● 「ままー、花嫁さんの着物とっても綺麗~」 「真理、そうじゃないでしょ。ほら、花嫁さんだってとっても綺麗よ。ほんと、羨ましい位だわ」 最近は少し珍しくなってしまった神前婚後の披露宴。 最近の子供にとっては色打掛の物珍しさの方が先立つ様だが、近所でも評判の美人である新婦の姿に、娘の母親は僅かな羨みを感じる。 自分の時はもっと簡素な式しか挙げれなかったのに。 「ねーねー、まーまー、お姉ちゃんが頭に被ってるお帽子ってなあに?」 色打掛には飽きたのか、今度は花嫁の頭を飾る角隠しに興味を持った好奇心旺盛な娘が、傍らの母親の袖を引いた。 けれど、其処にあったのは怒るとちょっと怖いが、本当は優しい真理の母の姿では無く……。 母親の服を着た鬼が居た。 ● 「6月の花嫁は女の子の憧れだけど、どうやら幸せな結婚式ばかりじゃないみたい」 集まったリベリスタ達に、『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)は事件の資料を手渡す。 何でも一人のフィクサードがある結婚式の花嫁衣裳の一つにアーティファクトを混ぜた為、大規模な悲劇が起きようとしているらしい。 任務内容はそのアーティファクトの回収、もしくは破壊。けれど一番大事なのは……、 「難しいとは思うけど、出来うる限り犠牲を小さく留める事」 資料 1『アーティファクト』 形状は角隠し(和式結婚で女性が頭に被るアレ)。 所持能力は3つで、1つ目は装着者を覚醒現象(エリューション化)から守る。2つ目は装着者に対して嫉妬した者を鬼の姿のエリューションに変える。3つ目は装着者が角隠しを外した場合、これを鬼のエリューションへと変える。 2『エリューション』 エリューションの能力はその者の嫉妬心の強さに比例します。 エリューションは基本的に角隠しを被る者を狙いますが、無力な相手が傍に居れば憂さを晴らすかの様に殺します(無力な相手を殺した場合エリューションの能力は若干低下します) 参列者は32名、女性は其の内18名でしたが、エリューション化したのは5名でした。 一人目、倉本鹿波。新婦の友人だが、実は新郎に惚れており、結婚前に駄目元で告白をした経緯あり。新郎は鹿波をフッタが、新婦の気持ちを考えて黙っていた為に新婦に招待された。(嫉妬心極大) 二人目、榎本貴志子。新婦の職場の独身ハイミス。器量の良い新婦を嫌っていたが、職場での立場上出席。(嫉妬心大) 三人目、蒔田しずる。新郎の職場の同僚。新郎を少し良いなと思っていた程度だが、新婦の花嫁姿に嫉妬した。(嫉妬心小) 四人目、坂江卯子。新婦の友人の一人だが容姿に自信がなく、新婦を羨んでいた。(嫉妬心中) 五人目、楠理子。冒頭に出てきた真理の母。新郎の親戚。嫉妬理由は冒頭にある通り(嫉妬心小) 3『フィクサード』 アーティファクトを花嫁道具に混ぜたのは『幻の』ターシと言う名の女性フィクサード。 彼女は気配消しを使って披露宴会場に潜んで(姿を消している訳ではなく普通に参列者達と似たような服を着て紛れているだけです)事の経緯を観察していますが、リベリスタが乱入してきたらそそくさと退散しようとします。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月06日(月)22:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 常識の外にあるモノを見た時、人はそれを咄嗟には認識する事が出来ない。理解が及ばない。 突如として出現した鬼達を見た人々の認識には空白が生まれ、呆然と立ち尽くす。 振り上げられる鋭く尖った爪。けれど自らの友人が、部下が、そして母が、変わり果ててしまった其の姿を、人々は未だ危険と認識する事が出来ていない。 「ま、……ま?」 変わり果てた母親に、真理は叱られるとでも思ったのだろうか? 呆然と、恐る恐ると、母親であった鬼に向かって声をかける。 