● ここでひとつ、例えばの話をしてみようか。 例えばの話だ。 たらればの話は無駄だという人もいるけど、IFの可能性はつまり状況予測の訓練にもなるんだよ。ねえ君。 ――そうそう、何だったっけ? そう、例えばの話だ。 集合体において、個とは重要なものか否か? もちろん学び舎とはそれぞれの可能性をはぐくみ伸ばす場なわけであって、勿論個性を前提とするわけだけど。 では聞くけどね、君はそういった場で、『何者か』を演じたことがなかったと絶対に言えるかい? お調子者に悩みはないのかい? 真面目な人間はふざけたりしないのかい? おしゃれをしたり、おしゃれをしなかったり、それは人によって決まっていないかい? テンプレートだ。 ロールプレイングだよ。 そう、つまり……何を言いたいかと言うとだ。 君には個性がある。それは絶対だ。宇宙の真理だよ。 君が君である以上、君には君であるために欠けてはならない固有性は存在する。そう、君は絶対にして無二の存在だ。 でもさ。 それって、君が必要だという証明にはならないよね。 君って、必要とされてる? ……え、何だって。 僕は誰かって? あはは。誰だと思う? 君の知っている人? 或いは君の親しい人? 恋人? 親友? 親? 先生? 何でもいいよ。 どうだっていいんだよ。 ああ、僕の話が何だったか、どういう意図だったのか気になるのかい? うん、たいしたことじゃないのだけどね。 ほら、言っただろ? 人は皆それぞれ、何かを演じて生きている。 それは例えば、幽霊でも同じじゃないか。ってね。 ● 「それで?」 「いやあ……何というかっスね」 頭ぽりぽり。 腰に手を当て、何やらぷんすかとしているのは狐耳と狐の尻尾の少女、東屋あい。 正面で正座している狸耳に狸の尻尾の東屋まいに、どうにも反省の色はない。 「いや、こうなるとは思ってなかったッスよ! それはあいちゃんだって同じでしょ?!」 「それはまあ……そうですが」 二人が会話をしているのは、とある小学校。 彼女らが幼少時代を学び、笑い、泣き、そして卒業していったその学び舎は、長い年月の末に晴れてその役目を終えた。 もはや訪れる者のないその学校は、このままただ静かに朽ちていくのを待つのみ。そのはず、だったが…… 「だからって、これはあなたの責任ですからね」 「えっ!?」 ぷんすかぷんすか。 予め言うが、東屋あいは別に怒っているのではない。 ただ、いざと言う時に『私はこの件など与り知らぬことです』と言い張る為のアピールにすぎないわけだ。 とはいえ、色々と双子の姉(その差1分30秒)に頭の上がらないまいにそれを崩せるわけもなく。ただただ、正座の憂き目なのである。 閑話休題。 二人がいるのは、既に廃校となり、役目を終えたはずの学舎の前である。 「はあ。まあ良いです。寛大な私は許してあげましょう」 「あれぇ、何か……」 「それで?」 異論は差し挟ませぬ。 主に保身のために。 「現状を完結に説明しなさいな」 「小学校、総結界化ッスね♪」 「なんたる……」 こればかりは、二人そろって笑いあって、そして肩を落とすのだった。 先だって、彼女らの思い出作りの為に、この学校の七不思議の調査が行われたのだ。 本来の危惧に沿ってD・ホールは破壊されたのだが……その余波は、未だますます健在。どころか、折角眠っていた怪異が、呼び覚まされてしまったのである。 それも、調査に協力したリベリスタの思念をトレースする形を取って。 「でもッスね。でもッスね! これはチャンスッスよ!」 「なにが?」 「予定とは少し違うッスけど、これもひとつの思い出作り! 去り行く校舎に、ボク達の手で引導を渡すんスよ!」 「またもう、あなたは」 「あいちゃん! 勿論手伝ってくれるッスよね?!」 「何にも反省してませんね」 「勿論みなさんも!!」 「え、何?」 「え、あ……」 「あいちゃんまいちゃん、それに皆も。はやく来ないと授業はじまっちゃうよー?」 言うなりてってってと走っていく少女。 夜。 