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優しさに罪を、正しさに咎を


 ごぼり、と口腔から血が零れる。
 戦いという人生の中で見慣れた赤黒い液体は、彼にとって何の痛痒も齎しはしない。
 自分が楽な死に方をしないであろうとは思っていた。
 それを理解した上で、彼は選択した。リベリスタという、世界の守護者に。
 ――だからこそ、彼は悔しんでいる。
 この、小さな世界の欠片を守れないという事実に対して。
「お兄ちゃん……?」
 死に瀕した彼に手を差し伸べたのは、幼い男の子だった。
 歳は五歳前後であろうか。着の身着のままで居た少年は、動物をプリントしたパジャマに着替えたままの状態で、足は靴を履いていないため、あちこちが摺り切れ、傷だらけとなっている。
 何より、この年齢の者なら浮かべるであろうか弱い故の純真な瞳の色も……今は恐怖という汚濁に塗りつぶされている。
(守りたい……)
 男は思う。
 自身が此処で果てるとしても、今目の前にいる、限りない未来をその手に抱いている少年だけは、せめて襲い来る災厄から守ってやりたいと、そう願う。
「お兄ちゃん? どうしたの? 何処か痛いの?」
 男の身体を揺すろうとした少年は、その傷だらけの身体を見て、本能的に駄目だと判断したのか、軽く服の裾を引っ張るだけにとどめる。
 同時に、視界が暗くなり始めた。
 意識が泥濘に沈み、肉体が死という闇に囚われようとしているのだ。
「……大丈夫だ……」
 生命が尽きようとしているこの身でも、眼前の矮躯を抱きしめるだけの力は残っていたらしい。
 温かく、柔らかい少年の身体を強く抱きしめて、男は最期の言葉を呟いた。
「守って、やるから……!」


「……で、その結果が?」
「そう。現在発生しているE・フォース」
 リベリスタ達の言葉に淡々と答える『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)
 表情は何時も通りの無表情ではあるが、その内心に如何なる思いが渦巻いているのかは――問うには野暮、と言うものだ。
「……エリューションとなった思念の元である男性は、アークでそこそこの経験を積んだリベリスタ。今回は一人の少年を、捕食しようとしていたエリューションから救うべく、仲間が囮となって気を惹きつけている内に助けようとしたのだけれど……作戦は失敗。そのリベリスタは、先のエリューションに集中攻撃を受けて、そのまま死亡した」
 その後、どうなったかは既にリベリスタ達も知っての通り。
 偶然にも死に際の思念が革醒したことによって生まれたエリューションは、追ってきたエリューションを倒して後、未だに少年を守るべく、ぴたりと寄り添っている。
「……エリューションのフェーズは2。形状は靄のかかった人型だけど、少年には『彼』の明確な姿が見えているみたい。そして攻撃方法なんだけど……ここからが厄介なの」
 疑問符を浮かべるリベリスタ達に対して、イヴは攻撃方法の説明を始める。
「エリューションと交戦状態に入った者は、例外なく運気を下げられる事となる。それも格段にね。
 そしてその攻撃方法は、近接用と遠隔用、複数対象への攻撃が二種類。これは視界外の対象も含まれる上、先の運気低下に更なるマイナス修正が科される」
 驚くリベリスタ達であったが、イヴは「これだけではない」とも言った。
「貴方達が攻撃を放とうとする際、傍らにいる少年がそれを庇おうとしてくるの。……勿論、貴方達のような何の能力も持たない一般人の行動は大した支障に成らない筈なんだけど、敵の能力が能力である以上、『不幸な事故』が起こる可能性は、極めて高いと言えるわ」
 本依頼はあくまでエリューションの討伐であって、別段少年を救う必要は何処にもない。
 その判断はリベリスタ達に求められるものの……選択次第では、後味の悪い結果になる可能性は十分あり得る。
「……難しい依頼、だと思う。けれど、これをどうにか出来るのは、貴方達しか居ないの」
 少し申し訳なさそうな表情で言うイヴに対して、リベリスタ達は吃とした表情で頷き、ブリーフィングルームを退室していった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田辺正彦  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年06月13日(月)21:04
STの田辺です。
以下、シナリオ詳細。

場所:
『裏路地』
道が色んな部分と繋がっている裏路地です。
道幅は狭いものの、エリューションと少年はその路地において道が集中している部分に居るため、二人以上が並んで戦うわけでもない限り、行動に支障は出ないと考えてください。
しかし、それぞれの路地に個人ごとに配置されることにより仲間への視線が遮られ、回復や援護スキル等を使用することが難しくなるかも知れません。
因みに時間帯は夜です。

