●君に送る夏の一時 ――波の音が聞こえる、鼓膜を擽る静かな音。 時村家の所有する島。特務機関アークから戦士達に与えられる夏休みのお知らせだ。 プライベートビーチやら豪華客船やら金って偉大なんだと思い知らされるそのスケールの大きさ。 「つまりは今年も南の島で福利厚生、ってことらしいの」 手にした紙をぴらぴらとさせた『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)が笑う。 「夏休みって、素敵よね? ――ってなわけで、レッツバカンス!」 いぇあ! だなんて何処かの魔女様のまねをしたフォーチュナ(23)は楽しげに笑った。 ●夏によく或る××× 「――って噂があってね」 静かに囁く世恋『愛しのお姉さま』こと『導唄』月隠・響希(nBNE000225)の声。 プライベートビーチから離れた裏山。昼間は登山道に為っており、安全なその場所。 少し奥まって、草木に隠された小さな道がある。其の奥――小さな祠があるらしい。 「まあ、幽霊がでるとかそういうモンらしいのよ……世恋?」 「おおおお、お化けがでるの、そそそ、そうなの、あの、あの……」 ――響希から聞いた『幽霊の噂』。 草木に覆われた小さな道。狸やら小動物は出るだろうがそれ以外には安全な道。 その道の途中には朱の禿げた鳥居や小さな地蔵、祠があるらしい。 鳥居を通り過ぎると足音が聞こえてくる。 ザッ、ザッ―― 祠に小さな鈴を置いて振りかえると其処には真っ白な着物の女が立っていて笑うらしい。 『――――』 「ぅぎぃゃああああっ! お化けとか居ない居ない、ぉっお姉さま、今日は寝るまで話しましょうね」 ひい、なんて声を上げて泣き出しそうな顔をした月鍵嬢(23)から一つのお願い。 お化けが居るかどうか確かめるついでに肝試しで楽しんじゃえ! 怖いから普通の鈴じゃなくて(´・ω・`)の鈴を置いてきましょうね! 「あ、そうだ、貴方……。お化け役やらない? どうせなら、そっちのが面白いでしょ?」 それじゃ、夜集合ね、とフォーチュナは微笑む。自分が絡まないとなるとフォーチュナは元気だった。 「世恋も行ってらっしゃい」 「ふぇ? ――えっ!?」 つまり『世は無常』と言うことで、ここはひとつ。夏によく或る背筋も凍る『怪談』を―― |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月03日(月)22:34 |
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● 歩むのは細い道。周辺は茂る草木で月の光もあまり入らない。 がさ、とか細い音をさせて現れた小動物の動きでさえも、何処か恐ろしい者の様に思えた。 朱の禿げた鳥居を潜り、小さな地蔵の並ぶ小道を上がっていく。不格好な石段をゆっくりと登る。 かつん、かつん、ザッ、ザッ―― 握りしめた鈴がちりん、と鳴った。 息が漏れる。石段を登るのは意外と体力がいる作業なのだ。 「此処におけば、良いんだよな」 そっと祠に鈴を置く。 安心して振り返ったその先―― 『―――』 にんまりと笑う白い着物の女が、立っていた。 ● ざあ、と静かに草木が揺れる。(´・ω・`)をイメージした提灯に火をともし、リベリスタ達は集合する。 「まあ、皆、聞いてくれへんかな?」 そっと、語り始めるのは三高平大学オカルト研究会の部長たる椿、その人だ。 集合した参加者一同にゆっくりと語るのはフォーチュナ達が噂していた『幽霊』の話し。 「昔はこの島、漁の時期だけ使用される半無人島やったんよ」 囁く様に語る彼女の声に驚かす役割であるミーノがうっすらと涙を浮かべた。 「ある年のこと、一人の女性が忘れられてもうてやね……」 まあ、と小さくスペードが声を上げる。その結末を想像してか可哀想にね、とティアリアは呟いた。 「暫くはなんとか生活しとったらしいけど、食糧も満足にとれへんせいで、次の年まではもたずに……」 椿の声はゆっくりと、囁く様に鼓膜を叩く。少しだけまおの顔色が変わった。 「その女性を供養するためにお地蔵さんがやね……」 そっと、囁く様に、響く様に。 ちりん、と彼女の手の中で鈴が鳴る。 「人の来訪を告げる鈴の音が聞こえると、その女性が現れる様になったらしいわぁ」 ちりん、ちりん。 ――自分を忘れた者へ、恨みを晴らすために。 「よくも、忘れたわね」 「ッッッ――――!!!?」 背後から風の音に紛れる様に声がする。びくりと肩を跳ねさせた竜一やエリスの後ろで黒い兎耳を揺らし疾風は笑った。 道化師たる少年は驚きを提供できたことに満足を感じにったりと笑っている。 ちりりん、風の音で鈴が鳴る。 「それじゃあ、始めましょうか」 真っ青な顔をした予見者は静かに囁いた。 ● 小さく鼓膜を打つのは風で揺れる木の葉が擦れる音。 「わざと脅かすのは駄目だからね?」 人が何度か通った為にそこだけ草が生えていない山道。まるで、此方よと手招く様な小さな小道を未明はオーウェンと歩む。 常日頃エリューション等と戦っている未明はオカルト耐性は付いている筈だと自負している。けれど、行き成り驚かせる系統には弱い。 隣に居るオーウェンは悪戯好きだから絶対に何かしてくると未明は予想している。お化けの類を見たって彼自身は科学全般を考える為に驚かないしむしろ興味深いと観察しだすだろう。 ――ちりん、ちりん。 彼女の握りしめた(´・ω・`)鈴が揺れる。 「ばあ」 頬に当たるこんにゃく。ばさりと上から降ってきたのはシーツを被ったアンジェリカ。 曰く、カップルを狙った犯行だ。夏休みの自由研究に「お化けを見た時のカップルの行動」としてまとめようと言う。愛の知識欲。業が深い。 びくりと肩を揺らす。驚きに、そっと手を握る。 「ッ――!?」 「ん、大丈夫かね? 怖くなったら抱きついても良いのだぞ?」 ちりりん、と鈴が音を鳴らす。驚き、絡めた腕。からかう様に言えばきっと強気な未明は意地を張るだろう。 そんな所が愛らしいのだが。 驚いている彼女が他の物に気を取られているうちにそっと首筋に触れる。あらかじめ冷やしておいた指先にぞわりと肌が粟立った。 「ちょっ……とっ!!?」 大げさなほどに肩を揺らし目を見開いた未明は塞がった両手の代わりに足がでる。近くにいるせいで避けきれないオーウェンに彼女の蹴りが炸裂する。 「はっ、あ、ご、ごめんなさい……」 ちりりん。静かに鈴は鳴っていた ――因みにアンジェリカだが、ラジカセで音声を収録している。 彼女は愛の為に真剣だ。スキルを使われたって行動を知るためには何のその。