● 薄暗い森の中で、それは生まれた。 産声と言うにはそれは、あまりにも醜く、邪悪で、そして貪欲。 それの最初に抱いた欲求はただ1つ。目の前にあるもの総てを狩り尽くすことだけ。それは気付いたのだ。何かが近づいてくることに。 だから、それは狩り尽くす。 そして、それの通った道を汚泥と変えて。 ● ここしばらく、橋頭堡は平和なものだった。 次第に破壊された拠点の修復も進み、フュリエとの交流も進んでいる。 しかし、そこでリベリスタ達が油断するようなことは無かった。 撃退に成功したとは言え、いつまたバイデンの襲撃があるかは分からない。加えて、バイデン以外にもラ・ル・カーナには脅威が存在するのだ。 『みにくいあひるのこ』翡翠・あひる(BNE002166)もそうしたリベリスタの1人。 「右よしっ、左よしっ、頭上よしっ……! 今日も指差し確認……!」 指さし確認を怠らず、周辺の警戒を行っている。そして、森の中に差し掛かり、同様の手順で動こうとした時だった。 「右よしっ、左……よくない!?」 ● 「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。本来であればゆっくりとおもてなしをしたい所なのですが、今日はそういきそうにもありません」 フュリエの長、シェルンはリベリスタ達に早速用件を切り出した。 リベリスタが哨戒中に発見した巨獣についてだ。 「現れたのは巨獣が1匹。カマキリのような姿をしています。それなりに高い力を持っており、困ったことに私共の集落へと向かってきているようなのです」 黒く巨大なカマキリのような姿をした巨獣ということだ。話を聞く限り、前足が鋭い刃となっており、高い攻撃力を持つようだ。しかも、素早い反応速度に、鋼のような外骨格の持ち主である。正直、フュリエ達で相手にするのは難しそうだ。中々の強敵と言えよう。 「しかも……もう1つ、恐ろしい能力を持っています。どうやら、この『忌み子』が歩いた場所は腐り、毒の瘴気を放つようになってしまうようなのです。今までに同種の巨獣を見かけたことはありますが、このような能力はありませんでした」 ここで、言葉を切って何かを言い淀むシェルン。しかし、意を決して続きの言葉を話す。 「大恩ある皆様に隠し事をしても意味はありませんね。どうやら世界樹のバランスがいよいよ崩れてきているようなのです。おそらく、変異の理由はそこでしょう」 息を呑むリベリスタ達。それが本当なら、たとえこの件がその一端に過ぎなくとも、放置できるような事態ではない。 リベリスタ達は頷き合うと、シェルンが教えてくれた巨獣のいる場所へと向かおうとする。 「くれぐれもお気をつけて」 フュリエの族長は、深々と頭を下げるとリベリスタ達を送り出すのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月23日(日)23:11 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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● 濁った風が荒野と森の境界線に流れる。 まるで悪意そのものが風となったかのような、重たい風。 それはあたかも、ラ・ル・カーナを覆う暗雲のようで。 「やっぱり指差し確認は、確実に確かめられるからいいわねっ。あひるってば、ぐっじょぶ……っ!! ……な、なんちゃって」 第一発見者であるあひるは冗談めかして言った後に、恥ずかしくなって顔を赤らめる。今は冗談を言っている場合ではないことに思い至ったからだ。 「コホン、フュリエの村に着いちゃう前に、しっかり退治しないとね。これ以上、この綺麗な森を、瘴気で穢させないわ……」 居住まいを正すと、シェルンから聞いた『忌み子』の居場所へ歩を進める。 「『忌み子』ですか。世界樹もかなり危ない状態になってきてるのでしょうか? そちらも調査も行きたいですが……」 『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)は起こった現象への分析を忘れない。 見上げるとその遠く先に見えるのは世界樹エクスィス。全ての始まりは、この世界そのものとも言えるあの存在がバランスを崩したことに端を発するのだという。この状況を解決するためには、その根本に触れる必要があるだろう。 「巨獣にも異変が起きているようだしな。世界樹を調査する機会があれば異変についても何かわかるんだろうか?」 