だが呼び掛けは突如飛び込んで来た影、『月刃』架凪 殊子(BNE002468)に遮られ、そして鬼達は其の鉤爪を振り下ろす。 次の瞬間、辺りを血煙が舞い、漸く我に返った人々の悲鳴が響き渡った。 鬼の爪にかかり倒れた人数は4名。最初の鬼の一撃に間に合ったリベリスタは仲間内でも随一の速度を誇り、尚且つ助けるべき目標を最初から定めていた殊子一人だ。しかし其の彼女も割って入るのが精一杯であり、出来たのは己の身を盾に少女・真理を庇う事だけだ。 真理を抱きかかえた殊子の背に歪な鉤爪がずぶりと沈み込む。 ● けれど駆けつけたリベリスタは殊子一人ではない。鬼の初動に割り込む事こそ叶わなかったものの、これ以上の犠牲は出させんと次々と鬼達の前にリベリスタ達が立ちはだかる。 大勢の人間が居る会場の中、リベリスタ達が的確に己が受け持つと決めた鬼の下へと速やかに辿り着けたのは、『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)が資料を読み込み、友人の席や親戚の席、同僚の席等の……つまりは鬼化する者達の居所を予め調べていた事と、『ぐーたらダメ教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)がハイテレパスを用いて仲間達の中継役を担った事、この2つがあったからこそであろう。 普段学校では『授業をサボってよいのは教師……私だけよ!!』とか言っちゃうかなり駄目なぐーたら教師の愛され名物な彼女だが、いざリベリスタの仕事となればその行動の冴えに翳りは無い。 勿論女性として、花嫁を羨ましい、妬ましいと思う気持ちが欠片もないと言えばホンの少しは嘘になってしまうが、そこはまだまだ自分の意思で自由を満喫しているんだと言い聞かせて自らを奮い立たせる。 そして、 「良いなァ良いナぁ羨まシーなー……。こんなに幸せ見せ付けられちゃうとォ……、みィんなぶっ殺したくなっちゃうなぁ!!!」 飛行状態となって天井近くまで飛び上がった般若面こと、『Trompe-l'?il』歪 ぐるぐ(BNE000001)が手に持ったライフルをぶっ放し、会場に設置されたスピーカーやテーブルの上のグラスを破壊していく。 其れは鬼と同じく非常識な存在ではあっても、一般の人にとってはまだ理解のし易い、恐怖の形。 恐怖を煽り、避難を促す為に行われた凶行だったが、しかし恐怖に対しての人々の反応は様々だった。腰を抜かしてへたり込む老婆。周囲の人を突き飛ばして出口へと一目散に逃げる男。抱き合って泣き叫ぶ幼い兄妹。パニックに陥り正常な判断が出来ず、火事場の馬鹿力を発揮し、孫達を守るために椅子を武器に鬼へと殴りかかる戦前生まれの老爺。 出入り口は我先に逃げようとする者達の押し合いで埋まり、会場内はパニックに包まれた。 けれどぐるぐは、唯一人冷静に、避難に参加はしながらも押し合いには巻き込まれぬ様に距離を置く一人の女に目をつける。まるで空気の様に気配の薄い其の女を発見できたのは、ぐるぐが超直観能力の持ち主であったが故だろう。 「ハーイ、スペシャルゲストさん発見ー」 そして獲物を見つけた狩人は、真っ直ぐに獲物に向かって急降下を開始した。 しかし全く関係はない事柄だが、怪人Qこと九十九の容姿が鬼よりもぐるぐよりも危険度が高そうなのはどうなんだろう。多分今回の真の黒幕は九十九さんです。 一方、仲間達とは全く違う動きをするリベリスタが一名。 パニックの中を通り抜け真っ直ぐ上座へと向かうそのリベリスタは、新婦の確保と角隠しの破壊を請け負った『Scarface』真咲・菫(BNE002278)だ。 異常事態の最中に近づいて来る見知らぬ人間、しかも顔には大きな傷が刻まれている、……を警戒した新郎が、新婦を守る為に立ちはだかる。 大事な物を命懸けで守ろうとする新郎の反応に、長期間の絶食してまで抱卵を行うコウテイペンギンの雄を思い起こされた薫は僅かに口元を緩める。タキシードを着たペンギン。うん。悪くない。 