● 「なんでこんな事に巻き込まれなくちゃいけないんだ!」 出口は何処だと悪態をつきながら必死に逃げるは一人の男。服も呼吸も乱れて満身創痍、それでも後ろを振り返ることなく廃墟の中を走り続ける。後から聞こえる獣の息づかいから、駆ける足音から逃れようと。けれど悲しいかな悲しいかな、角を曲がった男の前には少女が一人。 「お、おい、君も訳の分からない女の子に連れてこられたんだな? 後から来てるんだ、早く逃げないと」 必死にまくし立て手を引こうとする男が動こうとしない少女に振り返ると、少女は朗らかに笑っていた。そして後にいたはずもう獣の気配は消えていた。 「ああ、捕まっちゃった。おっしーね、この先が出口だったんだけど……」 「おい、おい、まさか……まさか……」 男が最初に突きつけられたのは一つのルール。この廃墟から出るまでに犬に捕まったらそれでおわりの鬼ごっこ。生き残るには見つからずにここから出ること。だから男は必死に追いかける犬から逃げていた。 「大当たりで大外れ、私が犬だよ、不運なおじさま? それじゃあ楽しんでいこうか」 その直後響いたのは四肢を順繰りにをもぎ取られていく男の悲鳴だった。 「月曜日って憂鬱な響きじゃない? こう一週間が始まったーしんどいって言う」 「あーわかりますー学校かったるいなーって感じですよね、行ってませんけど」 どこかで聞いたことがあるような台詞を紡ぐのは、見た目は普通の少女達。もっとも、そんな会話をしている背後では一般人だったモノが犬に肉を食いちぎられていたが。まだ息のある者から聞こえるのは堪えない悲鳴と怒号、それを楽しそうに聞きながら少女二人が嗤う。 「犬に見つかったのが運の尽き、月並みだけど死んじゃいな?」 「助けがないのが運の尽き、来世に期待で死んじゃって下さい」 突き放す言葉と共に犠牲者達からブチブチと音を立てて体が引き裂かれていく。先ほど腕をもがれ、足をもがれ捕まった男もすぐに肉の切れ端になりはてた。 その様を見て嗤うは魔性の少女達。男を引き裂いた犬よりも、化け物じみた犬よりも。人の形の化け物達(フリークス)。 「うぅ悲鳴ってやっぱさいっこう! ハルにも見せたかったよー腕をもいだ感触もそのときの唖然とした顔も悲鳴もすってっきー!」 「あらあら、狗鬼の御姉様が楽しそうで何よりです」 死にゆく様に興奮してか、獣と化した腕で自らを抱きしめ悦に浸る狗鬼と呼ばれた少女。ハルと呼ばれた少女は犬の一匹に腰掛け狗鬼の様子が心底嬉しそうにただただ笑っていた。 「でもさー最近鬼ごっこも簡単すぎてつまんなくなってきた、もっと面白くならない?」 「それは考えていますよ、次くらいは鬼ごっこではなく、ケイドロになるやもですね」 「そっかーやっぱ妨害とか合った方が燃えるもんな、楽しみ!」 ひとしきり悦に浸った後おねだりする子供のような狗鬼。それをいさめるでなく、ハルは次なる遊びを提供する。笑顔の我が子を溺愛する母のように。 解体狂いと溺愛狂い、次の犠牲者は助かるかしら? ● 「フィクサードから一般人を助けてきて」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったブリーフィングルームのリベリスタ達に一言で用件を伝える。彼らの手元にある資料にはとある廃墟になった学校と、二人の少女の姿があった。 「彼女たちは『主流七派』が一派黄泉ヶ辻に属するフィクサード。一般人複数を廃墟に押し込めて、鬼ごっこと彼女たちが呼ぶ遊びにつきあわせている。出口が一つしかない場所で、出口にたどり着けなければ死、そんな絶望的な遊びに」 自分達がしたいから、自分達の欲望を満たすために。ひたすらに何度でも。 「救出対象となる一般人は20名、内5名は覚醒済み。