● 全てのために、全てを捨てよう。 貴方に愛された日々を、貴方を愛してた日々を、忘れてしまわぬように。 身体を炎に変えて。 心を火種にして。 足りないものは、全部全部全部、僕の命でまかなおう。 ねえ。 だから、――――――さん。 見てて欲しいんだ。 ほんの少しだけ。 僕が、あなたに贈る、最後の想いを。 ● 「……エリューション『ユミナシサジタリア』。それが今回、みんなに倒して貰う敵」 ブリーフィングルームの空気は、時節に合わず乾燥している。 瞑目する『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)は、やけに大人しい態度でリベリスタ達に依頼の説明を始めていた。 「一般的な十二星座に於いては十一月から十二月の生まれに分類される射手座だけど、時期として日本で見えやすいのは八月の下旬頃。 ……それが今回のエリューションを『彼』に呼んだのかは、解らないけれど」 「……彼?」 「そう。『ユミナシサジタリア』はノーフェイス。 神秘被害者の親族にして、それを受け入れた珍しい人間の一人……だった」 予見視の少女は語る。 良くある話と、下らない話と、その全てに立ち会ってきた救世者達なら、或いは笑うことも出来ることを。 「……当時のデータベースから資料を持ってきたけど。強い子だったらしい。 革醒した母親を無惨に殺されながら、それでも事情を聞かされた彼は唯私たちにお礼を言っていた……そう言う彼だから、なのかな」 ……『ユミナシサジタリア』は現在、三高平に向かっているらしい。 その目的は言うまでもないだろう。自らにとって大切な者が失われる事を許容した彼が、今更自身の立場をして躊躇することは無きに等しい。 仮に、欲望を束縛しても。 願いを、抑圧してでも。 「……続けるよ。彼は自我をしっかりと保っている。抵抗をしない彼を殺すことは、きっと、この上なく容易。 『その上で言うと』、彼のフェーズは2。命中、回避に大幅な後れを取る分、耐久力と一撃の爆発力は同フェーズの平均する個体に比べると段違い」 語る、予見の少女は、すまし顔だ。 その裏を理解する彼ら、リベリスタは――何処か、苦笑いのようなものを浮かべている。 「そして……能力。『ユミナシサジタリア』はその個体名の通り、矢を番えるべき弓を持っていない。 故、彼の攻撃能力は基本的に、『自身を矢にする』能力唯一つに限定される」 ――自然、損耗を厭わない武器となった彼の消耗は激しい。 フルでその能力を使い続けたら、一分は保たないと予測される。それを受ける者達も、また然り、だ。 「気を付けて」。イヴの言葉を最後に、説明が終わる。 一人一人、席を立つリベリスタ達に、けれど、イヴは静かに続けた。 「私には、解らない」 ……リベリスタ達の動きが、止まった。 「言葉に成らない想いとか、痛みで交わる心とか。私は、フォーチュナだから。 ……それでも、ね。それでも、思うの」 ――星の座は此度潰える。それは変えようのない宿命。 唯、その滅びの向かう先は、二つに別たれた。 即ち、人にぶつかり、砕けるか。 地に墜ちるより早く、虚空に溶けるか。 「変わらない結末でも、過程を変えることには、きっと、意味があるって」 その過程を、君たちに委ねよう。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月05日(水)23:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ……一体、 一体、どこから間違えたのだろう。 荒い息を吐いて、 全身を朱に染めて、 僕は、未だに、笑っている。 「はは、ははは……」 其れしかできなかった。 そうすることしか、覚えてこなかった。 己を殺し、 他に尽くし、 そうすれば、みんながしあわせになってくれるから。 けれど、でも。 「お前ははわがままで人を困らせるただの男だ。 …ただその方が、人間味があって我は好きだ」 煩い。 「本心を晒す義理は無いだろうけれど、それでも俺は聞きたいんだ」 煩い。 「矢は進むものだろ、先に、先へと!! そう在ると決めたらな、墜ちるな、標的目掛けて飛べ、最後まで!!!」 