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閉ざされし眠りの森、72時間の死闘


 すっかり日が高くなった後も、その森では全てが寝静まっていた。

 獣も、虫も、草木すらも。
 未だ明けない夜に魂を奪われ、穏やかな眠りに身を委ねている。

 ガラスの棺に眠る姫君でもいれば、それはおとぎ話そのものの光景だったかもしれない。
 眠りを覚ますはずの王子様も、ここではきっと眠ってしまうだろうけれど。

 ここは、眠りに閉ざされし深き森――。


 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達を前に、『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)が依頼の説明を始める。
「今回の任務は、森に大量発生したE・フォースの対処です。
 ……ですが、一つ大きな問題が」
 問題? と聞き返したリベリスタに頷き、和泉は言葉を続けた。
「このE・フォース――仮に『サンドマン』と呼称しますが、これには実体がなく、物理・神秘を問わずあらゆる攻撃が通用しません。
 つまり、通常の戦闘において殲滅するのはまず不可能ということです」
 ある意味絶望的な宣告ではあるが、それで終わってしまうのでは話にならない。
 わざわざ召集をかけた以上は、戦闘以外に解決策があるということだろう。
 案の定、和泉の話にはまだ続きがあった。
「『サンドマン』は生物の『睡眠時の脳波』を感じ取ることで自らの存在を維持しており、『覚醒時の脳波』は彼らにとって害になります。
 そのため、自分達のテリトリーに踏み込んだ生物をあらゆる手段で眠らせようとしますが、それでも眠らない生物が多くいた場合、耐え切れなくなって自ら消滅してしまいます。
 現場に赴き、『サンドマン』の消滅まで眠らずに起き続ける――これが今回の任務です」
 とにかく、何があっても徹夜を続けろということか。
 E・フォースの仮称が、ドイツの伝承に登場する睡魔(ザントマン)と同名であることも頷ける。
 しかし、期限もなくひたすら耐え続けるのは厳しいのではないだろうか。
 そんなリベリスタ達の言葉に、和泉は心配御無用とばかりに口を開いた。
「万華鏡(カレイド・システム)の未来視によると、およそ72時間後に五名以上が起き続けていれば『サンドマン』を消滅に追い込めるようです」
 ほぼ三日間の完徹。
 これを絶望的と感じるか、まだ何とかいけると感じるかは人それぞれだろう。
 いずれにしても、大量のエリューションを放っておくわけにはいかない。
「現場は深い森の中ですから、キャンプ用具などはアークで手配します。どうか、至急の対処を」
 和泉は事も無げに言って頭を下げると、リベリスタ達を残してブリーフィングルームを後にした。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:宮橋輝  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 4人 ■シナリオ終了日時
 2012年08月22日(水)22:18
 宮橋輝(みやはし・ひかる)と申します。
 年齢を重ねるごとに徹夜ができなくなったなあ、と実感する昨今。

●成功条件
 E・フォース『サンドマン』の全滅。
 (72時間経過後、眠っていないリベリスタが5名以上残っていること)

●E・フォース『サンドマン』
 名前は仮称。あらゆる生物の『睡眠時の脳波』を糧とするE・フォース。
 現場となる森の中に大量に潜んでいますが、実体が存在せず、あらゆる攻撃が効きません。

 反面、生物の『覚醒時の脳波』が弱点であるため、あの手この手で眠らせようとします。
 (脳を持たない生物に対しても見境なく働きかけてくるようです)
 彼らの誘惑をはねのけ、5名以上のリベリスタが72時間眠らずに耐え抜けばシナリオ成功です。
 (全ての『サンドマン』は消滅します)

 眠らないための判定にはウィルパワーとドラマ値、一部のスキル(『睡眠不要』や『鉄心』など)を参照しますが、いずれの場合もプレイングで大幅な修正が加わります。
 具体的に「どうやって眠らずに耐えるか」をプレイングに記載していればより有利になるでしょう。
 (ただし、サポート参加者はメイン参加者に比べてかなり不利な修正が課せられます) 
 なお、一度眠ってしまったリベリスタはシナリオ終了まで復帰できません。フェイト復活も不可です。