敵:
『E・フォース』
下記の『少年』を守ろうとするリベリスタの思いが革醒したものです。
特筆して特化したステータスなどはないため、特化型に弱い傾向があります。
能力は、その殆どが「運気の低下」に繋がるもの。
戦闘開始と共にPCの皆さんには、回避・解除不能な『不運』を付与します。(此方に関しては、スキル<悪運>への補正は無し)
攻撃方法は「複数対象への攻撃(近接)」と「複数対象への攻撃(遠隔)」。
此方も命中と共に『不吉』を付与します。攻撃力も低くはないので、繰り返し受けることで生命の危機に陥る可能性があります。

その他:
『少年』
上記の『E・フォース』に守られている少年です。
彼には『E・フォース』の思念元であるリベリスタの姿が、『E・フォース』に映るようで、そのリベリスタの死を理解しては居ません。
基本的に『少年』は『E・フォース』を守ろうとしてくるため、判定が一定値以下となった場合、攻撃は『少年』に命中するものとします。
勿論、『少年』を『E・フォース』から引きはがす方法は有るのですが、其処は参加者の皆様に考えて頂きます。



それでは、参加をお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ソードミラージュ
司馬 鷲祐(BNE000288)
ソードミラージュ
ハイデ・黒江・ハイト(BNE000471)
ホーリーメイガス
カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)
ナイトクリーク
アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)
プロアデプト
彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)
覇界闘士
付喪 モノマ(BNE001658)
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
ソードミラージュ
レイライン・エレアニック(BNE002137)


 華やかな表通りを避け、細く伸びる一本の狭い道を通ったら、目的地は最早目の前だった。
 汚れた壁、雑多に捨てられたゴミ。饐えた匂いと、無音、暗闇。
 それがそれだけで済むのならば、此処は唯の路地裏に過ぎない。
 だが、違う。
『…………』
 其処を魔窟とする元凶が、居る。
 薄く広がる半透明の靄。霧のような重さよりも、細い煙などの軽やかさを主たる印象とするエリューション。
 リベリスタ一人の思いによって発生するほどの思いの理由――件の少年は、寝惚けた瞳を必死にこすって、近づくワルモノが居ないかどうかを確かめている。
「――――――」
 嗚呼、と、『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)が、小さな呟きを漏らす。
 哀れな光景だった。最早亡き者を亡いと気づかず、助けられる筈がない者を助けようとしている姿が。
 献身。それで済めば良かった。その対象が唯の霧幻に過ぎなくとも、少年が彼のリベリスタを想う気持ちは本物だったから。
 それを――それと済ませられないのが。
 その思いを、砕かねばならないのが、最も彼らの救いを望む自分達なのだと言うことは、何たる皮肉であろうか。
「……せめて、最後の救いを」
 現実は、理不尽だ。余りにも、理不尽だ。
 それでも、そうした不条理(ルール)に従わざる自分を悔やみながらも、彼女は決して歩みを止めない。
「……」
 その言葉に、密かに共感した『トリレーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)もまた、戦いには似合わないセンチメンタリズムを、言葉より行動として謳う。
 故人の意志を無下にするわけにもいかない。言葉に出せば素っ気なく聞こえたが、秘めた思いがそれに留まらないことは、自分と、『彼』が知っていれば、それで良い。
「……、『彼』に感謝を」
 他に聞こえぬほどの声音。貴方の結末を無為にはしないという覚悟の表れ。
 彩歌とカルナだけではない。『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)も、『黒腕』付喪 モノマ(BNE001658)も、同じ事だ。
「エリューションの前に来たら、彼に語りかけてみようと思う」
 『彼』の自我を呼び起こすため、同時に弔いの意味も込めて、羽織ったアークの制服は、少女の矮躯を綺麗に飾る。
 それを見ながら、言われたモノマは――笑って頷いた。
 そう、何のことはない。二人は同じ事を考えていたのだ。
 届かない可能性の高さが在って、失敗したときのリスクが在って。
 そうした諸々を知って尚、諦めない彼らの姿勢は、夜の闇中に眩しく映る。
「……上等だ」
 その背を守るかのように、『不退転火薬庫』宮部乃宮 火車(BNE001845)が薄く笑った。
 意志の強い奴は好きだ。恥じることなくそう言い切る彼にとって、此度の敵も、モノマ達の覚悟も、彼にとっては心地よく感じる。
 遂行に非道を問わぬ彼は、だからこそ、この戦いに在る想いを叶えてみせようと言った。
 時は進む。
 各々が戦闘準備を始めると共に、その微かな殺気にも鋭敏に反応した靄は、ゆっくりと見えざる気を、周囲に侵食させていく。
「っ……」
 ズン、と言う音と共に、自身の心が、身体が、重い何かに絡みつかれるような気がした。
 身体能力や思考回路、そんなモノを軽く無視した運命の縛鎖は、彼らを確かに絡め取る。
 靄は笑う。そう感じる。
 絶対に誰も近づけさせないという思いが、不敵な笑いの中に在る気がした。
「誰かを守ろうとする尊さを、裁ける者なんていない」
 それを、真っ向から受け止める者が居た。
 『夜波図書館の司書』ハイデ・黒江・ハイト(BNE000471)。彼女はかつての同士に対して、哀しみも、憎しみも無い真っ新な瞳を向けて、朗々と言い放った。
「敵味方…本人にだって。…私はそう信じたい」
 ――だから、この戦いは、唯。
 言い切らなかった。言い切れなかったのか、それより先に、敵が動き始めた故に。
 意志と遺志が、ぶつかり始めた。


