● 「刀はどうやって振ると思う?」 ベッドに腰かけて、足をぶらぶら。しなやかな身体は猛獣のような張りを蠢かせて正面を見ていた。 <剣林派>フィクサード、『理刀』小野 刀那。彼女の手には手錠が嵌められているが、それも彼女自身が虜囚であると言う事を示す程度のものでしかない。 「腕力? ナンセンス。スピード? だめだめ。脱力? 惜しいが全然違う。それは全く、まぁったく違う。銃の引き鉄を足で引くって言ってるようなもんさ」 年のころは、見た目で言えば十代の半ば。少女と言ってもいい。革醒者の年齢を外見で計るのは無理のあることだが、それでも、その振る舞いは彼女が少なくとも、見た目の年齢に対し違和感の無い程度の精神であることを示していた。 つまり、己の技をひけらかし、誇示する、武を歩むにはやや未熟なこころの形と言うことだ。 「刀は全身で振るんだ。それも、筋力に頼るんじゃない。全身の力を過不足なく間断なく繋ぎ、それはもう優しく繋ぎ、重力に逆らわず、一点に摩擦を集中するんだ。それは極論を言えば、『無』だ。自分を空にして刀に全てを託すんだ」 とはいえ、その振る舞いは、同時にリベリスタ達に一つのことも連想させる。 精神はともかく、その技術は円熟に至りつつあるということを。 「ってとこで、本題に入ろうか。あたしはお察しの通り剣林派の組織に居る。名前は<八将>。厳密には組織ってんじゃない。それぞれ、八人の革醒者とその弟子達が寄り集まって護衛やら、もしくは……暗殺やら、とにかく腕っ節が必要な依頼を受けてるのさ」 頭を振る。髷のように高い位置で結った長いポニーテールが揺れた。かすかに香油の香りがする。 「ま、時によっちゃ人も殺すし犯罪も犯す。だからフィクサードって括りに異論はねえ。あたしらの目的はただ一つ、武を極めることにある。だから、正式に<八将>の一員として正式に武人になるには、そう。儀式みたいなもんをこなさなきゃいけねえんだ。ほら、それだよ」 そう言って彼女が指し示したのは押収品の一つで、スマートフォンに似た機械を腕に付けられるようになっているアーティファクトだ。アークのリベリスタが持つアクセス・ファンタズムに似た印象を受ける。 そのアーティファクトには、二つの名称が羅列されていた。 ひとつ、『小野 刀那』。そしてもう一つには、『アーク』と。 「何を考えてたのか知らねえけど、うちの師匠含めた上の連中は……余計なことに、あんたらがあたしを助けたのを見て……ああ、一般人の兄ちゃんらを助けてくれたことには感謝してるぜ。とにかく、そいつにその名前を送信してきた。そいつに名前が書かれた以上、あんたらはこの儀式の参加者だ。絶対ぇ何かが襲ってくる。だから、あたしを解放しろよ。あたしだって、こんな状況は本意じゃねえんだ。武人の魂に反する。何とか師匠にナシ付けて来っから」 その是非はともかくと置いておく。 彼女の真意も置いておく。 以前、リベリスタの一人が疑問に思ったことを、もう一度聞いておく。 何故、彼女は刀を腰に差しながら、それを抜くことなく戦っていたのか。 「言ったろ、あたしらはただ、武を極めたいだけだ。あたしはな」 そこで、彼女は肩の辺りに手刀を構える。両手を拘束されていても、刀を振る動作に支障はない。瞬きの間に、いつの間に振り下ろしたのか。 さして速度があったわけではない。 それでも、いつその手を振り下ろしたのか、誰にもその瞬間を知覚できなかった。 「あたしは……素手で、鉄を斬りたかったんだ」 うら若い少女の独白。 その笑みは間違いなく純粋で透徹した狂気に塗れていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕陽 紅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月14日(金)23:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「刀那たんかわいい! ポニーテールっ娘かわいい!」 「な、何言ってんだいきなりお前!!」 なでなで。 「武人っ娘かわいい!」 「てめえおちょくってんのか! 殺すぞ!」 なでなで。 「仲良くしよぐふっ」 「死ねてめえっ!」 