● 発端は、彼の方々曰くの『反省』らしい。 先日の襲撃より幾許か。リベリスタ側の抵抗によってその本来の目的は愚か、阻止に回った相手方に碌な手傷も負わせられなかった事への『反省』として作った、戦力増強のためのアーティファクト。 能力は――付与者に確たるリスクを伴えども、確かに奏功していた。 そうして作られた新しい戦力。唯一つ問題があるとすれば、その後に生まれる残骸の処分方法という程度。 殺して埋めるのも面倒だからと、あるじ様方は処分を私に一任して……だから、私は無礼を承知で、『彼女』をアークの面々に送らせて貰った。 ……其処までは、良かったのだが。 「……は? またテストでございますか」 某日。 アジトの一室であるじ様方にコーヒーを淹れていた私は、其処で忘とした顔をする。 「正確には意趣返し込みの、だがな」 返すあるじ様は楽しげだ。余程先日の惨敗で溜飲が上がっていたらしい。 「例の『雑兵』共を、今度は三ツ池公園に向かわせる。暴れさせればアークも来るだろ。彼奴らがどういう顔するかねえ」 「……さらっと仰りますが、その素体はどこから持ってくるので?」 「三尋木の『神の家』だったか? 結構前に流通ルートがバレて在庫に余りが出たらしくてよ。 リサイクル代わりに組織内で人体実験やった奴なら相当数が余ってるからって事で、格安で引き取ってきたんだよ」 「……はあ」 楽しげに話すあるじ様に対し、私の表情は陰が映る。 リベリスタは大嫌いだが、フィクサードのフィクサードらしい行いも好きではない。そう言う私にとって、あるじ様方が行うこういった行動には、やはり幾らか気落ちもしてしまう。 「……で、だ。本当は俺らでその様を観察したかったんだが、急の用件が入っちまって行けなくなった。 代わりにお前が監視とテスト結果見てこい。例の改良品も付けてやる」 「……は?」 刹那。唐突な言葉を受けて忘我した私に、あるじ様は胡乱な眼を向けた。 「……嫌ってか?」 「あー……まあ、ぶっちゃけ。三ツ池公園って化け物の坩堝じゃないですか」 「解った、行ってこい」 「悪魔ー!?」 おら、と例によってころころ蹴り出された私は、扉の向こうで泣き真似をした後、えぐえぐとその場を離れる。 向かう先は、公衆電話。 十円玉を一枚入れて、私は、コール先に言葉を紡いだ。 ● 「……三ツ池公園付近にて、動きが見られました」 厳しい表情と共に、解説を始めたのは『運命オペレーター』天原・和泉(nBNE000024)。 展開された映像は、三ツ池公園の外縁――北門駐車場に位置する部分。 其処に、映っていたものは。 「……」 言葉を、 誰もが、言葉を、失していた。 戦っているのは、子供達。 警護に回っていたリベリスタ達を前にして、持つべき装備も持たず、身一つで戦う子供達は、その何れにも欠けたものがある。 血に煙る少女は、顔を歪め涙を浮かべ、けれど叫声一つあげず、 骨をへし折られた少年は、変わらぬ無表情で「いたいよ、いたいよ」とだけ呟き、 悲痛の声を上げる子供は、けれどその頬を濡らすものはない。 「……『雑兵の心得』」 和泉が、 ぽつり、映像を見るリベリスタ達に、呟いた。 「アーティファクトです。あるフィクサード達によって造られた、非道の。 使用対象者は一般人のみに限定され、使用された者は、リベリスタに相当する戦闘力を一定時間得ることが可能です」 「……代償は?」 相対する、リベリスタの一人が、言う。 当然だ。そんな埒外の性能を備えるアーティファクトが、只『与えるだけ』のアイテムであるはずもない。 案の定、和泉は表情をぐいと歪め、絞り出すように言う。 「……映像にあるとおりです」 「……」 人間を、人間たらしめているもの。 他に勝る知能か、あらゆる行動に対応しうる、四肢を介した万能性か。 否、それは、否だ。 ココロ。 些細な出来事で喜び、怒り、涙し、楽しむ。 その感情表現を、そっくりそのまま外面に表示得る機能。 