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<箱舟の復讐>OverOverOver_KILL

●且つ、暴
「どうも、『リベリスタ』の動きが良過ぎるのが気にかかる」
 声の方に顔を向ける。我等が皇子<プリンス>は「フフ」と唇に笑みを浮かべ、自分達へと続けた。
「連中とて必死……奮戦に疑問は無いがな。しかし、妙なのはあの部隊だ。後方で待機したまま全く動く気配が無い。他部隊の支援を行っている様子も見られない。
 妙だとは思わんか? 少なくとも前の戦いに『ああいう連中』が見えなかったのは確かだ」
「……君の考えは如何なんだ?」
「これは勘だがな。あれが今回『リベリスタ』達の切り札になっているのかも知れん。
 突いてみる価値はあるのではないかな!? 勇敢なバイデンの戦士達よ!」
 笑った。『見えず』とも分かる。楽しそうだ。自分だって楽しい。
「あぁ、分かった、了解、分かったよプリンス。それじゃあちょっと往ってこよう」
 鞘に納めた刃を支えにゆっくりと立ち上がる。それからゆっくりと振り返る。歯列を剥いて笑いかけつつ。
「プリンス!! 上手くいったら、ご褒美に私と戦っておくれ!」

●一心不乱に殺し合い
 血の臭いを濃厚に乗せた風が一つ、乾いた大地を吹き抜ける。
 そこに立つ蛮族達の姿は、悉くが悍まく、悉くが不気味であった。

 或る者は、目が無い。
 或る者は、耳が無い。
 或る者は、腕が無い。
 或る者は、目の下に大きな隈を作り。
 或る者は、異様に痩せこけている。

 武器を手に、手に、渇望する。希望する。胃袋の底から。

 形式ばった奇麗な戦いなど要らない。
 誇りを賭けた甘い戦いなど要らない。
 何かを護る麗しい戦いなど要らない。
 死に物狂いの戦いを。
 生きるか死ぬかの戦いを。
 血と泥に塗れた戦いを。
 ただ只管に戦いたい。

「――総員突撃。さぁ皆、戦おうか!!」
 誰も彼も幸福に満ち幸福に笑い幸福のままに荒野を駆ける。

●超迎撃
「…… っッ!!」
 フルスロットルの休みなしで未来の電波を受信し続け、少し目を閉じ休憩をしている最中であった。
 閉じた瞼に過ぎったのは、一つの未来。思わず飛び起きる程の光景。カレイドが無く不明瞭な映像だと言うのに生々しく伝わった殺気――否、それすら通り越した『暴力への渇望』。

 ――間違い無く、戦う力なく戦う『自分達』に向けられた感情。

(マズい、気付かれた……!)
 舌打ちを、一つ。


「――緊急事態ですぞ」
 リベリスタ達を集めるなり、『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)は手早く資料を広げつ皆を見遣った。冷静を装っているが、焦りを隠し切れていない。
「結論から言いましょう。『プリンス・バイデンに我々フォーチュナの存在がバレました』」

 ……!

 リベリスタの顔に大小はあるが驚きの色が現れる。何故、そう問う前にメルクリィは答えた。
「戦士の勘、という奴でしょう。どうやらこちらの動きが妙に良い事に違和感を持ったようでして。
 ……我々が『未来を見る者』とまではバレていないようですが、『リベリスタの生命線』という事は理解してしまった様です。
 故に。故に、なのです。彼等は我々を――この後方部隊を強襲する作戦に打って出てきました」
 バイデン。蛮族。短絡的で暴力的な――されど侮れない。野生の様な感覚の鋭さ。「流石ですな」とフォーチュナは自嘲めいた笑みを浮かべた。
 しかしそれも一瞬、サテと切って広げた資料に機械の指を置く。手書きの戦略図。バイデン側からリベリスタ陣の後方へ伸びた矢印。
「バイデン達は幾つかの部隊に分かれて上空から降下してきますぞ。
 皆々様には彼らを迎撃し、撃破して頂きます――何としてでも」
 ここで自分達が負けたら、後方部隊に踏み込まれたら。
 ……結果は目に見えている。戦えぬフォーチュナ達の蹂躙など、戦闘民族達にとっては赤子の手を捻るよりも容易いだろう。
 支援崩壊。それは、敗北に直結する非常事態。
「皆々様の相手となるバイデン部隊ですが、かなり……いや相当危険な方々です。色々な意味でね」
 と、見せるのはリーディング持ちに念写して貰ったのか、画像が焼き付けられた一枚の紙。
 巨獣と、5人のバイデン達だった。
 なんだたった五人か、そう思いかけて顔を顰める。
 目が無い者。耳が無い者。両腕が無い者。目の下に大きな隈を持った者。異様に痩せこけた者。
 どれもこれもが、異常だ。
「彼等はバイデンの中でも精鋭部隊のようでして。
 ……『生きるか死ぬかのスリルを味わう様な戦いがしたい』為だけに、自ら目や耳や腕を潰したり、眠らなかったり、舌を切って食事をロクに摂らなかったりする連中ですぞ」
 自己再生能力があるのに、ですか?
「えぇ、自己再生能力――それによって治りかけたらその都度潰しているそうで。……真性の気狂いですな。
 視覚や聴覚が無いからと言って決して侮ってはいけません。その分、他の感覚が凄まじく鋭いそうで、小細工は効かないでしょうな」
 続いて、と機械の指で示したのは瞼を閉ざしたニコニコ顔のバイデンだった。一見、凄まじい巨躯でも荒々しいまでの外見でもない、寧ろ柔和そうな部類なのだが。
「『目無しのザイチ』。彼がこの部隊のリーダーのようです。この奇人部隊を纏め上げている立場に相応しく、非常に『危険』ですぞ。戦闘能力も、精神も、行動も」
 見た目に騙されてはならないとは正にこの事だろう。
 説明の続きを目線で投げかければ、メルクリィは小さく頷いて言葉を続けた。
「彼、そして彼等は、一言で言えば『超攻撃型』ですな。兎に角攻撃、徹底して攻撃あるのみ。防御するなら攻撃する様な奴らで、動けなくなるまでガンガン突き進んで襲い掛かって来る事でしょう。
 彼等はただただ『血みどろの戦い』を求めています。文字通り『殺すか殺されるか』の戦いになるでしょうな……」
 真っ向からやり合うにはあまりにも危険。されど真っ向から戦う以外には方法の無い状況。
「本当にそうだと思いますか?」
 唐突な切り出し。思わず顔を上げてフォーチュナを見れば、覚悟を決めて真っ直ぐ見返す機械の視線がそこに在った。
「幻想纏いは常時ONにしておいて下さい。……私が後方支援致します。
 どういう事かって、そのままの意味ですぞ。私がリアルタイムで視た『未来予知』を皆々様にお伝え致します。
 尤も、カレイドも無くリアルタイムともなれば断片的で断続的になりますが……無いよりはマシでしょう」
 一呼吸の間。
 怖くないと言えば嘘になる。
「私だって戦えます。……皆々様が思い描いているのとはちょっと違うかもしれませんが」
 嗚呼、彼らからいつも冗談で言われている様に、兵器じみた強さを持てていたらどんなに良かっただろうか。
 塔の魔女の様に予知も戦闘も出来たらどんなに良かっただろうか。
 今までだってそうだ。戦えぬ所為でいつもいつも、苦い思いをたった独り噛み締めてきた。
 ……きっと今回限り。下手をしたらこれが最後になるかもしれないが。
「さぁ、皆々様。――戦いましょう」
 覚悟を決めたのであれば、進む他に道は無い。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ガンマ  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年08月23日(木)00:05
!Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡の可能性がございます。