『合縁奇縁』結城 竜一(ID:BNE000210)が踏みしだかれているのを周囲が抑えにかかる。咎める者もいないのだが、一応捕虜が暴れるのは体裁が悪いので。互いにとって。体面って大事なのだ。 「そもそもだ」 咳払い一つ。呆れた顔で『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(ID:BNE000638)が訊く。 「鉄を斬りたいならば、相応の武装を使えばよい。素手でそれを成し得たとして、何の役に立つ?」 「……あのなぁ」 一瞬呆けた後、その言葉が何を意味するのかを理解した刀那は眉をハの字にした。 「ならお前は何で銃を使わないんだよ。戦車は? ミサイルはどうだよ」 「銃はともかく……他はとてもではないが、裏の世界であろうとも個人でおいそれと手に入るものではない」 「だよな。じゃ、仮にだ。風呂でもいい。或いは武器を折られたってことでもいい。敵は硬度を誇る。そんな時、どうする」 「……む」 そもそもから、考え方が違うのだ。 オーウェンの思考は『相応の準備を以って闘う』のに対し、刀那のそれは『己が如何な状態にあろうとも戦う』。どちらに間違いがあるのでもない。 「言いたいことは判るが……それは、あれだ。狂気の沙汰だ」 「そうかい? 俺にとっては随分と好みだけどな」 『群体筆頭』阿野 弐升(ID:BNE001158)が笑う。 「俺の目指すとこ。古いゲームにさ、神をバラすチェーンソーがあるんだ」 だから何とは言わない。わかるだろう? と首を傾げた。 「狂気の沙汰、上等。そも、只の斬鉄すら常人には夢想の域なのだから」 しかしそれはそれとしてその業に自信満々な少女の様子にツァイン・ウォーレス(ID:BNE001520)が、腹のうちにためていた疑問を吐き出す。 「ところで小野さ、今素手でどの程度斬れるんだ?」 「肉……いや、骨程度なら余裕さ」 「なら。お前の師匠も同じこと、極めようとしてるのか?」 「師匠……親父は違えよ。あたしはあいつとは違う」 敵愾心。功名心。あるいは。その目の色をツァインが気にするが 「何でもいいさ」 二人の問答を『誰が為の力』新城・拓真(ID:BNE000644)が断ち切った。申し訳程度に拘束された刀那を引っ立てながら、リベリスタ達は歩く。 「純粋に剣の腕を交える機会があるなら、逃したくない。俺は、強くなりたいんだ……誰よりも、強く」 独白は、九人の男達に消えて行った。 リベリスタ達の姿を認めると、彼らは駆け寄らないまでも、居住まいを正す。 「おい、刀那!」 男のうち、一人の叫び声に手錠をかけられた少女は肩を竦めた。 「てめえ、音沙汰ねえから心配したら何だよそれ! 生きてんなら連絡の一つもしやがれ!」 「リベリスタ、苦労をかけた。さて……」 声には労わりと、隠せぬ戦意。 「話があると聞いたぞ、“それ”から」 彼は手錠で繋がれていた少女を指差していた。集団はぞんざいな仕草で彼女を扱いながら、しかし同時に隠しきれぬ畏敬を孕んでる。 才能――努力――もしくは血筋。あるいはそれら全てに対する。 「が、我らに純然たる会話など存在しない。我らにとってのそれは」 「闘いだと、そう言うのじゃろう」 ぷわりと『紫煙白影』四辻 迷子(ID:BNE003063)が煙を吐いた。 「なんとゆーかだね、あんたらも戦うなら強い相手のが武の神髄ってモノに近づけるとおもワンカネ?」 『盆栽マスター』葛葉・颯(ID:BNE000843)が言葉を継いで、口にくわえた煙草を揺らす。 「良いだろう。是非も無い。断る理由は一つも無いからな――」 「決まりだな」 拓真が頷く。 その視線は、後ろの方でにやにやと唇を吊り上げている男に止まった。しかしそれも一瞬のことで、視線はすぐに外れた。 「この中で、迅速の剣を操る者は何方か」 「速さなら……僕だ」 「リベリスタ、新城拓真。一騎打ちを申し出る、異論は?」 挑戦的な笑みと共に、闘いの火蓋は切られた。 ● 少年の構えは、細い剣の二刀。 鋭く飛び込む。差し出された一方の剣に、判っていても視線を移してしまう。拓真の視界に少年はいなかった。死角から二本の剣を振る。噴出す血。 「ははっ、追いつけるか!」 強引に詰めた間合いは空を切り、しかしまた血を噴出す。ブレイドラインは火を吹き、少年を一時的に後退させた。 