● 此処は現実という名の楽園。桃源郷は幻想に過ぎない。 何時だ、こう思ったのは何時頃か。 友達は皆、私を見ては私を言葉で傷つけた。 「私以外のニンゲンは全て、お人形」 不似合いな血臭が漂うが、おそらく此処は体育館なのだろう。 散乱した肉塊の中心で涙を流す少女は、ナイフを両手に大事に持っていた。ただ、そのナイフは誰も傷つけてはいない。傷つけたのは、彼女を取り巻くようにゆらゆら動く人影。 「生きているのは私だけ。他は私のために神が用意した動くお人形」 意志を持ち、動いているのは己のみ。 他者が同じく意志を持ち、感情を持ち、動いているだなんて確認する術はあるというのか。 神という存在に魅せられて、果て無き闇に囚われたのは一人の夢視過ぎた少女。 その後ろから漆黒のゴスロリ服が、少女を抱きしめた。 「そうですわあー、私もそのお人形。神が使わした……そうね、天使様ってとこかしらぁ? ちょーっと牙はあるけれど、まあ見た目なんて飾りですもの」 だらしない口は、少女の心を押し広げるのに長けていた。 アナタノ、タメノ。 甘い悪魔の囁きは、今の彼女の心を揺さぶり落として、もう昇れない。 「嗚呼、目を塞ぎたくなるほどの馬鹿ですわ。こんな玩具の虜になるなんて」 神話の時。イヴが林檎の魅惑から抜け出せなくなったが如く。 麻薬を一度、身体の中に溶かしたかの如く。 「馬鹿が馬鹿して、馬鹿なことになってもう馬鹿ばっかですこと。ばーか」 ● 「十四歳の女の子がアーティファクトを持っています。それを回収するために、裏野部のフィクサードが動きます」 『未来日記』牧野 杏里(nBE00211)はさも、淡々と言葉を並べる。 依頼の内容は簡単だ、裏野部フィクサードよりも早くアーティファクトを回収するか、破壊するか。 そのアーティファクトの効果は所有者が深く絶望した時に発動する。 「所有者を守るように、人影型エリューションが複数召還されます。それは意志の強さによって強さが変わるのです」 エリューションならば倒してしまえば良い。そう思うが、残念ながらこのエリューションは物理的にも神秘的にも攻撃を受けてくれない。影は影であり、それ以上でも以下でも無く。じゃあ、どうやって倒す? 「本体である少女を止めて、としか言いようがありませんね。殺す、絶望から救う、方法は沢山あると思います」 ただ。 「裏野部のフィクサードは彼女ごと回収するつもりで来ています。甘い言葉で近寄る、それに彼女は長けています」 アリス。よく口の動く覇界闘士だ。 少女を飼いならし、己を守る武器にする。恐らく目的はその辺りだろう。 「それでは、気をつけていってらっしゃいませ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月01日(土)22:56 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●それってまるで、滑稽 教室なんて狭い空間。私にとっては息がつまる場所。 まるで夏祭りで掬った六匹の金魚の様。 小さな小さな、せまーい袋の中に入れられて、酸素が欲しいって口をパクパク。きっとその袋に入ったが最後。私はその壮絶な酸素争奪に敗れた哀れな一匹よ。 でも……私は力を手に入れた。 優しい神様が袋の中から救ってくれた。 そう、私こそ選ばれた人間。もう、何も怖くない。 怖く、無い、もん。 「そうですわねー」 本当は素っ気無く、けれども声だけは完璧な演技で繭を惑わす彼女――アリスは異変にいち早く気づいていた。 血臭混じりの空気をどける、扉が勢いよく開く。 「ひっ、な、何!?」 「あらー? 呼んでも無いけど、呼んだかもしれないわね。いらっしゃーい。愛し、憎むべきお客様♪」 拒絶した繭に、招き入れたアリス。 