廃墟内に結構ばらばらに存在してるし、追いかけてくる相手からは逃げようとするからちょっと大変かもしれない」 「彼女たち自身も能力は高いけれど、ハルという子は一つアーティファクトを持っている。自分の足を6匹のE・ビーストと変え、使役する。鬼ごっこにはそのE・ビースト達も使われるみたい」 だから単純に一般人の保護と言っても二人を叩けばいいと言うだけではないとイヴは語りリベリスタ達に注意を促す。 「ただ、アーティファクトの性質上ハルは動くのが困難。常に一匹を自分の足代わりに跨がってるみたいだけど、それでも急には動けない。あるいみ無視できると言う利点。今回の目的はあくまで一般人の保護。迅速に、かつ確実に御願い」 犠牲者をださないために、そう決意を込めた視線で見つめるイヴにリベリスタ達も力強く頷き返し、イヴは少し安心する。 「最期の補足、貴方達が到着する頃フィクサード達は出迎えるつもりみたい。どうもハルの方はこちらの反応も伺ってるっぽい。貴方達のことを遊びの相手としてだけ見てるわけではないの、かも」 ――イヴの最後のことばだけは、少し歯切れが悪かった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:今宵楪 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月29日(土)23:12 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「人の命でゲームをするなんて許せないわね…。他の誰が許そうともあたしだけは絶対許さない!」 芝原・花梨(BNE003998)は全員守ってみせる、そう心に決めフィクサードへの強い敵意を燃やす。被害者の中に覚醒した者も居るため刺激しないよう自前のうさみみをフード付きパーカーで隠していた。 「そうだよ、遊びだゲームだそんな理由で人を犠牲にするなんて許せるもんか!」 『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610) は花梨の言葉に強く頷き、同じく人を守る意志を表明する。臆病な心根も、誰かを守るためなら強くなれるから。 「相手は黄泉ヶ辻の連中か。秩序も理性も無く、思うが侭に力を振るう。最も共感できて最も理解したくないタイプだぜ」 「全くだ。武無き者達を追い詰め狩人気取りなど実に醜悪。見るに耐えん」 そう言い放ち侮蔑をみせるのは『墓堀』ランディ・益母(BNE001403)と『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)の二人。欲望に忠実な狂いし者なんて理解はできない。やるべき事はただ一つ、企み打ち砕く、そのミッションの遂行を。 「はじめまして、お嬢さん方。俺たちは設楽悠里と愉快な仲間だ。君らを止めに来た」 『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)はどこかコミカルに寂れた校舎の前に居座る人影に声を掛ける。目的を許さぬと告げるために。 「ああ、いらっしゃいませリベリスタ。ゲームの舞台で、ゲームの部隊」 「ああ、いらっしゃいリベリスタ。狩るか狩られるか二つに一つおもしろおかしく遊ぼうよ」 そんな言葉に応えて、満面の笑みを浮かべてリベリスタ達を迎えるのは黄泉ヶ辻がフィクサードの二人。遊び相手が来たことに綻ぶ顔は美しくも狂気が宿っていた。 「ああ、一般人は確保させて貰いますよ」 そんな二人に向けて事も無げに『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)は言い放つ。サングラスと銜えた煙草から立ち上る紫煙がその表情を隠し、真意は伺えない。 「まぁつれない。