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A to Z ――そして、世界は全てを淘汰する


 始まりは終わりだ。終わりは始まりだ。
 始まれば終わらねばならぬ。終われば始まらねばならぬ。

 繰り返す。プロローグが存在するのならば、既にエンドロールは存在する。
 巡り続ける。回って巡って。終わりなど無い。始まりなど無い。引き伸ばす。回り続けるカセットテープ。
 変わらない。世界は回る。始まり終わり始まり終わる。

 それ以外など、必要ない。
 
 ――そして、世界は全てを淘汰する。


「今日の『運命』。……割と深刻だから、どーぞ宜しく」
 少しだけ早口に。『導唄』月隠・響希(nBNE000225)はモニター前で話を始めた。
「敵はアザーバイド。……ただ、普通のアザーバイドじゃない。とあるアーティファクトと共鳴を起こしてる」
 資料が手早く配られる。何時に無く機敏な其の行動に、ブリーフィングルームの空気が徐々に張り詰めていく。
 操作される、モニター。
「識別名『世界の欠片』。アーティファクトは『世界の輪郭』。……この2つは、偶然にも非常に高い親和性を持っていたのよ。
 で、共鳴し、非常に強い力を持った。……因みに『輪郭』の方は、今、世恋が細かい事を話してると思う。
 今回の件では、互いの行動が成功を大きく左右すると思ってくれて良い。心配なら、あちらの話も確認した方が良いと思うわ」
 淡々と。話しながら操作され続けた端末に表示されたのは、黒い靄の様な、何か。
「これがアザーバイドの『原型』。でもまぁ、此処にいくあんたらには同じものは見えないと思う。これは、触れた人に合わせて姿を変えるわ。
 まぁ、こいつはあんたらの心、に反応すんのよ。――あんたら、消されたくない『過去』とか『未来』とか『可能性』って、あるでしょ?
 どんなものでも良い。もしかしたらこうなるかも知れない。其の事実を、このアザーバイドは喰らうわ。それが良いものでも、悪いものでも。
 食われていくの。生死も、成功も失敗も、そうでない何かも、続くはずの日常も。これは、『昨日』と『明日』を喰らうのよ」
 淡々と、言葉が重ねられる。
 これの影響が強まれば、下手をすればひとつの街程度軽々と『先も前の無い』街に変えてしまえるのだ、と溜息交じりの声がした。
「それで、更に間の悪いことにね。……世恋の見たアーティファクトの影響で、先の無くなった世界は、繰り返しを始めるの。
 始まれば終わる。終われば始まる。エンドロールとプレリュードは常に共にある。……終わらない『今日』が続くのよ。
 こいつらは互いに影響を与え合ってる。だから、両方が無くならないと、また『始まって』しまうわ」
 性質が悪いでしょう。肩を竦めた。
 具体的な内容は、と問う声。資料を捲る音。
「あんたらには、戦闘でこれに勝ってもらう。ただ、普通の戦闘は出来ない。これは『先』も喰らうから。
 あんたらの攻撃は高確率で喰われてしまう。倒れても、アーティファクトの影響でまた『始まって』しまう。
 しかも、これはあんたらの『前と先』も喰らおうとするわ。幸いにも革醒者には其処まで強い影響を与えられないから……正確には、食われかける。
 あんたらの心が負けなければ食われない。一定数勝てれば、その喰らう力を弱められる。世恋の方が上手く行っていれば、更に弱められるかもね。
 それを踏まえて、戦闘して頂戴。因みに戦闘中もずっと、食われ続けるからね」
 大体そんな感じかな。資料をざっと片付けて、フォーチュナは座り直す。
「前も後ろも無いってどんな気分かしら。幸せな一日を繰り返し続ける、何てまるで夢みたいだけど」
 夢みたいだから、綺麗なのかもしれないのにね。そんな一言だけ残して、其の瞳はリベリスタを見送るように細められた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:麻子  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年08月29日(水)22:18
軌跡と可能性を失うのはどんな気分なのでしょうか。
しいなとの連動なのです。麻子です。心情。
以下詳細。