●目標
 バイデンの撃退
 フォーチュナの守護

●登場
バイデン『目無しのザイチ』
 部隊リーダー。見た目こそ柔和そうだが、戦いを渇望する狂気は部隊の中でも逸脱レベル
 自ら眼球を抉った。その代わり他の感覚が鋭い
 武器は長太刀、鞘。高DA高回避、混乱・魅了無効。自己再生能力有
 攻撃に出血系、ショック、物防無、連、必殺などが伴う場合あり
 Ex返し斬り:攻撃を受け流し、自らの攻撃に相手攻撃の威力を乗せて切り返すカウンター。近単
 Exオーバーキル:既にフェイトを使用している者、体力が半分以下の者に対し威力二倍。二つの条件を満たしていると四倍。近単、必殺

バイデン『耳無しモードー』
 自ら聴覚を潰した。その代わり他の感覚が鋭い
 武器は鎖鎌。高命中高CT。自己再生能力有
 攻撃に出血系、麻痺、連、ブレイクなどが伴う場合あり。
 Exキリサキシバリ:高CT。近域、失血、連、呪縛

バイデン『腕無しヤッケ』
 自ら両腕をもいだ。バランス力が高い
 武器は脚甲。高耐久。自己再生能力有
 攻撃に弱点、隙系、ショック、ノックBなどが伴う場合あり
 Ex落雷撃:近単。雷陣、ノックB、混乱

バイデン『眠らずイーチェ』
 眠りを拒絶し続け、常に夢現の狭間にいる。目の下に大きな隈がある
 武器は金棒。高速度、高WP。自己再生能力有
 攻撃にショック、混乱、弱体系、重圧系などが伴う場合あり
 Ex我武者羅:自分の残りHPが少ない程高威力。近複、Mアタック大

バイデン『喰わずのドルタ』
 舌を切り、常に飢えた状態でいる。痩せこけている
 武器はクロー。高攻撃、麻痺呪縛無効。自己再生能力有
 攻撃にHP回復、ブレイク、致命、出血系などが伴う場合あり
 Ex貪る牙:HP回復大。近単。Mアタック、失血、物防無

巨獣『ドラコイーグル』
 竜と鷹を混ぜた様な巨獣でバイデン達の乗り物
 飛行ペナルティを受けない。ブロックに3人必要。氷系BS無効
 攻撃に氷結系、ブレイク、ノックBなどが伴う場合あり


フォーチュナ『名古屋・T・メルクリィ』
 リベリスタ達の後衛から更に後方、塹壕に隠れている。
 非戦闘員なので耐久力などは一般人に毛の生えた程度。
 時折、幻想纏いから予知内容を伝える事でリベリスタをリアルタイムで支援します(ランダムでそのターン限り1~3人の命中回避CT値上昇大)

●場所
 部隊後方、枯れた荒野。
 時間帯は日中。

●その他
 バイデン達が降下完了した所からスタート。事前付与不可能

●重要な備考
『<箱舟の復讐>』はその全てのシナリオの成否状況により総合的な勝敗判定が行われます。
 予め御了承の上、御参加下さるようにお願いします。

●STより
 こんにちはガンマです。
 ガンマ史上初、メルクリィと共闘。
 皆様の本気と覚悟をお待ちしております。
 よろしくお願い致します。
参加NPC
名古屋・T・メルクリィ (nBNE000209)
 


■メイン参加者 10人■
スターサジタリー
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
ソードミラージュ
絢堂・霧香(BNE000618)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
クロスイージス
アウラール・オーバル(BNE001406)
ソードミラージュ
レイライン・エレアニック(BNE002137)
スターサジタリー
坂東・仁太(BNE002354)
★MVP
ソードミラージュ
ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)
スターサジタリー
白雪 陽菜(BNE002652)
覇界闘士
三島・五月(BNE002662)
クリミナルスタア
古賀・源一郎(BNE002735)

●現まぼろし
 名前を呼んでいる。
 彼が名前を呼んでいる。
 自分の名前を呼んでいる。
 その大きな掌が、自分をぎゅっと抱き締めている。
 機械の身体なのにあったかいの。

