● はぁい、僕様は『イエローモンキー』黄太郎。シャイで照れ屋でヒッキーな、所謂黄泉ヶ辻の平均的な性格の、働いたら負けかな? って思ってるフィクサードさ。 でもこんな僕様にも譲れない物があるんだぜ? 其れはカレー。ガンガンに冷やした部屋に引き篭もってあっつあつのカレーを貪る。其れが僕様の幸せで僕様の生き様で僕様の人生さ(暑い季節限定)。 なのに、何でこの僕様がこんな暑い炎天下の中を出て来てるかってーと、其れは昨日の事なのさ。 『え、それってマジ?』 『マジだって。知らねぇの? それで良くカレー好き名乗れるよな。織田信長は倒した敵将の頭蓋骨を器に其の脳味噌カレーを食うのが好きだったんだって』 『…………あ、あー、知ってたわ。僕様知ってた。最近丁度イカスミカレーにもマンネリだったから織田信長リスペクトしようと思ってたトコだわ。本当。いやいや、思い出させてくれて有難うマジで』 仲は全然良くないんだけど、カレー好きの同志としてまあ認めてやっても良いかな? とか思ってるカレー好き殺人鬼のMIXスパイスが、ちょっと電話で物知り風吹かすから僕様面倒くさいけどこんなトコに居るわけよ。 アイツも知ったかだったのかなあ? 良く考えたら何か間違ってる気もするんだよなあ。 まあいいか。 世間には脳味噌パスタとか言っちゃう変態もいるし、まあ脳味噌カレー位なら許容範囲内かなって僕様思うわけ何だけどそこんとこどうよ? アリだよね? でも一口に頭蓋骨を器にして~、って言ってもどんな頭蓋骨が良いのかさっぱりだわー。 僕様骨マニアちがうっつーの。 取り合えず可愛い女の子とかで選ぼうかなあ。同じ食べるなら素材にはこだわりたいよねー。 でも織田信長が食べてたのって敵将のだよねえ。いかつい方が良いのかな? まあいいや、目に付いたの片っ端から襲おう。 ● 「黄泉ヶ辻のフィクサードが現れる。早急な排除が諸君等の任務だ。健闘を祈る。以上」 手短に告げた『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)は車椅子を漕いで部屋を退出しようとするが、出口に控えていた満面の笑顔のアーク職員の手によって元の位置へと戻された。 「ちきしょう。もう良いじゃないか。一体何人目だと思ってるんだ。毎度毎度奴等の奇妙な性癖だの食癖だのを説明させられる私の身になったら、もう説明なんて要らないと思わないかね?」 とは言え、此処で本当に要らないと言えば拗ねるだろうし、いい年したおっさんとはかくも面倒な生き物である。 アーク職員がリベリスタ達に資料を配っていく。 「まあ兎も角説明に移ろう。今回の任務はある大型スーパーに現れるフィクサードの退治だ。奴の目的はカレーとカレー皿の材料にする為に人間の首を集める事。意味は判らんと思うが、了承してくれ」 なるほど、何時もの黄泉ヶ辻だ。 「諸君等が到着する頃にはターゲットは既にスーパーの中で獲物を物色している。犠牲を0に抑える事は、……恐らく不可能だろう。奴は狩った首をカートに載せた籠に入れるが、此れが一杯……、そうだな、恐らく3~5個で一杯になるだろうが、そうなれば奴は目的を果たして帰るだろう」 つまり、其の前に撃破しろと言う事である。 資料 フィクサード:『イエローモンキー』黄太郎 黄泉ヶ辻に所属する、平均的な性格のフィクサード。引き篭もり気質で働いたら負けかな?と思ってる。そんな彼が拘るものはカレー。 実力はまあまあ高い。ジョブは不明。 所持アーティファクトは、盾にもなり、ブーメランにもなる皿と、岩盤をも抉れるマイスプーン。 EXスキルは『灼熱のカレー粉嵐』敵全体に業炎と麻痺効果付きの強い攻撃。放つ度にカレー粉の缶詰を消耗する。カレー粉の缶詰は色んな所に隠し持っている(初期段階で3個)。 E・ビースト:イカスミ 黄太郎のお供のダイオウイカのE・ビースト。革醒により地上行動も問題なく行えるようになった。足まで含めれば全長8m程。