煩い――――――!! 今更になって。 諦めることを是と教えた彼らが、今度は拾えと吠え立てる。 何故なんだろう。 身勝手で、好き勝手言って、こっちの気持ちも知らないで。 なのに、何で。 何で、涙が、零れるんだろう。 ● 「はじめまして、だね。俺は結城竜一だ。君の、名は?」 出会った彼に、最初に声を掛けたのは『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)。 平時の軽薄さは鳴りを潜め、朗らかな笑みで手を差し伸べた彼を、青年はやんわりと拒絶する。 「……アークの、方ですか?」 代わりに、返された言葉は率直だ。 行うべき事は唯一つ。 余計な縁など不要。唯、速やかに葬って欲しい。 そう語る彼に対し、 「その通り、アーク、だよ。 用件については……言わなくても解るよね?」 「……はい」 返したのは、『骸』黄桜 魅零(BNE003845)だった。 微かに動くと、鰐の背骨がかしゃりと鳴る。 それが神秘の世界の一端であり、今から己を滅ぼすものと知ると、覚悟を決めた彼をして、僅かな恐ろしさを抱かざるを得ない。 なのに。 「でも、ね。魅零たちは、君に望む終わりを与えてやれない。 ううん。与えて、やらないんだ」 「……?」 訥々。 選ぶように言葉を絞る彼女に、青年は胡乱な瞳を向けるだけ。 「……君の本心を知りたい」 言葉を継いだのは、『fib or grief』坂本 ミカサ(BNE000314)。 得物の紫爪は未だ出ださず、怜悧な瞳を向けたままで。 「ただ殺される事を願うのならそうしたい。 だけれど、心を隠しても『あの姿』が全てを物語ってる気が、するんだ」 「……」 何を。 返そうとして、けれど、青年は黙り込んだ。 黙り込もうと、した。 「それとも、母親が殺されて言ったお礼は本心だった? その気持ちも解るよ。だって、化け物になったんだ。『いらない』と拒絶しても、仕方が無い事だよね」 「……っ、違う!」 それが、合図。 堅固なココロの仮面が、ぱきぱきと剥がれる証。 「死んで欲しくなんて無かった、一緒に生きて欲しかった! だけど、仕様がないだろう!? 君たちが、殺さなければ世界が崩れると言ったのは、君たちじゃないか!」 「……そう、其れが私たちが負うべき業だ」 メリア・ノスワルト(BNE003979)が、目を瞑りながら頷いた。 「そして、その罪は巻き込まれてしまった者だからこそ糾弾する権利がある。 今一度問いたい。君は死に往くその身で、せめて最期にぶつけたい気持ちが、本当に一つもないというのか?」 「――――――僕は」 青年は惑っている。 握る拳は白くなるほど強く強く握り込み、 満身の震えは幾許の時を超え尚増すばかり。 痛くて、 苦しくて、 辛くて、 悲しくて、 心を読むまでもなく、その胸中に痛みを覚えた『黄昏の魔女・フレイヤ』田中 良子(BNE003555)が、ぎゅっと拳を胸に当てた。 (……救われん) 思うことは其れ一つ。 誰がではない。殺される青年も、相対する自分たちも、その周囲も、全て全て全てだ。 下らない自己満足。 それに、付き合わざるを得ない自分たち。 それは、なんて―― 「……なんて、悲しい、三文芝居でしょう、ねえ」 良子の後ろで、『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)が苦笑した。 ミカサ同様、彼もまた、自身の剣は出ださない。 全ては今日に帰結するなら、少しでも、心を交える刻が欲しい。 誰もが、其れを望んでいた。 誰もが、其れを叶わじと知っていた。 「……君を逃がすわけにはいかない。が、君の想いを知りたいと思う」 竜一が前に出る。 青年は、後退る。 「言いたいこと、やりたいことがあれば出来る限りのことはしよう だから語ってくれ、君のことを。君が生きた証を。家族のためにも」 戦場――或いは処刑場の空気は、静穏だ。 語る言葉はクリアに通る。なのに、 「……何で、でしょうね」 それらが聞こえるからこそ、言葉は、彼の意志を迷わせた。 「ただの人間で、何の力もなくて。 だから、力のある正義の味方に、僕なんかが何かを言えるはずもなくて」 「……」 「だから、只の脇役で良かったんです。 