倒れても立ち上がり驚かせよう。不屈の精神だ。 血だらけの方が効果的だろうとほくそ笑む。 まあ、自由研究をまとめる体力が残るかどうかは保証し兼ねるのだが。 一方、祠の前ではティアリアがじっと立っている。 暗がりで鉄球を持って立っているだけでも怖がりそうだけれど芸がないし、茂みに連れ込んだりすると後で怒られるかもしれない。 ティアリア先生は悩んでいた。驚かせ役は何が一番面白いのだろうか。 ふと、浮かんだのは鈴を受け取った後に驚かす。最後の関門とでも言ったところだろうか。 「ふふ、意外と面白いかもしれないわね」 ちりりん、ちりりん。 傍で氷璃も面白い事が浮かんだと笑う。祠の鈴を置く場所は誰もが安心しきって油断しているだろう。 受け皿の式神を置いておいて隙をついて噛みつかせようではないか。 「……ふふふ」 勿論噛むタイミング等は徹底する。隠れた場所で其れを見守って、楽しまない筈がない。 何周か回るというフォーチュナの為に何種類かネタを用意しておこう。 受け皿に飴を入れて、その中に飴に憑依させた式神を射れるだとか、小さな地蔵の隣にもう一つ地蔵の式神を用意しておくとか。 虐めて、あげましょう。 「暗いからはぐれないようにね?」 声を掛けた快にスペードと愛音は頷く。 愛音の左手はスペードと繋がり。右手は快の服を掴んでいる。男たるもの先頭を行く、と快はゆっくりと歩いていた。 普通の肝試しならば大したことないとも思える。だが、此れはリベリスタの肝試しだ。神秘盛り盛りでお送りしている。 愛音、お化けは怖くない!と目を輝かして言ったものの、怖い。 あの手この手を使って驚かしてくるリベリスタに愛音はスペードの手をぎゅっと握った。 「スペード殿~ッ! 手を離しちゃダメでございますからね!?」 駄目、駄目、嫌よ!と彼女は繰り返す。 「快殿は安心と信頼の守護神でございます!」 守護神ならお化けが出たって怖くない。前は任せた、とでも言う勢いで愛音はその背中を見上げる。スペードも頼もしいですね、と優しく微笑んだ。 ばあ、と飛びだしたアンジェリカに息をのむスペードと叫び声を上げる愛音。少し肩を揺らした快は笑う。 「そりゃ、行き成り来ると驚くよ」 お化けは平気だけどね、と彼は後ろを振り向く。ふと、そんな三人の鼓膜を茂みを分ける様な音が擽った。 ガサガサッ―― 「怖くなんて怖くなんてこわあああああああッ!?」 「ひぁ……っ!?」 「ひぃっ!?」 叫び声を上げた愛音と本日はお姉さんで『お化けに動じない大人な私』であった筈のスペードが小さく驚く。 ――何だか、他の叫び声が混ざっていた。こう、聞き覚えのある様な……? 勿論その筈。茂みから出てきたのは彼女らの友人。 「せっせっせっ世恋殿でございましたか!」 「あああ、愛音さん!」 もはやスペードに抱きついた愛音の目の前で半分涙目の予見者。共に行こうと誘えば彼女はこくりと頷いた。一人より二人、二人より多数だ。 「もし、宜しければ手を繋いで歩きません?」 決してお化けが怖い訳では、と慌てるスペードの右手に愛音、左手には世恋。女性陣揃って怖いものは怖かった。 華やかな面々だなと快は小さく微笑むものの、そこでふと、思い当る。 「ところで、前は最初に俺が引っ掛かるから平気だろうけど、後ろからは?」 女性陣の顔色が変わった。抱きつかれるなら役得だし、殴られたら役回りだから納得するけれど。 あからさまにおびえた表情の彼女ら三人を連れてゆっくりと石段を登る。遅すぎず早すぎず、女性陣に合わせたペースであるのがこの守護神の優しさだ。 ――ちりん。 小さく音が鳴る。愛音の手に握られたものとは別の、古い鈴。 「スペードさん、其れは?」 「この鈴は、お友達の物です。夏になりたいと、都市伝説になりたいと願ったお友達の」 その声に、あ、と予見者は小さく呟きを漏らす。彼女の視た夢。 ――ちりん。 鈴の音は風流だ。そっと鈴を置いたスペードの横顔を見つめ、良い思い出なのだと愛音は笑った。とても綺麗な表情だったから。 「じゃあ、そのお友達は着物の女の子と仲良くなるかもしれないね」 そうですね、と微笑む。嗚呼、大好きな皆と一緒。愛音の楽しい思い出が心のノートに1ページ記述される。なんて、幸せなのだろう。 今年こそお化けを克服しなくちゃ、と意気込んだアルメリアは入り口でぼんやりとしていた予見者の腕を引く。 「一人で行くの、怖いの……お願い世恋ちゃん、一緒に行って頂戴!」 「え、ええ」 私でよければ、という予見者たる彼女も実は幽霊は大の苦手。(そして二週目) 折角可愛い子と共に行けるのだしドサクサに紛れて抱きついたりできないかな、なんてアルメリアは邪な思いを抱える。 ――が。 目の前の大きな箱。煌びやかで、明らかに開けて欲しそうな箱。 『開けても良いけど、やっぱり開けちゃダメ☆』 だなんて看板があれば開けたくなるのは人の性。 そっと近寄って開けてみる二人の目の前にずるりと出てきたのは血みどろな腕。その腕はがしりとアルメリアの手を掴む。 「きゃあああー!?」 なんちゃってセクハラは叶わない。彼女はそれどころではない位に怖かった。そんな余裕はなかった。 慌てて走る。怖い、今のは何だろう。怖い。 実のところアレは特殊メイクを施した疾風の腕。中々人が開けてくれないのでフテ寝しようかとも考えていたところだった。 道化は怖いものではなく驚きを提供。これぞ、彼のポリシーだ。うふふふ、なんて笑った彼を置いて少女達は石段を駆けあがる。 「は、早く鈴置いて帰りましょうよっ!」 「ど、同感早く帰りましょう!?」 二人揃って、怯えた声を出し、鈴をそっと置いた。 だが置く場所には何か他の物がある。独りでに鈴が動く。 「ッッ――!?」 「ああ、あら……」 もう少し苛めたいけれど、涙を浮かべて俯いた二人の頭を影で見つめていた氷璃は撫でる。 「氷璃、さん?」 「式神よ」 ね?と受け皿を手にして笑う彼女にアルメリアと世恋はほっと胸を撫で下ろす。 嗚呼、何だか凄く勿体ないとアルメリアは思う。早く苦手な者を克服しないといけないなあ。 其れが何時になるのか――其れは誰にも解らない。 ちりりん、手の中で鈴が鳴る。 「きゃー怖いねぇ」 棒読みではあるが、雰囲気は十分だと頷く。隣を歩く慧架の肩から下げたクーラーボックスががこんがこんと鳴った。 「どうよぉ、慧架ちゃん、怖いぃ?」 「うーん、驚かす側がリベリスタって分かってますし」 エリューションと戦った事がある身として、怖い事はないかな、と首を傾げた。 その答えにからからと御龍は笑う。 「あたしは、まぁ、これでも元巫女だからねぇ。