同時に八人のリベリスタがその中へと荒々しく足音を立てて入ってきた。 「さ、いってきてくださー……くちゃい!!」 「こんにちはー! 青少年保護団体デース! oh! いきなりショッキングな光景ネ!」 『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)と艶蕗 伊丹(BNE003976)が真っ直ぐにゆらゆらとよろめく影へと向かう。思わず篭った血臭に二人は鼻を押さえた。 事前に『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)が千里眼で見ていた通り、影の位置から繭の位置まで筒抜けの通り。 「血まみれ死体ばっかりで、やになるよねぇ……」 溜息が出た。影に向かいながらも、おもむろに蹴り飛ばしたのは、女の頭。 誰かがつまずいたりしたら危ないからね、ご遺体は丁寧にサッカー開幕。 「素敵な光景でしょう?」 繭を背に隠したアリスの顔面すれすれを、その飛ばされた頭が通過し、壁にぶち当たって弾けた。 「悪趣味かと思います」 その葬識の横から駆ける『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)。 『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)の幾重にも織られた気糸が、複数の影へと向かって宙を駆けるその中で、ノエルは動かんとす影の手前で足を止める。 「攻撃はすり抜けて行くだけ……といった所でしょうか」 「二十秒で増えるとは厄介極まりないです」 そんな会話を一瞬。ノエルとジョンはそれから振り向いた。 眼に見える、今しがた入った入り口。 「では、予定通りに」 少し遅れて二人は動く。 影の行く手を塞ぐ壁を作り、そのアーケードを走り抜けるのは『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)と『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658)だ。 葛葉はアリスへと一直線に。 以前アリスと会ったのは何時頃か、多くの命が儚く蹂躙された戦場で、か。 「アラ、あの時の! 逞しくなったわねー」 「今日は俺に付き合っていただこうか、フロイライン」 前回はダンスの前に消えてしまったから。まるで十二時前に消えるシンデレラ。けれど、今回は拳の届く所に彼女は居る。 「思い切りやってくるといいよ」 『持たざる者』伊吹 マコト(BNE003900)の防御を底上げするドクトリンも繋がった今、恐れるものなんて無い。 「ふふ、まあ……遊ぶのはちょーっとだけですわよっ!」 スカートの端を両手で摘んで上げて。背を前に倒して一礼。 「私も暇じゃあ、無いんですの」 葛葉の放った魔氷。アリスは利き手の掌で、その拳を受け止める。しかし、押し込めと葛葉は諦めない。受け止められながらも、その拳を前へと、前へと。けして押し返されてなるものかと。 「本家相手にデュランダルが魔氷?」 「甘く見るな、貴様の思い通りにはさせん!!」 真剣に煌くな葛葉の瞳が光った。そしてあざ笑ったアリスの顔が一変した。受け止めた掌から氷の結晶が掌ごと飲み込もうと足掻いたのだ。 「!!」 思わずその掌で拳を弾き、一歩後ろへ引いたアリス。 「その言葉、そっくりそのままお返ししますわぁ~!!」 そう言って、振り上げたのは。 足だ。 「「地盤破壊!!」」 ぐるぐとマコトの声が重なった。 「やだー、体育館壊れちゃうねー?」 咄嗟に葬識が身構えて衝撃に備える。 その間、モノマは回りこんで繭へと向かっていた。 大きな地震が起きたのかと思えば、アリスが体育館の地面を足で叩き割り、その破片の刃がリベリスタ達を飲み込んでいるが見えた。 