●現場
 深い森の奥。獣などは例外なく寝静まっています。任務中に一般人が通りがかる心配はありません。
 3日間を過ごすことになるため、食料や飲料水、キャンプ道具などはアークから支給してもらえます。
 (特別に持ち込みたい物があればプレイングにご記載ください。あまり無茶なものでなければ採用します)

 全力で「寝るなー、寝たら死ぬぞー」をやるためのシナリオです。はっちゃけ歓迎。
 皆様のご参加を心よりお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
ソードミラージュ
富永・喜平(BNE000939)
デュランダル
四門 零二(BNE001044)
★MVP
インヤンマスター
九曜 計都(BNE003026)
スターサジタリー
ユウ・バスタード(BNE003137)
インヤンマスター
小雪・綺沙羅(BNE003284)
ダークナイト
一条・玄弥(BNE003422)
クリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)
クリミナルスタア
藤倉 隆明(BNE003933)
■サポート参加者 4人■
ホーリーメイガス
エリス・トワイニング(BNE002382)
プロアデプト
柚木 キリエ(BNE002649)
レイザータクト
ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)
ホーリーメイガス
平等 愛(BNE003951)



 深き眠りの森に、十四人のリベリスタが足を踏み入れる。
 獣はおろか、虫の声すら聞こえない。
「……静か、だな。……あまりにも」
「草木も眠る……が、丑三つ時どころか四六時中なんスね」
 思わず声を潜める『闇狩人』四門 零二(BNE001044)に、『レッツゴー!インヤンマスター』九曜 計都(BNE003026)が答える。気怠い眠気が、ずしりと全身に圧し掛かるようだった。
 よく見れば、幽霊のような半透明の小さな人影が至る所に見える。
 あれが、今回のターゲット――E・フォース『サンドマン』か。
「眠らせるエリューションですか。
 生物には睡眠は必要ですが、目が覚めないとなると怖いですね」
 そう言ってサンドマンを眺める雪白 桐(BNE000185)に続いて、エリス・トワイニング(BNE002382)が口を開く。
「サンドマン……というと……。
 眠りを……誘う……砂を……目にかけて……眠らせる……妖精」
 本能に訴える誘惑に耐え、72時間眠らずにいることが今回の任務。
「地味に……大変な戦いだ……と思う」
 エリスの言葉に、源 カイ(BNE000446)が頷く。
「武力を用いずに勝つ……時と場合により必要に迫られる場面がありますが、
 今が正にその時なのでしょうね」
 これは、ある意味で自分との戦いだ。
 もしかすると、味方との戦いも有り得るかもしれないが。
「72時間か……結構なげぇな、きつくなりそうだぜ」
 常に顔を覆うガスマスクの下から、『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)がくぐもった呟きを漏らす。ふと横目で計都を見ると、彼女は「今夜は眠らせないZE!」とばかり超絶にイイ笑顔を彼に向けていた。
(っつーか、サンドマンとか眠気とかよりも、何すっかわかんねぇ計都さんが怖いぜ……)
 別の意味で、激しい不安が胸に湧き上がる。
「耐久任務だと? 私の為にあるような依頼ではないか!」
 自信ありげに胸を張る『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)の傍らで、『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)が大声を上げた。
「知ってるか! 二十歳過ぎると時間の流れが急加速しやがるんだ!
 其処を悟ってる俺にかかれば、三日程度をやり過ごすなんてわけないね!!」
 十代~二十代前半の若い面子が過半数を占めるこのチームにおいて、いったい何人が彼の言葉を実感できているかどうかは定かではないが――
 まあ、要はひたすら寝ないで過ごせば良いのだ。全員、そのための対策は考えてきている。
 出発直前にたっぷり寝てきたという『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)が眠気覚ましのガムを噛む隣で、『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)がぐっと拳を握る。
「今回は寝たら駄目って事なのでー。断食しに来ました!」
 自称『ゴール下じゃなくてもリバウンドに定評のある減量系女子』の彼女だが、果たして二段構えの難関を突破することが出来るか。
「72時間とか余裕。キサは絶対に寝ない」
 迷わず言い放ったのは、『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)だ。
 持参したノートパソコンを取り出し、自作ゲームを販売するホームページで『これから72時間後に新作ゲームをUPする』旨を宣言する。
 締め切りを設定して自分を追い込むことで、眠らないための保険をかけようというのだ。
 当然、そのゲームは今から作る。作り置きしてあった素材もあるし、何とかなる筈だ。
「よっしゃー。ボクはやるよ! やるんだよ!」
 見た目は白い翼の美少女天使、中身は……の『ナルシス天使』平等 愛(BNE003951)が、チームの男子を視線でロックオンしつつ気合を入れる。
 零二が、腕時計を見た。
「……あと71時間55分30秒。いこうか」