お化けなんて怖くないよぉ」 「視線や、気配で分かりそうですね」 「うんうん、気配とかで大体つかめるよねぇ」 怖いものなんてないのだ!と笑いながら、彼女の中に入っている因子を表す様にがおーと狼の振りをする。 がこん、とクーラーボックスの中でペットボトルが揺れた。 「慧架ちゃん、其れ何ぃ?」 「ああ、紅茶ですよ」 暑いですし、皆さん喜ぶかな、なんて。 回り終わったら分けあいましょうね、と彼女らは微笑みあった。 「ってか、此処こえーな!? やべーな!? 暗いな!!」 怖い、やばい、暗いと揃ったその場所で俊介は隣の葬識を見る。 やったね☆俊介、おっきーと一緒だよ!――何て言ってられない。 肝試しは驚かす側のスペックで決まってしまうのだ。ならば此処はお化け役たる自分は気合を入れるしかない、と視線をずらすとハサミがこんにちは。 葬識ご自慢の『逸脱者のススメ』が其処にあった。なんたって殺人鬼。 茂みに隠れる彼らの前にはレイニード。 実の所、肝試しは初めてであるレイニードは緊張に身を強張らせた。ふう、と息を吐いて握りしめた鈴を眺めた。 ちりん、 「……なんで形が(´・ω・`)なんだ?」 どりん。(´・ω・`)。意図せずにも其処にあった(´・ω・`)の鈴。 首を傾げながら森の道を歩く。夜風が髪を擽った。 彼の目の前にフードの少年がゆらりと現れる。だがレイニードは反応しない――そしてもう一人、葬識がこんにちは。 「首おいてけぇ~☆」 「!?」 息が詰まる。想像以上に驚いてしまったレイニードに葬識は迫る。その目は割とマジだ。 「もう本気でおいてっちゃおうか~? 一人くらいリベリスタ居なくなっても神隠しで済ませれるよね~☆」 なんたって、肝試しだし。 ぞわ、と肌が粟立つ。アークに来て間もないレイニード、神隠しのピンチである。 「いやいやいやいや、殺さんといて!? せめて不殺に抑えて!!?」 がさぁ、俊介もこんにちは。何時も通りと言われれば其の侭だが彼の隣の人はかなり危険であった。 「っていうか武器しまえよ!」 とか言いつつ彼は花染を取り出す。お兄さん、其れも武器です。回復スキルは俺に任せろ状態が此処に形成され――たら殺される。本能的危機にレイニードはダッシュ。 「あ、そっち方面祠の方じゃないよ~☆」 「ええええええっ!? 俺には反応さえしてくれないのに、おっきーで逃げるんスか!?」 何だろう悲しい。 哀しいけれど、此れを次に生かそう。葬識はにたりと笑った。 「霧島ちゃん、次は逃がさない様にしてねぇ~☆」 折角だからどんなオバケが居るのだろうとユーヌは周囲を見回しながら進んでいく。 勿論、吃驚ボックスこと疾風やシーツを被って現れたアンジェリカには出会ってきた。 そんな彼女を狙う怪しい影がある。 「声を掛けるからバレるんだよね。確実に仕留めるんらそっと後ろに……」 「いや、駄目だろ!?」 「何で止めるの」 サクサク進む彼女の耳に小さくがさがさという音が聞こえる。 「……ふむ、気の所為か」 気の所為じゃないです、それ、殺人鬼です、ワリとマジでヤングな殺人鬼さんです。 無表情のままじっと見つめる。お化け屋敷に行くと彼女は常に白けられる事が多かった。霊感もないし気のせいだろう。 ――じゃき~ん、じゃき~ん……。 「ああ、ごっめ~ん☆ 本気で殺しそうになっちゃってた☆」 なんなら、代わりに霧島ちゃん殺される? ハサミが俊介に向く。 がさがさという音にユーヌが顔を上げた。 フードをかぶった俊介と葬識が茂みからこんにちは。 「……ふむ、びっくりだな」 無表情のまま彼女は驚いたふりをする。なるほど、驚かすのはこうやるのか、と彼女は頷いた。 否、実際はお化け役として楽しんでいた二人だが殺す殺されないの鬼ごっこの最中だったのだ。 彼らは止まらない、止まれない。ばたばたと走る俊介の後ろで首切りハサミを振り回し、大騒ぎの鬼ごっこ。 「なんか俺が殺される方向にもってかれている!! やめえええいっ! 俺はこれからお前の殺す何百何千の一番最後に殺せ!」 じゃき~ん、じゃき~ん……。 のんびりと祠に辿りついた彼女だが、気になるのはお化けではなく、何を祀っていたか。 開始前に椿が言っていた通り女の霊を祀っているのか、はたまた別のものか――。 ざっ、ざっ―― 足音が、する。 ゆっくりと振り向いたその先にいたのはレイニード。 「只の後続か……」 さあ、長いし過ぎたから帰るか、と彼女はのんびりと折り返しルートに入る。 「……あれ? 見間違えか?」 確か、ユーヌともう一人、女がいた気がするのだが、とレイニードは小さく首を傾げた。 ぜいぜいと肩で息をするフォーチュナは其れでもお声がかかれば何度だってその道を巡る。 何度歩いてもその道は怖い。 「世恋、世恋、一緒に行きましょう?」 こてんと首を傾げた羽衣は怖がりな予見者と手を繋ぐ。 震える白い指先を繋ぎ、笑う。大丈夫、恐くないわ。 ゆるく巻いた黒い髪が、静かな夜に溶け込む様で。 「ねえ、世恋。お話ししていた方が怖くないでしょう?」 羽衣とお話ししましょう、と彼女は少女の様に微笑んだ。その言葉に世恋も頷く。 ちりりん、彼女の手の中で鈴が鳴る。 「あのね、羽衣もね、お化けはちょっと怖いわ」 小さく微笑みながら羽衣は語る。でこぼこ道をゆっくりと、足元を確かめるように歩きながら。 「ああ、でも、絵本に出てくるちっちゃいお化けは可愛いわ! 世恋は、どう思う?」 「絵本のお化け、は可愛いわ。でも、やっぱりお化けって怖いわね」 でも、一緒なら安心ね、とぽつりと漏らす。 ずるり、黒装束の少女は降ってくる。肩を叩かれて振り向けば、彼女は木の上に登り、其の侭走って行ってしまう。 「ッ――!?」 突如現れた天乃に羽衣は握りしめた手にぎゅうと力を込めた。 「……吃驚しちゃった、世恋は大丈夫? ……世恋?」 ちらりと伺った先、目を見開いて茫然と口を開いた予見者。羽衣はそっと彼女の肩を揺らした。 「ねえ、世恋?」 フリーズしてしまった様だった。 ちりん、ちりん。 そうっと置いて立ち上がる手前、その手に何かががぶり。 「ッ!?」 さっと手を引いた羽衣の目の前には小さな式神。遠くで押し殺した笑い声が鼓膜を擽った。 「さ、早く帰りましょう」 鈴が怖いのよね?と伺うと何処か微妙な表情を浮かべて世恋は頷いた。昔予知した出来事にそんな幽霊がいた、なんて。 手を繋ぎ、帰り路を歩く。 「ねえ、また遊んでね」 ぽつりとつぶやかれた言葉に世恋は微笑んだ。ええ、喜んで。 興味本位だった。好奇心が勝って参加してみたけれど、やっぱり怖い。 