● 「キャハッ!!!」 赤い槍を振るう、華奢な少女。 その僅かな力には到底似合わない程、槍を振るう威力はおぞましく、恐ろしく。 「あははははっ!!!」 刻む度に舞う、綺麗な赤色絵の具。戯れに、遊んでいる様にも見える。 「たのしーね! すーーーーーーーーっごいね!!!」 一つの命を潰せば、次の命へと斬りかかる。 九月の大通りは大荒れ模様。時々血の雨が降るのでご注意を。最後にこれだけ、吐き捨てるように言った。 「青褐どこーーーーーーー?????」 少女の記憶を辿って。こうすれば彼等が来るって解っていたから、躊躇いも慈悲も無く武具は少女を踊らす。 彼等……青褐を回収したアークのリベリスタを探して。 ● 「浅村りと。以前妖刀・青褐に操られ、アークのリベリスタに救われた少女です。 その浅村家というのは、遥か昔のフィクサードに武器を売っていた鍛冶屋のその末裔なのです」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は調べてきた資料を指で追いながら述べた。 「近々、浅村家の本家のお屋敷にお邪魔して、アーティファクトたり得る物品を回収させてもらう予定だったのですが……一事件起きてしまったみたいですね」 聞くに、その浅村りとが再び武器に囚われたと言う。 今度は魔槍・深緋(こきあけ)。文字通りに赤が似合う長槍だ。 「深緋……武器の人格は彼女。 彼女は学習する分、少々厄介かと思われます。影響力も強くて、斬り捨てた死体がアンデット化しているので、そちらの対処もお願いしたいです……」 ガタン 杏里の目が横へと向く。 そこにあったのは透明なケースに封印された青褐。ひとりでに動き、まるで出せと言っているようにガタガタと震えていた。 「共鳴と言った所でしょうかね……。良ければ持って行きます? 持って行かなくても良いですよ、お任せします。 この刀は言わば人質の様なものですし、交渉するなら、その材料にはなるかとは思います。会話が成立するかは、ちょっと解らないですが……。 あっ、扱いには十分に気をつけて。下手に触るものなら、解りますよね?」 ● アークの病院から解放された浅村りとは、実家の一部屋を覗いていた。青褐があった場所は、そこだけ埃が被っていない。未だ記憶に新しい、恐ろしい体験をした刹那。 カタン。 嫌な音が聞こえた。埃が被っていない、その上。もう一つの呪われたそれ。 触ってはいけない。見てはいけない。いや……振り向いてはいけない。 「帰って来るべきじゃ……無かった」 頬から生暖かい汗が滴り落ち、強い気配に振り向いた瞬間だった。 ――ねね。青褐、何処? まだ暑い、九月のその日。少女は再び、その手に甘い悪魔を握らされた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月19日(水)23:04 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●昔、むかーし 「これは一族でも最高の腕を持った我が作った最高傑作だ。ただの道具では終わらんぞ」 「うんうん、すばらしいの!!」 「言い値で買おう」 「いいのか……?」 もう一度言うと。これらはそのうち、道具では無くなるかもしれんぞ。 まあ、金さえ包んでくれればなんでもいいのだけどね。それに…… ――所謂、背中合わせ。 それぞれが目の前を見るに、おそらく敵に囲まれている。 此処でいう敵とはリベリスタの事であって、味方とはフィクサードの事だ。 「はは……もう、逃げ場は無いってかーんじ!」 「仕方あるまい、我等は殺しすぎた。いつかはこうなるとは思っていたさ」 そんな状況でも笑う少女は赤色の槍を。静かな声を持った歳のいった男は青い刀を。 二人は兄妹だった。お互いを信頼し、強力し、共に殺しの道を極めしフィクサード、だが……それも今日で終わりだ。 「最後の最後まで殺しつくしてやるぅー!」 「どっちが多く殺せたか、彼岸で数えようぞ!!」 ――血の出る残骸の上。『刀』と『槍』は煌びやかに刺さる。 