「無粋な鉄の塊を……!」 その弾丸を危うく喰らいかけ、少年の目に火が付いた。四方に、八方に、次第に加速する。にも関わらず、拓真は冷静だ。敵の動きを見る。手は出さない。血が舞う。一つ、二つ、みっつ、まだだ、見る、見る、見る見る見る――! ぎり、と拓真の足元が唸る。 鋼を打ち鳴らす音が、鳴り響いた。 「な……!」 少年の呻きは、何より誇りにしていた剣を銃の杷で止められたことによるものだ。ぎり、と回す。少年の一方の剣は空しくアスファルトに突き刺さった。慌てて突き出す剣。 「悪いが、こちらも“二刀流”だ。文句は言うなよ」 交差する刀と剣。拓真の呟き。 噴出す血が、人工的な地面を生物的に塗らした。 足を踏み鳴らす。男の足元に浮かび上がった魔法陣は実にロジカルだったが、大剣を振り掃うと何事もなかったかのように首を鳴らした。 「これで終わりじゃねえよな」 「無論だ」 オーウェンが唇の端を吊り上げる。鋭い踏み込み。男の剣はツヴァイハンダーだ。雷光が尾を引き、光を描いた。身体から血を流し、オーウェンは後ろに退く。詰められても尚、全身から迸らせた気糸が筋繊維を断裂させて行くが、そんなことは埒の外とばかりに攻め立てる。 「ちまちまちまちま、鬱陶しいなオイ!」 オーウェンの背が壁に叩き付けられる。 「勿論、それが狙いである」 閃光が周囲を灼いた。 彼のフラッシュバンは、麻痺させるには至らない。一撃がオーウェンの防御を打ち砕くものに相違無かった。 「……ったく、手間とらせ……!」 膝から崩れ落ちたのは、二人が同時だった。 唇の端から血を流しつつ、オーウェンの脚甲がその腹に靴裏を叩き込んでいる。連続してカートリッジが装填された。男の身体が水揚げされた魚のように跳ねる。 「最後まで……油断は、禁物だ」 言うなり、倒れこみそうになる。そうなったのはオーウェンだけでない。 「チッ……ああ、もうやめだ、やめ。割りに合わねえよ」 慎重さ故に、オーウェンは彼をしとめ損ねた。 しかし、その慎重さによって最後の一撃を与えられたこともまた事実だ。 「それじゃあ、お相手願おうかフィクサード殿?」 颯の両手には短い刃が握られている。間合いと威力には劣り、しかし速さに勝る。 言うなりの突撃に、更に速度を増す。敵の蹴りをいなし、突きを崩し、そして再び遠くへ。 「流石!」 楽しげに笑う。男の技は空手に見えた。踏み込み、交差する一瞬。極低温の拳が颯の動きを奪う。返す蹴りをまともに受けて颯が後ろに飛んだ。 「やあ、後腐れの無い戦いは楽しいネ! 強いともっと嬉しい、そこのところもグッドですョ」 「気が合うな。俺と付き合うか!」 「それはご勘弁」 斬る。斬る。突撃をそのまま威力に変える。次第に男は押され始めた。掌底の一撃を捌いて腱を刃で刻む。流れるように、颯は男の喉下に喰らい付く。 銜えたまま、ごくりと粘つく液体を嚥下した。口を離すと、失血により気を失った男が地面にどうと崩れ落ちた。 「……だって。ちぃーと、颯さんと付き合うには速さが足りなかったからね」 「名乗りはいるか?」 「必要とは言わんが、問われて答えぬ道理はない」 構えは無し。共にだらりと腕を落として、ただ足と体幹でいかなる方向からの襲撃にも備えている。 「八卦門、周天覇」 「四辻式格闘術の四辻 迷子じゃ」 名乗り合って、最初は緩やかに。周と名乗った壮年の男は迷子の周囲を回る。走圏と言う歩法は粘つく泥のようだ。 交錯の際、翻った迷子の袖が周の掌を絡めた。捻られる腕を抜き取ると、零距離で迷子の拳が打ち放たれ、周の掌で受け流され。流れ流れ二人の動きはなかば踊りか何かのように動きが止まらない。迷子の爪先が肩を切り裂くと、その足が掴まれた。 宙に吊り上げられた迷子はそのまま袖を翻し、視界を塞ぐと直上から大煙管を振り下ろした。 いつの間にか、足を掴んでいた手は離され、その胸に掌が叩き込まれていた。内臓に浸透する一撃に動きを封じられ、迷子が大きく咳き込む。 「成る程、面白い技だ」 周が袈裟懸けに切り裂かれた胸から流れる血を指で掬い取る。 「攻め時を逃しさえしなければ、地に張ったのは私だろう。悔しいか?」 「何を、馬鹿な。負けるということは、また強くなれるということじゃ。わしは嬉しい!」 