石段を登るまで、沢山のリベリスタ達と出会ってきた。 「皆……本気だわっ!」 「は、ははは、ヘルガさん怖いんですかーしょうがないなー」 じっとヘルガの目がヘルマンを見つめた。その目からそっと目を逸らす。 「い、いや、わたくしは全然怖くないんですけどね。所詮作りものですよ作りものははは」 \突然の梟/ 「ッッ――うわぁーッ!?」 ヘルガの腕に飛び付いたヘルマンにヘルガも大げさなほどに肩を揺らす。二人の間に、流れる微妙な空気。 「……」 「大丈夫……?」 二人揃って、顔を見合す。嗚呼、何だろう。とても、複雑な気持ちだ。 ちちりん。 祠までたどり着いた二人はゆっくりと鈴を置く。ザッザッ―― 「……え?」 振り向いたその先、紅い唇を歪ませて、笑う着物の女。 二人揃って全力で駆けだした。怖い、何だ、あれ、怖すぎる。にたりと笑う女がやる気あり過ぎて、言葉に表せられない。 露骨なほどに感じた恐怖に走り出すヘルマン。その後ろをヘルガが走り出す。何故かキッチンから持ってきた食塩を全力で撒いている。 「ウワアアアーちょっまっまって怖い怖い怖い絶対やりすぎあの幽霊役の人あとで土砕掌するマジで覚えてろ」 「い、今のまるで本物ッ――ひゃ!?」 ずしゃ、とヘルガは石に躓く。走りながら撒いていた食塩がずしゃ、と道に広がった。一面真っ白に倒れるヘルガが涙目に為りながらも手を伸ばす。 「ま、ま、待って、ヘルマンさんっ」 「ウワーッなにしてるんですかヘルガさん大丈夫ですか」 「こ、腰が、ぬ、抜け……」 ふるふると震える彼女を抱きかかえて出会ったことのない強敵から逃げるようにヘルマンは走る。オリンピックの陸上競技でも見れない様な走りだった。 これぞ、リベリスタの本気。袖口や掌に食塩をつけながらも抱えられたヘルガは背後を見ない様にとヘルマンに捕まる。 ちりん、ちりん。 「ウワアアアアアア」 ゴールが、何故か遠く感じた。 \突然の水曜日スペシャル!!/ さあ、本日の特集は『恐怖! 妖怪・ガチで物理的に口が裂けてた女!! ~三高平に都市伝説は実在した!!~』である。 ずぎゃーんという効果音と共にベルカは顔をライトで下から照らし陰影によって怖い顔をする。 基本は恐怖の鉄板で或る。狙いは其の侭照らして「ウラーめしやー!」とすること。 何人か驚かしてきた彼女だが、正直これでご満悦だ。 何せ本物の手術痕だ。肝試しで活用するなんて手術した医者も、ベルカ本人も思っていなかったが用意するのは懐中電灯だけ。浴衣は自前の物を持っていたから、安上がりであった。 足音がする、彼女はそっと、茂みに隠れた。 愛しい人と歩くなら、お化けなんて怖くない。 「だ、だいじょうぶ、怖くないです……」 ふるり、と震えながらもニニギアはランディと暗がりを歩んでいく。 怯える彼女が可愛くて、安心できる様にとしっかりと彼女を抱き寄せた。 「怖くない、怖くない」 「はい、こ、怖くないです」 ふう、と落ち着いた様に笑った彼女の足取りは其れでも重たい。そっと掴んだ彼の裾が皺になってしまうのも気にしない。 彼がいるだけで、安心できる。 「流石はリベリスタ、凝ってるなぁ……」 「けど、案外怖くな――」 微笑みながら彼女の頭を撫でる。ぶらん、とぶら下がるこんにゃくがニニギアの頬を撫でた。 ひ、と声が詰まる。急に冷たい感触が頬に降りてきたことに驚いて彼女は眼を見開いた。 「ひゃぁあ!?」 ぎゅ、と腕にしがみ付く。彼女を安心させる様にぽん、と彼は頭を撫でる。 「あんまり怖がらせたらブチ殺すから安心しとけ」 あまりにドスのキいた声であるから茂みが怯えたようにガサッガサッと揺れる。 「ウラーめーしー!」 「ひゃあ!? い、今のは異様にリアルすぎると思うの! い、いい、一体中身誰よ……!」 「今のは中身は実は……」 ベルカだな、とからかった所で第二の刺客が現れた。 ガサッと草木を揺らして飛びだしてきたのは気合十分の俊介だ。 「きゃあ!?」 涙目になって彼女がふらついた先、とん、と肩をぶつけたのは葬識。フードをかぶってハサミを持った彼にニニギアは大げさに肩を揺らす。 彼女の目に涙が浮かぶ。もはやパニックだ。慌てて打ち出そうとしたマジックアロー。 「わぁ~☆」 「ダメダメダメッ!? やばいやばい!」 逃げるぞ、と走り出した彼ら二人へと矢を向けているニニギアを抱き寄せる。パニックになっている恋人は其れでも落ち着かない様で涙を浮かべながらも攻撃態勢を崩さない。 「ニニ」 名前を呼んで、唇を重ねる。ぴたりと動きを止めて、大人しくなった彼女をぎゅっと抱き寄せた。 「よしよし、落ち着いたか?」 「ちょっと、怖かった」 ぽそり、呟いた言葉。素直に白状したニニギアもぎゅっと抱きつく。嗚呼、なんて安心する温もりだろうか。 普段ならもっと『怖い』場所へ、戦場へ行くのに。これはこれで怖いからシャレにならない。 「戦場のが怖いかもしれないが、素直に驚ける場もいいもんさ」 それに、と腕の中にいる恋人に小さく囁く。ニニの可愛い顔が拝めたし。 「ほら、一緒に(´・ω・`)の鈴を置きにいこう」 頷いたニニギアとランディは指を絡める。彼らの掌でちりりんと鈴が小さく鳴った。 ● 共に廻ろうかとも思った。リオンが参加しようと訪れてみると目当ての人物は他の人間と幾周か回っている様だった。 「怖いもの苦手、という割にはこういうことを企画するんだな」 怖いもの見たさか、それとも彼女の敬愛する先輩が唆したのか――実のところ『お姉さま』も怖いものは苦手である。 恐怖は共有すれば薄れるという意図のもとでの行動であったし、楽しそうだからという単純な理由だが同行することになるだなんて予見者も考えては居なかったのだ。 ゴール地点――ぐるりと回るので丁度入り口部分で彼は帰りを待っている。 「や、おかえり。……今まで何往復してきたんだ?」 羽衣と手を繋いで、涙を浮かべながら帰ってきた予見者は開いた片手で回数を数えている。数は多い。 「……そいつはお疲れさんだ。紅茶でも飲んで落ち着くといい」 「あ、ありがとう」 椅子の代わりに、平らな大きな石に腰かけて。魔法瓶にたっぷりと入った紅茶は程良い温度であった。 嗚呼、のんびりと彼女の相手をしているだけでもいいかな、と考えた矢先、世恋、と予見者に声がかかった。 「世恋、真っ白な着物の女なんてみなかったぞ」 座っていた世恋にそっとレイニードは声を掛ける。居なかった、と告げた彼だが、その言葉に怪談を思い出してか予見者は真っ青になった。 「あ! いや、怖がらせるつもりはねぇんだ……」 悪い、とぽそりと呟かれた言葉に予見者は慌てて立ち上がる。