では始めましょうかリベリスタ。猟犬六匹鬼ごっこ、全て死ぬまでに止められるなら貴方達の勝ち。そうでないなら」 「私が楽しくて仕方無い。単純明快命のゲーム。抗ってみせなよ」 芝居がかった仕草でハルが指を鳴らし、狗鬼は立ち上がり拳を構えリベリスタ達を見据える。その殺気に応えるようにリベリスタ達も武器を構え、駆け抜ける。 ● 「やれやれ、残機10とか無理ゲーな気もするがね」 そう呟きながらフィクサード二人の脇をすり抜け『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)は誰より早く校舎内へと突入する。花梨同様一般人に配慮して唯一人武器を構えぬ彼女であるが、その速度は戦場随一で足並みを揃えた上で突き抜ける。 「ちょ、ちょっと。私より先に入るなんてなしだよ!」 「待ちなよ、そうはいかない!」 それに憤慨し、慌てて後を追おうとする狗鬼へ待ったを掛けたのは凍気を纏う悠里の拳。狗鬼はそれを反射的に受け止めて意識は、脚は止められる。 「ねぇ、僕とゲームをしない?」 その瞬間に声を震わせ、感情を押し込めながら悠里は提案する。人の命を弄ぶようなゲームなんて吐き気がする。それでもその命を助けるために時間を稼ぐために選択する。 「僕は全員助けたい。君は自分の手で殺したい」 「僕と一対一の戦いをしよう。その決着が着くまで獣たちをその場で待たせて欲しい」 勝ったほうが自分の望みを通す、単純なゲームだ。そう告げる悠里の言葉に黙って聞いていた狗鬼が震える。 「アハハハハ! ねえ聞いたハル? 逆にゲームの提案だなんてこのお兄さんはとってもとっても愉快だよ!」 何がそうまで可笑しいのか、お腹を抱えて狗鬼は笑う。その様を慈しむのはハル一人。突入するつもりのリベリスタ達も一瞬足を止めてしまうほどに狗鬼は戦場に似つかわしくない笑い声を上げていた。 「半分だけならきいてあげる。一対一で戦うよ。ハルの犬に人を襲わせるのはやめさせないけど、私はお兄さんで遊ぶことにした」 笑いすぎてうっすら眼に涙を浮かべながら狗鬼は半身をずらし、校舎内への道を空ける。そしてハルもまた溜息をつきながら身をずらし、このまま行けとリベリスタ達に言うように指を指す。 「黙って通すというのか? ずいぶん舐められたものだ」 「言い出したら狗鬼の御姉様は聞きませんから。どちらにせよゲームは始まったのです。貴方達こそ急がないと不利なだけですよ」 『必要悪』ヤマ・ヤガ(BNE003943)が罠かと一瞬訝しがるのも無理はない。それでもハルは苦笑とともに、リベリスタ達を中へと誘う。忠告自体は事実、リベリスタ達は頷きあい校舎の中へと駆け込み散っていく。 二人の勝負を見届けながらリベリスタ達より先に殺し尽くし、その悲鳴だけでも狗鬼の耳に届けよう。そう思い校舎を見通そうとするハルをしかして横から放たれた旋風がなぎ払う。痺れるような一撃を受け止めながらそれを放った竜一へとハルは微笑みかける。 「おや、助けに行かず私の相手なんてしていて良いんですか?」 「そうつれないこというなよ、一人じゃ寂しいだろ。あっちは楽しくやってんだ、俺らも遊ぼうぜ」 やれやれと大げさに肩をすくめハルも竜一へと向き直る。こうして悠里と竜一は仲間のためにフィクサード達を抑えに掛かる、その形が実現した。 「行くよ、竜一くん!」 「戦鬼烈風陣に巻き込まれるなよ悠里!」 威勢良く返した竜一に二人だけなんだから位置取り調整してよと全力で悠里が突っ込んでいたのは見なかったことにしよう。 ● 寂れた校舎に香るのは特有の埃とカビの匂い。そして混じった真新しい血と獣の匂い。視界の悪さもヤマの持つ懐中電灯で補いながらりりすの鼻がとらえたその匂いを追いかけてりりすとヤマはひた走る。そうしてたどり着いたのはかつての理科室と思われる部屋。