アークとバイデンの戦いが一段落して、しばらく巨獣による被害は数を減らしていた。だが、『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)の言う通り、ここ数日警戒に当たるリベリスタから再び巨獣発見の報が相次いで現れたのである。 それも以前のようにただ暴れるのではなく、『何か』の接近を予知しているかのような印象を与えるのだとか。あえて言うのなら、沈没する船からはネズミが逃げ出すという話。それに似ていると言えるだろう。 「世界樹のバランスが本格的に崩れ始めたとの由。私達に何かできることがあると良いのですが……先ずは任務遂行ですね」 分かっていることはほんのわずかだ。それでも、『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)はこれから戦う相手のことを考えて小さな拳を握り締める。まだリベリスタ達に出来ることは少ないが、それでも一歩一歩進めていくしかない。 それにしても、としばらく歩を進めた所で『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)はため息をつく。 「美しい森が……こうも腐り果ててしまうなんて。これでもまだ、あひるさんのお陰で早期に発見出来た方なんでしょうけど」 『忌み子』の通った跡を発見したリベリスタ達は思わず唸ってしまう。 森の一部が腐り、憤怒と渇きの荒野とさほど変わらない景色になっているのだ。しかも、腐った大地と木々は瘴気を放ち、生き物を拒絶する空間と化していた。 「このまま放置すれば、どこまででも被害が広がってしまうわ。世界樹のバランス崩壊の原因はこれから探るとして……まずは、虫退治といきましょう」 幸いと言うか、この様子ならば追跡に手間取ることは無い。勢いを増すリベリスタ。 ただ、『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)の顔に、若干の迷いは無いではなかった。 「バイデン、フュリエときて巨獣にまで変異ねぇ。まあ、元より変わって当然なのだけれど」 エナーシア自身が、100パーセントの無難な勝利よりも確率の低い大勝利を望む美学主義者。 「変化をしないことをして完全世界だなんて称するとは、ラ・ル・カーナの人はコンピュータ様辺りと気が合いそうね」 こうした皮肉が浮かぶのも致し方ない所ではある。所詮、ラ・ル・カーナが完全世界と言うことすら、フュリエの中の閉ざされた常識に過ぎない。異なる価値観を持つボトムチャンネルの住人が目にすれば、違う見え方がするのは当然のことだ。 「ま、それはそれとして、真面目な話。『忌み子』とやらを生み出すほど、世界樹は危険な状態ってことだ。世界樹の調査なんかも必要なんだろうが……まあ、俺のような一兵卒が考えても仕方ない。だったら……」 『合縁奇縁』結城・竜一(BNE000210)は近づく敵の気配に対して作った表情を一気に緩ませる。 「そつなくこなして、フュリエたんの俺への好感度をあげてみせるぜー! ヒャッハー!」 これがアークの結城竜一と言う男。 ボトムチャンネルだろうが、ラ・ル・カーナだろうが変わりは無い。ある意味で「完全」と言えるほどにぶれが無い。 と、その時だ。 「見えた。まだこっちには気付いていないようだが、これ以上接近したら気付かれるだろう」 周辺の警戒をしていた疾風が仲間達を止める。 わずかに遅れてミュゼーヌとエナーシアも『忌み子』の存在を検知したようだ。今度こそリベリスタ達の表情に緊張が走る。だが、それは緊張であって恐れではない。 「バイデンを退け、拠点を取り戻し、暫くは平和なものでしたが……。結局は嵐の前の静けさ……と、言ったところだったのでしょうね」 『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)はこの世界へ訪れてからの数か月を思い返す。 「確かに、世界樹はバランスを崩し始めているのでしょう。……それでも、私は願っているのです。狂った世界樹が正しき姿に戻る、その時を。だから、今は戦おう」 ミリィは手の中にある杖を強く握りしめると、破壊の使者がいるだろう先を睨みつける。 また、愛を以って世界を救うことを願う少女、『愛の一文字』一万吉・愛音(BNE003975)もまた、『愛』の一文字を掲げて、瘴気の中へと踏み込む。 「支援は万全、闘志は十分。さあ、異世界に愛を咲かせるのでございます。