多くの血が流れた。結果としてリベリスタはフィクサードの二人を倒したが、生き残ったリベリスタは無し。 「おかえり。歓迎しよう、我が最高傑作の兄妹」 その手に、全ての命を刈り取った『鉄槌』を光らせ、漁夫の利は大元が主役か。 ふう、と一息。 『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)の手が透明なケースから離れる。 つまり、そういうこと。 ●一方通行は交わらない 「大丈夫、なーんにも間違っちゃあいないんだ」 『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)の声はいつもより低く。刃が刃であって何が悪いのだと笑う。 撓らせた腕は鞭の様。それを容赦無く振い、一つの遺骸を傷つければその先に。 「あっはー、見つけられた? いや、此方が見つけちゃった?」 深緋が喋り、深緋が笑い、深緋が操る少女――りと。 胸が痛む、ズキズキと音がする。 (わたしたちが早く、破界器を回収していれば……!!) 悲劇は起きなかっただろう。けれどまだ、救える道は信じて止まない。その強さがこれまでにどれだけ多くの人を救い、そして涙を飲んで来たかは計り知れない。 『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)の鼓動は高ぶっていた。少し前に見たりとは今、顔色が悪く、痩せていた。心配はするし、少しでも早く解放しようと虚空に約束した。 それからすぐに鈍い金属音が響く。武器と武器がぶつかったのだ。深緋が舞姫の攻撃を受け止めた、誰しもがそう思うだろうが、これでいいのだ。 「わたしを、知っているでしょう?」 「答えるまでも無い質問でーすっ!!」 緊張感の無いそのりとの、深緋の声が脳内で木霊した。 動きは抑えた、だからこそこのまま深緋を動かせまいと舞姫は力む。 「はは、青褐。目の前にあるのは懐かしの妹(深緋)ってとこかな?」 『……』 りりすはマイペースにりとを中心に地面を這う動く死体を潰して回る。動けば動くほど、背中で担いでいる青褐が跳ねる。 「ま、僕には青褐の言葉は聞こえやしないんだけどね」 そんなことよりだ。そんなことより此処はとてもイイニオイがする。そうそう、りとからそのニオイがするんだ。 「お嬢さんの本質は、人殺しに近しって。僕の勘は良く外れるけどな」 「この人達は何も悪い事をしてない。死ぬ必要なんて無かったはずなのに……」 『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)は残酷な現実を前に祈り手作った。 せめて、安らかにと。せめて、苦しまずに……と。 リベリスタ達にやれることは限られているからこそ、一番良い結果を望んだ。それはセラフィーナも例外無く。 祈った手に持ったのは鬼さえ貫いた、姉の刃だ。刹那、音を置き去りにして罪無き敵を一閃。乾きかけた血が頬を掠る。 振り切った、それでも悲しみが心を埋めていく。 「必ず、止めてみせる」 小さな身体は、地面を蹴り上げれば弾丸の如く次の敵へと向かうのだ。 その真後ろ。 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が意識を集中させて、周囲に結界を施した。 「ウム。困った……記憶消して回るのに、ちょいと時間かかりそうだ」 顎に手をあて、そう言いながら腰が引けている一般人へと歩き出す。その横を風が通ったかと思えばセラフィーナ。 「私達のことは気にせず、救える命を優先で」 すれ違うたった一瞬でセラフィーナの言葉をフツは頭に叩きいれた。 「おう! 頼りにしてるぜ!」 まずは一人、脅えるただの人と目を合わせて、魔法の呪文を言うだけ。 ココは”槍を持った女子高生が主役の映画”の撮影現場。したがって、この場は迂回して帰ってくれ。 深緋が主役なら、リベリスタが敵か。 世界のためなら、敵にでも悪魔にでもなろう。きっと、そういう敵。 ●漏れた本音 ゾンビに噛み付かれたらゾンビになる。そういう映画もあったかな。というより、正に今その状況。 「……ッ、っす」 『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)の腕に牙を食い込ませるアンデット。 今まさ死んだのだろうものの。リルは目を閉じ、その頭に氷の拳を貫通させた。 ダラリと貫通した腕にぶらさがったアンデットを、ゆっくりと地面に寝かせながら、今しがた舞姫が抑えているりとを見た。 「深緋って言ったッスかね。話をする気はあるッスか?」 「興味深ければー聞いてあげないこともないけど多分聞かないよ!」 おどけた彼女に、リルは冷静に対応する。 「大人しくしないなら、青褐諸共くず鉄にするッスよ」 強行だが、交渉だ。此方には彼女が欲しがっている青褐が居る。これなら――だが、彼女もそう甘くは無い。己自身の槍の先をりとの喉に着きたてたのだ。 「大人しくしないなら~りとちゃん、こーろーしゅ!!」 学習とは狡猾さの倍増か。やめろと、リルは唾を飲み込んだ。 「んーふーふー、ジョウダン冗談。こんなことしたら、動けなくなっちゃうのん」 だから……。 新しい主見つけたら、この首掻っ切るんだー! 「今よりも強く、今よりも憎悪に溢れ、今よりも美しい身体が私は欲しい!! でもその前に家族を……」 深緋が舞姫の身体を吹き飛ばす。その目は本気と書いてマジと読む、というか血走っている。 その目が見た先で、『残念な』山田・珍粘(BNE002078)が両刀の剣を、動かなくなったアンデットから抜き出している最中だった。 「うふふふふ」 珍粘の口端が両方に大きく裂けていく。 「深緋ちゃん仲良くしようねー。うへへへ」 会うのが逢うのが楽しみで愉しみで。 少女の人格を持った武器、なおさら良いじゃないですか。 真っ黒な、影の幻影を纏わせて、珍粘はりと――いや、深緋へと突っ込んでいく。 「そうそう、こんな、こんな感じの、ね?」 「いいでしょう? この憎悪、受け取ってね?」 深緋は刃で珍粘を受け止める、だが衝撃は大きかったか、限界を超えたりとの腕は内部から血が滲む。痛い痛いと、泣き喚くりとの声が耳の傍で聞こえるようだ。 しかし、容赦なく珍念は剣を振るった。幻影を纏い、それこそ目の前に鬼を見ているように。 敵は初期から、深緋を入れて九体のまま。 その地面に這い蹲って蠢く七体目の死体の背を足で踏んだ、『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)。 迷いの無い瞳に見下されながら、アンデットは地面をクロールするばかり。之に罪は無く、また救いも無いことは今更。 瞳を閉じ、冴は両刀をクロスさせ、そして一閃を解き放つ。 未だに死んだばかりの血は温かかった。頬についたソレをセーラー服の袖でふき取りながら、その背後。 「ア、ァァ……」 「あ」 振り向いたら数十センチも無いくらいにアンデットが迫っていた。 身体を捻らせ、両手の剣を遠心力に任せて振ろうとした瞬間、アンデットの首元に『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)の牙が奥深く突き刺さっていく。そのまま噛み切り、白目を剥いたアンデットはあっけなく倒れていく。 「ありがとうございます、ユーディスさん」 「いえ……これで、全部でしょうか」 「アンデットは、ですね」 冴とユーディスは背中合わせに辺りを警戒した。再び襲ってくるアンデットはもういないようだ。これで八体は倒された。ならば、お次は……? 「もう一度聞くっす、話しをする気はあるッスか?」 リルを中心に、リベリスタは集まった。 ●純粋は怖すぎて 「話しをする気……大丈夫だよ、そんなもの何処かに落としてきちゃったよ」 結果は予想通りとも言えよう。 「交渉は決裂……いえ、交渉と呼ぶにも相応しくはありませんが」 ユーディスは己の槍を構えた。深緋はまるで子供、まるで話しを聞かない、言葉のキャッチボールは一方通行だ。 