●指令 「W21、W34。仕事だ。指定した地域を襲撃し、このアーティファクトを回収しなさい」 「戦況により『補充』を許可するよ」 「指定時間は二十四時間。薬を一つずつあげよう」 「薬がなくなればどうなるか……わかっているよね? 十二時間後に自己融解し、人間の原型を留めなくなる。ドロドロのグチャグチャだ」 「さぁ。暴れてくるんだ。なぁに、君達は並大抵のリベリスタでは太刀打ちできない『身体』だ。油断しなければ帰ってこれる。二人とも、がんばってくるんだよ」 ●ニィちゃんとサジ 「寒い……寒い……抱いて、お願い……!」 「ヒィ……!」 激しい戦闘の後を示すように服は破れ、露出する肌は傷だらけ。無防備に両手を広げる少女を前に、男は一歩下がった。 彼とて神秘の物品の守護を任される程の革醒者。フィクサードの襲撃に驚くような、醜態を晒しはしない。 だがそのフィクサードが吹雪のような冷気を発していればその足も竦む。特殊なアーティファクトか、とも思ったがそんな様子もない。何よりも、その冷気は彼女自身をも凍えさせている。まるで、自分でもコントロールできないような……。 「熱い……熱い……喉が、乾くの……」 そして逆方向からは苛烈な熱気が襲い掛かる。振り向けばそこに立つのはまだ幼い少女。彼女から吹いてくる風は、それだけで気力を奪われる。少女が自分自身を支えられずに壁に手を付ければ、その部分が黒くこげる。 「おにーさんの体液、頂戴……。すごく、ほしいの……!」 熱と冷気。プラスとマイナス。革醒者ですら怯えるほどの異常な二人。それが襲い掛かる。 「ニィちゃん、暖かい」 「サジは冷たいね」 「こうしていると、落ち着くね」 「うん。ずっとこうしていたいね」 「……人、殺しちゃったね」 「……うん、逃げてほしかったのに」 「ねえ……もうもどれないのかな?」 「わからない。でも、死んだ人は帰ってこないのよ」 「……ニィちゃん、私死にたくない」 「私もよ、サジ」 ●アーク 「イチナナニイマル。ブリーフィングを開始します」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながらこれから起こるであろう神秘の説明を始めた。 「討伐対象は黄泉ヶ辻のフィクサード二人です」 モニターが映し出すのは、とある倉庫の中。革醒者と思われる数名の男性が、突如乱入してきた女性二人と交戦し……全員命を奪われる光景だった。 あるものは凍らされたり体温を奪われてたおれたり、あるものは燃やされたり熱で水分を奪われて干からびたり。 「フィクサードは二人。一人は自身の体温を下げることで低温を生み出し、それにより対象を冷気で攻撃します。もう一人は自身の体温を上げることで高温を生み出し、それにより対象を熱気で攻撃します」 モニターに写る女性のフィクサードは、確かにそのような攻撃をしていた。そして彼女たち自身もその現象により傷ついている。息を荒らげ足をふらつかせ。とてもその能力を制御しているとは思えない。 否、これは能力ではない。彼女たちの攻撃方法は呪いだ。自分自身を苛み、それを外に撒き散らしているに過ぎない。 「彼女たちは黄泉ヶ辻の改造型アーティファクトで肉体を強化されています。タフネス、パワー、そして特定条件を満たしたときの再生能力」 戦闘が終わったあとで、彼女たちは自分たちが殺した革醒者に近寄る。そのまま口を開き、もはや動かぬモノたちに歯を突きつけ―― 気の弱いリベリスタが視線をそらす。和泉も若干顔を青ざめながら、それでも気丈に説明を続ける。 「彼女たちは戦闘後、この倉庫にあるアーティファクトを奪います。『フィグレドの瞳』と呼ばれる魔力増幅系のアーティファクトです」 赤い球状の石が写し出される。横に長々と説明が付随されているが、要約すれば使い捨ての魔力増幅アイテムだ。術者の魔力を一瞬増幅すると壊れてしまうという、あまり価値の高くないアーティファクト。 「改造されたって言ったよな?」 「はい。特定はできませんが黄泉ヶ辻のアーティファクトによるものと思います」 「……やっぱり、彼女たちを救うのは無理なのか?」 その言葉に、和泉は一瞬言いよどんで首を横に振った。不確かな希望は戦いにおいて隙になる。残酷だが、事実を告げる。これもフォーチュナの戦いなのだ。 「急げば彼女たちが逃亡する直前に間に合います。皆さん、どうか気をつけてください」 ●幕間劇 「いいね。