強い意志に従って、自分を舞台装置の一つと思って、心も、『自分』も必要なくて」 それでも、 それでも、運命は奪い去る。 大切なものを次々奪い、 ならば得なければよいと、空気のように日常を過ごし、 それなら自分を差し出せと、悪意は彼を染め上げた。 「カミサマは、意地悪だ」 笑う。 泣いて、笑って、青年は。 「ヒーローの敵を作るためなら、罪のない人も敵にする。 誰かに敬われて、尊ばれて、崇められて、僕達は、只、それの踏み台だ」 だから、と。 青年は、自分を青白く燃やす。 「貴方達を、殺したかった」 「……それは」 「愛する人と世界の終わり。そんな答えの決まり切った選択を迫るなんて、只の理不尽だ。 だったら僕は答えます。世界一つを滅ぼしてでも、ヒーローを全て根絶やしにしてでも、悪者のままで生き続けたい、と」 それは、悲しい理想論だ。 青年自身、其れを知っていて、だから、 疲れたような笑みをして、 怒りに震えた身体を解いて、 全てをまた、諦めのゼロに帰結させる。 だから、 「……やってみればいい」 リベリスタは、その諦念を拒絶した。 答えたのは、ミカサ。 終ぞ幻想纏いから得物を取り付け、彼は真っ直ぐに青年を見た。 「君があの時、言いたかった言葉を聞いた。 君が、本当に願っていた思いも聞いた。 だったら、後は一つだ。それを俺達にぶつけるだけ。全部、受け止める為に皆はここに来たんだ」 「……」 会話が、止まった。 幾年にも思う数秒。 重く、粘った泥のような空気なのに、 微かな暖かみが、其処にあった気がしたのは、気のせいだろうか。 「殺しますよ」と青年が言う。 「やって見せろ」と竜一が返す。 「きっと負けます」と青年が言う。 「勝手に決めるな」とミカサが返す。 「意味がありません」と青年が言う。 「それは我らが決める」と良子が返す。 終わらない問答。 応酬する意志と意志。 眦は変えず、 両者は見つめ合った。 「ああ……」 其処に、終わりを見いだしたのは。 「漸く、気づきました」 「莫迦だったんですね、皆さん」 青年の言葉に、皆が笑った。 意地の悪い笑み、得意げな笑み、清々しいような笑みだって。 「……なら、交えるのは、言葉じゃありません」 再度。 その身体に、炎が灯る。 「後悔させます。絶対」 「なら、俺は御前の想いと命を纏めて叩き砕く。加減は無いよ」 其れまで黙っていた『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)が、笑いながら言った。 何時にも増して重い愛銃。 けれど、彼の意志は、ほんの少しだけ、それを軽くしてくれた気がした。 「……行きます」 会話が止まる。 戦戟が、交差する。 ● 「か――――――!」 穿孔は一瞬である。 僅か一撃。それだけで、竜一の体力は半分以下に削られた。 「竜――、」 言いかけて、数珠を向けた『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が、すんでの所で其れを降ろした。 ――癒術は要らない。彼奴の思いは、俺たちで受け止める―― 戦闘の際、前衛に立つほぼ全員が放った言葉。 とんでも無い馬鹿で、けれど愛すべき仲間達の言葉を受けたフツとフレイヤは、それに歯がゆさを覚えながらも、未だそれを堪えている。 「我に仲間の傷つく姿を黙って見ておれと言うのか。中々に酷な事を言うものだ」 「あァ、同感だ」 良子が零す、フツが苦笑する。 互いに最大の攻撃手でユミナシサジタリアを削っていくが、予見視をしてずば抜けた耐久性を指した彼の生命力は尋常ではない。 「アークのリベリスタ、メリア・ノスワルト。……貴方を討伐させて貰う、世界の為に」 メリアが名を告げ、彼の腹を刺す。 肉の感触。 零れる血の色。 幾度となく死線を越えたリベリスタが、なのに、其処に苦みを覚えるのは、きっと。 ――綺麗事で済ませられれば良かった。 愛すべき父。 尊ぶべき師。 騎士としての誇りを体現した彼が、其処に歪みを出したのは、或いは今のような。 「……それでも!」 光の矢が彼女を狙う。 地に突き立てた剣の面で、それを一身に受け止めた。 「騎士とは、正しき祈りに応じる者だ。