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<箱舟の復讐>黒き竜巻


『ラ・ル・カーナ橋頭堡』の防衛戦に敗れたリベリスタ達。
 バイデン達の威圧に屈した彼等はボトム・チャンネルまでの撤退を余儀なくされたが、仲間を囚われた彼等は黙ってそれで引き下がる程、大人しい者達では無かった。戦略司令室の判断を早期に大きく動かしたのはリベリスタ達の熱烈な意見――それは即座にラ・ル・カーナに進撃するべしという強硬論であった。

 優位が確実な防衛戦に比べ、不利は否めない総攻撃である。確実な勝機は無い。
 無いが、時村沙織はこの局面に一つの『追加戦力』の投下を決断する。『万華鏡』によるバックアップの無いラ・ル・カーナにおいてアークのフォーチュナの能力は限定的なものに留まる。最も危険に晒してはならない存在を最前線に投入するのはある意味でのギャンブルに違いなく、リターンが多く望めないならばリスクヘッジを考えねばならぬのは必然だった。
 しかし、彼には一つの考えがあった。『フォーチュナは戦闘能力を持たないが故に最前線に投入し難い』。ならば、『戦闘力のあるフォーチュナが居たならば』。そしてそのフォーチュナが『万華鏡に頼らずとも高精度の予知を可能とするならば』。全ての問題はクリアされるのだ。本来ならば避けたい『借り』を代価に『塔の魔女』アシュレイはラ・ル・カーナでの作戦従事を了承する。そして黙っていられないのはアークのフォーチュナ達も一緒だった。苦笑いする沙織も、もう止めない。フォーチュナ達は己が『微力』を振り絞り、危険も厭わずに異世界の地を踏みしめる。剣を持たぬリベリスタ達の戦い、そして剣持つリベリスタ達の戦い。まさに今、憤怒と嘆きの荒野を血に染める復讐戦の幕は切って落とされようとしている――



「なるほど、なるほどなるほどなるほど!」
 バイデンは猛る。
 そしてそれ以上に、喜んでいた。
「どうする? おいどうする、私が悪いのか、いや私は正しいのか? 私は言おう。正直に言おう! 私は侮っていた、ニンゲンという種族を、そしてリベリスタという組織を侮っていた! それでいながら私は正直、恐れていたのだ。もしや、もしや万が一にでも奴らが狡猾にもその身を己の世界に隠してしまうことを! 奴らは強い、そして奴らは卑怯だ! そしてそれこそ奴らの強さだ! それが楽しみであり尚且つ恐れそして失望の種になりやしないかと……それが私の怖れであった」
「オソレ? オソレとは何だ、戦士トロンベ」
 長広舌に、バイデンの部下は問うた。
 彼らバイデンは戦の部族だ。何よりも戦の手腕をこそ優先するがこそ、彼らには厳然たる“強さ”の順列が存在する。そしてそれであるがこそ、彼らは平等だ。一つの集団の長を絶対の強者であるプリンス・バイデンに担われたものであればこそ、その強さは更に疑いようもないものなのだ。
 そんな戦士が口に出した“オソレ”という概念を、部下は理解できなかったのだ。
「まさか貴公は、敵との戦いを忌避しているのではあるまいか」
「忌避? 忌避だと、まさか!! 不勉強な貴様のために教えてやろう、戦士フリューリング。恐れとはな、敵を認めることだ。敵の強さを知り、そして敬意を称えるための言葉だ。それを知らぬとは、まったく貴様はかわいそうな奴だ戦士フリューリング。敵を崇拝し、敵を敬愛し、そしてその敵の強さに敬服しその全てに我らの全て、そう全てをぶつけ決することこそが戦士というものだ! 違うか、違うとは言うまい。曲りなりにもバイデンの血の流れる貴様にこの精神がわからぬはずもない。どうだ戦士ゾンマー!」
「貴公の言うとおりである。まさか我ら、この期に及んで尚教えられることがあるとは、さすがは戦士の中でもとりわけ優れたトロンベの言うことだ。だろう、ヘルプスト」
「そぉう、その通り! 我らは圧勝し圧壊し圧砕する! しかし我らの歩みはなべて戦士への敬意で成り立つ! でなければならぬ! それこそ我らの有様! 我らは……美しい! そうであろう、ヴィンター!」
「いずれ違わぬ……我ら、トロンベの名の下に全てを破壊するものなり。我らに言葉は要らぬといえど、称えるべき敵が言葉を重んじる以上……それに従い、その賞賛を伝えることに些かの気後れもするはずがない」
「然り!!」
 がぅん、と槍を付く。
 5人の長らしいバイデンは獣の骨を削りだしたらしい骨を構え、その他の4人も思い思いの武器を構えた。
 それぞれに特徴はあれど、その意は一つだ。
「では、奴らの拠点に吶喊する。さあ、行くぞ戦士らよ。このトロンベの名の下に、戦場の音楽すら我らの名の下に塗り替えようぞ!」
 削り潰す。
 その意志は、それだけだ。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:夕陽 紅  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年08月22日(水)23:48
●作戦目的
拠点を死守せよ