いいね。これ、ボクもほしいよ」 「運命を糧とするアザーバイド」 「こいつからどれだけ面白いモノがつくれるのかな?」 「呼ぼう、絶対。ボクが呼ぶまで待っていてね、セリエバ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月14日(金)23:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「こんばんは、いい夜だね。サジちゃん、ニィちゃん」 人を殺すにはいい夜だ。『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)は夜の冷たさを肌で感じながら、二人のフィクサードに笑顔を向ける。演技ではない。葬識はこれから起こる殺し合いに、本当に嬉しそうに笑みを浮かべた。 殺すことで理解できることもある。刃を突き刺すことで判る感情もある。彼にとって、それはコミュニケーション。衝動に動かされるように鋏に似た破界器を構える。 「……アークの、リベリスタ」 「ニィちゃん。どうしよう? 逃げようよ」 W34を庇うようにW21がリベリスタ達を睨む。その手には、赤く光るアーティファクト。それを腰のポーチに入れて息を整える。その姿は年相応の少女。改造されたフィクサードとはとても思えない。 「……世知辛ぇなあ」 だからこそ世知辛い。『気焔万丈』ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)はため息と共に紫煙を吐き出した。胸糞悪いことこの上ない。彼女たちは黄泉ヶ辻に改造されただけの犠牲者なのだ。 そしてそれを助けることができない。逃がすこともできない。その事実が辛かった。戦場では理不尽なことなどいくらでもある。助からない命なんて何度も見てきた。だから、 「だからこそ、俺のようなのがやらねえとな」 心に傷を負うのは俺だけでいい。 そう思うソウルの肩を『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)が叩いた。背負うなら仲間の皆で。サングラスの奥で光る硝子の瞳が静かにそう告げていた。そのままWシリーズの二人を見る。 「そうあらねば生きられない、選ぶ余地がないというのは不幸よね」 状況には同情する。それでも逃がすわけにはいかない。彩歌は『論理演算機甲「オルガノン」』を自分の神経にリンクさせながら、フィクサードを見た。 「悪いね、貴方達に恨みは無いんだけど」 『STYLE ZERO』伊吹 マコト(BNE003900)は『レールガンα』を解放する。蓄電器に蓄えられた電気が銃に集まる。かなりの重量を持つ銃身をWシリーズの二人に向けながら、言葉を続けた。 「そのアーティファクトを回収させてもらう」 向けた銃口が彼女たちを殺してでも、という意味を含んでいた。任務に失敗した彼女たちがどうなるかは想像に難くない。そんなことは判っていてなお、マコトは現実の厳しさを示すように宣告した。 「嫌、です」 W21とW34は覚悟を決めたのか、リベリスタ達に向き直る。周囲の気温がゆっくりと変化する。熱く、冷たく。 「奪う事でしか満たされることのない体か。実に黄泉ヶ辻らしい良い趣味だ」 それを感じながら『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)はクールに告げる。身体を温める為に体温を奪うもの。身体を冷やすために体液を奪うもの。碧衣の言葉は二人のフィクサードの特製を正確についていた。 「煩い! 私たちだって、好んでこんな身体になったんじゃない!」 激昂するW21。W34は指摘された事実に涙を流していた。その精神は何処にでもいそうな少女のそれ。黄泉ヶ辻に改造されなければ、あるいはアークに所属していたかもしれない革醒者。 だが、事実はそうならなかった。そしてそんな彼女たちを殺すしかないと割り切ってしまう自分に、碧衣は自分の心の冷たさを感じていた。葛藤も嘆きもない。即座に判断を下せる冷淡さ。 己の生存をかけるWシリーズと、世界を守るリベリスタ。その思いを握り締め、戦いは始まった。 ● 「そこのお姉ちゃん二人! その赤い石、妾にちょーだい、なっ!」 開口一番。幻想纏いの懐中時計を閉じると『緋月の幻影』瀬伊庭 玲(BNE000094)がW34に向かって疾駆する。