 がきん、がきん、がりがりがり。
 『冷たい雨こそが俺に相応しい』司馬 鷲祐(BNE000288)が構えた防御用短剣を、真白の靄が形を為して削る。
 防ぎきれなかった靄が、刃のように手先を滑れば、微かな朱が手の甲に滲む。
 それを理解し、眼にしつつも、彼は一切、表情を変えなかった。
「……ある意味、最もリベリスタらしいと言えるな。見習いたいほどだ」
 向き直る。
 人型は、あくまでも少年から離れない。其処に自身の存在意義があるとでもいう風に。
 それを、感嘆の瞳で見守りながらも――腕に込める力は、先ほどよりも更に強く、鋭い。
「だが、やりすぎた。それだけだ」
 正面からと見せかけての急挙動、体勢を低くして横をすり抜けた鷲祐は、相手の視界から外れた事を確認すると共に、高速の刃の群れを繰り出す。
 敵が霧幻ならば、此方は夢幻。
 幻影の交錯。それをよけ損ねたエリューションは、霧の身体を次々とそぎ落とされていく。
 敵意の証を刻みつけられたエリューションは、それに怒り、反撃を叩き込もうとするが……それよりも先に、彼女が動く。
「今のお主は、その子を苦しめておるだけなのじゃぞ! 目を覚まさぬか!!」
 『巻戻りし運命』レイライン・エレアニック(BNE002137)。
 鷲祐や他の仲間同様、彼女も絡みつく靄に身体の端々を切り裂かれつつも、片手に握るナイフは夜を縫って、敵の身体に突き立った。
 在るはずのない感触。それを確かめた彼女ではあるが、その一瞬後には靄が彼女を覆っていく。
「ぬ……っ!」
 回避。それを思考した瞬間、身体からがくりと力が抜ける。
 敵の『不運』による効果であろうか。舌打ちをしたレイラインではあるものの、時既に遅し。
 断、と言う深い音と共に、身体中に猛烈な灼熱感が疾った。斬られたのだ。
「やっぱ、易々と近づかせてはくれねぇか……」
 攻撃を受けたのはレイラインだけではない。モノマも、火車も同様だった。
 受けると共に、身体が更に深く沈む感覚を覚えるが、未だ動きを止めるほどではない。
「傷は此方で治します。皆さんはあの子を……!」
 言うと共に、上空を舞うカルナが、語る。
 グリモアを通して拡散された声は謳となって拡散し、傷を負った者達に小さな温もりと活力を与える。
「……坊主!」
 それに力を得たモノマが、少年に手を伸ばす。
 少年は戦いの気に当てられ、最早すっかりと目を覚ましていた。しかしそれで居ながら、彼は決してモノマの手を掴むことはない。
 理由は解っている。それを解きほぐすための言葉も用意はしてある。
 だが――
「っ、嫌だ!」
 少年はそれを拒み、前衛陣から距離を取る。
 そう、足りないのだ。この子供を呼ぶには、未だ。
 如何に眼前の少年に対し、『彼』はニセモノだと言ったところで、少年にはハッキリとした『彼』の姿が見えている。そして、『彼』は此方に攻撃を加えてくることもないが、リベリスタ側は少年と距離を取らせるために、エリューションに対して攻撃を仕掛けている。
 これがもう少し大人だったなら、その説得も功を為したかもしれないが、子供の精神というものは理屈では動かぬ感情というものが在る。
 証明とまでは行かなくとも、未だ、少年の信頼に足る何かが足りなかったのだ。
 少年自身に此方を選ばせるというのは、今の彼らの言葉だけでは難しい。
「それでも……!」
 空中を舞うアンジェリカが、叫ぶ。
「ボク達はこの子を救い、あなたを倒す……。あなたに代わってこの子を守り切れる事を証明する為に、そしてあなたが安心して逝けるように……!」
 嘉言善行などと、自身の行いを誇る気はない。
 出来ることは唯、本来叶えられる筈だった『彼』の想いを、自分たちが代わることだけだと、彼女は言った。
 闇に溶けた黒弦が、舞い踊る。
 気糸を併せてエリューションを襲うそれらは、一本一本が見事な精緻さを以てエリューションに絡みついた。
「! お兄ちゃ――」
 少年が叫ぶ前に、視界が暖かな闇に閉ざされる。
 血に濡れた腕で小さな身体を抱きしめたモノマが、奇しくも、『彼』と同じ言葉を呟いた。
「守って、やるから……!」