扉を開けた二人の前に部屋の隅で縮こり震えていたのは幼い少女が一人。 「あの、貴方達は?」 「お主らを助けに来た者だ、安心すると良い」 そういってヤマは少女へ手を伸ばす。急にそんな事を言われて少女も混乱しているようだったが、敵意がないのを見て取ったのかその手を取り立ち上がる。しかし何かに気付いたように突然ヤマ達の背後を指刺し悲鳴を上げる。 「駄目です後!」 「問題無い。それも観えている」 直後に上がるはガキンという堅い物がぶつかり合うような音。りりすは背後からの奇襲にも冷静に、一瞬で取り出した二刀を持って受け止める。そう、追いかけてきたハズの警戒していた相手に不意打ちなど受けるわけもなく。 「やはり猛者故心強いなあ」 「まずは一匹目。フィクサードが何考えてようが、腹に入ればみんな一緒さ。狩るのか。狩られるのか。それだけだ」 ヤマが背後に一般人を庇い、りりすは飛びかかってきた黒犬を押し返して鮫のような歯を見せ笑う。一般人も、E・ビーストもどちらもまずは一。 「Aチームは手早く接触できたようだな」 「ええ、こちらも向かいましょう。ここから一番遠いのは二階の西側角のようで」 リリスとヤマが最も近い相手に向かう一方でシビリズと星龍のコンビは逆に最も遠くの一般人を狙う敵を暴き出す。ソレを可能にしたのは星龍のもつ感情を探り出す力。 範囲の中に多くの対象がいるため完全な把握とはいかなくとも、人とそれ以外との違いならばおおよそ把握ができた。恐怖を感じる人間と純粋に殺意という感情に支配された獣、判別するのは容易。その位置情報はアーティファクトを通じて味方へと告げられる。多くの命を助けねばならぬ今回の依頼ではソレは大きな助けと成る。 狙うは救出、全ての一般人の安全を確保するまでとまれない。 「ランディさん、向こう側に人がいますそこの瓦礫をぶち抜いて!」 「任せとけ!」 星龍からの情報、そして花梨の耳に届く音、それらを統合して二人は一般人を助け、脱出路を造るために廃墟内のがれきを吹き飛ばす。ランディの戦斧と花梨の鉄槌が振るわれるたびに道が開かれ一般人のもとへたどり着く。逃げる者、逃げることすら出来ず隠れている者達の中には戸惑う者も居るが、それでも人の姿を見て安堵した彼らは大人しく二人についていく。 「革醒者がいるらしいが、そいつらも確保しねぇとな」 「そうね。でもどちらにしても全員逃がすための道も確保しないといけないわ」 そうして救出することに重きを置いた二人は既に多くの一般人を連れている。だからこそ慎重に周囲を警戒していた二人の前に現れるのは殺意を持った一匹の獣。しかし獣の前でも怖れぬ二人は獲物を構え、敵を見据える。 「で、道のためにはあいつらは邪魔なわけだ。敵は俺が吹き飛ばす!」 そう言って強烈な踏み込みとともにランディは戦斧で敵をなぎ払う。独特の風切り音とともに放たれた強烈な一撃に吹き飛ばされたE・ビーストは怒りの唸り声を上げる。しかしE・ビーストが反撃にでるよりも一瞬早く飛びかかった影の一撃でさらに遠くへと、一般人から遠くへと黒犬は吹き飛び強か壁に打ち付けられる。 「2、後三匹仕留めるよ」 全身の力を一撃にこめ、振るった花梨。彼女の告げたカウントは、救出のためのカウントダウン。全てのE・ビーストを打倒したなら一般人は安全なのだから。 ● 「そしてこれが3と4。……手早く倒しましょう」 千丁に一丁の奇跡、その体現たるライフルで光の弾丸を撃ち込みながら星龍が呟く。打ち込んだ様子から観察するこのE・ビースト達の動きはフェーズ2とはいってもきわめて優れているわけではない。しかしそれは十分な研鑽を積んだリベリスタからみての言葉。一般人が対抗できるものではない。なによりもその牙が、命を奪うものだから。 その証拠にE・ビースト達の足下には一人の男性が倒れていた。