●誰にでも出来る簡単なお仕事です。 「仕事としては、すごく簡単。だけど、多分すごくつらい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、しばらく目を閉じていた。 これからリベリスタが受ける苦しみを、わずかでもわが身に受けようと天に祈るかのように。 これからリベリスタを過酷な現場に送り出す自分に罰を請うように。 やがて、ゆっくり目を開けると、ぺこりと頭を下げた。 「お願い。あなた達にしか頼めない」 苦しそうに訴える高校生、マジエンジェル。 だが、断る。なんて、言えるわけがなかった。 ●お仕事内容は線香花火をすることです。 「エリューションは、線香花火」 モニターに、古式ゆかしい線香花火が映し出される。 ちなみに紙に包まれて、風に吹かれてゆらゆらゆれる関東風だ。 それを束にしている紙に赤い風船と白い風船が書かれているのを見て、リベリスタのうちの何人かは顔をしかめる。 いやな存在を思い起こしたからだ。 「この間、例の――これ識別名ってことにする――『ささやかな悪意』の拠点のひとつを突き止めることに成功したんだけど、そこから出てきたいやあなおもちゃ」 アークが稼動してから、この手の依頼は定期的に発生していた。 子供向けの菓子や玩具に潜んだ、ごく弱いエリューション。 万華鏡でなければ見つけられないほどのささやかな悪意。 ジャックが世間の連続殺人鬼予備軍に呼びかけたのに誤作動を起こして暴れた『魔女』によって、潜在的にエリューションの影響下にある女性が多数いることが発覚する。 そして、機会と用途に応じての人攫い『楽団』。 肉の壁にされる子供『パレード』 契約書に従い、家族を生贄にして、非道に手を染める魔女『ハッグ』 リベリスタ達は、幾度となく、そのたくらみを阻止してきた。 先日、ハッグとの戦闘の末、「宣戦布告」されたばかりだ。 連中を追い詰めるのと同時に、こういう後始末も大事な仕事になる。 モニターに、白衣を着た研究員。 『実験中』 周囲に何もないアークの駐車場。 緊張した面持ちで、線香花火に火をつける。 先端に出来るオレンジの珠。 ちかちかと出る特徴的な火花。 ただ、緊張している成果、持っている指が震えている。 ぽと。 珠が落ちた。 どっかーん! 真っ黒の煤まみれになる研究員。 頭はちりちり、白衣もボロボロ。 「エレメント。特殊能力は持ってないけど、エリューションである以上、一般人が接触すると革醒現象を促すことになる。人が呼気を吹き込んで膨らませて遊んでいたりすると、接触時間に応じて加速度的にその人物にエリューション化の危険が及ぶ」 かといって、膨らませずにそのまま放置しても、フェイズが上がる。 世間に出してしまいさえすれば、どう転んでも遅かれ早かれエリューション事件が起こる、時限爆弾のような悪意。 「ちなみに存在としては非常に弱い。リベリスタなら、まあ全部いっぺんに火をつけるでもしなければ、大丈夫。皆にやってもらうのが、一番と判断した」 うわー、リベリスタの耐久力、すごーい。 「でも、大人数でやると、場所の選定が面倒だから、いつもの規模でやる。みんなが独占できる。よかったね」 わーい、やったー。 「で、今回の調べてみたら、紙自体が魔法で何らかの加工がされてるみたい。おそらくアーティファクトによるものだろうけど、花火自体は現物ではないから対応できない」 変な周到さが癪に障る。 「実験した研究員はリベリスタだったから大事には至らなかった。けど、どうやらズルはできない仕様。とにかく揺らさず、珠が自然に燃え尽きるまで揺らさないようにするのが肝要」 エリューションの芽が小さいうちに積むのが肝要。 「場所は万が一の爆発にも対応できるようにしたから安心して。湾岸地区」 え? ブリーフィングルームじゃなくて? 「屋内で、花火して、楽しい?」 いえ、全然。 「ちなみに、こないだ使ったブリーフィングルームは、改装中」 更なる要塞化に着手してるのか。 「それから、今回は、七緒も行くから」 そういえば、部屋の隅でぐでっとしているのは、『スキン・コレクター』曽田七緒(nBNE000201)さんじゃないですか。 「断頭台にさぁ、せめて花火でもしたらどうですかって言われたんだよねぇ」 いいんですか、七緒さん。 手元の資料によると、1440本やりきるまでは帰れません。 逆に言えば、それ以上は絶対出来ないのがわかっているのだけが救いなのだ。 「七緒も少し地道に働くべき。