●ある星の夜、突然に 突然の落下感。 どしんとおしりを打った。 と思ったら、あたし、ごろごろと転がってる。 ここどこ? どうなってるの? とにかく、だれか。 た~す~け~て~! ●でれつんときどきやん 「今度は、ハリネズミ。丸まってる状態で、大体直径三メートル」 単純な討伐依頼だと思っているリベリスタ達は、ふんふんとおとなしく聞いている。 「アザーバイト。今回は、討伐するより送還する方が楽。作戦目的は送還とするよ」 送還作戦かぁ。と、頭を切り替えるリベリスタ達。 経験を積んで、どんな事態にも臨機応変で対応できる。 それが、アークのリベリスタ。 イヴは、モニターにむきだしの斜面を映し出した。 「ここ、現在宅地造成中の山の中。アザーバイトは、この付近から出現する。このゲートはすぐ閉まる」 頂上付近に手書きでAと書き込まれる。 「転がり落ちてくる。ゴロンゴロンと」 予測ルートはこれと言って、ほぼ真っ直ぐに線を引く。 「みんなには、これを受け止めて欲しい」 リベリスタの間に流れる、不自然な沈黙。 「出現から一分前後で、この部分にゲートが開く。そのままそこに入るように押さえていて。時間が来たら手を離せば、そのままゲートにホールインワン」 すごく簡単。と、イヴ。 「戦闘となると、かなりの長期戦になる。消耗も大きいから推奨できない。今回戦闘はなしにしてほしい」 斜面の下にBと書き込み、その下に「崖」と書き込んだ。 モニターの映像を見ると、確かに10メートルほどの崖だ。 「そのままにしておくと、ものの10秒でハリネズミはゲート出現予定場所を通過し、崖下に落ちる。隠蔽工作がとても大変。すごく避けたい」 一昔前のカトゥーンアニメ的にハリネズミが落ちていき、地面に穴が開く情景が、リベリスタの脳裏をよぎる。 「通り過ぎたのを逆走させるのは、人力では無理。だから体を張って、ゲートが出現するまでの一分間どッせーいと受け止めて欲しいの」 無表情でどッせーいとか言われても。 状況は分からないでもないが。 リベリスタとしては、ハリネズミと言う点が引っかかった。 「大丈夫。このハリネズミ、気持ちが針と連動している。自分をぎゅっとしてくれる対象には、うっとりして、とげがふにゃふにゃに軟化する」 デレですね。わかります。 その代わり。と、イヴは続ける。 「我に返ると恥ずかしいのか、針が硬化する」 ツンですか?わかりません。 攻撃なんてもってのほか。と、イヴは更に続ける。 「攻撃したら、針がミサイル化するから」 ヤンですか!? わかりたくありません! リベリスタの恐慌状態を華麗にスルーして、イヴはモニターを消した。 「結構大きいから、全員で支えることは可能。じゃ、一分間だけがんばって」 締めくくろうとするイヴを、リベリスタの一人が制止した。 「待ってくれ。攻撃してはいけないのは分かったが、なにをしたら我に返るんだ!?」 イヴは、口元に手を当て、少し天井を見、小首を傾げて、ようやく口を開いた。 「なんと言ったらいいのか……。タイミング?」 自信なさそうに言う幼女、マジエンジェル。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月05日(日)23:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●1分前 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)は、邪魔になりそうな石を取り除いていた。 「こ、今度はだまし討ちは無いわよね……。よし。ツンとか色々不安もあるけど、今回は思う存分もふるわよ」 以前外見に偽りあり的アザーバイド討伐に駆り出されたアンナにとっては、リベンジマッチだ。 回復役の彼女に許されたもふもふタイム、わずか十秒。 味わいつくす所存だった。 「このへんでいいかのぅ」 『星守』神音・武雷(BNE002221)の足元はアイゼン。がっがと地面を踏み固め、すでに気合十分で、先に光の鎧をまとう。 『臆病ワンコ』金原・文(BNE000833)は、今回のために用意した重量級の盾と鎧で、ガッチャガッチャと音を立てている。 「思いっ切りだっきゅするんだー……!」 動きにくいため、がっしりポイントで待機。めちゃくちゃ張り切っていた。 ぼんやり浮かぶ武雷から下ること約10メートル。 