この戦、愛を持って立ち向かうのでございますよ! LOVE!」 「戦って、生まれたばかりの彼を揺り篭に還そう。……任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう」 ● 黒い瘴気を漂わせる汚泥の中にそれはいた。 不気味に目を爛々と輝かせ、その巨体を機械のように動かして、獲物を探している。 「カマキリさん、ストップ……! ここからは、行っちゃダメッ!」 あひるはそんな巨獣を呼び止める。言葉が通じる道理は何処にも無いが、自分達の存在に気付けば進行を止めるだろうとふんでだ。 「思ったよりでかいカマキリだな」 感心したように疾風が呟く。聞きしに勝るとはまさにこのこと。そして、単に巨大なカマキリと言うだけではなく、感じる野生の殺気も大したものだ。たしかに、リベリスタと言えど、1人で相対してどうこうなるものではあるまい。あひるは必死に自分を鼓舞している。小さなカマキリに会っても、悲鳴を上げてしまうのだ。それでも、ここでこいつを放っておいて良い理由にはならない。 「厄介そうだが倒す!」 「怖くないもん、負けないもん……!」 「全く、カサカサと気味悪い……止めるわよ!」 「キシャァァァァァァァァァ!」 そんなリベリスタ達に対して、ガラスと発泡スチロールを擦るかのような声で巨獣は叫ぶ。自分の領域の中に異分子が紛れ込んだことに気が付いたのだ。だが、それを不快に思っている様子は無い。むしろ、殺戮の喜びに猛っているかのように見える。 (こいつの体が毒を出している、というよりも神秘寄りの力みたいね。それと、外骨格の隙間は……) 真っ当な神経の持ち主なら、まずは恐怖で身が竦むだろう空間。 そんな中でもエナーシアの瞳は敵の姿を捉え、冷静な分析を行っていた。たしかに並々ならない相手ではある。しかし、弱点も確かに見える。そして、自分なら狙うことが出来る。 「準備は大切ですからね」 「神秘とは人の理解を超えるもの……過度の期待は控えましょう」 マスクをつけて、瘴気に包まれた空間を進むリベリスタ。この程度でも何もしないよりはマシである。場に近づいただけでも、身体に変調を感じる。あってはならない話ではあるが、ボトムチャンネルの住人が紛れ込んだ日には、完全装備をした上でも命の保証が出来ないだろう。 そして、戦場に降り立ったリベリスタ達が射程内に入ったのに気付いた巨獣の行動は思っていた以上に機敏だった。大きく両手の刃を振り上げ、リベリスタ達へ向かって振り下ろす。 すると、空すら切り裂く斬撃が真空の刃となってリベリスタ達に襲い掛かる。 その時だった。 同様に振り下ろされた刃が、真空の刃を打ち砕く。 「カマキリ。俺はお前を忌む事はしない。お前も、この世界に生まれたからには、生きる権利がある」 泥の中に足を埋めながらも、しかと大地を踏み締め、竜一は2振りの剣を振り上げる。 「が! その上で、お前を殺す。ここは俺の世界じゃないが、この世界に生きる者のために。フュリエたんたちのために!」 轟と風が渦巻く。 竜一は自分の生命の炎を解き放つと、巨獣に向かって猛然と突進していった。 ● 巨獣は強敵だった。 飛び抜けた素早さでリベリスタ達の動きを封じ、そこへ必殺の一撃を叩き込むという、完成された狩人の動きを持っている。 加えて、戦場を変質させることにより、毒で苦しめるのみならず、機動力を奪うのである。 とても自然に生まれたとは思えない、悪意の結晶体のような存在だ。 そんな存在に対して、ミリィは想う。 (きっとあの子は、恐れているのだ。自らを傷つける存在を。だから、傷つけられる前に傷つける。狩り尽くす。……そんな生き方は、悲しいですね) 恐怖心があればこそ、過剰な攻撃行動に出る。 巨獣はそう思わせる程に、苛烈な攻撃を仕掛けてきた。 しかし、そんな相手にすらリベリスタ達は一歩も引かなかった。 「さすがに全部を防ぎきるのは無理があるかな」 「ですが、この万全な愛の護り、やすやすと突破はさせないでございます!」 愛音の愛に満ちた瞳に一切の迷いは無い。 全身に生傷は絶えず、巨獣の動きを止めようとするリベリスタ達の疲労は大きい。そして、愛音自身には巨獣に対して決定打を与える能力は無い。それでも、諦める理由たりえないのだ。 自分を取り巻くものの命を刈り取る巨獣の鎌、命を刈り取れなかったとしても流れる血の量はリベリスタ達の足を鈍らせるのに十分なものだ。そして、巨獣が歩を進めようとした時、癒しの風が戦場に流れる。 否。 癒しの風が吹き荒れる。 「そんな攻撃したって、あひる達がすぐに治しちゃうもんね……っ!」 