● 友のためなら、命を賭けよう。 理不尽な死を振りまかざるを得ないから、拾える命を拾おう。 どうして見殺しに出来ようか。 そんなことを許したら、そんなことを赦したら、次は自分がそうされるかもしれないのに。 失うことは出来ないのだ。 仕方ないと諦めたら、後は坂を転がり落ちていくだけだから。 バイデン達の威圧に屈した彼等はボトム・チャンネルまでの撤退を余儀なくされたが、仲間を囚われた彼等は黙ってそれで引き下がる程、大人しい者達では無かった。 戦略司令室の判断を早期に大きく動かしたのはリベリスタ達の熱烈な意見――それは即座にラ・ル・カーナに進撃するべしという強硬論。 何かに急き立てられるように、リベリスタは再び戦いの荒野に身を投じる。 我らは、箱舟。 目をそむけることができなかった強さと弱さが絡み合い、逆襲の兵を異世界に送り込む。 埋み火の夜から、灼熱の昼。 巻き上がる砂塵で喉が痛い。 空気が熱狂をはらんでざわついている。 バイデンの戦いへの陶酔を上回る、箱舟の矜持と闘志だ。 我らの血なら、いくら流れてもいい。 奪われた仲間をこの手に。 ● 本隊と位置づけられた集団の中、自然にリベリスタたちはチームを作る。 「難しいことは考えなくていい」 「目の前に来た奴を倒せばいいんだな」 「そうだ。俺達の仕事は、バイデンどもをすり潰して戦線を押し上げることだ」 「ここが屋台骨だよ。玉砕してる場合じゃない。ガンガン行くけど、特攻はなし。クールにいこう」 「けど、それが難しそう。バイデンって、あたしたちが最初に思ってたより強いよね。直接ぶつかって1対1じゃ、多分勝てない」 「アウェイだからな。地の利は向こうにあるだろ」 「こっちが一回負けてるから、向こうも盛り上がってる。ヤル気満々みたいだね」 「とにかく。捕まってる奴らを助けなきゃいけないし、俺らが捕まる訳にも行かない。余力は残していかないとな」 矢継ぎ早に言葉が飛び交う。 「じゃ、あの目立つ奴をしとめることにしよう。侍首を落とせば、士気は下がる」 そして、この戦闘を誰も倒れることなく終わらせる。 それが、最前線の覚悟だった。 「倒れたら、即とどめ刺されそうだな」 「じゃ、倒れちゃだめってことにしようぜ」 「難しいね」 「やり甲斐あるだろ?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月20日(月)00:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● (何で痛い思いをして戦うのか。戦いによって何を得られるのか) 『いつか出会う、大切な人の為に』アリステア・ショーゼット(BNE000313)には、バイデンの行動原理が分からない。 (彼らは生きる事=戦う事、なんだよね。それが分からない) ただ、みんなを無事に帰したい。 その思いが、戦闘を好まないアリステアを戦場に立たせる。 みんな。 長腕の首を取りに行く、『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)と『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)。 バイデンの行く手を阻む『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)、『蜥蜴の嫁』アナスタシア・カシミィル(BNE000102) 『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)が、『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)をとアリステアを中に入れて、円陣を組む。 『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)は、分散しすぎないようにと、仲間に声をかけた。 ● 愛しい者に駆け寄ってくる熱さえはらんで、群を抜いて足が長い四人が、違和感さえ感じる速度で突っ込んでくる。 風斗は、一歩前に出た。 「リベリスタ、楠神風斗だ! 恐れを知らぬのならば、かかってくるがいい!」 歴戦の粉砕者が、自らの闘気を肉体の檻から解き放つ様は、バイデン達の胸を打つ。 「おお、戦おうとも!」 「おまえを倒すのは、俺だ!」 「まずは――」 「野暮用を済ませてからだ!」 彼らは、跳んだ。 飛び、走り、乗り越え、障害をものともせずに突進することに特化したバイデン、それが「長足」だった。 生来の筋力を膂力ではなく、移動手段として。 より早く敵陣に突っ込み、機先を制す。 それが長足の役割だった。 2メートル50を越える赤い筋肉のバネが乾いた荒野を横切り、リベリスタの頭を越えて跳躍する。 円陣とは、けっして円を崩さぬだけの規模と行動の統率が大前提で、全周より襲い掛かってくる敵から味方を防御するのに適した陣形だ。 誰かが持ち場を離れた時点で、そこは文字通り穴となる。 ましてや、二人の術者を六人で囲って、それを円陣といえようか? 押さえられて、せいぜい一人。 ブロックしようにも、体格差というものがある。 加速をつけた四人が突っ込んで来るのを、それぞれ円陣の一角を担った一人でブロックするのは、物理的に無理だ。 (しまっ……) アラストールは、十字の白光弾で長足の敵愾心を自らに集めるつもりでいた。 しかし、長足の方が早い。 長足に匹敵するだけの速度を持つ者は、侍首の長腕に突貫するため、仲間の露払いを待っている。 今、アラストールにできることは、これ以上突破されないように後続の者を確実に自分にひきつけることだけだった。 長足の後に続く精悍なバイデンが、アラストールの間合いに入って足を止める。 「よし。おまえを倒そう。全力で行くぞ!」 「敵に背を向けるとはそれでも戦士か。貴様等の相手はこの俺だ!」 優希は、自分の頭上を飛び越えて行ったバイデンの背に追いすがり、雷光の武舞を発動させる。 長足が二人、普通の体格の者が二人。 真芯を捕らえることが出来たのは、一人。 呼吸を整える。 優希の背後には先日の奇襲で共に戻るため、運命を捻じ曲げてくれたウェスティアがいる。 彼女の己を省みない献身に感謝し、優希に敬意を表し、今度は自分が彼女を守りたい。 「すごいな、おまえ。ずしんと来たぞ。戦うとも。おまえと俺は死力を尽くして戦うとも」 やや高めの身長の優希より更に頭一つ以上高い。 優希が長足の後を追おうとするのに、執拗についてくる。 「力で蹂躙することを良しとする獣らめ、何が戦士か」 「力で蹂躙しなくて、何が戦士か!?」 挑発とは、同じ倫理観を共有して初めて可能な行為だ。 優希にとっては恥ずべき行為でも、バイデンにとっては至極当たり前のことだ。 バイデンを止めたかったら、拳で語るしかないのだ。 アナスタシアも、背後を振り向くことを余儀なくされた。 アナスタシアの蹴りが宙を引き裂き、長足の一人の顔面を縦に斬り裂く。 赤い肌を更に赤く染めて、それでも長足は止まらない。 痛みすら戦闘の醍醐味とばかりに。 「戦士とは、己が意思で獣ともなれる者だ! 蹂躙されたくなくば、強さを示せ!」 ● 小さなアリステアに、身の丈はほぼ倍、体重にいたっては3倍はありそうな長足が迫る。 「お前は、戦士か」 アナスタシアのかまいたちでざっくりと顔をえぐられ、優希に雷の拳を食らい、手ひどい傷を負った長足の一人は、ぞっとするほど、アリステアに静かに問う。 「我々は喜びを以てお前達と一戦を構える。お前は戦士か。戦う者か。我らにお前を倒したという誇りを与えてくれる者か。倒れた我らをお前の誇りとしてくれる者か?」 (分からないよ。何で、戦う為に戦うの?) 人を傷つけることがなぜ賞賛するのか。 倒した倒されたがどうして誇りになるのか分からない。 バイデンの「闘い」は、アリステアには理解できないことなのだ。 「ワタシは……ワタシに出来ること、みんなを無事にアークに帰すことだけを考えてる。