●成功条件
アザーバイド『世界の欠片』の討伐。
(しいなSTの『世界の輪郭』破壊と連動します)

●場所
とある街の中の公園。
障害物などはありません。既にアーティファクトやアザーバイドの影響を受け始めている為、住民は異質なリベリスタの存在に気付きません。
時間は昼。

●アザーバイド『世界の欠片』
黒い靄の様な姿。触れたものによって姿は変わります。
巡り続ける『今日』に不要な『過去』と『未来』を喰らう迷子。
『世界の輪郭』と協力に共鳴し合っています。

以下能力詳細。

P:喰らう欠片(全/毎ターン必ず、全ての存在の『未来』か『過去』を喰らいます。リベリスタは喰らわれた感覚を味わうのみです)
P:消去(攻撃を受けると高確率で発動。ダメージやBSを受けた『過去』を喰らいます)

存在喰らい(遠全/存在するという『過去』を喰らいます。ダメージ大、Mアタ大、BS圧倒)

●特殊ルール
リベリスタの皆さんは、喰らう欠片に対抗してもらわねばなりません。
対抗判定に勝つと、敵は弱くなっていきます。(Pスキル、戦闘スキル共に弱体化していきます)
一度勝てば、その後は食われなくなります。
プレイングには必ず消されかける『過去』か『未来』と、それに対する心情を明記してください。
無いと描写格段に減ります。ご注意を。


以上です。
ご縁ありましたら、宜しくお願い致します。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
ソードミラージュ
絢堂・霧香(BNE000618)
覇界闘士
鈴宮・慧架(BNE000666)
ソードミラージュ
紅涙・りりす(BNE001018)
クロスイージス
レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
ホーリーメイガス
氷河・凛子(BNE003330)
ダークナイト
ユーキ・R・ブランド(BNE003416)


 既に、それは其処に居た。黒い靄。リベリスタが踏み込んだ直後、それは姿を変えていく。
 永遠に続く今日。昨日も明日も無い。エンドレスデイ。微温湯のしあわせ。
 傷を残す過去も、しあわせな過去も。傷を付けるかも知れない未来も、望む未来も。
 此れは、全て等しく喰らうのだ。

 さあ、貴方の要らない過去と未来は、なぁに?


 歩んで来た過去に、間違いは無かった?


 きぃん、と高い音がした気がした。眩暈と頭痛。耐え切れず目を閉じて、次に目を開いた時に『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)が見たのは、自分自身だった。
 揺れる羽織。その姿は、象徴だ。霧香が、霧香であると言う事の。全く同じ真っ直ぐな瞳が、此方を見ていた。けれど、それも一瞬。
 その姿が、溶けていく。まるで始めから無かった様に。目の前で。
 思わず息を呑んだ。確かに、普通の女の子の人生ではなかったけれど。霧香にとって、剣と共に在った日々は決して不幸なものではなかったのだ。
 澄んだ刃は、心まで澄み通らせてくれる気がした。剣をにぎる事は、嫌ではなかった。
「……人を斬る事は、今でも苦手だけど」
 その声は音になったのだろうか。去来する。箱舟での出会い。重ねた依頼と戦いと、その中で感じた、喜怒哀楽。
 その歩みが、消えていく。軌跡が。凛と背を伸ばす自分が。消えていくのだ。怖かった。此れを、失ったら。自分は自分で無くなってしまう。
 失いたくない、と願う。けれど、それでは足りない。そんな、受身なものではなくて。
「違う。奪わせない!」
 消えかけた自分の手が握るもの。大事な大事な刀に手を伸ばす。この刃は、この道は証明だ。絢堂霧香の生きた証。自分が自分である事の。
 手が届く。鏡合わせの自分が笑った気が、した。


 積み重ねた過去は、本当に手放したくないもの?