「彼らは、それを奪われました――永久に」 「……っ」 それが、覚悟の末ならば、認められただろう。 だが、この子供達は、或る意味でもって被害者だ。 『神の家の子ら』――使われるべくして育てられた子供達が、こうして、死んでいくことは。 彼らにとっての幸せであろうが、リベリスタ達には。 「……装備こそ無いものの、リベリスタに抗しうる戦闘力を得た子供達は、強敵です。 それに――彼らは『悪辣な試練』と言うアーティファクトにより、自らの意志で戦闘を止めることが出来ません」 「なら」 「ええ、皆さんにお願いする依頼は――『総計二十名の一般人の殺害』になります」 凍るブリーフィングルーム。 ハッキリと告げられた宣告にリベリスタ達がココロを痛ませる。 ――けれど。 「……先ほど、アークに対して、公衆電話からメッセージが届けられました」 和泉が言い、同時に端末を操作する。 それが、合図。 未来映像が切り替わる、その先にいたのは―― 「『リベリスタ』」 周囲を必死に走り、襲いかかる子供達を必死で足止めする、 「『貴方が思う救いの定義とは、なんですか?』」 何処かで見たような、式神の少女の姿、だった。 ● 神父様。 神父様。 わたしたちは、しあわせです。 神父様が言うとおり、わたしたちを、使ってくれる人が、来てくれました。 神父様。 その人は、わたしたちに、人をころせと言いました。 神父様。 わたしたちは、言われたとおり、たくさん、たくさん、ころしました。 けれど、それ以上に。 ゆうたくんも、かのこちゃんも、ささひとくんも、死んでいってしまいます。 神父様。 わたしたちは、しあわせです。 しあわせな、はずなんです。 けれど、どうしてでしょう。 ぽろぽろ、ぽろぽろ、なみだが、こぼれてきてしまうんです。 神父様。 おねがいです。 どうか、どうか、助けてください。 からだがいたくて、 いきが、くるしくて、 でも、でも、それ以上に、 こころが、こわれて、死にそうなんです。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月14日(金)23:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「……利用されたあげくの果てが、これでは彼らが余りにも悲しい」 現地。 彼の子らに会うまでの僅かな間、『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)が嘆くように呟いた。 セカイは昏い。 駆ける八人の表情は、そのどれもが何らかの感情で歪んでいる。 「その様に終らないために、私は力の限りを尽くします」 「ああ。ボク達の力は足りなくて、全てを救うことが出来なくても……」 それでも、拭える涙くらいは。 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が、堪えるような声で呟いた。 ――嘗て、神の家と呼ばれる場所にて、利用されるために育てられた子供達。 身勝手に扱われ、その命を、形質を歪められ、その上で尚、アーティファクトによって望まぬ闘争に臨み続ける彼ら。 「せめて」 ぽつりと。 『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)が、言葉を発した。 「せめて、自己の意思に反するような行動を取らされるようなことから解放してあげたいと思います。その命を奪おうとも。 ただ、それが彼女の救いについて私たちに求める答えなのか分かりませんが……」 「……ハ」 嘲笑。 返答として発されたそれに、星龍が怪訝な瞳を向ければ、『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)が獰猛な笑みを見せていた。 「救いの定義なんぞ各々勝手に設定してくれよ。