 抱っこされるの、すごくすき。

●始まりも終わりも
 遠く、喧騒。あちらこちらで戦いが、戦闘が、戦争が、起こっている。真っ只中。
 濃密な暴力が其処彼処を支配する中、それでも『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)は緊張に乾く咽を飲む込む唾で潤して振り返り、共に陣地を出たメルクリィへと真っ直ぐな視線を向けた。
「……メルクリィさんには何度か任務に送り出して貰ったよね。
 危険な任務も多かった。いつもあたし達の事を案じてくれてたのも知ってる」
 思い返す幾つもの任務。一つ間を開けた後に。
「今までだってメルクリィさんは一緒に戦ってくれてたんだ。帰りを待ちながら戦ってた。
 そして今も、あたし達と一緒に戦ってる!
 あたしも、皆も、メルクリィさんの事が大好きだよ――だから、絶対に護る! 必ず皆で生きて帰ろうね」
「わらわは『フォーチュナ』を守るのではない、大切な『友』を護る為に戦うのじゃ」
 霧香に並び、『巻き戻りし残像』レイライン・エレアニック(BNE002137)。大胆不敵にニッと笑み、
「じゃから、どーんと構えてるのじゃ、メルクリィ! お主には指一本触れさせんからのう!」
「皆々様……」
 ありがとうございます、と幾許か緊張の解けた笑みを浮かべるメルクリィ、その肩を『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)がポンと叩き。
「わしらも怖いよ、戦場に立つんは。
 けど予知があるおかげで未知の恐怖が消えて少なからず安心して向かえるんや。
 いつも助けられてきた、それだけでも十分やのに今ここにいてくれる。こんなに心強いことはあらへんよ」
 守らにゃいかんモンがあると忘れがちになるけんどな、と10人を見渡して。
「ここにおる皆、一人一人の命が大切なんや。
 ……自分が死ねば、なんて考えんなよ? 命を賭ける覚悟はあっても命を手放すんやないで」
 前への一歩を踏み出しつつ、覚悟と共に携える巨大銃。こんな時、『彼女』ならどう振る舞うかをふと考えつつ。尻尾をゆらり。
「生きて、勝つぜよ」
 全ての思いを、その一言に。
 斯くして誰もが気を張り詰めるその最中だった。
「名古屋さん、今こそ秘められた力を解放して『スーパーメルクリィ』に変形する時だよ!」
 明るい声で顔を覗かせた『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)が無茶振りを。
「何を、もう既にスーパーメルクリィですよ。今回の私は本気です……尤も、いつも本気ですが」
「あはは、そっかぁ。そりゃ期待してるよ? ……っと、本題だけどね、予知対象者からアタシのこと抜くことって出来るかな?」
「出来ない事はないですが……何故でしょうか?」
「ん、なるべく前衛の皆に予知効果を振り分けたいからさ。アタシを対象外にしてもらえると、名古屋さんを守れる率もグッとUPすると思うよ!」
「しかし……」
「返事はイエスかハイでっ」
「はは……分かりましたよ、イエス・サー」
 負けたよ、と言わんばかりの苦笑、敬礼の真似事。
 そんな仲間達の様子を一通り見――『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)は常通りの表情。口元に薄い笑みを浮かべて。
「名古屋さんは何時も闘っているじゃない。実感が湧きづらい立ち位置というだけで。
 だから、己が己がと実感のみを求めて闘っていない連中に好き勝手させるのは癪よね」
 言いつつ、その手に持つは対物ライフル。その目を彼方に向け遣りつつ。
「どんな些細な事でも連携願うわ、名古屋さん。どんな事だろうと一つでも事前に判るなら値千金だわ」
「はい、お任せ下さいませ」
 塹壕に身を潜めるメルクリィの声。頷き、エナーシアもまた一歩、前へ。
「それじゃあ、見せてやるとしましょう? 情報を制するという闘い――その成果を」
「えぇ、見せ付けて差し上げましょうとも。……御武運を!」


「――あれかな?」
「えぇ、ザイチ様。『見え』ますか?」
「うん。10、と、一人……どうやら隠れてるねぇ。何だろう? 気になるねぇ」
「プリンスが仰ってた『件のアレ』でしょうか?」
「さぁね。分からない。分からないから……取り敢えず皆殺しにしようか」
 照りつける荒野の陽光、巨獣から降りたち、陽炎を踏み締める5人分の赤い足。
 どれもこれもが異様だった。
「……」
「戦いだ、戦いだ」
「あぁ、ねむぅいなァ……頭痛ぇ……」
「はら、へっはぁ……」
 耳が無い。腕が無い。眠っていない。喰っていない。
 そして、それを引き連れるのは。
「ははははは、楽しいねぇ」
 目の無い、化物。
 刀を抜き放ち、切っ先を『リベリスタ』へと向けた。言い放った。
「総員、突撃」

 刹那、凄まじい鬨の声が怒りの大地を揺るがせる――

●現まぼろし
 ある日彼女は、何処か遠い遠い、手も声も届かない所に往ってしまうのではなかろうか。
 何故だろうか。そんな不安が、最近になって増したのは。

 ――視えていたのだろうか
 ――無意識の内に目を逸らしていたのだろうか

●ダンスウィズデス
 フュリエの少女、エウリス――『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)は最初から彼女の言葉だけを信じてなどいなかった。
 バイデンにもこの世界で生きる権利があるし、世界のパワーバランスの中で、弱い個体が滅びるのは自然の摂理。
 ミラーミスを撃破して優位性を獲得出来れば、或いはとも思うが――バイデンと戦ったとしても、狂った世界を正常化する事は叶わぬだろう。
 けれど彼は、バイデンに伝えたい事がある為にここへ来た。
 駆ける。真っ直ぐ。眠たそうにふらふら歩くバイデン:イーチェへと。
 向けられた眼差しに気付いたのか。目が会った。
 瞬間。
「かは、っッ!?」
 腹に重い衝撃。体がくの字に折れる。超速で間合いを詰めたイーチェが、その金棒がアウラールの腹部を強襲した事を知った。速い。だが、アウラールの意識は混乱する事も衝撃にぐらつく事も無い。踏み止まる。その身に纏うは防御のオーラ。
 自分から意識が外れぬ様、アウラールはイーチェの隈を着けた目を具に見る。
「……お前達の思惑は別だろうが、先日解放された捕虜には俺の親友もいた。
 殺さず解放してくれた事、感謝する。けれど言葉じゃピンとこないだろう?
 だから俺は、お前達が望む戦いで礼を伝えに来た」
「ふわぁ……はいはい、んじゃガッツリやろうぜ。死ぬなよ~?」
 刹那、目前からイーチェが消える。幾重もの残像が斬りかかる。
 アウラールは展開させた盾で猛撃を凌ぎつつ、裂帛の気合を込めて刃を突き出した。

