●当方、清純派です。 静かな湖畔のキャンプ場は蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。 始まりは些細で単純な出来事。それは多くの神秘がそうであるような――非情にして甚大な被害をもたらす『悲劇』では無かったけれど。 「きゃあきゃあ!」 「いやー! やめてー!」 「やっ、ちょっ……きもちわるっ……」 響き渡るきゃいきゃいと黄色い悲鳴はそれ相応な切実さを秘めていた。 何せ、この神秘言いようが無い位に性質が悪い。気になる彼女に颯爽といい所を見せようと考える男も最初は居るには居たのだが、既に完全にのびている。 喜劇の坩堝に叩き落された女達は肌をべたべたと這う不定形のスライムに何とも言えない複雑な反応と、 「……んっ……」 みょーに艶かしい微妙なリアクションを繰り返すばかりなのだった。 「だーかーらーたーすーけーてー」 森の中に届かない声が響き渡る。 げに恐ろしきはえっちっち。 恐るべきかな――アザーバイド、えっちっち。 ●どろどろのべちゃべちゃ 「……恐るべきアザーバイドが現れた……」 『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)の言葉に集まったリベリスタはごくりと息を呑んだ。モニターの中で展開する光景はびみょーに青少年の情操教育に良くないような、そうでもないような微妙な展開を見せていた。 「敵の名はえっちっち。識別名は沙織さんが面白がってつけた…… 智親は『イヴにんな仕事振るんじゃねー』ってさっき殴り合ってた……」 「……ややこしいな、あのおっさんも……」 呆れたようなリベリスタにイヴはこほんと咳払いをした。 「私も子供じゃないからこの位は平気。 アザーバイドは何処から出現したのか分からないけど、見ての通り若い女の子が大好き。若くなくても好きかも知れない。少なくとも見た目の綺麗な女の子を見かけると絡みついたりべたべたしたり……やらしい」 「ごくり……」 リベリスタはもう一度息を呑む。 「最初の被害が出たのはそのキャンプ場。このアザーバイドは特徴として男の人が大嫌い。男の人に対しては超強い。具体的に言うとハード以上? でも犠牲者はまだいないよ」 「ふむふむ。手加減……したのか? それは」 「うん。紳士的(?)なアザーバイドなのかな」 それはどうか。かなりどうか? 「若い女の子に対しては見ての通り。ぬるぬるべたべたする上にこう……何て言うか、その成分がどきどきしたり体が熱くなったりする変な成分。 ただし、十二歳以下の女の子に対しては倫理的に正しい行動を取るみたい。 後、しばらく好き勝手すると落ち着いてその場を離れるみたい。賢者タイム」 「……何だそれ……」 やけに恣意的な条件付けは確信犯を感じさせる所。 「リンク・チャンネルはもう閉じてるからやっつけるしかないんだけど……うん、気をつけてね。男の人は危ないし、女の人は別の意味で危ないし……」 「性別不明は?」 「分かんない」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月01日(水)00:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●清純派宣言! 五月の緑風が爽やかに森の中を吹き抜ける。 青空は澄み渡り、大きな太陽は眼窩の少女達+1を燦々と照らしていた。 「……何がどうなってこんなスライムができたんだか。 異世界で造られた生物兵器か何かなのか、これは……」 絶好の行楽日和だというのにキャンプ場には『影使い』クリス・ハーシェル(BNE001882)達以外の姿は無い。 場には沢山のテントやキャンプ道具が使いかけのまま残されている。 閑散とした光景はこの場所で起きた突然の悲劇を告げていた。 「まあいい。変態だろうが何だろうが敵は倒すのみだ!」 五月のキャンプ場を乱したのはクリスの視線の先に佇む不定形の『何か』だった。見上げる程に大きなそれはゼリー状の半透明。つまりスライム。新しい獲物――リベリスタ達を興味深そうに観察していた。 「アザーバイドって初めて! 何か面白いねっ!」 巨大なスライムを目の当たりにして何故か瞳を輝かせたのは『おこたから出ると死んじゃう』ティセ・パルミエ(BNE000151)だった。 その格好は活動的。ノースリーブの白いシャツに赤いチェックのミニスカート。実年齢よりは随分幼く見える中学生位の美少女然とした彼女だが、出る所は案外出ていてすらりと伸びた脚は健康的。 