ふうわりと零れた薫の柔らかな微笑と、自分は助けに来たんだと言う説明に新郎新婦が緊張を緩めた次の瞬間、二人の目を覗き込んだ薫は『魔眼』を発動させて2人を眠りへと誘い、そして優しく落とす。 新婦の鬼化と言う最悪の未来だけは避ける為に。 ● それぞれ己が担当の鬼と相対したリベリスタ達の共通した基本方針は、角隠しの破壊によってエリューション化が解除される事に一縷の望みを託して、鬼達を傷付けずに引き付ける事。 まず最も危険度が高いと推測される、強すぎる嫉妬心を抱えていた倉本鹿波の鬼化したエリューションの前には、自らの影をサーヴァントと化した『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)と、防御力と耐久度に関しては他の仲間達と比べても文字通り桁一つ外れている『星守』神音・武雷(BNE002221)が立ち、次いで危険度の高い新婦の同僚である榎本貴志子が鬼化したエリューションには、可能なら全員助けたいと切に願う心優しき『寝る寝る寝るね』内薙・智夫(BNE001581)が相対する。 「まさに嫉妬の鬼、こわいです。ゆめにでてきそうです。ああ、こわいこわい」 心底怖そうに震えてみせる九十九は、だが其の姿も相俟って挑発しているかの様にしか見えない。そして其の挑発を受けるのは、鬼と化した蒔田しずる。 そしてソラが坂江卯子の鬼を抑え、真理の母である鬼となった楠理子の前には一番最初に飛び込んだ殊子が居る。 角隠しが破壊されるまでの間、鬼達を傷付けずに、被害を防ぐ。救える可能性があるのなら、傷付くを恐れず可能性に賭け、奇跡を信じ、奇跡を起こさんとする。 彼等の志、心意気、覚悟は、正に運命に愛された物語の主人公たるに相応しい物だ。 けれどその志に比して、状況の厳しさへの認識は圧倒的に足りていなかった。 飛行状態からの飛び付きタックル、そこからすかさず放たれたトラップネストは狙い誤らずフィクサード・幻のターシに命中する。 「wao、大胆ダネ。Japanのリベリスタ。ハジメマシテ? アタシはターシ。幻のターシ」 しかし唯の命中だけではトラップネストは其の真価を発揮出来ず、タックルを受け止めるかの様にぐるぐの身体にターシの腕が回される。 そして其の腕から、抱き締められた身体から伝わって来るのは、見掛けとは反してゴツゴツとした……そう、男性の身体。 「何ダカ便利な能力も持ってるネ。デモ君のソノ力が必要なのハ、本当はアッチじゃナイのかナ?」 突いた藪から出てきた蛇は、ぐるぐに絡みついた腕に力を込めて耳元で囁く。 ● 「気をしっかり持ってください」 鬼に対して、まるで願うように、励ましの声を投げかける智夫。 一般人を傷付けさせない為に鬼の前に立ち、更にはその鬼すらをも救いたい。例え鬼の姿をしていようとも彼女は人だったのだからと智夫は願う けれど、その想いに反して、最初にガードを突破した鬼は、智夫が担当する榎本貴志子だった。 鬼達の狙いは新婦、もしくはそこらに居る無力な一般人達だ。鬼側からしてみれば無力でも無いが、攻撃らしい攻撃もして来ないため脅威でもないリベリスタを相手取らなければならない理由は何処にも無い。 また相対する組み合わせの中で、一番負担の大きかったのが2番目に脅威度の高い鬼を一人で相手取らなければならない智夫だったのだ。 進路を塞ごうとする智夫を、自分を救いたいと願う智夫を無視して避け、鬼は別方向に居た無力な獲物の元へと駆け、その曲りくねった凶悪な爪を振るう。 そしてもう一人、真理を抱きかかえた殊子が力尽きようとしていた。 他のリベリスタ達とは違い、殊子は一人だけ鬼にとってターゲットとなりうる無力な者となっており、それが故に鬼の攻撃を浴び続けていたのだ。 本来殊子は、真理を救い出した後は別の参列者に預けて鬼と化した母と対峙する心算であったのだが、……けれど母を求めて泣く真理は頑なにその場を動こうとはせず、そして他の参列者も鬼や銃撃に怯えてパニック状態になっている。そこへ真理を預けに行く手間をかけようとしようものなら、鬼は間違いなくその間に他の獲物を殺して回るだろう。 