 漆黒を纏う。鋭い牙が、靄、否、戦友とも言うべき者達の血を啜った。
 欧州時代。未だ運命の寵愛が無かった頃。死と人の入れ替わりがイコールであった戦場に、ユーキ・R・ブランド(BNE003416)は立っていた。
 失っていく。磨耗していく。満ちる死の匂い。それは、忘れたい過去なのだろうか。
「まあ、そうですねえ」
 過去が無くなれば失ったものは無くなる。総じて忘れた方が今日は楽に生きられる。そういう事だろう。それはある意味では、事実だ。
 けれど。
「……巫山戯るな。甘く見るのも大概にしろ」
 押し殺した声。辛くない筈は無い。そりゃあ、思い出す度に胸は痛んで、嫌と言う程飲み明かす事もあるけれど。
 けれど。でも。消えてはいけないのだ。彼らの、沢山の彼らの1人たりとて、無駄に消えたものは居ない。
 迂闊さから教訓を得て、半ばで潰えた志を受継いで。自分だけではない。皆がそうだ。皆、痛みを、過去を、無駄にしない為に前に進み続けたのだ。
 それがどれ程過酷であろうとも。その足は止めない。今だって同じだ。失ったもの全てを積み重ねて、心に刻んで。
 それが、今の『私』なのだ。誰かの未来は。誰かの過去は。自分の、今になる。先になる。
「私の過去を喰らうというのなら、今の私を砕いてからにするが良い」
 任せておけと、心の中で呟いた。溶ける様に、仲間の姿が消えていく。


 抱えた過去の価値は、本物?


 何もかも、失う訳には逝かなかった。
「私の記憶、心、何一つ……貴方が喰らって良いものではありません!!」
 裂帛。言葉と共に、軽やかな身のこなしで相手を叩き落して。『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)は幾重にも姿を変えるそれを睨む。
 異国の血。何も知らぬ内に失った両親と、残された自分を愛してくれた厳格な祖父。
 水色の瞳は祖父にとっては嫌なものだったけれど、教えられた技が、作法が、その愛を教えてくれる。
 もう居ない母。唯一知っているのは、紅茶が好きだった事。今では開いた紅茶館に多くの友が訪れて、笑って。毎日がとても楽しくなった。
 染み付いた紅茶の香り。感じる度に、暖かい日々の記憶を、思い出す。
 けれど、相容れないものも居た。人の悲劇を喜劇にせし者。ピエロの仮面のあの男。赦さない。何度も何度も目の前で繰り返された自分がこの手で。
 だから、この本物の怒りは、忘れない。
 分かり合えるものも居た。死ぬ間際に友になる意味など無いと言った彼女に、自分は言った。自分が覚えている限り、意味があるのだと。
 そして。最期に。友になる、そんな夢も悪くは無いと、そう言ってくれていた。だから、だから忘れてはいけない。いけないのだ。
 意味を、消してはいけない。
 拒んだ。最初の様に。学んだ古武術で、全てを打ち払う。
 視界が、開けた気がした。


 抱える想い出は、本当に優しいもの?
 