ゲート発生予定の崖っぷちには『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)がランプを置いた。 このラインが最終防衛線だ。 (異世界からの御人か。今回は麗しいお嬢さんということで、ボクたちで上手にエスコートできたらいいのだ) 「虎鐵、しっかりと抑えるぞ」 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は、傍らに立つ義父『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)を見上げた。 頷く義父の笑顔は頼もしかった。 「きたぜい!」 武雷が腕を振って仲間を呼び寄せる。 リベリスタは、愛と欲望にまみれながら、ハリネズミに向かってダッシュした。 ●カウント・ゼロ 夜空の濃紺を丸く切り取った漆黒の闇の狭間から、パステルカラーに輝く毛玉がごろんと飛び出してくる。 とんがった鼻先、真ん丸いおめめ、小さな手足。 「はりねずみっ!」 キュートな動物は、次元を超えて乙女のハートを串刺し。 「……すまない感極まってしまった」 雷音は少し頬を赤くしながら、針対策の守りを固めた。 アンナが、「せーの」と声を上げた。 皆で呼吸合わせてぶつかっていく。 腰落として、重心低くして、両手でがっつり。 (スキルとか武器とかは使えないんだから、その分細かい工夫していかないと) 「「「どっせーいっ!!」」」 「どすこーい!」 ツァインが若干間違った掛け声をかけたのもご愛嬌。 支えた毛玉を受け止めると、柔らかい魅惑の毛並みがリベリスタに押し付けられた。 引き締められていたアンナの表情が、ゆるぅんととろけていく。 (……あ、柔らかい……。あー、こんな仕事ばっかりだったらいいのになー……) だって毛皮がほわほわで、これがひとたび何かあったら針と変わるなんて信じられません。 「わぁぁ、柔らかいわ、天国だわ」 『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)は、毛皮に頬を埋める。 (アザーバイド? ハリネズミ? そんな些細なこと関係ないだろ? 乙女は乙女だ。相手が女性ならおにーさんがすることはただひとつ) 「ツンでもデレでも全力で受け止めるぜ!」 『正義のジャーナリスト(自称)』リスキー・ブラウン(BNE000746)は、色々超越していた。 「どこまでもクレバーに抱きしめてやるっ」 可愛い女の子は、次元を超えて男の子のハートも串刺し。 『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)は、もぎゅうとハリネズミを受け止めた。 武雷も両手を広げて、全力で受け止める。 「いらっしゃい、お嬢ちゃん。いきなりごめんな?」 そっと優しく、語りかけた。 『聖盾』高崎・千尋(ID BNE002491)も、まず、しっかりと、かつ痛くないよう気をつけて受け止める。 「大丈夫だよぉ、ボクたちがすぐに元の所に戻してあげるからねぇ。」 そして、ふんわりぎゅーもふもふほおずりしながら、ささやいた。 種族を超えての紳士と書いてジェントルメン四人の抱擁に、うりゅうりゅ涙目の大玉ハリネズミちゃん、思わずうっとり。 ちょっと目を細めちゃったりして。 それでも、なんかずっしりですよ。 あの、ハリネズミちゃん。 レディにこんなこと聞いてはいけないけれど、結構へビィ? 拮抗していた力のバランスが崩れた。 ごろん! ハリネズミちゃんは、ぐにょんと斜めにかしいだ。 その方向にいたのは、千尋、ニニギア、そしてちょうど闘気をみなぎらせていた虎鐵。 「どああああああっ!?」 虚を突かれた虎鐵は、そのまま斜面をゴロンゴロン。 崖下に消えていった。 しかし、虎鐵にかまっている暇は無い。 何しろ支えないと、ハリネズミちゃんも崖下だ! ●口説き文句は囁いて 崖下から、虎鐵の「大丈夫でござるよ~」という声がする。 雷音は、心配な気持ちを抑えつつ、ハリネズミちゃんに突進した。 崖下に走って行きたいが、雷音は全体回復が出来ない。 絶対にニニギアと交代しなければならなかった。 「あ、あとは代わるぞうむ。もふもふのはりねずみ、うむすばらしい」 心配心とはまた別次元のスイッチ入りました。 