「くっ」 額から嫌な汗が流れたけれど。握る拳が汗ばんでいたけれど。 「かぁーっくいー! ぐるぐさんもやってみたいなそれ!」 「ただ地面を勢いだけで、踏んでるだけですわぁー?」 破片を身体に当てながらも、ぐるぐは子供の様にはしゃぎ。 「地盤破壊、凄い迫力だね……伊達に真祖とは呼ばれていないか」 マコトはその技の真面目を探る。 「痛いねーほんとにもー」 「ちょっと!! レディに何するんですの!!」 額から出た血を一舐め。葬識が再び、今度は胴体をアリスに向けて、殺意を込めて蹴り飛ばした。 「大丈夫でしたか……?」 「ワタシは無事ネ! 今、なんとかスルネ!」 影を押さえるために、位置は前衛後衛入り乱れ。即座に伊丹が詠唱を始める。 仲間は案外、元気な様だ。 信頼しているからこの作戦が成り立つのだと言えよう。そして、己の役目を全うす。 近づく度に血の香りが増す。その空気を口から吸って、思いと共に吐き出すのだ。 「本当に周りが人形とでも思ってんのかっ!?」 影の伸びた腕がモノマの横腹を打つ。だが怯まない、助けるって決めたから……ただがむしゃらに足を動かすのを止めない。 「や、やだ……来ないで、アリス、アリス!!」 まだ、伝わらないか。聞いてもいなさそうだ。 何処の誰とも解らないモノが近づいてくる恐怖。繭は身体を強張らせながら、すぐ前方に居るアリスに助けを求めた。己の手に、突き刺すこともできるナイフがあるというのに、どこまで滑稽か。 すぐに振り返ったアリスが溜息混じりにモノマの動きを、止める。 「邪魔だ!!」 「ふふ、可愛いですわぁ!! でも、女の子怖がらせちゃぁ、イケナイ」 モノマの眼に映った、鋭く光った口内の刃が。その首の布ごと引きちぎって、鮮血に舞った。 彼女の魅了に囚われたモノマはそのまま拳を葛葉へと向ける。 「おい、しっかりし……!?」 攻撃したくない。 そう瞳は語っていたが、己の行動を止めることは―― 「うふふ、なかなか、楽しくなってきちゃったのですわぁ!」 ――できない。 ● 「ハローハロー。ぐるぐさんと遊びましょー」 「いいわよぉ、殺戮ゲーム? それとも罪作りゲーム?」 「パンチの威力対決!!」 無邪気な声が聞こえた瞬間、アリスの眼に見えていたぐるぐが消えた。 と、思ったら背後からミシミシと骨が軋む大きな音が耳のすぐ横で聞こえる。 「ぐるぐさんの勝ちー!!?」 「ぐっ……ぶっ! あはぁ!! 痛いですわああ!!」 よろめいたアリスは繭を見た。離れてしまっては説得されてしまうか。近寄ろうと足を動かすが、ぐるぐのまた背後から葛葉が姿を見せる。 「相手、間違えるな! 今は、俺達が相手だ」 「もう! しつこい人は嫌われるのですわ!」 葛葉の魔氷がアリスを穿つ、かと思われたがその一歩手前でアリスの防御を貫く一手が葛葉の腹部を破壊し、その身体を止める。 「あン! 影の攻撃威力が高くなってる気がするネ!!」 「それは困った話しだね」 伊丹の息が、葛葉の傷を埋めていく。そしてマコトの、式符から形成せし鴉が一体の影を貫いてみるが。 「……甘い話は転がってないか」 これで消えてくれればと切に願ったが、やはり攻撃は受け流されているらしい。 おや、今しがた打ち抜いた影の拳、こっちに来てませんか? 「あれ? もしかして怒りはきいてガフッ!!」 「OH!! Mr.マコト!! 身体を張って調べたのネ!! Niceヨ!!」 魅了から抜けたモノマが、繭へと近づく。 モノマが一歩近づく度に繭も一歩二歩下がったが、ついには壁に背が着いて追い込まれ。 「あ、あぁっ」 手を出された。それで何をするのかと思えば、両手に握った刃に掌をあて。 ずぶ 「うあ、あ、何して……っ」 ずぶずぶ 「ひ、ぃいっ!!」 貫通した掌から血が、それが握った両手に垂れて流れる。最奥まで刺し、そのまま繭の両手を掴んだモノマ。 