● 『ラ・ル・カーナ橋頭堡』の防衛戦に敗れたリベリスタ達。 バイデン達の威圧に屈した彼等はボトム・チャンネルまでの撤退を余儀なくされたが、仲間を囚われた彼等は黙ってそれで引き下がる程、大人しい者達では無かった。戦略司令室の判断を早期に大きく動かしたのはリベリスタ達の熱烈な意見――それは即座にラ・ル・カーナに進撃するべしという強硬論であった。 優位が確実な防衛戦に比べ、不利は否めない総攻撃である。確実な勝機は無い。 無いが、時村沙織はこの局面に一つの『追加戦力』の投下を決断する。『万華鏡』によるバックアップの無いラ・ル・カーナにおいてアークのフォーチュナの能力は限定的なものに留まる。最も危険に晒してはならない存在を最前線に投入するのはある意味でのギャンブルに違いなく、リターンが多く望めないならばリスクヘッジを考えねばならぬのは必然だった。 しかし、彼には一つの考えがあった。『フォーチュナは戦闘能力を持たないが故に最前線に投入し難い』。ならば、『戦闘力のあるフォーチュナが居たならば』。そしてそのフォーチュナが『万華鏡に頼らずとも高精度の予知を可能とするならば』。全ての問題はクリアされるのだ。本来ならば避けたい『借り』を代価に『塔の魔女』アシュレイはラ・ル・カーナでの作戦従事を了承する。そして黙っていられないのはアークのフォーチュナ達も一緒だった。苦笑いする沙織も、もう止めない。フォーチュナ達は己が『微力』を振り絞り、危険も厭わずに異世界の地を踏みしめる。剣を持たぬリベリスタ達の戦い、そして剣持つリベリスタ達の戦い。まさに今、憤怒と嘆きの荒野を血に染める復讐戦の幕は切って落とされようとしている―― ● 「もはや、一刻の猶予もありません」 『天照』神宮・てる(ID:nBNE000231)は、中空を見つめて呟いた。 彼女の視力は、ひどく弱い。それは彼女がかつてその予知の力を高めるために施した代償であり、そしてそれにより少なくともこの作戦に参加するだけの力を得たことを、彼女は間違いなく感謝していた。 「リベリスタの皆様が、今、耐えていらっしゃいます。5人のバイデンの侵略に耐え、その力を振るい、強く……強く……意志を保っていらっしゃいます」 彼らのいる場所は、彼女の言う“仲間の耐える場所”にひどく遠い。その場所はボトムチャンネルとラ・ル・カーナを繋ぐ上の要衝だ。 その場所に対して、ここにいるリベリスタ達は丁度、円周上に当たるような場所だ。D・ホールからも砦からも離れ、そこはただ孤立無援。丁度後方から奇襲できる場所といえど、恐ろしい。 だからこそ、行くのだ。 偵察に人を出すわけにもいかない。絶好のタイミングで奇襲をせねば、逆にバイデンにまとめて圧殺もされかねない。 また、この地域一体にはバイデンの偵察がいる。見つかれば、到着することすらかなわないだろう。 だからこそ、ここにフォーチュナたる神宮てるがいるのだ。 「皆様、わたくしのことは……良いのです。今バイデンに捕まっている方の中にはわたくしの生徒もいて、そしてあなた方もまた、わたくしの仲間には違いないのです。そんなあなた方を直接この手で助け出す、その端緒を得ることが出来る……わたくしは、うれしいのですから」 ですから。 すっと、一息いれ。 「皆様、ここでお勉強を致しましょう。古今に於いて、奇襲の常套手段とは何でしょうや」 卑怯のそしりもあえて受けよう。 卑怯な戦術とは、成功すれば勝てるからこそ卑怯と罵られるのだ。それも、猪に限っては。 だからこその。 「わたくし達も、基本に忠実に。さあ、乾坤一擲の一撃と……参りましょう」 戦の部族たる彼らとの戦。 だからこそ試す価値がある。 仲間を守る。彼らとは違う、その意志の為に。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕陽 紅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月22日(水)23:50 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 「フォーチュナを直接戦場に投入、ですか……もう少し上手くやれていればこんな危険を犯す必要も無かったのですが」 ユーキ・R・ブランド(ID:BNE003416)が眉根を寄せる。