そのはずだった。 こほん、と一息入れる。 「……補足、入れていッスか?」 「むしろ要求しますが」 「この結界は……どっちに向かっているんスかねえ」 わいわいと子供の声。 せみしぐれ。 夏の日差し。 残暑はまだまだ厳しく。 つまるところ…… 「難しいことは考えないことにしましょう。ええ、君子は危うきに近寄らぬのです」 「いーんスかねえ」 「おだまりっ」 こほんこほん。 「さて。これからボク達は、七不思議にひとつひとつ引導を渡していかなければならないんス」 「数は文字通り七つ……で、済めばいいんですけどねえ」 「三番目の怪談は……“トイレの花子さん”の話ッス」 「おなじみですね。トイレの花子さん。うちの怪談は、校舎三階の女子トイレの奥から二番目を3回ノックして、一旦窓から外を見ます。そして、手元の蝋燭に灯をともして『花子さん花子さん、逃げましょう』と呼びかける。と……きゃあああああああああああ!!!」 「にぎゃああああああああああああ!!! ……あいちゃん!!!!」 「はいはいまいちゃん、ごめんなさいね。では皆さん、今回も宜しくお願いしますね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕陽 紅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月23日(日)23:06 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「お、おはようございまーす……」 「あ、ヘルマンだ!」 「おめー声ちっせーんだよ!!」 「やめてくださいよー?!」 ぴっちりと撫で付けられた髪をわっしゃりぐっしゃりかき回しにかかる悪童共を払いのけにかかったところで、『意思を持つ記憶』ヘルマン・バルシュミーデ(ID:BNE000166)は自分のサイズダウンを思い出した。小奇麗にせよ小汚いにせよ小集団では浮くもので、まして自己主張も強く無いとなれば、畢竟いじられ役に甘んじるのは世の常か。 「お疲れ様です……」 「ほんともう、酷い目に会いましたよ!」 もみくちゃにされてようやっと開放された少年を、『おとなこども』石動 麻衣(ID:BNE003692)が慰める。慰めて、周りを見渡した。喧騒、せみの声、照り返す机。ふと気を抜くと、現実と思ってしまいそうなほどの感覚が体中に染み渡る。日の光が目に入って、少し泣いてしまった。 「ん……」 「どうしたんですか?」 薄暗くて静かな図書室では、『ソリッドガール』アンナ・クロストン(ID:BNE001816)の吐息も耳につく。それが何だか物煩いに聞こえて、『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(ID:BNE001084)は訊いた。 「火事って誰かが言ってたでしょ? 結構説得力あるなって……でも、これが……あぁ、ここ暗いっ!」 「うわあ眩しっ!」 びかりと光った光源(敢えて伏せる)からななせが目を逸らし、慣らしてから二人が目の前に置いたのは、向こう何十年に渡る様々な記録で、それらは日付順のソートこそ為されているものの、記事の内容一つ一つまで一括検索できるようなハイテクは無く。 「……骨ですね、これ」 「よね。まあ、いいのよそれで」 「と言いますと」 亡くなったり行方不明になったりした人たちを片端から調べるつもりだったななせは、アンナの言葉に首を傾げる。 「どうせこれだけで絞り込むなんて無理なんだから。私達のやることはね。みんなが見つけて来たことを更に掘り下げるってこと。だから、今は資料を整理しておくのよ。調べる為の端末が無いなら、私達はそれになるの」 「なるほど、らじゃーです!」 びしりとななせが敬礼したところで 「……あれ、そうするとアンナさん、先ほどのため息は一体?」 「ん……」 微かに虚空を見上げる。 「この七不思議ね。一つ一つの七不思議はそれぞれ別の由来があると思うんだけど。