ユーディスの振るった槍はりとの身体を綺麗に避け、深緋の柄を捕えた。更にリルの気糸が槍の先から柄までを絡み取って離さない。 「どこ狙って……?」 溜息をついた深緋に、息もつかせぬ攻撃を放つリベリスタ。狙いはりとでは無い、そのよく口の動く魔槍のみ。 「青褐とどちらが上か決着をつけたいの?」 その中でも舞姫は深緋に問う。 「青褐と一緒に暴れたいの?」 「……返して欲しいんだよ、大事な家族ってやつをね!!」 そう言った瞬間、深緋の必死さが伺えた。負けじと、深緋は冴の技を真似て、迸るオーラと共に舞姫の腹部を斬った。りとの身体がまた軋む、受け止めて少しでも負担が減らせるようにとあえて避けなかった。 きっと聞こえている。 (また、怖い思いをさせてゴメンね、りとさん) 心の中で呟き、落ちそうになった意識をフェイトで繋いで立ち上がる。 りりすの背中でカチャンカチャン。 背中で刃が震えている。共鳴か、いや、そう、嫉妬だね? 「羨ましいかね? 思う様、振るわれる同類を見るのは。でもダメさ。指をくわえて見ていろ。凡刀」 『……ッ!!』 家族が今、取り替えそうとしてくれているよ。けれど、ダメ。渡す訳にはいかない。 「……と、思ったけど、抜いてやらー」 だって、目の前で深緋がこれと会わせてくれないと、りと殺すって喚くもんだから。嗚呼、いやだ、なんだか思うように動かされている気もするけど。 「抜けっていうなら抜くさ」 そうりりすは言うと、手馴れた様にそのケースから青褐を取り出し、その手で握る。本来ならば、妖刀に侵されて何をするか解らないが。 『こやつもか……! 我を抑え込むつもりか、ぐあぁあ!!』 「あ、やっと声聞こえたね」 りりすはくらりと一瞬、体勢をよろめかせながら頭を押さえた。頭痛がする。 その葛藤の最中、フツも葛藤する。 「青褐をケースから出した。代わりにその子……浅村りとを解放してくれ。お前はオレ達が持つから」 「来るな! 来たら殺すぞ、本気だからね!!」 じり、じりと近づくフツ。その一歩ごとにりとは下がっていく。 おそらく深緋はりとを危険に晒すのだろう、読めていた。だからこそ近づいて。 「来るな! 来るなぁああ! 殺すんだから!!」 その深緋の刃が、りとの小さな首を貫かんとしたとき。 「解放、してくれ」 深緋の刃を、腕で押さえ込み、そのりとの小さな命を救った。 「……は、ハハッ……は、ぁ」 りとの身体が、力無くどしゃりと崩れた。ぽたぽたと血がりとの頬をなぞる。その血の持ち主、フツは深緋の柄を握っていた。 ●寂しい少女 「アッハァ! 凄い! この身体、さっきのとは比べ物にならない!!」 「そう思っていられるのもいまのうちかもしれないけど」 フツの声で喋るから恐ろしい。深緋と、りりすの青褐がぶつかった。高い金属音が響く。 「それ、返して……抑え込まれちゃって、も~!」 「これでも凄く頭痛いからね、早くなんとかしたいかな」 そう言葉を交わし、互いに後方へと距離をとった。しかし、深緋の背後からはリルの気糸が絡め取ってくる。 「フツさん、返してもらうッスよ」 「はぁん! もうちょっと、馬鹿にしないでよぅ!」 だが彼の身体はその糸を回避しきった。完全に革醒者の身体を支配した彼女は、りとの時よりも大幅に力が上がっていた。 だから、なんだっていうんだ。リルはもう一度、その気糸を巻きつかせんと精神力を削る。結んで、開いて、その槍を封じ込めるために。 「これでもう、動けないッスからね!」 「む、ぐぅうぅうう!!! このおおお!!!」 「貴方は罪無き人々を八人も殺した。その報い、受けて貰うから」 セラフィーナの声が響く。少女の高い声だが、それでも重く聞こえるのは状況が状況だからだろうか。 目の前に居るのは道具などでは無いと考えた。人を故意で殺す殺人鬼だ。だから容赦しないことなんて絶対に無いのだ。 「道具だから? 武器だから? 人を斬るために作られたから? そんなの関係無い!」 休みさえ与えないほどにセラフィーナは残像を残しながら、ソニックエッジを叩き込んだ。 辺りを見てみろ、罪無き人の躯は積み上がるばかりだ。