広報以外で」 イヴさん、一刀両断。 「戦闘にはならない。ばかばかしいと思うのもわかる。ストレスがたまると思う。でも大事な仕事」 イヴは、もう一度頭を下げた。 「お願い」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月08日(土)22:56 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 「塩分と水分、ちゃんと採ってますか? 採ってませんね? 採ってないでしょう貴女の事だから!」 『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)、その通りだけど、決め付けいくない。 「あれ、もしかして今回って飛んで逃げれるんじゃ……どおりで最強の扉を叩く係の人が居ないと思った!」 『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)、脱走王への道。 ● 「浜辺で浴衣を着て、花火をするというのは、日本の夏を感じさせる、風情のある光景と、端から見ればそう思うでしょうが、この現場では、そうも言っていられないですね」 『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)の背中を、潮風が押す。 閑散としている、三高平市再開発地域。 鉄道が走っている市街地とは一線を画した、海まで一直線の広大な空き地だ。 多少のことは大丈夫。 地面を見ればかつてこの辺りを使った戦闘のあとが残っていたりする。 遊び場ではない。 そんな、心が荒んじゃうぜ。な、荒涼とした風景の中。 曽田七緒さんは、いきなり弁当を食べさせられていた。 無表情とどりん――うさぎと『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)が、ご飯持って詰め寄ってきたのだ。 「んん~」 もっつらもっつらと食べている。 過去数度、不精が原因で昏倒している、一人では生きていけない(金銭ではなく、家事的な意味で)女の生存に心を砕いてくれるリベリスタの集まり「曽田七緒生活向上委員会」は、不定期で開催中です。 夜とはいえ、熱帯夜連続更新中。 湿気! 日本の夏は暑い。 (こんなところにいられるか、わたしはすずしいくーらーのしたであまいものをたべさせてもらう!) ウェスティアは、背中の羽根に神経をいきわたらせた。 瞬間、首筋に視線を感じる。 違和感万年青を探そうとしたとたん、たがの外れた叫び声が辺りに響いた。 「……線香花火って儚いよね。まるで私の…ダメダメ、ここはこいつの爆発みたいにドカンと攻めなきゃ!」 『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)の発作! 脳内恋人が、不安要素の喚起により誤作動をが発生しております。 「虎美、出るよ! 今回は皆に任せた! 待ってて、お兄ちゃん!」 臨海地域からおにいちゃんとの愛の巣への帰還劇。 ぱかんっ! と音がして、虎美の頭に何かが着弾した。 鷹の目を準備していなかったための悲劇。 幸い地面に赤いものや白いものが飛び散ることは無い。 何者かが虎美を抱え上げ、わっほわっほとどこかに連れて行く。 アークの腕章つけてたから、いつもの人達だろう。 (簡単なお仕事での逃亡は、許されない) 虎美が言っていた言葉を、虎美自体で例示されることになろうとは。 ウェスティアは注意深く辺りを見回した。 (――って、良く見るとあの影になってるところとか、あの倉庫の屋根の上とかに狙撃手らしき人影が居るような……) 更に観測手もいる。 普通にスターサジタリーとレイザータクトだ。 なんか、わりと見た顔がいたりするのが怖い。 (ふう、超直観が無ければ危ないところであった) しゃれにならない。背筋に冷や汗が垂れている。 「それじゃあ、今回も大変なお仕事だけど頑張ろうね!」 何事も無かったかのようにとても良い笑顔で言うウェスティアに、一同は曖昧な表情で頷いた。 君に行く道は、果てしなく険しい。 なのに、その道をどうして選ぶの。 時には、扉を叩き、時には隙を見て走り、結局仲間に取り押さえられるか、アーク職員に笑顔で肩を叩かれる、脱走王への道に。 (……うん、やっぱり皆の目が冷たい) 信頼は積み上げるもんだよ、ウェスティア! ● 「俺、線香花火はじめて。