 好きな、女がいた。一夏の想い出も得られぬ程短い間だったけれど。口に出すには羞恥が勝るけれど。
 幸せだった。温かな家庭で、彼女の子供と、彼女と生きたかった。何より、大好きだったのだ。
 別れは突然で。契りを交わす時。こんな仕事をしているから仕方ないと笑った記憶が頭を過ぎった。けれど今。
 『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)の目の前で、彼女は笑う。
 嫌々やったバカップル。それが、今では夫婦だなんて。
 遊園地での告白は驚きだった。あんなに早口になるなんて、新たな一面を見た。
 クリスマスは洒落た事はしていないけれど。良い、時間を過ごした。
 何より。新年を共に迎えられたのは、心の底から嬉しかったのだ。
 誕生日は、確か眼鏡を送った。――どんな、眼鏡だっただろう。
 バレンタインは度肝を抜かれた。あの時自分は……
 続かなかった。本屋も。花見も。何も出て来ない。行った筈なのに。会った筈なのに。
 笑う彼女が消えていく。あの日のはにかんだ顔や、幸せそうな表情が。声が。
 焦った。待て。待てよ。思い出せよ。必死に叫んだ声は音になっていない。手をすり抜ける、彼女の残滓。
「……嘘だろ?」
 柄にもなく声が震えた。自分しか知らない彼女を忘れたら。想い出まで、失ったら。
 彼女はもう完全に失われて、しまう、のに。
「っ……冗っ談……っじゃあぁねぇぇえっ!」
 忘れて堪るか。忘れられるものか。その手を伸ばす。始めなくては終わらない。だから、手を伸ばして。掴み取るのが自分の筈だ。
 平和で、彼女と過ごせるのなら。それ以外いらなかった。
 その為だけに戦っていた。今もその為だけに、戦っている。もう此処に彼女は居ないけれど。その願いに終わりは無くなったのかもしれないけれど。
 人は、何時か必ず逝くのだ。それまで遺された者は生きる。過去を背負って。今を。何があっても。
 先に。先へ!
「ずっとこんなもんだろ……!俺達ぁよぉ!」
 握った拳が炎を帯びた。微笑む彼女の向こう側。此方を喰らう黒い幻影を、全体重をかけて、殴り飛ばす。
 それは、心で燃え続ける、消せない炎。


 選んだ過去に、後悔は無い?


 桜が散った。あの日と同じ。濃い血のにおいと、むせかえるようなはなのかおり。
 大切なものなんて両手の指でも余る程で。想い出何て感傷に過ぎない。けれど、そんな『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)が無くしたくないと願うものが、其処には在った。
 それは痛みを伴う記憶だ。流れ落ちる黒檀が、白い肌が、さいごに触れた唇が。ありありと蘇る。櫻の、夜だった。
 消えていく。あの日とは違う。その存在が。繋いだ筈の、想いが。初めから無かったと言いたげに、彼女ごと。
 恋しくて愛しくて、全てを求めた。殺したくて殺されたくて。彼女なら、叶えてくれると思った。
 独りは、寂しいから。
 それは狂っていると言われる事なのかも知れないけれど。それは、愛ではなかったのかもしれないけれど。でも。
 だけど。
「それを! お前なんぞに! 喰わせてやるわけにはいかねぇんだよ!」
 淀み無き、全力。何一つくれてなどやらない。此れは、自分のものだ。自分だけのものだ。
 痛みも。後悔も。罪悪感も。それがどれだけこの心を苦しめ続けようとも。こんなものにその一片だって喰わせてはやらない。
 永遠は無い。花は散るし、夢は必ず醒めてしまう。
 紡いだ筈の、鮮烈過ぎて痛いくらいの想いだって、何時かは褪せてしまうのかも知れない。
 でも。それでも。残るモノはあるのだ。一度だけ。もう一度だけ。それを望んだ彼女の願いを、りりすは確かにあの日、叶えた。
 しあわせそうな笑みを見た。
 震えた手が伸びてきて。この身を確りと包んでいた。涙が転がり落ちて、真っ赤に濡れた唇が、名前を呼んでと音無く、囁いた。
 あの時。あの日。交わしたものは、残っている。此処に。確かに。だから、鮫は言う。
「――僕「ら」は幸せだった」
 痛みの、後悔の、罪の意識の中に。
 確かに残るモノ。美しく、貴いモノ。
 失わずに愛したいと、願う気持ちは全く同じで。運命はそれを許してはくれなかったけれど。
 ゆめのようなこいの、やさしいおわりは、もう誰にも奪えやしない。
「だから僕はいきていくのさ。今日を。明日をね」
 黒檀の髪が流れる。むせ返るような花吹雪。遅咲いたやえのはなが、視界を、あの姿を埋めていく。
 愛しているわ、と。少女の様に笑う声が、聞こえた気がした。


 不条理な過去は、それでも必要?