与えるのも与えられるのも真っ平御免だ」 「それは……」 「決定権はどんな奴でも自分にあんだよ」 反論しようとした彼に、火車は自己の定義を叩きつける。 「救うだの救わないだの……強者の傲慢な特権だぜ? そんなモンは!」 「……いやさ、流石でございますなあ」 「っ!」 唐突に、 少女の声が、聞こえた。 「キミは……」 「あ、どうも。名も無き式神Aです」 けらけら笑いながら、少女は手を挙げる。 傷らしい傷こそ無いものの、身に纏う衣服、そして装備として身体に巻いているエリューションは、その殆どが崩れかけだ。 「足止めに時間掛けましたよ。その分の実力は、見せて貰えるんですよね?」 「期待に添えるかは解らないけどな」 言って、『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001058)が苦笑した。 「……先に言っておくぜ。今のオレに救えるのは、家族や仲間くらいだよ。敵まで救うことはできない」 「ご随意に。そもそも単身のわたくし風情が、あなた方の選択を止めるほどの力なんて有りはしない」 少女もまた、同様に。 「無力は罪だ。……でしょう? 宮部乃宮様」 試すような声音の彼女に、火車は一瞥と舌打ちで其れを応えとした。 拗ねたような面持ちをして、その直ぐ後、彼女は言う。 「んじゃま、行くとしましょうか。一応言いますが、こっちは装備の『灰の血』分しか耐久力無いんで、あんまり期待しないでくださいね?」 ――戦戟が響き始めるのは、この会話の凡そ一分後のことである。 ● 「このような、まるで使い捨ての道具みたいに子供の命を使うなど!」 激昂、 戟剣。 叫び、細剣を振るい、アルトリア・ロード・バルトロメイ(BNE003425)が表情を歪める。 刺し貫かれた腕に表情を歪めながら、子供の一人は彼女の腹に拳を叩き込んだ。 くの字に折れる身体が、それでも膝を着くことを否とする。 「せめてもの救いを与えてやらねば。殺さなければならないというのは気が重いが……」 「とは言え、この子供達を見ると生きてさえいれば、なんてただの綺麗事を言えはしないな」 返す『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)が、苦み走った顔で神気閃光を放つ。 極滅の光に視界を焼かれた子らを見て、だが、と。そう呟いた。 「それでも、望まぬ闘争だけはこの手で終わらせる。 子供達を『敵』として討って終わりなんてのは御免蒙るよ」 ――戦闘開始より間もなく、状況は早速の苛烈さを見せていた。 前衛に雷音、火車、アルトリアの三名、回復役である凜子のカバー担当として中衛気味に位置するのは『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)。残る四名が後衛で射撃、支援を行うという態勢だ。 双方が初手に撃った翼の加護により、それぞれの動きは多角的なそれを見せつつも、開幕で押されているのがどちらかと言えば、それはリベリスタの側。 「……っ、駄目、だ!」 氷雨を撃ち込む雷音が、歯ぎしりを零しながら必死に叫ぶ。 魔術知識と深淵ヲ覗ク。二種の異界探査スキルはあくまで『異界に属するモノ』を捉えて初めて効果を発するものである。 件の子供達はアーティファクトに強化されていようと、その根幹が一般人であることは変わりなく、尚かつ『悪辣な試練』の融合痕などを把握しようにも、最初の一つ目を見つけなければ意味がないのだ。 イーグルアイ、超直観、何れ誰もが必死に必死を重ねて其れを探し続けるも、その間、子供達の動きには初手から容赦がない。 「…………!!」 神気閃光が灼く、マジックアローが劈く、 動きを制限された彼らに、残る子供達が次々と後衛に舞い飛ぶも―― 「おいおい……テメェはオレが撫でてやるっつってんだよ」 「……あ」 咄嗟。 空を蹴るようにして浮かんだ火車が、ココロナシの一人の腕をつかみ取った。 