「……あれ? アバーザイドだっけ?」 ティセは猫耳をぴこぴこと揺らし小首を傾げた。合わせてゆらゆらと動いた尻尾に結び付けられた金色の鈴が涼しい音を鳴らす。可愛らしい彼女のささやかなボケはさて置いて、休日のキャンプ場を阿鼻叫喚に染めたそれは――アザーバイドと呼ばれる異世界からの来訪者だった。 此の世の神秘に立ち向かうべきリベリスタ達がアザーバイドと相対するのは運命だ。まだ知らぬ誰かを一人でも多く救う為に。この壊れやすい現世を――守り抜くその為に! 「目指せ、えっちっち撃破! です!」 ……嗚呼。『ドラム缶型偽お嬢』中村 夢乃(BNE001189)の一言で色々台無し。 悪趣味なアークの司令代行によって名付けられたその識別名はこのスライムを実に端的に見事に表していた。 平和なキャンプ場に現れたスライムがもたらした悲劇とはまさに、 (……局員の人に『女性ならこの依頼は安全』って薦められて来たんだけど。 確かに命の危険は無さそうだけど……でも!?) 現場に到着した今更になって十分な挙動不審を演出する『From dreamland』臼間井 美月(BNE001362)の危惧する所のその通り。 「うわあん! 何だよこの生き物! て言うかスライム! 怖い! 主に習性が怖い!」 プレッシャーにいやいやをし始めた彼女が危惧する所のその通り。 花も恥らう乙女なればこそ――ある意味において何よりも恐れる軽くプチてーそーの危機の予感みたいなデンジャーテイスト。 何よりも年頃の美女・美少女が好きだというスライムは危険。マジで危険。 「見た目がグロい上に性格エロいとかどこの世界の存在だよ……うぁ、触りたくねぇ」 顔を顰めて思い切り『引いた』調子で呟くのは『がさつな復讐者』早瀬 莉那(BNE000598)。 「むぅ、若返った事で様々な変化があったが……流石にこういう輩の対象になるのは予想外じゃって!」 ふしゅるふしゅると音を立て、リベリスタ達という極上の獲物に喜びの気配を見せたえっちっちを『巻戻りし運命』レイライン・エレアニック(BNE002137)が複雑そうに見やった。 「えっと……もしかして私は踏み入れちゃダメな領域に足を突っ込んじゃったんじゃ……」 『おじさま好きな少女』アリステア・ショーゼット(BNE000313)は暗澹たる予感にかなり悲壮な顔をする年上の女子達を見回してごくりと息を呑んだ。 (お子ちゃまにはまだ早い!っていう世界になっちゃったらどうしよう。どきどき……) 何せ彼女は十一歳。自重というモノは大切だ。 昨今、我々を取り囲む世相はいよいよ厳しく、官憲の魔手は幻想少女へと伸ばされようとしている。世の中何事も――時と場合を察して空気を読むのは浮世を渡る重要な処世術の一つである。 唯でさえ、あれやこれやと煩いご時勢なのだ。例えそこに瑞々しく弾けんばかりの少女が居たとしても今は耐え忍ぶべきなのである。 忍び難きを忍び、涙を呑んで明るい未来に夢を賭けよう! YAMIDEITEI先生の次回作にご期待下さい! ――閑話休題。 「……だ、大丈夫落ち着け僕。 ち、治療と援護に専念して近づかないように……きっと大丈夫! よ、余裕だよ! 余裕さ!」 自分に言い聞かせるように美月が一人ごちる。 「色とか、大きさとか、感触とか、味とか……え? 食べられないの?」 スライムに興味津々なティセが言う。 「は……! お仕事お仕事。きっちりやっつけるよっ!」 アリステアが事細かに表記すると乙女のプライバシーに差し障りそうな思考から我に返る。 少女達は頷き合った。相手が変態だろうと何だろうと倒さぬ訳にはゆかぬ。否、変態だからこそ今倒すべき―― 「くくくっ、ストーカーに間違われておまわりさんに職務質問された俺を舐めるなよ……!」 ――そんな空気に水を差すような低い男の呟きが虚空に漏れた。 全身を黒ずくめにフードを深く被り、無闇やたらな覇気を発揮する『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)その人である。 「お前の行為は、リア充に通じる! 俺は、そんな行為を許しはしないっ! だが、実は俺だってペロペロしたい。お前が饗宴をもたらすならば、俺はその覚悟を受け止めよう。 行くぞ、えっちっち。フィルムの貯蔵は十分だ!」 デジカメ、ビデオカメラ、一眼レフに双眼鏡。首からバランス悪くじゃらじゃらとカメラの類をぶら下げた竜一は凛と気を吐く。 ――宣誓! 