転がった拍子に弾き飛ばされたニニギアが、高次存在に癒しを請う。 虎鐵と交代するはずだったアンナは、手を放すことも出来ずに、そのままどっせい要員。 だって。 手を放したら。 大変なことになりそうですよ? 「鬼蔭さん! まだかぁぁーー!?」 振り返る余裕が無いツァインは気づいていない。 虎鐵は、崖下。 一分で戦線復帰は絶望的であることを。 一方。 緊急結成『ハリネズミちゃんは乙女だから、大事にぎゅっとしないとね同盟』の面々は、異世界におびえるハリネズミちゃんの緊張をほぐすべく、優しい言葉を高速詠唱的に湯水のごとく振りまき続けていた。 「とても、チャーミングな毛並みだね」 きらきら光るふわふわ毛並みに鼻を埋めながら竜一が囁けば、 「麗しいお嬢さん! さぁおにーさんの胸に飛び込んでおいで!!」 どすっと音を立てて、リスキーの肋骨をきしませるお嬢さんの魅惑ボディ。 恐ろしいのは、それが演技や作戦ではなく、心の底から湧き上がってくる本心だというところだ。 女好きも、この領域まで来れば世界を救える! 「ちょっとの間付き合ってくれな。本当はもっとのんびりしていって貰いたいんだけど」 武雷は、ハリネズミちゃんの鼻先でぎゅっと抱きしめる。 言葉は要らない。乙女心にキュンキュンくる厚い抱擁。 ハリネズミちゃん、うっとり。 しなだれかかったりして。 ごろん。 武雷は愛のボディプレスを頑強な体で受けきった。 ●ツンツンモード発動。 荒地の上にずずずっと転がった跡。 めそめそという風情のハリネズミちゃん。 (もういいの。あたしのことなんてほっといて。だって、あたしデブだしっ!) ハリネズミちゃんやさぐれモード。 しゅるしゅるっ。 細くて柔らかだった毛が、瞬時に縒り合わさり、強靭な針に変貌する。 ざくっ。 ばね仕掛けのように伸びる針。 雷音の腹一面を、竜一の左半身を、リスキーの顔面を、アンナの腕を、鋭い針が貫く。 「ツンツン? よいじゃないか。恥じらう乙女。素敵だぜ」 顔中穴だらけにして、愛用の眼鏡にも血しぶきが飛んでいて、それでもリスキーはハリネズミちゃんに微笑む。 「痛い。痛いがコレはきっとお嬢さんの愛情表現! おにーさんは大丈夫! なんならもっと激しくてもっ!!」 しくしく涙目で竜一が言う。 「……いたい……」 しかし、その手は、ハリネズミちゃんをどっせいするのをやめたりしない。 (耐えるぜ! ひたすら! このどじっこは、俺が守ってやらなきゃいけないんだ!) 「でも、アタイ負けない! 男の子だもん!」 魂に度を越した博愛フィルターかかってる野郎ばっかでもなく、次元の垣根を大切にしつつ、どっせいしている良識派ツァイン。 「大丈夫、恐くない、恐くない、ホラ………ッて痛いわぁぁーー!!!」 とノリツッコミしつつも、力を抜かずに痛みに耐えて踏ん張る。 (他の人も頑張ってんだ、頑丈さが取り柄の俺が情けないとこ見せられないぜ……) それもまた、男の矜持。 彼も気合をこめて踏ん張っていた。 「なんともつんつんしているが、これはこれで可愛いとおもうのだ」 回復してますけど、お義父さんが見たら悲鳴を上げる大怪我したんですよ。 あなたにも、なんか変なフィルターついてますね、雷音さん。 「ハリネズミちゃんは、ほんとはほわほわなんだもん……!」 あなたもですね、文さん。 ごろろん。 負傷者、多数。 ハリネズミちゃんは、更に崖下に向かって転がって行く。 ニニギアは詠唱しながら振り返る。 倒れた草の長さと、ランプが置いてある所までの距離は大体同じに見えた。 ●削れる五メートル 武雷は、ひるまない。 むしろ尖った針の中に顔を突っ込むようにして、ことさらぎゅっと抱きしめる。 「……ごめんな、驚いたよな。でも、大丈夫だから。絶対、守ってやるから」 これほど抱擁されて、なおツンを続けられる乙女がいるだろうか、いやいない。 ほぐれる心を表すように、ふわふわになるハリネズミ。 一同のもっふり、もとい、どっせいに力がこもる。 各々が、各々の100%を出し切っていた。 しかしそれでも。 ごろりんちょごろりんちょごろりんちょ。 竜一が轢かれた。文が潰された。アンナの上を通り過ぎた。武雷も弾き飛ばされ、リスキーも伸されたし、ツァインの足の上を通過した。千尋は跳ね飛ばされ、雷音などはぼよんと弾き飛ばされた。 「治すわ治すわ、みんな、こらえてー」 ニニギアは、フル回転で詠唱せざるを得なかった。 