覇界闘士が、武器である拳を犠牲にしての、説得。 「俺もお前も誰かの人形なんかじゃねぇだろうが」 刺さった感触、流れた血。触れた手の感覚。これが人形だと言えるだろうか。 「う、うるさい、人形が、人形が何言ったって無駄なんだからぁあ!」 「こらー、人の玩具に何してるの、ですわー! じゃない、人のお姫様にー!」 つい本音が出た気がするが、リベリスタが接触しているのにアリスは気に食わない。 「そっちにいくなら、首斬らせてね」 「殺伐なのですわ~!」 殺人は衝動であり、儀式。無差別に削り取られた命の、なんて勿体無い事か。 ともあれ今、目の前には粋の良い命が居った。これは大事に丁寧に狩り取りたい。 葬識は瘴気を力に変えて、不吉をアリスに打ち込んだ。 「答えが見つからなくても足掻く事はできる」 「ち、ちが、足掻いて、足掻いたらこうなっちゃって」 「間違えたって、正せる」 「ま、まちがい……!? 私は間違えてる……?」 モノマの説得は続いた。元凶を握ることが、傷を深くさせることと知り。 「諦めて、人形に成り下がるか? ガッ!?」 背後から、影の集中攻撃を受け、繭の心を揺さぶるたびに、威力を身をもって知り。 ついには運命を飛ばし。 「影、今の君たちの相手はこっちだ!!」 マコトは群がる影に、式符を飛ばす。集中攻撃を受ける様は見るには耐えない。それに説得の邪魔はさせまいと歯を噛み締めて。 もちろん標的はマコトに向いた。それでもそれでも、それでいいって笑えた。 それでも立ち上がった彼。モノマはしぶとく言葉をかけ続けた。 「自分以外はすべて人形。本当にそうお思いですか?」 ノエルも伊丹をその身体で庇い続けながら言葉を投げた。 神を信じたのであれば、それを否定することはよそう。けれど、まだ死んだ人形に涙を流せる心があるなら。 「あなたはまだ、他者の優しさという希望を信じれるはずです――っ」 「Oh! NO! ノエル、あんま無理するなヨ!」 仲間を守る光が再びリベリスタを包んでいく。それには繭も含まれた。外傷は無くとも、心の傷は癒えて欲しいとささやかなる願いを込めて。 「あンモォ! ワタシタチ繭を助けにキタノヨ!」 ゴスロリの悪魔に騙されるなと、伊丹は光を放ちながら呼びかけていく。 「助け…? わた、しを?」 これで、何秒か。彼女の心は確実に揺れ動いていた。 けれど。 けれど。 けれど。 三十秒だとカップラーメンも作れない? ●それでも理不尽ってよくあること 「う、うるさぁあい!! 人形が、人形が私に説教しないで!!」 ガタガタ震える手は小刻みにモノマの傷を広げた。その刃から滴り落ちる赤。 それでもモノマは握った手、貫いた掌を動かさなかった。そこにあるのは他成らぬ強固な意志。 そりゃ痛いさ。それでもやらないと。 「てめぇがまだ人間でいてぇなら協力する。それはてめぇがどう在りたいか決めてからだっ!」 怒鳴られたのは何時ぶりだろうか。罵倒を浴びせられるのは慣れたが、繭を思っての言葉は彼女の心に染み渡っていく。 灯った繭の心の火。どうありたい? こんな糞みたいな場所から抜け出したい。 それだけ。 「あ、見ちゃ、駄目!」 ハッと、気づいてみれば。周りを見れば、転がっているのは赤。赤!赤!! 気づいたぐるぐが目を塞ごうと飛び回るが。 「うっ、うぁ……ッ、オェエエ゛ッ!!」 想いは届いた。自身を取り戻し、理性のスイッチが入った。 だからこそ耐え切れず胃の中の物を全て吐き出す。周りの非現実は繭には耐え難くて。 「ゲホッ、ゲホッ……っわ、わた、わたしぁっ!」 重要な選択。間違えたらきっと、もう戻れない。 決断の時は訪れた。逃れることは不可能だ。もう知らない振りをすることはできない。 されど、アリスの口は止まらない。 「……助けてなんてどの口で言えるのかしら?」 