犬から逃げる余り、星龍達の足音にも怯え、袋小路へ逃げ込んだ先に運悪くE・ビーストが待ち構えていた不運な男だ。 「ああだが奴らの攻撃は侮れんよ」 弐体分の攻撃を前に出て受け止めるシビリズは評する。爪の引き裂く一撃も、牙を突き立てる攻撃も、防御を固めていても着実に命を削る衝撃があるのだ。しかしそんな攻撃を何度受けてもシビリズは狼狽えない。被害者を少なくするため、傷を受ける程度で音を上げられるものではない。 「よくもやってくれたものだ、だがここからが私の本番だよ。さぁ闘争を楽しもう」 連続で放たれるE・ビーストの一撃で胸元を切り裂かれたシビリズは倒れそうになるところを運命の加護で踏みとどまる。そして傷つこうとも力は衰えず、むしろこうして傷ついてからこそがシビリズの真骨頂である。逆境を乗り越える力、彼の突き出した槍は光を放ち、E・ビーストを貫く。全霊の一撃は過たず破邪の力を持って傀儡の魔犬を消し去る力を見せつける。 「互するのが良いのだ。分からんかねこの感覚?」 人ならざる者が相手であっても、戦闘狂は劣勢、そしてそこからの逆転に燃え上がるものである。そしてまだ倒すべき相手は残っている、油断せずにやっていこう。一般人を守れる限り守るために。 そして最初にE・ビーストに会ったりりすとヤマはその一体を仕留めた後即座に次のE・ビーストを目指し、たどり着く。 「5、校舎内は最後だけど」 しかし人にも獣にもなれない少女は知っていた、そこがどうなっているかを。だって彼女はだからこそ、敏感にその位置を察することが出来たのだから。濃厚で新鮮な血の臭いが鼻孔をくすぐる。そこにいるのは魔性の黒犬。そして赤い海と人だったものがひとつ、ふたつ、みっつ。 「手遅れでも、これ以上はやらせない。速攻で仕留めさせてもらおうかの」 必要悪は、必要ならざる悪を許さない。ヤマの延ばす気を紡いだ糸は静かな怒りを感じさせE・ビーストの足を打ち据え体勢を崩させる。 そしてそこに間髪入れずたたき込まれるのは二刀の隙無き連撃。お前らなんて敵にも値しない相手だと言うようにりりすは切り刻む。精神などあってないようなそんな存在では本性をさらけ出すこと何て、出来なかった。 りりすが鼻で感じ取るように、もう一人そんな惨状に気付いていた者が居る。いや、リアルタイムで悲鳴が聞こえてくる分よりこたえていたであろう花梨である。全てを守るつもりでも、絶対的な手が足りない。どんなに情報を共有しても、それを運用する側は救出した人間が襲われる事を考えれば危険を冒せず、臨機応変には動けない。 ソレが分かっていても辛いから、花梨は前に立ちせめての今助けられる命を守ることに専念する。傷ついて倒れても、倒れても、運命にすがってでも立ち上って、その怒りを振り下ろす、花梨の渾身の力が込められた鉄槌は、E・ビーストを叩きつぶして果てさせた。 「ここまでくりゃ伏兵もないだろ、このまま一般人を逃がすぜ」 E・ビーストの消滅を受けて、ランディがアーティファクトを通じて味方へ告げる。一般人を逃そうと。そしてハル達から守るために自分はそれを守りながら付いていくつもりだと。何を仕掛けてくるかわからない相手に警戒を解く理由はないから。 そうして花梨とランディは別れる。未だ戦う者らと合流するためと、一般人を守るために。 ● 他の仲間が一般人を助ける間、悠里と竜一はフィクサード二人を必死に抑え、戦っていた。引かず屈さぬその意志を頼りに。 「そらそら、どうしたどうした♪ そんなんじゃ、飽きて他を壊しにちゃうよ?」 「まだ、まだぁ!」 悠里の言葉に、ならまだ遊ぼうと笑い、傷だらけでも狗鬼は高速で跳ね回る。地を蹴り、死角から繰り出す爪は悠里の肉を切り裂き、繰り出す蹴撃は骨を軋ませる。 しかし悠里とて黙ってやられているわけではない。