眼帯をかけていない右目で相手を捕らえ、気の糸をW34に向けて解き放った。糸はW34の腕に絡まり、その動きを封じる。玲は拘束されて絶望に歪むW34の顔を直視する。 相手は黄泉ヶ辻の生み出した『兵器』。たまたま人間と同じ形をしているだけ。同情している余裕はない。気を引き締めねば、と心に活を入れる玲だが。 「……なんだかやり辛いのじゃ」 Wシリーズの経緯を聞いてしまった以上、それを忘れることはできない。拘束のために力を込めながら玲は唇を噛む。 「ルー、オマエ、ニガサナイ」 白狼の毛皮を身に纏い、ルー・ガルー(BNE003931)がW21に跳躍する。その動きはまさに野生の獣。身を低くかがめてバネのように力を溜め込み、弓が矢を放つが如く溜め込んだ力を解放して飛び掛る。 W21の動きに注視しながら、氷を纏った爪を振り上げる。そのまま相力任せに爪を振り下ろした。その勢いに押されるように、W21は今出てきたばかりの倉庫に押し戻された。 「ニィちゃん!?」 「あんたの相手はシャルだよ」 相方から距離を離されて嘆くW34に『狂獣』シャルラッハ・グルート(BNE003971)が迫る。無数の返り血で紅く装飾されたチェーンソー『バルバロッサ』を振りかぶり、倉庫の奥に押し込もうと叩き込む。回転数を上げる刃がW34を襲う。そのまま倉庫に押し込もうとシャルラッハ鉢からをこめる。しかし、 「……耐えた!?」 「こないで、こないでよぉ!」 当たりが不十分だったのか、W34は吹き飛ぶことなく倉庫前で泣きじゃくる。赤熱した手がシャルラッハに迫る。肉を焦がす音と同時に腹部に走る熱。 作戦では二人を倉庫内に押し込み、退路を断ってからの攻撃だった。もちろん一度でダメだとしても二度三度と繰り返すこともできる。 しかしこれで、リベリスタの作戦が看破されたことになる。相手を押しやる技を持つものに対して警戒すれば対策は取れる。何よりも目的のアーティファクトを持ってかえることを優先するなら、吹き飛ばされていないW34に投げて渡すという手段もある。 「まずい、か?」 「いや、まだ巻き返せる範疇よ」 リベリスタの動きは止まらない。それはWシリーズも同じこと。 一瞬の隙をついてW21の手からW34の手に、『フィグレドの瞳』が投げられた。 ● 「サジ、逃げなさい! それを持って帰れば任務完了よ!」 「悪いけど、逃がす気はないんだよねー」 葬識は熱気をあたりに振りまくW34の前に立ち、破界器を振るう。テコの原理でハサミが閉じ、W34の胸を大きく切り裂く。 「Woman、Waltz、Waste」 葬識の言葉にW34は明らかに動揺する。それは自らにつけられた『W』の意味。自らに刻まれた逃れられない言葉。 「残酷な数字は幾つまで続くのだろうね」 「わ、わからない。そんなのW00(ダブルダブルオー)様が止めないまでずっと続く……!」 「W00? そやつがおぬし達たちを改造したフィクサードか?」 W34の問いかけに玲が問いを重ねる。自らの影を操り、W34を殴打する。その傷に苦しむ顔に躊躇しながら、しかし責める動きは緩めない。 「私たちだけじゃない。他の人も、たくさんあの『針』で改造されて――」 「サジ! 喋っちゃダメ!」 W21の叱咤。口をつむぐW34。 「喋っちゃくれねぇかね、お嬢さん。もしかしたらおまえ達を救う方法がわかるかもしれねぇ」 ソウルはW21の与える冷気を腕を振って払いのけ、仲間の冷気を吹き飛ばすように神秘の光を放つ。そのまま彼女たちを安心させるように笑みを浮かべて問いかけた。 身体は痛い。だけどそんなことは問題じゃない。ソウルが本当に痛いのは、心だ。彼女たちを救えない事実の方が、ずっと痛い。 「私たちだって……私たちだって多くは知らない。誘拐されて『針』を突き刺されたと思ったら、気がついたらこんな身体で……!」 「おそらくその『針』がアーティファクトね。……なるほど、歪な改造」 彩歌はWシリーズの二人を見る。熱を感知する瞳で二人を見れば、体の要所要所に何かを切って継ぎ足したような切れ目が見れる。弱点を探すどころじゃない。肉体的には彼女たちは弱点だらけだ。何もしなくてもいつかは果てるだろう。 「確かに、どこか中途半端な改良なんだよね。 で、その改造を行なったのがそのW00でいいの? あとアンタみたいなのは何人ぐらいいるの? 