 まだ昼だというのに、やけに体が重い。
 サンドマン達が細かい粒子を撒き散らしているのが見えるが、あれが眠気を促進しているのだろうか。
 藪から棒に、『√3』一条・玄弥(BNE003422)がお経を読み始める。
「南無三! 皆寝てしまえ!」 
 明らかに嫌がらせだ。周囲のメンバーが、こぞって止める。
「やれやれやなぁ」
 肩を竦める彼をよそに、計都がエネミースキャンでサンドマンを解析した。
 例の粒子の他、幻覚や幻聴を操るらしいが――。
「数が多すぎるッスね」
 サンドマンは、森全体を埋め尽くす勢いで無数に溢れている。下手に分散するよりは、一塊でいた方がまだ対応がきくだろう。
「まじめなはなし、疲れないことと、
 てきとうなテンションをたもつことがだいじな気がする」
「極力、昼は日の光を浴びるようにしましょう」
 『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)の言葉に、カイが頷く。結局、地道に耐えるしかない。

 まずは、零二の提案でキャンプを張ることにした。三日間を過ごす拠点であるから、環境は整えておくに越したことはない。
「睡眠不足以外でなるべく体力を消耗しないようにしないと、ね」
 木々の隙間から夏の日差しが照りつける中、計都は大胆にも水着姿で動いていた。
「いやぁん! あたしの魅惑のボディに、男の子たちの視線がト・リ・コ?
 これじゃ、興奮して眠れなくなっちゃうッスね。うふーん♪」 
 セクシーポーズの直後、一瞬の沈黙。
「……いま、『えー?』って顔したヤツ、一歩前に出て歯を食いしばれ」
 隆明を手招きする計都。ほぼ名指しである。
「言いがかりだー!」
 しばらくして、目尻に涙を浮かべる隆明の姿があった。
「くそっ、この人といると碌な事にならねぇ……チクショウ」
 耐えて。

 次は、食事の支度だ。
 食べ過ぎは眠気を誘うが、何も食べないわけにはいかない。
 カイが桐持参のダッチオーブンでシチューを作り、その傍らで桐がバーベキューの準備を手際良く進める。
 すっかり準備が整い、リベリスタ達がかまどを囲み始めた頃。
 その様子を、垂涎しながら凝視するユウの姿があった。この芳香は、ダイエットの敵だ。
「美味しいですよ?」
 ユウの目の前で、桐が程よく焼けた肉をちらつかせる。
 ごくりと喉を鳴らした時、隆明がその肉をさも旨そうに食った。
「この染み出るジューシーなんて言葉では表せない肉汁……
 噛めば千切れるが、けして硬くはない絶妙な弾力……
 こんな肉を食べれるなんて、俺は、俺は幸せだぜ……」
 これも眠気に耐えるべくダイエットに挑む仲間への気遣い……というかワザと煽ってるだろ君ら。
 特に隆明、目がニヤけてるし。
 すきっ腹を抱えて指を咥えていたユウが、とうとう立ち上がり――
「もー、どうして毎日ちゃんとヒゲをあたらないんですかー!
 ホントにあの人はどうしようもないフォーチュナですねー!!」
 思い出し怒りの上、酷い八つ当たりをぶつけ始めた。
 というか今回居ないし。この依頼アレの担当じゃないし。
 まずは水でも飲んで落ち着いて、ね?