それがワタシの戦場での役目だよ!」 癒し手として、アリステアはどこまでも正しい。 「そうか」 長足の目は穏やかにさえ思える。 長足にとって、アリステアは、戦士――闘争心を燃やすべき対象ではないのだ。 「では、しばし地べたに転がっているがいい」 バイデンの、アリステアの頭ほどもある膝が、アリステアの腹部に突き刺さる。 とっさに腹の上に重ねた小さな両手が、かろうじて急所だけは守った。 体中に痛みが走る。 四肢の先まで神経が火花を散らして、血管から血が噴き出しそうだ。 癒しを呼ぶための声が、出ない。 心の中に冷たい風が吹いていく。 立とうという気力が削られている。 「なるほど。お前もひとかどの存在ではあるのだな。だが、お前では我らの心を揺さぶることは出来ない」 リベリスタの描いていた青写真は、端からと燃えていく。 強襲作戦のはずが、それぞれの思惑がずれ、バイデンの突貫を許し、回復の要を無力化された。 仲間を信じるという言葉は美しい。 だが、信じるのと過信は別だ。 仲間の成功以外から目を瞑った結果、彼らは「戦士以外」を片付けたバイデンとの乱戦に突入せざるを得なくなった。 ● 「あたしが皆を楽しませてあげるよぅ、おいで!」 「では、某が!」 バイデン達は、各々自分が戦いたいと思ったリベリスタに突進していく。 そこに統率はない。 あるのは、リベリスタと戦いたいという純然とした闘争心のみだ。 それに巻き込まれるように、リベリスタの連携も分断されていく。 雷慈慟は、歯噛みせざるを得ない。 一人でも多くのバイデンを自らの物理的思考奔流に巻き込みたいのだが、放てば最後、敵の中で奮迅の働きを見せている優希やアナスタシアも確実に巻き込む。 思考奔流に敵味方の別はない。 己が考えだけで、場の流れを支配するのは不可能だ。 「イザークと言ったか……自分は彼等と戦い 生き残った戦士だ……」 ならば出来ることは、この場に幾人でも足止めすることだ。 長腕に向き直る。 「忘れて貰っては困る。自分も貴君等の敵だ」 ぼさぼさの橙色の髪からのぞく緑の目が、バイデンを見据える。 「しかし、それを素通りし、後ろに控える者に殺到するとは。貴君等は、彼の足元にも及ばないようだが?」 「おりゃあな、森に住むひよひよした連中はどうもむしが好かん!」 リベリスタに向けて無造作に近づいてきながら、長腕は言う。 大声を出している訳でもないが、朗々と戦場に響いた。 「リベリスタにゃあ、あの連中みたいなナリでも戦士がいるってなあ、戦士の儀でわかった。たいしたもんだ」 体躯に比べて明らかにバランスがおかしい腕を振り回す。 突入寸前に、戻ってきた仲間たちがバイデン相手に決闘させられたという情報は断片的ながらリベリスタの耳にも届いていた。 「だがよ」 それまで機嫌よくしゃべっていた長腕の声のトーンが変わる。 「おまえらの連れてくる後ろの方にいる奴ぁ、茶々が多い」 先の戦いで、長足と長腕はリベリスタを二種類に分けて認識していた。 「戦士」と「それ以外」だ。 「森の連中の周りをひらひら飛んでいるあれみたいなもんだな? おまえ達がそいつらをかばうのはつまらんからなあ」 鈍重に見える足取りとは裏腹の軽快な動きだ。 「戦士じゃねえなら邪魔だし、あのナリで戦士だってんなら、『すげえ、やってみてえ』って思うだろうがよ。止める道理はねえよ」 前衛が後衛をかばうのは、ただの手間だと彼らは言う。 邪魔で仕方がない。と、彼らは言う。 誰と戦うかは、俺らが決めらあ。と長腕は言う。 「んで、俺は大口叩くおめえに俺の自慢の腕をお見舞いしてやりてえと思った訳だ」 長腕は、無造作に雷慈慟に鉄球のごとき腕を大上段から叩きつける。 頭の上で腕を組み、決死の覚悟で急所をかばう。 攻撃を吸収させるべく曲げた膝が衝撃を逃がしきれずにぎしぎしきしみ、地面にめり込んでしまいそうだ。 それでもまだ立っている。 こいつをこの場に縫い止める。 倒すのは自分の役目ではない。 