何か、こう……それを発現させている根本は、一つな気がするのよね」 一度それを味わったアンナには、何となくそんな実感があった。 「なんだろうな。そんなに悪い物じゃ、無い気がするんだけど」 事実とかそういうのは関係なしに、これは掛け値なしの“勘”である。 「というわけなのですが」 「ふぅーむ……」 風見 七花(ID:BNE003013)の問いに、壮年の男は首をこきりと鳴らして答えた。 「そういうわけなんです。ええ。ここが戦火や空襲の被害を受けたりとか、火事で死者とか、そういう」 「何だ、気持ち悪いな。お前がまじめだと」 お前が私の何を知っているんだと『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(ID:BNE000189)は一瞬思ったが、きっと自分の知らないこちらの自分がどこかに居たのだと思っておく。 「いいから、教えてくださいよー。社会学習なんですよー」 「何だ、難しい言葉知ってんなあ。年の割りに」 やば。 慌ててうさぎの前に七花が立ちはだかった。 「ま、まあまあ。で、どうなんですか? 特に、校舎三階の女子トイレとか……」 「逃げたくても逃げられなかった生徒とか……」 「……お前ら」 と、そこまで聞いたところで壮年教師は現実に立ち返る。うさぎのこまっしゃくれた言いように気を取られていたが、何だかんだ、知らないはずはないのである。うさぎと『花子さんキラー』滝沢 美虎(ID BNE003973)の追及に、にわかに顔をしかめる。 「まさか、花子さんの話か?」 やば。二度目。 「あのなあお前ら、そういうのを面白半分で聞くのは」 「えーと、では我々はこの辺で……」 「待てコラ!!」 「ありがとうございましたー!」 美虎の投げ捨て挨拶を尻に、教師の叱責何のその。聞く耳持たない相手である以上、説教に捕まって時間を食うのは避けたい。ダッシュで逃げ去り、廊下の角を曲がったところでようやく止まる。 「失敗、ですか……」 うさぎがぱちくりと目を瞬かせる。 「あ、そういえばリーディング」 「いえ。使ってました。けど……」 かり、とこめかみを七花が掻いた。その顔は、もどかしさに満ち満ちている。 「心があるのに、ない。少なくとも、心を読まれたことに気付くはずなのに……先生にはそれが無くて、でも心は確かにあって」 「そうですか。うーん……」 火災で逃げ遅れた少女の話。 「とはいえ、何の手がかりも得られなかったわけじゃありませんよ」 「と言いますと」 「“面白半分で聞くな”って言ったんですよ。彼は」 語るに落ちましたね、とかそんな表情でうさぎは言う。表情自体はいつもと変わらぬぎょろ目なのだが、彼女のことを知る人間が見れば、そこには少しの得意げな色が見えたはずだ。 「つまり、何かの事実があるってことです」 で。 「……あれ、花子さんって言うくらいだから、女子トイレじゃないとだめですよね……いいのかな……入らないとダメ?」 「ダメです」 ヘルマンが、しごく冷静にうろたえていた。その肩にうさぎがぽん、と手を置く。 「彩花さんだって今、恥を忍んで男子トイレに入っているところなんですよ。さあ、行って下さい。いや行け」 要請。もとい強制。 かくて哀れにも、彼は女子トイレの暗いところを探索して行く。火事の痕跡があるのではないかと探ってみたが、どうにも見当たらない。と言うか、もし仮に人死にの出るような大火事があったのであればこの場所も建て直されているはずで。 「……下の階よりも、新しいですよね」 それは確かなようだ。これはいよいよ黒か。そう思ったヘルマンの後ろで……足音が響いた。 「な?!」 音は、奥から二番目の個室。呼んでいないのに、もう。 思わず身構える。脚が竦む。だが、負けるものか。ゆっくりと、ゆっくりと、個室の扉が開き…… 「こ、怖い……けど、わたくしは退きま……せ」 その少女は、小さく震えていた。