 そんなこんなで夜。
 サンドマンがもたらす眠気にも少し慣れ、初日ということもあってまだ全員が元気だ。
「暗闇では、自然と身体が眠りへ誘導する物質を分泌し始めてしまうからね」
 そう言って焚き火に薪をくべる零二の向かい側で、計都が驚きの声を上げる。
「うわっ、真夏の森なのに、ぜんぜん虫に刺されない」
 普通なら火に寄ってくる筈だが。
「夜ゆっくり眠れたら、最高のリゾートなんスけどね……」
 溜息に、玄弥の含み笑いが重なる。彼の手には、大量のドリンク剤が握られていた。
「夜も元気にびんびん印、これ一本で何発でも大丈夫やでぇ!」
 セクハラまがいの発言を軽く聞き流しつつ、涼子が口を開く。
「そういえば、朝までおきてたことってないな。
 昔は、除夜の鐘を聞こうとがんばったことぐらいはあったような、気もするけどさ」
 体を伸ばし、目を閉じてゆっくりとストレッチ。
「まあ、わたしはともかく、みんなは夜強そうだから、なんとかなるといいね」
 ふと顔を横に向けると、ユウが腹を抱えて蹲っていた。
「あいたたた……水を飲み過ぎてお腹が……」
 あまり何とかなりそうじゃない。

 お泊り用にモルぐるみ持参のエリスが、ランタンをお供にクロスワードパズルを黙々と解く。隣で、綺沙羅がキーボードを一心不乱に叩いていた。
 もともと、不眠不休のPC作業には慣れている。ESPと感情探査で敵味方の動向を気にかける余裕すらあった。アロマの芳香で、集中力アップも万全。
 一方、喜平はというと。
 襲い来るサンドマンにすらガン無視を決め込み、一人静かに座禅を組んでいた。
 天地合一、森羅万象の一部となる勢いで……って、あの。
 なんだかガチで置物みたいになってますけど。もしもーし、喜平さーん?


 あくる朝。
「お腹が……」
 鶏の代わりに時を告げたのは、空腹を極めたユウの声だった。
「お腹がすいたよ―――――――!!!!」
 意志の力を総動員して、必死に耐える。燃えよウィルパワー。

 こちらは、一人座禅大会続行中の喜平。
 最も危ない明け方を無事に乗り切った彼は、まさに不動の構えだった。
 心の隙を埋めたものが、ここに書くのが憚られそうな桃色全開の妄想だったことは、この際追及するまい。
「適度に動き、脳を刺激……と」
 カイが、深呼吸の後に柔軟体操を始める。
 腕時計で20時間経過を確認した零二が、点呼を取った。まだ、全員が起きている。
「眠気覚ましの散歩は複数で……」
 皆に提案する彼の耳に、ひどくゆったりとした、単調なメロディーが届いた。
 どうやら、サンドマンが奏でているらしい。
 裂帛の気合で追い散らし、零二は小さく息をつく。
「事態がこれ以上深刻な事件に発展する前に、なんとかしないとね」
 子守唄攻撃をイヤホンで防いだ涼子が、ハーモニカを取り出した。
「……三日は長いな」
 眠くならない曲を選んで演奏する彼女に、隆明が缶コーヒー片手に声をかける。
「トランプでもするか? ポーカーとか」
「そっちに付き合った方がいいかも」
「あ、僕も」
 体操を終えたカイも加わり、三人でポーカー。
 結果は、千里眼で容赦なく勝ちに来たカイの圧勝でしたとさ。ずるい。

「最低限にせなぁ」
 玄弥が、飯盒から白米を軽く器に取り、塩を振る。
 ほぼ全員が、眠気を防ぐため食事量を腹五・六分目に抑えていた。
「うう、白いご飯が恋し過ぎます……!!」
 未だ水以外は口にしていないユウが、恨めしそうに言う。
 逃げるように視線を逸らすと、数人が生欠伸をかみ殺していた。
「寝るなー! 寝たら煮るぞー!」
 空腹と徹夜で、ユウさんちょっと壊れ気味。
「眠気覚ましです、これを飲んで」
 カイが、眠気をもよおしたメンバーに濃い目の珈琲を振舞う中、綺沙羅は自前の紅茶をお供に作業集中。データのバックアップをまめに行いつつ、リズミカルにキーを叩き続ける。
 新作のゲームは、悪いサンドマンに眠らされた人々を救うために立ち上がった子供達が、囚われた夢の守護者を助け出す――というパステル調のファンタジー。
 時間制限はあれど、あらゆる工程に手を抜かない。
(キサは嘘は嫌い。嘘は尽きたくない)
 72時間で公開すると、宣言したのだから。死ぬ気で完成させる。
 鬼気迫る彼女の傍らでは、キリエが鈎針でニット帽を編んでいた。
 この年末までもたないだろうと言われている、母方の祖母のために。
 無駄になるかもしれないし、時期が早すぎると笑われるかもしれないけれど――
 うん、ごめんなさい。まさか、この依頼で泣かされるとは思わなかった……。


