をフィクサードに刻み付けた。 「なッ!?」 「貴方如きのつまみ食い程度で底が尽く程、私、ミニサイズじゃありませんよ?」 大錬気。極錬気。うさぎの精神力は無尽蔵。寧ろ実質的ダメージの発生しない彼のEXが有難い程だ。残さず食い切ってやる。 「さあ、私を食べて☆ おのこしは許しまへんでー!」 「ぐ、ぐぬぬ……!」 様々な戦法があればあるほど『相性』というものが発生する。そして吉田にとってうさぎは『最悪の相性』だった。文字通り、『天敵』。 「た、食べすぎは体に毒なんですからねぇ!? 貴方達、やっておしまい!」 天敵との邂逅、そして吉田にはここに居続けなければならぬという使命もない、捕まったり殺されたり痛い目に遭うのは真っ平だ。となれば、取る行動はたった一つ。 逃走。 クロスイージスのメイドさんに自分を庇わせ、ホーリーメイガスとインヤンマスターに全体攻撃を行わせて牽制し。序でにそれで出口を塞ぐ車を破壊して。 「食事会の途中でシェフが中座しちゃー駄目ですよ」 「煩いですよ明後日辺りに食中りしろです!」 うさぎの言葉に捨て台詞、させるかと言わんばかりにエナーシアとヤガが放った弾丸と気糸を既にフラフラのクロスイージスに庇わせて。視界から消えた。満身創痍のメイドさん達も続く。だがリベリスタが無理に追う事はしない。 (悔しいですが、) 請け負った仕事が優先。うさぎは得物を握り締める。彼の相手で、深追いで、脱落する訳にはいかない。 「畜生め……」 吐き捨て、数の減った富豪達へ飛び込むや11人の鬼と踊る。ズタズタに、切り裂く。 「クックマンめ……つまみ食いは怒られるんだぞ?」 同じくミャウニャも眉根を寄せ、刃を振るった。 続く戦い、手数で立ち向かう富豪達の猛攻に運命を削った物も出てくる。 だが戦況はリベリスタの優勢であり、決着が見え始めていた。 「奮える魂の一撃はっ! 岩山をも砕くっ!」 美虎のデビルマッシャーが雷光に輝き、凄まじい武舞を以て薙ぎ払う。飛び来る火球をも拳で薙ぎ払い、フッと息を吐いた。血の垂れる頬を拭う。富豪の数は減って来ている。中には吉田に続いて逃げようとする者まで現れるが、それはベルカの弾丸が許さない。 「逃げようとする者は任せてくれ!」 狙う照準、その先。不利な状況を悟ったのか、富豪達の間に広がっていたのは明らかな動揺だった。飛び来る毒弾がベルカを貫く。自棄っぱちになった者は死なば諸共と化物じみた絶叫を上げながら滅茶苦茶に攻撃を繰り出している。 だが彼等は、『世界の敵』なのだ。なれば討ち滅ぼす他に道はなく、ノエルはその為にここに居た。その運命は世界の為に、その槍は世界の敵に。憎しみや怒りではなく、ただ世界の為に。世界に害為す者を生かす道理は無い。破壊的な威力を以て槍を突き出せば、それは全てを貫いた。真っ直ぐに。彼女の生き様を表すかの様に。 「僕の戦略演算にかかればどんな案件もあっという間だ」 陸駆がひょんと揮う指揮棒の様なさいきょうの剣。巻き起こる不可視なる刃が、弱った富豪に確実にトドメを刺す。 そして、残り僅かとなり命乞いをする彼ら『全員』を、静かに狙ったのは――ヤガのインスタントチャージによって『リロード』を終えた、エナーシアの対物ライフル。 「BlessYou! 次生まれてくる時は神秘程度に惑わないことね」 そして弾幕。襲い掛かる。銃声と共に赤を咲かせて踊るノーフェイス。容赦なく、終幕。 斯くして硝煙の彼方に立って居た者は無く。ただ床にじわじわ赤い色が広がるのみで。 ●勿体無いお化け 「ノエルさん、ありがとう」 「いえ。お疲れ様です」 ノエルにエナーシアが礼を述べる一方で、サテ。うさぎと陸駆は戦闘で派手に撒き散らされたスープの片付けに向かう。 「……清掃業の後も清掃業。全く益体もないのだわ」 溜息を吐き掃除中のエナーシアの傍らで、ベルカは無事だった皿のスープをちろっと舐めてみる。物凄く美味しかった。テーブルにはまだ幾つか皿に盛られたスープが残っている。 「同志諸君! まだ残っているぞ、それにとても美味しい」 振られる尻尾がその証。だがエナーシアは苦笑一つで首を振る。その様子にうさぎが首を傾げた。 「え? 飲みたくない?」 「飲まないわ。だって、ウミガメのスープみたいじゃない?」 「そっかーしょーがないなーでも飲め」 「えぇ…… え?」 「いいから」 この後。所謂『スタッフが美味しく頂きました』なのでした。 ●そしてブルジョワナイト リベリスタ達は騒ぎが広まる前に来た時と同じ要領で迅速に脱出し、ホテルの外。夜の闇に紛れ、帰路に就く。 その最中。美虎は俯き、ふと――何かを思い出すかのように横を歩く京一の手をきゅっと握った。 「どうしたんですか」と彼の声にハッとして、美虎は弾かれたように顔を上げればいつもの明るさで健気に笑って。 「……わ、わはは! 何でもないぞ! ちょっともっかい握りたかっただけ!!」 「そうですか、構いませんよ」 京一は敢えて彼女の『言い訳』を、それを言いながら涙目だった理由を、訊ねなかった。ただ静かに少女の手を優しく握る。 「……」 美虎はその手を握り返して、再び俯いた。心に浮かぶのは、死んでしまった父親。複雑な気持ち。それでも繋いだ手は暖かくって。暖かくって。 一人静かに、手の甲で目を拭った。、 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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