顔に塗りたくったこの荒野由来の泥は赤茶けていて、それが原初の召霊士にも似た雰囲気を纏っていた。 「それは違います。ユーキさん」 てるがゆるゆると首を振る。 「わたくしは、自分で決めたのです。過去の如何とは別の領域で――だから、そう。つまり……わたくしが、やりたいのです」 「そうですか」 ふと笑う。 「ならば、これが終わったらまた、お酒でも飲みましょう……てるさん」 「はい、必ず」 頷いたのを見てから、ユーキは漆黒の鎧を身に纏う。影から身を乗り出し、敵の目のないことを確認するとするすると進んだ。 「フォーチュナも無茶な連中ばっかりなんだな、アークに毒されたんじゃねえか?」 「まあ」 『影の継承者』斜堂・影継(ID:BNE000955)は、独り言を聞いてむっつり膨れたてるの顔を見て笑った。 「嫌いじゃないってことですよ……じゃあ、先生。お願いします」 「もう。……では、参ります」 ぷすんと唇を尖らせてから、顔を穏やかにすると、てるは全身の力を抜いた。 すぅ、と息を吸って、彼女の口からは祝詞が紡がれる。灼々と全身の墨が光を放つ。 おそらく、フォーチュナが自身の力を使うのを見るのは初めての者も居るだろう。その力の励起のさせ方は数あれど、現れる結果はただの一つだ。 『未来視』。その力を増幅させることが出来ない今の彼女らに出来ることは限られてはいるし、その力も、あくまで万華鏡を使うのに比べれば微々たるものだ。 そして、その微々たる能力ですら、戦況に大きく寄与する。アーク最弱の秘蔵っ子達。 その力を、リベリスタ達は垣間見た。 「……見えるものは、障害、足止め、焦り……感情は漣のごとく広がり、だから、そう……」 すう、と進行予定方向とは違う方に指を向ける。 「でも、そっちは険しいよ」 『ならず』曳馬野・涼子(ID:BNE003471)が千里眼で見通して言った。確かに平地と言っても多少の隆起はあり、そして一刻を争うこの状況では無駄な体力の消費も禁物だ。 「こちらは、確かに平坦……ですが、偽装……地形、おそらく、獣か、植物……乾燥地で、えさを捕らえる為の……そちらの方が、結果的に近道になります」 「だからって、まったく、むちゃするよ……でも、それがあんたの我を通すってことなんだね」 「……ええ」 「なら、わたしもそこに賭けるよ」 そうして、安心したようにふらりと倒れ掛かったてるを、『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(ID:BNE003829)が慌てて支えた。 「よいしょっと……か、軽い……!?」 「身を清めるために食事を抜くことも、よくあることでございますし」 「神職とはストイックでありますな……」 足場の悪い地帯を一気に走り抜けてしまう為にてるを担いで、ベルカが眼を白黒させた。その身がふいにふわりと浮き上がる。アゼル ランカード(ID:BNE001806)が翼の加護を唱え、飛行する。このまま最後まで、とは行かないものの、てるに頼んだ時間短縮の為の道のりと合わせ大幅な時間短縮となった。 「……止まって!」 源 カイ(ID:BNE000446)が鋭く止める。地上に降り伏せながら眼を見開いた。瞳孔が最適な状態に調節され、僅かなモーター音が鳴る。 「数は1、2……地上に5。巨獣です」 「闘うかい?」 「いえ、あれはタフそうだ。見逃しましょう」 「ちぇ」 「逃げも隠れもするんだよ。俺達は勝たなきゃならないからな」 「わーかってるよう、やることはきちっとやるさ」 満足に闘えず、『外道龍』遠野 御龍(ID:BNE000865)にはフラストレーションが溜まっているようだ。が、そこは彼女もプロフェッショナル。実際の行動は慌てず騒がず、周囲を熱感知で探っている。 「……ちょっと待って」 涼子が声をかけた。 「……こっち、風上になりそう。音立てないように動くよ」 「それそれ、えいえい」 「うわっぷ?!」 アゼルが皆に土をかけて行く。視覚の偽装と、それ以上に臭いを隠すために。 そしてそれは、今のところ成功していた。