母国では新年以外は花火禁止で婆ちゃんがあんな乱痴気騒ぎは嫌いだって言うから、実のところほとんどやったことが無いんだよなぁ」 『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)、日本のことよく分からない外国人二号。 「嫌がらせには、笑って楽しんじゃう。アウラール様が相談で言われたように、まおもいっぱいいっぱい楽しみますよ」 『もぞもそ』荒苦那・まお(BNE003202)、えいえいおー。 ● 「こんなものは、少々火が大きい程度の玩具でしかないな。よし皆、思い切り楽しもう! 奴らの悪意に対抗しようぜ。楽しんで、楽しみ尽くして、奴等に自分達がしていることの空しさを教えてやろう!」 アウラール・オーバルは、皆に発破をかけた。 この線香花火の出所、「ささやかな悪意」と呼ばれるフィクサード集団の拠点捜索に加わっていたのだ。 また人が傷ついた。 そこから見つけた花火。 だから、絶対あいつらの薄暗い楽しみなど吹き飛ばす。 ざまあみろと言ってやりたいのだ。 「牡丹にぃ、松葉ぁ、柳にぃ、散り菊ぅ。風情だよねぇ?」 口端についたご飯粒やら、サンドイッチのマヨネーズやらを、うりうりと拭かれた七緒は、ヌードの唇で笑う。 カシャカシャと連写音。 おいで、おいでと、七緒に招かれてのぞき込むと、タブレットに四枚の写真が分割表示されている。 「この玉が膨れていく様子が牡丹」 「盛んに火花が散るのが、松葉」 「だんだん火花に枝がなくなり、しなだれるようになって、柳」 「最後のちり際の火花が、大輪の菊の花びらがこぼれるようだから、散り菊」 きょとんとした現代っ子と外国人のために、丁寧に花の写真も並べる。 「菊はアレねぇ、大菊の厚物とか走り物の管状弁って奴ねぇ」 そういえば、この人は人の皮が大好きなフォトアーティストでした。 タトゥーアートというか、刺青に花は付き物。 まおのすべすべ薔薇模様の頭を「かぁわいぃい」とか言いながら、七緒がなでているのが怖い。 人体に咲くよりは、線香花火の方が親しみやすいかな。 では、早速実践。 「このちりちりするのも、計算のうちなのか? 凄い、確かに火の花……芸術品だな」「パチパチがほわっと広がるのは素敵だとまおは思います」 静かにジーっと見ていたまおはそういう。 今のうちに、きれいさを心に焼き付けておくのだ。 トラウマになる前に。 ● 「線香花火でございますか。地味な脇役なれど、糸の様な花を咲かせ、紅く熟れて落ちる様は、カラスウリに似てあはれではございませんか。私はその様がいとしゅうございます」 『一文無』斑 玄吾(BNE004030)、引率父兄の面持ち。 「遂には曽田まで駆り出すほどアークは人材が払底しているというのか……いや、単にヒッキーを極めすぎたから連れ出されたというべきか……」 『灼熱ビーチサイドバニーマニア』如月・達哉(BNE001662) 、遠い目で。正解は、後者。 ● 線香花火は、和紙に包まれた長手と呼ばれるタイプ。 どうやら、「ささやかな悪意」の本拠地は関西以東にあるらしい。 何がむかつくって、和紙に赤い風船と白い風船が印刷されたオリジナルだということだ。 とはいえ、こうして少しずつこちらが奴らに近づくための情報が集まってくるのは喜ばしいことだ。 「後は只管微動だにせず花火を。私は表情を動かさない事には自信がありますよ! 顔だけだから何の意味もありませんけど」 うさぎが花火に着火する。 あっちこっちでぱちぱちぱち。 七緒も、しゃがんで花火に火をつけた。 うわぁ、アラサー女の花火切ない。 「後、曽田さんは好きな時に写真撮影どうぞ」 花火から目を離さず、うさぎは言う。 七緒がひょこんと顔を上げる。 「い、いや別に、その、貴女の場合それが一番気力維持になるだろうからでですね……」 「ありがとぉ」 うさぎの表情はいつもどおりだった。 線香花火は爆発したが。 「屋台への線香花火の持ち込みは、厳禁でございますな」 玄吾は、きゃあきゃあとはしゃぐ子供に目を細める。 「普通の花火も用意しました故、息抜きにどうぞ。こちらも線香花火は持たず、皆様と距離を置いてお楽しみ下さいまし」 そう言って、もって来てくれた花火セットからトラウマ誘引する線香花火絵は抜かれている。 つい最近まで漂泊の旅僧――ぶっちゃけ、ホームレス――だったため、手持ちの古着を処分したなけなしのお金で用意した花火。 くくぅっと、リベリスタ達ののどが鳴る。 やらなきゃ。 線香花火片付けた後に、普通の花火大会しなきゃ! それが、人の道ってものだろう!? 