 サンドマンが眠りの砂を撒く中、時はゆっくり過ぎていく。
 振り付けを交えて歌い、眠気を紛らわせる桐の瞳に、ふかふかの布団が映った。
 これもサンドマンの幻覚か。
 耐久レース開始から約30時間、そろそろ睡魔に屈しかけるメンバーが出る頃である。
 ふらふらと幻の布団に横たわる仲間を、桐は両手で揺り起こした。
「リベリスタは眠らないのもお仕事」
 台詞が微妙に理不尽だが、まあ良いか。 
 鉄心で誘惑を跳ね除け、予備の電池を山積みにして携帯ゲームに励んでいた計都が、眠りかけていた一人にデコピンする。
 目を覚ましたところに、隆明が冷えた缶コーヒーを頬に当てた。ナイス連携。
「それ飲んでちっと散歩でもして来な。マシになるぜ」

 そんな中、愛は眠気覚ましに背の翼で宙を舞いつつ男子をガン見。
 眠そうな男子を『起こしてあげる』ためだ。
「全然、下心とか全くないわけでもないんだけどね!」
 きゅっふっふっふっふぅ、と彼の含み笑いが響く。
 怖いよ! 寝たら何されるかわかんないよ!
「面白いことになってきたなぁ、おぃ」
 自分の爪の間に針を刺していた玄弥が、座禅しながら船を漕ぐ喜平に歩み寄った。
「一発でめぇさまさしたるわぁ!」
「全力で断る!」
 すんでの所で跳ね起き、持参の一味唐辛子をあおる喜平。
 愛と勇気で飲み干したそれは、ただ、ひたすらに辛かった――。


 50時間が過ぎた頃、とうとう脱落者が出た。
 絶食を貫き続けたユウが白いご飯の幻覚に屈したのを皮切りに、エリスと愛が相次いで眠りに落ちる。
 玄弥が三人の懐から財布をすろうとしたのは、当然ながら周囲に阻止された。

「増殖性革醒現象とかなければ、不眠症の人とかには凄く便利な森なんでしょうけどね……」
 瞼の重さに頑張って耐えながら、桐が呟く。
 序盤はかなり余裕を残していた彼も、流石に消耗を隠しきれない。
 濃密な眠気、絶え間なく襲い来る幻を振り払うように、ベルカが叫んだ。
「私を誰だと思っているのだ。シベリア生まれの三高平育ちだぞ!」
 シベリアで数えた木は数知れず、自称『単純作業とノルマの申し子』は、やや座った目で神秘の閃光弾を手に取る。
「――私は眠るなと命じられれば、絶対に眠らない!」
 ちゅどーん。
 炸裂した閃光と轟音のあおりをくった隆明が、フラフラになりながら抗議する。
「馬鹿かお前、馬っ鹿じゃねえのか!? またはアホか!?
 それは人を起こすためのモンじゃねぇだろ!?」
 段々、各自の台詞に遠慮がなくなってきた。
 玄弥など、すっかり手段が目的に入れ替わってしまっている。
 銅鑼を鳴らしたり、爆竹に火を点けて投げたり、挙句……いや、これ以上は言うまい。
 とにかく、様々な手を尽くして嫌がらせ、もとい安眠妨害に勤しんでいたが、限界を超えた眠気はあらゆる刺激に勝る。
 そろそろ60時間に達しようとした時、キリエが、ベルカ、奮戦空しく睡魔の前に散った。

