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<学校の怪談>人喰い鏡と在りし日


「さてまいちゃん」
「……何スか、あいちゃん」
「今回から参加の方々の為に、おおまかな流れの説明をしようと言うのですよ」
「ああ、なるほど……」
「まあ、まいちゃんにまともに答えられるとは思っちゃいませんけどね」
「ひどっ?! ……まあボクもそうは思うッスけど。では再現スタート!」
 リベリスタ達を置き去りに漫才をやっていた二人の少女は、やおら立ち位置を入れ替えてポーズを取って、一旦静止。
「それで?」
「いやあ……何というかっスね」
 頭ぽりぽり。
 腰に手を当て、何やらぷんすかとしているのは狐耳と狐の尻尾の少女、東屋あい。
 正面で正座している狸耳に狸の尻尾の東屋まいに、どうにも反省の色はない。
「いや、こうなるとは思ってなかったッスよ! それはあいちゃんだって同じでしょ?!」
「それはまあ……そうですが」
 二人が会話をしているのは、とある小学校。
 彼女らが幼少時代を学び、笑い、泣き、そして卒業していったその学び舎は、長い年月の末に晴れてその役目を終えた。
 もはや訪れる者のないその学校は、このままただ静かに朽ちていくのを待つのみ。そのはず、だったが……
「だからって、これはあなたの責任ですからね」
「えっ!?」
 ぷんすかぷんすか。
 予め言うが、東屋あいは別に怒っているのではない。
 ただ、いざと言う時に『私はこの件など与り知らぬことです』と言い張る為のアピールにすぎないわけだ。
 とはいえ、色々と双子の姉(その差1分30秒)に頭の上がらないまいにそれを崩せるわけもなく。ただただ、正座の憂き目なのである。
 閑話休題。
 二人がいるのは、既に廃校となり、役目を終えたはずの学舎の前である。
「はあ。まあ良いです。寛大な私は許してあげましょう」
「あれぇ、何か……」
「それで?」
 異論は差し挟ませぬ。
 主に保身のために。
「現状を完結に説明しなさいな」
「小学校、総結界化ッスね♪」
「なんたる……」
 こればかりは、二人そろって笑いあって、そして肩を落とすのだった。
 先だって、彼女らの思い出作りの為に、この学校の七不思議の調査が行われたのだ。
 本来の危惧に沿ってD・ホールは破壊されたのだが……その余波は、未だますます健在。どころか、折角眠っていた怪異が、呼び覚まされてしまったのである。
 それも、調査に協力したリベリスタの思念をトレースする形を取って。
「でもッスね。でもッスね! これはチャンスッスよ!」
「なにが?」
「予定とは少し違うッスけど、これもひとつの思い出作り! 去り行く校舎に、ボク達の手で引導を渡すんスよ!」
「またもう、あなたは」
「あいちゃん! 勿論手伝ってくれるッスよね?!」
「何にも反省してませんね」
「勿論みなさんも!!」

 そこでまいは、リベリスタ達の方へ向き直った。
 何人か、呆れた顔をしている者もいる。
「え? どっかで訊いたことある? それはそうですよ」
「だってこれ、前回の再現ッスから」
 茶番に付き合う方の身にもなれ。
 閑話休題。
「これからボク達は、七不思議にひとつひとつ引導を渡していかなければならないんス」
「数は文字通り七つ……で、済めばいいんですけどねえ」
「二番目の怪談は……“人喰い鏡”の話ッス」
「夕方の5時ちょうど、どこかの階段の踊り場にある鏡を覗き込むと……異次元に引きずり込まれるそうです」
「そ、そしてそのまま戻ってこられない、らしく……」
「もうまいちゃん、ビビらないの。そんなわけで。皆さん、その正体、解き明かしちゃってくださいな」




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:夕陽 紅  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年09月01日(土)22:56
●作戦目的
アーティファクトの打破と破壊

●依頼内容
夜見町小学校の七不思議を解明せよ

●NPC
東屋 あい
ビーストハーフ/キツネ・インヤンマスター
暢気で丁寧で小ずるい

東屋 まい
ビーストハーフ/タヌキ・覇界闘士
せっかちで元気でバカ

●アーティファクト『人喰い鏡』
人を異界に連れ去る鏡。物的破壊力では破壊が不可能。
この鏡の存在自体を否定出来れば、自ら消滅する。
 
●判定
鏡に囚われたところからスタートします。
皆さんが囚われた異次元は、何の変哲もない学校生活の行われる異界。
普通と違うのは、永遠に終わらないこと。
この空間は、時間をおけばいずれ脱却することが困難になります。
制限時間内に脱出チャートを最後まで進むことが出来なければ、少し困ったことになるでしょう。