ハリネズミちゃんは、でれでれでふわふわもこもこなのだが、この次元で実体化してしまった以上、地球の重力には逆らえない。 リベリスタ達は比較的軽量級。ウェイト差は如何ともしがたかった。 「みんながんばって。あとがないわっ」 今まで背後にいたニニギアが、仕方なく宙に飛び上がる。 ずる、ずるっ。 竜一が目印に置いていたライトをハリネズミちゃんのお尻がごろんと押し潰す。 あと一歩下がったら、崖下へまっさかさま。 残り十秒。ギリギリの攻防だった。 「もうすぐだ。頑張って耐えよう」 雷音が、がくがくする足の痙攣をこらえながら言った。 ずるっ、ずるっと足がすべっていく。 背後から崖下から上がってくる冷たい風。 汗でびしょぬれの背中が冷やされる。 たったの一分なのに、腕がだるい。 温かく、柔らかく、可愛い生き物なのに、とんでもなく重い。 潤んだ瞳、ひくつく鼻。申し訳なさそうに動いている手足。 ああ、ホントに困っているのだ。自分ではどうすることも出来ないでいるのだ。 ここで、力を抜いたらこの生き物は谷底にまっさかさまに落ちていくのだ。 「よっしゃ、時間だ! ゲート開いたぞっ!」 ツァインが叫ぶと同時に、足元が輝きだした。 リベリスタは、どうにか支え切ったのだ。 崖下まで1メートル未満の勝利だった。 ●さよなら、ぼくのきみ 柔らかな毛並みから、手を離すのは名残惜しかった。 脈打つ鼓動がいじらしかった。 ゲートと化した地面から飛びのき、それぞれがそれぞれの思いをこめて、ハリネズミちゃんをゲートの中へ一押しした。 ゲートのエッジをくるりくるりと回るハリネズミちゃんは、ウィニングショットのカップイン間際のゴルフボールみたいだ。 瞳から、ぽろりぽろりと透明なしずくが垂れて、鼻先を濡らしている。 ピコピコと動く前足が、リベリスタを恋しがっているようにも、さよならと手を振っているようにも見える。 ゲートはその大きさを更に広げ、ハリネズミちゃんは背中からゆっくりとゲートの中に落ちていった。 「見事、カップインしたねぇ」 千尋がゆったりとそう言った。 ゲートがそれ以上大きくならないとみるや、リベリスタはダッシュで穴の周囲に集まった。 ハリネズミちゃんは本当にゆっくり、まだ触れられる位置で空間をたゆたうように、それでも確実に離れて行く。 「別れは、永遠じゃない。縁故という絆は、いつでも俺達に間にあるんだぜ」 竜一は飛び切りのイケメン顔で。 「では、少しの逢瀬、少々人騒がせではあるがたのしかったぞ。またあえると……よいのかな?」 雷音は名残惜しそうに。 「またな、どじっこお嬢ちゃん。もう穴なんかに落ちるんじゃないぜ」 武雷は、じっと目を見つめて。 アンナは声も出ないほど疲労困憊していたが、それでも最後のひともふとゲートの中へ手を伸ばす。 ゆっくりゆっくりハリネズミちゃんは小さくなっていった。 「達者でな~! もう落ちてくんなよ~~!」 ツァインは、手を振ってハリネズミちゃんを見送った。 ハリネズミちゃんが小さな点になり、それも見えなくなった頃。 千尋が遠慮がちに言った。 「穴は、ブレイクゲートで破壊すればいいのかなぁ」 お見送りに専念していたリベリスタ達は、ようやく我に帰った。 それじゃあ、と千尋が代表して門を壊した。 後には、ごく普通の地面。 ハリネズミちゃんの痕跡は、9メートル強の転がった跡と割れたランプだけだ。 「さよなら、俺の心のマイハニー。君との出会いは、決して忘れないよ」 「恥ずかしがり屋さんの、ついつい抱きついてしまいたくなる、美しいお嬢さんだったな」 竜一とリスキーは、ハリネズミちゃんの面影を夜空に思い浮かべる。 「やれやれ、困った迷子ちゃんだった……」 ツァインは肩をすくめた。 「まぁ、また来たらもう一回受け止めてもいいかな……」 自分の呟きにハタと気がつき、周りを見回す。 (あれ、これってツンデレ? まぁ、いいか……) 雷音は、きびすを返すと崖下に走っていった。 アンナは、精根尽き果てたと地面に転がっている。 武雷は、ゲートが開いていた地面を、いつまでもいとおしそうに見つめていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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