「クレープ、じゃがバター、トルネードポテト、ベビーカステラ、焼きそば、お好み焼き、たこ焼き、ついでにチョコバナナやかき氷もジュース各種用意してみました。ぜーひー」 マフィア稼業には、日本におけるテキヤも含まれているのだろうか。 達也の屋台の設営を、アウラールやら斑 玄吾やら「三高平市民は幸せです……」と呟く虎美やらが手伝う。 「飛び火を防ぐため、念のため……」と、玄吾が海水をあたりに撒いた。 これで、少なくとも物理的誘爆は避けられるだろう。 神秘にどのくらい作用するか分からないが。 たすけて、母なる海。 「今回の私には秘策がある! ようは束ねて火つけなきゃいいんでしょ?」 ウェスティアは、木で作った簡易十字架を取り出した。 「これのそれぞれの端っこ花火結んで真ん中持てば、まとめて4本一気に! という優れもの! まじで私天才だよね」 それは効率重視だね。 いそいそと線香花火をくくりつけ始めたウェスティアの様子に、リベリスタ達は各々離れて、少なくとも近接範囲からはお互い近づくことなく。 「輪、輪になってやろうか?」 こう、和気藹々と。そういう精神的勝利方向をアウラールは目指したのだが。 だって、巻き添え食うし! 声を張らなきゃおしゃべりもできないくらい、いや、声張ったら確実に玉が落ちる。 とにかく分散して、各々の運命を己の身体制御能力に託した。 (……何この絵面……) うさぎは、つっこんでみる。 各々浴衣を着てきたりしてみたのだが、しゃがみこんで、ぶらさがる玉を懸命に制御するだけの簡単なお仕事中では裾模様も何も見えたもんではない。 ここで全員をカメラに収めてなんていったら、超望遠レンズが必要だ。 かといって、皆で鼻面つき合わせながら和気藹々とか無理、絶対無理。 だって、落ちたら爆発するんだもん! 「いってみよー!」 ウェスティアが元気に十字架使って花火を制御し、火をつけようとしているが。 分散してしまった異常、ウェスティアが花火に火をつけるしかないわけで。 四方全部につけるには、こう、色々じたばたすることも必要な訳で。 (Q:で、揺れ対策は?) 超自我、スーパーエゴ様が、お尋ねなさる。 表層意識、速やかに答えよ。 (A:複数一気に処理出来るという事が嬉しくて、それ以外全く考えていませんでした) ぽたりぽたりと玉が落ちる。 一度に複数処理するということは、しくじったときにはそれに乗した被害が出るということだ。 ちゅっ―。 リベリスタ達は、せめて神秘が届かない距離、鉄則の20メートルを目指して走ろうとした。 しかし今動けば、確実に自分が今もっている線香花火が爆発する。 ど~んっ! 閃光が響いた。 ● 「じっとしていりゃこんなもんか……これなら120本くらい余裕じゃねぇか?」 『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)、そういうふうに考えていた時期もありました。 「さ、黙々と作業ダヨ!ふふ、こういう単調な作業シテルト自分がそういう機械になったミタイデネ、なんだかスッゴク面白いノ!ウフフ、花火もキレイだし、スゴク楽しいのヨ……」 艶蕗 伊丹(BNE003976)、瞳孔拡散気味。 ● 一本一本線香花火が燃え尽きるたびに、リベリスタ達のモチベーションも燃え尽きていく。 やってみてわかったことだが、この線香花火、やたらと時間がかかる。 持ちがいいというのは美点かもしれないが、市の分集中していなくてはいけない時間がかかるということで。 しかも、通常より玉が大きくなりやすいのだ。 ということは、落ちる可能性も高くなる。 伊丹は、風除けにダンボールを巡らせ、風によるアクシデントを防ぐ。 両手を前に差し出し、息をつめる。 痛覚は遮断してあった。 一本ずつやっての、十本目。 大体要領はつかめたところで、ろうそくに二本の線香花火をたらす。 しゃがみこんで、両手を前に突き出し、二本同時進行に挑戦する。 じじじと、玉が形成される牡丹の時間。 ポーズはスクワット状態だ。 リベリスタの中でホーリーメイガスは比較的打たれ弱い印象があるが、伊丹は頑健さと持久力には自信があった。 がんばった。ただ、見栄えにちょっと風情が無かった。 しかし、風情が別方向に働くよりははるかにましだ。 人間向き不向きがある。 隆明の場合、線香花火よりは手筒花火の方が似合うんじゃね? と、そんな気がする夏の宵。 (ひたすら集中して鉄の心で一本ずつ揺らさないよう処理していくぜ) 隆明さん、鉄心は誘惑を振り切る心に至れる精神回路を指すのであってですね。 