大丈夫、教えてくれてありがとう、と。 わいわいと巡ってきたリベリスタ達がその感想を口々に話している。その中でも、ついさっきゴール地点に戻ってきたであろうニニギアがそっと駆け寄る。 「世恋ちゃん、怖かったねえ」 「そうね、とっても」 やっとゴールできた、と胸を撫で下ろすニニギア。 それにしてもゴールした面々は何処のお化けが怖かった、なんてことは言わない。ネタばらしがないと今から回る面々は更に恐怖心がふつふつと湧き上がる。 談笑していたヘルガの顔色がさ、っと変わる。 「ねえ、ヘルマンさん。最後の――……」 「最後、ああ、いやあ、大したことはなかったと思いますよ。最後のにはひやっとしましたけど」 「その最後、……あの、聞いちゃったんだけれど」 最後、あんな所にお化けなんか、否、誰もいなかった。 その言葉にヘルマンの顔色が変わる。え、と小さく声が漏れた。ヘルガの体がぶるりと震えた。 「……は、早くお家帰って暖かい物でも飲みましょう! ねっ!」 最後に見たものとは、果たして――? 「月鍵、行けたらと思ったのだけど……だ、大丈夫かい? 何周もしているように思うんだけど」 「大丈夫、ご一緒しましょう?」 探したよ、と歩み寄ってきた遥紀は帰って来ては出ていっての様子のフォーチュナの頭をぽんと頭を撫でる。 優しい友人の気遣いに世恋は嬉しそうに微笑む。お誘いいただけて光栄だわ、と。 「がんばって来いよ?……人気者だねぇ」 ぽつりと呟いた。リオンからすれば行って驚いて、戻って行っての繰り返しだと予見者も困憊するだろうと思うと溜め息が出た。 嗚呼、お疲れ様だ。 鈴を握りしめ、入口にたった遥紀と予見者。 「……ふふ、でも良かった」 え、と予見者は顔を上げる。 「君は沢山の方に好かれる人だと思っていたから。君がふれあい、笑っていてくれたら、俺も嬉しい」 少し寂しいけれど、と小さく微笑んだ。積もる話はあれど、のんびりと優しい夏の夜の夢に浸ろう。 「俺が怖いから、どうか手を取ってくれたらうれしいな」 「まあ、私も怖いからお互い様ね」 恭しく差し出された手をそっと取り、歩きだす。ゆっくりとゆっくりと形を変えて、輪郭を変えて。終ることなく続く日々。 どうか、そこで笑いあえたらと切に願う。 「ところで、とっておきの怪談を用意してきたんだけれど」 「け、けけけ、結構」 「あれはとある真夏の日、夜の神社で藁人形を釘打つ白装束の――」 さあ、往こう。ちりん、ちりんと鈴は揺れる。 ● 叫び声が聞こえる。笑い声も、風に紛れて聞こえた。 折角の夏だからと、普段着ではなく浴衣を着て拓真は一人、小道を歩む。 草木の間から切れ切れに差し込む月の光が彼の横顔を照らした。 「肝試しか……。こういった事は初参加なのだが……」 学生時代は友人が多い訳ではなかった。其れもこれも、彼が壁を作っていたからだ。 今は多少ましになっただろうか、なんて一人でぼんやりと考える。 しかし――肝試し初体験の拓真にとってはどの様に驚かされるかわからない。 尤も、通常の肝試しを経験した事があってもリベリスタ主催の神秘の力大暴走☆な肝試しは一味違うだろう。 上か、右か、はたまた左か――下か? じゃり、と土を踏む。 がさがさと茂みの中で武器を構えたエーデルワイスが笑う。 裏方に徹する彼女の仕事は銃声を撃ち鳴らす。サウンドエフェクト係だ。 感情探査でビビっている人を待ちかまえている訳だが、――目の前にいるのは拓真。 バキューン! 「……いや、驚いた。なるほど、その様にしてくるのか」 表情は変わらない。真顔のまま、驚いた仕草を見せない拓真に拍子抜けするエーデルワイス。 ちりりん、(´・ω・`)がたくさん積まれた祠にそっと鈴を置く。 「うむ、面白かった」 一人、満足した様に頷いた。ちりりん。ちりりん。 ゆっくりと彼は折り返しルートを下って行った。 下っていく彼の背中を見ながら。嗚呼、残念。次だ、と銃を構えた彼女の肩をぽん、と誰かが叩いた。 「!?」 不埒な輩に実弾が掠るぞ、天誅DEATHなんて考えていた訳だが、妖怪・乱射女はご法度だ。 いけないわ、と叱られてしまってはそこで正にデッドエンド。 「や、やだなぁ……ちゃんとした妖怪ですよ?」 リベリスタの皆様。安全な肝試しを。 「リリさんと一緒に遊ぶのは、初めてですね」 お化けは夏の風物詩。慣れていると言いながらも壱和の尻尾がぶるぶると震えている。 「何時もお世話になっております。日本の風物詩、ですよね」 「は、はい。そうですよ、夏の風物詩です」 ふるふると尻尾を震わしながらもリリの顔を見つめる。彼女は優しげに、遊ぶ機会を得れて嬉しいです、と微笑んだ。 怯える壱和を見つめ、リリは大丈夫ですよ、と優しく頭を撫でる。 「大丈夫ですよ伊呂波様。相手はエリューション等ではありませんし、神様もついていらっしゃいます」 シスターたる彼女はきっとお化けには強い、と何処か勇気づけられて壱和はほっと胸を撫でおろした。リリがいると心強い。 二人揃って暗がりの道を歩む。 ――が、そんな二人の前に現れるのが今夜の刺客だ。 おかっぱ頭の和装の少女が薄ぼんやりと輝きながら現れる。 「この先は、は行っちゃだめだよ……?」 「ッ――」 「……」 ひし、としがみついて涙を浮かべた壱和はひたすら殴るのは駄目だと自分に言い聞かせる。 怯えた目のままリリを見上げれば彼女は驚いてなどいない、と気丈に振舞っていた。 「私は神の使途にして神秘の探求者、偽者とはいえ、人に害為す神秘に屈するなど…」 シスターの言葉を通り越して、またもやこんにちは。 「この先は本当に危なくて、ここから先に行くと……うぅっ……」 蹲る少女にリリと壱和は怯えを浮かべる。駄目、私から離れて、と彼女は手を伸ばす。 立ち上がると同時に現れたのは筋骨隆々の黒人男性。 嗚呼、やられ過ぎると怖くてたまらない。本物のエリューションであれば怖くないのに今日はどうしてこんなに恐ろしく感じるのだろう。 「銃がないと私はだいぶ駄目みたいです……す、すみません……」 リリが怯える様子に怖いものがあるのだ、と少しばかり壱和は親近感を覚える。 ほんわりと気持ちが安らぐが、視線を戻せば其処にはやはり今晩の主役☆がこんにちはしているのだ。 怖いものは怖くてたまらない。ぶわ、と広がった尻尾。二人は震えながらゆっくりと道を辿っていく。 「良いね、その顔が見たかったんだよ」 ――なんて、千影は笑みを漏らした。 がさり、と茂みが揺れる。 「所で焔よ、ただ脅かした所でアークの面々には余り効果がねぇと思わねえか?」 猛の言葉に優希は顔を上げる。