強いやつとか教えてほしいね」 シャルラッハはW34と交戦しながら問いかける。闘争は彼女の歓び。W34の与える熱気よりも、なお熱く燃え滾る血潮。強敵との戦いは、どんな状況でも心躍る。 「はい……。一番強いのは、アイさん――」 「間違いないわね。一番改造されてるって意味で、だけど!」 「一番改造されてる……。それは一番酷く身体を苛まれているということですか?」 後ろから呪いの弾丸を放ちながら、マコトが事実に気付く。Wシリーズは改造されて強さを得る。救えるという希望を持ちえないが故に気付いた絶望的な事実。マコトの問いかけに、沈黙を持って答える二人。 「なるほど。おおよそのことは読めてきた。どうあれこの場でやることは変わらないがな」 碧衣は今までの会話を反芻しながら、黄泉ヶ辻の状況をイメージしていた。改造者であり命令者であるW00。破滅的な人間兵器として命令されるWシリーズ。 そしてその動きが、最近活発化している。 リベリスタがその奥に凶悪なアザーバイドの影があることを知るのはもう少し後のこと。今は目の前の敵を捕らえるのみ。 プラスとマイナスの熱の中、リベリスタ達は破界器を振るう。 ● 「ルー、サムイ、ダイジョウブ」 獣のように縦横無尽に駆け巡りながらW21に爪を振り上げる。冷気と共に生きてきたルーにとってW21の抱擁は寒さのうちにはいらない。ダメージを受け流すことはできないが、戦闘にはまだ支障ない。 「ルー、コオラス、トクイ」 「きゃあ!」 逆にルーの爪はW21を凍えさせ、その動きを封じる。彼女たちは自らの放つ特技に対する耐性はない。それをコントロールする術を知らず、自らを傷つけながらそれを解き放っている。 神秘の戦場で生き残る術とはいえ、ハイリスクな戦い方である。ペース配分を無視して全力で走るマラソンのようなものだ。体力が尽きれば、そのまま倒れる。そんな戦法。 「大人しくやられろ! 苦しみから開放してやるわ!」 玲の糸がW34の動きを封じる。赤いゴシック服についているリボンが、W34から吹く熱気で揺れる。その熱気に体力を奪われながら。玲はW34の顔を見る。苦しそうに喘ぐ呼吸は熱中症を思わせる。苦しげに口を開き玲の首筋に噛み付いて、体液を奪っていく。 「ぬかったっ! まさかここまでの攻撃とは……うぐぅ」 玲は危なくなったら下がるつもりだったのだが、W34の飢餓は予想以上の力を持っていた。体力で劣る玲はそれに耐え切れず膝を折る。 「これならどうよ!」 数度にわたるシャルラッハの打撃でW34のバランスが揺らぐ。右肩、左肩、右足。その動きは二つ名の如く、戦いに狂う獣。体制が崩れた所に大振りでチェーンソーを叩き込んだ。熱を放つ少女の体が宙を舞い、倉庫の中に押し込まれる。 「サジ!?」 「最大限に贔屓目に見ても、私たちにあなたたちは救えない」 彩歌は頭の中で必死に彼女達の救いを模索していた。可能性があるとすれば会話の中で出てきた『針』だが、それがどこにあるかもわからない。彼女達を黄泉ヶ辻に帰せば可能性も残るが、それは彼女たちを地獄に帰すのに等しい。 彩歌の手甲から放たれる糸がW21とW34に迫る。彼女達の死角をついて絡みつく糸が、ふとももを貫き、その動きを止める。徐々に絶望に染まる顔。死に近づいていく肉体。Wシリーズの終焉を情報的にそして感覚的に彩歌は感じていた。 「やっぱり、『人間』を相手にするのが一番厄介だわ……」 「割り切ったほうがいいよ。希望しなければ、絶望することもないんだ」 マコトは言葉と同時に引き金を引く。体力に劣るマコトはW34の熱気を前に膝をつきかけていた。回復を行なうか攻撃をするかを迷い、引き金に指をかけた。同時に、脳内に響く声。 (……うん、まぁ、同情しなくはないけどさ。人生ってのはどうしようもない事ばかりだからね) それは脳内にいるマコトの恋人。擦り切れた精神を正常に保つために必要なのは、他者への愛。助けようと優しく語り掛ける恋人に、マコトは首を振って答える (君の気持ちも分かるけど、その手段が分からなければ仕方無いんだ) そしてゆっくりと引き金が引かれる。ローレンツ力により加速された弾丸がW34を穿つ。呪いを込めた弾丸が、ゆっくりとW34を蝕んでいく。 「あ、ああ、あああああ!」 熱に喘ぐW34。乾燥した唇は、もはや悲鳴を塞ぐことすらできず意味のない声を上げていた。