現在、皆様はボトム・チャンネルとラ・ル・カーナを繋ぐD・ホールを守る要衝の一つに障害を組んで陣取っています。
ここを抜かれれば、こちらの攻撃や撤退が難航するおそれもあります。何としても防衛しましょう。


●敵情報
バイデン
・トロンベ
ひときわ身体の大きい、リーダー格のバイデンです。漆黒の巨獣の毛皮を纏っています。
武器はランス状の骨。貫通と移動を兼ねたスキルを持っていて、特に攻撃と防御に優れています。

・フリューリング、ゾンマー、ヘルプスト、ヴィンター
トロンベの部下であり、補佐であり、盾です。
それぞれ剣、斧、盾、双剣を持っていて、トロンベから皆さんを遠ざけるべく連携して戦います。

●重要な備考
『<箱舟の復讐>』はその全てのシナリオの成否状況により総合的な勝敗判定が行われます。
 予め御了承の上、御参加下さるようにお願いします。

●STより
盾です。
盾になるのです。
夕陽 紅です。
条件はただ一つにして絶対。死なないこと。そして勝つこと。
よろしくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
メアリ・ラングストン(BNE000075)
ソードミラージュ
神城・涼(BNE001343)
クリミナルスタア
烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)
クロスイージス
シビリズ・ジークベルト(BNE003364)
ダークナイト
ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)
ソードミラージュ
セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)
レイザータクト
アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)
覇界闘士
斬原 龍雨(BNE003879)


 バイデンの棲家であり拠点でもあるこの荒野は、地形の起伏もさほどではなく、どこか一点を防衛の拠点とするには不向きだ。敵にはいくらでも迂回の手段があるし、加えて地の利も敵のものだ。
 にも関わらずこのポイントを拠点とするのには、いくつか理由があった。
 ひとつ。見通しの良い地点の為に、こちらもまた敵の動向をつぶさに探れる。いわばここは一つのものみの塔と言うわけだ。
 ひとつ。如何な平地といえど、そして原生の巨獣を手懐けている戦闘狂のバイデンと言えど、安全なルートというものは確かに存在する。それは例えばこちらの布陣や現地の植生であり、それらを鑑み、万に一つもなく万全の体勢でバイデンが侵攻してくるであろうルートに防衛の拠点を置くのは当然のことと言えた。
 そして、最後にして最大のひとつ。
 このようにあからさまに『かかってこい』と宣言すれば、バイデンがそれを見逃すはずがないということ。