 靄が疾る、靄が飛ぶ。
 少年をモノマに奪われ、逃げられて以降、その攻撃に更なる苛烈さを得たエリューションは、最早形振り構わぬと言った様子で、次々とリベリスタ達に襲いかかっている。
「出来るだけ耐えなきゃいけないんだけど……難しいかな」
 彩花の言葉は、まさしく真理である。
 少々の誤算によって少年を捕まえる事が遅れた分、消極的な攻勢しか受けなかったエリューションの余力は未だ十分。
 対して、エリューションの攻撃は何の容赦もなく、常に最大出力で放たれてきた。カルナの治癒術によって目立った傷こそ無いものの、その分彼女が味方を援護できる回数は、最早多くない。
 分は、間違いなくエリューションの側にある。その状況で更に戦闘から、一時的といえども仲間が減ってしまっている。
 今現在に於いては積極的な攻勢に出ているリベリスタではあるものの、少年を庇うことに専念し、モノマを欠いた状態では幾らか火力が足りない。
 霧は徐々に原型である人の姿を保てなくなってきているが、それよりもリベリスタ達の消耗が早いと言う事実が、彼らの焦りに拍車をかけていた。
「後は……わらわ達が引き継ぐ。じゃから、もうよい……もうよいのじゃ!」
 叫ぶレイラインに、霧の刃が振り下ろされる。
 反射的に動いたナイフがそれを受け止めるも、幾重にも傷つき、疲労した彼女の身体では勢いを殺しきる事が出来ない。
 揺らぐ身体に向けられた、第二の斬撃を溶かしたのは――業炎。
「モノマが踏ん張ってる間に、自分の身なんざ気にしてらんねぇよなァ!」
 火車の拳だった。
 回避と防御、受動行動を全て捨て去り攻撃のみに集中した拳は、朱に染まりつつも靄を的確に穿っていく。
 運命は既に一度、彼の危地を変転させている。再び倒れれば、恐らく次はない。
 だが――それに怯えて竦むのでは、『不退転』の名は名乗れない。
 燃え盛る。燃え盛る。握る拳が放つ炎は、溶岩よりも熱く、太陽よりも色濃く。
「、が……っ!」
 交錯は一瞬。
 炎が靄の大半を消し飛ばすと共に、靄もまた放った刃で火車を貫いた。
 攻撃を一身に受け続け、尚かつ少年を奪ったモノマに対する攻撃を殆ど庇い続けた彼だ。寧ろ此処まで保ったのが奇跡とも言える。
「……!!」
 声を発そうとし……それをすんでの所で止めたカルナは今一度癒しの言葉を発する。
 戦場から戦える者二人が消えた。最早、一分の隙さえも見せる余裕はない。
「……私達は貴方を倒す。貴方から、あの子を守る。
 きっと貴方が願ったように、必ず家族の元に帰します」
 ハイデが言う。
 それが届かぬ言葉と知っていながら、その遺志に報いる言葉を、自らの務めとして言う。
 靄は揺るがない。解っていた事。
 それでも――彼女がエリューションを見る瞳には、微かな哀しさが漂って見えた。
 幻影が舞う。
 或いは刃の分裂か、或いは闇に溶けて消えるか、様々な姿を次々と変化させていく薙刀は、まるで万華鏡のように。
 がりがり、かきん、かきん、かきん。
 分厚い石でも削っているかのような手応えが、徐々に軽くなっていく。
 エリューションが限界に近しいという証明だ。
 それ見逃さず、彩花が番えた矢を放つ。
 撃ち放つ矢は、そのどれもが確実にエリューションを狙いながらも、エリューションに届く前にがくりと速度を下げ、落ちてしまう。
「……示しが付かないわね、これじゃ」
 嘆息。
 敵の能力に衰えはない。この状況でも自分たちの行動が上手くいく確率は良くて八割方なのだ。 だからこそ――最後の最後まで、全力を以て。
「俺達が代わる。お前が望みを。
 俺達が引き継ぐ。生きて戦うことを」
 敵を見据えて、鷲祐が言った。
 正しき想いの意志は、『彼』が死して、力を得ると共に忌むべき遺志となった。