「思考停止のボンクラ共が……!」 瞬間、掴んだ腕に炎が纏う。 腕ごと燃やし尽くし、灰燼となったそれに対して、子供は、唯。 「あ、あああぁ……うぁ」 意味のない言葉を、垂れ流すだけ。 舌を打つ火車で在るも、その暇すらないのは彼自身知っている。 多少の体格差があろうと、相手が多人数である以上、ブロックの限界というものはどうしても存在する。 それを察すると同時に、フツとリルが後衛陣のカバーに入るが…… 「な――――――!?」 ……予想しろ、と言う方が無理だったのかも知れない。 火車、アルトリアのブロックを抜けた七名が、味方を巻き込んでまでもダンシングリッパーを総じて叩き込んでくるなどと。 僅か十秒、内の七挙動。 それだけで、庇い手の二人、そして庇われなかった碧衣はフェイト復活寸前まで追い込まれていた。 凜子が起こす聖神の息吹も、万全回復には程遠い。 尚かつ、その後にも未だ控えている子供達が居るのだ。 「……命を救うことは出来ないが、少しでも救える魂があるのなら!」 アルトリアが、碧衣が、闇と光、相反する力を持って子供達を捉えていくが、あくまでもそれのみ。 「い、たい……いたいいたいいたいいたい」 「……っ! ……!!」 「いやだよ。止めてよ、死にたく、ないよぉ……!」 殺さない。 その覚悟の代償が、これだ。 ボロボロの身体を引きずって、 子供達が、泣いて、叫んでいる。 「悪趣味ッスね……!」 嘗て異界の迷い人を陵辱された様を目の当たりにしたリルは、その返答にも一層の苦々しさが籠もっていた。 近づいた(正確にはリルでは無く凜子に)子供たちに零距離からのダンシングリッパーを叩き込む。 が、矮躯の傷に揺らいだ子供の背後より、中空を舞う殺意の具現が。 「ッ……!」 庇う動作を費やされた。 凜子に襲う刃、気弾、魔曲。 子供達が二人からの遠距離で他の面々とエンゲージしているからこそ、彼女に攻撃が来ないと踏んだリルの隙をつく。 潤沢と言えずとも、そこそこの体力は持ち合わせた凜子である。咄嗟に天使の息を自身に使い呼吸を整えるも、満身に刻まれた痕は未だ少なくない。 「……、聞いてください!」 僅か、蹌踉めきながらも凜子は、殺意に対して言葉を返す。 「今貴方達は、二つの『魔法』を掛けられています! 一つは身体が思っていることと逆に動くこと、もう一つは貴方達の願いが一つだけ、正反対になって叶えられていることです!」 「…………!」 子供達が、 瞠目する、沈黙する。 「だからこそ、今貴方達が苦しんでいること、悲しいと思うことを強く思い、叫んでください。 神が許さず、貴方たちが許さないとしても、その苦しみも悲しみを吐露する事を私が許します」 それは、きっと福音だったのだろう。 神の家。そう呼ばれた場所で育った子らの、『神』の代行者たる言葉。 「君たちの願いを教えて欲しい。本当に幸せなのか? 戦いたいのか?」 同様に、 あくまでヒトの視点からして、子供達に叫びかけたのは、雷音。 「誰かの命を奪うことが平気なわけはない。 苦しくっていいんだ! 悲しいので正しいんだ……!!」 必死の声だ。 今も、彼らを殺す決意を抱きながら、涙をため込みつつ、彼女はせめてもの救いを与えんと躍起になっている。 だが。 「……ソイツを」 泣くような声色で、 「そいつを、わたくしが言わなかったとでも、お思いですか。貴女方」 式神が、言う。 ――瞬間、辺りに響いたのは、絶望。 「ならどうすればいいの!? どうすればみんな死なないの!? 殺したくないよ、戦いたくないよ、死んで欲しくないよ、どれが反対になる願いなの!? 苦しいって、悲しいって言って、僕達は助かるの!?」 「……!」 神の家の子ら。 使われるだけの人間だった彼らでも、その生涯で得たものは、全て、只の子供が得る知識相当に過ぎない。 知識、精神共に未成熟な彼らが、今現在の苦しみに必死な彼らが、聖人ぶった演説を前に心情を吐露するなどと、甘い幻想でしかない。 