留紺色の浴衣を捲くり上げ優希はライバルである少年を見つめた。 「リアルな傷を作って、よりお化けっぽくなるってのはどうよ?」 「ああ、同感である。いくら取り繕った所で、リアルに勝る物は無し」 拳を掲げた猛に優希はにやりと笑みを返す。仕合の姿勢を取り合って――もしもし、肝試しは……? 男の真剣勝負が始まった。肝試しなんてなかったとでも言いそうな勢いで彼らは殴り合う。 リアルに瀕死状態だ。もう傷だらけ、血塗れ。大騒ぎである。 泥に塗れ、血に塗れ。彼らの変装(?)はカンペキであった。 ざざ、と草木が揺れる音にまおはびくびくと肩を揺らした。遠くからは何故か銃声や殴り合う様な音も聞こえる。なんだろう、此処は戦場だっただろうか。 「怖くないです。大丈夫です。まおは大丈夫です」 自分を励ます様にふるふるするまおは呟く。大丈夫、出てくるお化けは中の人がいるのだ、と。 震えは止まらない。 ((。非。)) がくがく、ぶるぶる。 そんな彼女だが、今日という今日は不意打ちが効いてしまうのではと内心怯えまくりである。 「(行くぜ、焔…タイミングは合わせろよ…)」 「(フ、誰にモノを言っている。その動き、シンクロしてくれる!)」 二人のターゲットはまおだ。彼女に襲いかかるのは謎の高笑いとあからさまに演技である人の叫び声。 ((。非。)) がくがく、ぶるぶる。 きょろきょろとあちらこちらを見回して、怖くない様にと暗視を使用する。 視たくないモノまで見えるかもしれませんよ? 怪しいものやガサガサを見つける、と怯えたようにまおはじっと前を見る。 見た途端こんにちは、だ。 「ち、ちちちチチチ血をぉ 吸わせろおオォ!!」 「う゛ぁぁ……に゛ぐい……い゛のぢ、よごぜぇぇぇぇ!!!」 「ぴ」 現れたのは優希と猛。優希は本気で貧血状態であるし、猛は包帯ぐるぐる巻きに合わせて顔面が先ほどの殴り合いの所為で腫れている。 一言でまとめれば、怖い。真剣に怖い。 「ぴゃあああああっ!?」 頭に浮かぶやもりさん。可愛い。けれど、怖い。慌てたように木の上に逃げたまおの手に握られた(´・ω・`)がりんりんりんと為り始める。 彼女の震えに合わせて鳴っているのだが当の本人は自覚はない。 「こ、怖いのですすすす」 りんりんりんりん。 むしろ、そっちの方が怖いです。 「ふむ、アリアは肝試しは初めてなのだ」 天才少女は森の中でメルヘンチックに思い出す。遊園地のゴーストハウスの様なものだろうか? だが、流石は天才、この鬱蒼とした雰囲気の中にいると其れとは違うと感じたようだ。 「楽しみだな、竜一!」 キラキラと輝く瞳に竜一は頷いた。実のところ、真白な着物の女性が笑うだとか、素敵でしかないだろう。 彼の仕入れてきた知識によると、実は幽霊は美人で主人公といちゃいちゃうふふなラブコメが始まるフラグだ。何も恐れる必要はない。ただし、その知識は二次元だ、漫画だ。三次元には適応されないのだ! 「俺を頼ると良い、アリアたん!」 ぎゅーと抱きしめると、腕の中で彼女はドヤァ……と竜一を見上げる。 「うむ、竜一もアリアに頼るといいのだ」 アリアは負けないぞ、と繋いだ手をぶんぶんと振り回す、目指せ祠、と歩みを進めるが、彼らの前に立ちはだかるのは \突然のオカルト研究会/ ぺちゃりとこんにゃくが首筋にあたった。モノマの仕掛けたこんにゃくは竜一の首筋にヒット! 「ホゥッ!?」 「なぁ、お前リベリスタだろ。リベリスタだよな!?首置いていけよ、首置いていけよ、なぁ!」 ホッケーマスクを装備しチェーンソーを振り回す弐升。ぎゅいん、とチェーンソーが駆動音を立てた。 「ハゥッ!?」 病的なほどの絵がこんにちは。シャルロッテが配置したダンボールだ。 「ホワァァァァア!?」 ぎゅ、とお守りを握りしめる。 「どうしたのだ、竜一。さっきから叫んで。さっきからアークの皆が出てきているだけだぞ?」 お化けは出てないのだ、とアリアは目を丸くした。だって、出てくるのはアークの彼女の友人達。 そりゃ、驚く事はあっても『お化け』ではないのだ。 「ア、アアア、アリアたんは俺が守る!」 「何を言ってるのだ? さ、歩くぞ竜一! しっかり歩くのだ!」 ずんずんと先を行くアリアに腕を引かれとぼとぼと竜一は歩く。時折驚かしの追撃がかかるたびに彼はアリアにしがみついた。 嗚呼、お化けが怖いというよりも全力で驚かしにかかってくるリベリスタ達が怖い。 「大丈夫だ、アリアが竜一を守ってやるのだ! よしよし」 ――何か俺、情けなくないですか。 「うおお……こ、こ、こわいです……ち、違う、わたしはお化け……」 びくびくしながらモノマの袖を握る壱也はお化けだお化けだと呟く。 はりきって驚かせようとするモノマは引っ張られる感覚で、恋人が怖いものが苦手だった事を思い出した。 「まぁ、何はともあれ皆楽しんで行こうぜ」 「み、みんな、がんばろうねっ」 怪我しない様にな、とモノマは周囲を見回すが、一人足りない。違和感を感じた。 「終ったあとは打ち上げやりましょ。酒飲みたい」 「未成年はジュースな」 弐升の言葉にモノマは頷く。だが、やっぱり違和感がとれない。――何か足りない。 「脅かしちゃうぞー! がおがおー!」 ダンボールに描いた絵は怖い。上手下手を通り越して、何とも言えない恐怖図が完成している。 「怖いかな? がおがお」 一杯書くぞ、と意気込むシャルロッテに壱也が怖いよっ!?と涙目になる。 日本の文化の肝試し。其れに触れることでシャルロッテは楽しそうだ。仮装もしたい。けれど、日本の文化じゃなかったよね?と小さく首を傾げた。 「あれ、ミーノは?」 「あ」 違和感の正体 : ミーノ。 「探してくる、ついでに脅かしてみる」 じゃ、とリュミエールは暗がりの森の中に入っていく。其れに続いてがおがおーとシャルロッテも段ボールを設置にし歩いていった。 「お、おおお、お化けとか、こ、こここ、怖くないですしっ」 プンッ!大丈夫だもん、とはいいつつも怖くて堪らない。誰かが驚くたびに壱也も肩が跳ねた。 何故か石を握りしめて人が来るたびにカツン、カツンと叩き合わせる。 「よ、よし!わたし、先輩のそば、離れない、です、だだめ、置いていかないでください」 「うーん、怖いなら無理しなくてもよかったんだがのう」 がさがさと共に草むらに隠れる。モノマのこんにゃくに引っかかる人々が叫ぶたびに壱也もかつーん、かつーんと石を打ち合せながら叫んだ。 思いのほか怖がる壱也に無理しなくて良いぞ、と声を掛けるが、先輩が一緒なら、とぎゅっと引っ付いている。 「ふああ!!も、もうだめ!こわいい」 「よしよし、怖くないからな」 ぎゅ、と引っ付き怯える壱也を宥めるようにおんぶする。