足が多いので3回攻撃と、寧ろ黄太郎より強い。 先日まで黄太郎にイカスミを提供しており、イカスミ当人の好物もカレー。 黄太郎が作ると言う新しいカレーにワクワクしている。 攻撃手段は、目潰しイカスミ(物遠単・虚弱・圧倒・鈍化・ダメージ0)、イカスミ鉄砲(物遠単・ショック)、触手デンプシーロール(物近全・連)、触手で捕獲しての締め付け(物近単・継続してのダメージ)がある。 「冗談の様な相手だが、侮れない実力の持ち主だ。油断せぬようにかかってくれ。……さて、では改めて諸君等の健闘を祈る」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月16日(日)23:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 夕食のメニューを考えながら、秋津里子(旧姓・五月)がうろつくのは大型スーパーの精肉コーナー。 先の6月に、そう! 憧れのジューンブライドで結婚したばかりの新婚の里子の頭の中は旦那が喜ぶメニューを考える事で一杯だった。 古のローマの女神ユノは、女性の結婚生活を守護する神であり、6月の英語名であるJuneの由来でもある。 故に6月に結婚した花嫁は、ユノの加護を得て幸せな結婚生活を送る事が出来ると言う。 里子がユノの加護を得ていたのか否かは定かでないが、彼女は今、自分の人生を見渡しても一番幸せだと断言出来る時期にあった。 けれど、だからこそ、底意地の悪い運命は、悪意は里子を標的としたのだろう。そして彼女も、幸せさが故に危機感が鈍っていたのも確かだ。 カラカラと空の籠を積んだカートを押しながら、自分の方へと向かって来る男を見た時、里子は彼が精肉コーナーを漸く見つけた人なんだろうと薄ぼんやりと考えた。だって其の男は、探していた食材を漸く見つけたって感じの顔をしていたから。 次に、何故か其の男の手に握られたスプーンを見た時、里子はカレーを連想した。そして違和感を感じる前に、今晩のメニューに関してカレーを考慮し始めてしまったのだ。 里子はそうでもないのだが、彼女の旦那はカレーが好きである。それに結婚したばかりで料理は修業中の里子でも、カレーならば然程失敗しない料理の一つだ。 だが里子にとってカレーは一つ大きな溝を抱えた料理でもあった。 里子の実家はチキンを入れてカレーを作るのだが、旦那の実家は牛肉でカレーを作る。単純な行き違いではあるけれど、其の違和感は幸せな結婚生活に入り込む微妙なストレスだ。 勿論旦那には喜んで欲しい。此れは絶対の条件だ。だが、だからと言って単純に牛肉でカレーを作るのも何か違う気がしてならない。 眉間に皺を寄せる里子の幸せな悩み。けれど、不意に彼女の思考は中断される。 ジリリリリリリリリリリリリリリ! 店内に鳴り響く火災警報の音に思わず天井を見上げる里子。本能的な其の動きを取ったのは、彼女以外にも周囲に数名。 考えての、状況を認識しての事ではない。ただの反射であり、其の時の里子の思考は空白。そして其の空白が再び埋まる事は二度となく、彼女の頭は買い物籠の中に落ちた。 救いが在るとするなら唯一つ、きっと恐怖も痛みも感じる暇などなかったであろう事のみ。 ● 必死に駆け付けたリベリスタ達の眼前で、『イエローモンキー』黄太郎のスプーンが一人の若い女性の首を根元から抉り取り、頭をカートの買い物籠の中へと落とす。 周囲に響く警報音に利発な者は事態を把握する為に動き出しているが、鈍い者はぽかんと宙を見上げて不思議そうな顔をしたままだ。故に、隣で起きた凶行にも未だ彼等は気付いていない。 鈍く愚かな羊の群れ。この国の人間達に最も足りていない物、其れは危機感。 籠の中に転がる、驚きの表情のままの首と視線が合い、『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)は間に合わなかった事を悔い、心の中で謝罪する。