服装は花子さんという名前に相応しくないほど現代的で、その目には涙が溜まり、怯えた子兎のような風情で 「……ヘルマンくんの……」 「誤解です。話せばわかります」 五階も六階もないものだった。 「ヘルマンくんのえっちーーーーーーーーー!!!!!」 トイレの外で待機していたたぬきの少女によれば、その時、校舎に雷鳴のような平手打ちの音が轟いたと言う。 腰の入った実に良い掌打だったと、モノクルの男は後に述懐した。 「……というか今思ったのですが」 涙をちょちょ切らせながら走り去る女の子を『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(ID:BNE000609)が呆れた顔で見送って呟く。 「これって私とヘルマンさん、逆にすれば何も問題は無かったのでは?」 「イマサラだよね」 「今回のことは、秘密でお願いしますね?」 美虎の呆れた声に、彩花は笑顔で返した。その笑顔は罪人が涙を流して己の罪を白状するほど清廉で美しく。 こわいよ、と内心で美虎は思うのだった。 「ふっくっく、慌てる顔が目に浮かぶ……!」 悪い笑顔。 美虎発案による仕込みを終えると、夜も更けた校舎のトイレ。戦うにはひどく狭いはずなのに、どうしてかそんな気がしなかった。 落ち着いて、ノックを三回。ドアの外を見て。蝋燭に火を点し。 「じゃ、行くよ」 すぅ、と美虎が息を吸う。 第三の怪談。 厠の怪異。 「花子さん花子さん、逃げましょう!!」 おそらく最もポピュラーな化け物譚。 『は ぁ い』 それは、炎と共に現れた。 ● 円を描いた炎はリベリスタ達を取り囲む。少女は7人。 「う、うわ、あああ……!」 目の前を炎が炙る。熱い。喉が渇く。しかしこれに迫る危機も潜り抜けている。そんなリベリスタ達の心に、焦燥と恐慌が生まれていた。 何故だかは知らない。でも急がないといけない。 何を? 互いが互いに出鱈目に武器を振り回した。心が弱いのでは、断じてない。そうではなく、もっと心の底の底の、燻った恐怖の埋み火を、この炎は容赦なく大げさに煽り立てる。 或いは、人はそれを、心的外傷とも呼ぶ。或いはそんなものを抱えていなくても、生きていれば無数の細かい疵は付く。それを広げて炙って大火にする。 笑い声が響き渡る。 炎が舐める。 その狂奔を、清澄な光が薙ぎ祓った。 笑い声が少し静かになり、炎が一瞬静まる。 「落ち着いて……皆さん」 グリモアールに、麻衣が手を置いている。 ただ一人、何者にも侵されない絶対者として。 それでも負傷までは隠せず、彼女もまた、己の心を抉った炎に息を荒くしていた。まして他の者は、それぞれの心の炎に焼かれある者は涙を流し、ある者は頭を抱えて。だがそれでも、顔を伏せたままにすることは決してない。 「花山 八千代」 ざわめきが、再び。 「安住 幸江。名倉 夏美。渥美 芳乃。古賀 はじめ。小野田 小鳥」 うさぎが指折り数えたのは、誰の名前なのか。 それに回答を示したのは、アンナだ。 「私は細かいのよ。これくらいの問題、すぐわかるわ。ねえ、あなた達」 つい、と眼鏡を上げる。彼女とうさぎは、ついぞ童女らを『花子さん』とは呼ばなかった。 「これが、あなた達の名前。違う?」 全員の調査の集大成。 なぜ判ったのかと、童女のうちの誰かが訊いた。 「さあ。事件を調べた人達と、その推論をした人達と、それを元に資料を用意した。後は……そうね、子供の考えそうなことだったから」 「……ん、結局どういうことなんですか?」 ヘルマンが首を傾げた。それくらい、単純すぎて暗号とも呼べないような符合だった。 「何でも良いですが。つまり、あなた達」 一歩前に出る。 「逃げましょう。“一緒に”逃げましょう。今度こそ」 無表情なうさぎの目。 しかし、決して無感情ではなかった。 『サイレンがね』 『鳴ったの』 『水があるところ』 『崩れないところ』 『気付いたら、逃げれなくなってたの』 『おねえちゃん』 助けて。 差し出されたうさぎの手に、6つの小さい手が重なる。 