その心にある内の何かに私は応えよう。この剣と、我が騎士の誓いにて!」 段違いの威力が、剣を弾く。 衝撃が、メリアの口腔から血を吐き出させた。 だが、倒れない。 そんな無様、救うべきものの前で、誰がするものか。 (……はは、こんなキツイ依頼初めてかもしれない) 面持ちばかりは笑顔のままで、 ココロの中は泣きそうで。 魅零が、そうして、大太刀を叩き込んだ。 「戦いたくないときだって戦わないといけない私達。そんな救世者(笑)を笑ってもいいよ」 「……馬鹿なことを」 傷んだ体。 それを、少し前まで一般人だった青年は、気にもせず応える。 「なら、何で僕を挑発したんです。 する必要もない戦いを、起こしたんですか」 「……、あはは」 笑う。笑う。笑う。笑う。 彼方も此方も苦笑い。他愛もない、友人同士の会話のように、得物と得物が肉を喰う。 支援も要らない。回復も要らない。 死に至る覚悟なんて疾うの昔。今は只、彼を解りたいだけだ。 『矢』が魅零を穿つ。死傷寸前。 されど、魅零は笑みを絶やさず。 「受け止めるから、君の想い、悲しみ、悔しさ、ううん、他の嬉しい感情とか全部引っくるめて、全部!!」 「――――――!」 皮一枚で繋がった命を持ち直して、死に瀕した身でそれでも笑って、 けれども、其処に割り込んだ影があった。 「邪魔するが、怒るかい?」 「……いいえ」 喜平である。 身の丈中程を超える巨器、『打撃系散弾銃「SUICIDAL/echo」』が、青年の脇腹を打ち据える。 もんどり打って、転がる身体。 それを、銃口で圧し止めた。 骨の鳴る音。 漏れる苦悶。 表情一つ変えない彼は、トリガーを、引く。 爆音は二度だ。肉を喰らった銃弾の咆哮と、返す刀ならぬ矢の一撃と。 肩口を根こそぎ持って行かれた喜平。利き腕を完全に潰されながら、それでも膝から下を骨と微かな肉だけにした青年との瞳は未だ繋がっている。 逸らすものか、決して、絶対に。 が、次瞬、四色の魔光が青年を捕らえた。 良子の魔曲・四重奏。光にしてカタチを得たそれらが青年の四肢を串刺しにし、行動を制限する。 隙を見逃すほど、救世者は愚かではない。 だのに、躊躇う。 良子はリベリスタだ。世界を救う魔女そのものだ。 世界を救うとは何か? 泣いている者を、笑顔にすることではないのか? 「……嘘だ」 歯を食いしばる。 杖を固く持つ。 こうすれば、彼の青年は笑顔になれる――のでは、なく。 こうでしか、彼の青年を笑顔に出来ない――それが、今の良子なのだ。 痛い。 痛い。 痛い。 ココロが、決意が、理想が、夢が、純で在ればあるほどに身を刺す苦痛の連鎖。 だけれど、それでも、手を止めていないのは。 「……止まるな、ばか」 「!!」 涙を堪える良子を見て、 動きを取り戻そうとする青年が、呟いた。 「罪科なんて背負う必要はない。咎なんて抱く必要もないんです。 『そんなもの』、その時になれば、世界は勝手に償わせる」 ――今の、僕のように。 泣きそうな顔で。 青年は、笑った。 「だから……だから、今は理想を、追い続けてください。 でなきゃ、僕が、あの時母を諦めた思いは、何処に行けば良いんですか!」 「……っ!」 涙を振り払う。 眦を吃とする。 嗚呼、畜生。『敵』に教えられた。 良子の震えが、其処で止まった。 「優しいよね」 ミカサが答える。 「君は、本当に優しい」 「……皮肉、ですか?」 「まさか」 淡々と言葉を紡ぐミカサの口元が、緩んだ、気がした。 紫爪連閃、一挙動の内に双条の傷を走らせた彼は、青年に投げかける。 「『彼の本当の気持ちはこうだった、自身と母の生きた痕を残して逝った』」 「……、」 「これが、俺が残す言葉だよ。だから、君も最期の最期まで」 足掻いて、みせなよ。 ――笑う。 青年が、笑った。 四光が砕けて、 『矢』は再度、顕現する。 痛打、ミカサが倒れ、即座に運命が変転する。 「その身を矢と為し参るなら、この身を一振りの刃と為してお相手仕る……なんてね」 再度、その矢がミカサを穿つよりも早く、肩口をずぶりと抉ったのは義衛郎だ。 次いで、切り上げ。 神経を纏めて断った腕がぶらりと下がり、そうして生まれた新たな隙を、義衛郎は逃さない。 「どうせ死ぬんだ。