「神の加護がありますように」 「お二方に恥じる事なきよう……精いっぱい頑張らせて頂きます……」 あひる、凛子、シエル。 3人のリベリスタの祈りが唱和される。 それと同時に癒しの息吹が呼び込まれ、仲間達に小さな翼が与えられた。 彼女らの願いは至ってシンプル。 この崩れゆく世界を救いたいという、純粋で真っ直ぐな祈りだ。 何処にいるか知れない上位の存在は、その祈りを聞き届ける。 瞬く間に癒えていくリベリスタ達の傷。幾度となく瘴気も彼らの肉体を蝕むが、その度に彼女らの祈りが退けて行った。 そうなれば、今度はリベリスタ達が牙を剥く番だった。 「多少変異していても、足を撃たれれば動けなくなるでしょう?」 軽い薬莢詰まりを起こした魔力銃を直し、エナーシアは素早く早撃ちを決める。狙う先は先ほど見抜いた、外骨格の隙間。如何に鋼のような強度を誇る装甲を身に纏おうとも、その隙間までも丈夫という訳にはいかない。 「どれだけ外殻が固くても……そこはどうかしら?」 ましてや、圧倒的な物量で圧されては防ぎようも無い。 ミュゼーヌも同じ場所を狙う。高速で動き回る的の持つわずかな隙間に、同時に2つの弾丸が穿たれる。 たまらず巨獣は膝をつく。 「いくぞ!」 「おう!」 光の如き速さで、その名に違わぬ『疾風』と化した疾風。 電撃を纏ったDCナイフ[龍牙]で巨獣を容赦無く攻め立てる。 そこへ竜一の生命の叫びが、破壊そのものの力となって2度叩きつけられた。 「ぶつけて見せろ、お前の命の輝きをなぁ。俺も、俺の命をさらけ出して応えてやる!」 相手は敵だ。 それも、ただ殺戮を繰り広げようとする獣に過ぎない。 それでも、竜一は真正面からぶつかる。 巨獣の命に答えるため。 「キシャァァァァァァァァァ!」 そんな叫びに答えたかからであろうか? 再び巨獣が叫び声を上げ、自分を取り囲むリベリスタ達を切り裂く。 夥しい血が戦場に流れる。 しかし、それすら泥に紛れて何が何やら分からなくなってしまう。 「キシャァァァァァァァァァ!」 さらにその勢いに任せて、巨獣はその鋭過ぎる刃を目の前の少女に振り下ろす。 しかし、そこで血が飛び散る音はしなかった。 代わりに聞こえたのは派手な金属音。 見ると、愛音の手に握られた盾が、しかと刃を防いでいる。 その盾には『愛』の文字が燦然と輝いている。 「愛音は自らに定めた役割を成し遂げるのでございます! それが! LOVE!」 愛音の実力は前衛に立つリベリスタとしては一歩劣っている。だが、そんなことは重要な問題ではない。大事なのは戦い方だ。自分を知ればこそ、十分な役割を果たすことが出来る。 そして、必殺の一撃を防がれた巨獣は動きが止まってしまう。 いや、止まったというと言い過ぎだろう。ほんのコンマ数秒、今までよりも防御行動に移るまでの時間が長かっただけの話。 しかし、それだけの隙があれば十分だった。 「世界樹より産まれし、怯え子よ。今はただ眠り、世界樹に還りなさい」 ミリィが謳う。 そして、その唄に乗って生じた真空の刃が、巨獣に向けて真っ直ぐ飛んでいく。 「狂った世界樹が正しき姿に戻る、その時まで」 ミリィの唄の終わりと共に、巨獣の首は宙に舞った。 ● 「何かヒントになることがあると良いのですが……難しそうですね」 巨獣の死骸を調べていた凛子は首を振る。 巨獣を倒して腐った戦場が元通りになる、といった都合の良いことも起きず、依然として戦場の有様は変わらない。後は森の自浄作用に頼るしかないのだろう。これ以上広がる気配を見せないことは重畳といった所か。 リベリスタ達の表情が翳る。 しかし、そんな暗い気配を吹き飛ばしたのは、愛音の笑顔だった。 「先はまだわからずとも、愛音達一人一人がまっすぐ向きあえば、悪い方向には向かわないのでございます。愛音のLOVEが保証するのでございますよ! LOVE!」 根拠も何も無い言葉だ。それでも、その真っ直ぐな意思はリベリスタ達の心を和らげる。 「そうだね。あひるも、非力だけれども……力になれるよう、頑張らないと……っ!」 「えぇ、確かに元の世界樹に戻すことは出来ないのでしょう。それでも、この世界に来た事に意味があると思うから」 想いを新たにするリベリスタ達。 そうして見上げる先には、今日も世界樹が聳え立っているのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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