 ――どうすればいい?
 ――真っ直ぐな意志が、得た力のせいで、意志に反して歪むなら。
 ――守りたい少年すらエリューションとしてしまうかもしれない姿になって。

 問うまでもない。答えは決まっている。
 それが、今の彼らの――リベリスタ達の答え。
「だからお前はそこで、静かに祈っていてくれ。
 俺達の幸運、お前の守りたいものの未来をな」
 剣閃。
 汚れた遺志が、銀光の中に消えていく。
 靄が完全に消え去る瞬間まで、リベリスタ達は目をそらさなかった。
 最後まで、ずっと見ていた。


 ――歌が聞こえる。
 戦場から離れ、今は静寂のみが漂う場所に、微かな歌声が聞こえてきた。
「……戻ろうか」
 言ったモノマに対して、『お兄ちゃん』を守れなかった少年は、泣きじゃくるのみだった。
 少しだけほろ苦い笑みを浮かべたモノマは、少年をひょいと抱えて、戦場に戻っていく。
「……何で、お兄ちゃんを苛めるの?」
 嗚咽混じりの声。
 それを耳にしたモノマは、どれだけ胸が痛もうとも、決して少年の前で笑顔を崩すことはない。
「アレは、お前を守った兄ちゃんの思いの欠片だ。大切な思いだから兄ちゃんの所に返してやらねぇといけなかったんだよ」
「嘘だよ! お兄ちゃんはずっと僕に一緒にいてくれた! ずっと僕を守ってくれてた!」
 自らの『見てきたこと』だけを盲信する少年に対して、モノマの心は、唯、哀しい。
 ――それは違う、本当の『お兄ちゃん』は、彼処にお前を閉じこめたままにはしない。
 それを言葉に出しても、きっと、今の少年は信じない。
 解っているからこそ、モノマは唯、少年を笑顔で見つめるkとしか出来なかった。

 少しして、たどり着いた。
 ボロボロになったその場所で、真っ黒な女の人の歌だけが流れている。
 僕は、其処に立つみんなを見て……驚いた。
 『お兄ちゃん』が居ないその場に於いて、恐らくは倒してしまったのだろうと思える人々は、ほとんどみんなが、とても辛そうな顔をしていたから。
 僕は、ぼうっとした頭のまま、自分を抱えている人の腕から降りる。
 よろよろと動く足は、まるで幽霊のような、消えそうなほど頼りなく思えたけど、決して倒れはしない。
 10mほど歩いて、終着点に着く。
 最後に『お兄ちゃん』が居た場所。最後に『お兄ちゃん』を見た場所。
「……お兄ちゃん」
 独りでに声が出た。
 ひび割れた声だった。それが自分の声だと思わなかった。
「……ごめん、ね」
 声が続いた。
 それと一緒に、ぽろぽろと涙が出た。
 ほんのちょっとしか話せなかった『お兄ちゃん』。その人をいじめて、僕よりも辛そうな顔をしているみんな。
 何もかもが、解らなかった。みんなを責めることも、僕を責めることもできなかった。

 ――歌は、いつの間にか止んでいた。
 ――聞こえたのは、もう、僕の泣き声だけ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
田辺です。相談お疲れ様でした。
理屈や正論だけで行動できない子供には、それ相応の方法が必要だと思います。
若干後味の悪い終わりとなりましたが、少年はこの哀しい記憶を糧として、きっと前に進む人間となることでしょう。
それでは、次回以降、皆さんの相談、プレイングに期待しております。
本シナリオのご参加、本当に有難う御座いました。