其れに何ら意味が無いのは100も承知であるけれど、そうしないでは居られなかったのだ。 とは言え彼等にミスは無い。黄太郎が食品売り場周辺に居る可能性が高い事と考え、外周を最速で駆けてリベリスタ達を先導した『闇狩人』四門 零二(BNE001044)の判断に間違いは無く、真っ先に火災報知機を押して少しでも犠牲者を遠ざけようとした『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)も、ある意味で常套の手段を取ったまでだ。 ただ急いだから、常套手段を取ったからと言って全てが救えるのならば、彼らを送り出したフォーチュナは『犠牲を0に抑える事は恐らく不可能だ』等と言いはしなかっただろう。 世界を覆う悪意は彼等が思う以上に根が深い。覆すだけの何かを、今の彼等は持ち合わせて居なかった。 「警察だ! 凶悪犯を取り押さえる! 店の外へ逃げろ!」 「凶悪犯だ逃げて、大丈夫だ、助けにきた!」 未だ呆けたままの買い物客達を一喝する零二と、逆に言葉に優しさを込めて人々を我に返らそうとする『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)。 其処で漸く首を抉られた女性の身体が崩れ落ち、噴出し天井を染めた血が激しい雨漏りの様に滴る。 叫び声の後は一瞬だった。蜘蛛の子を散らす様に押し合いながら逃げ出す人々、隙だらけの彼等に黄太郎が手を出さなかった理由は唯一つ。 小柄な身体を活かして混乱を潜り抜け、いち早く黄太郎に張り付いた『第28話:あつはなつい』宮部・香夏子(BNE003035)が己の周囲に漆黒の霧を展開して黄太郎を其の中に取り込んだからだ。 「ちょお、おおおお!? へ、へるーぷ!!!」 だるそうな、面倒くさげな表情を驚愕に歪めて塗り潰され、黄太郎がリベリスタ達の視界から消える。 しかし黄太郎の其の悲鳴に応じる様に、食品売り場の一角、鮮魚コーナーふ吹き飛ばして巨大な大王イカが姿を見せた。友である黄太郎を探してぎょろりと辺りを見渡すE・ビースト『イカスミ』の30cmはある巨大な眼。ぬめぬめと蠢く触手が掴んだ冷凍マグロをイカスミの口に運ぶ。 既にイカスミはリベリスタ達を友であり主でもある黄太郎の敵と認識しているのだろう。向けられるはあからさまな敵意。 けれども其の増援もリベリスタ達にとっては想定された範疇だ。寧ろ、イカスミから先に倒す腹積もりの彼等にとっては、イカスミが出て来てくれなければ話にならない。 「まずはイカスミ、お前を味わいつくす。イカスミカレー、私も食べてみたかった……」 敵意に対して食欲で返す『もう本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)。 ちなみにイカスミカレーは普通に美味しい。あの真っ黒さに偏見がある人も、是非一度は勇気を振り絞って食べてみるべきだとお勧めしよう。 既に小梢はパーフェクトガードを発動しており、ただでさえ硬すぎて面倒くさいのが更に硬くなっている。非常に、鬱陶しい程に、その胸についてるのはおっぱいじゃなくて増加装甲じゃないのかって位に、硬い小梢が大きなフォークとスプーンを手に、イカスミと殴り合う。 複数の触手が纏まり、唸りを上げて辺りを薙ぎ払う触手デンプシーロールでさえも、防御とタフさを兼ね備えた小梢にとっては致命打とはなりえない。 3回の攻撃に積み重なったダメージも、『悠々閑々』乃々木・白露(BNE003656)の天使の息に減じられる。 更には零二の破壊的なオーラを纏った雪崩の如き連続攻撃が、デンプシーロールを終えて体制を崩したイカスミを滅多打ちにして次に繋がる更なる隙を作り出す。 そしてあたり一面に降り注ぐ氷の雨に、体表のぬめりが凍り付き動きを鈍らせる。 登場して即座に窮地に立たされてしまうイカスミ。けれども軟体生物の其の濁った目は、諦めの色を浮かべる事も無く、激しく動き回る敵対者達を冷静に分析していく。 