福音など、所詮は救う側の偽善。 絶望の果てを、リベリスタは、思い知る。 だが、 「――――――朱鷺島さん!」 言葉に振り返る雷音が見たのは、星龍が指し示す先。 必死の抵抗の果てに見えた、一人の子供の、淀んだ色の柔肌。 「……っ!」 呼び起こせ、深淵。 ひとかけらの希望のために、少女は神秘という泥の澱を覗き込む。 「……融合部位を特定するための、特徴は――!」 ● 時間は流れる。 雷音の知識によって得た情報を、探知系の非戦スキル持ちが針の穴を通すような繊細さで、一つずつリルのマスターテレパスによって集積し、子供達を『解放』していく。 だが――初手の攻手に遅れたリベリスタが、それまでの躊躇を結果に取りこぼしてしまった命も多い。 現状で倒れた者は七名。内、アーティファクトを破壊されて生存している者は凡そ半数。残りは語るまでもない。 さりとて、それに安堵する間も懺悔する間もなく、動く手は休まらない。 子供達の猛攻は、未だ留まらないのだ。 事実、前衛に立つ三名の内、特に威力、命中が高い雷音が、後衛陣の次に狙われるようになってきている。 子供達の行動はあからさますぎるほどに簡素で、『脅威度が高い存在』を『被害を恐れない攻勢』で潰していく、と言う手段だった。 本パーティの要は部位狙いによって下がらざるを得ない命中率の高い対象、そして継戦能力のキーである回復役の凜子である。 星龍、凜子。それを庇い続けるリルとフツの体力は瀕死にすら近い。他の面々の中でも、範囲攻撃やブロックした者への攻撃によって倒れかけた者も少なくない。 「……解せないな」 そうした中でも、未だ平時の様子を保つフツは、仲間にブレイクイービルを飛ばしながら呟く。 「行動が強制されるって言っても、実際に戦ってるのは子供の頭脳だろ? 何で彼処まで効率的に俺たちのネックを狙ってくるんだ」 「……あー」 難しそうな顔をした式神(これでも戦闘開始後から回復を乱打し続けている)が、歎息した後に彼に言葉を返した。 「『悪辣な試練』の情報、ちゃんと解ってますよね?」 「ああ。願い一個だけ反対にして叶えるアーティファクトだろ?」 「いえす。『叶える』……要は微弱なれども『運命に働きかける』アーティファクトですよ。アレは。 量産型って事で精度は元のそれに比べてガタ落ちでしょうが、それでもアレの効果は確かに発揮されています。仮に願いが戦いたくない、と言うものだったとしたら、攻撃を撃った対象が『偶然』敵の戦略の要だった、って感じでね……!」 会話の終わり付近、幾度目かのココロナシによる暗黒。 式神が纏う『灰の血』が、大半を地に堕とす。凜子の回復を自分から固辞した式神の装備は、最早限界寸前にまで傷んでいた。 「……頼みますよ、リベリスタ。 えげつない仕事頼んだ非礼は詫びますが、こうある以上、腹括って下さいませんと……」 「……貴女に言われるまでも、有りませんよ」 真っ先に言ったのは、星龍。 言葉と共に放つアーリースナイプが、コエナシの胸を貫き、地に伏せさせた。 「私は死こそ救いなんて思いませんが、無力故彼らを助ける手段が無いのです。 だから……だから、せめて出来るだけ苦しまず逝かしてあげられるようにするだけです」 拳を強く握りながら。 振り絞るような声で。 誰よりも先に、正義という泥を被る射手が、居る。 ――実際、敵方もほぼ死に体となっていた。 『被害を恐れない攻勢』と言うことは、即ち損耗も激しい。 特に彼らは、回復役のコエナシ達を筆頭として自身の回復にリソースを使わないのだ。 そう言う意味では、彼らは仕留めるやり方で行けば或る意味最も――勝敗は別として――決着を付けやすい相手だったと言うことになる。 だが、 「――――――ぁ」 『被害を恐れない』と言う手法。 それ以前に、使うスキルの半数に反動を主とする、前衛型のココロナシを最後に回した、そのツケが、 此処に来て、支払われる。 「ペイン、キラー……!?」 それは、ひとえに彼らの油断である。 