まるで何もなかったかのようなうさぎの手の中に、それでも少し埋み火の熱を感じて、彼女はそれを握り締めて虚空を仰いだ。 「で、残ったこいつは何なんだ?」 こきり、と美虎は指を鳴らす。不思議そうに首を傾けて、童女の目と口から突然血が滴った。そのまま高速で迫ってくる。 「ちょ、顔怖すぎだっての?!」 慌てて身体を後ろに逸らして水月に蹴りを叩き込む。血の詰まったサンドバックのような感触がする。七花がマグメッシスを叩き込むと、童女はけたけたと笑い出した。 「悪霊であったり、厠神の伝承であったり、正義の味方であったり、人の噂や創作で存在が左右される都市伝説の典型。ニーズに合わせた生産品なら、そこには金型のようなモノがあっても不思議ではありません」 振り回される爪を拳の甲で軽く弾き、極低温の拳を叩き込みながら彩花が考えを噛み砕く。氷を炎が舐める光景を見て、舌打ち。彼女の言葉を訊いて、ななせは内心ふっと腑に落ちた感覚がした。七不思議の概念にとらわれて、花子さんを演じさせられている……そんなイメージは、概ね合っていたのだ。Feldwebel des Stahlesを両手でぐっと握り締めると、自分に対する自信に変えて 「それじゃ、いきますよー!」 遠心力は鋼のハンマーをミキサーの如く変えた。全身で振り切る連打が右腕と左足をばちゅんと潰し、しかし瞬時に再生する。間を置かず、奇形の武器を奔らせてうさぎがざくざくと切り裂いた。突き刺す武器を通して、少女達の心がまだ感じられる。 「彩花さん!」 叫びに彩花が応じた。セーラー服を翻し、飛び上がって空中で首を掴むと全身を支点と力点の塊に変え、童女を背負い投げる。腐った水のにおいと共にげたげたと笑う。その姿が、瞬時にリベリスタ達の只中に現れた。 水があれば。 それは、バケモノ自身の体液であっても。 振り回される節くれだった爪が幾人かの背中を深々と切り裂いた。血がどくりどくりと溢れ出る。 「折角水枯らしたのにっ!」 涙目で美虎が飛ぶ。仲間の肩を踏んでさらに飛び上がると 「くらえどっさいっ!」 膝を高角から叩き込み、流れるように掌打を叩き込んだ。沈みかけた身体を打ち上げるように、七花のマグメッシスが胴をなぎ払う。ばらばらと両断された胴から蛆のようなものが出てきて、誰かがえずいた。 そうして、それでも笑う。笑い声ごと裁断するように、ヘルマンの蹴りが飛んだ。踵を打ち鳴らして足を下ろすと、もう一発、今度は内側から外へ向かうような蹴りの一撃。げたげたと笑いながら、その生き物は瞬間移動しようとする。 「……目を覚ましなさいよ。貴方にも名前はあったはずでしょう?」 呼び水は、無かった。 アンナの聖神の息吹が、血流を塞ぐ。 金髪の少女の問い掛けに、目から血を流す童女は、あどけない鈴を転がすような声で答えた。 『名前……わすれちゃった』 「それでもいいです」 うさぎの心残りはと言えば、自分の武器では綺麗に送ってあげられないな、ということだけだった。 「あなたが誰でも、一緒に逃げましょう」 ● 「で、結局?」 まいが首を傾げると 「この学校は、やっぱり空襲で焼けてた見たいですね。死んだ子供も何十人も……」 「あれっ」 「何ですかまいちゃん、人が真面目に死を悼もうとしているのに」 あいが不機嫌そうな顔で、双子の妹を咎めた。 「何十人も死んだ人がいたなら、どうやって六人が“花子さん”だって特定したんスか? あいちゃん」 「はぁ、何ですか。あなたまだ気付いてなかったんですね、まいちゃん」 「なっ、人を馬鹿みたいに!」 「ああいえ、この場合、くだらなすぎて逆に気付かないというか……」 「はひ?」 「だから同じくだらない同士あなたなら波長が合うかと思ったのですが。まいちゃん」 「やっぱバカにしてるじゃないッスかあいちゃん!!」 どっとはらい。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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