枯渇する喉を潤そうと、シャルラッハに近づいていく。 「もういい。もう、何も奪わなくていいんだ」 その動きを予測していた碧衣が、あらかじめ仕掛けておいた罠を起動させる。気の糸が絡み合い、W34の動きを完全に封じ込めた。暴れればすぐに解けるだろう拘束。動きを封じられるのはわずかな時間だけ。 「焦がれる程に熱い苦しみ。こんな風に思い通りに出来ないのに」 そのわずかな時間の間に懐に飛び込み、葬識は『逸脱者のススメ』を振るう。闇のオーラで自らを傷つけながら、かしゃんかしゃんと鋏を動かす。吸い込まれるように刃はW34の心臓に位置する部分に突き刺さる。 「それでも生きることを願うの?」 「ワタシ、は……ニィちゃんと、生きたかっ、た」 最後は糸の切れた人形のように。手にしていたフィグレドの瞳が、ことりと地面に落ちる。 「ウソ……返事して、サジ! いまそっちにいくから――」 「悪いな、お嬢ちゃんたち。俺を恨んでくれてかまわねえ」 パイルバンカーに稲妻を纏わせ、ソウルがW21に迫る。彼は戦闘開始からW21の怒りを受け止めるようにW21の前に立ち、その攻撃を受けていた。そうすることでしか救うことのできない彼女たちに報えないのだと、いわんばかりに。 「抱きしめてほしいなら抱いてやる。だからここで死んでくれ」 紫電を纏った杭がW21を貫く。爆ぜる電撃が内部からW21を焼き尽くす。 「ああ、暖かい……。ねぇ、サジもこっちに……」 W21はW34のほうに手を伸ばし、そのまま力尽きた。 ● 「アンタとの戦い、とってもシビれて良かったよ」 シャルラッハはチェンソーを幻想纏いに戻して、笑みを浮かべた。彼女は満身創痍、倒れる寸前だ。血肉踊る戦いの余韻を今だ激しく脈打つ拍動と共に味わっていた。 「ルー、タタカウ、タノシイ」 ルーもまた、全身を使って勝利の喜びを示していた。北欧の極寒に比べれば涼風だったが、それでも相手は改造されたフィクサード。歯ごたえは充分だった。 「仮にこれを使って、どうにかすれば彼女らの変異を元に戻せたのかな……」 地面に落ちたフィグレドの瞳を、マコトが回収する。紅く光るそれを見ながら自嘲気味に呟いた。その言葉に黙り込むリベリスタ。できたかもしれない。できなかったかもしれない。だがその可能性はもう存在しない。 「まぁ、過ぎた事を言っても意味無いんだけどね」 「もう誰からも奪わずに済むよう、ゆっくり眠るといい」 碧衣は横たわるW21とW34の瞳を閉じてやる。もう苦しむことはない。安らかに眠れ。命は静かに、そして深く。 「人を殺すことが生き様の俺様ちゃんには殺すのが嫌なのは分からないけど、愛という気持ちはわかるよ」 殺人鬼を自称する葬識はW21とW34の遺体を寄り添わせ、並べてやる。一人で死ぬのは悲しすぎる。一緒に死出の旅を。人を殺す鬼の、優しさ。 「うー……この戦いを面白がりながら見てるバカがおりそうじゃな」 玲が怪我の具合を確かめながら身体を起こす。きょろきょろと辺りを見回すが、怪しい動きは見当たらなかった。 「黄泉ヶ辻か。胸糞悪いことをしてくれるぜ」 新しい葉巻を口に咥えながら、ソウルが玲のいう『バカ』の姿を探す。人の命をモノのように扱い、使い棄てる。どれだけの非道を行なうというのか。 「こういう事を平気でする輩が活発的になるなんて、ぞっとするわ」 彩歌はアークに報告を入れたあとで、肩をすくめる。遠くから聞こえる車のエンジン音を確認しながらWシリーズの二人を見た。少女にしか見えないその姿。 否、彼女たちは年相応の少女だったのだ。黄泉ヶ辻によって道を踏み外されただけの、たったそれだけの革醒者。 リベリスタの胸に黄泉ヶ辻に対する感情が高まる。無言で感情を示しながら、やってくたアークの車に乗り込んだ。 後日、見識深いアークの賢人がWシリーズを作ったと思われるアーティファクトの名前を突き止める。 『継ぎ接ぎ用の針(パッチワークニードル)』 それをつかえば麻酔無しで痛みを伴うことなく人間を解剖できる。本来医療用のアーティファクト。 それを悪用するうW00(ダブルダブルオー)。そう呼ばれる黄泉ヶ辻のフィクサード。 その悪意が、少しずつ動き始める―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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