脱出チャートは、言うならばスゴロクのようなものです。
スタートの時点で、皆様はこの世界に何の違和感も持っていません。幸せな学生生活を送っています。田舎の学校の為に学年の垣根もありません。
そこから、皆様の提示した、この幸せで平和な世界に対する違和感を覚える為の手段と思いをフィジカル/メンタル/テクニックに当て嵌め、チャートを進んでいきます。
自身の思いついた判定方法を、自身の得意なステータスに絡めて記述するのが良いでしょう。
場合によっては、常時攻撃に神遠全/魅了・呪いを付加する敵「過ぎ去りし日々の面影」との戦闘に突入する可能性があります。
倒すのは容易ですが、数にきりは無く、またこれを倒すことは最終的な解決とはなりません。
戦闘用のステータスを使ってのRPです。
今ある自分を、力の限り肯定しましょう。


●夜見町小学校の結界
一度敷地に踏み込めば、その人物の思い描く『学生としての姿』に外見が変わります。
学年は小~高校までご自由に。制服は着用のこと。
プレイングにて指定のない場合は自動的に小学生となります。

・リベリスタ達の活躍により、結界に囚われていた『時間』が解放されました。


●STより
ノスタルジック怪談再び。
夕陽 紅です。
戦闘なしと思う無かれ。心が折れればフェイトも減ります。戦闘不能にもなります。
形は違えどこれも戦闘。よろしくおねがいします。
ゆうやけこやけでひがくれて。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
プロアデプト
雪白 万葉(BNE000195)

三条院・詩姫(BNE000292)
ナイトクリーク
草臥 紅葉(BNE001702)
ホーリーメイガス
★MVP
アンナ・クロストン(BNE001816)
ホーリーメイガス
エリス・トワイニング(BNE002382)
インヤンマスター
高木・京一(BNE003179)
レイザータクト
ミリィ・トムソン(BNE003772)
レイザータクト
アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)

●午後二時
 ――そんな夢を、見た気がしたんだ。

「……じちゃん」
 標高も高いし、夏は日差しが強い。
 でも、風通しは随分良いから、窓を開けて傍に立って居る。
 風の音が耳をくすぐって、随分まぶしいので、涙が出た。
「紅葉ちゃんてば!」
「ふ?」
 『もみ婆』草臥 紅葉(ID:BNE001702)が振り返る。栗色の毛が風に揉まれて、ずり落ちそうになった眼鏡を慌てて支えた。
「なんやろ?」
「なんやろ、じゃないよ。もう、私の話聞いてた?」
「えと……」
 何だっけ。
 自分は、誰で、何をするために……
 ああ、そうだ。
「宿題教えて欲しいんやったっけ?」
「そうなんよ!」
 眼を潤ませ目の前の友達は手をばたつかせるので、彼女はしょうがないなあと言う風に笑う。
 色彩は豊か。どこにも行かない袋小路の色。もう仕様が無い。
「せやねぇ。今日の日誌書いたら、手伝ったげるわ」
「やたっ、さすが委員長!」
「もう、こんな時だけ」
 ――あれ、あたし、委員長だっけ?
 ああ、そうだった。この間の学級会でそう決まったんだ。忘れっぽい自分に軽く呆れながら顔を上げる。
「よしよし、これで後顧の憂いはなくなった。っていうわけでさ!」
 急にその女子が振り向いたので、『子煩悩パパ』高木・京一(ID:BNE003179)……もとい、高校生の高木 京一は少し驚いた。別に聞き耳を立てていたわけではないけれども、狭い教室だし人も少ない。全員友達のような感覚だが、突然話しかけられれば驚くに決まっている。
「何が、っていうわけなのさ」
 彼の口調は、年齢に相応しく砕けた印象がある。困惑する顔を見て、友人の女子が目を細めた。
「やぁ、京一くんはかーわいいねえ。もみっちゃんもそう思わない?」
「んぇ?」
 紅葉が首を傾げてきょとんとした。
「せやねえ。顔とか、わりと可愛らしいと思うなあ」
「何を言ってるのかわからないよ」
 頬を掻く。
 京一自身、それほど自身の顔に頓着があるわけでもないが笑われているのが若干気になる。ともあれ、悪意がないから良しとしよう。
「で、何だっけ」
「そうそう、どっか遊びに行こうって言う話だよ!」
「遊びに、ったって、こんな村でどこに?」
「やーねぇー、こんな村だからこそ出来ることって、あるじゃないの!」
 けらけらと笑う少女の真意はわからないが、娯楽に飢え気味なのも確かだ。退屈であくびが出そうな日々。京一としても異存は無く、紅葉もそれを見て笑う。陽だまりの中に、ふと