「……四辻式格闘術、確かに覚えておく」 絡みつく蛇のように足をかける。強かに背を地面に叩きつけられ、迷子は気絶した。 盾に剣。基本に忠実と言ってもいい。良くバランスを保ち、誰に対しても善く対応出来る。 「いゃあああありゃあああ!!!」 竜一の刀が大上段から振り下ろされる。男は迎え撃つ盾で流し、しかし横から振り切られたブロードソードがその盾を再び吹き飛ばした。背中を向けるような格好にされ、慌てて体勢を立て直しながら片手の剣を突き込む。 避けるどころか、防御をすり抜けてその剣は突き立った。 「はっ、図に乗るからだ!!」 突く。斬る。薙ぐ。回避し損ね、傷が増える。 「力任せの馬鹿など!」 「おい、一つ訂正しとくぜ。俺は……誰が相手でも真正面から妥当してやるだけだ」 一度の切り払い。その威力で連撃が中断される。 「見せてやるぜ、俺の武威を。俺の身に宿る混沌の力を!」 振り上げた腕、振り下ろす力。 結果は知れたものだった。 もっとも、その突撃志向故に同じく彼も大怪我を負ったということは補足しておく。 「斬原 龍雨」 『リグレット・レイン』斬原 龍雨(ID:BNE003879)が短く名乗る。正確には、名乗った。る、と言う頃には鋭く跳躍し、うの辺りで男の飛び膝蹴りを回避していた。足元は流麗で、流れる水を思わせる。対する男の動きは破竹のような激しさで、止まることを知らない独楽のようでもある。 「名乗らないのは無礼ではないか?」 「礼なんざ知らねえなあぁ!」 ひゅんひゅん、と両手に持った二本の棒を振り回す。 「が、言えと言うなら言ってやる。エスクリマのホセ・ランディだ!!」 弾ける様な火の奔流。実際に武器が発火しているのではないが、継ぎ目の見られない圧倒的な手数と激突の際の摩擦による発火がそう錯覚させる。それらを捌く。前に進んで、拳を突き出して、彼女の攻撃にもまた火の属性を帯びていた。鋭い蹴り。龍雨の蹴撃が下から上へ軌道を描いて襲い掛かり、ぱっと血が舞った。 連撃、ひたすらに連撃。熟達の人間ならば、その一撃一撃は正確なものだったろう。ただし、未熟の粗雑さは隠せない。隙を突いて、振り払われた腕を捻って関節投げ。龍雨の一撃に肘を折られながら投げられ、頚骨をこきゃりと踏み折った。 「礼を知らない者に己を律することなど出来ない。そういうことだ」 「群体筆頭アノニマス。いざ、推して参る」 肩に相棒を担いで、弐升が手招きをした。 「さ、名乗り返せ。戦の華ってな、そういうもんだろ」 「……八極門 斉藤 功」 男は、手に槍を持っていた。 軽く手元で操作するだけで、その槍は大きく撓む。軽く後ろに体重を預けると、小さく。 「……参る」 呟き、勢い良く前に飛び出した。爆音の如き震脚、そこから生まれる力は背中を伝い腕へ渡り、槍に弾丸の速度を与える。かすっただけで盛大に削り落とされる。 「やれやれ、間合いでは不利か……な」 振り回す。チェーンソーと槍。片方はそもそも武器ですらなく、当たり易さも防御力も遠く及ばず。 ただし、ただ切断力という点で言えば、別だ。攻防の遣り取りは直撃を避けながら、失血を重ねていく。 「……そこまでだ」 差し出された掌。今まさに男の胴を両断しようとしていたチェーンソーが止まった。 「おかしな武器だが……己の未熟を知った。感謝しよう」 刃を止めて、肩に担いで、弐升は軽く笑う。ただ一言、彼がそういう武器を使うからにはそういう心根と言うものだ。無口な斉藤も、半ばのあきれと半ばの共感に、笑うしかなかった。 「クールでしょう?」 腰に手を添えて刺突剣を構え、半身に正対したオーソドックスなアンギャルド。それはまた、女が生粋のフェンサーであることを示していた。 「やりにくそうだなあ」 ボヤいて盾を前に、剣は体側に置いて間合いを隠す。女の構えが貴族的な正統派であるとすれば、ツァインのそれは騎士の戦場における常套手段だ。 「最早勝敗の数は決定された。覆されることはない……が、それで退くものではないと判るだろう?」 「勿論、それくらいは」 「ならば、行くぞ」 迅い。ただ只管に。一瞬で間合いを詰めて幾条もの突きが迫る。避ける事は叶わず。しかし致命傷には至らない。動きが止まった一瞬を狙って盾の死角からツァインが剣を振るうが、これは鋭く擦り落とされた。 「この、硬いな……!」 「速い……!」 