 相手は狂いし戦士の集い。
 蹂躙を許せば、待ち受けるは……『我道邁進』古賀・源一郎(BNE002735)は目を細めた。拳を堅く握り締める。
「許せる筈も無し、必ずや守り抜き、遍く敵を葬ろう。
 メルクリィを活かす為なれば、此度は覚悟を固めた――我は一度悪鬼と成る」
 悠然、一歩、誇りを胸に見得を切る。
「『我道邁進』古賀源一郎、汝らが命を奪いに参じた」

 言葉、想い、そして剣閃。

 物狂いの死にものぐるい
 沸き立つ狂気は血の色緋色
 今は見えない3つの月は
 遠く静かに世界を見下ろして

 それは刹那すらも飛び越える残像。
 身体のギアをトップに高めた『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)が超スピードで耳無しのモードーへと襲い掛かる。
「!」
 来る。空気の流れ、臭い、温度、あらゆる要因でモードーは『強者』の存在を知った。
 間違い無く、『それ』は強い。
 口角が吊り上がる。
 斯くして繰り出されたのは鎖と鎌の暴風、キリサキシバリ。鎖が打ち据え、鎌が切り裂く。周囲のリベリスタの動きを封じる。ルカルカの体から沢山の赤が散るも、その鎖が彼女の身体を縫い止める事は無かった。
 鉄の嵐を突っ切り、羊の刃が牙を剥く。
「今日のルカはほんきよ」
 再度散る、赤。

「……私の相手は、君達がしてくれるのかな?」
 蛮族、その名に相応しい。抜き身のままの暴力。目の無い鬼、ザイチが微笑む。
 吐き気を催す程の殺意をその身に受けながら、されど『棘纏侍女』三島・五月(BNE002662)は退く所か大きく一歩前に出た。
「倒さなければいけませんね。その危険性、放置できませんし……何より背後には仲間がいます。通すわけにはいきません」
「残念ながら、この先は通行止めじゃ。お主も儀式の場に居たのかの? なら、わらわの強さは知ってるはずじゃ!」
 五月の前方、レイラインは身体のギアを底上げしつつEdge of Nailを構えた。
「あ……戦士レイライン、こんな所に居たのか。ふふっ、私はスナーフの様にはいかないよ?」
 口調こそ温和、態度こそ丁寧。
 しかし、そのプレッシャー。
 本能が『あれは危険だ』と叫んでいる。
 それでもレイラインは、五月は、武装を構え。
「さあ、私の拳と棘を味合わせてあげます。私の敵」
 この枯れ果てた荒野に血に溺れた狂鬼共の死骸を――勝利者は、この自分達だと。
 先ず彼へ襲い掛かったのはレイラインだった。一閃、それを鞘で受け止め、押し返し、鬼が一閃。リベリスタの技能で例えるならば、戦鬼烈風陣に良く似た――刃の暴風。後ろに控える五月までも巻き込む。
 流石に強い。
 得物を握り直す。間合いを測る。互いの手を窺い合う。
 一歩――踏み出だし、刃と刃が激しくぶつかった。

 リベリスタ達が其々のバイデンの前へと立ちはだかってゆく。
 腕無しヤッケの重い蹴撃を肩部に固定した武者大袖で受け止めて、身体のギアを高めた『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)は戦場をさっと見渡し、飛び退くや否や。
 浮かべたのは剣呑な笑み。
「さあ、戦いましょう――ご同類でしょう?」
 己が隻腕隻眼を強調し、三日月の口で吐いたのは明確な殺意。
 それはヤッケ、拒食のドルタ、巨獣ドラコイーグルの精神を鋭く突き刺す言霊。

 グぉおおおおおおォォォオオオオッッ!!

 地面を轟かせる大咆哮が空気を穿つ。
 舞姫を目指し、3つの化物が襲い掛かって来る。
 ヤッケの鋭い蹴撃が舞姫の身体を鞭の様に打つ。ドラコイーグルの冷たい炎が吐き出される。
 流石の舞姫とはいえ、2体を同時にするのは厳しいか。血潮。血飛沫。
「っッ……『痛み』が何だ、それしきで負けるかァアッ!!」
 傷だらけになろうとも守り抜いてみせる。この信念は決して折れぬ。
 刃に乗せるは氷点下、一閃に振るった。

 さて、舞姫が挑発したのは『3体』、しかし彼女に襲い掛かって来たのは『2体』。
 残りの一体は――
「お前達の相手はあたし達。ここから先には行かせない!」
 体を封じるモードーの鎖を振り解き、戦風に靡かせる斬禍剣道の戦羽織。
 妖刀・櫻嵐を構え、ギアを高めた霧香は殺意をぎらつかせるドルタをきっと睨んだ。
 白銀の刃に纏うは疾風。一振るいすれば刃となった風が戦場を駆け、モードーを切り裂いた。更に陽菜が放ったインビジブルアーチェリーの矢もその身体を傷付ける。
「……!」
 その光景、ドルタの怒りが急速に冷めてゆく。別の『怒り』が沸々と意識を染めてゆく。
 自分の前に立ちはだかったのに、自分とは戦わない?
 それは何よりも戦いを望む彼にとっては何よりの侮辱であり、屈辱であった。
「おおおおおおおおお!! 貴様ァアーー俺を見ろ俺を斬れ俺と戦ええええええええ!!!」
 何が何でも『目の前の相手を八つ裂きにする』。凄まじい咆哮。貪る牙が血肉を喰らわんと襲い掛かる。

 銘々に幕を開けた激戦、互いに互いの暴力をぶつけ合う――至極簡単な、戦い。
 混沌。
 だがその混沌を一縷でも照らすのが、
『3,2,1――今です!!』
 予言師の役割。
「了解」
「ぶっ放すでぇ!」
 戦場へ向けられたのはエナーシアの大口径を誇る対物ライフル、仁太の持つ禍々しい巨銃パンツァーテュラン。
 そして放つのは――恐ろしい精度、凄まじい威力の下に吐き出された一斉掃射。宛ら鉄の大雨。たたでさえ『運』によっては脅威の威力を発揮する射手達、その『運』はフォーチュナによって更に高められている。