「Shh……」
 牙の間から漏れるような、鋭い吐息。
 敵の挙動から力量を見計る。アルフォンソ・フェルナンテ(ID:BNE003792)は、静かに思った。体中にざんばらの裂傷を刻まれながら――強い、と。
「先走りすぎだ、戦士ヴィンター!」
「……すまない」
 前衛の数人を、遠方から一気に突っ込み撫で斬りにした一人のバイデンを皮切りに、彼らは到達する。
 それぞれが巨大な武器を構えた屈強なバイデンで、とりわけ後方に佇む彼はプリンス・バイデンにこそ及ばないものの圧倒的な雰囲気を周囲に撒き散らしている。
 そもそもが。たった5人でリベリスタを脅かす彼らは、真実間違いなく精鋭であるに違いないのだ。
「済まないなリベリスタ。こいつは俺達の中でも一際無口で一際手が早い。名乗りくらい済ませれば良いものを。俺の名はフリューリング」
「我輩、ゾンマーである」
「我が名ヘルプスト!!」
「……ヴィンター」
「そして、私がトロンベだ。楽しい……楽しい話をしようリベリスタ。この荒涼たる荒野において貴様らが戦の華だ。存在するのは私達と貴様らだけだ。あとは何がある。そう、闘いだ。何と素晴らしい。これこそ完全世界と言うものだ!」
 言うなり、バイデン・トロンベはランスを高々と突き上げて、振り下ろした。鳳仙花のように、バイデン達が弾ける。
 リベンジ。逆襲。再戦。
 これこそは人間が失ってやまなかった始原の戦争。
 即ち――種の生存のための闘い。
「行くぞ人間。ヘルプストの戦士としての言に倣ってみれば、私達は圧勝し圧壊し圧砕する!」
「やってみろよ!」
 武器の激突は、リベリスタ達のよく聞く甲高い金属音ではなかった。『chalybs』神城・涼(ID:BNE001343)が一足飛びに飛び掛り、しかし手ごたえの鈍さに眉を寄せる。
「んふ。そうか、貴様が我輩の敵か」
 斜めに構えた巨大な斧は、黒曜石に似た材質の巨大な一枚岩を打ち出したような刃で形成されている。噛み合った刃と刃。渾身の力が足に籠もる。そのまま身体を振り払うように武器を突き出すと、大雑把のような、しかし戦意に満ち満ちた斧の一撃は涼の身体を後ろへ吹き飛ばした。
「これ、しょっぱなから飛ばされてどうする! それ、フェイトぉ~、いっぱ~つ!」
 拳を突き上げて活を入れつつ『回復狂』メアリ・ラングストン(ID:BNE000075)は集中し気を引き締める。戦馬鹿はバカではない。常に動きを止めない。今の一行動だけでもそれが見て取れた。
「ふふ、愚かな蛮族共。物言わぬ血肉のオブジェにしてあげるね♪」
 『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(ID:BNE002939)が十字を切る。集中する暇こそ無かったが、その銃弾はバイデン達に飛来し……しかし、どれもこれもが紙一重で見切られる。手足の肉を大きく抉り飛ばす攻撃はあるものの、痛痒など見せない。ダメージを追っていないわけはないのだが、致命傷でなければ動ける。そして、彼らにはそれで十分なのだ。
「我等が御大将の下にそんなものをなぁ、通すわきゃねえだろうがぁ!!」