「知ってるか! 人間は睡眠を取らないと幻覚をみるんだ!
 でも今俺の目の前に居るベリーステキな女性は幻覚じゃないね!!
 いや例え幻覚でも俺はイクネ!」
 座禅を組んだまま、あからさまにヤバいことを言い出した喜平に、カイが駆け寄る。
 もはや、珈琲でどうにかなる段階ではない。
「依頼遂行の為……涙を呑んでの荒療治です」
 懐から取り出したのは、目薬、ボンベ、タブレット。
 激しい噴射音の後、二発、乾いた打撃音が響いた。
 喜平が、かっと目を見開く。
「悟ったぞ! ……俺は眠い!! 故に寝る!!!」
 いかん、逆の方向にスイッチ入った。
 その直後、喜平が潔く倒れ伏す。
 脱落者をこれ以上増やすわけにはいかぬと、計都がマジックを手にした。
「寝たら、イタズラの餌食っすよー!」
 瞬時に熟睡に陥った喜平の顔に落書きした後、残る仲間達ににひひと笑う。
 絶対この人の前でだけは寝られないと戦慄しつつ、隆明が刺激物を豪快に噛み締めた。
「……くぁwせdrftgふおp!!」
 そして悶絶。
 やっとのことで立ち直り、涙目で問う。
「計都さん、よく平気だな……」
「あたしには最終兵器があるッスから!」
 イイ笑顔で、計都は一冊のノートを掲げた。
 これぞ、中学時代のポエムを綴った黒歴史ノート。うっかり人目に触れようものなら『フェイトの残量によらない社会的死亡の可能性があります』となること確実である。
「ひゃっはー! 一人ベリハだぜ、いえー!!」
 盛り上がる計都を前に、ノートの中身を追及する勇気は隆明にはなかった。

 68時間経過。眠気を隠し切れなくなってきた玄弥に、涼子が拳を構えた。
「……寝たら死ぬよ?」
「寝たら死ぬ! なぜならあっしが殺すからや!」
 対する玄弥は、くけけっ、と笑いながら彼女のつま先を踏みつける。
「ひょひょ~ごっついええ音やなぁ~、おぃ」
 ガラスの板を爪で引っかいて怪音を出す彼を前に、涼子の眉が僅かに動いた。
 リベリスタを本気で殴ったりしないと涼子は決めていたが、今ここで無頼のデコピンぐらいは食らわせてもバチは当たらないかもしれない。
 次第にギスギスする空気の中、零二が武器を己の太腿に突き立てる。
 これで駄目なら、包丁でも借りて陰腹を切るより他にない。
「づえあ!」
 痛みで意識を覚醒させ、眠気によろめく桐とカイに残像を伴うデコピンを放つ。
 というか、皆デコピン好きだな!

 カイが予想した通り、既に味方同士の争いになりつつある戦場を横目に、綺沙羅がスパートをかける。
 嘘は、死ぬほど嫌いだから――必ず、やり遂げる。
 邪魔する味方に閃光弾が数発投げ込まれたのが見えたが、たぶん気のせい。
「終わっ、た……」
 アップロードを済ませた綺沙羅の瞳に、消えていくサンドマン達の姿が映る。
「ほな、あっしはこれで……」
 とっとと寝ようとした玄弥を、我慢の限界に来た誰かのデコピンが沈めた。
「わるいけど、あと、よろしく」
 涼子はそう言うと、地面に身を横たえて寝息を立て始める。
 実に72時間ぶりの睡眠を貪る彼女の顔は、いつもより少し幼く見えた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 皆様のプレイングに色々な意味で笑いが止まりませんでした。
 おかげで、サンドマン達は後半すっかり空気のまま消滅に追い込まれたという。
 やはり、敵は自分(あるいは味方?)の中にいたということでしょうか。

 今回のMVPは九曜 計都さん(BNE003026)にお贈りします。
 別の意味で背水の陣を敷いていた綺沙羅さんと最後まで迷いましたが、社会的死亡のリスクを負ってまで任務に臨んだ、その心意気に打たれて。
 お疲れ様です。当シナリオにご参加いただき、ありがとうございました!