お化け役も怖いものはやっぱり怖い。 「僕、可愛い女の子と来るはずだったんだけど……」 隣を見ると、金の髪、オレンジの瞳――の男、悠里がいる。 「なんで、こうなったんだっけ……」 隣を歩く悠里が何処となく怯えた様子なことに夏栖斗は笑う。嗚呼、面白い。友人は地味に怖がりだ。 別に怖くなんてない、お化けなんて科学の発達してない昔の迷信じゃないか。 悠里はそう思うものの、怖くて堪らない。大丈夫だ、と自分に言い聞かせるように呟いた。 「E・ゴースト。大丈夫大丈夫、いざとなったら倒せばいいんだ」 これにはエリューションも吃驚である。 がさ、がさがさ―― ずりん、と天乃が上から降ってくる。黒装束に仮面を纏った彼女は物音に反応して、彼らの目の前に躍り出た。 頭上から現れた『幽霊』は夏栖斗に手加減せずに飛び蹴りを喰らわそうとするが、その前に満面の笑みを浮かべた彼に拍子抜け。 「いえーい!」 「恥ずかしい真似すんな!」 何故か握手を求めた夏栖斗の後頭部に落とされたのは悠里の鉄槌。 迷惑かけちゃだめだよ、と怒る彼らの前にずるりと現れたのはアンジェリカ。 「ちょーかわいいお化けちゃん! 終わったらデートしようよー!」 「うわぁっ!? 吃驚した……」 なんて、楽しそうに笑ってアンジェリカに近づいた夏栖斗の腹へと衝撃の攻撃が走る。今をときめく攻撃。つまりは腹パンである。 「って、やめろって言ってるでしょ」 「いってぇっ!! 腹パンは古傷が疼くっつーてんだろう!?」 ――何処かで三高平でも高名な魔……失礼、天使が微笑んだ気がした。 ちりりん。 祠の前はしん、と静まっている。 「悠里、行って来いよ!」 とん、と肩を押し夏栖斗は怯える悠里を送り出す。 「えぇ? 僕が行くの? う、う……大丈夫、怖くない……怖くない……」 足音を立てぬようにそっと近づいて、背後から彼の肩を叩く。大げさなほどに悠里の肩が跳ね上がる。 ひ、と一瞬息を飲んだかと思えば、振り返り、混乱したように彼は(勇気を湛えている)左手を夏栖斗へ向ける。 「うっぎゃああああああ!?」 「うおぉぉ!? 悠里! てめぇ、スキル使うなよ!」 はらはらと夏栖斗の髪が舞う。放たれた疾風にも劣らぬ速さの雷撃。武舞はまるで彼の心中を表す様に荒れた物だった。 ぜえぜえと互いに息をしながら祠を見る。山盛りの(´・ω・`)が何とも言えない哀愁と放っていた。 「って、うひゃ!? 今度は何!? あれ? 誰もいない……」 「え?悠里も?」 「え?」 夏栖斗も、と声に出そうとして。 血の気が引いた。勿論、後ろには誰もいない。頬を撫でる指先の持ち主なんて、いない。 まさか、と二人は顔を見合わせて―― 「本物っ!!?」 「ぎゃあああああっ!?」 彼らの叫び声が、木霊する。 「ミーノ、ちょうこわいおばけメイクしておどかすやくなの~!」 顔を真っ白に塗り、目の周りと口紅を入れる。名付けて「きょーふのきつねこんこんむすめ」の完成だ。 キリッとして準備したものの、誰もそこを通りかからない。 「ふっふっふ~いつでもこい! なの~!」 誰も通りかからないのは其れもそのはず正規ルートから離れた場所にいるからだ。段々と不安になってくる。 誰も来ないし、誰もいない。 へにゃりとお耳を垂れながらミーノは周囲を見回す。ぷるぷると静かに耳が震えている。 「だれかおばけやくさん、ちかくにいますか~?」 もしかすると皆お化けに攫われてしまったのだろうか?そしてミーノは此処で一人残ってしまったのだろうか? ――だとしたらお化けに出会ったら、嗚呼、其れは怖い。 「きゅうう~」 ばたん、と気を失ったミーノの上に木の上から「ばあ」とリュミエールが降ってくる。 「あれ……」 気を失った彼女を見つめ、どうしたもんかな、と茫然とした。 怒ったり拗ねたりしたら駄菓子で宥めようと思っていたけれど――気を失ってるなんて。 「つか、不意打ち無効とか直感とか熱探知持ってるやつらにうちらどうしようもなくね?」 呟きは木々のざわめきに飲まれてきえた。 「なかなか雰囲気があるな」 きょろきょろと見回しながらも、禍津は歩んでいた。途中途中で出会った幽霊たちに何故か駄目だしをしながらふらふらと。 驚く事は泣く無表情で或る彼女の方が何処か怖くも思えるのだが。 ふと石段を見上げた先には薄桃がかった翼の少女。 「……世恋、だったか」 集まった際に名乗っていたフォーチュナの名前を呼んでみる。心の無しか震えている彼女の隣まで追い付いて、禍津はどうした、と小さく問うた。 「どうした? 腹でも痛いのか?」 ふるふると首を振るが其れは女の子。トイレに行きたいのかな、なんて思いながらも彼女と共にゆっくりと石段を上がる。 上がった先にきっとトイレがあるぞ、なんて励ます禍津の目の前には(´・ω・`)が山盛りになった祠。 そっと鈴を置いた二人の背後に立つのはティアリアだ。 「――それじゃあ、後は貴方達の命を置いて行って貰いましょうか」 にこりと彼女は微笑む。 予見者の時が止まった。 そんな予見者を放置して急にそわそわとする禍津の心中では可愛い可愛い、どうしよう、一つくらい持ち帰ってもいいかな、なんて淡い想いが支配している。 「い、いや、世恋、な、なな、なんでもないぞ! 我は怖がっているのではない。その、こ、この鈴が」 「てっきり私と一緒で怖がっているのかと」 鈴が欲しいなら後で差し上げるわ、と世恋は付け足した。 そこでふと、彼女はトイレに行きたいのではなくて怖くて震えていたのだと思い当って禍津は視線を逸らした。 帰ったら鈴、あげましょうね。 水着姿、その体に刻まれる(´・ω・`)。せんせい、ここに変態が居ます。 その上に浴衣を羽織る。 「……ところで、フツさん。その格好は、私も少し怖いのです」 ちらり、とミリィはフツを見上げる。体全体の(´・ω・`)。羽織った浴衣の下に(´・ω・`)。 フツのその様子に怯えながらもミリィは一つ決心していた。 ――今回は驚かされるだけの人間ではない事を頑張って証明するのだ。えいえいおー!とやる息を入れてみる物の、やっぱり隣にいる物が怖い。 ざ、ざ、と歩く音が聞こえ、二人揃ってその姿を隠した。 「肝試し、か」 作りものであろうとこの鬱蒼と茂る森の小道は中々なものだった。 この日の為に木蓮は念のため免疫をつけたくてホラー映画を見てきたわけだが、其れが裏目に出た。とても恐ろしい。 木蓮と比べて落ち着いた様子の龍治は肝試しと言えば幼い思い出を思い出さずにはいられなかった。 常日頃、任務で関わる神秘。時には『幽霊』よりも恐ろしいモノに出会う事もある。 