 正に、『絶大』の一言。

「頼りにしとるでメルクリィ!」
『はいっ、お任せ下さい!』
 仁太はただ敵を狙うだけでなく、その付近にも弾丸を放ち爆音と硝煙をばらまいた。気休め程度だが、音や匂いによってメルクリィの位置を確定させないように。
 標的を見、彼は思う――縛りプレイやな、分かります。と。
「ただ、縛った側は勝つと楽しいけんど相手は楽しめんからわっしは好かんかな」
 次手への準備。
 こう云う輩は攻撃が最大の防御だ、エナーシアは施条銃の引き金に指を乗せる。
 崩さぬ表情。狙う。全てを。
「押し通って魅せなさいよ。幾手先をも阻む、弾幕の道を!」
 再度空を覆い尽くす、弾丸のヴェール。
 そんなエナーシアの背後、密やかに癒しの祝詞を謳い上げていたのは陽菜、バイデン達の視界から隠れる事で、『自動回復』に見せかけるという策。
(まぁ、すぐばれるだろうけどね~……)
 それでもやるのが三高平の悪戯姫だ。実質、初めてのバイデン戦。見せ付けてやろう。
「闘争の鬼たるバイデンに悪戯の鬼たるアタシの嫌がらせを見せてあげよう~……クスクス♪」
 口に手を当て小悪魔微笑。

 回り始めた、戦場。
 しかし――その状況は、一言で言えば『劣悪』だった。
 リベリスタは優秀だった。されど相手の『立ち位置』までも巧みに操る事は出来ない、望み通りに敵が動いてくれる事なんて無い、相手がそこいらのバイデンとは違う実力者ならば難易度は殊更に高い。
 その上、一騎討ちとなれば相応の策も必要である。
 容易に、順序通り、全てが思い通りにいかぬのが戦場。
 少し、相手を軽んじていたのかもしれない。

 綻びの萌芽。

 それでも、退く訳には。退く訳には。
 アウラールが仲間を苛む危機を払う聖光を放った直後。
『来ます、後ろに跳んで!』
 メルクリィが張り上げた声、アウラールは反射的に跳び下った、が、イーチェが放った我武者羅な攻撃がその身を、精神を削る。
「っく、……!」
 彼は既にフェイトを使っていた。彼方此方から血を滲ませて、片膝を突く。
 血が流れ込み、赤い視界。見遣った先では「終いか」と、イーチェがアウラールから目を逸らした――瞬間、十字の光がその横っ面を叩いた。
「戦いのスリルを本当に楽しみたいと思うなら、この先には行かないことだ。そこにお前達の望む戦いはないからな。
 そんな事より、お前達と戦うためにわざわざ出向いてきた俺の相手しろよ。じゃないと、帰っちまうぞ」
 剣を突いて立ち上がる。出血が酷い。体がふらつく。
 それでも地面に足を踏ん張り。
「俺達の世界では強い者が体を張って、仲間や弱い者を守るんだ。俺は強いから皆を守る!」
「変なの……弱い奴なんてほっときゃいいじゃん」
「あぁ、お前達には一生分からないだろうな!」
 アークのリベリスタのお人よしには本当に恐れ入る。負けられない。
 死ぬなよ、お人よしども――そう心の中で叫び、前へ。

 血潮が散る。

「はぁッ、はァッ――」
 ボタリボタリ、舞姫の足元を染め上げる鮮血。音量を最小限にしたAFからの予言が、舞姫の機械並に研ぎ澄ませた耳に入る――
『舞姫様――舞姫様、これ以上はいくら貴方でもッ……!』
「……わたしの倒れる未来でも見えました?」
 冗句っぽく小声で返し、隻眼隻腕の戦姫は自分が向けた殺意のままに『殺意すら生温い』感情にて牙を剥くヤッケとドラコイーグルを見遣る。血混じりの唾を吐き捨て、黒曜を構える。
 失念していた、この巨獣には氷の状態異常にならない。
 と、その最中。
『舞姫様。貴方には選択肢が二つあります』
 メルクリィの声。提示される予言。
『今退けば、貴方は酷い傷を負って倒れる事は無いでしょう。が、進めば――敵に痛打を与える代わりに』
 倒れてしまうだろう。
「――……」
 黙し、そして舞姫が選んだのは。

 前進。

「なら、その未来、変えてみせますッ!!」
 二対一、上等だ。己目掛けて吐き出された氷点下の炎を潜り抜け、跳躍。振り被る黒曜。その刃に纏うのもまた、極下の温度。
 渾身を持って、一閃。
 巨獣の悲鳴。
 氷の刃に切り裂かれた片翼が、血に染まる大地に落ちる。血飛沫。悲鳴。血飛沫。
 されど。
 ヤッケが振り上げた脚、そこに纏われるのは雷へと転じた破壊的な気。落雷撃
 それが目前、舞姫の頭部目掛けて振り下ろされる。落ちてくる。
 直撃する――

「舐めるなッ!」

 刹那。飛び退いた。掠めた蹴撃が彼女の額を深く切り裂いたが、それでも倒れるまでには至らず。
「貴様らなどに殺されてやるものか。殺させるものかッ!!」
 絶対に護り抜く。
 それが戦姫の戦い。
 最後の肉片骨片血の一滴になろうと、立ち続けてみせる。
 その為ならば運命なんぞ、いくらでも代価にして見せよう。
『――』
 メルクリィは息を飲んだ。まさか、自分の力で未来を変えるとは。これがリベリスタの力なのだと、改めて認識する。
 ならば彼らを支える為にもと、予言師は未来を見始めた。
 その最中にも陽菜は天使の歌を紡ぐ。精神力の続く限り。
「来るわ、躱して!」
 戦場に響くもう一つの声は、エナーシアの声。研ぎ澄ませた直感で現場を捕捉し、仲間へ警告を走らせる。通信をメルクリィ一色にしない事で、敵が彼を優先する事態を少しでも防ぐ為に。
「BlessYou! 煉獄で御同好が待ってるわよ、グンマさんとか」
「まだまだいくで!」
 そして、戦線を少しでも支える為に、脅威の射手達は再度鉄の雨を振らせる。