 癒しの息吹が吹き荒れる。此処は戦場。数多の命がすり抜けていく其処に、『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)は立っていた。
 過去の苦しみ。未来の不安。それを感じないのは果たしてどんな気持ちなのか。分からないけれど。
 過去があるから今を生きて。今が愛しいから明日に希望を持てる。
 凛子は、そう信じている。
 けれど、でも。遡る。幾つも、幾つも命を看取ってきた。幾ら持てる術を尽くそうと。此処では救う先から死んでいく。
 神ならぬこの身では、助けるより早く死んでいく。助けても、助けても、助けても、手を差し伸べても、増えるのは。
 死。
 切なくて悲しくて苦しくて辛くて、けれど今、それは端から消えていく。溶けていく。此れは忘れても良い過去だ、と囁く声がした。
 でも。自分は、忘れてはいけないのだ。看取った死を忘れたら、生き抜いた証も消えてしまう。無かった事になってしまう。
 戦場において、生かすという事は、砂漠で金剛石を探すようなものだけれど。
 その徒労は、殆どが無駄になる。報われない。ただ辛く苦しい作業だったけれど。
 それでも。死という蟻地獄の中から、ひとつでも、1人でも多くの希望を、救い出す為に。
「私は前に進むと誓ったのだから!」
 その声は強い。揺らぎ掛けた心はもう何処にも無かった。
 今の戦場は、此処だ。
 生と死の狭間で。凛子がすべきは何時もと同じ、ただひとつ。
 全てを癒す術を、振るい続けることだけなのだ。


 未来を望む事は、貴女にとって幸せ?


 今日に要らない過去も未来もありはしない。過去があるからこそ今があり、未来があるからこそ、今を頑張って生きていける。
 その力を、知って貰わねばなるまい。
 対峙した、大切な彼の幻影を見据えて『抗いし騎士』レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)は深く、息を吸う。
 正直なことを言えば。
 未来の可能性なんてものは、信じていなかった。何処にでも居る女性だったレナーテの中に、先は無かった。
 将来やりたい事も、展望も無くて。ただ何と無く一日が過ぎて、明日が来る。
 言ってしまえば、無くても良かったのかもしれなかった。
 けれど、運命の悪戯で。普通を離れて、沢山の経験をした。苦いものもあった。やりきったものもあった。
 普通の中に居て、普通だったレナーテを、それはゆっくりと変えていた。
 そして、何より。何度辛い目に逢おうと、明日を信じて、挫ける事無くその手を伸ばす人を、見続けていたのだ。
 目の前の彼。真っ直ぐに見据えた。
 積み重ねた過去は、自分に明日を、未来の可能性を信じよう、と思わせてくれた。
 護りたいと、掴みたいと思うものが出来てきた。
「私はもう、「普通」の人間じゃあない」
 運命の寵愛がある限り、この身はもう普通ではない。けれど。普通であったからこそ。
 レナーテは何より知っている。その、普通の価値を、その幸せを。
 だから護ると決めた。必ず、護っていってみせる。
 そう。昔の自分と同じ様に。普通の幸福の中にある人達の「未来」の可能性を護る為に。
 独りでも多くの人が、その可能性を奪われない様に。
 盾を握った。明日を、総てを護る事を望み続ける大切な彼と。この、強く望む未来を見たいのだ。
 彼の答えだって可能性。そう、それを含めてみんなみんな。
「私が初めて望んだ「未来」なんだ、そう簡単に消させやしないし、消せる程小さなものでもありはしない!」
 全力を込める。靄を掻き消すように振り抜いた盾が、弱ったアザーバイドを叩きのめす。
 前を見た。広い背中。この人と、未来を見る為に。抗いし騎士は護る為の盾を確りと、構え直した。


 過去も未来も総て抱えて、それ以上先に進めるの?