「ひっ」 「や、やめろッス!!」 マコトが声を荒げ。 「辛い、痛い、だから殺した。さあ、罪を背負って助けてって言えるのぉ??」 「ひ、ひぃいい」 「やめろ、アリス!!」 葛葉が魔氷を響かせ、アリスの動きを止めても止まらず。 「殺すって決めたから、こうなったのよねえええ!!?」 五月蝿い高笑いが響く。 未だ心はアリスが手綱を握る。だがアリスが繭を見る眼は、ゴミを見る眼だ。 「う、うあ、うああ、うああああああああああああああ!!!!!!!」 リベリスタが我慢できる僅かな時間は容赦無く過ぎた。 「もうやだああああああ!!! 怖いよおおおおおお!!!!」 声が擦れるまで叫んだ繭。行き場の失ったナイフをモノマの掌から手荒に取り、放り投げた。神秘なんて、魔法なんて、人形なんて、もう何を信じれば。 限界だ、あっちもこっちも。けれど捨てたのであれば好都合。 影が、いとも簡単に消えていく。影があり、ナイフを狙うならば必ず影が庇いに入っただろう。けれど、それが消えた。 「傷つけ合うだけの世界ってやだよね」 アリスの言葉を遮る様に、葬識の中に彩る暗黒が刃となってナイフ自身を狙った。 「嗚呼……時間切れ、ですね」 ジョンも同じく、絶対希望に向かって気糸を放つ。 手荒だが、ノエルもConvictioを振り上げた。仕方無い、これしか方法が無いのなら。 「ちょっと、させないわよ」 ナイフ、欲しさにアリスは走ろうと。だが、途中で繭に掴まれる。 「た、たすけ、てよお!!」 ただ、ただ、泣き叫んだ不運な一般人。はは、笑える。 「あーあ。壊れたら、戻すの面倒ですわ。邪魔ですの」 ゴミめ。 パキン モノマの背筋がビリリと震えた。物理的な音も聞こえたが、心の奥で何かが崩壊した音も聞こえた。 それはナイフが真っ二つにへし折られた音。 それは、少女の心が真っ二つに壊れた音。 「一人じゃ、寂しくな」 そこまで言って葬識の喋るのをやめた。漂ったアンモニアの臭いと、落ちた涙。 「は……はは、はは、えへへ、へへっへ」 そこに居たのは、文字通り、繭だった人形だったんだ。 「ふふ……興醒めですの」 しれっと、吐いたアリスが辺りを真黒の闇で包んだ。 「アリス」 「あら、なーぁに?」 「神がつかわした天使様、でしたか? では、神の御許に返って頂きましょうか」 「あっはぁ、今日はもうやる気が。キスくらいならシてあげてもイイですわよぉ?」 「痛いキスは、いやだなぁ」 ぐるぐが嘆く、その手前。ノエルは力強く、怒りの篭った指先で武器を操った。 もはや消化試合のこの勝負、だがアリスを倒せれば裏野部には打撃を与えることは可能だろう。 「逃がす心算、ありませんよ」 「逃げる? 帰るのですわよー」 ジョンの気糸が、アリスの頬を掠っていく。それが再戦の合図なのだろう。 振り上げた足を壊れた地面に落とし、暗闇で破片が舞う中、モノマと葬識は壊れた少女の世話をした。 「俺様ちゃん君みたいな性格の悪い子って好きなんだよね~。殺されてくれない?」 「アラやだお上手! でも、駄目ですわー帰るのですわー」 ぶつかった刃達。だらしない口の牙が――嗤っていた。 ● 「は、はは、真っ赤……もう、真っ赤……はは」 三高平への帰路。 誰も喋らない、誰も何も言わない。ごとごと揺れる、アークが手配した車内。 ただ、抜け殻になった繭が言葉を虚ろに呟く。 「わたし友達がいるの、みんな、馬鹿ばっかで真っ赤なの」 神秘を知り、手に触れ、恐怖を知って、抱え切れなかった少女の末路。 「は、はは、どこ、どこ、あり、す、こわいよお」 もう、繭に閉じこもって出てこない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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