 ヘルプストが怒りに燃え上がる瞳を揺らめかせる。この中で一番バイデンらしいバイデンでありながら、盾。身体ごと隠れるようなそれを軽々と扱っている。
「侮るな、貴様らと我らとどう違うってぇ?!」
「そう、確かに。種族の違いこそあれ、戦いを求めているという点では私達も同類だ」
 『リグレット・レイン』斬原 龍雨(ID:BNE003879)が、足元に踏み込んだ。流れるような動きは重心の動きによって為した無拍子。業炎撃は盾自体の死角から滑り込み、打音高らかに腹を灼く。
「故に貴公等の戦士としての誇り、真っ向から受けて立とう!」
「良ぃいだろう。見事我が破城盾を突破してみせい!!」
「……」
「おっと、水を差すなよ」
 ゆらりと無口なバイデンの身体が揺れた瞬間。
 真紅の閃きと海老茶の閃きが空中で交錯する。
「お前の相手は俺だ。その刃でこの首を刎ねる事が出来るかな?」
 『系譜を継ぐ者』ハーケイン・ハーデンベルグ(ID:BNE003488)が、飛び掛ったヴィンターを空中で叩き落したのだ。
「ふぅむ、これは羨ましい。数の劣るこの戦、俺にかかってくる命知らずも居れば良かったと言うのにな」
 それを見て羨ましそうに、フリューリングは肩をこきりと鳴らすと長大な剣を肩に担いだ。
「では鬱陶しく飛び回っている貴様だ、相手をしろ」
 一瞬で踏み込む。
 トロンベを抑えに回るべく機を伺っていた『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(ID:BNE003738)は、逆に気勢を制される形になって思わずたたらを踏む。待機を選んだ為に一瞬飛び上がるタイミングが遅れ、その剣圧は防御越しに彼女の身体を軋ませた。
「ま、待って。私の名前はセラフィーナ! 漆黒の毛皮のバイデン……トロンベ、貴方に勝負を挑みます!」
「良いぞ良いぞ、ではそのフリューリングと存分に戦うが良い」
「一騎討ちを所望します!」
「笑止!!!!」
 ごう、と大気が揺れたような錯覚をした。
「これらは我が手足にして我が一部。手足を無視し心の臓に剣を突きたてられる道理などあるか!!」
 バイデンという存在。それを、セラフィーナは目の当たりにした。
 鬼やフィクサードの悪意ある暴力とは違う。正義や悪という意志の力によって色付けられる前の純化された暴力のカタチ。
「その意味を今、見せてやろう――!」
 その叫びと共に、トロンベが強く腰を落とす。その鋭く尖った骨は一体どこの部位なのか、纏った毛皮の鬣が風にたなびく。
「Rhaaaaaaaaaaaaaai!!!!!!!」
 嵐のような吶喊。移動して前衛を巻き込む位置に移動すると、そのまま突進した。重厚な突撃槍のチャージが、リベリスタ達を車で撥ねでもするかのように吹き飛ばす。それを見て、『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(ID:BNE003364)は唇の端に震える笑みを作った。
 ――これがバイデンか。どこを向いても戦闘狂、素晴らしいではないか!
 闘争一点それのみというのは頂けないが、いやしかしだからこそ、純度の高い戦意が渦巻く。
 フォーチュナならぬ彼らの身にしても、これだけは理解できた。即ち、この戦場は荒れると。