「……妙に、動きが良い……不思議だねぇ、どんなカラクリなんだい?」
 ニコリと笑んだザイチが、頬に垂れる血を拭う。
 その目前には、レイラインと五月。最早赤くない所が無い位に血に塗れて、膝をついて居る。
 部隊のリーダーだけあって――レイラインの予想した通り、その強さは他のバイデンと比べ飛びぬけている。故に、五月と組んでブロックをローテーションしていた。だが、厳しい。その得物の範囲は広く、二人ともがローテーションも儘ならぬ程に傷付けられる。
「後ろで沢山の鉄を飛ばしているあの女の子かな? それとも、隠れてる女の子? それとも、もっと後ろに居る人?」
「さぁの……わらわに勝てたら、教えてやらん事も無いわい!」
 立ち上がり、レイラインは渇き風に血を吸ったゴシックドレスを靡かせた。
「いいね、いいね、もっと私と戦っておくれ!」
「上等じゃ!」 
 言下、レイラインの姿が消える。否、消えたと思わせる程の高速。
 真正面からぶつかってもこちらが不利。故に、速猫は幾重もの残像を残し撹乱し、的を絞らせない。
 振るった刃。
 猫の爪と長太刀が交差する。幾度もぶつかり合って火花を、血華を散らせる。
 ふ、と息を吐く。超速で薙がれたザイチの刃。だが、それが切り裂いたのはレイラインの残像。彼女は振るわれた切っ先の上――強襲。ソニックエッジ。
 回避能力が高い、そう予言されていた通りに浅い感触。ならばもう一発と構えるが、
『後ろに跳んで!』
 予言の声、反射的に跳び下がる。尻尾の毛が、本当が察知した危険に逆立っていた。
「……何で今、『返そう』としたの分かったんだい?」
 楽しそうに蛮族が笑う。面白いねぇ、と。
「やっぱり、その『声』が、プリンスの言っていた『何か』なのかな?」
「言った筈じゃ、知りたければ倒してみよ、と!」
 言下、レイラインと後退で飛び出したのは五月。森羅行で傷を癒していたが――さて、どれぐらい『保つ』か。実力の差はあっても、真っ向から相対する他に自分の持つカードは無い。ならばそれに全てを掛けるのみ。
 五式荊棘に炎を纏う。赤い――血と、焔。斬られる痛み。与える痛み。彼の纏う棘は触れる者を悉く傷付ける。
 死に物狂いで、殺し合う。
 赤が散る。血潮が散る。運命が、燃えて落ちる。
「メルクリィも必死で戦ってるじゃ……無駄にする訳にはいかん!」
 己を奮い立たせる様に叫び、レイラインは地面を蹴った。

●現まぼろし
「あのね、おたんじょうびおめでとうてばさき大好きなの」
 ぎゅーっとだっこ。大好き、と。
「おぉう 唐突に言われると何だか照れますな、私もルカルカ様が大好きですぞ!」
「ありがとね。あのね。らいねんもね。お祝いするの。やくそくよ。ゆびきりげんまんなの」
「勿論、約束ですぞ」
 絡めた小指と、約束の歌。

 ――いつかの話

●血染
 長びく戦い。
 じわじわと精神力も尽きてきたからには、もう膂力に任せて戦い合う他に無い。
 ルカルカの鮮やかな光の刺突、源一郎の凄まじい早撃ち、霧香の居合切り――リベリスタからの集中砲火を受けていたモードーが、射手達の猛射を受けて遂に倒れた。
 だが、リベリスタ側もアウラールと舞姫が倒れ……イーチェには源一郎が、ヤッケにはルカルカが立ち塞がった。

「我の運命の恩寵全てを燃やしてでも、汝を滅ぼす。唯一無二の親友を守り、共に生きて帰る為に」
「……次の、俺の相手はお前? ハハハ じゃあやろうか」
 ズタズタの体も意に介さず、寧ろそれを利用して、不眠のバイデンが我武者羅な一撃を繰り出した。己の傷が多い程に威力が上がる豪技。襲い来る金棒の猛打が無頼の頭部を打ち据える。
 それでも源一郎は一歩も引かず、流れる血よりも赤い瞳で敵を睨み。
「我道邁進、古賀源一郎。推して参る……!」
 本気の殺意。一瞬に手背後を奪い、その頭を掴み、もう片方の手で、指先で、宛がう喉笛。掻き切る。血潮。頬に散る。
 ごぼっ。咽から溢れた血、口から溢れた血、しかし鬼は振り返った。目元を狂喜に歪ませて、牙を剥く。その咽元に喰らい付く。
「っ……!」
 裏拳で殴りつけて引き剥がした。然程抵抗も無くイーチェは地面に転がった。――死んでいた。『あの目』をしたまま。

「貴方みたいに戦うためにスリルを求めるひとはきらいじゃないわ。けど、この先には向かわせない」
「あぁ、じゃあ何が何でも『先』に行こうとすれば、お前は死に物狂いで戦ってくれるんだな?」
「ルカみたいに小さいのを怖がるなんて臆病なの?」
「そら怖いさ。お前、強いだろう? ……楽しみ過ぎてゾクゾクしちまうよ!」
 落ちる雷霆。ルカルカの小さな体が吹き飛ばされる。
 が、彼女は空中で一回転すると着陸を試みた。ずざぁっと脚を着いた地面が抉れる、摩擦熱でと湯気が立つ。脳が揺れている。周りをマトモに認識できぬ程に。
「ん……」
 ぱちぱち、両頬を掌で叩く。そして、地面を蹴って勢い良く突っ込んで来たヤッケの蹴撃を鮮やかに回避するや、閃かせるのは光のが飛び散るかのような瀟灑なる速撃。集中して研ぎ澄ませた凄まじい一撃。
「あなたに止めれる? 今のルカ、とってもつよいのよ」
 その耳に届く声が、予言の声が羊を導く。
 音速すらも遅い、遅い。