使うスキルの傾向を理解しても、そのスキルのどちらが主軸かという懸念を外していた代償。 慌てたリルが、固まっていた彼らにダンシングリッパーを叩き込もうとするも、思った瞬間に彼らは既に散開していた。 最終展開、 一極した彼らの攻勢が、 リベリスタ達の運命を、喰らいに掛かる。 ● 「……此処まで、ですねえ」 戦況は終盤。 苦笑混じりの式神少女は、それと同時に、装備するエリューションの形状を変化させる。 「合図打って退かせてください。同時に私が麻痺毒撃ち込んでから逃げます」 「……っ、だが」 「無茶無理無謀で覆りませんよ。生憎コレは」 くっ、と碧衣が言葉を零した。 敵方の半数以上を『削る』ことは奏功したものの、逆に言えば彼らが可能だったのは其処までのライン。 攻めあぐねた初手、リベリスタ側の総体が行う部位狙いが故の精撃力低下により、戦闘が持久戦の様相を呈したのがネックとなった。 倒れた仲間達もそうだが、一部の仲間達の間で、Mアタックを持つココロナシの攻勢も含み、術技を放つ気力が枯渇し始めていたのだ。 対し、子供達も万全とは言えずとも、相対する程度の気力は残っている。 「直ぐに公園内の警護班へ助勢を求めれば、あの数なら殺れる筈です。 ま、暫く三ツ池公園の防衛力は下がりましょうが――これ以上の被害よりはマシでしょう?」 「……」 応える言葉はない。 代わり、彼女が撤退の声を上げれば、前衛、後衛の仲間達は転身、体力と膂力の関係上、倒れた仲間の身体『だけ』を抱えて離脱する。 「……無力は罪だ」 刹那。 火車と少女がすれ違うとき、彼女はぽつりと言葉を発した。 「真理ですな。欲しいもの一つ、自分の手で掴めない輩に本当の幸福はない」 「……それがどうした」 「一つだけ、お願いがありまして」 少女が麻痺の雨を降らせつつ、火車にふっと微笑む。 「それ一つ、許されなかった彼の子達の死に様くらい、どうか悼んでやってください」 「……」 応えはなく、 それぞれは違う路へと逃避する。 ● ――いのちの、こぼれる、おとがする。 たくさんの大人が、私たちをじっと見ている。 むきしつな、ひとみ。 それに、ぶるりとだれかがふるえて。 けれど、身体は言うことを聞いてくれなくて。 何一つ持たない私たちは、それにとびかかってしまう。 「うて」 大人たちは、そう言った気がした。 その後に聞こえたのは、ぱん、ぱぱん、と言う、何かがハレツするような音。 みんなが。 みんなが、その音といっしょに、たおれていく。 たくさんの血を流して。 たくさんの、命をこぼして。 ――いたいよう。 だれかが、そう言った。 ちがう。だれかが、ではなく、だれもが。 ――苦しいよ、さむいよ。いたいいたいいたい、うでがなくなっちゃったよ、足が動かないよ、まっかで、まっくらで、何も見えないよ。みんな、みんなはどこ? こわいよ、さみしいよ。たすけて、おねがい、たすけて、神父様、みんな、みんな、みんな――!! こうたくん、 はるなちゃん、 とうごくん、 かのんちゃん、 みんな、みんなが、そう言っている。 「……だいじょうぶだよ」 だから、せめて。 私は、うそであっても、こう言うの。 「苦しいの、すぐになくなるよ。 いたいのも、さむいのも、辛いのも、全部、全部、全部。 だから、みんな、ちょっとだけ、あとちょっとだけ、がんばって。 もう少しだから。うそなんかじゃ、ないから――!!」 泣きじゃくる声。 虐殺の光景。 赤と黒がリンクした、『穴』の傍らのセカイ。 此度、参加した八人の元には、この映像媒体が匿名で送られる。 同封された手紙には、「最高に道化なセイギのミカタ様へ、『哀』を込めて」と言うメッセージが書かれてあった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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