「なら、押して通ります――!」
 霊刀東雲が閃く。セラフィーナはフリューリングを蹴り付けて後ろに跳び下がり、その勢いで空に舞ってから突撃した。
「させんと言うだろぉがぁ!!」
 土煙を突き破り、しかし無数の流麗な突きはヘルプストにより防がれる。全力の防御を持って主を庇った。それで理解する。このトロンベという敵は、そもそも自分を見てなどいない。
「御大将が名はトロンベ、その名は竜巻、その名は暴風。有象無象の区別など付かんわ!!」
 咆哮と共に、彼女の背後から音も無くヴィンターが迫った。剣の間合いであれば畢竟高度を下げざるを得ない。速い。ざりざりと攻撃は削りにかかるようでいてその一撃一撃が気を抜けば必殺となり得る。
「ヴィンターめ、逸っておる……むぅん!」
 小さく笑う。アルフォンソが盾で殴りつけてくるのを、ゾンマーが額で受けた。
「おぉ?!」
 盾で隠された死角から、眼前に涼の刃が迫っていた。リベリスタ達の連携。突き出した頭を更に突き出して一撃目を避けるが、返す刀で一撃、確かに入る。
「やる、やるな! 我輩、俄然興が乗ってきたぞ!」
「貴方がたの言う『戦士』には値したようですね」
「応とも。貴様らのこの流れ、是非にも噛み砕き押し流してくれる!」
「いいじゃねえか、やってみろよ。俺は、俺達リベリスタはそうそう簡単には折れはしない!」
 涼が見開いた目に笑みを乗せる。
「バイデンの肉って美味しい? 死体残ってたら持って帰って食べよう☆」
 烏頭森が切れ目無く弾丸を均等にばら撒く。適当なように見えて敵の隙間を違わず狙う。
「俺は先から不思議だったのだがな」
 その彼女の攻撃を膝立ちになって面積を狭めながらも何発か喰らいつつ、立ち上がったフリューリングは首を傾げた。
「貴公らは我らを獣か何かと思っているのか? きっとそう美味くはないぞ」
「獣とは思っておらんがのう」
 戦場の風が僅かに止んだ。メアリが天使の歌を詠う。
「樹から生まれたお前らにはわからぬだろうが、妾らとは個体の増殖法が違う。生まれるにも育つにも長時間を要する故、強い者に弱きものを『護る』『盾になる』という感覚が必要になってくるのじゃ」
「そう、そうそう。それが私にはわからん」
 おう、と思い出したような声を漏らしてぽんと手を叩いたのはトロンベだ。ランスを一度肩に担ぐとぼりぼりと顎を掻く。
「護る護ると言うが、それはつまり、貴様らは戦をする個体とそうでないものが居るのだな? であればだ、貴様らは必ずしも戦いを好むものではないらしい。だのに、戦を生業とする個体がいるのか。それもその技、明らかに武器を手にする者との戦い方……貴様らは同族同士で殺しあうのか、それとも我らのようなものが貴様らの世界に居るのか。いずれにせよ、貴様らはよほど残酷な種……」
 言葉は真空に遮られた。僅か首を傾けて避けたが、斬風脚はトロンベの頬を裂く。
「それ以上の長広舌は……必要か?」
 龍雨が鋭く問う。翻る蹴りはそのまま高角からゾンマーを襲い、その言葉一つでトロンベは頷く。語る間にも戦っていた彼らの流れは止まらない。ヴィンターとハーケインが互いに刃を合わせる。剣と盾、剣と剣、寡黙に相反する圧倒的な手数がハーケインを押す。しかし、一瞬の間隙にKatzbalgerを突き込んだ。
「…………これは」
 僅か目を見開き、ヴィンターが飛び下がる。傷口はじくじくと赤い呪いが侵食し、彼ら特有の自己再生力を奪う。
「そう、今更言葉など」
 身体を低く落として、シビリズが構える。呟く言葉は震えている。怯えではなく歓喜に。輝く刃をゾンマーに叩き込み、巨大な柄で受け流される。
「それよりもバイデン達、折角だ。存分に、お互い楽しもうではないか!」
「そうとも、ニンゲンの言うとおりだ御大将。やはり貴公はいささか喋りすぎる」
「おお、もっとも。これは失礼をした」
 ぐん、と頭の上で槍をぶん回す。脇に抱え込むと、再び足を踏み込んだ。ひとたび走り始めれば何人も止められぬ猛馬の突撃。
「Rhaaaaaaaaaaaaaaaaaaai!!」
 空を飛んでいたセラフィーナも、攻撃の為に高度を落とせばそれに巻き込まれる。通った後にも風の奔流が見えるようだ。今のところブロックの為に後衛にこそ届かないが、それでも吶喊の度に数人を巻き込んでいく災害のような存在。
 まともに喰らって、更にその翼持つ少女の背後から、ハーケインを蹴り付けて後ろに飛び――それは奇しくも少女が始めに飛び上がった時のように、二本の剣を持ったバイデンが跳躍する。両肺を鈍い刃が貫いた。アルフォンソがヴィンターに斬りかかってそれ以上の追撃は免れたが、それでも重傷に違いはない。
「……まだです」
 それでも尚、諦めなど知らぬと言うのなら。
 白い翼を真紅に染めたとしても、尚。
 口から血を吐いても尚。
 それは、この場のリベリスタの、おそらく総意だ。
 風に鬣をたなびかせる漆黒のバイデンが、いいぞ、と言った。
「いいぞ。いいぞ、存外貴様らもやはり戦士であったらしい! 良し、来い! 目など捨てろ、翼などもげ。死にに来い!」
 それは、初めての本気だったかも知れない。
 蹴散らしていく。烏頭森が腕を捨てて立ちはだかって、それでも尚重厚に突撃して行く。煙すら吹き上げるように、そして蹴散らし、尚も――