千日手だ。命中と回避に長けた者と、防御に重みを置く者。一撃、当たればツァインの方が重い。が、女は巧みに攻撃を封じたり弱い部分を攻めたり、その防御を突き破り切れずにいる弱点を手数で補う。 さらに悪いことに、互いが互いの剣を良く見すぎていた。そもそもが、似た技術であるのだ。覚えやすさはこの上ない。 「……提案、なのだが」 「……な、何だ?」 荒い息が二つ。神秘の力の源も尽き果てて、あとは剣を振るう以外にない状態。生き残りをかけた戦いならばここからでも剣を振るうことは必定だ。 が、ここまで釣り合ってしまった以上、もういいのではないだろうか。正直、両者ともにうんざりしていた。ツァインの方は無限機関がある故にまだ戦えるが、何も無理に勝たなければ行けないのでも無い。 「……ここは互いに引かぬか。技を磨きなおし、再び……な」 「そ、それは……俺の勝ちで、良いわけ?」 「良いわけあるか! ……と言いたいが、仕方なかろう。粘り勝ちだよ、お前の……」 言うなり女は、地面に大の字でぶっ倒れるのだった。 ● 「それなりに腕の立つのも連れて来てたのになぁ」 そこまで。 「よし、話ってのを聞こうか」 「その前に、だ」 竜一が、一歩進み出る。 「そもそも『武』って何だ。強い事が、『武』か? なら、強いってどういうことだ? 敵を打倒することか? 己が我が侭を貫き通すことか?」 「何だ、禅問答か?」 「それとも……一般人や弱い輩を狙って儀式でもすることか?」 その言葉に、一瞬押し黙る。 「あぁ……いや、こんなん言っても聞かねぇと思うがすまん! こっちのミスだ」 ぱんっ、と銃声とでも間違うような音響で手を合わせて謝る男に、竜一は一瞬面食らった。 「結界が綻びた理由は知らねえが、誓って……少なくとも、<八将>の総意でもねえと言っておこう」 「ならば、なおさらだ。強者を選抜しよう。実力も分からぬ者を巻き込むな」 その言葉に重ねて、オーウェンが言葉を投げつける。 「……ほお?」 「見てのとおり、うちは血気盛んなのも多くて」 ツァインが苦笑する。 「人員はこちらで選ぶ。一般人を巻き込めば、儀式も関係なく横槍を入れに動く。そういうことじゃ」 「随分一方的な物言いじゃねえか。や、そりゃうちも変わんねえけどよ」 迷子の一方的な通達に苦笑する男。 「代わりに、例えどんな試練だろうと受けて立つ。相手が何であろうが、私達は決して負けはしない!」 「……っ、くく、ふふふ……」 最後に龍雨が決意を説いたところで、耐え切れないというように男が笑い出した。 嘲りではない。楽しくて仕様が無い。そんな笑いを漏らし続ける。 「っハハハハ、それくらい活きが良くなくちゃいけねえ! 忘れんなよ、吐いた唾は飲み込めねえからな!!」 その口ぶりや、先ほどからの言動を見て、弐升は眉を寄せた。 以前の男とは違う。ならば、あれは誰だったのか。 「で、それは返してもらえんだろうな。不出来とはいえ娘だ」 「ん、お行きヨ」 颯がとんと背中を押す。正直、颯も刀那という少女は嫌いではなかった。少女はぶすくれた顔で男の方に向かっていくと、頭をぐしゃぐしゃにかき回されて怒っていた。 「その前に」 収まりかけていたその場に、男の声が響いた。 「『絶刀』小野刀真──可能なら一手指南願いたい」 腰に手をかけ、拓真が呟く。返事も待たないまま、刀を抜き放って一瞬で接近した。 耐えられなかったからだ。先刻より自分の殺気に気付き、同じく放ってきた彼の剣気に。激しく踏み込み、全身から雷をほとばしらせ、一気呵成に必殺の一撃を―― 血が噴出したのは、拓真の方だった。抜いた手は見えた。振り下ろすのも見えた。男はただ、一歩踏み出して刀を振り下ろしただけだ。だというのに、自分の攻撃は男の頭の直ぐ横を掠め地面に突き刺さり……そして、男の刀は、拓真の右半身を深く切り裂いていた。 「切り落とし……だ。吼えるなよ。今のお前じゃ倒せねえ」 なんせ、俺は強いからな。 自信に満ち溢れた一言を残し、男――『絶刀』小野 刀真は立ち去って行った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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