「早く避難しないとみんな死んじゃうの! お願い、手伝って!」 通りすがった男性店員の服の裾をきゅっと持ち、上目遣いでテンプテーションを使うリュミエール。 勝気そうなお嬢様が弱みを見せて自分を頼る。割とあざとい手法だが、男はこう言うのに弱い。意味は判らないけれど、助けてあげねばと何故か思わされてしまうのだ。 テンプテーション無しでも言う事を聞きそうな彼が、当然上乗せされたテンプテーションに抗えよう筈が無く、仲間の店員達に連絡してルーメリアの指揮の下に避難誘導を開始する。 「さて、次は……」 漸く売り場から大量にあったカレー粉の缶詰(あろう事か特売で山積みしてやがった)を全て撤去し終えた『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)は僅かな気疲れを噛み殺し、一つ、二つと其の背の翼をはためかせて宙へと舞い上がる。 懐から取り出したのは煙草と、ブルーとゴールドのラインストーンでちまちまとデコられ、雷と一対の羽が描かれたオイルライター。 杏の最愛の人が彼女に贈ってくれた其れは、例え一秒を争う喧騒の中でも粗雑に扱ってよい代物では無い。 其の動作を彼女は此れまで何度繰り返したのか。何処か優雅に、手馴れた仕草で炎に咥えた煙草の先端を入れ、ゆっくりと一息吸い込む。 吐息と共に唇から吹かれた煙が、大型スーパーの天井に備え付けられた火災探知機を包み……、 「……駄目かしら?」 反応の無さに杏が落胆しかかった其の一瞬後、天井のスプリンクラーが店内に水を撒き始めた。 杏が自らに課した二つ目の仕事が終る。贈り物のライターが濡れぬよう、丁寧に懐に仕舞う杏をスプリンクラーの水が雨の様に塗らす。 ● ドチュッ。異音を発したのは穴の開いた白露の胸。胸から背までを貫いたイカスミ鉄砲に、表情を歪ませた白露が倒れ伏す。 そう、何も態々クソ硬い小梢を狙い続ける必要など何処にも無いのだ。 ダメージを回復で減じられてしまうなら、先ずは回復役から潰せば良い。 運命の加護に一度は踏み止まろうとも、イカスミからみれば白露の動きは隙だらけである。 張り付いてくる小梢は非常に面倒くさいが、特に急いで排除する理由も無い。零二を狙う次いでに巻き込む程度で丁度良い。 其れよりも次に狙うべきは雷音だ。遠距離から氷雨で体力を削ってくる彼女さえ落とせば、後は適当に触手を振り回すだけで良いのだから。 敵対者達の動きを分析し終えた軟体動物の逆襲。其れと時を同じくして、闇の世界に捕らわれた黄太郎も事態の打開に動き出す。 黄太郎を相手取っているリベリスタは2名。闇の世界を展開する本人である香夏子と、本当は黄泉ヶ辻に関わるのは嫌だが、妹の前で怯んだ所など見せられない兄、夏栖斗である。 二人は暗視で闇の世界を見通しつつ、バッドムーンフォークロア、虚空、複数攻撃を可能とするスキルで黄太郎、イカスミの両方にダメージを与えていく。 其れに引き換え、黄太郎には暗視も熱感知も、この闇の世界を見通す方法は何一つとして無い。 外の様子を知る事も出来ず、敵が攻撃してくるタイミングも気配で察するより術が無い。 けれど、だ。見通す方法が無いからと言って、黄太郎が無効化されてしまった訳でも、決して無い。 突如、香夏子と夏栖斗からの攻撃に瞳を閉じて集中を続けるだけで耐えていた黄太郎が動く。 黄太郎の周囲に溢れ渦巻くは思考の奔流。見えなくても良い。音が、気配が、凡その位置は教えてくれる。大雑把に辺り諸共に、黄太郎のJ・エクスプロージョンが放たれ、避け損ねた夏栖斗を闇の中から叩き出す。 直撃こそは避けえた物の、掠めた攻撃にあまり頑丈とは言えない香夏子も、結局は回復を求めて闇の世界を解除せざる得なくなる。 黄太郎が普通のスキルを使うのは、一体何年ぶりだっただろう。範囲、或いは域のスキルが無ければ封殺されていたかも知れない危機に、内心胸を撫で下ろす黄太郎。 