 砂塵が駆け抜けていく。
 シビリズの身体から斧がずるりと抜け、それに連動するように、首筋に突き立てた剣をやっとのことで抜きながら涼が膝を付いた。
「ゾンマー、ゾンマー……おお、死んだか」
「っ、はぁっ、くそ……っ」
 涼が荒い息を吐いて、膝を付く。間を置かず、メアリも眩暈がしたようにふらついた。
 絶え間ない回復は必然的にメアリの魔力切れを誘発し、そしてその為に彼らは重傷を負い、しかしその為に、彼らは命を繋いでいる。
「それでも……進ませない」
 龍雨が膝を付いている。睨み付ける。
 その静かな瞳に、炎は未だ灯っている。
 ならば、倒れる理由はない。
 それならば、それならば。
 ――例え死んだとしても。
「貴様らの目は実に不思議だ。これだけ劣勢だと言うのに折れない。といって、私達のように闘争への喜びに支えられているだけの訳でもない。面白い」
 そう言って、ランスを振り上げた。
「だから、私は貴様らに敬意を表する。敬意を表し……とどめを刺そう」
 と、そこまで言ったところで、彼は異変に気付いた。それは他のバイデンも察したようで
「御大将、敵の増援だぁ!」
「何故囲まれたか……あれだけの哨戒が居て」
「どうする、やはり闘うか」
「……いや」
 ふと、奇妙な感覚を覚えた。
 それに従ってみることにしよう。トロンベは不意に、そう思った。
「この闘い、私達の勝ちだ。が……戦は奴らの勝ちだったようだ」
「何だそれは」
 フリューリングは、首を傾げた。いまいち解せないと言う風。
「うん、難しい。難しいな実に。ではこう言おう、奴らは負けた。が、奴らが望んでいたのは己の勝ちではなく種としての勝ちだ。ここで奴らにとどめを刺し、そして奴らの望みどおり消耗した状態で奴らの望み通り闘えば、この戦いは奴らの勝ちとなる。それでは我らの負けだ。それは何とも悔しいではないか。己の戦士としての有様を! 存分に発揮できぬままに死ぬなどと! 許せるか! だから、ここは……引くのだ」
「…………成る程、一理ある」
「だがよぉ御大将、プリンスが何と言うか」
「プリンスと、そして他のバイデンに蔑まれることを怖れる為に戦士の在り方を歪めることなど出来るか!!」
 ここに、一つの結論は出た。
 ゾンマーの死体を担ぎ、彼らはリベリスタ達に背を向ける。
「ここは勝ったぞ、リベリスタ――だが、我らの負けでもある。面白い、こういう戦もあるのか。これだから闘いはやめられぬ。ではな、運良く貴様らが生き延びれば、次もあろう」
 そうして、暴風のように過ぎ去った。
 結果としてこの拠点を守りきり、代わりに彼らリベリスタは、紛れもない敗北を身体に刻んだ。
 勝利か敗北か。その心は、どう受け止めるかによって異なるだろう。
 しかし、唯一つ、絶対に揺るがない答えが、一つだけある。
 彼らは、達成した。
 ひとまずは、それで十分だろう。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
お疲れ様でした。夕陽 紅です。

成功を前提とした作戦は、落としたときにちょっと危険なこともあるかと思います。
もしまたバイデンとの戦闘があれば、リベンジもあることと思います。ご縁がありましたら、よろしくお願い致します。