 響いた咆哮と、牙を剥く巨獣。
 舞姫が決死の覚悟で攻撃し、その傷によって飛行が出来なくなった事が幸いか。
「おぉ~っと残念! 後衛のアタシを忘れてもらっちゃ困るね~!」
「通す訳にはいかないわねぇ」
「わっしらが止めちゃるわ!」
 だが、その進路は後衛の三人――陽菜、エナーシア、仁太が塞いだ。
 牙を剥き、襲い掛かる巨獣の爪が三人を切り裂く。
 白い肌を血に染めて、しかし彼女は大施条銃で静かに狙いを定め。
「通さないと言った筈だわ」
 脅威的な早撃ち。次々に着弾した弾丸がドラコイーグルの堅牢な鱗を弾き飛ばす。
「お帰り願うぜよ!」
 次いで向けられたのはパンツァーテュラン、吐き出されるのは圧倒的な暴力、力の暴力、数の暴力――『暴君戦車』の名に相応しき破壊力。それはただの射撃、されど『彼女』の独壇場。破壊と云う名の独断政治が目の前の生涯を力尽くでも薙ぎ倒す――『暴君戦車が通った後は何一つ残りやしない』。その通りに。
「後衛やろうとな、その先に守るべきモンがあるなら体張るんや!」
 重い銃を、想いを詰めた銃を、向ける。
 硝煙靡く戦場。
 それを見渡し陽菜は歌う。仲間の傷を癒す為。
「神頼みに近い確率の奇跡なんて頼りにしたくないけど……」
 それでも、どうか。勝利を願う。

●シュレーディンガーの猫匣
『観測が、状態を決定する』と言う概念。

●RadicalそしてDrastic
 時間は僅か遡り、それは源一郎がイーチェを屠った直後だった。
『源一郎様、伏せて!』
 半ば叫ぶように張り上げられた予言の声に、源一郎は素早く身を伏せた。その頭上、丁度首があった位置に――
「あれぇ? 良く躱したねぇ、アハハハハ」
 ザイチが振るった刃。
 息を飲む。その肩越し、遥か、倒れたレイラインと五月の姿。オーバーキル。その猛威に、遂に追い詰められて。だがザイチとて無傷ではない。赤い肌に赤い血が。
「一対一か、其れも又良し」
 背筋を指す様な殺意を真正面から睨み据え、ゴキリと鳴らす拳。
『私がサポート致します――御油断なく!』
「相分かった。共に闘おう、メルクリィ」
『はい!』
 踏み込んだ。叩き下ろされる鞘を殴りつける拳で防御し、その背後――獲った。否、躱される。浅い。目の無い目と目が合った。ふ、と空気を斬る音と、ぶば、と血が飛び散る感触。
「く、」
 返し切りで腹部を裂かれたのだと、知る。傷口が熱い。しかしドラマを支配し、倒れる事を拒絶した源一郎は尚も果敢に攻め立てた。掻っ切る一撃、痛打。
「此処で――止まる訳にはゆかぬ!」
 不退転也、と。

 徐々に、戦いに終わりが近付いてきた。
 されどその先に何があるのかは――混沌として予言師にも分からず。

 けほ、と口から血を吐いた。
 霧香とドルタが睨み合う。
 彼此何度、お互いに技を出し合っただろうか。刀を振るい続けた結果、霧香の掌に滲んだ血が、壮絶な戦いを物語る。
 互いに疲労は極限、傷も深い。立っている事が不思議な程に。
 ここが正念場だ。
「あたしは――負けない!」
 先んじたのは霧香。妖刀・櫻嵐がドルタの体を切り裂くが、直後に振るったドルタのクローもまた霧香の身体を裂く。そのまま激しい打ち合い。刃と刃が激しく、強く、火花と血を散らしてぶつかりあう。
「ッ――」
 鍔迫り合い。拮抗する力。負けるか――負けるか――!
「はァあああああああああッ!!」
 ここで頑張らないで、いつ頑張る。護る為ならやってみせる。力の限り押し弾いた、その瞬間。

 今だ。

 予言の声。
 刹那、更に踏み込んだ霧香が繰り出したのは、『この時』の為に残しておいた最後の精神力を振り絞っての一撃――アル・シャンパーニュ。
 纏う暴風と共に駆け抜けた。背後には鬼。時が止まったかの様な一瞬。
 そのまま静かに、霧香は櫻嵐を鞘に納めゆく。

「絢堂は剣道、霧香は斬禍。剣の道の下――禍を斬る!」

 ばちん。妖刀が鞘に収まった瞬間、全身を遍く切り裂かれたドルタが血飛沫を上げて頽れた。
「……」
 だが、霧香もまた上体がぐらつき――倒れる。

 一人、一人と沈黙する。
 正に一進一退。

 ルカルカの剣閃に、ヤッケがぐらりと膝を突いた。
『仁太様! ヤッケを“確実に仕留めて”下さい!』
「おっしゃ、任せぇいッ!!」
 答える声と同時、仁太が向けたパンツァーテュランが不穏な気を纏った。刹那、放たれるのは『彼女』の必殺技、ミッドナイトマッドカノン――深夜の悪夢の如き黒い影が戦場を駆ける。それは腕の無い蛮族に喰らい付くと、真っ黒に閉じ込めて、圧し潰して、喰らい尽した。
 黒が消えた頃、そこにはミンチ状の肉塊と血の池だけが広がっていた。

 これで、残るバイデンはザイチのみ。
 息を弾ませ、血を吐いて、口を拭って、傷だらけのルカルカはザイチを捜して振り返った。
「……!」
 そこには――倒れた源一郎。フェイトを、ドラマを、使える物を全て使ったが――小さな呻き。伸ばした手の先。
 大量の手傷を負いつつも、刃を手に戦場を駆ける目無しのバイデン。
「く――」
 マズイ、と誰もが思う。だが、後衛達の前には巨獣が立ち塞がって行く手を阻み、或いはその氷で動きを封じられ。

 刹那に二度の行動、蛮族が目指すのはフォーチュナが身を隠していた塹壕。
 気付いたメルクリィが上を見た同時、そこには振り上げられた狂気の刃が――

●現まぼろし
 いつだってルカはルカ。揺らぎないの
 だからね、ルカ
 かわらないの
 かわらないでずっと、てばさきすきなのよ

 ――いつかの話

●迷い羊は夢見て嘆く。罪のとばりを追いかけて。
 見開いた目に、映った。

 やめて。
 やめて。

 やめて!