リベリスタ達の眼前で合流する一人と一匹。けれども、戦いの天秤が揺らぎを均等に、戦いを振り出しに戻しかけた其の時だ。 「さ、真打登場よ」 「インドブレイカー参上! この世の全てのカレーを滅ぼす!! さぁーかかって来い、お前も滅ぼしてやるの!」 指先から放たれる四色の魔光、杏の魔曲四重奏がイカスミの頭部を抉り取り、大見得を切るルーメリアの聖神の息吹が傷付いた仲間達を賦活する。 店内での作業を終えた二人のリベリスタが、タイミングよく駆けつけてきたのだ。しかしルーメリアはカレーに一体何の恨みがあると言うのか。確かに周囲をカレージャンキー達に取り囲まれた彼女の環境は無駄にカレー臭くて同情するが、それでもカレーに罪は無い。咎人はごろごろ働かないお仲間達だけだ。 不意を突かれてのダメージと、排除した筈の回復役の追加と言う心理的ショックに、イカスミの動きが鈍る。 イーブンに戻りかけた戦況は、再びリベリスタ側に大きく傾いた。 ● 「ここまで邪魔されてるんだから帰ってよ、脳みそカレーとかマジで嘘だから、酒飲んでただけだから! 騙されてるって!」 「脳みそカレーなど、命がけで作りたいものではないだろう? これ以上働くのはポリシーに反するんじゃないかな?」 「今の流行りは脳味噌カレーじゃなくて冷やしカレーだよ。家でダラダラ食べるのがサイコーに美味しいんだよ」 イカスミが倒れ、唯一人となっても戦いをやめない黄太郎に夏栖斗が、雷音が、小梢が撤退を促す。 長引く戦いにリベリスタ達を厭気が襲う。自分たちと特に違いの無い外見、話す言葉、其れ等を持ちながらもボタンを掛け違えたかの様に一つ二つズレる異質さが、兎にも角にも気持ち悪い。長く接する事を本能と理性が手を取り合って拒む。 けれど、一人、零二は其の気持ちの悪さを奥歯で噛み潰し、更に一歩前に出る。 「駄目だ。絶対に逃がしはしない」 振るう刃がスプーンと噛み合う。籠める力に金属が擦れ合い異音を奏でる。 「何故かだと? 殺された人もカレーが好きだったのかもしれない。だが、もうカレーを口にすることは永遠にないんだ」 力と力の押し合いに、押し勝ったのは零二。返しの刃が体勢を崩した黄太郎の体を裂き、血飛沫が辺りに舞い散った。弾き飛ばされ、カート諸共無様に地面に転がる黄太郎。 「これほどの無念があるか? お前は許せん」 激しい零二の怒り。だがその熱い怒りにも、身体を裂かれた痛みにも、黄太郎はゲラゲラと笑い声を上げる。 「あー、それはわりーわりー。ほんとわりー。おっさん怒るのも僕様納得。でもさー、お陰で僕様もおっさん等が許せない理由が出来たわー」 立ち上がりながら、床に転がる生首を拾う黄太郎の視線は、既に動かぬイカスミに。 「コレがカレー好きかどうかは知らんけど、おっさん等が殺したイカスミは間違いなくカレー好きだったのよ。カレーとカレーで僕様とイカスミは繋がってたのよ」 ぐしゃりと、其の手の中の生首を握り潰し、黄太郎は吼える。 「お前等全員似非カレー好きだわ。似非共に、僕様が本当のカレーをおしえてやんよ!」 プロアデプトである事が判明したにも拘らず、黄太郎の思考の筋道は他人の理解が及ばぬものだ。 敗北は確実に見えている。なのに、スプリンクラーの水が舞い散る中に、黄太郎は隠し持っていた缶詰の中身、カレー粉を解き放つ。 炎よりも熱く、刺激で感覚を破壊する程に辛い『灼熱のカレー粉嵐』が吹き荒れる。 一瞬後に、リベリスタ達からの総攻撃を受けて息絶える未来は当人にも判っていたけれど、一撃を放つ。 ……ドチュッ、ザクッ、グシャ、ゴキリ。 刺し貫く音、切り裂く音、叩き潰す音、そして骨の砕ける音。死の音。 戦いの結末は、誰もが、死する本人すらもが予測したとおりに。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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