「恐れる事など有り得ん。有り得んぞ」 「龍治は怖くないのか……? た、頼らせてもらおう」 本来ならば龍治の行く理由はなかった。だが、恐れを為して参加していないと思われるのも癪だから、と参加している。 どうやら共に行動する木蓮は怖くて堪らない様だ。常の表情を浮かべた龍治を頼る、と隣に寄り添っている。 \突然の HENT …… (´・ω・`) / 「お前たちの探す(´・ω・`)は、この数多の(`・ω・´)の中にただ一つ!」 さあ、探すが良い、と浴衣を脱ぎ捨てて突然現れた変態――失礼、妖怪(´・ω・`)何処だに木蓮は驚いて目を見開く。 何故か発光しだす(´・ω・`)。ふははははと笑い声を上げながらフツはずいずいと近寄っていく。 「ふん、やはり大したことはないな――」 がさ、がささ、とん、と彼らの背中に何かが当たる。 振り向いたその先。明るい金の髪を黒く染め、白いワンピースを纏い、鬘まで着用して髪を垂らした少女。 手には何処か古くなったうさぎのぬいぐるみを抱え、蒼白な顔色のまま金の瞳を湛えて見つめる少女がいる。 「――」 無言のまま其処にいるミリィ。そしてずいずいと押してくる妖怪(´・ω・`)置いていけ。 ぶわ、と狼の尻尾が膨らんだ。表情や物腰は其の侭だが明らかに驚いた様子に抱きついた際に木蓮は気付いてしまう。 「たっ、た、たつはるも、こわいのか?」 「怖いのかだと? 訳のわからん事を云うんじゃない」 自然と速足になる龍治の後ろを歩く木蓮。二人の歩みが段々と速くなっていく。 奥に見える薄ぼんやりとした明りはゴール地点のものだ。 「ぶ、ぶはー……ゴ、ゴール……怖かった」 「もう二度と……」 来るもんか、と言いかけた彼の言葉に木蓮の「また、いつか行くか?」という囁きが被る。 「い、いや、次も……考えておくとする」 嗚呼、やっぱり甘いのだ。 愛しい人と一緒に参加となると胸が躍らずにはいられない。 嗚呼、『肝試し』、それは男のロマンだ。いい所を見せるチャンスなのだ。下心?勿論全開だ。 「前にもお化け屋敷に行った今度はもう少し平気なのだよ」 ね、と微笑んだうさ子にそうですね、とヴィンセントは笑う。去年、共に行った時村ランド。其処のお化け屋敷の思い出をうさ子は歩きながら語っている。 「今回は本物ですよ? CGじゃなくて本物のお化けですよ?」 「脅かしても、もう平気なのだよ。ヴィンセントさんがいるもの」 それに、相手が人間だって分かっていれば怖くないのだね、とうさ子は微笑んで腕に抱きつく。 「僕がついてますからね、大丈夫です」 ヴィンセントの浮かべた微笑みは優しい。はぐれないように、と傍を歩くうさ子の鼓動が、腕から伝わる。 久々のデートだから、ちょっと位は甘えていたい。 「――やっぱり、暖かいのだね」 ぽそりと呟いて、うさ子はそっとヴィンセントを見つめた。周囲の雰囲気は鬱蒼としていてやはり恐ろしく感じる。 だが、そんな中でも彼の頭の中はお花畑であった。 嗚呼、こんなに近くに彼女がいる。幸せそのものだ。薄暗い登山道がバージンロード。お化けもきっと祝福してくれているのだ―― そして襲いかかるチェーンソー。ぎゅいんぎゅいん、と迫りくるその音は弐升だ。 「ッ――!」 「うわっ!?」 ぎゅ、とうさ子がヴィンセントの腕にしがみつく。妄想モードから戻ってきた彼は大げさなほどに肩を揺らす。 驚きで鼓動が速い。 嗚呼、でもこのお化けも祝福してくれてるなら――ぎゅ、とうさ子が彼の尻を抓る。 「いったい!?」 夜そのものは天体観測を良くするので怖くはなかった。周囲をじっと見て、隠れてる人やトラップに気付き、チャイカは亘の手を掴みずんずんと進んでいく。 この様子は亘も想像通りだった。常より年齢よりも落ち着いているチャイカが慌てて怖がる様子は想像つかなかった。 頼りないかな、自分、と想いながらも手を引く少女の背中を見つめる。 木の枝にひっかけられていたこんにゃくがぺちゃりと頬に当たる。カツーン、カツーン、石の触れあう音がする。 「ッ――」 普通ならきゃー!?なんて叫び声が上がるのだろうが。カツン、と握りしめた懐中電灯が落ちる。ざわ、と草木が音を立てた。 「жуткий!」 怖い、助けてと母国の言葉を叫びながらチャイカは亘に抱きつく。 壊れた電灯と多い茂った草木の所為で暗闇が辺りを包み込む。亘の目の前にいるのは天才少女でも、アークに所属するリベリスタでもなく、一人の少女だった。 そう思うと自然に笑みが浮かんでくる。年相応の可愛い女の子。笑うだなんて、意地悪かなとも思いもするけれど。 「大丈夫ですよ、チャイカさん。自分が此処に居ますから」 ぽんぽん、とあやす様に背中を撫でた。クリアは出来ないが、このままだと彼女も危険だろう。 そっと抱きあげて、翼を揺らした。生い茂る草木を抜けたその先、其処に在るのは明るい星空。 「す、すみません、お恥ずかしい所を……」 「星、解説お願いして良いですか?」 顔を赤くしたチャイカに笑いかけながら、のんびりと二人は星空散歩をする。肝試しは怖かったけれど、それを抜けた先は明るく、キラキラと輝いていた。 「肝試しねえ……」 ゆっくりと禅次郎は歩んでいく。ゴースト的なモノ(エリューション)と戦ってる彼からすると今更怖い!というのはないかもしれない。 何故か人は疎らで、集合時間に遅れてしまったけれど始まっているからか、と落ちていた(´・ω・`)を拾ってきた。 ルールは昼間にフォーチュナが告知していたので分かっていたし、ルートも一本道なので違える事はない。 ――何処か、可笑しい。 リベリスタなら、騒がしくも面白おかしく襲いかかってきたり、非戦を駆使してくるものではないのか。 彼を脅かす『幽霊』は揃いも揃ってじっと物陰から彼をうかがっているのだ。そのリアリティ足るや恐ろしいもので。全員着物を着用し、誰も喋らない。 恨めしそうにただ、禅次郎を見つめていた。 「……青い鳥居を抜けて、首の取れた地蔵が合って、祠は――」 青い、鳥居――? 昼間に聞いた噂話。赤い鳥居を抜けて、ぽつぽつと地蔵があって。『朱』と『青』。 そこでふと思う。他の参加者とも遭遇しないし、やけに静かだ。場所を間違えたのか。だが、それなら今まで見た着物の人物は。 「え?」 にたりと赤い唇を歪ませて『女』は笑った。 そんな、静かな夏によくある話。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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