 思った瞬間には、地面を蹴っていた。

 もっと速く。
 もっと速く。
 はやくはやくはやくはやくはやく

 斯くして、羊の願いは『加速』する。
 因果を運命を全て捻じ曲げる奇跡を。
 そして、滅びへの黙示録を。

 終わり始める。

●Sheep,Sleep
 刹那の出来事であった。
 ザイチには全く理解できなかった。
 塹壕にて見付けだした『声の主』へ刃を振り上げて――そこまでは覚えている。

 気が付いたら、遥か遠方まで吹っ飛ばされていて。
 気が付いたら、刃を持っていた手が切り刎ねられていて。

 何だ、今のは。
 何だ、アレは。

 無い目で見遣る、そこには。
 自分が立っていた場所に立つ、ルカルカ。
(あの距離をどうやって……!?)
 不可能な筈だ。
 『奇跡』でも起こらない限りは。

「ルカルカ、様、」
 メルクリィは知った。知ってしまった。
 歪曲運命黙示録――その身の運命を対価に、彼女は。
 燃える運命は彼女を中心に火柱の如く。焼けていく。加速していく。
「……ルカはね」
 最中。ルカルカは『いつの間にか』メルクリィの隣、ちょこんとしゃがみ込んで、その顔を覗き込んで。

「ルカはね、てばさき好きなの。
 皆もねてばさきのことがすきなの。
 皆にとっててばさきは大切なひと」

 更に、顔を寄せて。
 その額に額を合わせて。

「だから、今日のルカは墓守をお休み。てばさきを護るの」

 刹那、再びルカルカの姿が『消えて』、元の場所に『現れる』。
 彼に背を向け、敵に目を向け。
 羊は詠う。

「だからね、てばさき。
 ルカが帰ってきたら、もう一度、頭を撫でてね。
 ルカのこと好きだって言ってね。
 ルカを褒めてね」


 大好きよ、てばさき


 振り返って、微笑んだ。
「あ、」
 待って、行かないで、手を伸ばした――そこに、もうルカルカは『居ない』。

 起こした奇跡は『シュレーディンガーの猫』。
 ルカルカはそこに『居』て、そこに『居』ない。どこにでも『居』て、どこにも『居』ない。
 確立の虚数を揺蕩う羊の刃が、戦場全ての敵に襲い掛かる。
 切り裂く。
 断切る。
 全ての者が目撃した。
 それは、目まぐるしい程の一瞬。一瞬で居て、無限。

「あなたはルカからだいじなものを奪おうとした。
 だからルカ、あなたを『奪う』わ」

 ひゅん。
 最後に刃を振るったその時、最早『敵』と呼べる存在は――跡形も無く消滅していた。
 そして、また、彼女の『運命』も、消滅する。
「――……」
 体から力が、何かが、全てが、抜けた。
 ふら、り。
 嗚呼。

 嗚呼。嗚呼。嗚呼。

 蹌踉めいて、倒れる。
 その身体を受け止めたのは、機械の手。
「ルカルカ様――ルカルカ様!!」
「しっかりせぇ!」
「ルカルカさん!」
 メルクリィだけでない、動ける者全てが、彼女の下へ、彼女を案じて、駆け寄って来る。
 彼女が彼女たるフェイトが無くなった今、彼女を繋ぎとめる『観測』が無くなった今、ルカルカの身体は、存在は、消えていく。『居』なくなる。少しずつ……
「嫌だ、そんな、嫌ですよ!! どうして!! どうして――」
 消えゆく彼女を胸に抱いて。どうして?分かっている。知っている。教えてくれたじゃないか。
 でも、こんなの、あんまりじゃないか!
 かける言葉が見当たらなくって、ただ涙が流れて、どうしたら良いのか分からなくって。
 そんな中、ルカルカは薄ら目を開けて。消えかけた指先を、伸ばした。
 その手を掴む。――半ば感触が無くって、それが怖くて、いっそう手を握り締める。
「てばさき」
「はい、居ます、ここに」 
「撫でて」
「……はい」
「好きって言って」
「はい――好きです、大好きです、心の底から」
「ルカを褒めて」
「頑張りましたね。っ……頑張りましたね。偉い、偉い、本当に」
「あのねぇてばさき」
「はい、何でしょう」
「だいすきよ」
「私もです」
「ん、知ってる」

 そう言って、
 微笑んで、

 ――羊は、消えた。

 最早、『何でも無くなった』彼女を観測できる者はいない。どの世界にも。
「………あ」
 空の腕の中。
「あ、あ、」
 彼女の温もりだけが残った手の中。
「ああ、うあぁあぁあああああああああああああああああああああああ……!!」

 ――乾いた空に、慟哭が響く。

 一つの戦いが『勝利』で終わり、そして……一人のリベリスタが、消えた。




『了』

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
メルクリィ:
「――…… ……。私は、貴方が大好きです。
 だから……早く、帰ってきて下さいね。待ってますから、ずっと」

 遅くまでの相談、お疲れ様でした。
 如何だったでしょうか。

 一つ。相手は思い通りに動いてくれるものではありません。難易度が高ければ尚更でしょう。
 もう一つ、庇うが有効なのは『近接射程内に居る対象一体』のみです。
 結果等に関しましてはリプレイの中に。

 MVPはルカルカさんへ。
 ありがとうございます。
 メルクリィは貴方の事を絶対に忘れません。
 メルクリィは貴方の事が大好きです。これまでも、これからも。

 ボロ泣きしながらリプレイを書いたのは初めてです。
 物凄く悩みました。物凄く考えました。何度も躊躇いました。
 願わくば安らかに。

 ご参加ありがとうございました。