確実に狙いを付けながら避けられないようなタイミングで高速の蹴撃をピンポイントに当てていく。力の差は少し、完全に勝ち目がないなんてあり得ない。むしろ傷だけなら同程度。遊びと本気の覚悟の違い、それをもって悠里はわずかな差すら詰めに行く。 「ああ、まったく忌々しい。私の姉様を独り占めして、その上傷つけるなんて、何て度し難い」 「なぁ、愛が深けりゃそうもなる、過保護な気持ちはわかるけどな」 そんな二人を見つめ爪を噛むハルへ竜一は剣を叩き付けながら声を掛ける。二対一の状況でも彼は全力でハルと黒犬を抑え、ハルの聖なる矢に一度は倒れながらも犬には既にとどめを刺してすらいた。 「本当に、そのお嬢さんを愛してるのであれば、こんな行為は止めたはずだ。こんな悪行、いつまでもやっていられるとは思ってないだろう?」 「悪行? 尊い命? そんなの私は興味もありません。私の愛を貴方達になんて語らせはしません」 既に竜一から何度も強烈な一撃を受け、立っていられるのは犬に庇わせギリギリで立ち回ったから。そんな満身創痍でもハルは明確な拒絶を返す。盲目的に、ただ捧げる少女に理性なんて届かない、届かないからこそ彼女はフィクサード。 既にハルが足場にしていたE・ビーストも今までに仲間達が倒した分も血まみれの脚となり、ハルの所へと還っている。それでも自らの翼で佇み、未だに引かないのはゲームが続いているから。彼女の愛しの少女を楽しませるため。そしてそれ故に――。 「今度こそ、壊れちゃえ!」 「狗鬼の御姉様、だめっ!」 「ここからが本番だよ!」 狗鬼の爪が悠里を完全に捕らえた瞬間、運命の寵愛は悠里を救い、そのまま反撃へと突き動かす。カウンターで繰り出した烈風纏う蹴りは狗鬼を捕らえ、その意識を断ち切らんとする。しかし同じように運命に助けられ、狗鬼もぎりぎりで立ち上がる。 「そこまで、です。狗鬼の御姉様それ以上は遊びになりません。なにより、丁度……私の犬が全て堕ちましたゲームは終わりです」 「ってことは僕らの勝ちだね」 そんな立ち上がった狗鬼に悔しげに寄り添うハルと、苦しげながらも笑顔で明確な勝利宣言をする悠里。語るは同じ、リベリスタ達の勝利。 「はい、残念ですが私達の負けです。ですので私と御姉様は全力で引き下がらせて頂きます」 そうはさせるかと味方がくるまで足止めしようとする竜一と悠里が再び武器を構える。互いに傷つきギリギリで、それでも我を通すために。 「驚嘆しますよリベリスタ、逃げたくなるほど強かったです」 「気に入ったよリベリスタ、きっとまた遊ぼうね」 そうして此度ギリギリで勝ち取ったのはなりふり構わなくなったフィクサード。リベリスタの仲間がつくギリギリで、悠里と竜一は抑え切れず意識を刈り取られる。 こうしてゲームは終わる。決して全てを救えはしなかった。それでもリベリスタ達は確実に多くの命を救い、フィクサードに勝利した。その事実はきっと誇れることだから。 ●二伸 「はい、こちらの遊びは終わりました。聞いていたよりも箱船はずっと強かったですよ御嬢様」 そういうわけでまたご贔屓に。そういってハルは携帯を閉じる。路地裏で傷ついた狗鬼を膝に寝かせながら、溺愛狂いは一人物思いにふける。 「御姉様を楽しませ、ソレで居て仕事もしなければいけない凡人は悲しいですね」 ああ、凡庸だからこそ足掻くのだ。だからこそハルは未だ狂いきれぬ『あの子』に同情する。狂おうと必死な姿を嗤い、仕事を受けてせいぜいすり寄り恩を売る。全ては御姉様を守るため。ただ、上位者の慈悲を請う。 電話の相手の名は黄泉ヶ辻・糾未といった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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