どうにもできない気持ちを胸に、セラフィーナは叫んだ。 「人の痛みがわからないのなら、今ここで教えてあげる!」 「こ、小賢しい!!」 同調するように深緋も叫んだ。フツの声に混じった少女の声が聞こえる。 死体がなんだ、殺しがなんだ。楽しいんだからいいじゃないか、そうとでも言いたいのか。 リルの気糸を蹴破り、突き出した刃はセラフィーナに向かったのでは無く、舞姫の肩を貫通していった。 「仲間を、返せ!!」 続いた舞姫。口内は血の味が混じった。それで尚、掠れる喉で咆哮した。 「す……すごいよ、凄いの!」 フツの顔が笑った。左肩に刺さった深緋の刃が傷を深くせんと、ずぶずぶ奥へ進行する。 いっそ左腕なんぞくれてやる。ダラリと力なく下がった左腕だが、筋肉を強張らせては抜かせまいと抵抗し続けた舞姫。勿論痛いし、油断すれば意識が飛びそうだ。だが、此処で諦めて何になる。 「凄い、あのね、深緋……こんなの初めて」 ゾクゾク、背中に電気が走る。その気持ちよさに思わず涎が口端から垂れていく。 「今凄く――怖い!!」 片目の碧眼は怒り混じりにギラリと光る、それに見つめられた魔槍を抱えた少女はゴクリと息を飲んだ。楽しそうに身体を恐怖に震わせながら。 「先祖の業とは恐るべき、でしょうか。ですが、それもこれまで」 ユーディスが槍を捨て、その柄に飛び込んだ。りりす同じく、精神の侵略は彼女は許さないのだろう。捕まえ、押さえつけ、動くなと足で踏ん張っては振り落とされないように力をいれた。 目の前のフツの眼の奥に、少女が居るのがユーディスだけには見えていた。遥か昔のフィクサードの娘なのだろう。数百年と時がたった今、その因果が回ってきたか。 「今、眠らせてあげますから……」 誰にも聞こえない声で、ユーディスは小さく少女に呟いた。 この時代は、一体なんだっていうのよ。私の頃にはいなかったわ。 「はいはい、そこまでそこまで」 後方から近づく、珍粘。その幻影でさえ、まだ深緋を押さえ込むには難しい、ならば! 「最終手段だと思ってたんだけどねー」 武器を投げ捨て、その両手で深緋を直に掴んだのだ。ユーディスとタイミングをあわせ、そのまま力任せに引っ張り、槍を無防備にさせる。 「あはははは、チャーンス?」 珍粘が虚空に言った。 なんのことだ、と。それに気を取られていたからか、深緋は接近してくる冴に気づかなかった。 数秒を犠牲に、精神を研ぎ澄ませた剣を二刀持って。 (……おかしい) 冴はそう純粋に思った。何故だろう、身体がいつもより軽く、剣も自分の腕を動かすかの様に軽い。 いける。そう感じた。 弾き飛ばせる。何故だかそう確信した。 全てが止まっている様だ。深緋が防御の姿勢を取ろうとしたが、珍粘の力は強い。精神を侵略されながら、鉄の心がその壁となっていた。 冴の刃は、間を縫って深緋を仕留めようとすり抜ける―― 「邪悪、断つべし!」 「あはははははははははは!! すごい、こわーーーーーーーーーーい!!!」 最後まで、彼女は笑っていた。 一瞬だったが、ベキっと音がした。それのすぐ後に弾く音が聞こえた。 回転しながら宙を舞った深緋が、コンクリートを突き破って地面に刺さって静止する。 その瞬間に、フツの身体は力無く前方に倒れていく。咄嗟に支えたのは舞姫だった――。 「は、はは」 りりすの声で一瞬、青褐が喋った様に聞こえた。 「我等は眠っている方が良いのかもしれん」 ● 「ぅ……頭、いた……」 りとの意識が戻る頃には全て終わっていた。 辺りを見回し、こびり付く血臭と、それを行った感覚に頭を押さえた。 「私……また……くぅっ」 辺りは静けさを取り戻していた。 ただ、深緋は静かに、静かに……眠りにつく。 もしかしたら永遠かもしれない。折られた傷は、深く、深く。 ただ、入れ物であった少女のすすり泣く声だけが聞こえていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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