 どれだけ大層なあだ名を得ても。『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)の心は、ごく普通の青年のそれだ。
 総ての過去を抱えて、明日への可能性を信じて。今の自分を精一杯。何一つ譲れない、と手を伸ばす。
 誰かの夢を守る力。その道がどれだけ険しくても。新田快は、新田快である限りそれを止めない。
 そんな譲れないものの中で。快が何より譲れないもの。目の前で戦う彼女が見えなくなった。代わりに見えたのは、出会ったばかりのレナーテ。
 ドラマティックな展開なんて無かった。過去というには新しすぎる記憶の中に、彼女は居る。
 普通の大学生であり、共に戦う仲間だった。
 それが変わったのは何時だっただろうか。ぼやけ始める記憶の中でも、ただ、鮮やかに覚えているものがある。
 守るべきものに犠牲を強いた時。その手が届かなかった時。誰かの明日が、目の前で潰えた時。
 普通の青年の心では、到底耐え切れない程の痛みを、抱えた。心が砕けそうになった。
 そんな時。
 彼女は静かに、弱音を聞いてくれた。悔しくて悔しくて泣く自分を、見守ってくれた。
 護る総ての中の1人。なのに、護るつもりが、護られていた。
 支えられていた。気付けば惹かれ合っていた。
 消えそうなそれに手を伸ばす。気付けば、誰より護りたい存在に変わっていて。
 これからも一緒に居たいと。居ようと、そう決めた。
 此れが消えたら。彼女が消えたら。それは、この想いを失う事だ。
「……それだけは、譲れない」
 靄の先。見えたレナーテ。足掻く様に靄の牙が剥かれる気配がした。存在喰らい。

 手を伸ばして引き寄せた。消えてしまわない様に。その存在の、記憶の、ひとかけらだって。
「ちょっと遅くなっちゃったけど……あの時、言えなかった事を言うよ」
 髪に手を通した。そのまま、力いっぱい抱き締めて。
 雨音と星屑の夜。照らし出された彼女の横顔。あの日返せなかった言葉を、今。
「俺も、レナーテの事が大好きだ。一緒にいて欲しいと、思う。君と歩く未来が見たいから」
 自分よりずっと細い身体。護りたかった。護られたかった。それが愛しい過去で。
 この先に望む、未来だ。
 腕が回るのを感じた。すぐ近くで聞こえる、呼吸音。
「ありがと、快」
 乗せるのは、様々な想い。彼女が初めて望んだ未来を、彼もまた望んで。世界は始まりに戻らない。
 先を望み続ける、心。それは、確かな力に変わるのだ。

 打ち勝った力が形になる。何も無かった事に出来なくなったそれを。
 幾重もの攻撃が抉っていく。削っていく。それはもう何も喰らえない。牙を向けない哀れなおわり。
 過去を愛す心が。未来を望む希望が。確かに力に変わっていく。
 微温湯のエンドレスデイ。甘ったるい幸福論。不変は、幸せで居て何処かを腐らせていく。
 だから。
「昨日も明日も呑み込んで。今日だけを見て生きる。そんな人もいるかもね。でも、私はイヤなの」
「昨日を糧に、より良き明日を目指して今日を生きる。俺は、そうありたい」
 進み続ける事もまた、力強い幸福論なのだ。
 倒れた欠片は戻らない。否、『輪郭』を失った『欠片』は、戻る場所を失ったのだ。
 倒れてももう繰り返せなくなったそれが、ふわりと浮いた。向かう先はきっと、砕け散った輪郭の下。
 そうっと、寄り添う様に集まって。ふわり、と。不要を淘汰していた何かは、溶け消えた。


 A to Z ――全てを表す其れ。
 『過去』と『未来』と『繰り返す今日』が織り成すもの。
 エンドロールはこない。プロローグは綴られ続けていた。
 世界はただ、沈黙した。何も淘汰しない。何も、消えやしなかった。只、其処に『刻む今』だけおいて――

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。

判定基準は、奪われたくないものの明確さと、それに抗うに足る心情の有無です。
全員成功するとは思いませんでした。嬉しい悲鳴です。
判定の結果は、リプレイに込めたつもりです。皆様の想いを反映出来ていますように。

ご参加、有難う御座いました。ご縁がありましたらまた、宜しくお願い致します。