「戦士以外がうろうろしていては、楽しい戦ができんだろう。何、殺しはせんよ。うろうろしないでいてもらえればいい。おまえら皆死んでも、こいつは生かして帰してやろう。人質と思われても不快だ。戦士として誓うぞ」 バイデンの傷は、放っておけば勝手に治る。 だから、リベリスタにとって、回復役が攻撃役と同じく重要な存在だということが理解できない。 どんなに辛くても仲間を生かすために戦場に身を置く者のことを、思いつけもしない。 言語が通じるようになったからと言って、心も通じ合うように思えるのは錯覚だ。 統一された言葉は、相容れないことを再確認させる道具だ。 ウェスティアは呪文を紡ぎ続ける。 アリステアが崩れ落ちる中、血反吐を吐く思いで展開した魔陣が、ウェスティアの術を後押しする。 地にうずくまったアリステアは、バイデンの殺気に反応して身を捩じらせ、急所だけは守っているが、それ以上の行動は望めない。 展開するはずだった黒鎖の代わりに、福音が辺りに響き渡る。 (後衛だから比較的敵を落ち着いて見れるだろうし、なんて、思ってた) 自分の所に敵は来ない。仲間が守ってくれるから。 敵が来たらどうするかという考えは全く持っていなかった。 「羽根のあるひよひよしてぴらぴらした奴……。首長使い以外皆おまえの鎖の沼に食われたと……剛の者だな。 おまえを倒して誉れとしよう!」 長足の一人がウェスティアに飛び掛る。 刹那。 ウェスティアが覚悟した痛みは彼女には訪れなかった。 アラストールは、ウェスティアを背後にかばう。 アリステアは、まだ生死の境を見ている訳ではない。 四肢が麻痺しているのだ 凶事払いを使う暇がない今、アリステアの意志の力に賭ける他なかった。 「戦士よ。なぜ戦わぬ。なぜ我らと切り結ばぬ」 アラストールへの敵愾心に目を真っ赤にしたバイデンが問う。 「これが私の戦い方だ。そういう私と戦え、何なら二人掛りでも構わんぞ?」 アラストールは、そう言って派手にすりむいた頬を不敵にゆがめた。 風斗の闘気をまとった剣が空を裂き、アリステアに膝蹴りを食らわせた長足の肩から腹を切り裂いた。 「お前たちの常識を、他者に強制するな!」 風斗にとって、アリステアは戦友だ。 共に戦う仲間だ。 他者を傷つけないからと言って、バイデンにとって興味を引かない存在だからといって、卑下されるような存在ではない。 「戦士よ。なぜ弱いものを戦場に連れて来るんだ。それが分からない!」 「……俺は、悪いが一人じゃあ何もできない」 鷲祐は、風斗に寄り添う影法師のように、バイデンに臨んでいた。 風斗の攻撃に急所が晒される様、斬っては離脱し細やかなステップを踏み。 けして、風斗から離れ過ぎることはなく。 時折立ち止まり、じっと長腕の動きを観察する鷲祐の目は、得物の隙をうかがう肉食トカゲのそれだった。 結果、 「戦士よ、それは間違っている。この太刀筋も動きも、バイデンの屈強の中でも引けはとらん――」 「――できないんだ!」 一瞬荒野の空気が止まった。 血反吐を吐くような鷲祐の叫びの意味を知る者は、束の間目を閉じる。 「『だからこそ』ッ!!」 音速の刃がバイデンの背を切り裂く。 それに共鳴するように、風斗の刃の紅が走る。 「おまえらみたいな戦うことしか考えてないような奴らに、アリステアが、俺達が戦う理由が分かってたまるかあぁっ!」 リベリスタは、二人のバイデンを地に伏せさせた。 回線を開放させた幻想纏が各々にその事実を告げる。 「そこの長腕! 名のある戦士と見受ける! オレと剣を交すか、恐れて逃げ回るか、好きなほうを選ばせてやる!!」 風斗の叫びに、長腕は高らかに哄笑する。 「逃げるものかよ! 来い! 俺を倒しに来いやぁ!」 「行け、二人とも――」 長腕の足止めをしていた雷慈慟が膝から折れる。 「――後ろは任せろ」 恩寵よ。 今しばらくの時間を。 「一押しだ! 此処で粉砕叶わなければ 我々はまた泥を舐める事になる!」 ● (倒れる事は悔しいけど、負けじゃない。終わりじゃないの。