 腕の中

     おさなごの

 ……少しだけ、頭痛がした。
「それじゃ、お楽しみの為に今のうちにお勉強しよか?」
「あーいっ」
 何も問題はない。世界は平和で、地球は何事も回っている。閉じた世界に悲劇はない。惨劇もない。何も変わらず、全ては幸福だ。
 全く以って、何も問題ない。

●正午丁度
「ああ……」
 じわじわじわとセミの声。
 雪白 万葉(ID:BNE000195)の額には珠のような汗が浮かんでいた。空に手をかざす。指と指の間から見える太陽は容赦なく照り付けて、とてもではないが直視できない。
 目が眩んだ。
「暑いですね」
「んっと、こんな時間に体育なんてやってられっかってェ……」
 万葉が口を開くより先に、アルフォンソ・フェルナンテ(ID:BNE003792)が言った。追随するようにもう一人の男子がぼやく。
 数人の男子連中は校庭で空を仰いでいる。日本の夏は、例え長くその地に留まっていたとしてもなかなか慣れるものではない。結局二人してうだうだと座り込んでいると、空に砂埃が俟った。三人の眼前に影が落ちる。
「こらそこ、サボんない!」
 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(ID:BNE001816)が眉を吊り上げて仁王立ちしていた。
「げっ」
「いえ、サボっていたわけでは……」
「言い訳しないの!」
「……観念しましょう。何せ委員長ですし」
 なにおう、と腰に手を当ててアンナはぷんすかしている。彼女ら中学生は校庭で体育の授業の真っ最中だ。
 何はともあれ、水道の蛇口をひっくり返してカルキくさい水をがぶがぶ飲みたいというのが彼らの共通認識だとして、その欲求に真っ向から敢然と立ち向かう彼女の姿は一種神々しくもある。
「ははっ。アンナちゃんも随分馴染んだよにぇー」
 後ろから女子。
「転勤族な親の為に常ごろから振り回されていたアンナちゃんはさ」
「……なに、その説明口調」
「まーま。で、どう? この学校」
「そうね……」
 目を閉じて思い返す。
 前の学校で、ガイジンガイジンと言って来た男の顔がフラッシュバックしてちょっとむかっと来た。とかく彼女の容姿は目立つ。それ故に起こるよしなしごとも勘案し
「うん、けっこう好きかな?」
「私もアンナちゃん好きー!」
「そんな話はしてないわよ!」
 きゃーきゃーと騒ぐ女子達。走り幅跳びの測定中の彼ら、次は男子の番だ。いつまでもサボってはいられないと立ち上がり始める。
 その時ふと、アルフォンソは万葉の手元に目を留めた。
「あれ。その紙、何ですか?」
「ああ、これは……」