つまり、あなたが鉄心が線香花火をやるのに役立つと主張するなら、線香花火を振り回しながら遊ぶという小学生もびっくりなお茶目に誘惑を感じていると解釈してもいいですか。 しょおおおお……。 たってやるとどうしても風の影響を受けるので、しゃがんで背中丸めるのが最も尾効率的なのだ。 そういうスタイルなのだ。 着崩したスーツに、顔の半分を覆うガスマスクからのぞく眼光。 それを線香花火の松葉がちかちかと下から照らしている。 なんだろう、この小規模上映映画のワンシーンにありそうな、ぼっち感。 (あれ、俺、なにやってんだっけ……花火って、こんなんだっけ? あれ? 花火?) 単調な反復作業は、作業員の注意力を散漫にし、現実感が乖離します。 その結果。 ちゅっどーん!! 「……休憩する」 隆明はなるたけ男らしい肉の串焼きを手にした。 ● 「お代は、俺のノルマの線香花火を『貰って』くれるので十分さ。さあ、皆、食べて!」 達哉は焦げている。 「一本で音を上げてんのぉ。ええい、モブ以下めぇ」 達哉から差し出された線香花火を受け取りながら、七緒がにやぁっと笑う。 バニーさんがいないから、50本がんばれない? 殴っていいか? ご飯は作れる程度に。 「ほら、僕もうおじさんだしさ、若い皆に任せるよ!」 謝れ。そこでむせび泣いてる玄吾さんの分はただにしろ。 「うむ、苦労してこその労いは格別でございます」 何と、3日に一膳と碌に食えませぬ故、有り難や有り難やと呟く玄吾さんに、貴様、その閃光緒花火が渡せるか!? まあ、というのは冗談で、達哉は傷を負っているリベリスタの治療に当たっているのだ。 あと、ご飯は傷ついた心の治療な。 「クレープ! 甘いもの! LOVEでございます!」 いい感じに焦げている『愛の一文字』一万吉・愛音(BNE003975)が、ひょ昆と顔を出す。 「七緒殿! 脱ぐとすごいと伺ってございますが、どう見ても脱ぐ前からすごいでございますよね、それ?」 「ああぁ、すごいの意味が違うんでしょぉ、多分~」 でも秘密ぅ。と、七緒は愛音の口にクレープをつっこんだ。 ● 「わたしはすずしいくーらーのしたであまいものをたべさせてもらう!」 「何この夏祭り会場という突込みはナシで」 「煙で喉が痛かったり」 「おお良い香りも……天国でございましょうか?」 「しっかり!眠ったら爆発しますよ!」 「さおりんとデートしたいです。さおりんとやるなら何時間でも何日でも耐えられるのに」 「誰か、室長さらって来い!」 「パパは休むことを許さない! はだらげー!」 「俺、もう、ゴールしても、いいよな?……ゴール」 「打ち上げ花火っ! たーまやーでございます!」 「ばかな……早すぎる……」 「隆明、二十本いっぺん、らめぇ!?」 「火が、火がぁ!」 「若人にばかり無理をさせてはいけまぬ。この老いぼれも頑張りませんと!」 「でもパパは本作業に関わらず一生懸命料理してる! てへぺろ!」 「もう許される年じゃない」 「曽田さんは弁当を食え。良いから」 「静かな火花を見てると切なくなるのです。さおりん……」 「――レンガッ!? 空から、レンガが降って……!?」 「……目がチカチカして参りました」 「見つめ過ぎて目が痛かったり」 「「え、LOVEがレンガ? 何の事?」 「レンガが……」 「幻覚で気絶したぁ!」 「質量のある残像!?」 「おお!?一万吉殿、魂が抜けておりますぞ!?」 「ちゃんと天使の歌」 「もっと、もっとぉ!!」 「気が付けば、折角の浴衣が煤塗れの上、裾が焦げて散々です……」 「アークから経費はおちますか!?」 「ああ、楽しカッタ! えへ、コウイウお仕事なら大歓迎ダネ!」 「まだ終わってないけど、この時間にその台詞がいえるなら、素質あるね」 「ふふふ、簡単な仕事超楽しい! メアリにカスパール、せいぜい悔しがるがいい!アハハハ!! お前らの悪意など、俺達が全て撃ち砕いてやる」 ● 夜が明ける頃。 線香花火は終了した。 あとは。 「それでは、玄吾さんの心づくしの花火大会を行います!」 今度は、輪になって、和気藹々となっ! 「曽田さん、生きて、じゃなかった、起きて。写真撮って下さい。いいから」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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