結果、殊子に出来た事は唯一つ。鬼の攻撃を、真理を抱えている為に防ぐ事すらせずにその身で受け続ける事だけだった。 一度は限界を超え、崩れかけた膝を気力で運命を揺り動かして耐えた殊子も、執拗に、嬲る様に続く鬼の攻撃に、ついには真理に覆い被さる様にして自分の身体で庇い、地面へと倒れ伏す。けれど力尽きて倒れた後も殊子が真理の身体を抱えた腕は緩む事は無く、それが故に真理は命を失う事なく事件の終わりを迎える。 ● 枷を振り切った2匹の鬼は殺戮に走る。けれど、其の時漸くリベリスタ達に反撃の狼煙が上がる。 サイレントメモリーで角隠しの記憶を読んでいた菫が、読み取れた断片的な情報の中に有効な物を見つけられなかった為に、一か八かで角隠しの破壊を試みたからだ。 その結果、矢張り大方の予想通り一度エリューション化してしまっていた鬼達は元に戻る事は無かったが、それでも最悪の事態であった新婦の鬼化は成されなかった。 立ち上がった菫の放つピアッシングシュートが殊子を倒した鬼に突き刺さる。そして鬼に追いついた智夫が悲しみを込めて式符・鴉を放ち、ハイスピード状態となったソラがマジックミサイルで相対する鬼を穴だらけにしていく。 九十九は鬼vs怪人と言う異色の対決を優位に進めているし、ブラックジャックを放った鉅と、それに合わせる武雷のヘビースマッシュは鬼の中では最強の固体であった鹿波すらも怯ませた。 そこからの戦いの展開は、非常に早い物となる。 弱い固体から集中して叩くと言う戦いの方針が、殆どの参加者が遠距離攻撃を所持していた為に可能となり、そして武雷の桁違いの防御力と耐久度を活かして仲間達を庇い続け、その勝利を磐石の物としていく。武雷に付けられた傷も、智夫の傷癒術が直ぐに癒すため大事に至る事も無い。 九十九のショットガンから放たれる精密射撃1$シュートが、ハイテレパスで連携を強化するソラの放つマジックミサイルが、菫が投げるスローイングダガーが、集中して次々と鬼を打ち砕いていく。 そして最後に鉅の放った一撃が鹿波の脳天を貫き、 「やれやれ……新郎の気遣いのせいでこのザマとは、人間関係はやはり面倒だな」 僅かに目を伏せた鉅がタバコを取り出し口に咥える。そして倒れ伏した鬼のエリューション。 「……ヲヤ?」 あまりに早い速度で戦闘が終わった為、呆然として逃げる機会を逸したターシに何時の間にか抜け出していたぐるぐがライフルを突き付ける。 「ターシば言うとったな……きさんは許さなか……」 怒りに震える武雷の拳が近くにあったテーブルを粉砕する。 けれど押さえきれぬ怒りと無力感に苛まれながらも無抵抗に両手を挙げてぶるぶると首を横に振るターシを直接殴らなかったのは、武雷が武人であったが故だろう。 何時までも披露宴会場に居るわけにも行かず、捕まえたターシを連れて撤退していくリベリスタ達。 そしてターシの処遇はアーク本部へとゆだねられる事となる。 「嗚呼、怒らないでヨ。ターシはね、唯Japanのビューティフルなogreを見たかったんダ。夜叉? 般若? 嫉妬、妬み、情念!」 アーティファクトはマーケットで購入した等とほざくターシに対し、向けられるのは怒りに満ちた目、冷め切った目、様々な感情を込めたリベリスタ達の目に見送られながら、ターシはアークに連行されていく。 けれど、それでもターシはリベリスタ達を振り返り、 「デモ、君たちとハまた遊ビたいネ。絶対に、また、何時か、ネ」 その後に残されたのは、晴れぬ想いと、出すぎた犠牲の後味の悪さ。 それでも、救いがあるとするのなら、2つ。 1つ目はあの新郎新婦なら、例え披露宴が滅茶苦茶になろうとも、寄り添い守り合い、乗り越えて生きて行くだろうと言う確信。 2つ目は本当ならば母の手に掛かり死ぬ筈だった少女が生き残れた事。母が、娘を殺す悲劇が回避された事。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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