獣は勿論動体視力も良いが、それ以上に他の感覚を研ぎ澄ませている場合が多い。それでも尚、慎重に。リベリスタ達は知っていた。急がないことが結果的に近道を辿る場合も往々にしてあるのだ、と言う事を。 ●幕間 「……うん、何もいない」 すんすん、とツァイン・ウォーレス(ID:BNE001520)が鼻を鳴らす。スキルの名に拠らずとも、どこか犬のような彼。 一行は、一旦足を止めていた。フォーチュナであり、一般人と比してもやや体力に難のあるてるがリベリスタ達についていくのには、どうしても休息が必要なのだ。 「申し訳ありません……」 「でもさ、てる先生」 しょんぼりとうなだれているので、ツァインが笑いかける。 「眼が弱いのにこんな前線まで出てくるその想いも、生徒として無碍に出来ないんだから。それに、今までの時間短縮も考えればコレくらい休んだってお釣りが来るさ」 それは事実だ。 そして、それ故に、彼らは無理をしない。確実に、体力を目の前の障害だけに向けることが出来る。それはひとつの強みだ。 「随分、仲が良いんだな」 「おう、影継も今日から神宮クラスな! 仲間、仲間」 友人と笑い合う。 と、その時。 「……、この臭い、皆!!」 ツァインが叫んで、立ち上がった。素早く円陣を組んで周囲を警戒する。 「空だ、空! 北の方角!」 「……ひどく見難い、ですね。これは……擬態? やられた」 カイが空を見上げる。そういう生態は、何も被捕食者だけの特権ではない。もはや手の届かない高空からの視覚。遠からず、次の手が来るだろう。 なればこそ。敵方になく、味方にない力を使う時だ。 とほかみ えみため とほかみ えみため…… ● 「報告は正しいのか。本当に居るのか、こんなところに」 「張っている俺達が言うのも何だが……」 「しかし、来るとすれば僥倖じゃないか」 バイデン達は、そのどれもが戦士としては他の者に一歩劣る。 だからこそこうした役目に終始せざるを得ないし、そうした境遇に不満を抱いていた。 戦いの中で果てることこそ。 「今度こそ、俺達は闘う」「そう、今度こそ」 次々に口を開いて、その時。強い風が吹いた。 「こんな時に……」 砂埃が舞う。 その一瞬に風向きが変わり、そして単なる偶然だ。 しかしそれは間違いなく、確かに存在した一瞬でもある。 過去とは観測者によって決定されると言うのは、誰の言だったか。 ならば、これは決定された過去なのか、不確定な現在なのか。 それはフォーチュナにすら定かではない。 「ゴグ」 こきゃり、と頚骨がナイフによって分断される音がする。 どちらにせよ確かなのは、リベリスタ達が間違いなく先手を取ったという事実である。 カイが口を塞ぎ、デッドリーギャロップがぎりぎりと締め上げる。 「敵か!」 「ああ、敵だよ!!」 叫び、地中から飛び上がった。物質透過した影継の不意の刺突はバイデンを破壊する。爆砕と言ってもいい。傷口は風船のように破裂して、たたらを踏む。 「傷が再生しない……」 「リベリスぱぶぁ!」 叫ぼうとしたその口に、ちいさな拳が叩き込まれた。技も工夫もないが、それだけに迅い一撃。牙が折れ砕けて、皮膚も口もずたずただけれど、涼子の拳は折れていない。 その影から飛び出すように、ツァインの一撃も後を追う。神聖な輝きが腕を斬り飛ばし、返す刀で喉を貫き、突撃して来るバイデンを、盾で受け止めた。 「皆、止まってはだめなのですよー」 アゼルが言う。戦闘指揮、そして有事に備えて回復の用意もある。引く余裕も、押し返せる様子もない。バイデンは昂ぶり、そして焦る。 「ふふ……ふははっ!!」 そして、戦いになって一番嬉しそうなのは彼女だった。 周囲を取り囲まれて、何本ものやりで串刺しにされても痛みなど感じず、御龍は武器を振り回す。巨大な刀が一振り二振り 「戦闘、戦闘、こうでなくてはつまらぬ!!」 高笑いと共に、血溜まりを作り上げていく。数分後には、彼ら以外に動くものは居なかった。 実際のところ、バイデンの哨戒とリベリスタ達の戦力は五分とは言わないまでも圧倒的有利とは言い難かった。それを圧殺出来たのは、ひとえに『ためらわなかった』ことに尽きるだろう。それに加えて、予知を信じる判断の速さも味方だ。 誰も彼もが無傷とは行かない。