●ゆうがた、よじくらい
 エリス・トワイニング(ID:BNE002382)が捲ったページは、丁寧に革張りされた中身の交換できるタイプの日記帳だ。
 ぱらり、ぱらり。
 紙の音は夕暮れの教室に差し込んで、人々を捕まえて離さない。
「日記なんて、つけてたんですね」
「……あ」
 『戦奏者』ミリィ・トムソン(ID:BNE003772)が後ろから覗き込んで、エリスの声が短く漏れた。『宵闇の黒狼』三条院・詩姫( ID:BNE000292)はそれを見て僅かに目を細める。
「日記! いいッスね!」
「過去っておおむね振り返るには辛いものだったりしますけどね」
 破顔する妹、まい/冷笑的な姉、あい。
 どちらも小学生としてはよくある光景。
「でも、どうして日記を?」
「……ん。色んなことが……書いてあるから」
「辛いこと」
「悲しいこと」
「うれしいこと」
「そんな感じッスか?」
「そう」
 彼女らが居るところだけ、時間が止まったような気がする。
 停滞。
 ゆるゆるとすぎる時間。
 ぬるま湯。
 あるいは、どろのぬま。
 足を動かしたとしても、身体は進まない。
「おい」
「あ、先生」
 ミリィが目を瞬かせる。
「いつまで残ってんだ、さっさと帰れよー?」
「それは……無理」
 エリスの反駁。
「何でだ?」
「えっと……」
「ああ、いい、いい」
 答えようとするのを、手で制する。
 教師はこの長閑な村に相応しくくたびれた印象のある中年男性で、少し時間の流れが他の人と違う印象すら受ける。
 それとも、或いはそれが、この場所に合った精神の形なのかも知れない。
 そしてまた或いは、この世界の――
「ありゃまた、何でッスか?」
 エリスの思考の環は、途中で切られた。東屋 まいはスっとぼけた顔をして教師に訊く。
「さあな。お前らが放課後何するかまで責任取れるかってんだ」
「そうそう、福利厚生ってことですね」
「こまっしゃくれたこと言うなよ、ガキなんだから」
 あいの頭をこつんと小突いて笑って、中年教師は教室の外に出て行った。
 娯楽に飢えているのは、どこも同じと言うわけで。
「この場合、間違っているのは私達なんですよね」
 遊びに残るから、というのではなく。
 わざわざ野暮なことを訊いたという意味で。
 ミリィは呟くと、深呼吸をして気持ちを切り替えた。
「エリスさん。それにあいさん、まいさんも。少し遊んでから帰りません?」
 昨日と同じ今日、今日と同じ明日。
 世界はいつだって同じように時を刻み続ける。
 この平和な日常が、何気ない日々が、永遠に続くかのように。
 だから、耳鳴りなんてしなかった。
 ――ミリィさん。
「たまには、そういうのもいいじゃないですか」
「ならですね、こんなのはどうですか?」
 そういうことで。
 それでいいじゃないか。


●十六時五十九分
「で、どうしてこうなったんやろねえ」
「あ、あはは……」
 紅葉と万葉が顔を突き合わせて苦笑する。
 よくよく考えてみればこんな片田舎に娯楽なぞそうそうあるわけでもなく、とすればたまのイベントにかち合うのも珍しくないわけで。
 七不思議のふたつめ。
 人喰い鏡の話。進む秒針。
 息を呑んで、足を止める。
「みんな、シーッ!!」
「あなたが一番うるさいのよ、まいちゃん」
 時間が進む。
 誰も彼も、きっと本当に体験したいのは怪現象なんかではない。
 五十。五十一、五十二、五十三、五十四。五十五。
 こうやって全員で顔を見合わせて、一緒にいる時間がきっと一番楽しいわけで。
 五、四、三、二、一。

 一、二、三、四、五……
「やっぱり、何もなかったわけですね」
 頂点を通り過ぎた秒針を眺めてアルフォンソが肩を竦める。
 予想通りが半分、期待はずれが半分。やれやれと頭を振りながらぞろぞろと彼らは帰っていく。
 ただ一人、自分の腕時計に目を落としたままの男を除いては。



「もんもし?」
『高木です』
「ありゃ、どったん」
『何か、忘れているような気がして……』
「ふん?」
『時計を見たときに、思ったんです』
「……京一くんさあ、何で敬語なの?」
『え? あ、何でだろう……おかしいね、同級生なのに』
「いいんだよ」
『え?』
「いいんだよ。考えなくて。今、何か困ったことはある? 悲しいことは? 辛いことは?」
『それがわからないんだ』
「そう。でも、いいじゃない。考えないでさ。わざわざ辛い思いをすることなんてないよ」
『……』
「じゃねー」
 切れた電話を片手に、親の呼ぶ声も聞こえず。
 階下に向けて京一は、ごめんなさい、と呟いた。


 ひとつひとつ。
 定期テストの成績表。自慢じゃないけど、彼女は手を抜かない。今まで受けた試験は全部ファイリングして取ってある。
「……私、『いつこの学校に転校してきたの?』」
 転校の記憶が残ってる以上、ずっとココに居たわけじゃない。
 何処かのタイミングで移ってきた筈。……でも、いつ?
 それを訊くと、電話の向こうの彼女は、困ったように黙り込んでしまった。
『いつだっけにゃあ。にじゅうねんくらいまえ?』
「ふざけないで!」
 眉を吊り上げてアンナが怒鳴る。
「……私ね、転校は嫌いだったのよ」
『……』
「馬鹿にされたり、詰られたり、でもやっと仲良くなって、それですぐお別れ会。ふざけんなって思わない? でもね」
 すぅ、と息を吸う。
「だからこそ、ひとつひとつ、全部覚えてる。絶対忘れたりしない。ねえ、まじめに答えて。私は、いつからここにいるの?」