俺は、変態紳士シップに乗っ取り、冷静で紳士な対応を心掛けることを誓います! ●えっちなのはいけないとおもいます。 世界は横に寝そべっていた。 彼は一人考える。今日の予定は完璧だ。大丈夫。きっとやれる。 ――フッ、分かってるさ。流れは必ず来る。耐え忍ぶことも、戦いってな。 分かってるんだ。皆のピンチに颯爽と飛び出す俺。 行くぜ必殺の疾風居合い斬り! やり過ぎはいけねぇぜ。俺だってな、決める時は決めるんだ。 そしたら、皆「竜一君、かっこいい!」ってね。変態は世を忍ぶ仮の姿。やる時はやる男なんだよ、俺は。 その後、撮影なんかしちゃっても「やだもー★ えっちなんだから!」みたいな嬉し恥ずかし…… 「――お前は一体何をしに来たんだ!?」 「というかお主は何をしとるんじゃー!?」 綺麗な顔してるだろ? それで重傷なんだぜ? のっけから腹に一撃を貰い崩れ落ちた竜一に莉那が、レイラインが突っ込んだ。 戦いの始まりは壮絶な危険への予感を告げるそれとなった。 最早竜一はぴくりとも動かない。幸せな夢の中をすいすいと平泳ぎするばかりである。 「お前の出番ここで終了ですから!」みたいなテイストで速攻で竜一を排除したえっちっちは美少女の群れにぬめる視線(?)を向ける。 「こんなアザーバイドが次々出現したらと思うと、泣けてきそうね」 『エーデルワイス』エルフリーデ・ヴォルフ(BNE002334)が呟く。 いよいよ身の危険を感じたパーティの女子達の行動は素早かった。 敵の能力は事前に聞いていたのと微塵も違いが無い。なればこそ時間をかければどういう運命が我が身に訪れるかは分かり切っている。 (し、しかし触れられたらどうなってしまうのじゃろうか…… 興味がない訳ではないが、もし喰らってしまったらどうなってしまうんじゃ! どうなってしまうんじゃー!) 内心の混乱は兎も角として、抜群の速度を生かしてレイラインが敵の懐へと飛び込んだ。 「ええい、何はともあれ全力じゃ!」 半ばやけとばかりに繰り出された一撃がずぶりとスライムの体に突き込まれる。 手応えの無さはかなりのものだが、攻撃を開始したのは彼女ばかりでは無い。 「竜一……(一応)お前の(アレな)事は忘れない」 物事はポジティブに考えよとばかりに莉那が言う。 「そうだ! 竜一、君の犠牲を無駄にはしない!」 クリスが取り敢えず合わせてその場を盛り上げる。 青空の向こうで親指を立てサムズアップする黒ずくめの笑顔が眩しい。 「ゲームではスライムは火に弱いことが多いですよね?」 ぶよんぶよんと揺れ続け、効いているのかいないのか全くもって分からないえっちっちに今度はティセが肉薄した。 「魔法ですっ!」 えらく物理的な魔法もあったもので、ガントレットが焔を巻き拳が軟体に突き刺さる。 ……が、これはまずかった。 「うにゃあっ!?」 めり込んだ拳の装備の隙間からぬめる感触が潜り込んでくる。 全く効果は劇的だった。 「……ん、んんっ……」 背筋を這い登る感覚は少女が感じた事の無い何とも言えない熱だった。 「は、っ……あ……」 聞いた事の無い自分の声にティセは小さく体を震わす。 「うう、べたべたしてて気持ち悪い……気持ち、悪いのにっ……」 少女の頬は林檎のように赤く染まる。 手先から伝わった毒はその身を侵し、熱は彼女に冷静な思考を許さない。 (胸がドキドキするの……もしかして、恋? この人(?)にだったら全てを任せても良いのかも……) 先生、良くないと思います。 「ん……、にゃー……ぁん、にゃああん……」 ――ごくり、と。面々は息を呑んだ。 「い、い、い、いや、いやだああああああ――っ!」 美月が絶叫したのが始まりだった。 早晩毒牙に掛かったティセの様を見れば心の弱い彼女が恐怖に囚われたのは当然とも言えよう。 パーティはえっちっちへの攻撃を展開させたが、士気の問題か混乱の問題かそれに決定打を与えるには到らなかった。 そんなこんなで余儀なくされた乱戦は少女達を次々と混乱の渦へと誘っていく。 「こ、こらっ! 待て、ふ、ふふふ服を溶かすなっ! んっ……く、ぅ……っ……ッ!」 堪える声がかえって生々しく艶かしい。 古来より、クールな美少女を鳴かしちゃれ、啼かしたい――それは鉄則。 「ばっ、やめっ、ちょっ……そこは……こらぁ……」 クリスさん、バーゲンセールのようにいい声をサービスです。 被害は当然それに留まらない。 「てめぇっ! こ、このっ! ひゃんっ! 何処触ってやがる、こぉ、殺すぞ!?」 蓮っ葉な脅しにも全然力の入らない莉那さん然り、 「あ、ああああああ……!? っ、んんんっ……これも若さの、若さの可能性なの、じゃろうか――!?」 