生きている限りは、絶対にもう一度頑張るチャンスがある) 今、まさにそのとき。 縮こまる心を奮い立たせ、ここで立たねば、戦場に立つ意味がない。 仲間を生かし、活かすために来たのだから。 舌の痙攣は止まっている。ならば。 アリステアは立ち上がり、高らかに詠唱を行う。 いと高き存在よ。 仲間の為に次元を超えた娘の請願に応えよ。 栄光あれ。 妙なる調べ、荒野に響く。 背後から響く詠唱に、血と砂にまみれたアラストールの花のかんばせに咲きこぼれる笑みが浮かぶ。 (喋るよりも、雄叫びや剣を交える方が雄弁だと思う) 踏み込み一歩も引かずぶつかり合う。 しのぎを削るバイデン達の顔が歓喜に満ちる。 ウェスティアの詠唱が、白から黒に切り替わる。 白い指の隙間からしたたり落ちる生贄の血が、黒い鋼の連なりに変わる。 「みんな、お待たせ……」 黒い鎖が戦闘領域を支配する。 「私も、もう後がないんだ。巻き込めるだけ巻き込むよ……」 魔力はまだある。 しかし体がもたなかった。 アラストールもウェスティアも、すでに恩寵を浴している。 今度、不幸な一撃があれば、そこで終了だ。 「迷うな、お前は俺が守る。誰も死なせん、その為に俺はこの戦場に赴いたのだ」 駆け込んできた優希も、もはや倒れることは出来ない。 振るわれる手足が重い。 魔力が足りない。無限機関からの供給量が間に合わない。 殿を務めることもままならなくなりそうだ。 アナスタシアが、はふぅんと大きく息をついた。 「撤退の心構えはしといた方がいいねぃ」 視線の先に愛する男がいた。 ● 「――愛と友情、信頼……何もかもが揃った場。最高じゃないか」 鷲祐は遠のく意識を恩寵で引きずり戻した。 もう後はない。 長腕の腕が豪快に振り回され、風斗と鷲祐の腹も千切れろと、何度も横薙ぎしていく。 鍛えようのない急所を巧みな指が鷲掴みにしていくのだ。 長腕の指はとっくに二人の血肉で真っ赤に染まっている。 強引に肉が引き千切られて、地面に吹き飛ばされてもおかしくない衝撃だ。 反射的に吐き出した血反吐が思いのほか大量で、次はないと背筋が冷える。 「お前らは恐ろしいなぁ、傷がふさがんねえんだよ」 長腕は、そう呟く。 「……楽しいなぁ!ほんとによう。今、俺は生きてるぜ。このために生まれてきたってのが分かるぜぇ!!」 しぶとい。 だが、ここが最後の分水嶺。 ここでこいつの首を取れば、この領域は、リベリスタのものだ。 負担のかかる大技を繰り出し続けていた風斗は、内心青ざめていた。 魔力がカツカツだ。 もう、大技を繰り出すだけの魔力がない。 かといって、生半可な斬撃では長腕は倒せない。 合間に集中を挟んでいた鷲祐の斬撃も、使える回数は片手をとうに切る。 そもそもこれ以上集中する機会を、瀕死の長腕が与えてはくれないだろう。 運を天に任せて、できる最大限の業を放つか? しかし、それをすれば、風斗は昏倒する。 長腕を倒せればよし、さもなくば止めを刺される。 「――すまん、遅れた!」 雷慈慟の声がかかる。 「こういう戦い方は 貴君等には理解しえないだろうな。受け取ってくれ!」 指の先まで満ちる感触。 同調された魔力回路に雷慈慟の生成した魔力が注ぎ込まれる。 (敵は強大。だが、恐れはない。司馬さんと共に目の前のバイデンを打倒し、この戦場に楔を叩きこんでやる!) 声が出ていたのかも分からない。 ただ、折れぬ剣を真横一文字に薙いだ。 懸命の一刀だった。 少年よ。 その斬撃の記憶を長く心に刻み込め。 その一撃は、君と君の仲間の命を現世に留め置いた一撃。 互いに肩を貸し合い撤退する中、三人の長足が去っていくのをリベリスタ達は目の端で捕らえていた。 お互いの急速にこけた頬を見ながら、それでも皆で帰れる幸せを噛み締めていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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