たびたびの戦闘で、傷を受け、膝を付き、そして必死に立ち上がった者もいる。だが、それでも。 タイミングと戦力。この二つが戦の趨勢を決定付けるとすれば、今のリベリスタ達はその両方を手にしていた。 「と、先生」 「どうしました?」 足が止まる。 ベルカは遠くを見た。 「この地形、不自然ではありませんか?」 「と、言いますと」 「随分、綺麗過ぎると言うか……」 じわり、と足元が沈んだ。 彼女の予想。それと現実。嫌な予感ほどよく当たる。 地面ごと包むようにせり上がって来る葉肉。巨大なトラバサミのような棘だらけの葉を、ベルカが身体を張って止めた。 その周囲を黒い霧が包む。 「脱出、早く!!」 ユーキの声に従い、てるを抱えて飛び退くベルカ。スケフィントンの娘。精神的な苦痛を植物が蒙るかはともかく、中でも麻痺の効果に意味はあった。 「ごめんなさい、わたくしの為に傷を」 「いえ、これは先生の為、というわけではありません。そう、純粋に必要だから……あなたが、不可欠だからです」 「必要……」 「それに……先生の講義で『優』を頂くまでは、自分も死ねませんから」 「……そう、ですね」 ふと、明後日の方向を見た。 「いのちとは、巡り来る円環。決して欠けない環……ならば、あなたの犠牲はまた、わたくしの……そして、あなたの」 リベリスタ、そしてアークはフォーチュナを手放すことが出来ない。 そしてそれ以上に自分も、『先生』をやめるわけにはいかない。 そして、そんなシステマティックな戯言などより、それ以上に。 「生徒に教えられることがあるのは、嬉しいものにございますね」 嬉しそうに笑った。 それからの彼女は、少しずつ、リベリスタに頼り始めた。それは結果的に行軍にスムーズさを与えることになる。 そして、障害に対する対処も概ね良好だった。そこにはいくつかの要因が絡む。警戒、戦闘、対処、彼らの選択は実に的確だった。何より的確だったのは、フォーチュナの予知の使用法だ。何かを未然に防ぐべくあたら無駄にするのではない。失敗を帳消しにし、そして大きな前進が見込めるところでその成功を確実にする。 きっと、彼らは知っていたのだ。 未来とは、博打ではない。あやふやな気持ちで知ることは危険だ。 ならば、未来という名の覚悟は、この自分の進むべき道を切り拓く為にこそ使うべきなのだと言う事を。 止まらないまま、リベリスタ達は進む。地形を飛び越え、獣をやり過し、最後のバイデンの哨戒を切り捨て、一直線に拠点へと向かう。少しずつ、それは見えてきた。 濃い血の臭い。そして、黒い竜巻が視界を一瞬で埋める。 「ぐぐ……!!」 咄嗟に前に出て、足を踏ん張ったツァイン。後ろに漏らさず、何とか止めた。ちりちりと焦げ臭い。鉄壁の鎧を突き破り、大穴を空けた。 「ほおぉ、止めるか! 私のチャージを。先ほどの連中といい、やはり貴様らは面白い!!」 「お、まえ……」 その正体。 自分達が後背を衝くべくここまで行軍してきた敵の姿。 後ろから続いた三人のバイデンは、仲間の死体を一つ担いでいる。 「正直、驚いたぞ。ここに到る荒野は須らく我らバイデンの利の下にあると言うのに……どうやって抜けてきた」 笑い、牙を剥く。 「フフ。してやられたわ。もはや我らも大分困憊している。ここで貴様らを相手に命尽きるまで闘うも一興だが、我が戦場は先の庭だ。私は連中に勝ち目的を達し、しかし連中は連中の勝ちを守った。だから、ここは引こう。次の闘いの為に、次の次の闘いの為に!!」 言うなり、踵を返すと彼らは走った。 追撃をしようとするリベリスタ達だが、後方からトロンベのウォークライに誘われ援護に来たバイデン達により足を止められる。 「敵の襲撃を食い止める……その目的は達成できた、と言う事ですか」 ベルカが言う。その表情は複雑だ。 それは彼らの気に中てられたのか、それとも。 速度は十分だった。むしろ定刻より速かったくらいだ。 それでも、これがバイデン。 渇きの荒野に、残ったのは結果だけだ。 ただただ、血風散華のみ。 そして、リベリスタの勝利。 それは個人の想いとは裏腹に。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|