ある意味で人生を謳歌し直すレイラインさん然り。 「クロスイージスがここで頑張らないでどこで頑張るんですか! 盾構えて最前線です! 腰が引けてるとか気のせいです!」 はいはい。 「……すとーん、すとーん、すとーんで何が悪いんですかっ! え……? 悪くない? で、でも、こういう事は正式にお付き合いしてから……じゃなくて、えーと!?」 ドラム缶のような(笑)着物の似合うその体型に乙女の夢と願いを存分に詰め込んだ夢乃さんが一気に色々テンパった。 えっちっちの手管は様々色々多岐に渡る。 「……あついよう……きものあついよう……」 ぽーっとした顔で着物を脱ぎ始め、しどけない姿を晒す夢乃さん。 「あああ、しまった!脱いじゃだめだー!? ああっ、でも、あついの……」 上気した頬は自虐する程色気が無い筈も無く。良かったね、夢乃さん。 一方で次なる展開に目をやれば、 「どきどきして体が……はぅ……熱い……です」 触手に捕まった『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)が熱い吐息を漏らしては、 「はぅ……はしたない……こ、こんなの……ひど、ひどいです……」 楚々たる美貌、長い睫に露を宿しては恨めしそうにえっちっちを見やっている。 テンションが上がってきた所で次! 「貴族の誇りを忘れたような醜態は……んぁっ……晒したくない、のにぃ……も、も……許してぇ!」 ふにゃんふにゃんになったエルフリーデがいとおかし。 「く、来るなっ! 来るな……っ、やぁぁぁあああ……っ!?」 必死で逃れようと足掻き続けた『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)が遂に触手に捕まった。 「……っ、ん、くっ……ぁん……っ」 何ていい声。 被害は壮絶なモノになっていた。 えっちっち、そのクオリティはたった一人の例外さえも許さない。 そう、心に誰かの影を抱く――一途なる乙女の事さえも、俺のスライムは許さねぇ! 「寄るなです。触るなです。こっちくんなです。あ゛―――っ(;口;)」 キャンプ場に『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)の絶叫が響き渡る。 まさに阿鼻叫喚。まさに桃色地獄。まさにえっちっち。えっち万歳! 「す、すごい状態なんだよ……!」 余りに酷い有様にアリステアが息を呑む。 惨状の中でもえっちっちは彼女に対してだけは紳士的な態度を崩しはしなかった。 「……何故か飴を貰っちゃった……」 それはキャンプ場の客が残したお菓子だったのだろう。 アリステアを射程に収めたえっちっちは彼女に絡みつく事はなく、横にひょいとどけたかと思うと飴を渡し次なる獲物に向かったのだった。 「よ、良かったような! 喜んでもいられないような!」 未来の美女に乾杯。子供は世界の宝です。 「……質問があるのだが!」 はい、何でしょう美月君。 「僕はここまで被害を受けていないのだが、誰一人の例外をも許さない現実とそれは食い違ってはいないだろうか。 あくまでこれは仮定だが、仮定なのだが。冷静に状況を考え、分析するにこれが見逃して貰えたという事でなかったならば。ひょっとしてこれはあくまで想像でしかないのだが、これはメインディッシュは最後に楽しもうとかいう悪趣味な趣向等ではないだろうか!」 いただきまーす♪ 「……え、何僕死ぬの!? く、来るな寄るなギャー!?」 ……えーと、そんでですね。 リベリスタ達はかくしてえっちっちを撃破した。 「この、この、この……」 微妙に感情的になったクリスがぐりぐりと破片を踏み躙る。 「紳士的で結構良い人(?)でしたね。また来てくれないかな~、なんて……じょ、冗談ですよ?」 最初から最後まで不思議に彼(?)に好意的だったティセが赤面してそんな風に言った。 木に吊るされた竜一がみのむしのようにぶらんぶらんと揺れている。 ジークハイル! ジークハイル! びしょうじょ! りべりすた! シリアスなる戦いは今まさに終わりを迎え、世界はパーティの活躍で在るべき姿を取り戻したのだった(キリッ) やった! シリアス! 完! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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