存在した証のひとつくらい、遺していったらどうだい」 「ああ、勿論。例えば貴方の命を一つ」 「痛快だね。叶えて見せろよ」 千々の幻影に別たれる剣、 一の光条へと変ずる矢、 交錯する。 倒れたのは、互い無く『彼』の側。 「……伊達じゃ、無いなあ」 フェイトが燃え上がり、一度倒れた身が立ち上がる。 けれども、其処までだ。 連度の能力で、身の殆どが焼き焦げた青年。 虫の息なのは問うまでもなく解った。 だから、 だから、其処に終わりをもたらしたのは。 「恨みも怒りも、悲しみも優しさも、あるもん全部ぶつけてきな」 一刀一剣。 結城竜一が、彼に相対する。 自身の運命消耗は未だであれど、その分仲間の消耗が激しすぎた。 何よりも、それ以上に。 「どうだ、まだぶつけ足りないか? 刻むものは、まだまだあるだろう?」 挑発する。 或いは、鼓舞か。 青年は、半ば死んでいる。 脚は覚束ず、 その身は血に塗れ、 けれど、しかし、それでも、 その瞳、だけは。 「来いよ。こっからは、結城竜一個人じゃなく、アークの結城竜一だ。 お前が大切な者を奪われて、恨みを抱いた、『アーク』の、リベリスタだ!」 「……あ」 一歩。 踏み出すと同時、その身が、最後の光に包まれる。 「ああ、アアアアアアァァァァァァ――――――!!」 劈くは一矢、 断ち切るは双剣。 思いと思いがぶつかり合って、 一夜の馬鹿げた無意味な諍いは、其処に幕を下ろした。 ● 「……のう、須賀よ」 戦いの後。 アークの迎えを連絡し、それぞれが静かに時を過ごす、短い時間。 回復を断ったことを詫びに来た義衛郎に対し、良子は空を見上げながら、ぽつりと呟く。 「我は思うのだ。死人は何も残せんと。 だから、生きている我らが、死んだ者をどう扱うかが、大事になってくるのではないかと思う」 「……オレには、その辺りはよくわかりませんけど」 苦笑しながら、傍らに座った。 「フレイヤさんは、なら、彼に何を思うんです?」 「……我には立派な墓も、盛大な葬式もできん。 だが、ユミナシサジタリアの事を、忘れずに覚えておく事は出来るはずだ」 街灯に隠れた星のセカイ。 そのひとかけらを、ぎゅっと、空に伸ばした片手で掴んで、良子は語る。 「年月と共に薄れても、更に大事なものに塗りつぶされても、 それでも忘れぬ様にする事が大事なのではないか。そう、思ったのだ」 「……」 その言葉は、独白のようなものだった。 だから、義衛郎も、何も答えなかった。 彼らは只、星を見ていた。 「何か、言いたいことはあるかい」 同様に。 衣服と姿勢を整えた青年の死体は、フツの降霊術によって末期の会話を遂げていた。 「オレ達もアークだ。お前の母親を殺した組織の一員で。そして今、今度はお前を殺した」 自嘲気味に、フツは言う。 否、それはきっと、自嘲なのだろう。 ――有形無形の思いをその身に宿し、矢に変えて。 ――星空から遠く離れた大地の上で、分厚い大気を切り裂いて。 ――命を使い潰して。 そこまでして、伝えたいことが、有ったのだ。 それを、叶えることが出来た、それでも。 それが幸福だったなどと決められるほど、フツもまた、暗愚ではない。 なにがしあわせなのだろう、と。 思うて、首を振るう。況や二十も超えぬ生涯で、何を大それた疑問をと。 「田中や黄桜は、言ってたぜ、忘れないってな。 ミカサとメリアも、背負いたいって、そう言ってた。……案外、幸せもんだな、お前さん」 代わりに、冗談を交えて、小さく笑うフツ。 物言わぬ彼の死体。 けれど、応える魂は、言葉を返す代わりに、唯一つ、フツに願った。 「……。ああ、おやすいご用だ」 携帯端末に連絡を入れる。 それからやや後――公園の電灯が、全て消えた。 「こんなに明るくっちゃ、星がよく見えねえからな」 笑いながら。 死体と手を握るフツは、其処で、返る言葉が消えたことを、理解する。 「……嗚呼」 けれども、彼は言葉を告げた。 「なあ、綺麗だなァ。本当にさ」 空に映る、射手座そのものに。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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