「二十年……そうですか、そんなに」
 万葉は肩を竦めた。手首にはブレスレットが嵌っている。どう見ても彼の趣味ではないそれを眺めている。
「それで、私は誰なのか……どうにも、ね。誰……いや、何者? 私は……」
『いいじゃない』
 電話の向こうの声は弱弱しかった。
『考えることなんてないよ。苦しむことなんてないよ。違和感なんてないんだよ。ここにいていいんだよ』
「居て、いい……」
 頭を振る。


 やっとはっきりと思い出せた。
 どこかで見たことがあると思った自分の姿。当たり前の話だけど、それは良く見たことのある顔で……そう、孫がいれば、例えばこんな顔だったはずだ。
 そう思ったときには、もう雪崩れていた。
「あたしゃ孫の居るおばあちゃんやよ」
『へ? 何いってんのもみっちゃん、そんなに可愛いくせに! ムギィ!!』
「あはは、ありがとねぇ」
 そう言う少女の目元には笑い皺が寄っていた。真っ当な老化なんて望むことも出来ない彼女にとっては、それもまたひとつの嬉しい出来事だった。
「でもなぁ。あたしの時間はもう、終わっとるんよ。ありがとな」
 脳裏をよぎる色々な光景。
 それは例えば男の姿であり。
 例えば少女の姿であり。
 色々な記憶はそれこそが紅葉を構成する諸要素であり。


「だから、奪わないでください……!」
 気付けばミリィは、身を乗り出すように電話に喰らい付いていた。友達の声が聞こえる。耳元ではなく、こころの奥で。
『ミリィちゃん……?』
「大切な最初の友達も、私の学校も、ここにはいない。だから……」
『いいんだよ』
 甘く囁く。
 囁きは少女の姿を取っていた。
『誰かの代わりはいない。でも、心の穴の形は意外と変わるものなんだよ。大丈夫、ちゃんと塞いであげる』
 囁きの意味はよくわからないから、余計に身を委ねたくなる。
 ――もう、いいかな。
 一度、目を閉じた。
「……ここは、幸せな場所ですね」
『うん』
「あなたはきっと、優しいんですね」
『優しくされたいだけだよ』
「それでも、友達ってそういうものですよ」
 今のミリィにはきっと、それがわかる。
「だから、ここには居られません」
「何故?」
「辛いけれど、積み重ねた日々がある。私の名を呼んでくれる仲間が、友達が居る」
 千の夢よりも一つの朝を。明日への一歩を、踏み出したい。
『……なんで、そうまでして』

「いい加減にしろ!!」
 アルバムに掌を叩き付けてアンナが叫んだ。
「この記憶は私の物だ! 勝手に良い話にして上書きするんじゃない!」
 誰もが同じように思った。そして憤った。
 時間を奪うな。
 自分を奪うな。
 その叫びは、誰かに届くこともない。
 ただひたすら、内向きに。
 だから、その叫びはどこかに届いた。
 何かに、ひびが入る音がした。


●ごじつだん。
「思うにッスねえ」
 まいが鏡の破片をつつく。
「こういう怪異って、悪意だけで構成されるっていうのがまずもう固定観念なんだと思うんスよ」
「またあなた、不用意に触って」
「まあまあ。いいじゃないッスか」
 あいが溜息をついた。
「……悔しいですが、この件に関してはこのポンコツ狸の言うとおりかも知れませんね」
「締まらないッスよねえ。最後の言葉が『ごめんね』って」
「ま、解決できれば同じようなもんで。皆さんお疲れ様です」
「何人か、むりやり鏡から引っぺがされたもんでしばらく療養のようッスが……命あってのものだねッスよ」
「……果たして、鏡の中に残った意識は生きているといえるのでしょうか」
「そればかりは、何とも」

 暴力的なまでに優しい時間。
 おいでませ、優しい空間。
 たまには逃げておいでませ。
 癒されたならお帰りなさい。
 ちょっとばかり強引すぎたが、そんな風な逃げ場という役目も学校の役目だったのではないだろうか。
 とすれば、あの鏡は一体?
 知るものは既に無く、ただアーティファクトの破損という結果が残ったのみである。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
遅くなりました。申し訳ありません。

イベントシナリオでもベリーイージーでもないので、普通にリソースは減ります。意識していただければ。
リプレイを見ていただければ、各自の行動が成功したのか否かは大体わかっていただけるかと思います。

MVPにはごまかしようのない自己認識をされてしまったアンナさんに。お手上げです。
さて、今回変り種だったので、次回はまっとうに(?)戦闘になるかと。
ご縁がありましたら、よろしくお願い致します。